【MPE 10】


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   10


 彼女の想定していた通り、洋館は広かった。二階には高そうな家具の配置された豪勢な客間があり、廊下の壁にも絵画や照明など洋風の調度品がたくさん置かれていた。ドイツでもこれぐらい豪華絢爛な家はあまり見なかった。
 ×××××は洋館の二階を探索していた。敵に警戒しつつ、バヨネットを片手に×××××を探している。チェーンで開かなかったドアには苦労させられたが、何とかドアを蹴破って破壊して脱出することができた。
 残してきた×××のことが気がかりだが、後ろを向いている時間は残されていなかった。別の客間に足を踏み入れた。自分が軟禁されていた部屋とそっくりだが、そこには馴染み深いデザインのブレザーがハンガーにかけられている。
 誰のものだろうと上着を手に持つ。名前を記入する欄には「××××」とあった。×とともに魔女エリザベートに付いたと言われている、×××××の仲間だ。
 もの悲しげな表情になって上着を元に戻したとき、ポケットから何か紙切れが出てきて宙を舞った。手に取ると、それは×××××たち七人が楽しそうに一緒に映った写真であることがわかった。
「やっぱりあの子が裏切るなんて、嘘だよね」
 その写真を見ただけで、×××××は気持ちをしっかり持つことができた。
「みんな、待っててね」
 ×××××は急いで××と×の部屋を後にした。


 ××××は××の使用していたライトサーベルを使い、片腕だけで化物となったシホと戦っている。飛んだり跳ねたり、敵の触手に打たれるたび、左肩からスパークが激しく飛び散った。
 致命的な損傷ではなかったものの、腕を一本失ってしまっているぶん自由には戦えない。戦力は格段に落ちていた。
「自分まで化物になるなんて! どこまで狂ってますの!」
 自分の研究に対して、ことさら××××のことに対しては一生懸命になれる××××××××でも、このシホという科学者の行為はとうてい理解できなかった。
 人命の尊さを忘れ、自分の命までも弄んでみせる。
 なぜ? この女は何がしたいの? どうしてそこまでして? 色々な考えがよぎっては彼女の頭をぐるぐると回っていた。
 クリーチャーとなったシホは、これまでのものに比べてずっと強かった。触手の数が非常に多く、接近すら許さない。
 ××××は触手に絡めとられた。片腕、両足、胴、首を同時に締め上げられ、サーベルを落としてしまう。全身が軋んだ音で悲鳴を上げ、いたる箇所から火花を散らした。
「×××!」
 二人は生命の危機に直面していた。シホが強いだけでなく、××××の戦闘能力が著しく低下しているのが致命的だった。荷電粒子砲を狙ってもすかさず触手を飛ばしてきてチャージができない。サーベルを使った接近戦でも触手を自在に使われてしまい、主導権が握れない。
 そろそろ、××××に蓄積されたダメージが許容範囲を超えようとしていた。このままでは全身の関節を締め上げられ、バラバラになってしまう。そして、もはやこれまでと××××はついに意を決したのであった。
「××ちゃん・・・・・・私は××ちゃんに、すごく感謝してる・・・・・・」
 何とか触手による戒めから右腕を解放できた。荷電粒子砲のチャージを開始する。
「×××! いけませんわ、そんな状態で発射したらあなたも!」
「魂を使われてるとか、命を使われてるとか、そんなこと思ったことないよ。××ちゃんと一緒にお話できて、学校に通えてとっても」
 ××は「バキッ」と何かが飛んだのを見る。足だった。××××は右足を膝の辺りからちぎられてしまったのだ。
 失神しかけた自分を奮い立たせ、気をしっかり持つ。××××を助けなければ。
 彼女に優しい言葉を投げかけられて、守ってもらって。そこまでしてもらって、黙っていられるはずがない。××は知恵を絞る。辺りを見回す。シホを撃破し、××××を助けるための手段を探し求める。
 化物は表現しようのない奇怪な絶叫をあげる。きっと笑っているのだろう。しかしそんな醜悪なシホに××××は毅然とこう言った。
「痛くなんかありません。今私は本当に望む事の為に戦っていますから」
 表情を変えずにそう言ってみせた。荷電粒子砲のチャージが完成されつつある。しかしこの状態で放ったら××××も助からないだろう。刺し違えてでもシホを倒す気なのだ。。
「四十・・・・・・五十・・・・・・六十・・・・・・あうっ・・・・・・! アツィルトサーキットオーバーヒート・・・・・・!」
 体の各所が崩壊しつつあった。触手で全身を覆われているため、排熱ができない。もろい箇所から順々にパーツが弾け飛んで崩壊し、機能不全となり、視界にノイズが走った。
 それでも××××は敵に表情を変えなかった。親友の××を守るために、大好きな××を守るために、彼女は自分の魂を力に変えるのだ。とうとうチャージを完了させた。でもそれは同時に、自分が崩壊して死ぬことも意味する。
「××ちゃんのために私は私の命を使うんだから!」
 ××××は自らの魂を燃やし、散ろうとしていた――。
 ところがドッと衝撃が伝わり、化物が叫ぶ。発射をキャンセルして化物のほうを見た。××がライトサーベルで背中を貫いていたのだ。
「だめよ×××。まだ行かせるわけにはいきませんわ!」
 ××はニッと不敵な笑みを××××に送ったのである。
 ××××に二度と命の使い方を間違わせないために。
 ××××に一人の女の子として生きてもらうために。
 大好きな人のことを思い浮かべながら眠りについたあの××××に報いるためにも、××は××××と共に生きる道を歩まなければならないのだ。
 化物は苦痛から暴走し、××と××××を触手で吹き飛ばした。左足を失ってしまった××××はごろごろ転倒する。
「×××、これを使いなさい!」
 同じように土や草にだらけになった××が、ライトサーベルを投げて渡す。××××はそれを受け取り、光の刀を具現させる。それを地面に突き刺すことで支えにし、立ちあがることができた。
 体勢をきちんとして適正な出力に調整すれば、こちらに被害が及ぶことはない。幸いシホは××の一撃で心臓を貫かれ、弱っている。チャージや出力を加減できるのだ。
「ありがとう、××ちゃん」
 地面に刺したサーベルを右肩のわきに当てて、松葉杖のようにして使う。ゆっくり慎重に右腕を前に伸ばし、敵に向ける。
「これでおしまいです!」
 出力は二十パーセント以下に設定。荷電粒子・チャージ。
 右手からの放電現象が周囲を青白く照らす、そしてついに、直径一メートルはあるだろう荷電粒子砲がシホに向けて放たれる。
「シュートヒム!」
 正義の鉄槌が悪の科学者に下された。


「もう! 私を置いて行こうとするなんて!」
 ××と××××は木陰にいた。夏場とは思えない冷涼な夜風がさらさら葉を凪いで、とても気持ちがいい。
 荷電粒子砲発射を終えた、×××××の点検をしていた。大事には至らなかったがところどころの損壊がひどく、もはや戦うことができない状態であった。
「そんな悲しいこと・・・・・・もう嫌なんだから・・・・・・」
「ごめんね。うんわかってる、私たちは友達だから」
 ××××は、頭に乗っかった木の葉を摘んでこう言った。
「魂を使われてるとか、命を使われてるとか、そんなこと思ったことないよ。××ちゃんと一緒にお話できて、学校に通えてとっても幸せ。××ちゃんの力で私は幸せになれたの」
「×××・・・・・・」
 ずっと胸のうちに隠してきた罪悪感めいたものが、すっと抜けて落ちたような気がした。
「だから、気を落とさないで? あんな奴の言うこと、気にしちゃだめよ?」
 心配そうに眉尻を下げている××××。××はにっこり微笑んでみせた。
 だが、相手はまだ死んだわけではなかった・・・・・・。
「くすっ・・・・・・」二人は戦慄する。「まだなぁんにも終わっちゃいないわよ? お嬢ちゃんたちぃ?」
 シホの頭部が残っており、二人に対して話しかけていたのだ。頭部はある程度修復されて、もとの憎たらしい女性の顔になっていた。恐らく生命力の強さや意志の強さがシホに話をさせているのだろう。
「バラバラになっても、しゃべってる・・・・・・?」
「フン! そんな格好になってもまだ舌の根は乾きませんのね! 負けたくせに!」
「殺されるがいいわぁ。エリザベート様に力も生き血もぜぇんぶ吸い取られて、この私よりも醜く朽ち果てるがいいわぁ! きゃはははははははははははっ!」
 それから、シホは涙を零す。視線を落とし、優しい声の調子でこんなことを言ったのだ。
「幸せでした・・・・・・。エリザベート様――暦ちゃん。どうか願いがかないますように。そして、私のぶんも・・・・・・より・・・・・・に・・・・・・」
 何も声が聞えなくなると同時に、夜風がシホの体を粉々にして吹き飛ばした。今度こそシホは死んだ。
「何だったの、彼女」
「知りませんわ! ああもう、嫌なことだらけで疲れましたわ! とっとと×××××さんと×××さんを捜しましょ」
 ××が××××の肩を持ち上げ、二人三脚で移動を始めたときだった。
 ザッという足音を耳にし、二人ともばっと振り返る。
「誰!」
 赤いドレスに赤い髪、赤い瞳。そう、エントランスホールに飾られていた巨大な肖像画の人物だ。特異な点はどうしてか長髪で、肩の先から髪の毛の色が「黒」となっていることだった。
 奇妙な違和感を拭うことができないなか、黒い後ろ髪を二人に見せ付けるように、エリザベートは両手でそれをかきあげてばさっと下ろして見せた。
「初めまして君たち、私がエリザベートだ。・・・・・・何てことはない、この村のしがない長さ」
「あなたがエリザベート!」
「女の子の魂源力を吸い尽くす・・・・・・生ける魔女!」
 ××と××××は口々に言った。
 ××××が警戒しつつ、ライトサーベルを杖にして立ち上がる。
「わざわざ力を奪われに来てくれたとは、そこまでありがたい客人は見たことがない。歓迎しよう」
「貴女の目論見もそこまでですわ。この通りお友達は倒した。もう一人のキザなのも×××××が何とかしてくれたはず。あとはあなただけでしてよ!」
「手加減などしません。ここで終わらせます。エネルギー・チャージ開始」
 ××××がチャージを始める。
「確かにジュンもシホも死んだな。あとは私だけとなった。まぁ私だけでも君たちの力を奪えることには変わりない」
「×××に近づかないで!」
 ××が前へと飛び出ていった。制服の内側に隠していた拳銃を取り出す。ヒエロノムスマシンのシステムにより、自分の魂源力を使って威力を得る特製の銃だ。
「君たちにいいものを見せてやる」
 魔女は黒髪をばさっと浮かせてそのまま振り回してきた。その攻撃方法に見覚えのある××は、自然に足が止まっている。その瞬間、鱗粉が××に襲い掛かった。全身をびしびし引き裂く、焼けたような痛み。××は悲鳴を上げた。
「引いて、××ちゃん!」
 右足のバーニアで飛び出した××××が、××を捕まえてエリザベートの攻撃範囲から離脱する。左足を失っているので着地できず、二人とも激しく転倒した。
 エリザベートは周囲に残って風に乗っている、鱗粉を見渡しながらこう言った。
「ふむ、凍傷を与える程度の力か。まぁ、悪くない」
「そんな・・・・・・その力は・・・・・・××さんの・・・・・・!」
「魂源力を奪う異能者じゃないっていうの!」
「強奪したモノは、奪っておしまいかい?」
 エリザベートはにやにや笑いながら、余裕たっぷりにこう言った。
「換金するなり投資するなり浪費するなりするのがお決まりさ。奪い取った物は好き勝手使わせていただく、これが私の異能『アイアンメイデン』」
 何ということだ。エリザベートはただ魂源力を強奪するだけの異能者ではなかったのである。他人の魂源力を『悪用』することが彼女の力の正体であった。
 史実のエリザベート・バートリーは若い娘の生き血を全身に浴びて己の美貌を保ったという。「鉄の処女」をはじめとする数々のおぞましい器具で新鮮な血液を搾り取ったというのはあまりにも有名な伝説だ。
 目の前にいる魔女・エリザベートも女性異能者の魂源力を抜き取って悪用し、どんどん己を強化してくのだ。まさにモデルとなった人物と匹敵する恐ろしい人間だった。
「俺のものは俺のもの。お前のものは俺のもの。好きな言葉だ」
 ××××は赤い視線に捉われて動くことすらできない。深手を負ってもはや戦えないし、それに××の殺人的な異能を持っている。打つ手は何一つ残されてはいなかった。
「クフフフ。何をおっしゃるのかと思えば・・・・・・」
 隣から聞えてきた笑い声に、××××は目を丸くする。
「×××には指ひとつ触れさせませんわよ? この子は私のもの。貴女なんかのものじゃないんですから」
 腰に手をあて、胸を張ってそう言ってのけた。エリザベートは邪悪な微笑みをして様子を伺っている。
 ××にはわかっていた。この女の狙いは×××なのだ。
 広島型原爆の三十倍以上の破壊力を秘める、リーサルウェポン。絶対に敵に渡すわけにはいかない。あるいは××××に秘められた××の科学力も狙われているかもしれない。ヒエロノムスマシンの理論によって作り上げられたこの××××××××。この理論やシステムは××だけしか理解できないものだが、それでも守らなくてはならない。
 大事な友達を守らなくてはいけないのだ。たとえ自分の命と引き換えにしても。
 恐怖の魔女が近づいてきた。そして××は、背後にいる××××に横顔を向ける。いつも彼女がする、意地悪そうな笑顔をしていた。それがいっそう悲壮感を際立たせていた。
「さぁ×××? 早く逃げておしまいなさい? まだ片足のバーニアがあるでしょう?」
「嬉しいよ×××ちゃん、こんな私なんかのために・・・・・・」
 ふっと微笑んで応える××××。このようなやりとりも、もうどれぐらい長く繰り返したことだろう。楽しかった。本当に楽しかった。
「でも、ごめんね」
 ××××は××を後ろに引っ張り、代わりに自分がエリザベートの前に飛び出る。
「あっ、×××、だめぇ!」
 荷電粒子砲のチャージをする。もちろん出力は全開だ。助からないだろう。力を解き放った瞬間が彼女の最期となるだろう。
 でも、もうこうするしかなかった。自分を犠牲にしてでも強敵を倒さなければならない。正義のために、××のために・・・・・・。これが自分の役割だと、命の使い方だと××××は理解していた。
「××ちゃん、どうか本物の××××を大切にね」
 チャージがどんどん進んでいく。死が刻一刻と近づく。再び身体がきしんで視界が乱れ始めたとき。
「ぐぇっ」
「えっ」と××××はあっけに取られる。
 彼女の背後で、××がうめいたのが聞えたから。
 エリザベートはその手を自分ではなく××に伸ばしていた。彼女の首を真正面から掴み取っていたのである。
「君の力、欲しかったんだだよ。ふふふ」
 荷電粒子砲など撃てず右手を伸ばしたまま、××××は顔をこわばらせていた。ショックのあまりそうして硬直していたら、きゅん、という力がごっそり抜き取られる音と、ぱさっと××の軽い体が庭園の砂利道に落ちた音がした。
 ××の髪が漂白されたように色を失い、まるで死亡したかのように倒れてしまった。
「そんな・・・・・・。××ちゃん、××ちゃぁん!」
 高らかに笑うエリザベート。そのとき彼女の黒髪がばさばさと抜け落ち、もとの赤いショートボブに戻った。××の異能が消去されたのだ。
「貴様はただの機械か」
 エリザベートが石を拾って投げつける。××××が杖にしていたサーベルに直撃し、「あうっ」と彼女は転倒した。がしゃんがらんと、生身の人間らしくない音が響いた。
「ボロボロの人形など欲しくない。ここで朽ち果てるがいいさ」
 左足と右腕を失い、すぐに立つことのできない××××。芋虫のように張いながら小さな顔を上げて、エリザベートの顔を見上げた。魔女は人を馬鹿にしたような嘲笑を向けると、そのまま××××を放置し、××の肉体と共に庭園からふっと「消えた」。
「××ちゃんを返してよー!」
 一人取り残された、××××の切実な叫びがこだまする。


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