【異能番長。漢、一代】


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 日本において許可を持つ特定の団体以外が主催する賭博行為は、刑法第二編第二三章で取り締まられる犯罪である。もちろんそれは、東京都二四番目の区、双葉区でももちろん変わる事は無い。
 しかしどんな場所であっても人の欲望とは尽きないもので、双葉学園を中心とする巨大な学生街であるこの島にも非合法カジノは存在する。レートをあえて低めに設定する事でちょっとした冒険のつもりで存在を嗅ぎつけてきたビギナーの金も掠め取る一方、見極めた客には更に隠されたVIPゲームへの参加を呼びかけるという手法で双葉区の暗部としてはそれなりの歴史と規模を誇る非合法組織である。


 そんな双葉区の魔窟に、今日も二人の若者が足を踏み入れようとしていた。
「すいやせん兄貴。まさかあんなに金がかかるもんだとは思わなくて」
 緊張を紛らわすためか後ろを歩いく男が、前を行く自分が兄弟と認めた男に声をかける。
「気にすんなショウ、あのまんま猫を見殺しにしてた方が目覚めが悪ぃからよ」
 前を歩いていた大男は、振り返らずに答えた。口に咥えた草を落とさない辺り、なかなか器用である。
 ボロボロの学生帽を目深に被り、マントのように羽織った長ランの下はサラシ巻き、大股の歩みに合わせカタカタと下駄を鳴らす姿からは初めて踏み入れる場所への恐怖など全く感じられない。
 それに比べて自分は、リーゼントをがっちり固めて剃りこみを入れてみても、気合いが足りていない。ショウと呼ばれた男は、自分の情けなさを恥じる。兄貴を真似て入れた短ランの裏地の昇り龍が重く感じられた。
「ここか」
 建物と建物の間にある路地とも呼べない隙間、その行き止まりにある飾り気の無い簡素なドア。あまり人の出入りを隠すのに向いているとは思えないが、噂が正しければカジノの入り口のハズである。
 大男は勢い良くドアを開け放ち、中に飛び込んだ。すると扉をくぐった瞬間、その姿が消える。
「あ、兄貴!? くっそぉ、根性見せたらぁ!」
 突然の出来事に混乱したマサは、戸惑いつつも兄貴分を追いかけて中へと飛び込んだ。


 一瞬視界が白く塗りつぶされる。気が付くと二人はホテルのラウンジのような場所にいた。
「……転移能力」
「なかなか凝った演出やないけぇ」
 二人はそれぞれ辺りを見渡した。日本の非合法カジノでも珍しいスロットマシンや、ポーカーやブラックジャックといったトランプゲームのテーブル、ルーレットやダイスを使うゲームのテーブルなどもあるようで、かなり規模が大きいことがうかがい知れる。
 人も多いようで、少なく見積もっても登場する時代を四〇年程間違えたような新参の二人組を、遠巻きに取り囲んでいた。
「なんやけったいな格好してんなあ、自分ら」
 めまぐるしい状況の変化をうまく飲み込めずにいる二人組と、怪しすぎる格好の二人組を警戒するその他、ある種の緊迫した空気を陽気な声が打ち壊す。
 声の主はニット帽を目深に被り、ディーラーの制服をだらしなく着崩した男だった。


 声の主--スピンドルと二人組の間にいた人垣が割れ、両者が直接対峙する。
 スタッフ達はそんな彼に、外様が出しゃばるなという視線を浴びせた。
 いくら有能とはいえ、彼は正規のメンバーではない。それ故出入りを許されるのは、この一番初めのフロアだけであった。
 もっとも賭博組織に興味の無い彼にとっては、こんな面白そうな客が来るここが性に合っているので特に気にしてはいない。
「この長ランは漢のシンボルなんじゃあ!、ワシャあいつもこの格好じゃぁああ!!」
「よっ、さすが兄貴! 漢の中の漢だぜ」
 彼が冗談半分に殺気混じり視線を飛ばしただけで黙り込むスタッフと比べ、目の前の二人は平然としている。
「益々おもろいなあ、自分名前は?」
「ワシは博打番長じゃあ! よろしゅう頼む」
 長ランの大男の方が豪快に名乗りをあげる。
「番長て……また新顔が大きく出たもんやなあ。ほな、番長さんの実力見せてもらおやないかい」
「望む所じゃ! その勝負乗ったらぁ!!」
 軽く挑発をくれてやると、より勢いをまして怒鳴り声をあげて乗ってきた。
「よっしゃ決まりやな。俺のテーブルはここじゃ」
 彼は腕を広げ手前のテーブルへ二人を招く。赤と黒に塗り分けられたベットテーブルと、L字に設置された本格的なルーレットのテーブルである。
「番長ちゅうくらいや、ルーレットのルールくらい知ってるやろ?」
「関係あるかい! タマが入る所を当てたら良いだけじゃろがい!」
 あっけらかんと博打番長が言い放つ。
「さよか……。ま、一応な、ウチは基本ヨーロピアンスタイルや。数字三つ区切りで三倍、赤黒、奇数偶数で二倍、ただし数字の前半後半はウチでは採用してへん。勝ちたかったら、この辺上手く使う事やな。三六倍だけ狙ろうてもすぐトブんがオチやで」
 あまりにの豪放さにズッコケそうになるのをこらえ、ざっとではあるがルールを説明する。しかしこんな説明さえ彼にしてみれば普段ならやらないようなサービスだった。
(もっともどこ賭けたかて、俺がおる限り勝たれへんけどな)
「御託なんぞいるかぁ! 入るか入らんか、『二つに一つ』じゃあ!」
 博打番長が勢い良くコインをテーブルに叩き付ける。ここでは二番目に価値が低い一枚八千円のコイン――計算を面倒にすることでゲームで使い切らせようとしている――が一枚赤の二一番に置かれていた。
(なんや、ただのアホやったか……)
 期待を裏切られた怒りと共に、彼はルーレットを回転させた。
 確かに今博打番長が賭けた二一だけを見ればその言葉は間違いではない。
 しかし現実には二一以外に入る可能性は、二一に入る可能性の三六倍もあるのだ。まして出目は完全なランダムではなく、ディーラーの操作が介在する余地すらあるのだ。ディーラーとプレイヤーの一対一、黒か赤かのニ択でさえ、『二つに一つ』――二分の一などありえない。
 ルーレットにボールが落とされる。
 それは一種の儀式、ここで行われているのがルーレットというゲームであるとアピールするためのポーズにすぎない。回転を支配する彼は一分の狂いも無く、狙ったポケット、――ちょっとした皮肉と洒落で決めた赤の一二番――へ吸い込まれ……なかった。
 ポケットにボールが落ちるカランという乾いた音の後に、いつの間にか集まっていたギャラリーから歓声があがる。ボールは博打番長がチップを置いた赤の二一番に収まっていた。
「やるやんけ」
 彼は相手を讃えるやように口角を吊り上げる。しかし内心穏やかではない。
「まだまだこれからじゃあ」
 配当を受け取った博打番長もまた口元を吊り上げて応える。
「え、でも兄貴診察代ならもう……」
「何言うとんじゃいショウ! そのあとの面倒も見られるようワシがガッポリ稼いだらぁ」
 脇で見学していた舎弟が、の制止を聞かず、博打番長がまたテーブルにコインを叩き付ける。黒の八番--先ほどの赤の二一は奇数・後半・赤だったので、ダブルの属性としては正反対のマス目だ。丁度確率的に二の三乗で八分の一になるというのにもなかなか意味深なものを感じさせる。
(どういう異能《ネタ》や?)
 念力などルーレットやボールに力を加えるようなものなら手応えがあるはずだ。文化祭の遊びに付き合った時には彼自身を操って落とす場所を指定するという怪物にも出くわしたが、今回はそれもない。
(となると残りは現実に直接干渉するタイプっちゅう事か?)
「おう、賭が出そろったらキリキリゲーム始めんかい!」
「おお、スマンスマン」
 正体の分からない博打番長の異能に気を取られ、ついついゲームの進行がおろそかになってしまっていた。彼は急いでルーレットの中にボールを落とす。 
 狙いはとにかく黒の八番から遠く、赤の三番である。
 程なくルーレットの回転が緩やかになり、遠心力を失ったボールがポケットへと吸い込まれていく。
 しかしボールの勢いは死んでおらずポケットを飛び出した。
(しもた!)
 カタカタと音を立てボールはポケットの中を跳ね回り、やがて一つのポケットに収まった。
 そこはもちろん彼が始めに狙った場所ではなく、かといって黒の八番でもない。
(どういうこっちゃ……)
 もし回数制限があるなら、サイドにある二倍のエリアでちょっとでも増やしてから使った方が効率が良いはず。現にさっきのチップは一枚八千円で、今回は一枚五万円の最高額チップだったのだ当たった時の損得の計算くらい小学生でも出来る。
「兄貴……」
 舎弟の男も、不安そうに博打番長の顔をのぞき込む。
「心配すんな! いつものことじゃあ……」
 しかし博打番長はなおも笑顔を崩さない。
「今度は、ここじゃあ!」
 再び博打番長が、自信たっぷりにテーブルに五万円のコインを叩きつける。
(深く考えたらアカン……この格好からさっきまでのアホなやり取りも全部この男のハッタリや)
 相手が現実に干渉するタイプなのはおそらく間違いないだろう。だったらどうせ能力の尻尾を掴んだところで対処できるかも分からないのだ。それなら自分は今できる最良の選択をするだけだ。
 ベットテーブル全体見渡し、チップの金額や各プレイヤーの懐具合を確認する。
 狙いは定まった。
 彼はその力でルーレットの回転を支配し、ボールを落とし込む。
 完全にコントロールされたボールは、吸い込まれるように狙ったポケットに落ちていった。
「どないしたんや、番長。自分が最初んときに力を使こたんはわかってんねん。今さら大人しゅうする事もないやろ」
 不気味に笑みを浮かべ続ける博打番長を不振に思い、彼は再びはっぱをかける。
「ワシゃあ博打番長じゃ。博打の道は勝つか負けるか『二つに一つ』。いつでも異能頼りの運頼みよ!」
 案の定、博打番長は挑発に乗って簡単にこちらの欲しい情報をポロっと口にした。
 今までは使っていなかったのではなく、使っていたにも関わらず発動しなかったということらしい。だが当たればこの回転の支配者スピンドルさえ気づかないうちにルーレットの出目を支配するという。
「なるほどな……そら、確かに博打やなあ」
 その確率はさっきからさんざん繰り返していた『二つに一つ』の言葉の通り、二分の一といったところだろう。
 そしてゲームを重ねるうち、当たり、外れ、当たり、当たりと彼の読み通り、予期しないタイミングでボールは彼の支配に逆らい、博打番長が賭けたポケットに吸い込まれていった。まだ少し外れが多いが、回数を重ねればやがて均されていくいくはずである。
 しかし、その機会はもう訪れない。
「勝ち過ぎや……」
 ここはラスベガスやモナコのようなオープンなカジノではなく、チンピラ主催の違法賭博組織なのだ。客に許される勝ち分はせいぜい小遣い程度だ。それを超えすぎると、恐いお兄さんの出番である。
「ちょっとお客さん困りますねぇ」
 博打番長の周りを黒服の男達が取り囲む。
「ここは、ゲームを楽しむ所です。ズルして勝ったって面白くないでしょう? それともディーラーとグルになって気でも大きくなってましたか?」
「んな訳あるかい」
 真ん中に立つ木崎という男は、一介のフロアマンからこの初めのフロアを任されるまでになった男である。身内意識が強く、スタッフを自分の息のかかった人間で固めたがっているため、あからさまにスピンドルを邪険にしている。
「ふんっ、まあいいでしょう。おい!」
 木崎はスピンドルの言葉を鼻であしらい、後ろに控える部下を促す。その声に応え、黒服の中でも一際大きな男が人並みをかき分けて前に出てきた。その体躯は一八〇センチを超える博打番長より尚一回り大きい。
「コイツは空手を囓ってましてねぇ、下手な身体強化能力者よりよっぽど強いですよ」
 紹介された男は見せつけるようにバンテージを巻いた拳を、バシバシと打ち鳴らす。
「空手がなんぼのモンじゃい! テメェ等全員、尻から手ぇ突っ込んで奥歯ガタガタいわしたらぁ!!」
 叫びをあげて、博打番長が思い切り腕を振り上げる。
 不意打ちにもなっていないテレホンパンチだ、あんな大振りの攻撃が当たる訳がない。殴りかかられた当人を含め、その場にいた全員がそう思っていた。
 しかし、次の瞬間目に飛び込んで来たのは、博打番長に殴り飛ばされる大男だった。
 殴り飛ばされた大男がイスに突っ込んだの合図に、周りを取り囲んでいた客たちがクモの子を散らすように逃げていった。
 普段は出入りの際にコインの持ち出しをチェックするスタッフも今は乱闘に参加しているため、ものの数秒で客たちはいなくなった。
「おらぁ!」
 まともな運動神経の持ち主なら当たるはずもない大振りの拳が、テーブルやイスを砕きながら確実に黒服の人数も減らしていく。もちろんその間も反撃でボカスカ殴られているが、その度に「根性じゃあ!!」と雄叫びを上げて持ちこたえている。
「くぅ……なんで俺が任されてからこんな事に。あ、おい、お前! 何ぼーっと突っ立ってやがる」
 劣勢になったとたんに、木崎がスピンドルにも戦うように指示を出す。
「俺は知らんで、今月から用心棒代もろてへんからな」
 しかしスピンドルの反応はにべもない。当然である、バウンサーを身内で固めるため、彼を外したのは木崎自身なのだ。
 彼は逃げるでも乱闘に加わるでもなく、一歩引いた所でその光景を数えていた。
 外れ、当たり、外れ、外れ、当たり、カウンターで投げ飛ばしたのでノーカン、当たり、外れ、外れ、当たり。
「どうしたんじゃあ!? かかって来んかい!!」
 瞬く間に五人ほど倒して博打番長が叫ぶ。
 乱闘に取り残された黒服達は、遠巻きに博打番長を取り囲み誰かが先に掛かっていくのを待っている。
「そこまでだ、学ランのアンちゃん」
 そんな中いつの間にか姿をくらませていた木崎が自信たっぷりに現れた。
「ちょっとでもおかしな事したらコイツがどうなっても知らねぇぞ」
 同じく乱闘になる以前から存在を消していた舎弟の男が転がされる。
「……あ、兄貴、すまねぇ……」
 いつの間にこんな事になっていたのか、舎弟の顔はすでにボコボコにされていた。博打番長は振り上げていた拳を引っ込め、棒立ちになる。
「くぅ……、卑怯モンがぁ!」
 すかさず黒服の一人が後ろから羽交い締めにされるが、博打番長はそれに構わず木崎を睨み付けた。
「おおう、怖い怖い」
 あざけるように笑いながら、木崎はゆっくりと博打番長に近付いていく。そしてさっきまで博打番長がしていた様に大きく拳を振り上げた。
「よくも俺の城で好き勝手やってくれたなぁ オラぁ!」
 言葉と共に木崎の拳が博打番長の鳩尾《みぞおち》を抉る。
 しかし博打番長は、歯を食いしばって声を上げなかった。
「……今ぁ、何かしたんか? あんまりにも痛くないんで、蚊に刺されたかと思ったわい」
「兄貴……」
「へ、言ってろ」
 強がる博打番長を前にしても、木崎は余裕を崩さない。
(何や急に大物ぶりよって気色悪いわ)
 普段の木崎なら、せいぜいヒステリーを起こして道具を博打番長をタコ殴りにして自分の拳を痛めるような場面である。
「だがな、その的が付いたら、もう俺のからは逃げられねーぜ」
 確かに木崎が殴りり付けた場所には、的と言って差し支えないような同心円の模様が浮かび上がっていた。
「はん、だから何だっちゅうんじゃ」
「俺の能力は、その的を付けた相手に対して、絶対命中する投擲攻撃・絶対命中投げ槍《アブソリュート・ジャベリン》だ。つまり、お前はもう死亡確定って訳だ」
 見せつけるように木崎が、ジャケットの内側からナイフを取り出す。
「さあ、処刑の始まりだ」
 そして刃の部分にゆっくり舌を這わせた。
(さすがよう分かってるやんか、お前はそういう安いチンピラキャラがよう似合うわ)
 安っぽい負けフラグの連発に、魂の関西人・スピンドルの血が騒ぐ。
「死ねぇ!」
 木崎の手からいよいよナイフが放たれる。それはまるで博打番長に刻まれた的に向かって落下するように、どんどん速度を上げて迫っていく。
「兄貴ぃ!」
 兇刃が博打番長に刺さる瞬間、床に押しつけられていた舎弟が叫びを上げる。
「ぐぇ……」
 しかし、何故か苦悶の声は博打番長を羽交い締めにしていた黒服から聞こえてきた。その混乱を見逃さず博打番長は男を振り解き、木崎の胸ぐらを片手で持ち上げる。
「……ば、馬鹿な!? 俺の絶対命中投げ槍《アブソリュート・ジャベリン》は必殺必中、避けられるハズがねぇ」
 ショックと息苦しさの両方で、木崎が青い顔をしてわめきだす。
「確かにお前のドスはワシに当たった。その瞬間にワシをすり抜けて行きよったけどなぁ!」
 博打番長は残った方の手を思いっきり振りかぶり、木崎を力いっぱいぶん殴った。
「トンネル効果か」
「おう、その通りよ!」
 スピンドルのつぶやきに、博打番長は胸を張って答える。
 トンネル効果とは、衝突した物体がすり抜けるというそれこそ異能でも無ければ考えられない現象である。しかし量子力学で言えば、その可能性が低いだけで絶対に起こらないとは限らない現象なのだ。その確率は一〇の二二乗分の一――兆や京より上の一〇〇垓という単位の話である。
 普通に考えれば不可能なこの事象も、博打番長の理屈で言えば刺さるか通り抜けるか『二つに一つ』の確率でしかない。
「絶対当たると言われんかったら、当たり外れで勝負して刺さっとるところじゃったわい。おうコラ、三下共まだやるちゅうんなら掛かって来いやぁ!」
 再度の博打番長の一喝に、黒服達は完全に竦み上がった。その隙に舎弟も押さえつけていた黒服を押しのけ、博打番長の元に駆け寄る。
「異能頼りの運頼み、それがこの俺博打番長じゃあ!」
「よ、さすが兄貴! 漢の中の漢だぜ!!」
 バラバラとガレキが散らばった店内に、博打番長の雄叫びが轟いた。


「けっ、わざわざ辺鄙なところに飛ばしてやがって」
 結局博打番長とショウは二度とカジノに足を踏み入れないこと、チップの一部を修繕費として置いていくことなどを条件に無事に帰ってきた。
 形としては痛み分けであるるが、結局チップのほとんどを巻き上げたカジノの勝ちと言っていい。
 もっともそれは、博打番長とカジノのサシの勝負だった場合の話である。博打番長は意味あり気な笑みを浮かべ、後ろに控えるショウに振り返った。
「おう、ショウあれだけ派手にやったんじゃ、抜かりは無いだろうなぁ!」
「もちろんでさぁ、兄貴」
 ショウが短ランを開けると、中から札束がバタバタと墜ちてきた。その量はもともと博打番長がルーレットで稼いだ分より確実に多かった。
「さすが窃盗番長」
 ねぎらいの意を込めて、博打番長はバシバシとショウ--窃盗番長の背中を叩く。
「よして下さいよ、俺は兄貴の舎弟なんですから」
 痣や血糊などのメイクを拭き取り、窃盗番長が応えた。
「あの猫もきっちり面倒見るって言うんなら名前を考えてやらねぇとなぁ」
「もちろんっすよ、兄貴」
 博打番長はまた下駄を鳴らして歩き出す。木崎のナイフによって切り裂かれた長ランの隙間から、空へと向かう昇り龍を持つ背中が見える。
 ときに窃盗番長とも呼ばれるショウだが、まだまだこの博打番長の背中を追っていこうと改めて心に決めた。



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