【eXtra > エクストラ(表) part1】

長い上に改行がラノベースで考えているのでラノ推奨です。wikiは容量収めるために若干削ったとこもあるので。
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 異能とは何か?

 これを読んでいる奴に異能の定義を説明する必要は今更ないとは思う。
 だけどまあ、もしもわかんない奴がいると困るだろうから簡単に説明してやろう。

 異能とは、人に与えられた『エクストラ』の力。

 一九九九年以降のラルヴァという人外の生命体の大量に発生した。その前からもいた事はいたのだが、一九九九年以降明らかに増加した。
 それとどんな因果があるのかははっきりしないが、一九九九年以降に生まれた子供達の中に、異能を持つ者がこれまた明らかに増加した。
 異能は多岐に渡る。自分の肉体を強化するような異能から、魔法のように手から火を出す異能。他にもテレポートやサイコキネシスといった典型的な超能力から変身する奴もいればロボットを操る異能なんてのもいる。ユニークなところだと自分が楽器を演奏した音を聞かせた奴なら人だろうがラルヴァだろうが多少なりともわかりあえるなんていう平和だか洗脳だかわからない能力もあった。異能は人によって千差万別だ。
 一応これが簡単な異能のあらましだが、説明になってないと思うだろう。
 それはそうだ。異能のなんたるか、なんてものはまだ誰にもわかってはいないのだから。

 異能は人によって千差万別なんて書いたが、その強弱も千差万別だ。俺が所属していた学園の醒徒会の連中はそれこそ化け物みたいに強くて、特撮映画に出てくるような怪獣を仕留めたりもする。逆にそれこそ虫も殺せないような異能だって存在する。
 だからまあ、強い異能を持つ人間には当然のごとく、力に対する責任が発生する。それをきちんと、幼少の頃から教育し、世のため人の為に正しく使わせましょう。というのが異能の学園である、双葉学園の目的なわけだ。

「貴方達が持つ力は正しく使わなければなりません! 世界の為に、人の為に、平和の為に、大事なものの為に! 悪意をもってそれらを脅かすものを打ち倒す為に貴方達の力は使われなければならないのです! それこそが異能者に求められている事であり、異能者としての正しい姿なのです」

 我ながらだいぶバイアスがかかっているとは思うが、これはガキの頃から耳にタコができる程、学園の教師から聞かされたフレーズだ。確かにこういう風に教え込む事は大事だろう。それこそ上に挙げたような怪獣を倒してしまうような人間が、己の欲望のままに力を振るえば、国はともかく島根程度ならおそらくひとたまりもない。

 では、逆に。異能を持ちながら、それが大して役に立たないようなものだったら?
 同じような異能を持ちながら、自分の異能はその中でも貧弱だったら?
 才能を見込まれたのにいつまでたっても異能に目覚めなかったら?

 子供の頃からヒーローたれ、という教育を受けて、そして身の回りにはまるでテレビの中からそのまま出てきたようなヒーロー達がこれまたテレビで見るような化け物と戦っているような環境で育つ。
 当然、ヒーローに憧れるよな。
 まともな世界であれば、そういうヒーロー願望というよりも一種のヒーロー幻想はなりを潜めるが、困った事に双葉学園とそれを擁する双葉島においてヒーローは現実の存在だ。その願望を捨てる事はなかなか出来ない。
 まあ中には最初からそういう願望とは無縁に見えるような奴もいるだろうが、そんな奴は
  • 実際に力を持ち、周りから見ればヒーローのような存在
  • そもそもそういう願望を卒業してからここに来た
  • 変な奴
 だいたいこの三パターンだろう。
 ヒーロー願望を持った奴が、そのままそれを叶えるような異能に目覚めれば、それはおめでとうってやつだ。せいぜい頑張ってくれ。まあそれはそれで危ういのだが。

 願望を持ちながら、その願望は決して叶わないと思い知った人間はどう生きて行けば良いのだろうか。このヒーローがフィクションではないという環境で。
 ここから書いてあるのはそういう話だ。俺、八十神《やそがみ》九十九《つくも》と、俺の相棒らしきものである椿《つばき》 幻司郎《げんしろう》が関わった出来事をまとめたものである。
 いろいろ拙い部分もあるとは思うが、もしよければ読んでみて欲しい。



     eXtra/エクストラ(表)



 双葉学園大学の端のほうの敷地に設置された研究棟の廊下をだらだらと歩きながら、俺は思案にふけっていた。この学園において、俺くらい常時発動型でもないのに異能を使っている人間もそうそういないだろう。まあ俺の異能の詳細を知っているのはこの学園でもごくごく少数だから俺は生きて行けるのだが。
 さっきも使った。大学の講義を終えて研究棟に向かうまでの道すがら、なかなか見かけない美人がいたので、試しに見てみたら『15』と彼女の頭上に表示されたのだ。
 ショックだ。遊び過ぎだろ!?十五人てなんだよ!
 俺の異能は『絶対数《ナンバーズ》』という。簡単に言えば、他人に関する情報が数字で見えるという便利な能力だ。
 そして俺が先ほどの美人に求めた情報は『男性経験人数』。直接聞く必要などはない。俺がそれを知りたいと思い、そしてその対象を視界に入れればその対象の頭上に数字が浮かぶ。便利で素敵な能力だ。

 あんな清楚に見える子があんなに遊んでいるとは。なんて世知辛い世の中だろうか。清純という言葉は最早死語なのだろうかなどと考えているうちに、俺は研究棟二階の最奥にある部屋の前にたどりついていた。扉の横にあるプレートには『先端未知生命体、異能生命科学研究室』と書いてある。だいぶ欲張りだとは思うが、実際に全部研究しているのだからしょうがない。通称は喜多川《きたがわ》研究室である。研究室のボスが喜多川《きたがわ》博夢《ひろむ》という人間だからだ。

 俺がドアノブの横にあるリーダーに学生証をかざすと、リーダー上部にあるランプが赤から緑に変わり、ドアのロックが外れる音がする。
 それを確認すると、ドアノブを回し、ドアの天辺に頭をぶつけないように気をつけて研究室に足を踏み入れる。俺の身長は一八六センチもあるので、こういう所で気をつけないと悲惨な事になるのだ。折角セットした髪が崩れるしな。

 研究室に入ると、中二は二人しかいない。そういえば、今日は四年以上の研究生は、天地《あまち》奏《かなで》にテストさせるバイクの調整とやらで出払っているのだった。
 気になるの手前のミーティング用テーブルにブレザーの女が一人いたこと。高校生か?

「やあ、九十九。キミにお客様だよ」
 研究室に既にいた男の一人は振り返り、こちらに顔をむけてにやにやと笑った。『にこにこ』ではない。『にやにや』だ。奴はそういう笑い方をする。
 奴の名前は椿《つばき》 幻司郎《げんしろう》。
 金髪碧眼で無駄に顔の整ったこの男はドイツ人の母親と合気道の道場を営む日本人の父親から生まれたハーフで、姓名の間に母親のミドルネームが入るらしいが、そこまでは俺は知らない。とにかく、俺とこの鼻持ちならない美形は中学からの腐れ縁で今じゃ研究のパートナーってことになっている。
 いつでも左手に手袋をしているのが特徴の一つだが、それは奴の異能に関係があるんだが、どうでもいいや。

 それよりも気になったのは奴の言うお客様。それは多分、来客用テーブル備え付けの椅子に姿勢良く座るブレザーの女だろう。大学では当然の事ながら醒徒会や、各種委員会のトップを覗けば皆私服を着る。この研究室にブレザーはあからさまに場違いだ。
 幻司郎に話を振られた女は立ち上がり、俺の方に体を向けた。
 女はなかなかどころかかなりの美人だった。黒髪のロングに端正な顔立ち、意思の強そうな切れ長の目が印象的だ。
 あと、殺気。というか妙な威圧感。
 美人に初めて会った時は挨拶代わりに色々異能を駆使して情報を見る事にしている俺だが、何故かそれが躊躇われる。

「はじめまして。風紀委員長をつとめている、高等部二年の逢洲《あいす》等華《などか》です」
 風紀委員長の逢洲等華と言ったかこの女?俄には信じられないような発言だが、俺には真偽を確かめる術はない。
 俺の異能は数字でしか情報を見る事が出来ないからだ。従って答えがイエスかノーになるような質問をしても情報は得られない。
 要するに目の前のこの逢洲という女がどんな色の下着を身に着けているのかと思ってもそれは色が答えになるのでわからない。一度、RGB比率にすれば数字だし色もいけるのではと思ったが、複数の数字を同時に出すのもアウトだった。

 まあそんな事はどうでもよくないが、今は置いておく。とにかく、俺は風紀委員とは折り合いが悪い。まあそれは過去に俺が色々とやんちゃをしたからではあるのだが。

「ああ。はじめまして。喜多川研究室のホープとそうでないような存在のおよそ中間に位置している事でお馴染みの男、八十神九十九です」
「………。お噂はかねがね伺っております」
「ブフォッ!」
 逢洲がそう言った瞬間、後ろに座っていた幻司郎は吹き出していた。無理も無い、風紀委員がする俺に関する噂なんぞアレしかないからだ。
 逢洲は幻司郎が何故吹き出したのかわからない、という風に首をかしげたが気を取り直すと、俺に向かって手を差し出してくる。
 まさかその手を払う訳にもいかないので俺は「よろしく」とだけいうとその手を取り、握手を交わす。握手をしながら彼女は俺の目を真っ直ぐに見つめてきた。
 真っ直ぐな瞳の真っ直ぐな視線。まるで汚れを知らない、真っ白なものが俺を貫くような感覚を覚える。

 ああ、どこまでも苦手だ。こういうの。

     **

 挨拶を済ませ、席に座ると、逢洲は単刀直入に本題を切り出してきた。
「実は、八十神先輩にお願いがありまして」
「はあ」
 頭は混乱するがとりあえず今は聞くしか無いだろう。
「ええ。その『アーク‥‥』」
 そこまで口にしたところで、逢洲はしまったと思ったのか、慌てて口をつぐみ、幻司郎を振り返る。奴はにやにやするだけで何も言わない。
「あー、いいからいいから。奴はみんな知ってるから気にしなくても」
「そうですか? かつて我々風紀委員が『大敵《アークエネミー》』と呼称し、何度か争った八十神先輩にこういうお願いをするのはどうかとも思ったんですが」
 そこまで言うと、逢洲は俺の顔色を伺う。俺はどんな顔をしていただろうか。きっと苦虫を噛み潰したような顔をしていたに違いない。
「あ! やはり『アークエネミー』は不味かったでしょうか? 『フェイスマン』とお呼びした方が‥‥」
「過去の呼称はどうでもいいから。本題に入ってもらえる?」
 後ろで幻司郎が笑いを押さえようとしていたのか口を塞いで痙攣しているのが見える。この逢洲という子はちょっと天然なのかもしれない。
「わかりました。では、先輩は『ナイトファイア』と『エグゾースト』というチームを知っていますか?」
「知らないな。最近のチーマー集団か?」
「そうです。ここ数ヶ月で、両方とも、繁華街を中心に勢力を伸ばしているチームです」
「ほうほう。それで?」
「この二チーム、最初はただ、ゲームセンターを中心にたむろしているだけだったんですが、規模が大きくなるにつれて対立を深めていまして」
 繁華街のチーマー抗争。よくある話だ。夕方のニュースじゃ時々やってるな、それか番組改編時期の警察密着二十四時!みたいな。
「ふんふん。で、それが?」
「両チームのトップが高等部の生徒で、異能者なんです」
 それはそうだろう。この島で双葉学園に所属していない十代の人間は殆ど居ない。異能者というのは厄介だが。
「で、その二チームが危険だから排除するのに力を貸せっていうのか? 俺が役に立てる事なんて殆どないと思うけど‥‥」
 俺は一応いくつかの格闘技をかじっている。だから、ろくに学校の訓練にも顔を出していないようなチンピラ程度ならばわけは無いが、異能者相手では出来る事は無いだろう。
 何せ俺の異能は対象が人だろうがラルヴァだろうが相手のプライバシーを侵害するより他に使い道がないからな!

「いえ、そうではありません。力づくで押さえつけても意味はないと思います」
「ふーん。風紀委員てそういうところだと思ってたんだけどな」
「それは誤解です。そういう人間が居る事は否定しませんが」
 逢洲は俺から目をそらす事無く真っ直ぐに言い返してきた。やっぱり駄目だ。こういうのは苦手だ。俺はもはや蛇に睨まれた蛙と言える。
「わかったわかった。確かに力づくでなく生徒を更正させようという君の意思は立派だ。でも、どうして俺なんだ? 昔の事とはいえ、俺は君たち風紀委員に『大敵《アークエネミー》』とまで呼ばれた人間だぞ」
「確かにボクもそれは気になるねえ。九十九に出来る事と言ったらプライバシー侵害くらいなもんだから」
 後ろからの指摘、というよりも揶揄を受けて逢洲は自らの身体を手で覆い、身構えた。俺の理知的なイメージが台無しだ。
 ちなみに、たとえ身体を手で覆っても俺の異能の前には無意味だ。胸を手で覆ったとしても胸囲なんぞすぐにわかる。
 ‥‥‥まあそんな事はしないのだが。

「テメエ!」
「いや、でも大丈夫だと思うよ。彼、昔いろいろあってEDだからね。そういう性欲は無いって。ははははは」
「お・ま・え・わ! なんでそういう事言うのかな? ねえなんでそういう事言うのかな? 君の能力も凄いよね、プライバシーの侵害って事に関してはちょーすごいお! だよね?」
「やだなあ、僕は『人のプライベートには踏み来ない主義』だよ」
 気持ちの悪いほどに爽やかな笑顔を作る幻司郎を、殺気を込めて睨みつけるが案の定奴にはそんなのどこ吹く風とばかりに全く動じない。
 ついでにこいつは『○○な主義』をその場ででっち上げる癖というか性質がある。信用ならねえ。

「……ゴホン! 話を戻したいのですがいいですか?」
「ぜひともそうしてつかあさい……」
「単刀直入に言います。私が八十神先輩に頼みたい事は、『ナイトファイア』と『エグゾースト』。両チームの争いを止めて、それぞれのリーダーを学校に復帰させて欲しい、という事です」
「なんとな〜くそんな予感はしたけどな。で、なんで俺なんだ? 確かに俺は幼少の頃から、感情のこもっていない声と諦めきった目でやれば出来る子と親に言い続けられてきたけどな」
 俺はグレートティーチャーじゃねーぞ。

「ええ、八十神先輩は高校の頃、グレて一度学校を退学までしているのに、今ではこうして大学であの喜多川教授の元で勉学に励んでおられるという経歴が彼らを更正させる上で非常に素晴らしいと思いました。また、かつての経験から彼らのような不良にも顔が広いと、ある先輩に聞きまして‥‥」
「別にグレた結果として退学したわけじゃないんだがな……」
 そう、俺は高二の時に退学届を出して高校を辞めている。今大学に居るのはその後に大検を受けて一般ルートでこの双葉大学を受験したからだ。ちなみに一般ルートだとこの大学は結構難しい。落ちこぼれには無理だぞ。
 さらに付け加えるならば、俺の人脈なんてのも大したものはない。物資の運送に利用した漁師のおじさん達や運送会社の兄ちゃんくらいなもんで、現役のチーマーどもに知り合いなど一人もいない。

 昔はそのへんにも繋がりがあったのはまあ事実だが、当時の連中はさすがに皆足を洗っている。こういう世界で四年も離れてれば、顔が広いなどという事はない。

「正直に言えば、私としてもこのような事を頼める人のアテが他にありません。『ハッタリかましてブラジャーからミサイルまでなんでも揃えてみせる』と言われた先輩が頼りです。受けていただけますか?」
 口調は丁寧だがその全身から放たれる威圧感と純粋にして真っ直ぐな目に俺はもう白旗を上げていた。こういう人間には逆らえない。何より俺しか居ないとまで言われて断れば男がすたる。美人だし。

「ああ、わかったわかった。何気に四人の特攻野郎の中じゃ役に立ってる場面は少ないんだけどな『フェイスマン』は。で、これは風紀委員からの正式な依頼と思って良いのかな?」
「………いえ。これは私の個人的な依頼です」
「は? なんでまた?」
「その二チームのリーダーのは二人とも私の友人の弟で、昔からの知己でして。是非更正してもらいたいと」
「ふーん、そう言う事ならまあいいか。やれるだけやってみるよ。ただ、あまり期待はしないでもらいたいな」
「本当ですか!? 有り難うございます」
 そして逢洲は腰を曲げて礼を言う。背筋が真っ直ぐで実に奇麗なお辞儀だ。彼女の育ちの良さと性格が伺える。


 逢洲は丁寧に礼を言うと、二人の資料と自らの連絡先を書いたメモを置いて去って行った。部屋に残ったのは男二人。逢洲がいる間は自粛していた煙草に火をつけて資料に目を通す。俺はマイルドセブンで奴はキャスター・クールバニラ。メンソール煙草の一種だ。バニラの臭いがキツい。男がメンソール煙草というのもなんか嫌だ。
「ふうん、沢渡《さわたり》翔《しょう》に片岡《かたおか》卓《すぐる》ね。どっちも高校一年生か」
 資料に目を通し終えたらしく幻司郎はバニラ臭い煙を吐きながら、それを俺に寄越してきた。
 資料は問題の二人とそのチームの概要についてまとめたものらしく、手書きでまとめられている。個人の頼みというからには逢洲等華がまとめたものだろうか。資料の女性らしからぬビシッとした整った文字から彼女の真面目さが垣間見えたような気がした。

「沢渡が『ナイトファイア』のリーダーで手のひらから火を出す異能、片岡が『エグゾースト』のリーダーで身体強化か。ランクはあまり高くないようだな」
「両チームともメンバーは高校生が中心で中学生もちらほら。で、異能持ちはリーダーの二人だけ。主に集まるのは繁華街のゲームセンターと。グレるとはいってもまだ平和なものだね」
「学園の中心には行けない連中がグレて群れてるってわけか。よくある話だな……」
「そうだねえ。君もそうだったね、『フェイスマン』」
「その話はやめろ。第一オマエも無関係じゃないだろうに」
「確かに僕も関わっていたけど、君とは動機が違うからねえ」
 奴はにやにや笑いながら煙を吐き出す。ちなみに黒歴史度では奴の方が色々ヤバいのがあるんだが、俺は優しいので言わない。

「ああ、そうだな。そうだったな。オマエは最初からヒーロー願望も異能に期待もなかったな」
「いや、でも楽しかったよ。グレる方向性が斜め上過ぎて。風紀委員の目を欺きながらエロ本だの調達するのはスリリングだった」
「その結果ついたあだ名が『フェイスマン』、風紀委員からは『大敵《アークエネミー》』呼ばわりだ。もうそんな噂は風化してると思ったんだがな。俺が『フェイスマン』だと知ってる人間も殆ど居ないし」
 心の底から溜息をついた。なんというか厨ニ病時代のイタイ記憶をえぐり出された感じか。

「ま、君は彼女が出来てあっさりと足を洗ったからね」
「昔の話はいいんだよ。とにかくこれからどうするかだ。奴等はゲーセンに集まるらしいからとりあえずそこあたってみるか?」
「何を言っているのかな。君の問題なんだから君が考えなよ」
「は!? 手伝わないのか?」
「当然だろう。逢洲等華は君依頼したんだよ。僕にじゃあない」
「つれない事言うなよ。相棒じゃねーか」
「僕が君のパートナーなのは昔、十八禁な物資の調達と転売に明け暮れていた時と、今、この研究に関してだけだ。今回の依頼は君のプライベートな問題だからね。僕は『他人のプライベートには不要に関わらない主義』だから」
 取りつく島も無いとはこの事。まあ薄々そんな気はしていたが、一人でどうにかするしかないというわけだ。
「だったら資料を勝手に読むな。立派なプライベートだぞ」
 手を払って奴を追い払うと、俺は資料に再び目を移す。それによればどうやら最近奴等の間で、あるゲームが流行っているらしい。
 ゲームにハマっているあたり、こいつらは大分平和だ。暴力に明け暮れているとなると正直一人ではお手上げだが、これならまだどうにかできる余地はある。というか逢洲も暴力を用いずともなんとかなると判断したから、俺に話を持ってきたのだろうけどな。

 行き場の無い、実際には自分には学校に居場所が無いと思っている中高生が群れるのはよくある話だ。この異能の学園ではそういう話は特に多い。別に治安が悪いとか誰が悪いとかではなく、ここでは『自分はこの学校にいる意味が無い』と思い込んでしまうような切掛けが多い。
 おそらく今回の二つのチームの人間もそういう連中ではないだろうか。俺もそういう事を考えていた時期があるし、そういう気持ちはわかる。誰もが、特別な力を持っているわけではないし、逢洲等華のように白く真っ直ぐに生きられるわけではないのだ。

 俺はとりあえず夜になったら件のゲームセンターに行って奴等がハマっているゲームをやってみようと考えた。そのゲームを橋頭堡《きょうとうほ》にして奴等と知り合えばいいだろう。適当に上手い奴に話しかければいい。ゲームの腕を褒められれば人間は何故か冗舌になるからな。

 資料に記された、奴等が熱を上げているゲームの名前に目をやる。
 『ベルゼブブ・アーマーズ』とあった。また妙な名前のゲームだな。蝿の姿をした魔王様の鎧か?生憎俺の異能は悪魔召喚でもペルソナ召喚でも無いんだがな……。
 ゲームの資料も添付されていたので、それも読んでみる。ツインスティックでロボットを操る3D対戦ロボットアクションゲームだ。それはいい。操作系統や画面写真を見る限り、俺が生まれた前後くらいに出たロボットアクションゲームにとても良く似ていた。小学生の頃くらいにどっかのゲーム機で配信された時に、姉貴とよくプレイしたのでその感覚は今でも身体に染み付いている。
 気になったのは、このゲームのストーリー。どうやら、非異能者や弱い異能者が劣等種として差別され、弾圧される時代にタイトルの『ベルゼブブ・アーマーズ』に乗り込んで戦うという設定らしい。たかがゲーム、しかもストーリーは大して重要でもない対戦ゲームだが、この筋書きに惹かれて奴等がのめり込んでいるというのなら、憂鬱だ。

 ところでこのゲーム、双葉島にしか無いらしいが、それで開発費をペイできるのか?とてもそうは思えないのだが。それとも、他にこのゲームには目的でもあるのだろうか。







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最終更新:2010年01月15日 21:29
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