【eXtra > エクストラ(表) part3】


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「おい、八十神! 起きろよ! ヤバいんだって!」
 俺の安眠は野太い声に妨害された。
 時計を見ると、時刻はまだ昼休みだ。昨日は徹夜、というか闇ルートの物資の手配で徹夜だったんだ。昼飯は我慢するからもう少しだけ寝かせてくれよ。
「寝てる場合じゃねーんだよ馬鹿!」
「あんだよ! お前もフクダー○先生の新刊欲しいって言ってたじゃねーか! 俺はその手配で寝てないんだぞ」
「欲しいけどさ! そうじゃないんだって! 椿の奴だよ! あいつまた………」
 そこまで言われて俺は何が起こったかを理解した。また、あいつか。やっちまったのか。
「原因は?」
「ああ、それがさ。A組の森の奴が一般人の気の弱い奴をパシリにしててさ。『異能も無い一般人にはこんな使い道しかねーんだよな』とか言ったのを偶然通りがかった椿が聞いて……」
 まあそんなところだろうなと納得する。椿幻司郎という男はこの異能の学園で、自らもまた異能者であるにも関わらず、異能とそして異能者を嫌っている。いや、憎んでいると言ってもいい。
 原因は数人しか知らないらしいが、奴の母親は異能者に殺された。いわゆる『異能犯罪』という奴だ。通常の方法では不可能な為に警察もお手上げ。真実は闇の中。

 だから奴は異能を嫌う。そして誰かが異能を鼻にかけるような発言をしたり、異能者が一般人を見下すような発言をすれば誰彼構わず殴り掛かる。それが例え自分には決して敵わない強力な異能者であったとしてもだ。
 タチの悪い事に合気道の道場の一人息子である奴はラルヴァ相手には殆ど役に立たないが対人戦なら滅法強い。非武装ならば、相手が身構える前に襲いかかり、一方的にのしてしまう事が殆どだ。

 どっちかがミンチになってなければいいがと思いつつ俺は一Bの教室を出た。さらに懐をまさぐりブレザーの内ポケットにある得物を確認する。風紀委員の苛烈な弾圧に抵抗するべくゲットした俺の得物、てゆうかスタンガン。愛称『カレンちゃん』はしっかりと内ポケットにある。充電したばかりだから電気もばっちりだ。

 廊下にでると人だかりが出来ていた。間違いなくあの中心に幻司郎はいる。
 人だかりをかきわけるとその中心で幻司郎は黙って森に拳を振り下ろしていた。その手は森の血で赤く染まっている。

「おい、幻司郎。そこまでにしとけよ。お前が派手に暴れて懲罰房にでも入れられると『例のバイト』に支障をきたすんだよな」
「やあ、九十九じゃないか。でも、そこまでにしておくわけには行かないな。こういう自分の欲望の為に異能を振るって一般人を見下すような奴にはお灸を据えないと」

 お前の一方的な暴力もただの八つ当たりだろうという発言を飲み込んで、俺はスタンガン『カレンちゃん』を取り出しスイッチを入れる。
 そして、機械のように一定のリズムで拳を振り下ろす無防備な幻司郎の首筋に『カレンちゃん』を押し当てた。

 あっけないものだ。しばらく痙攣すると、奴は簡単に気を失う。
 気を失った幻司郎を担ぐと、床に倒れ鼻血を流しながら荒い息をする森と目が合う。
「災難だったな。でもな、これに懲りたら一般人を下に見るような発言はすんなよ。異能なんてな、『たかが異能』じゃねーか」

 森は涙目で頷いた。それを確認すると俺は幻司郎を背負って教室に戻る。
 幻司郎のやった事はとてもじゃないが肯定できない。異能を振りかざして一般人を虐げるのは論外だが、幻司郎の合気道だってはっきり言って立派な凶器だ。異能か武道かの違いだけでどちらもいたずらに暴力を振るった事にはなんの変わりもない。

 だが、一方で俺はスカッとしたような感覚を持っていた。戦闘系の異能者ではない幻司郎が戦闘系異能者である森を一方的に破った事についてだ。
 なぜなら、俺も異能を持たない一般人に過ぎないから。

      **

 嫌な夢を見て俺は飛び起きた。時刻は朝六時半。まだ朝のニュースをやっている時間だ。まともな大学生の起きる時間ではないにょ。
 それにしても嫌な夢だった。まさか、今更高校一年の頃の夢を見るとは夢にも思わなかった。
 今日は俺が最初に『ナイトファイア』と接触してから一週間。決戦の日である。ゲームでだけど。
 そう、ゲームで対戦だからまさか荒事にはならないと思う。だがこのタイミングでこの夢を見るのはいくらなんでも恣意的すぎやしないだろうか。相手は最高で高二のお坊ちゃん達とはいえ、血の気の多い連中だ。下手をすれば乱闘。いや、もし俺が今日負ければお仕置きリンチなんて事も……。

 普段は気の良い連中でも、集団心理は怖い。一度火がつけば、暴力に歯止めがかからなくなるだろう。う〜む。

 やはり、これは愛スタンガン『カレンちゃん』のお告げなのだろうか。もしもの時の為に、自分を持って行きなさいという。非科学的だろうが、使い慣れた武器には霊的な力が宿るとも聞く。数々の修羅場をともにくぐり抜けてきた俺の愛しいスタンガンに何かが宿ったとして、おかしい事があるだろうか?いや、ない!
 俺の息子ことマグナムがピクリともしない、使用不能の状況では、『カレンちゃん』は俺の唯一の銃とも言える。俺の心は揺れに揺れた。

 結局俺は懐に『カレンちゃん』を入れて家を出た。


 時刻は午後七時半、俺は決戦の場、繁華街にあるゲームセンターに向かっている。
 この一週間、俺は講義と研究室の合間を縫って一日おきにゲーセンに通い腕を磨いていた。おかげで今では、沢渡にも安定して勝ち越せる程度に腕は上がった。その一方で行かない日はゲーセンを避けながら繁華街に繰り出し、情報収集に勢を出す。
 俺が収拾出来た範囲では奴等はチーマーという程のものでもないらしい。近隣住民に聞き込みをした所、幼い頃から二人を知っている肉屋のオバちゃんは「突っ張っちゃって可愛いわよ」と言いながらコロッケを一つサービスしてくれたし、魚屋のオジさんは「若い頃は誰も不良に憧れる時期があるってもんよ!」と言いながらさんまを包んでくれた。

 まあ要するに奴等は突っ張って不良を気取っているだけのゲーマー集団でしかないわけだ。はっきり言って今回の依頼に関しては逢洲の心配し過ぎという面も大きいと思う。風紀様から見れば午後六時以降に十八歳未満がゲーセンにたむろしている時点で不良なのかもしれないが。ついでに言えば奴等が占拠してるせいで普通の人がゲームやりにくいしな!

 ただ、問題なのは最近になって二人の対立が深刻化しているらしいという事である。ランクが低いとはいえ、奴等も戦闘系の異能持ちである上に、他の連中も異能を持たなくともあの人数同士がぶつかれば相当な騒ぎになる。下手すりゃ退学者も出るだろう。それは避けなければならない。

 と、言った所で俺には有効な手段が思いついていない。如何にして俺一人で奴等の衝突を回避して、そして異能コンプレックスをなんとかしてやるべきなのか。はっきり言ってノープランだ。


 とにかく、今日の対戦で『エグゾースト』の連中と初めて会うわけだ。これで対立のきっかけを探るより他にないだろう。こんな時に幻司郎の能力があれば便利なのだが無い物ねだりもしていられない。今の俺の相方はピカチュウだ。
 入店して『ベルゼブブ・アーマーズ』が設置されているエリアに近づくと、そこは既に異様な熱気に包まれていた。手前側に『ナイトファイア』の面子が集まっている。奥の見慣れない集団は『エグゾースト』なんだろう。

「九十九さん! ギリギリじゃないっすか! 遅いっすよ!」
 俺に最初に声をかけて来たのはまたしてもツヨシだ。この一週間で最低限の敬語を使うようになってはいたが、それでもまだ沢渡より俺のランクは下らしい。
「いや、まだあと十分くらいあるだろ」
「まだ十分とか言う辺り大物なんだか。それより聞いてくださいよ、向こうの代表」
「向こうの代表がどうかしたのか?」
 正直どうでもいいが、一応聞いてやる。誰が相手だろうがゲームはゲームだ関係ない。
「それが女なんすよ! しかも外人! ヤバいっすよあれ!」
 女で外人とは確かに珍しい。俺はアツシの指す方向に目をやる。そこには『エグゾースト』の面子らしきものに囲まれて身長一七〇程の金髪がいた。スレンダーな体躯をあまり飾り気のないシャツとジーパンで包んでいる。一見してわかる美人オーラを放っていた。
「ね、やばいっしょ!? どっからあんなの連れてきたんすかねえ」
「たしかに、な‥‥」
 俺は適当に相槌を打ちながら、なんだか嫌な予感がしていた。
 と、その女がこちらを振り向く。そして俺達の姿を認めると微笑んだ。

 その微笑み一発でツヨシは既に舞い上がっている。
 ………女装した男にしな作られてそんなに嬉しいのか?

 そう、あの金髪女に見える物体は女装した男だ。ぶっちゃけて言えば椿幻司郎。俺の研究室の相棒だ。あのにやにや笑いが鼻につくメンソール煙草野郎じゃねえか!

 さて、ここで俺に妙案が浮かんだ。簡単な話だ。俺が奴の正体を華麗に暴露する。すると『エグゾースト』の連中は怒るだろう。そして怒りの矛先は『ナイトファイア』から奴に移る。共通の敵が出来た両チームは和解。手を取り合って女装男をボッコボコ!俺の溜飲は下がり、そして依頼も達成と!完璧じゃないか。
 我ながら完全作戦、パーフェクトミッションだなと矢車さんばりの悪い笑みを浮かべていると、携帯から九十年代最高の名曲『目指せポケモンマスター』が流れてきた。これはメールの着信だ。横でツヨシが「大学生にもなってポケモンかよ……」と呟いていたが童貞の戯言なんぞ聞く耳もたん。

差出人:椿幻司郎
件名:君の考えている事はまあわかる
本文:悪いようにはしないから、しばらく黙っててもらえるかな?ちなみに対戦は手を抜かないよ。

 奴はテレパスでも持っているのだろうか?ナイスタイミングとしか言いようがない。若干頭を冷やした俺は冷静にメールを返す。

宛先:椿幻司郎
件名:あとできっちり説明しろよ!
本文:まあかわいいお嬢さんだこと!今度の飲み会の余興はそれで決まりだな!

 メールを送ると返信はすぐに来た。
差出人:椿幻司郎
件名:わかってるよ
本文:僕の女装じゃあまり余興にならないと思うけどね。とにかく後で説明するからさ。

 何故奴は自分の女装では余興にならないと言ったのか。それは奴が自分の顔についてよ〜く自覚しているからだ。
 要するに奴は美形の自分の女装ではハマり過ぎてて笑いのタネにはならないと言っているのだ。実際にツヨシを初めこの場にいる人間の反応を見ればそれは正しい。みんな奴を美人の外人としか思っていないからな。
 奴の悪質な所はそこにある。自分の顔は使える武器だと、きちんと自覚しており、必要とあらば最大限にそれを使う。実に厄介だ。

 やり場のない怒りにぐぬぬぬしていると、沢渡が声を掛けてきた。
「よう、どーした八十神さんよ。そろそろ時間だぜ」
「ああ、なんだもう時間か」
「おいおいシャキッとしてくれよ。相手が女だからって手ぇ抜くなよ」
「わかってるよ」
 最早このやり場のない怒りはゲームで奴にぶつけるしかない。

 シートに座るとコインを入れて、次にICカードを挿入する。ディスプレイに現れる俺の愛機『南極三号』。この一週間で出来うる限りカスタマイズした。白のボディにこれでもかと銃器を載せた、イカした奴だ。
 対戦相手と表示された奴の機体はデフォルト。近接戦闘が得意な軽量級の機体だ。当ればデカイが当てられればあっという間に沈む。
 俺のベース機体と奴の機体では、若干奴の方に有利が付いているが、カスタマイズを考えれば五分といった所だろう。『あとはランナー次第』ってやつだな。

 <READY GO!>

 試合開始。同時に俺はボタンを押して主砲の極太ビームを発射。慣れない奴や、逆になれた奴も虚をつかれて当ったりするし、外れてもその対応で相手の力量を計れる。
 結果は外れ。奴はジャンプでそれを的確に避けた。さらに落ち着いて空中からこちらに射撃をお見舞いしてくる。
 もちろんこちらは避ける事も出来ずにもろに当るが所詮は格闘機体の射撃、そんなに痛くもない。

「おいおい、しっかりしてくれよ」
「心配すんな。まだ始まったばっかじゃねーか」
 沢渡の心配そうな声に適当に返事をすると、俺は奴と距離をとって牽制弾をバラまく。とにかく近づかれるわけにはいかない。初手でわかった事だが、奴は出来る。デフォルト機体というあたりで疑問だったが、奴はきっちりこのゲームをやり込んでいる。一筋縄ではいかないだろう。

 俺はその後、奴に主砲を直撃させたが、最後は近接攻撃を喰らって負けた。体力差を考えれば、初手のダメージの差がそのまま出た格好だ。

 『エグゾースト』の方から歓声とこちら側から落胆の声が上がる。まあ無理も無いか。こんなギャラリーの中でゲームをするのは初めてだ。

「頼むぜ八十神!」
「次はきっちり取るって!」

 <READY GO!>

 第二ラウンド。もう相手の実力はわかっているので隙のデカイ主砲をぶっ放すような真似はしない。落ち着いて距離を取って奴の体力を削り取るべく俺は間合いを離そうとする。
 と、今度は開始と同時に突っ込んできたのは奴の方だった。その意外な行動に虚を突かれた俺は奴の格闘をもろに喰らってしまう。初手でいきなり体力の半分を持って行かれたわけだ。

「八十神ぃぃぃ!」
「慌てるなよ」
 最早悲鳴に近い沢渡の声を受けながら俺は冷静に機体を立て直す。当然奴は続けて近接戦闘を挑んでくる。この間合いでは奴の機体の方が完全に有利だからだ。
 独特の音を立てて奴の機体が跳躍する。ジャンプ格闘でケリを付ける気なのだろう。急降下キックが俺の南極三号に迫る。

 だが、それは読んでいた。身内読みというやつだ。奴はその人を喰った言動や始終落ち着いているような態度と裏腹に、こういう時に攻めに走りすぎるきらいがある。今回もそう。初手を取ったからといって即、次でケリをつけようなんざ甘い。
 バックダッシュで紙一重にキックを躱すと俺は隙だらけの奴の機体に主砲を叩き込む。為す術も無く直撃を喰らい、吹っ飛んで行く奴の機体。『ナイトファイア』側から歓声が上がる。これで体力は五分だ。


 その後も無難な立ち回りできっちり奴の体力を削り俺は第二ラウンドをもぎとった。勝負は最終ラウンドに持ち越される。

「最後きっちり頼むぞ八十神!」
「八十神さんファイトっす!」
「八十神さん!」「八十神さん!」
 『ナイトファイア』全員から俺に応援が飛ぶ。こういうのも悪い気分じゃなかった。ゲームでこうも盛り上がるとはな。


 <READY GO!>

 最終ラウンド。今度はお互いに突っ込む事はせずに距離を離す。
 距離を離せばこっちのものだとばかりに俺はバカスカ撃ちまくる。奴は右に左に細かくダッシュを刻み、上手く避けながらこちらとの間合いを詰めようとするが、それでも体力の六割近くを削り取った。対して俺の南極三号の体力はまだ八割程度残っている。

 ギャラリーの声は最早耳に届かない。それだけ俺は集中していた。体力はこちらが有利だが、少しでも気を抜けば、奴の接近を許し、手痛い一撃を喰らうだろう。いつしかツインスティックを握る手が汗ばんでいた。
 奴が動く。手榴弾のようなものを投擲してくる。爆風に紛れて接近するのは相手の機体のセオリーだ。俺はそれを読み、ジャンプする。相手のダッシュの硬直を狙い、一撃を叩き込んでやる算段だ。

 だが、読みが外れたのは俺の方だった。奴はあえてワンテンポ、いやツーテンポ、ダッシュを遅らせていた。俺の射撃は奴のダッシュで回避され、奴の機体の拳が着地で硬直する俺の南極三号に炸裂した。一撃で半分持って行かれる。俺の機体の体力は残り三割、対して奴の機体は残り四割。いいのが当ればお互い即死という状況だ。この判断ミスは痛い。

 機体を立て直した俺はバックダッシュで間合いを離そうとするが、奴もそれを読んでいた。先ほどのようにジャンプはせずにダッシュで追いすがってくる。こちらの残り体力を考えれば、奴は一番ダメージの低いダッシュ中の格闘攻撃でも十分こちらを倒しきれるからだ。さらに、鈍重なこちらと比べれば向こうの方が遥かにダッシュのスピードは速い。奴の機体が格闘モーションに入る。万事窮すか。
 俺は一縷の望みをかけて、トリガーを引く。際どいところだが、もし、俺の主砲が奴の格闘よりも早く当ればこちらの勝ちだ。ここまで来れば運を天に任せるより他にない。まさに任天堂。

 <DOUBLE KO!>


 ディスプレイに表示された文字を見て俺は思わず溜息をついた。俺の奴の攻撃が当ったのは同時。同じ瞬間にお互い体力が無くなったのでダブルノックアウトという事らしい。初めて見たぞこんなの。

 ゲームオーバーの表示を受けて俺は立ち上がる。ギャラリーは得体の知れない静けさに包まれていた。まあそうだろう。まさか、相討ちなんていう結果になるとは誰も思っていなかっただろうからな。

「ま、ゲームじゃこんなもんか。片岡ぁ!」
 沢渡が沈黙を破る。
「結局こんな生温いやり方じゃしょうがないって事だよな、沢渡ぃ!」
 相手側の茶髪にピアスの男がそれを受けて声を上げる。小柄だが、おそらくコイツが『エグゾースト』のリーダー・片岡卓だろう。
「やっぱり決着はきっちり付けないといけないって事だよな。なあお前等!!」
 沢渡の声にウォォォと反応する『ナイトファイア』の面々。そしてどこにもっていたのか皆、警棒やバットといった武器を取り出す。おいおいゲーマー集団はどうしたんだ坊や達。あれか、集団心理って奴か?フルボッコ、みんなでやれば怖くないみたいな。我ながら気の利いてない文句だ。
「上等じゃねえか! やるぞお前等!」
 片岡の声を受けて『エグゾースト』側も武器を取り出した。一触即発ムード。マズい。

 こんな繁華街のデカイゲームセンターで乱闘騒ぎになったらすぐに警察が来るだろう。そうすればコイツ等は終りだ。ていうかコイツ等と一緒にいる俺と幻司郎も終りだ。俺は大学を辞めさせられれば高校を出ていないので最終学歴は中卒。無理無理そんなの無理だって!

「おやおや、僕らの作戦は失敗だったのかな。なあ九十九」
 ムードを壊したのは幻司郎だった。作戦?何ですかそれは?
「ああん?」
「もうこうなった以上、とぼけてもしょうだないだろう。僕らはグルだったのさ」

 は?

「ある人物に頼まれてねえ。僕と九十九はお互いチームに潜入して、上手く対立をまとめるって話だったけど、君たちがこうも血の気が早いとは困ったもんだ。なあ九十九?」

 さっきからしつこいですよ。僕、この人と無関係です。赤の他人です。

「エリサさん、あんた俺達を騙してたのか?」
 片岡が声を荒げる。幻司郎はそんな名前を名乗っていたのか。まあドイツの典型的な女性の名前だけど。
「まあね。ついでに言うと、エリサっていうのも嘘なんだ」
「どういう意味だよそれ……」
「こういう事さ」
 すると、エリサ(嘘)はティッシュで顔の軽い化粧を落とし、ウィッグを取り払った。中から出てきたのは椿幻司郎君、にじゅういっさい。まあカッコイイ!くたばれ。

「な、な、な、テメエ! 男だったのか!」
「まあね。童貞坊や達を騙すのはわけなかったよ」
 ていうか、軽い化粧とウィッグだけで完璧に女装できるお前が異常なんだけどな。もう成人男性なのに。
 それは置いておくとしても、幻司郎の発言はやり過ぎなくらいに挑発的だ。だがその意図はわかってきた。奴の目配せに俺も応える。おおよそは最初に俺が計画した事通りだ。俺まで泣いた赤鬼ポジションになるとは思わなかったけどな。ジャケットの内ポケットに手を入れる。大丈夫、『カレンちゃん』は俺とともにある。

「結局お前等なんなんだよ!!」
 片岡がヤケクソ気味に声をあげた。ごもっともだ。
 幻司郎はさらに嘲笑を浮かべると煙草に火をつけながら名乗りを上げた。

「光の使者〜。キュアホワイト〜」

 煙を吐き出し、灰を携帯灰皿に落としながら、気怠げに名乗る光の使者(二十一)。

「光の使者、キュアブラック!」

 合わせて俺も名乗る。俺の方はといえば、声色もアクセントも完璧である。奴とは違うんですよ。

「「ふたりはプリ……」」

「いい加減にしろよテメエら!さすがにこんな事してタダで済むと思ってねーよな!」
 沢渡が恫喝的な口調に変貌する。と、同時に奴の手の温度が上がるのを俺の能力で確認する。異能を使用する気だろう。全く、名乗りを遮りしかもその最中に攻撃しようなんざルール違反もいいところだ。

「そりゃあ、まあな。じゃあ、こういうのはどうだ? せっかくだからタイマンでケリをつけないか? お前等リーダー二人と俺達でな。何、心配する事はない。俺もエリサちゃんも戦闘系の異能は持っていないから」
 そこで俺は提案する。この場では悪くない落としどころのはずだ。そして、奴等の問題をどうにかするにはこれしか無いのではないかとも思う。

「そんな提案飲むと思ってるのか?」
「おや、自信が無いのかな。戦闘力を持つ異能者が、僕たち補助的な能力しか無い異能者に、一対一じゃ勝つ自信が無いとでも?」
「なんだとテメエ!」
 沢渡が激昂する。幻司郎は本当に挑発が上手い。相手のコンプレックスを的確に見抜き、そして刺激する。俺のフォローに回ってくれたとはいえ不愉快。
 だが、ここはさらに乗っかって行くより他に無い。

「坊や達がチキンだっていうなら、しょうがないな。助けを呼ばせてもらおうか」
「助けだと!?」
「そうさ。いくら双葉大学で最もプリティにしてキュアッキュアなコンビと名高い俺達でもさすがにこの人数とやりたくないしな。助けを呼ばせてもらおうか」
「呼べるなら呼んでみろよ! 来るまでにボコボコにしてやるよ!」
 沢渡がさらに恫喝的な声を上げる。
「じゃあ呼ばせてもらおうかな。風紀委員長の逢洲等華だ。お前等も知ってるだろ?」
「な……」
「……」
 沢渡も片岡も言葉に詰まり、そして僅かに顔を赤くして俯いた。
 赤くした?なんでこの場で顔を赤らめる?そういえば、二人とも逢洲とは知り合いのはず……。

 ほほう!そういうことか。

 風紀委員長という虎の威をちょいと借りてやろうと思って名前を出しただけのつもりだったが、この反応は予想外だった。結構大きなヒントを得た気がするぞ。
「で、どうする。逢洲ちゃんが来るまでに俺達をボコボコにするかい? この問題は基本的に風紀委員は不介入らしいけど、ここで俺達がボコボコになっちゃそうもいかないだろうな。店にも迷惑がかかるし」
「だから、タイマンでケリつけようってか?」
「ああ、正式な一対一の勝負なら誰も文句の付けようもないだろうさ」
 こうなればこっちのものだ。現状、騙した俺達二人がどう考えても悪いし、奴等がここで俺達の提案に乗ってやる義理なんぞ無いのだが、沢渡も片岡もこっちのペースに飲まれつつある。
 汚いと言いたければ言え。だがこれが大人の絡め手というものなのだよ!

「チッ! しょうがねーな。アンタは初めから変な奴だとは思ってたけどな」
 沢渡は俺達の提案を飲んだ。奴の手の温度が下がったところを見ると、本気らしい。さあ、あとは片岡だが……。
「いいよ! いいけどよ、さすがにこのままハイそうですかなんていかねーよ! 今この場でそこのカマ野郎を一発殴らせろ!」

 カマ野郎は差別用語だから言っちゃいけないよ!なんて事を言ってもしょうがない。どうやら幻司郎はそこまで片岡を怒らせていたようである。俺と幻司郎の人徳の差という奴だな。いやまいった。

「ロクな異能も無いくせによくも俺をコケにしたな、この低能が!」

 その発言は幻司郎には地雷だと思った次の瞬間には片岡は駆け出していた。

 速い!
 その体躯からは想像できない速さだ。間違いなく片岡は異能を使用している。資料にあった奴の異能はチーム名と同じ『エグゾースト』。魂源力と引き換えに身体能力を強化するという異能だ。確かに戦闘系の異能。だが………。

 次の瞬間、床に叩き付けられていたのは片岡の方だった。前にも言ったと思うが、椿幻司郎は実家が合気道の道場である。当然物心つくかつかないかの頃から徹底的に合気道を叩き込まれた奴の腕前は達人級だ。まあ、合気道なんて武道は非人型のラルヴァには殆どなんの役にも立たないのだが。
 奴は向かってくる片岡を半身で躱して、足をかけただけだ。勢いがあるぶんだけ、バランスを崩すと悲惨である。片岡は盛大にこけた。

 身体強化の異能を持つ片岡がこうもあっさりやられたのには理由がある。
 一つ目はそもそも片岡の異能がそこまでのものではないという事。あからさまに異能にあぐらをかいて鍛錬を怠っている奴の筋力が強化されたところでたかが知れている。強化の割合も大したものではない。普通の人間に毛が生えた程度。
 二つ目は奴の怒りに任せた直線的な動き。少しは工夫すればいいものを奴は一直線に突っ込んだ。これでは合気の達人である幻司郎のいいカモだ。

 これで、今日の所は一件落着。………とはいかなかった。
 倒れた片岡の上に幻司郎が馬乗りになる。マウントポジションというやつだ。そして幻司郎の顔はサディスティックに歪んでいた。

「何を調子こいてんだよこの豚野郎。テメーみたいなのが異能を持ったくらいでつけあがるから異能犯罪が起きるんじゃないか。この異能豚!」

 この幻司郎の発言でようやく俺は今日の夢の意味を理解した。『カレンちゃん』はバトルになるから自分を持って行けと言いたかったのではなく、この金髪美形野郎が暴走するから自分を持って行けと夢を見せたのだ。ちなみに夢は単なる偶然とかスタンガンが夢を見せるかよなんていう可能性を俺は考えない。

 内ポケットから『カレンちゃん』を取り出しスイッチオン!
 そして拳を振り上げる幻司郎に向かって俺は駆け出す。奴が拳を振り下ろした時点でもう警察沙汰は免れない。ていうかここまで店の人が静観しているのが不思議なくらいだ。まあ面倒に巻き込まれたくないんだろうが。

 案の定というべきか、幻司郎は怒りで周りが全く見えていない。奴の首筋はがら空き。俺は奴に最接近すると迷う事無く『カレンちゃん』を突き立てた。
 痙攣し、その場に倒れ込む幻司郎。四年前と同じ光景に俺は溜息をつく。


「今日の所はこれでお開きだ! タイマンは二日後の夜! 場所は追って連絡するからちょっと待ってろ! いいな沢渡? 片岡も」
 気を取り直すと俺は、片岡から幻司郎を引きはがして周囲に一方的に告げた。こういう時は先手をとって声を出すのがベターだ。混乱の原因はこっちにあるのだが。
「ああ、いいよ。なんだか今日はやる気も削がれたし。帰るぞお前等」
 沢渡の号令に従って『ナイトファイア』の連中はゲーセンを出て行く。その途中でツヨシは俺に中指を立てて「ケッ」と言っていた。騙したのは悪いと思うので、しょうがない。
 片岡を初めとする『エグゾースト』の連中も渋々引き上げて行った。片岡は「今度はかならずぶっ飛ばしてやるからなこのカマ野郎!」と幻司郎に怒りを見せていたが、当の金髪君はまだおねんねだ。


 やれやれだぜ、本当に。

     **


 時刻は午後十時過ぎ、俺は幻司郎をゲームセンター内のベンチに寝かせると、店員に事情を適当に誤魔化して説明し、さらに逢洲等華に連絡して二日後に訓練場の一つを借りるように頼んだ。
 逢洲は最初、俺達と両リーダーがタイマンするという事に驚いていたが、割とあっさりと了承し、訓練場の借用を約束してくれた。彼女としても何か思う所があったのかもしれない。ある意味では逢洲も当事者であると言えそうだからな。

「やあ、九十九。みっともないとこを見せたね」
 幻司郎が目を覚ます。珍しくばつの悪そうな顔をしていた。無理も無い。
「随分久しぶりだってけどな。慣れっこだよ」
「そうか。すまないね。我ながら情けないよ。未だに前程じゃないけど歯止めが利かなくなる」
 奴が何故こうなったかを知っているのであまり強くも出られない。それに、これでも反省しているだけ昔よりはマシだ。

「気にすんなよ、相棒。今回の件手伝うんだよな? 今お前の異能が必要なんだがな」
「ああ、手伝うよ。頼まれたからね」
「頼まれた。逢洲にか?」
「いや、まさか。別の人間だよ」
「チッ。言う気はないって感じだな。まあいい。とにかく異能だ。お前のリーディングを試して欲しいいんだけどな」
「了解。君の指示に従うよ。どうする? 何を『チャージ』する?」
 幻司郎は左手の手袋を外しながら言う。

 こいつの異能は弾丸記憶《メモリ・トリッガー》という。簡単に言えば記憶の読み書きだ。左手で触れる事で人から直接記憶を読む、あるいはその場の残留思念を読み取り、右手で人に触れる事でその記憶を他者に伝達する事が出来る。
 何でも読み取れる便利な能力なのだが、人間の記憶をまともに読み取るとその膨大な情報で奴の脳がパンクするとの事で、奴は能力に制限をつけた。
 それは、読み取る人間のある『感情』だけ限定して読み取るというものである。例えば怒りならその人間の強い怒りに起因した感情だけといった具合に。奴はそれを弾丸にたとえて装填《チャージ》という。自らの手を銃、弾丸を読み取る対象の人間、そして弾頭をその感情に例えているのだ。相棒ながら実に厨二臭いとは思うが例えとしてはわかりやすい。

「残留思念はまあ、このへん一帯なら拾えるか?」
「多分ね。あとはどの感情かっていう問題かな。わかっているだろうけど、同じ場所から複数の感情を装填《チャージ》することは出来ないからね」
「わかってる、情報は少ないだろうが十分な筈だ」
「オーケー。じゃあ聞こう。弾丸は?」
「沢渡翔」
「弾頭は?」
「嫉妬」
 そう嫉妬、だ。これで奴等の対立の原因について大きなヒントを得られる筈だ。
 俺の言葉に頷いた幻司郎は左手をちょうど沢渡が立っていた場所に置いた。
 次の瞬間、奴の左手が発光し、その全身が一瞬だけ痙攣する。チャージ完了ってとこだな。
「どうだ、幻司郎?」
「まあ、君の考えている通りじゃないかな。見てみるかい」
「ああ、頼む」
「じゃあ行くよ」
 右手の人差し指と親指を立てて奴は銃の形を作る。そして人差し指を俺のこめかみに当てた。
「弾丸の名前は沢渡翔、弾頭は嫉妬。トリガーを引くよ」


 目を閉じると映像、いやそこまでいかないいくつかの画像が浮かんできた。
 まだ幼い片岡の笑い顔。
 一転して成長した片岡の怒りの表情。

 そして

 逢洲等華の笑った顔。

 俺は目を開ける。得た情報はそれだけだった。まあ、この場では激しく嫉妬の感情が燃え上がったわけでもないだろうからこんなものだろう。俺の推理はおそらく当っている。あとは裏付けだけだ。

「どうだい? 実質静止画三枚程度の情報だけど。やはり、この場での嫉妬の感情は正直薄いね」
「まあな。でもわかってただろ、お前も? この場で、奴等は薄くても嫉妬の感情が沸き上がった。そのきっかけは何か?」
「逢洲等華だ。そのフレーズを出した時に二人とも表情が変わったね。顔を赤くして俯いた」
 幻司郎の言う通り。
 対立の原因としてはえらく単純だ。思春期真っ盛りって奴だな。俺の灰色の脳細胞を使用するまでもない。
「後は裏付けだな」
「そうだね。資料によれば、片岡君も沢渡君も一つ年上の姉を通じて逢洲等華と知り合ったとある」
「まあ裏付けを取るならそこだろうな。姉貴って生き物は何故か俺等の生態を的確に把握してやがるからな」
「僕には姉はいないからなんとも言えないけどね。二人の姉をそれぞれ当るべきだろうね」
「ただなあ、高校生だろ? 正直高校の校舎に行くのはなあ」
 大学生があの空間に行くのは正直気が引ける。
「なんだ、そんな事を気にしているのかい? だったら外注すればいい」
「外注?」
「同じ高校生に聞き込みをしてもらうのさ。僕らには知り合いがいるだろう?」
「逢洲か? この件じゃ絶対に無理だぞ」
「違うよ、他にいるだろう? 最近僕らの研究室に出入りしている……」
「天地《あまち》か!? あの類人猿に聞き込みなんて高度な真似は絶対に無理だ。相手が女ならなおさらな」
「違うってば。それに主人公はこういうのにはおいそれと出ないものだろ」
 意味がわからない事を言うな。しかし、天地《あまち》奏《かなで》でも逢洲でもないとすると。
「ああ、音羽《おとわ》の嬢ちゃんか」
「そうそう、それそれ。彼女なら丁度いいと思うけどね」
「確かに。そつなくやってくれるか」
 明日になったら天地奏の世話係という女、音羽《おとわ》繋《つなぐ》に電話して頼んでみるか。片岡と沢渡には悪いが色恋沙汰の話になれば、女は必ず食いつくだろうし、姉という生き物は弟のプライバシーについては口が無茶苦茶軽いと相場が決まっているからな。

「で、どうするんだい?」
「何がだよ」
「本題さ。例え対立の原因が分かったところで、この問題の根本的な解決にはならない。違うかな?」
「そうだな。その通りだ」
 幻司郎の言う通り、今回の対立はともかくとして、奴等がグレてこんな所で燻っているのはまた別の原因がある。その原因はとうにわかっているのだが、問題はそれをどう解決するかという事。

「とりあえずは二日後だ。二日後、俺達は必ず勝たなきゃいけない。戦闘系の異能を持たない俺達が、一対一で勝つって事が重要なんだ」
「彼らの異能コンプレックスをどうにかするためにかい?」
「ああ。片岡もやっぱりそうなのか?」
「『劣等種が異能者に立ち向かう、そんなストーリーがいいんだよ』片岡君はそう言って『ベルゼブブ・アーマーズ』をやっていたね」
「沢渡もほぼ同じ事を言ってた。やはり奴等がグレた原因はそこか」
「戦闘系なのに自分達の異能ではこの学園の中心で活躍するどころか、まともに出撃の機会もない。…………弱いから」
「ああ、ヒーローじみたのがわんさかいるこの学園で自分もそういう存在になる事が叶わないと知って奴等は道を見失った」
「じゃあ、道を見失った二人に君は何をするつもりなのかな? 僕らが勝てば逆効果にも成りうるよ」
「道は一つじゃないが、かといって二つしかないわけでもないって事を教えてやるのさ。俺達がな」
「難しい事を言うね。でも僕にも異存はないさ。わかったよ、相棒」

 ヒーローのように活躍したいと願ったところで、必ずしもそれを可能にする異能に目覚めるとは限らない。惚れた女を守るどころか惚れた女に守られるような事だってままある。
 でも、力で誰かを守れないからって、そいつが駄目な存在とはならない。白く生きられなければ、黒く生きるしかない、というわけではないのだ。灰色に生きる道だってある。それが白よりか黒よりかという問題だ。

 異能が人の価値を決めるわけではない。異能が人の道を縛るわけではない。

 子供に毛の生えたような年齢でしかないが、俺達は『大人』として、奴等にそれを示してやらなければいけない。それは強い異能を持たない、この学園でヒーローのようには活躍出来ない、白よりの灰色に生きる俺達だからこそ示せる事だろう。





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