【年末年始と、過去と未来と】


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【年末年始と、過去と未来と】
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「あなたは私より二つ上だそうですけど、この場ではあなたを年上だとは思いません!未経験で申し訳ないですが厳しくいきますんで覚悟しておいてください!」
 開口一番そんな言葉を貰い、そしてそれから今に至るまで文字通りの扱いを受け続けた。
 私、何でこんなとこにいるんだろ?
 そうぼやいてみても気が楽になるわけでもなく。
 私、結城宮子(ゆうき みやこ)は窓から街を見下ろしながらアンニュイな気分を供にぼんやりと休憩時間を過ごしていた。
「宮子姉ちゃん、式名(しきな)のおじさんが呼んでるよ」
 と扉越しに妙に抑えた声が響いてくる。私の従弟、結城光太(ゆうき こうた)だ。いつもはもっと騒々しい子なのだが、場所が場所だけにそういう気にはなれないらしい。
「うん、すぐ行くわ」
 姉的立場として光太の行動に良く悩まされている私としてはありがたいことである反面、同時にどこか物足りなさも感じてしまう。そんな自分の身勝手さを軽く笑いつつ、私は大きな背伸びとともに腰を上げた。
「今回は無理なお願いでしかも急な話なのに本当にありがとうございますね」
 私たちを出迎えた式名さんは柔和な笑みで私たちを出迎えてくれた。
「いえいえ、私もちゃんとバイト代貰っているんですからそんな気にしないでください」
 二回りほども年上の人にそう下手に出られてしまうとどうにも反応に困ってしまう。第一、私がこの臨時バイトを引き受けたのもずっと家族と一緒にいてもつまらないということと、ナオに話すいい土産話になるんじゃないかという理由――つまりは人助けとほぼ真反対な動機なのである。
「あ、おじさん、これって!」
 光太がいつもの姿を思い起こさせる陽気な声を上げた。そちらに目をやると、机の上に丼が三つ。要するにこれは…。
「そうです。もうすぐ年越しですからね、働き通しで疲れたでしょうし、年越しそばでもと思いまして」
「ありがとう、おじさん!」
「こら、光太!」
 仕事の対価として給料があるわけであって、それ以上のものを貰うのはフェアではない。ましてや光太は別に仕事をしているわけでもないのだ。心遣いは嬉しいのだが、だからといって「はい、いただきます」とは言いがたいところである。
「いいんですよ、私が勝手にしたことですし。それに、他の子たちも休憩に入るのは遅いですし私も一人では食べ切れません。あなたたちが食べてくれないと食材が無駄になってしまいますよ?」
 男やもめの生活が長かったせいかすっかり油の抜けきった感のある式名さんの姿に、私は確かにそれは無理だろうな、と思わず納得してしまっていた。ともあれ、そうまで言われてしまうとこちらも押し通し続けるのも難しい。どうにも、私は弱い人間だ。
「そういうことでしたらご好意に甘えさせてもらいます。…光太」
「あ、はい。おじさん、おそばありがとうございます」
 三人でテーブルを囲むと、丁度テレビから除夜の鐘の音が流れてくる頃合だった。
「いやー、いいですよね。この鐘の音を聞かないと大晦日って気がしませんよ」
 いやそれでいいんですかあなたは、とおもわず突っ込みそうになったがぐっとおさえる。同時にあることに思い至った私はそれをいいことに席を立った。
「すみません、エプロンを貸してもらえませんか?」
「…ああ、そうでしたね」
 一瞬きょとんとしていた式名さんが得心がいったように頷く。「それでは取ってきますので…」と立ち上がろうとするのを押し止め、私は足早に台所に向かった。
 緑のチェック柄のエプロンは式名さんに実にしっくり来るような気がする。そう思いながら戻ってみると光太がそばをすすりながらまるでその暖かさに心の箍も緩んでしまったかのような状態になっていた。
「だからまずいってさおじさん、神社の神主がお寺の鐘に聞き入ってちゃ」
「ははは、神様というのはそのくらいで目くじらを立てたりしませんよ」
 まったく…。かすかな苛立ちを押し殺し、私は席に戻る。
「…正直似合わない…」
 光太が気の毒そうな目でこっちを見ていた。あくまでそばの汁はね防止のためのエプロンだ。巫女装束にあうようなものじゃないことぐらい分かってるわよ。
 じろりと睨みつけると、光太は首を引っ込めるようにしてそばをすするのに集中しだした。
 一体この子は何をしにやってきたのやら。


     ※     ※     ※     ※


 オレが転校した双葉学園での生活は結構刺激的で楽しいものだったけど、たった一つだけ、一番大事なことがどうしようもなく期待外れだった。
 せっかく宮子姉ちゃんと同じ学校に来れてずっと一緒にいられるんだーって思ってたのに、宮子姉ちゃんは学業にバイト、そして直さんと組んでのラルヴァ退治ととても忙しくてオレと一緒にいてくれる時間なんてほとんどなかった。
 頭のいい人が集まるというあの異能研の講義を受けているというというのは従弟として鼻高々な気分なんだけど、それよりももっと一緒にいてほしい。
 だから、二人で一緒に帰省したこの冬休み、オレはとても幸せな気分だった。
「叔父さん、叔母さん、明けましておめでとうございます」
 青色の上に小さな扇と花の柄がちりばめられた着物(後で母ちゃんに聞いたら『袷』というらしい)姿の宮子姉ちゃんは一段ときれいだった。
 紅白の組み合わせがまぶしい巫女装束姿を拝むことができた大晦日から一晩、起きてすぐに着物姿の宮子姉ちゃんを見ることができるなんて。ああ、こんな日がずっと続けばいいのに。
「明けましておめでとう、宮子ちゃん。バイトは辛くない?」
「ええ。まあ大変なことは大変ですけど、まあなんとか」
「安心したわ。急な事故で式名さん大層困ってたからしっかり者の宮子ちゃんならって思ってお願いしたけど、今更だけど少し心配だったのよ」
 なんでも上良(かみら)神社のバイト巫女の一人が何日か前に事故に遭って入院したとかで、困り果てた神主の式名さんを見かねた母ちゃんが(式名さんは高校の時の先輩なんだそうだ)伯父さん(つまりは宮子姉ちゃんのお父さんだ)を説得して話を持ちかけたのが宮子姉ちゃんが巫女さんのバイトをすることになったきっかけだった。いつもは口うるさいだけだけど、今回ばかりは母ちゃんグッジョブ。
「式名さんはとても良くしてくれますし心配は要りませんよ」
 にこやかに答える宮子姉ちゃんを見てオレは頭を抱えそうになった。あちゃー、絶対根に持ってるよ。
 式名さん家の一人娘、真帆(まほ)さん。オレとさほど身長が変わらない小柄な体にしては不釣合いな大きさのおっぱいと、勝気そうなくりっとした目が魅力的なお姉さんだ。あ、でもあの真面目でいつも気を張ったような感じはちょっと嫌かな。
 まあそれは置いておいて、元々そんな性格なのに更に気が立っていた真帆さんが宮子姉ちゃんと顔を合わせるや否や「厳しくいくんで覚悟しろ」といったのだからさあ大変。オレも顔が真っ青になった。
 それでもぐっとこらえた宮子姉ちゃんは偉いと思う。やっぱり大人だなあ。
 やがて話も終わり家を後にした宮子姉ちゃんを追ってオレも家を出た。どうせ着替えのために一旦家に戻るはずだからついでに伯父さんにあいさつをしておこう。そんで着替え終わった宮子姉ちゃんと一緒に神社まで行く、うん、完璧だ。
「また来るの?今が一番忙しいときなのよ」
 呆れ顔で言う宮子姉ちゃん。こっちはタダで手伝ってるんだ、文句を言われる筋合いはないと思う。
 それに、オレが神社に行くのは何も宮子姉ちゃんや他のお姉さんたちの巫女姿を眺めたいわけじゃない。
 ……ごめん、ないわけじゃない。
 まあそれはさておき、他にもっと大きな理由があるんだ。オレの異能〈ストレイト・エピファニー〉は(かなり制限がきついけど)知りたい情報を正確に教えてくれる。この力が確かに『ある』と告げてくれたんだ。
 この力は答えだけが突然与えられてそれに対する問いは自分で推測しなきゃいけないんだけど、さすがに今のオレの関心ごとと無関係な問いなわけじゃない。そしてオレの今の関心ごとといえばバイトのお姉さんの事故の原因。
 なんでもこのお姉さんはこの神社の中で幽霊に脅かされて事故に遭ったって話。
 つまり…幽霊はいるんだ。見間違いなんかじゃなくて確実に。


     ※     ※     ※     ※


 上良神社は町の東の外れの小さな丘の上にある――というより丘全体が神社の敷地なんだそうだ。
 古びた鳥居をくぐり出店の喚声の中石畳の参道を歩くと、すぐに道は上り坂になる。階段を交えつつ丘の頂上の拝殿まで真っ直ぐ登っていく道は「偲びの道」と呼ばれているらしい。昔ここを通る人に過去を振り返ってほしいとの事で作られたんだそうだ。お寺での除夜の鐘的に過ぎ行く年のことを思い起こし煩悩なり何なりを払ってくれという意味なんだろうか?
 夏になれば木々で形作られるトンネルの緑が目を引くであろうそこでは、現在神社の空気にそぐわない原色の物体が否応なく通る人の目を引く存在となっている。
 赤色の円錐状のもの、カラーコーンと黄と黒で構成されるロープ。工事現場などで立ち入り禁止のラインを引くのに欠かせないセットだ。
 ここには最近幽霊が出るんだという。目撃談が連続したことと、私がこのバイトをするきっかけとなった事故のせいで、出現が集中しているという夜間はこの道は立ち入り禁止となっている。まだ日中である現在は通行可能だけど、そんな曰く付きの所を避けるのは当然の心理というべきか、この道を通る人の流れは例年より少ない…らしい。
 ナオと共に色んなラルヴァと渡り合ってきた私にとって(夜一人でというならちょっとひるむけど)、気味悪いというだけなら別になんと言うこともないのだけど、光太が必死になってせがむのでこの道は通らないことにしている。まったく、まだ学園に慣れてないんだから…と思うのは逆に私のほうが毒されてるんだろうな。
 右に折れて駐車場まで行くとそこに拝殿まで上れる間道がある。あるのだが、迷いなくというわけにはいかない。
 これまで私の周りをちょろちょろと走り回っていた光太が勝手知ったる風に前に出て私を先導する。やたらと嬉しそうな光太の姿に心のどこかがざわめく。
 どうにも、不愉快なものを感じてしまう。私の家族は私が双葉学園に入った直後に父方の実家のあるこの町に引っ越してきた。だから、ここが実家と言われてもどうにも実感が持てないのだ。
 疎外感、というべきだろうか。それは容易く一人ぼっちだった過去を、仲間外れにされていたあの時を思い起こさせる。
「どうしたの…?」
 気付くと、光太が心配げな顔で私を見上げていた。表情に出てたか…。
「ううん、大したことないわ」
 もう終わったことじゃない。そう自分に言い聞かせ早足で光太を追い越す。ここまでくれば道案内も必要ない。小走りに間道を抜け社務所の方に向かうと、真帆ちゃんが腰に手を当て頬を膨らませてこちらを待ち構えていた。
「もう、今のここは戦場なんですよ!時間に間に合えばいいっていう気持ちじゃ困ります!」
「真帆さん、そんな顔してたらせっかく綺麗なのに台無しだよ。ね、これからお客さんの前に立つんだから…」
 半ば引きつった顔ながら言葉を返したのは光太のほうだった。そのせいかどうかは分からないけど、幸い説教はそれだけで済んだ。
「『今のここは戦場なんですよ』、かぁ」
 更衣室で着替えながら私はぼんやりと思う。あなたが戦場の何を知ってるのって突っ込んでやりたかったなあ、と。
 こないだクラスメートから「結城さんって意外と第一印象とキャラ違うよね」と言われたことを思い出した。確かに私もそれは重々承知している。別に猫をかぶっているとかそういうつもりはないんだけど。というか私はこれと決めた相手にはとことん忠実な犬の方が好きだし。
「さて、今日もお仕事頑張りますか」
 気合の声とともに私は仕事場である社務所に向かった。それにしても、正面の参道があれでは参拝客の出足にも影響するだろう。
 ふむ。お世話になった恩返しがわりに少し調べてみようかな?


     ※     ※     ※     ※


 さすがにじーっと見続けられるわけではないのが残念だけど、巫女装束のお姉さんたちを背中側から見ることができるというのも新鮮でいいと思う。これだけで新年早々力仕事をする甲斐もあるってもんだ。
「…じゃなくて!」
 緩んでた顔を引き締める。そう、宮子姉ちゃんの性格だとその内幽霊に興味を向けるような気がする。そして、そうなったらオレのいうことなんて聞きゃしない。
 つまり、宮子姉ちゃんの安全を守るためには幽霊事件に興味を向ける前にオレが解決しなきゃいけないんだ。
 といっても真夜中一人で幽霊に立ち向かうのは怖い。あーあ、オレも直さんみたいに戦闘に使える異能だったら良かったのに。
 そういうわけで、オレは今この「偲びの道」を見下ろしている。昼間だったら幽霊も出てこないだろう。そして何か証拠を見つけたら学園に連絡して調査隊を出してもらう。いくらなんでもそうそううまくいくとは思わないけど、オレにはこれしか思いつかなかったんだからしょうがない。
 実際に事故が起きたところなど通りたくないのか、昼間なのにこの道には人影がなかった。最初から予想外じゃないか。オレは不安に唇をかみしめながらそろそろと道を降りていった。
 だけど、半ばを過ぎても何も起こらない。
「そりゃあまあ、昼間は幽霊も寝てるよね、うん」
 自分に言い聞かせるための言葉がいつの間にか外に漏れ出していた。何もないというのもそれはそれで困るんだけど、正直それよりも今は無事に帰りたかったんだ。
 木々を通して鳥居が見えるところまで降りてきた。ほっと息をついたのもつかの間、少し先に何か染みのようなものが見えた。
「?」
 目のゴミかな?と思って目をこすってみたんだけどそれは消えない。いや、むしろゆっくりと広がって、薄い光の中でぼんやりとした子供くらいの人型になった。
「…ひっ!」
 足がガクガクと震えるのがはっきりと分かった。入院したお姉さんは逃げようとして足を滑らせて転落したという話を聞いてなかったらオレも一目散に逃げ出してただろう。
 子供の幽霊はまるで海の中のコンブのようにゆらゆらしながらゆっくりと近づいてくる。オレがばっと横によけると、その脇をゆらゆらと通り過ぎていく。
 通り過ぎていく幽霊にほっと息をついた瞬間。
 幽霊がくるりとこちらを振り向いた。
「うわぁぁぁぁぁぁ!!」
 転ばないように最低限の注意だけ払い、後は全身全霊で駆け下りる。
「どうしたの!?」
 走り続けるオレを柔らかい感触が弾き飛ばした。同時に映る赤と白。真帆さんだ。
 真帆さんを連れて戻ったけど幽霊はもういなくて、そしてオレは真帆さんにこっぴどく叱られた。
「まったく、あんたも悪いけどあの子も言いすぎよ」
 宮子姉ちゃんもオレをこっぴどく叱り、でもその後そう言って慰めてくれた。
「仕方ないよ、この事件のせいで来るお客さんも減ってるそうだし」
 それに、事故にあったお姉さんは真帆さんの幼馴染でとても仲のいい友達だったんだって。そう言うと自分と直さんのことを思い出したのか宮子姉ちゃんは難しい顔で黙りこんでしまった。
「そう、それいうことなら私も双葉学園の生徒としてこの事件を解決しないとね」
 やがて顔を上げた宮子姉ちゃんはある意味想像通りの言葉を口に出した。
「ダメだよ、直さんもいないのに危ないよ」
「確かにナオがいないのは辛いわ。でもね、双葉学園の異能者としてここは引くのが許されないところなのよ!」
 あわてて止めに入るが、宮子姉ちゃんはヒートアップするばかり。これじゃ最悪だ!
 もし宮子姉ちゃんに何かあったら…。それを考えるだけで目から涙がこぼれてきた。


     ※     ※     ※     ※


 まずい、調子に乗ってからかいすぎたわ。
 顔を歪めて半泣きの光太を見て、さすがの私もここで手を止めることに決めた。
「冗談よ、冗談。回復系の私がそんな無茶するわけないでしょ」
「…ほんと?」
 疑わしげな涙目を向ける光太。うん、ほんとごめん。
「本当、約束する。…それにね、この事件、大事じゃないはずなのよ」
「え?」
 光太はようやく涙を止めきょとんとした顔を向けた。そう、私だってちゃんとリスクを計算しての考えなのよ。
「この境内、外と少し空気が違うって分かる?」
 光太は少しの間目を泳がせて思案にふけり、「そんな気がする、何となくだけど…」と曖昧に頷いた。うーん、ノリが悪いなあ。
 元々そういう場所だったのか、それとも人の手を加えたことでそうなったのか。それは知る由もないんだけど、この神社は魂源力(アツィルト)が滞留しやすい環境になっている。本来なら神主である異能者が自然に放出する魂源力を溜めておく仕様なんだろう。
 ご存知の通り魂源力や魂源力を動力とする異能の力はラルヴァにとって最大の弱点といっていいものだ。だから、泥棒とガードマンのような…というのは乱暴すぎる例えな気もするけど、人間に敵意のあるラルヴァは好んでここに近寄ろうとはしないだろう。
「…そういうわけよ。神社とかが不浄のものは近寄れないと言われているのもこのせいかもしれないわね」
 まあ結界の異能ほどに強い力があるわけでもないので知能のあるラルヴァで何か目的があれば普通に入れたりはするのだが、そんなのが一所に留まって人を脅かすだけというせこい事はしないだろう、多分。
 と説明が終わると、光太は安堵したどころかキラキラと尊敬の眼差しでこちらを見上げていた。
「…とまあ、これ全部稲生先生の受け売りなんだけどね」
 というかここの特性に気づけたのも異能研の授業が脱線した時に先生が話してくれた話が頭の片隅に残っていたからなのだ。そんなもので褒められるのはフェアじゃないので、しっかりと訂正しておいた。…のだけど、ちゃんと分かってるのかなあ。ただでさえこの子ちょっと私のこと美化してる感じだし。
「でも、本当にいたんだよ。本当だって」
 見間違いだと言われると思ったのか勢い込んでまくしたてる光太を「わかってるわ」と制する。女の子にちょっかいかけまくりと困った悪ガキだけど、この子はそういう類の嘘をつく子じゃない。
「ダメね。これだけじゃ分からないわ」
 それじゃ真相は何か。しばし考えたが、どうにもまともな答えが出てこない。全体像を推し量るにはまだピースが足りないのだ。下手な考え休むに似たりというけど、本当に無駄な時間だったわ。
「宮子姉ちゃん、この幽霊の事件を解決するってのは嘘じゃないの?」
 光太が首を傾げる。何言ってるの、当たり前じゃない。そう答えて気付く。「当たり前」な理由を光太が知るはずもないのだと。何しろ言ってないんだから。
「?」
 首を傾げる光太だったけど、適当にごまかしておいた。
 ここの神様への恩返しのつもりなんてこっぱずかしくて言えやしないわ。


     ※     ※     ※     ※


 昨日はあんなことがあってそういう雰囲気じゃなくなっていたので、今日は宮子姉ちゃんのバイト前に初詣をすることにした。
 行列の先での本殿の中ではぴしっと正装で決めた式名のおじさんが参拝客にお祈りの儀式のようなものをしている。いつもはただの優しいおじさんにしか見えないけど、こうやって見るとまるで別人だ。ちょっとかっこいいと思う。
 そんなおじさんの姿を眺めていたり宮子姉ちゃんと話をしたりしているとすぐにオレたちの番が来た。なけなしの五百円玉を身を切る様な思いで投げて願うのはもちろん。
(もっと宮子姉ちゃんと仲良くなれますように)
 列から離れたオレに宮子姉ちゃんが駆け寄り声をかけてきた。
「あんたは何をお願いしたの?」
「宮子姉ちゃんの方から先に教えてよ」
「私は何も願ってないわよ」
 はぐらかして自分だけ聞き出したい気だ。ずるい。
 怒るオレに宮子姉ちゃんはまあまあと弁解を始めた。
「私はもう願いをかなえてもらったのよ。だからもういいの」
「別に一つしかかなえてもらっちゃダメってことないじゃん。それにじゃあさっきは何してたのさ、嘘つき」
 オレの厳しい指摘にも宮子姉ちゃんは動じる様子も見せない。
「何度も願いをかなえてもらったらね、何かあるたびに神様頼みになっちゃいそうだから本当にどうしようもない時まで自重してるの。さっきは『お願い叶えてくれてありがとうございます、私は頑張ってます』って報告してたのよ」
 ぐっ…反論できない。残念、オレの追及はこれで終わってしまった。
「と、ところでさ、あの幽霊の件についてはわかったの?」
 宮子姉ちゃんのお願いも分からないのにオレだけ話すのも嫌だったので、話題をそらしてみることにした。できれば宮子姉ちゃんには直さんもいないのに変なことに首を突っ込んでほしくなかったんだけど、こうなったらしょうがない。無事解決できるようにオレも頑張るしかない。
 …でも、頭を使うのは苦手なんだよなあ、オレ。
「さっぱりね」
 困ったように首を振る宮子姉ちゃん。ぶっちゃけた話、宮子姉ちゃんさえ無事なら事件なんか解決しなくてもいいんだけど、そうはいかないんだろうなあ。


     ※     ※     ※     ※


「どうぞ、ありがとうございます」
 おみくじ箱から出てきた棒を受け取ってそこに書かれた番号の棚にあるくじを渡すだけの簡単なお仕事です。そう言っても恥ずかしくないくらいには(もちろん言わないけど)今の一連の流れは迷いなくスムーズに動けていたと思う。
 上良神社でのバイトも今日で三日目。これでも色々バイトして鍛えている身、接客の仕事にはそこそこ自信がある。真帆ちゃんの小言も目に見えて減ってきて正直ちょっとしてやったりな気分だ。
(それにしても、いったいどういうことなんだろう)
 客の流れが途切れるちょっとした空白の時間。そんな時間を利用して考えるのは、もちろんこの神社の幽霊のこと。
 昨日光太に話したとおり、今回のことがラルヴァの起こしたことだという可能性は小さいと思う。もし超常現象――異能やラルヴァなどの表に隠された知識も含む理論や法則の外の存在――なら私ごときが手を出せようもない。考えても仕方ないだろう。
「交通安全のお守りですね、はい、こちらになります」
 営業スマイルでお客さんを見送り、思案を続ける。
(そうなると、何か異能が関係している…?)
 今回の事件で被害を受けている人、それは事故で入院してしまったバイトの人と風評被害で客足が減ったこの神社というところか。
(でも、いまいちなぁ)
 いちおう光太や叔母さんたちに後で確認しなきゃいけないけど、ここの客足が減ってそれで得する人がいるとも思えない。バイトの人の方にしても、疑われないための偽装工作のためだけに幽霊事件を続けるとも思えない。
 結局、考察は昨日と同じくここで止まってしまう。
「え?ロリ巨乳の巫女さん?さあ、東京の方に行けばそういうお店もあるんじゃないですか?」
 営業スマイルで不埒な客を追い返す。隣の同僚が「手馴れてるわね~」と目を丸くしている。大抵の変な物、奇妙な物には慣れっこになってますから。そんな答えは喉奥に留め、苦笑いだけを返す。正直、好き好んで慣れたかったかと聞かれれば答えはノーだ。
(あ、そうか。好んで…わざとやったことじゃないかもしれないんだ)
 新たな展開の可能性に気付いた私は客の流れを確認し思考を再開させた。異能の覚醒に気づいていない異能者が無意識に発動させた異能が何らかの影響を及ぼしてるかもしれない。
 現象が長いこと継続していることを考えると、この場合想定される異能者Xは上良神社の関係者の可能性が高い。
(神主の式名さん…はちがうだろうな)
 今のように異能者が大量に現れる前、異能の力を使っていたのは神職や僧門の人間が多かった(正確には逆で、力を持つ人間の受け皿がそういう世界だったということらしい…当然、これも稲生先生の受け売りだ)。その関係で代々神職だった式名さんもとっくに検査を受けているはずだ。そこで何もなかったのに今更異能が発現するとも考えにくいだろう。
 入院した人と真帆ちゃんとは仲が良かったと光太は言っていた。無意識のこととはいえ自分の手で友達を傷つけたとしたら、そんな場所に好んで近づきたがるだろうか?彼女も違う気がする。
「宮子姉ちゃん、持って来たよ」
 光太が商品を入れた段ボール箱を運んできた。いつもならばもっと五月蝿いのだろうけど、薄いながらも魂源力が漂う空気に圧されたのかどうにもこのところ比較的大人しい。
「!?」
 突如、稲妻のような閃きが私の身体を貫いた。一瞬立ちくらみを起こした私に同僚が慌てて駆け寄る。
「あ、はい、大丈夫です」
「そう言われてもここで倒れられても困るんですよ。私が代わるんでちょっと裏で休んでてください。ほら、光太くん?」
「うん!」
 丁度休憩が終わった真帆ちゃんが溜息交じりの声をかける。別に異常があったわけでもないのだけど、大丈夫と言っても証拠があるわけでもないので水掛け論になるだけだ。考えをまとめたかったのもあったので、ここは大人しく従っておくことにした。
 式名さん親娘が異能者じゃない=魂源力を供給できないなら、この場に漂う魂源力は誰が供給したものか?
「…大丈夫?」
「大丈夫だって。それより、あんた真帆ちゃんと仲いいみたいだけどよくここに来てたの?」
「しょっちゅうってほどじゃないけど。ここは遊び場にもってこいだから」
 やっぱりか。案の上の答えに思考が急速に収束していく。
 この場に漂う魂源力は誰が供給したものか?それは異能者に決まっている。そう、私と光太だ。たいした異能者じゃない私や去年まで未覚醒だった光太では魂源力の自然供給量などたかが知れているが、それでも回数をこなせば話は別だ。というより、他にも異能の素質を持った人間がそうとは知らないまま何人も参拝し続けていたのだろう。異能者の大量発生から二十年、これだけあれば空気の違いを感じるほどの密度になっていてもおかしくはない。
 そう、いまこの神社はかつて力ある神主がいた時と類似した状況を取り戻しているのだ。


     ※     ※     ※     ※


 その日の深夜。オレは宮子姉ちゃんと一緒に上良神社まで来ていた。本当ならまだ中学生のオレや女の子の宮子姉ちゃんがこんな深夜に外に出してもらえるわけないんだけど、宮子姉ちゃんが母ちゃんと話をつけてどうにかしたらしい。実は意外とウマが合うんだよなあの二人。
「行くわよ」
 「偲びの道」を見上げて告げる宮子姉ちゃんの顔は緊張しつつもどこか楽しそうだった。確かに宮子姉ちゃんが説明したとおりなら危ないことはないはずなんだけど、違うって可能性もあるし実際に幽霊が出てるのにどうしてそんなにためらいなく行けるんだろう。
「どうしたの…すぐ戻るからここで待ってる?」
 振り返った宮子姉ちゃんが気遣わしげな顔でそう言ってきた。不安だったけど、だからと言って宮子姉ちゃんを一人で行かせるなんて論外だ。オレは黙ったまま宮子姉ちゃんを追い抜いて前に立った。
 立ち入り禁止のロープを乗り越えたオレたちは街灯の光で照らされた円を飛び石伝いに渡るように道を登っていく。幽霊が出る場所だって思うと葉の落ちた木の枝もこちらを手招きする手に見えてしまう。
 気持ちを奮い立たせるためにぶんぶんと大きく首を振ると、目の前の闇の中にぼうっと染みのようなものが浮かび上がった。
「!」
 昨日と一緒だ。心臓の音が外まで漏れてきそうなほど高鳴る中、その染みは見る見る膨れ上がっていった。
「え…」
 それは昨日と同じくあっという間に人の形になる。しかも、今度は大きいのと小さいのをあわせて六体。オレたちを取り囲むようにしてゆらゆらとゆらめいている。
(だから言ったのに!)
 逃げ出したくてしかたがなかったけど、オレは手を大きく広げてその場に踏みとどまった。直さんみたく強いわけじゃないけど、それでもここにはオレしかいないんだ。
「宮子姉ちゃん!」
「…やっぱりね」
 その声は、オレの焦りを一瞬で冷ますような声だった。
「え??」
「ほら、見てごらん。大きいのと小さいの、二人セットが三つってなってるでしょ」
 からかうような、諭すような、そんなオレに何かを教えてくれるときのいつもの宮子姉ちゃんの声。オレはほとんど条件反射的にその声にしたがって幽霊たちを見やった。
「ほんとだ」
「じゃあもっと良く見てみて。そうすれば正体が分かるわ」
 水面に映る影のように揺らめく幽霊をまじまじと見てみる。闇の中で昼間よりもはっきり写る姿にどこか、引っかかるものがある。答えが喉元まで来ているのに出てこない、そんなもどかしい感じだ。そう、どこかで見たような…。
「あ!」
 答え合わせをするように宮子姉ちゃんの方に振り向く。にんまりとオレを見下ろす顔が、言葉よりも先に正解だと告げていた。
「そうよ、あの幽霊は私たち、正確に言うなら過去の私たちの映像…みたいなものよ」


     ※     ※     ※     ※


 「偲びの道」。過去を振り返り、思いを馳せるためにかつて作られたという道。それが心の持ちようの問題というだけでなく本当に、言葉通り過去を「見る」ことができるものだとしたら。
 その可能性に気付くと後は簡単だった。というか、この神社にそれっぽい伝承はこれしかないのだから、蓄積された魂源力を結界以外の用途に使うのならこれしかないだろう。
 ここからは完全に推測だけど、現代風に言うならば、これはこの場の魂源力を動力源兼ハードディスク兼映写板とし、この道を通った人の魂源力をキーとして過去にその人が通った時の姿を再生する3D映写機的なシステムという感じなんだろう。
 そしてもう一つ分かったことがある。このシステムのキーとなりうるのは異能者かその素質のある人間だけ。魂源力が関わるのだからまあ当然。つまり、今までの目撃者も、おそらく一番はっきりと人型を見て取ってしまったであろう事故に遭った女性も異能の素質ありの人間なのだ。
 …ひょっとしたらその内私は同郷の同輩か後輩を迎えることになるのかもしれない。双葉学園に迎えられることが幸福なのかそれとも不幸なのか、それは個人個人によって違うことだけど、もしそんなときが来たらこれも何かの縁だ、手が届く範囲で手助けくらいはしようと思う。
 それにしても、と私は大きな「幽霊」の一体に目を移す。そうと分かってみるとすぐに分かる。見るも情けなく俯き肩を落としてる姿。まさに一目瞭然、三年前の私だ。
 自分に自信がなくて、他人に拒絶されることが怖くて殻を閉ざし、そんなだから当然孤独になり、そのくせそんな境遇をひがんでばかりのバカな子。…って上から目線で言ってるけど、本当は今でも人となりが分からない相手と接するのはちょっと怖い。
 三年たって変わったのはありのままの自分を受け入れることができるようになったのと、あとは少し…ほんの少しだけずうずうしくなったことくらいか。これって開き直りな気もしてきたけど、気にしないことにする。
(大丈夫、あなたのお願いはちゃんと叶ってるから)
 昔の自分を励ますように、あるいは今の自分の幸せを確認するように心の中で呟く。さて、真相も確認できたし、あんまり遅いと叔母さんも心配するしもう帰るとしましょうか。
 と光太に呼びかけてみるものの返事がない。光太のほうを見ると、魅入られたかのように過去の私たちの姿をじっと眺めていた。
(この子も壁にぶち当たってるのかな…)
 さっき見たばかりの昔の私に似ている。光太の姿はあの時の私と全然違うのに、なぜかはっきりとそう思えた。
 現在進行形で苦しんでいる人はその苦しみがどうしようもないものだと思ってしまうものだ。他ならぬ体験者だから分かる。それでも誰かがしっかりと側で支えてひねくれないようにしてくれるなら、後は時間が、その人の成長が解決してくれるものだ。
 私と違って人に溶け込みやすい(逆に溶け込みやすくて心配でもあるんだけど)この子ならまあ心配は要らないと思うんだけど、かつてそうやって救ってもらった人間として私もこの子を支えてあげたいと思う。
 なにより、私はこの子の「お姉ちゃん」なのだから。


     ※     ※     ※     ※


 これが過去のオレたちの姿だと分かってみると、どれが何年前のかすぐに分かる。三年前、落ち込んでた宮子姉ちゃんが今にもどこかに消えちゃいそうで心配でたまらなくて半ばしがみつくように歩いた。二年前、立ち直っていた宮子姉ちゃんと並んで歩いた。一年前、オレには見えない何かが見えているかのような陽気さで俺を置いて行かんばかりの勢いで走っていった。
 こうして並べてみると本当によく分かる。宮子姉ちゃんの世界にオレはいらなくなってきているんだ。
 薄々とは気づいていた。それは一緒にいる時間が少なくなったからだと思ったからオレはわざわざ学園まで宮子姉ちゃんに会いに来て、いろいろあって結果オーライ的に転入することができた。
 けれど、結局何も変わってない。多分、最初からそうだったんだ。なにしろ宮子姉ちゃんはオレに一度も弱音とか見せてくれたことがない。三年前、とても落ち込んでた時も何度聞いても「ううん、何でもないわ」と何も話してくれなかった。
 オレってそんなに頼りないのかな?いや、例えば直さんあたりと比べてオレが何の役にもたたないってのはよく分かる。でも、まるで姉弟みたいにってくらい深い絆があるって思ったのにそれが全くの勘違いだってのはとても…苦しい。
「光太。あれ…見て」
 どうしようもなく胸が詰まって必死に泣くのをこらえているオレにそんな声がかけられる。宮子姉ちゃんが指差したのはよりにもよって三年前のオレたちだった。
「あの時ね、お姉ちゃん人に嫌われるのが怖くて人付き合いを拒んでて一人で落ち込んでたの。ほら、私の異能って結構意地悪いじゃない」
 え?三年の時を経て知らされた答えにオレの頭は真っ白になった。
「でもね、色々あって、助けてくれる人がいて、だから立ち直れたのよ。光太、今友達いる?」
 クラスの悪友たちが頭に浮かぶ。頷いたオレに優しく微笑み、宮子姉ちゃんはまた話を続けた。
「光太が何に悩んでるのかお姉ちゃんには分からないけど、友達や周りの仲間を大事にしてたらきっと解決できるから。同じように悩んだ仲間として、そしてお姉ちゃんとして保証するわ」
 微妙に誤解してるけど、それでも自分の弱かったところををオレに見せてくれたのがとても嬉しい。喜びをかみしめているオレだったけど、突然背中が力強く叩かれた。
「だからそんな顔しないの!来年の私たちが見てるわよ」
「来年…来年も一緒に来てくれるの?」
「…?当たり前じゃない」
 何をおかしなことをと言いたげなその口調にたまらなくなったオレは思わず宮子姉ちゃんの腕にしがみついた。
「じゃあ帰ろ!」
「じゃあって意味が分からないわよ。というかあんたもういい加減重いのよ、ナオじゃないんだから引っ張れないってば」
 オレだって少しは成長してるんだ。来年は今年のオレを笑い飛ばせるようになる。その次の年も、その次も、その次も。そしたらきっと宮子姉ちゃんだって…。


     ※     ※     ※     ※


 なかなかに得がたい体験だったこのバイトもついに終わり。最終日の業務も無事終了し、光太は先に帰して私はバイト代を受け取るのともう一つの用事のために式名さんのところに向かっていた。
「あ、お疲れ様です」
 何故かいた真帆ちゃんに軽く挨拶する。いや、ここの娘なんだから何故かと言う方がおかしいんだけど。
「結城さん、あなたにちゃんと言おうと思って来たんです。今回はありがとうございました」
 この幽霊事件に関しては放っておくとまた事故が起きるかもしれないのでちゃんと学園に報告しておいた。再発防止のための処理に関しては当然式名さん家にも話はいっているはずで、それが真帆ちゃんまで伝わったのだろうか。
「こんな私に文句一つ言わず働いてくれて…あの時はとても気が立ってて自分でもどうしようもなかったんです。でも他のバイトの人の手前途中から大きく態度を変えることもできなくて…本当にごめんなさい」
 あ、そっちのほうね。正直途中からはあんまり気にしてなかったんだけど。
「ううん、上司みたいなものだしきつく言うのも仕事のうちだと思ってたからあまり気にしてないわよ」
「あまり…全然腹が立たないほうがおかしいですよね、ごめんなさい」
 そう、まあ何もないということはない。例えばすまなそうに頭を下げるたびにささやかながらも揺れてる胸とか胸とか胸とか…ごほん。
「まあ、真帆ちゃんもよく分かったと思うけど、一旦口にした言葉はもう元に戻せないのよ。私はいいから今度からは気をつけてね」
「…はい」
 説教できる資格なんてないわよねー、と内心苦笑する私。他ならぬこの私もつい数ヶ月前不用意な言葉のせいで一番の親友を失いかけた。本当に気をつけないと。元来勝気そうな真帆ちゃんだったけど、私の言葉にこもった実感を感じ取ったのか上から目線の説教に素直に頷いてくれた。
「本当にお疲れ様でした。宮子さんと光太くんにはとても感謝しています」
 真帆ちゃんのことについての礼のつもりもあるのだろうか、深々と頭を下げる式名さん。うう、恐縮すぎて胸が痛い…。
 正直好意に付けこむようで言い出しにくいんだけど、ここで言わなければきっと後で後悔するだろう。
 やらずに後悔するよりやって後悔。何度も言い聞かせ、私はおずおずと口を開いた。
「あのぉ…一つお願いがあるんですけど、いいでしょうか…」
「なんでしょう?」
 優しく続きを促してくる式名さん。私は大きく息を吸い、言葉を続けた。
「不躾なことだとは承知の上でのお願いです、ごめんなさい。お金はきちんとお支払いします、怪しいところに転売したりもしないと約束します。ですから巫女装束の一番大きいサイズのを一式お譲りいただくわけには…」
「いきません」
「駄目です!というかなんでサイズ合わないのが欲しいんですか?」
 ですよねー。むしろダメとわかってすっきりした感じだ。
 この一連の話、ナオに土産話として話したらどんな顔するだろうか。なんとなくだけど、安堵の顔で溜息をつきそうな気がする。
 その顔を想像するだけで笑みがこぼれだすのを抑えることができない。
 冬休みが終わるのをこんなに待ち遠しく感じるのは生まれて初めてだった。





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