【ある中華料理店店員の選択】 その4A


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【ある中華料理店店員の選択】 その4A




8.ある中華料理店店員の選択

「俺は……」
 何故ここまで来た?
 何を出来るかどうかすら分からない。
 ただ会うためだけにあんな無茶をして、馬鹿をして。
 もう死んでる、そう思った。
 風紀委員の班長に諭され地面に這い蹲らされて心が折られた。
 でも生きていた。
 折られた心はもう無い、しっかりと強く固まっている心になった。
 だから、迷うことは無い。
 死なぬようにと風紀委員は島の外に退避させてくれたのに逆らった時点で拍手の腹は決まっている。
「神様力を貸してくれ」
 しっかりと足を踏み、神様の目を見る。
 神楽二礼の目を見据える。
「良いだろう」
 ゆっくりと髪を揺らして、神様が拍手の前に立つ。
 手を少し動かせば当たるほどの距離。
 そして手を延ばして拍手の頬に触れようとし、
「ああ、ちょっと待った。あの『思い人のために』ってのな、ありゃダメだ」
 拍手が止めた。
「ん? 何がダメだ」
「俺とあいつはそんな関係じゃないよ、ただの店員と客だ」
 それ以上でも以下でもない、と笑う。
「ただの店員が客の為に命を掛けるのか?」
 神様が返す。
「昔からもよく言うんだろ『お客様は神様です』って、神道関係者なら神様は命を掛けて守らにゃなるめぇ」
「その神を前にしてよく言う」
「……ぷっ」
「……くっ」
 お互いに吹き出したのをみて、笑い声が上がる。
 良い笑顔だ、拍手は思う。
 あいつがここまで笑ったのはついぞ見たことが無かったが、中身が違えばこんな顔も出来たのか、と。
「良き丹だ、思い直さんか?」
「いや、やっちまおう。どうなるか分からないのなら確実に一人助かったほうが良い」 
 そうか、と神様が頷き再度拍手に手を延ばす。
 片手で拍手の頭を掴むと少し強引に引き寄せて、顔を寄せ――
「ちょっと待った」
「なんじゃ、またか」
「またか、じゃない。何しようとしてるんだ?」
「口吸いだが?」
 口吸いとは接吻、ようするにキス。それがさも当然であるかのように神様が言う。
 そしてさらにぐっと頭を引き寄せた。
 拍手との距離は僅かに数cm。
 お互いの息が少しの隙間で交じり合う。
「いや、ダメだろ!」
 しかし、拍手が強引に引き離した。
「煮え切らんやつじゃの、貴様」
「勝手に体使ってキスするのはマズイだろ、てか何でキスする必要があんだよ!?」
「嫌なのか?」
「っな……い、嫌じゃない。嫌じゃないけどダメだろ!」
 拍手の頬と耳が徐々に紅色に染まっていく。
 それを見て神様が首を傾げた。
「死ぬのは良いのに口吸いはダメとは良く分からん男よの」
「その二つは全くの別物! 同列に考えんなよ、頼むから」
 むぅ、と神様が難しい顔をした。
「そうは言うが、別の方法はまぐわいだぞ?」
「まぐっ、なんでその二つしか方法がないんだよ……!」
「古式からの縁正しい方法じゃ、場を見ろ残り時間が少ない」
 言われ場を見ると確かに侵食が続いていた。
「口吸いごときを嫌がるな、生娘か貴様は」
「いや、そうは言うけどな」
「ええい、鬱陶しい!」
 尚も言い訳をしようとする拍手に業を煮やしたのか神様が無理矢理飛び掛る。
 頭を捕らえ、強引にキスをしようとし、
「うおっ」
「むっ」
 二人が立っていた地面が激しく波打った。
 まるで沸騰した湯のように揺れ動き、凹凸が暴れまわる。
 拍手と神様は揃って床に身を投げ出されていた。
「マズイ、場が小さくなりすぎた。畜生が起きるぞ」
「何だって?」
「縛《いましめ》の効果を全てこやつを封じるように使っておったのじゃ」
 顔を打つようにせり上がってきた突起に神様が握りこぶしを叩きつける。
 水っぽい音を立て、場に押されるようにして突起は沈んでいった。
「うぅ!?」
「ぬ、これは」
 空間に金切り声が響き渡る。
 その音量と不快さに思わず耳を覆う二人。
「本格的に起きおったか、この場では最早もたん早くせい!」
 場の侵食が加速度的に早まった。
 残り2m四方程しかない。
 寝そべったままでは体の何処かが壁に飲み込まれてしまう。
 慌てて体を起こし、寄り添うようにして座り込む。
 それでもまだ拍手の中では決心が着いていなかった。
 神様の頭を胸に抱きはするものの顔を上げさせようとしない。
「……先輩?」
「え?」
「何で先輩がここにいるっすか? てか何で私抱かれて……?」
 先ほどまでの口調と違う、聞きなれた何時もの口癖。
「二礼!」
 思わず神楽の顔を見ようとして、
「引っ掛かったな、間抜けめ」
「んっ」
 拍手の唇に柔らかな感触が重なる。
 白黒とする拍手の目にはニタリと意地悪そうに笑う顔が写った。
 直後、拍手の中に何かが入ってきた。
 口を通り、食道を通り、胃へ。
 その近くにある心臓に移り、全身、脳へ。
 そして、魂へ。





 拍手が目を開ける。
 目の前には鍋とそこに入った調理しかけの食材。
「こぉらタカシぃ! ボッとしてねぇで手ぇ動かせぇ!」
 はっ、として横を向くと立ち上る熱気をものともせずに鉄鍋を振るう初老の男性。
 老いを感じさせぬ両腕を振るい、リズミカルかつ大胆に右手のお玉でかき混ぜていく。
 鉄鍋で油が爆ぜ、宙で具材が踊り、スープが絡み合う。
「おいぃ! 寝てんのかぁ!?」
「あぁっ、店長すんません!」
 慌てて手を動かす。
 鉄鍋の中の具は何とか焦げずにすんだようだ。
 店長に習った通りに、何時もやっていたように手を振るう。
 コックスーツの袖を捲り上げた腕には時々油が飛び、小さい火傷未満が出来るが気力でカバー。
 中華料理を作るのにこの程度で怯んでいては半人前にもならない。
「ほい、あがったよー!」
 大きな声で料理が出来たことをしらせる。
 カウンターに料理を置くと、テーブル席が目に入った。
「拍手くんが怒られてたわね」
「どうせおっぱいの事でも考えてたんでしょ」
「拍手様は何時もそれですからね」
「アイデンテイテイですよね」
 星崎と笹島と瑠杜賀と鈴木が、
「拍手、私の料理焦げてたら竹刀で叩くからね!」
「お腹一杯食べるぞー」
「またあの食器の山を見るのか……」
「召屋は心配性だねえ、もっと楽しもうよ」
 六谷と美作と召屋と松戸がそれぞれテーブルを囲んでいる。
 拍手が所属している2-Cの代表的《へんたい》なメンバーだ。
「なんだ、お前ら揃ってくるなんて珍しいな」
「まぁ、たまにはな」
 個性的なメンバーに振り回されることの多い苦労人の召屋正行《めしやまさゆき》が苦笑いを交えながら手をあげて挨拶をしてきた。
「ただの客なんだ、あんまり構ってるとまたどやされちまうぞ?」
「言われなくたって分かってんよ」
 完全な苦笑いから口元を緩めて軽口を叩く召屋にお玉を振って応える。
 今日は満席御礼だ。
 構ってられる余裕も無い。
 他の席に目を向けると、
「仁ちゃーん、もう食べられないよー」
「こら改造魔、お前な。俺が何度も無理だから止めとけっていっただろうが!」
 仲の良い後輩コンビが。
「ナオ、本当にそれ全部食べちゃうの?」
「これくらい余裕だよ、ミヤの方こそ足りないんじゃないの?」
「私はダイエット中なの!」
 学年を気にしない仲良し二人が。
 他にも兄妹連れや気の合う仲間どうしのグループがテーブルやカウンターに座っている。
 良く見ればみんな顔見知りばっかりだった。
 双葉学園に来て季節を後一つ越えればもう二年。
 思っていたよりも繋がりはできていた。
「はー、今日はマジで大忙しだな」
 手を休めることなく振るい続ける。
「拍手よーう、それ上がったら客席に持ってってくれやぁ。手が足り取らんでなぁ!」
 忙しいと言うのに店長が叫ぶ。
「へーい!」
 ガシャガシャと手を振り材料をバラけさせることで水気を飛ばし、味が均等に染み渡る。
 焦げないように、しかしギリギリまで水気を飛ばすことによって旨みを濃縮させるのだ。
「よーっし、出来た!」
 お玉で周りから掬い取るようにして皿に移す。
 運びやすいように盆の上にチャーハンとスープを載せてカウンターを出る。
 忙しいからと言って走ったりはしないが出来るだけ急いで客席へと向かう。
 途中すれ違う知り合いに挨拶がわりに背中を叩かれて転びそうになり、文句の一つも言うのはご愛嬌。
 態度悪く通路にはみ出すように延ばされた足を謝罪をいれつつ跨いで先へ。
「お待たせしました、当店自慢のチャーハンですよ!」
 盆にのせた皿をテーブルに置いて顔を上げる。

 誰もいなかった。

 4人掛けテーブルだというのに、唯一引かれている椅子には鈴のストラップがついた木刀が主をなくしたまま立てかけられている。
「あ……え?」
 見覚えのある木刀だった。
 持ち主は今年に入ってもう4,5本目とか言っていた気がする。
「……誰のだったっけな?」
 拍手には思い出せなかった。
 忘れ物かもしれない、とりあえず手に取る。
 とりあえず配膳は済ませたのでカウンターに戻ろうと振り返った。

 何も無かった。

 あれだけいた知り合いも。

 毎日よく拭いたテーブルも。

 鉄鍋を振るっていたカウンターも。

 何時も大きなダミ声でこちらを呼んでくる店長も。

 学園にいた期間と同じだけ通ったバイト先も。

 全てが消えて白い空間になっていた。

「……?」
 しかし、それを拍手は気に留めなかった。
 誰がいなくなっていたのか覚えていないから。
 何がなくなったのか覚えていないから。
「あれ、何で俺こんなもん持ってるんだ?」
 手の中にある木刀を拍手は不思議そうに眺めた。





 神様は後悔していた。
 今まで幾度か神下ろしをしていた人間は力を貸すわけではなく声を出す為の手段として入り込むだけだった。
 同じようにすれば力を貸すことは簡単だろうと思っていた。
 しかしそれは大きな間違いだった。
 入り、喋る。
 それだけでも特性のある血筋ですら負担を覚える。 
 度が過ぎた場合は寝込むものすらいた。
 入り、力を渡す。
 その意味を、その危険性を神様は認識していなかった。
 確かに力は渡すことが出来た。
 しかし、それと引き換えに拍手の記憶が物凄い勢いで上書きされ消去されていく。
『起きろ! 起きろ!!』
 神様が力を貸したことによって、拍手の体が輝きを放っていた。
 力を得ることによるものだが、それは人が耐えられる物ではない。
 体の端々がほつれ、光の粒となって落ちていく。
 すでに崩壊が始まっていた。
『起きんか! このぐうたらが!』
 神様が拍手の中で叫ぶ。
 どんどんと自分の力と拍手の力が競り合い磨耗していく。
 強大な力を出すためにぶつかりあう。
 その際に出る火花が力。磨耗するのは記憶、心。
 特性の無い拍手が全てを無くすまで凡そ一分しかない。
『頼む、拍手よ!』
 神下ろしが出来る能力者は血筋の中でもそうは生まれない。
 ましてやその能力者が気が合い、ご神木の枝を折っても許すほどの仲になるなど今までには無かった。
 人々の上に崇められる神様が唯一気の許せる人間だった。
 だからこそ、最後まで自分の空間に引き釣り込むのをよしとせず救助を待った。
 最後の口吸いも良い手段とは思わない。
 選択をさせたが最悪の場合無理矢理にでも力を与えるつもりだった。
 後悔などはない。
 自分の好き勝手であると理解もしている。
 いままで生きてきた中で冠婚葬祭すべて見てきた。
 人一人を失うという重さも知っている。
『起きて二礼を救ってくれ!』
 それでも尚、神の泣き叫ぶ声が拍手の中に響く。



 外では発光し座り込む拍手に寄り添うようにして二礼が気を失っている。
 場はすでに大幅に力を弱め1m四方、座り込む二人をギリギリ囲うほどの広さしかない。
「ギキィ……」
 その周囲、黒かった壁に無数の目が開いていく。
 数多の蟲を食らい、鼠を食らい、猫も食った化け物が目を覚ます。
 あの暑かった夏の日に受けた屈辱をソレは忘れることは無かった。
 僅かな欠片しか生き延びることは出来なかったが、今ではこれ程の肉体を得て復讐する相手を内に取り込むことすら出来た。
 小さくて柔らかい方を取り込んだ際に妙な力で抗われ眠りにつかされたが、それももう無い。
 自分の一部を尖らせて、何故か光っている大きい方を貫いた。
 自分が進化するのに一役かったがその後痛手を負わされた相手だ。
 しっかりと胴に自分の一部が刺さったのを確認するとそれは二人を取り囲む全ての目を弓なりにして笑った。
 ソレは自分の勝利と復讐が成ったことを喜んだ。



 脆くなった場を難なく貫き、拍手の左胸に転がり目玉の一部が刺さっている。
『もはやダメか』
 拍手が消えれば抵抗する手段も無い。
 その場合はなんとしても二礼の命だけは救おう。
 心が生きているかどうかは分からないが。
『それがこやつにとっても供養となろう』 
 体の光が増している。
 タイムリミットまであとどれくらいだろうか。
 神様の心に影が差したが、

「勝手に殺すな」

 入っている体が、その口が動いた。
 体の主導権が神様から別の者に移っていく。
 磨耗していた筈の心が、記憶が蘇っていく。
 増した光は癒しの光。
 貫かれた筈の胸の奥、制服の胸ポケットに仕舞われていたボロボロのお守りに篭められた家族の祈り。
 なけなしの僅か一欠けらが家族の帰りを願っていた。
「何とか動けるけど、多分そうもたないな」
 光が弱まっていく。
 お守りは役目を終えて光となって拍手の体に溶けていった。
「うわ、胸に何か刺さってる……けど痛くないな」
『戻ってきおったか』
「おー、神様か力ってすげぇな」
 先ほど能力が覚醒した時など比べ物にならない。
 今なら上級ラルヴァとだって戦えそうな気さえした。
「はっは、何が力が欲しいだ。こんなの俺にゃ使いこなせる気がしないねぇ」
 刺さっている棘に触れるとまるで氷を溶かすように指がめり込み、簡単に握りつぶすことが出来た。
「ギキィ!!」
 自分の一部が消失したことに驚き、ラルヴァが声を上げる。
「さて、時間もないしさっさとやっちまいますかね」
『拍手よ』
 気絶したままの二礼を抱き上げ、拍手が立ち上がる。
「分かってるよ神様、一撃打ったら俺は消えるんだろ」
『謝罪はしない』
「良いよ別に、こいつさえ生きてりゃ」
 寝息を立てる二礼を見つながら言う。
『何か言い残すことはないか?』
「無い」
『無いのか』
「俺は本当はこの島にはいないことになってるんだ、勝手にどっかいって失踪したとでも伝えてくれ。出来れば他の人にも」
 何も知らず、背負わない方が良い。
 暗にそう言っていた。
 神様がそれを良しとする。
「キシィッ!」
 何本もの棘が伸びて貫こうと拍手にせまる。
「甘い甘い」
 しかし手のひらで受けるだけで接触した棘が全て光になって散っていく。
 二礼の方にも伸びるが拍手はそれもその二礼を抱きかかえたまま器用にさばき、
「良いか、どチクショウ! このおっぱいはな、俺のもんだ! 誰にも渡しゃしねぇよ!!」
 そう叫ぶ。
「ギィーッ!」
 ラルヴァが痛みと危険を感じて叫び声を上げた。
 その声を聞き流し、右手で二礼を抱えたままゆっくりと左手を無数の目玉が開いている壁に押し当てる。
 大きく一つ息を吸い、この島で関わったメンバーの顔を思い返す。
 そして最後にもう一度二礼の顔を眺め、満足した笑顔で叫んだ。

「楽しかったぜ、みんな!」

 その日、綺麗な夕暮れの中、双葉学園にある商店街の奥で光の柱が一瞬だけ上がったが誰にも確認はされることはなかった。









9.エピローグ


 風紀委員の腕章をつけた隊員が路地裏を走り抜けていく。
 奇妙なタレコミがあったのだ。
「お前たちの目は節穴か、路地裏の奥をもう一度探せ」
 当初は悪質なイタズラかと思われたが、有力な情報も証拠も無く人海戦術で虱潰しに当たるしか出来なかった風紀委員本部は念のために数人を通報のあった路地裏へと向かわせた。
 向かう班は失踪した神楽二礼隊員が所属していた班のメンバー。
 無茶な行動をする可能性があるとして捜索活動ではなく内部での情報処理に当てられていたからだ。
 慣れぬ暗く狭い道を肩をぶつけながら地図を頼りに走る。
 やがて路地裏の奥地、区画整理の失敗した結果生まれた4m四方の広場とそこに横たわる人影を発見した。
 震える手で班長が通信機に口を当てる。
「要救助者一名《・・・・・・》確保ー!」
 こうして、一部の人たちを除きクリスマス当日の裏で繰り広げられていた事件は早期終結を果たした。


 ☆☆☆



 風紀委員の書類には事件の顛末がこう書かれている。

『神隠しのラルヴァか、何かだろうか。
 この件に関しては情報が余りに少ないため推測であらましを書くことしかできない。
 分かっていることは25日未明に失踪した神楽二礼見習い隊員がその日の夜に発見されたということ。
 そして午前中にその場所を調査した隊員は間違いなく壁があったと証言し、GPSでの位置特定でも誤差は無いとのこと。
 また、タレコミが入った直後に協力を依頼していたミズダイアモンドが涙を流し始め、そのまま現場に移動。
 発見された直後の神楽二礼隊員の頭を抱きかかえるという行動に出た。
 これは失踪していた教え子が見つかったことによるものだと推測されるが、
 「無事で良かった」等の声を掛けることもなくただ泣いていたという報告がある。
 横で見ていた隊員も感化されて泣き出したということなのでよほど嬉しそうで感極まったものだったのだと思われる。
 発見後すぐに意識を取り戻した神楽隊員に聴取を行うも、25日未明に失踪した際には何かに襲われて能力を使用してからの記憶が無いとの事だった。
 以降、調査を行うも確固たる証拠や証言を得ることが出来ずタレコミが何者からのものであったのかも掴めていない。

 尚、この件とは別件になるが事件終了まで入島を禁じられていた拍手敬(2-C所属)の家族から退学願いが提出、受理されている。』



 ☆☆☆



 神楽二礼は目を覚ました。
 自分の体を何か柔らかくて暖かいものが震えながら包み込んでくれていたのに気がつく。
「あれ、せんせーさんどうしたんっすか?」
 目を開けて一番初めに目に入ったのが担任教師の泣き顔というにも関わらず何時と同じ調子だった。
 せんせーさんと呼ばれた1-B教師の春奈・C・クラウディウスはそんな二礼の顔を見て、何か言いたそうな顔をしてから、下唇を強く噛みただ顔を振るのみ。
「?」
 二礼にはさっぱりと理解出来なかった。
 周りを見ると所属している風紀委員の班のメンバーが総出で取り囲んでいる。
「?」
 どういう状況なのかやっぱり二礼には理解出来なかった。
 どうしたものかと首を捻ると、アイデアよりも先にお腹から可愛らしい音が鳴る。
「お腹すいたっすねー」
 とりあえず、泣いて抱きついたままの春奈に離れてもらい立ち上がる。 
 空を見ると四角く切り取られた夜空が見えた。
「あれ? なんで私こんなとこにいるんすか?」
 しかし、深く考えるよりも早く行動するのが二礼の信条。
 未だ泣いたままの春奈と班の女性隊員一人と一緒に裏路地を後にする。
 残りのメンバーは調査をするとのことだった。
 何か事件があったのだろうとは思ったが、調査に参加せずに風紀の控え室に戻って良いと聞いてラッキーだと隠れてガッツポーズを決めていた。
「あ!」
 裏路地を抜け、大通りに出る前に馴染みの中華料理店の裏口に差し掛かった。
 一緒に春奈と班員がいるにも拘らず裏口のドアノブに手を延ばし捻る。
 しかし感触は固く、開店時は換気のために熱気を吐いているはずの換気扇も黙ったままだ。
「ありゃ、そういえば今日は定休日だった……かな?」
 どうにも日付の感覚がいまいちおかしい気がするが、特に気にせずに控え室に向かう。
 泣き止みかけていた春奈が何故かまた泣き始めたので班員と二人して慰めつつ大通りを進む。
 10分ほど掛けて最寄の控え室に入り椅子に座った時点で大きく二礼の腹が鳴った。
 正直もう腹ペコでたまらない。
「何か出前とるっすよー?」
 一緒にいる二人に注文を聞くがいらないとのこと。
 班員はともかく春奈がいらないと言うことがかなり気になったが腹が背とくっつきそうな程空腹なので背に腹は変えられない。
 控え室供えつきの電話機を手に取り、出前一覧に目を通す。
「んー、どれも微妙っすね……」
 欲を言うならチャーハンが食べたかったが、大車輪は定休日。
 どうしたものかと悩んでいると控え室のドアがノックされた。
「はーい、風紀に何か用っすかー?」
 一番扉に近かった二礼がドアを開けるとそこには岡持ちが一つ。
 銀のボディーに達筆にかかれた店名は『大車輪』。
 そして『神楽二礼様へ』という張り紙が。
 不審に思い廊下を見渡すが人影は何処にも見あたらない。
「?」
 とりあえず岡持ちを控え室に持って入り開けてみた。
「おお、チャーハンじゃないっすか!」
 まるで作りたてであるかの如く熱々で湯気も上がるほどだった。
 ちゃんとスープもついている。
 誰が持ってきてくれたものなのかは分からないが、二礼は空腹をこれ以上我慢できなかった。
 いそいそとテーブルの上に取り出して、両手を合わせる。
 そして勢い良くレンゲで一掬いして口の中へ。
 よく炒められた米、野菜、そしてサイコロ状のチャーシューが舌の上でパラパラと解れて広がっていく。
「んー、美味しい! やっぱチャーハンはこれっすねー」
 良く噛み、飲み込む。
 実に至福の瞬間だった。
 そしてもう一掬いして口に入れる。
「ん?」
 不意に、二礼は誰かに呼ばれた気がした。
 口の中のものを嚥下してから椅子の方を見るがグッタリとしれいる春奈とそれを気遣う班員だけ。
「?」
 後ろを向いても扉があるだけで人はいない。
 なんとなく、この場にいない人を思い出した二礼の口がその名を呼んだ。



「――先輩?」










                                  トゥルーエンドルート 完 






























もうちょっとだけ続くかもしれんのじゃよ
出来るならば投下します
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