【羽子板と醒徒会】


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羽子板と醒徒会


 お正月早々から生徒会室。
 いつもとちがうといえば、その服装。晴れ着姿となった醒徒会の面々がいる。
「新年明けましておめでとうなのだ」
「うなー」
 会長の藤神門御鈴(ふじみかど みすず)とそのあたまに乗っている式神の白虎が外向け用のすまし顔。門松の前でしなやかにお辞儀をするといくつものフラッシュが焚かれた。
 新年会とその取材という名目で呼び集められたらしい。
 フレームの照準を醒徒会メンバーに合わせながら新聞部からやってきたカメラマンの生徒がつぶやく。
「こうして一堂に会すると圧巻の一言ですね……」
 醒徒会
 それは同時に双葉学園最強の異能者集団――。
 水の舞姫にして醒徒会の母、副会長・水分理緒(みくまり りお)。
 醒徒会の元気なムードメーカー、書記・加賀杜 紫穏(かがもり しおん)。
 学園の財政を一手に握るといわれる会計、成宮 金太郎(なりみや きんたろう)。
 その学園の秩序と平和を司る会計監査のエヌR・ルール
 屈強なる変身ドラゴンヒーロー、広報・龍河弾(たつかわ だん)。
 最速にして不可視の能力者、庶務の早瀬速人(はやせ はやと)。
「待つのだ! なぜか俺だけ黒子衣装なのだ――!」
「特に振袖の藤神門会長なんてレアですよ、レア」
「……だから、衣装が……俺のみ黒子で……」
「すみませーん、皆さんもうちょっと右寄りに詰めてくださーい。はいオッケーでーす」
「……」
 全員に無視された早瀬速人が悲しみを文楽人形に託してその口パクで「オッケーじゃない……再考を要求する……」と代弁させていると、豪快に笑いながら龍河弾がその背中を思いっきり叩いた。
「辛気臭いな! 細かいことをいちいち気にするなんざ肝っ玉が小せェ男のすることだぜッ!」
「あっ、はやはやが壁まで吹っ飛んだ」
「心配は無用だ。何故ならば生徒会室の壁はあらゆる有事を想定して造られている為、この程度の衝撃ならヒビ一つ入ることはない。このぼくの名に賭けて誓約しよう」
 エヌR・ルールの言う通り、壁にまで被害が及ぶことはまったくなく、加賀杜紫穏が駆けより壁の被害を確認する。
「本当だっ。傷一つないよ。ラッキーはやはやだね!」
「……オイオイ、早瀬視点ならアンラッキーはやはやだろ。それも黒子と壁でダブル不幸だ」
 やれやれと成宮金太郎が肩をすくめる。
 いつもの醒徒会の日常だった。


「で、午後のイベントはこれに決まった」
 金太郎が取り出したのは、御鈴の式神である白虎のびゃっこたん……によく似たぬいぐるみ。羽子板のようなものを持っている。
「これは、まあ、最近流行っているセイバーギアだ。これを使った2人3チームにわかれての羽子板大会を開催する」
 特注品のセイバーギア『羽子板びゃっこたん』。
 もふもふのプリティである。
「とはいえ、醒徒会の面子でやるんだから少々手を加えてある。異能に感応するための中核パーツ・セイバーコアによる異能制御機能を従来のノーマルなものに比べて10倍近く強めてある代物だ。簡単にいうとだ、普通の異能セイバーに比べて10倍力が抑制されるようにできている。さらに特別な仕掛けとして」
 金太郎が手に持っていた『羽子板びゃっこたん』に異能を注ぎ込む。すると、その量が一定値を越えたところで「ギギギ……」と不気味な音が鳴り出し、限界を超えた瞬間、ボンッと爆発した。
「……と、こういうわけだ。通常のセイバーとちがい、いかにして異能を抑えながらコントロールできるかが勝敗を分けるだろうな。当然、セイバーが壊れた選手はその時点でアウト。リタイアとする。一応、オレは開催側ということもあり審判をするんで外れるから、2人3チーム同時の変則チーム戦だな」
 まあ、新聞部へのサービスのようなものだし……と誰もが思っていたそんな平和でのどかで穏やかな空気が、次の一言で一転する。

「商品はこれだ。『クリスタルライガー・ウイング装備ver.』」

 爆弾が炸裂した。
 大人気セイバー『クリスタルライガー』! その飛翔翼付きモデルといえば公式(オフィシャル)な特製品として某雑誌の懸賞でしか手に入らなかったというこの世界にたった7体しか存在しないマニア垂涎のレア中のレア――。
 そのうちの2体もこの場にそろっているという異常事態が発生している。
 全員が一瞬で事態を理解した。

 勝敗を決するのは、コンビを組む『パートナー』だということに。

「ウオオオッ! セイバーに詳しいのはどいつだ! 俺はそいつと組むぞ、成宮ァ! よくわからんがこれはカッコイイ物だ!」
「この人、本気だ……」
 弾の咆哮に新聞部のカメラマンが絶句すると。
「えーっと、アタシはセイバーギアなんてよく知らないけどっ、アタシと組むと勝てるかも! よく知らないけど!」
「みんな、好き勝手にパートナーを決めるなんて不公平はいけないと思う! で、誰がセイバーに詳しいのだ!?」
「秩序は守られなければならないのは当然の理(ことわり)だ。そして勝敗を正しく決するためにこそルールは守られる必要がある。情報をこの場で開示したまえ」
 カメラマンの額に一筋の冷たい汗が流れ落ちた。
「訂正する。この人たち、本気だ……!!」




           †




「そんじゃまずは2人3チームの変則戦について解説するぞ」
 運動場に直径3メートルの円を描き、これを3分割してそれぞれをチームの陣地とした羽子板用のコートとする。
 円を超えたらアウトになり-1点の失点。
 自陣に羽を落とされても失点で-1。
 チーム持ち点の10点を失ったチームから脱落していくというルールになっている。
 くじ引きでチームわけは、「御鈴-速人」「理緒-ルール」「紫隠-弾」という組み合わせになった。
 が、ここからさらにトレードタイムが設けられた。話し合いで合意に至ればパートナーを変えることができるという恐るべき修羅のセカイ。
(龍っつぁんはセイバーを知ってそうだけど、力任せでやりそう……。セイバーにオーバーヒートされて壊れちゃって脱落されたらまずい……かもっ)
(詳細な分析によれば、この羽子板勝負はセイバー移動の速度が鍵だと推測される。つまり押さえるべきは加速の異能……)
(水分先輩が、読めない……! 読めませんよ! でもこの人は絶対に危険だ……パートナーにするか、敵になったら早めに退場してもらわないと……会長はウイングライガーの価値をわかってなさそうだから、敵チームにいてくれたほうが負けてもチャンスがありそうか?)
(おう! セイバーを知ってそうなのは速人と紫隠とエヌRだな! しかし、速人の加速か、紫隠の強化か、エヌRの原子化か……ウオオオ、有利なのはどれだァァァ!!? いや、待てよ――)
(ふう。びゃっこセイバーのほうがうれしいのだ。勝ったらお願いしてみるのだ)
(うふふ。御鈴ちゃんったら)
 新聞部生徒が冷や汗を拭う。
「無性に雰囲気がざわざわしますね……」
「ああ、地獄にでも紛れ込んじまった気分だ……」
 トレードの結果はというと、

【 加賀杜紫隠-藤神門御鈴 】
【 龍河弾-水分理緒 】
【 早瀬速人-エヌR・ルール 】

 以上のような組み合わせに決定した。
「(なんでアタシは親分と組んじゃってるかなあっ!!!)」
「うん、いい組み合わせになったな。いっしょに頑張るのだ」
「そ、そうだね!」
 動揺を隠しながら笑顔で頷いた紫隠は、ギランと横目を光らせすばやく他チームを分析する。
――龍っつぁんは姉御とチームなのか。あそこはあまりたいしたことないね。要チェックはやっぱり加速と原子化のタッグ、ハヤハヤとエヌルン――!
 3チーム同時対戦という変則ルールによって、駆け引きによる戦いが通常対戦よりも高く引き上げられている。
 そう、出る杭は打たれる。
 それが多集団ゲームにおける鉄則。
「おい、準備は出来たか? もう待たねえけどな」


『レディ――ゴーーーーー・セイバー羽子板ッ!!』


 コートの円の外に立つ面々に緊張が走り、風景をぐにゃりと歪ませる。
 第1打は会長である御鈴からだ。
 はたして御鈴はどちらのチームに羽を打ち込むのか。
「えい!」
 カコーンッ。乾いた小気味いい音を立てて、御鈴の操る羽子板びゃっこたんが高く羽を打ち上げた。
 羽は青空へと吸い込まれていく。小さな点となったところで反転。
 その落下地点は――。
「チーム陣地の境目だとオォォ!?」
 弾チームと速人チームの境界線めがけて羽が落ちてくる。慌てた弾を理緒が制止する。
「龍河さん。動く必要はありません。それより次に備えてください」
 羽はわずかに速人チーム側にズレていて、疾風のような動きで速人の操る『羽子板びゃっこたん』が高速で羽を拾う。そのまま理緒のチームに打ち込む予定だったが、龍河のセイバーがしっかり待ち構えているせいで隙がない。
「ごめん、会長」
 速人が羽を御鈴陣地に打ち込んだ瞬間、そこには笑顔で待ち構えていた紫隠のセイバーがすでにいた。
「はやはやー、残念っ」
 カコンッと速人の羽が軽やかに打ち返され、狙い済ましたように陣地の奥に飛んだ羽が地面に突き刺さるかと思われたそのとき、羽は地表すれすれで止まり、カコーンッ、と小気味のいい音と共に空高く舞い上げられる。
「うそっ!」
 羽を打ち上げた空間にぼんやりと黒い粒子が集まり、徐々に形を形成していくと『羽子板びゃっこたん』の姿になった。
 ルールの異能『ザ・フリッカー』の能力だ。それは身体を原子レベルまで分解させる恐るべき異能。
「セイバーのデータを一部収集。この程度の力までならセイバーの破壊限度ラインには至らないらしい」
「エヌルン! できる!」
 ルールは紫隠を指差して青色のサングラスをクイッと刷り上げる。
「不意打ちも想定済みだ。問題ない」
「ハハハハッ! ところがどっこい!」
 上空に浮かんだセイバーの影が、上空に打ち上げられた羽をそのまま垂直に打ち返した。
 弾の龍化した『羽子板びゃっこたん』がエヌR・ルールの打ち上げた羽をルール陣営の頭上で待ち構えていた。
 二重の不意打ちにはさすがに対応できず、弾のセイバーが打ち下ろした羽はまるで弾丸のように一直線な動きでルール陣地に突き刺さった。羽から白い煙が上がっている。
「ハッハー! まずは1点だな!」
「あの龍河が、頭脳プレーだと――?」
 ルールの眼光は龍河弾の背後にひかえている水分理緒を捉える。
「そうか。これは厄介なコンビを許してしまったようだ」
「やっぱり水分先輩がきたか……!」
 ルールと速人の視線に気づいて水分理緒はほがらかに手を振り返す。
「……信じられない。これがリミッター付きの……いや、おもちゃによる戦いなのか?」
 新聞部たちは、今、新たな伝説に立ち会っているのかもしれない。




           †




 決着は近いな。
 成宮金太郎はそう判断する。
 始めはカコンッ、カコッっとかわいい音で打ち合われていたが、今や勝負も終盤に差し掛かり「ドゴォッ!」「ガドォン!」とどこの大砲だと突っ込みたくなる激しい音を響かせる。
 もはや空は赤く染まり、太陽が地平に沈もうとしていた。
 最初に脱落したのは、【エヌR・早瀬チーム】だった。やはり出る杭は打たれるの法則には逆らえなかったようだ。
(……ま、俺が参加していてもまずあの2人を狙うよな)
 それでもどのチームも無傷ということはありえない。
【藤神門・加賀杜チーム】 残数1点
【龍河・水分チーム】 残数2点
 弾と理緒のチームがリーチをかけている。そのとき、ドスッ、という鈍い音を立てて羽がエヌR・早瀬の陣地にめりこんでいた。打ったのは龍河。いや、紫隠に打たされたといったほうが正しいだろう。エヌR・早瀬チームの陣地は2人の退場後からはアウト扱いになっていたので、これで龍河チームの失点となり両チームがタイに並んだ。
 どのセイバーもいまやボロボロだった。許容値の限界ギリギリまで能力を酷使してきた『羽子板びゃっこたん』はもはや一線を超えればオーバーフローを起こして爆発するだろうことは目に見えているのだが、だからといって異能を加減して使用を抑えると、相手チームとのパワーバランスが崩れて一気に試合を持っていかれることもまた予測されていた。
 4人とも疲労困憊の色が濃く、体力・気力を激しく消耗しているのがわかる。
 もはや、勝負を決めるのは精神力。このセイバーが壊れるか壊れないかの危ういバランスをいつまで維持し続けられるかという綱渡りを渡りきるための集中力――それこそがこの長い死闘に決着をつけるだろうことは誰の目から見ても明らかだ。
 はじめに動いたのは書記の加賀杜紫隠だった。
 紫隠はこの死闘を後に述懐してこう述べている。

――勝負をしかけるならここだって、アタシがおもったんじゃないよ。『羽子板セイバーの意思』がアタシのなかに流れこんできたの――。

 本当にセイバーが紫隠を動かしたかどうかはさだかではない。だが、紫隠の仕掛けた勝負がゲームを動かしたことは紛れもない事実だといえる。
 それは弾が序盤で見せた奇襲を盗んだ技だった。水平に強く羽を打ち込んだ羽は想像を絶するスピードで打ち返すほうは上空に高く返すので精一杯だった。それを待ち構えていたように『羽子板びゃっこたん』を強化して高くジャンプさせ、空中からのマックスパワーカウンターで敵陣深く羽を打ち込む。
 龍河弾はあの光景を今でも忘れないという。

――まさか、俺たちの奇襲が奪われるとはな! あのときの紫隠の執念は、凄いぞ! ラルヴァも真っ青な冷や汗ものだッ!

 そして龍河は目撃することとなる。
 空高く無防備に舞い上がった羽が、ジャンプした紫隠のセイバーをよけるように軌道を変えながら曲がっていくという奇跡を。
 羽にかけられた強烈なスピンが舞い上がる軌道を空中で変える。いくら強化したセイバーとはいえ、不意の動きに紫隠のびゃっこたんは空中で方向転換できないままコートの向こうへと飛んでいく。紫隠は見落としていた。
 この羽を打ち上げていたのが、水分理緒であるということを。

――いえいえ、わたしは裏をかこうとかそんなこと……あの時はただふっとおもったんです。このまま打ち上げるだけでは危ないじゃないかしら、と――。
「で、とっさに水流で羽にスピンをかけたと?」
――はい。できちゃいました――。

 相手陣地にはもはや御鈴会長ただ一人のみ。
 紫隠のセイバーが陣地に戻ってくるまでのわずかの時間だが、醒徒会の副会長と広報という強大な力を持った2人には、そのわずかな時間で十分だった。この好機に勝負を決める。
 だが、失念されていたことがあった。
 その残されたたった一人とは、双葉学園醒徒会の頂点に立つ会長、
 『藤神門御鈴会長』
 高く舞い上がる羽がまるでスローモーションのようにゆっくりと、駒落としのように落ち、御鈴会長の前にきた瞬間、まるでフラッシュのように時間が跳び、気がつけば羽が龍河・水分チームの陣地に突き刺さっている。
 彼女のコメントはとてもシンプルなものだった。


――私が、白虎で負けるわけにはいかないのだ――。






「……ふう」
 新年の醒徒会取材を終えた新聞部員は書き終えた記事の文章を再度読み直し終えた。
「おーい、原稿は仕上がったかー」
 新聞部の部室で先輩からのお呼びがかかる。
 すでに日は沈み、窓の外は真っ暗になっている。
「あーい、今仕上がりました。もうレイアウトまでばっちりっす」
「よし、私がチェックしてやるから寄越せ」
「どうぞどうぞ。それにしても先輩、今日はまたすごい一日でしたよねえ」
「ん、急に何だ?」
「醒徒会っすよ、醒徒会。最強といわれていたけどあんなにもすごいものとは思いませんでした」
 先輩と呼ばれた生徒はやや怪訝な顔をした。
「そうか? 今日はまだおとなしかったほうだと思うが……そうか。お前は今回が初の醒徒会取材だったな。だったら覚悟しておくといい。これからは、もっともっと凄いものが見られるぞ」
 その先輩は不吉な笑みを見せてレイアウト用のゲラをばさっと机に投げ出す。
 そこには、うれしそうにびゃっこセイバーを抱えた御鈴会長を中心とした醒徒会メンバー一同が写っていた。
 御鈴会長以上にうれしそうにクリスタルセイバーを掲げた紫隠と龍河の姿と共に。




           †




 会計の秘密部屋にて。
 実は、確保された『クリスタルライガー・ウイングver.』は3体あったのだが、そのうち1体は金太郎に確保されていた。
 この羽子板大会が2人3チームの変則戦となった裏事情は、誰にも知られることはなかったという。




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