【コスプレ戦士キョウカ ep.0】


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 『ニュートリノによる特殊力場の発見』この論文を書いた事で、敷島藤次の人生は大きく変わってしまった。
 発表したはずの論文はいつの間にか闇に葬られ、勤めていた大学にも居場所がなくなってしまった。
 それらは双葉学園という学園都市の仕業だった。
 敷島の見つけた特殊力場は、魂元力という学園が研究し秘匿してきた国家機密だったらしい。
 超能力やラルヴァという化物など、形として発現したもの以外で観測に成功したのは敷島が初めてという事で、研究者としてそこに招きたいという。
 どこのSFマンガだと思ったが、実際に論文も職場も失った身としては従う他なかった。

「あれが双葉学園か」
 東京の二四番目の区として存在する超巨大学園都市。
 車がだんだんと近づいて行く。広い橋の上だというのに走っているのは敷島の乗った車だけだった。
「な!?」
 突然道の上から黒い影のようなものが浮かび上がる。
 敷島は慌ててハンドルを切った。
 黒い影は犬のような四足をした化物の形になっていた。
 影で出来た犬は敵意をむき出しに牙を剥いている。
「……あれが、ラルヴァ……なのか?」
 ラルヴァが低い唸りを上げて車に突進してくる。
 激しい衝撃が走り、車が横に数メートル吹き飛ばされる。ドアがラルヴァの形にへこんでいた。
 ラルヴァはなおも体当たりを続けている。
 ついに窓がミシミシと音を立てて砕けた。
 敷島は恐怖のあまり車から飛び出した。
 それを待っていたようにラルヴァが敷島飛びかかってきた。
 白い牙が目前に迫り、敷島は死を覚悟する。
 しかし肩に牙が届く刹那、横から指した光線に殴られたようにラルヴァが吹き飛ばされていった。
 その光線が来た方向に目を向けると、そこにはある意味でラルヴァ以上に信じ難いものがあった。
「慈愛と奉仕の魔砲少女(まじかる)★ナースメイド★てぃんくる♪アスカ推参! 悪いビョーマは駆逐します」
 アニメに出てくるような変身ヒロインだ。ご丁寧にビカーンという効果音まで付いている。
 敷島はつい先程まで死を覚悟していたのも忘れ、ただ唖然としていた。
 そして少女に遅れて白いワゴンが敷島に近づいてくる。
「よかった。間に合ったみたいね」
 車から一人の女性が降りてきた。
 その姿を見て、敷島はまたも開いた口が塞がらなかった。
 白衣の下は真っ赤なスーツでブラウスのボタンをかなり外し深い胸元の谷間がほとんど見えてしまっているという、魔法少女ほどではないにしろ常識からは逸脱した格好をしているのだ。
「あの、あなた方は?」
 敷島はなるべく相手を刺激しないように尋ねる。
「私は神楽坂美弥子、専門は生物工学。あの子は八嶋響香、私達の大事な被験体(モルモット)よ」
 神楽坂がラルヴァと戦っている魔法少女を指差す。
「モルモット言うな!」
 アスカだかキョウカだかいう少女が、ラルヴァをステッキで殴りながら声をあげる。
 死そのもののように見えていたはずのラルヴァも、魔法少女の手に掛かるとただのやられ役に見えてくるから不思議だ。
「いい加減消えなさい! 必殺・献身の心(ハート・オブ・デボーション)」
「献身の心(ハート・オブ・デボーション)とは、アスカの溢れるに奉仕の心により、ビョーマを倒す正義の光なのだ」
 どこからともなく、いや確実に響香の背中からチラリと覗くスピーカーから声が聞こえる。
どうやら声も少女が精一杯低い声で吹き込んだもののようだ。
 ステッキから放たれる強い光がラルヴァを包み、もとから存在しなかったかのように消し去った。
「これが、異能者……」
「まあ、あの子はちょっと特別だけどね……吸う?」
 事態について行けず、ぼうっと神楽坂を見ていた敷島に、彼女がタバコを差し出す。
「いや、自分タバコはやらないんで」
「そう」
 とそこにさっきまで、決めのポーズらしきものをしていた響香が歩いてきた。
「あー勝った、勝った。それじゃミヤミヤハカセ帰ろーよ」
「ああ、今日もなかなか良いデータが取れたようだし」
 そう答えて神楽坂も歩き出す。
「ホラ。敷島ハカセも早く早く」
 響香がその場に立ち竦んでいた敷島の腕を引っ張る。
「うっ……」
「ごめんなさい。痛かった?」
 思わず走った痛みに声を上げると、響香が心配そうに顔を覗き込んでいた。どうやらラルヴァに襲われたときにどこか打ってしまったらしい。
「いや、大丈夫だ大したことない」
「そんなことありません。敷島ハカセ怪我してるじゃないですか! 待ってて下さい」
 響香は敷島の肩に手をかざすと、なにやら呪文を唱えた。
「癒しの絶対領域(アブソリュート・ヒーリング)」
 響香の手が緑色に輝き、敷島の傷が引いていく。
「そんな……資料によると、能力は一人一種類じゃ……」
「一種類よ。あの子の能力はマンガのキャラの再現だから」
「はあ……」
 神楽坂の解説にもやはり疑問が浮かぶ。
 ――そんなのアリなのか。
「貴方の疑問は真っ当なものよ。能力者の中でもあの子はイレギュラーなの。だから私やあなたみたいな研究員がついてる」
「自分も?」
「聞いてなかった? まあそういう事だからよろしくね」
 神楽坂が右手を差し出す。
「はあ、よろしく」
 敷島はそれを遠慮がちに握り返した。
「何よ、ぱっとしないヤツね。今日はあんたの歓迎会なんだから、しゃきっとしなさい、しゃきっと」
 神楽坂は敷島の背中をバンバン叩いた。
「こうして後に魂元力研究史に名を残す事となる第十三研究室のメンバーが揃ったのだった」
 響香は技の解説で流していた低い声で、ナレーション調につぶやいた。
「あの、それで自分の車は?」
「今日の飲み代奢ってあげるから」
 神楽坂の手が敷島の背中を優しく叩いた。

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