【双葉学園怪異目録 第壱ノ巻 座敷童子】


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 双葉学園。それはやたらと馬鹿でかい非常識でとんでもない学園都市である。
 そしてそこに通うこの俺、夕凪建司はその中で言えばやたら控えめで慎ましやかな少年だ。
 異能者や怪異怪物が跳梁跋扈するこの世界、この学園において俺は本当に地味である。能力者であるにも関わらず、だ。
 俺の能力は、「見鬼」と呼ばれる力。簡単に言うと、普通は見えないモノを見る、というものだ。幽霊だの何だのを。だがそれぐらいは基本スキルとして持っている異能者も実に多いし、普通の人でも感受性が高かったり、死ぬほどの大変な怪異に巻き込まれて以来見えるようになる人もいるので、まさに地味さでもトップクラスの地味であろう。キングオブジミーだ。
 だが俺はそんな自分の能力を誇る事も悲観することもなく普通に生きてきた。
 はっきりいって、普通の事なのだこれは。世の中には危険なラルヴァが沢山居るが、それは言いかえるなら「人懐っこい犬猫がいて、人と関わらない野鳥とかがいて、そして人を食い殺す猛獣もいる」と同じレベルのことなのだと俺は思う。
 普通の人たちが気づかないだけで、世の中にはちょっと不思議な出来事やラルヴァたちがその隣にいるのだ。
 自分はそれが見えるだけ、気づいているだけで、だからといって世界を救えるような選ばれた能力者というわけでもない。まあ当然だが。そういう話はそういうジャンルの人たちに任せておけばいいわけで。
 そんなわけで俺は可もなく不可もなく、の平和な日常を送っていた。




 双葉学園怪異目録


 第壱ノ巻 座敷童子




 教室にチャイムの音が響きわたり、ホームルームが終わりを告げる。
 俺は特に部活にも入っていないので、そのまま帰宅だ。
 通学路を帰宅する。小学校の頃からずっと通いなれた道を進む。
 道中、公園に差し掛かる。ふと公園に目をやると……
「げ。」
 へんな声が出た。
 目をこする。しかし俺の視たものは幻でもなんでもないようだ。そこには、なんというか。

 ダンボールの豪邸が建っていた。

「……っ、なんだ――あれ」
 あまりの非常識さにさすがの俺も盛大にこけた。唖然とした。
 ダンボールで作られた和風邸宅。そんなものが公園に鎮座ましましていた。
 ダンボールの色と模様でそれとわかるが、あれに着色とウェザリングを施せば普通の和風邸宅と変わりないような、そんなものだった。というか誰がどうやって建てたのだ。
「……」
 好奇心の虫がむくむくとわいてくる。これはいかん。好奇心猫を殺す、藪を突付いて蛇を出す、ということわざを思い出そう。
 思い出した。
 だがそれでも、気になるものはとても気になるものだ。それに……
「この気配は……ラルヴァか」
 見鬼の能力は、見えないものを見るだけでなく、それが異能や怪異であればその気配をおぼろげながら感じることが出来る。俺の目は、あの邸宅がどう見てもラルヴァの力によるものだと教えていた。
 いくしかねぇ。
 危険なモノだったら光の速さでUターン、速やかに携帯電話で学園に電話してバトル系異能者や風紀委員に殲滅してもらえばいいだけだ。
 というわけで俺はその謎のダンボール邸宅を探検することにした。
 近づく。本当に和風邸宅だ。その門をくぐり、中に入る。
「わー」
 中も見事な和風邸宅だった。なんだろうこれは。思わず声が出る。
 畳すら、細かく刻んだダンボールを編んで再現している。匠の技だこれは。思わず惚れ惚れする。
「ん?」
 そんな中に、赤い和服の女の子が部屋に立っていた。
 ボブカット、いやおかっぱ頭か? そこにアクセントとして小さいポニーテール、いやそこまで行かないか。髪の毛をひとふさ結び上げている、小学生ぐらいの女の子だった。
「何してんだ、こんな所で」
 俺はその女の子に声をかけた。はっ、と気づいて振り向く女の子。その女の子が近づいてくる。
「へえ、君は私のこと判るのね。大人なのに」
「大人じゃないよ」
 小学生から見たら大人なのだろうが、まだまだ俺は子供である。
「そうなんだ。でもそのくらいで私の姿が見えるなんて珍しいね」
「ああ。そういう能力だし俺。で、ラルヴァなんだろお前」
「そういう呼ばれ方は好きじゃないな。私は妖怪、座敷童子だよ」
 座敷童子。有名すぎるラルヴァの名前だ。あまりにも有名なので説明は割愛する。だが座敷童子ならそんなに危険はないだろう。俺はさらに質問してみることにする。
「で、これはお前の仕業か。何を企んでいるんだ?」
「企むなんて人聞き悪いわね」
 俺の質問に座敷童子は不機嫌そうに頬を膨らませる。
「そりゃ座敷童子には住んでる家の人に悪さするのもいるけど、私は真っ当ないい座敷童子だよ」
 座敷童子は一般的には家に幸せを呼ぶといわれているが、中には全く逆の座敷童子もいるという。色々とややこしいものだ。
「じゃあなんでこんなことに。お前が元凶なんだろ?」
「まあそうといえばそうなんだけど……」
 座敷童子は眉をひそめる。どうやらちょいと訳ありらしい。そして彼女は話し始める。
「まあ色々あって前の家を出て旅をしてたんだけど」
「ふむふむ」
「それでこの島にやってきて。で、何処に住もうかと街を散歩してて、公園で子供達と友達になってね。それでここにきたの。元はここは子供達がダンボールで作った秘密基地なの」
「……なるほど」
 座敷童子は、子供達とよく遊ぶらしい。なるほど、この街に来て公園で子供達と遊んでいたのか。
「で、私は人に奉られる事でその家に福をもたらすタイプの座敷童子なの」
 いつのまにかいついていつのまにか去るタイプではなくて、大事に奉り続ける限り一家安泰とのことだ。つまり公園の子供達たちに親切にされて秘密基地にやってきたたという事は、家屋に招かれ奉られたと同じ意味合いを持つ。だが……
「繁栄の方向性がとてつもなく間違ってる気がいるのだが」
「なんでこうなっちゃったんだろう……」
 まさか物理的にダンボールハウスが巨大になってしまうとは流石の座敷童子も予想外だったようである。まあ予想できるほうがおかしい。
「ていうかあの子たちに幸せパワーがいかなくて」
 そして家のみが繁栄……というかでかくなったわけか。
 まあ、えてして小学生の物欲とかは限られている。日々が楽しければそれで幸せ、小さな自分の世界が全てなのがあの年頃の子供達だ。そんな子供達の家に憑くのなら、その家の親たちに、家族に幸せがくるのだろうが、子供達だけが作ったこのダンボールの秘密基地ではそうはいかない。
 そして子供達へも届かず、行き場のなくなった座敷童子の幸せパワーが暴走した結果、秘密基地が巨大に変貌したというわけだ。
「正直長く生きててこんな展開初めてだよ」
「俺の短い人生の中でも聞いたことない」
 長かろうが短かろうがダンボールハウスの和風邸宅なんて普通は絶対無いだろう。
「……ん?」
 妙な違和感がある。
 外を見る。さっきまであそこに壁や廊下は無かったはずだが、なんか壁や廊下がある。不思議。
「増えてるな」
「増えてるね」
 リアルタイムで増築されていた。どういう理屈か知らないが着実に巨大化していってる。
「これもお前の仕業か」
「仕業というか原因……だね。あれ~、なんでだろう」
 自分でも制御できていない座敷童子の幸せパワーがもはや偶然の形を越えた無軌道っぷりでこの家をパワーアップさせているようだ。このままではこのダンボールハウスはどんどん成長して公園を飲み込み、下手したら双葉島すら飲み込みかねない。
 というかすでにダンボール城になっている。しかも元が秘密基地だっただけに忍者屋敷の様相すら見せてきた。
 流石は元気でパワフルでアグレッシヴな子供達の秘密基地。住人がそうなら家もパワフルかつアグレッシヴというわけか。このたくましい雑草根性は見習いたい。
「どうしたものか……」
 真っ当に考えたら、この座敷童子を退治するか、この家から出て行ってもらうの二択だろう。
 この座敷童子が「親切にされている限り」家に取り付くラルヴァなら対処方法は簡単。冷たく追い出せばそれで効果は消える。
「なら、まずは子供達を捜さないとな。何処に居るんだ?」
 その俺の質問に、彼女はばつの悪そうに答える。
「…………かくれんぼ中」
「マジか」
 ただでさえ増殖しているこの秘密基地でかくれんぼとな。
 これは骨が折れそうな話だった。

 そして途中経過は割愛する。詳しく書けば文庫本一冊分に相当するスペクタクル感動巨編であるが。
 まさかダンボールで出来たガーディアンと戦いを繰り広げたり、野良ラルヴァから逃げたり、謎の遺跡に突き当たったりするとは思わなかった。人生は不思議と隣りあわせだった。閑話休題。
 そして子供達四人を無事に捕獲、もとい保護する。
 俺は事情を話し納得させる。彼女がラルヴァだという事は伏せて誤魔化しながら。
「そっか、それじゃあ仕方ないなー」
「面白かったんだけどねー」
 そりゃ確かに面白いだろう。だけどそろそろ洒落にならなくなってきているのだ。子供の秘密基地はいずれは潰れて消え、思い出の中に残るのが昔からの伝統である。諸行無常というかなんというか。
「でも、ざっきーはどうすんの?」
 ざっきーとは、子供達が座敷童子につけた名前らしい。別にさやという名前があるらしいが、子供達はざっきーと呼んでいるようだ。
「そうか、家が……」
 この座敷童子はここがなくなれば家が無い。
「じゃあ、俺んとこにくればいいさ」
 俺は考え無しに言う。
「……でもいいの?」
「何が」
 座敷童子が言って来る。
「この島はどうも変だし、もしかしたら君の家に行ってもこんな変な事になるかもしれないよ……?」
 座敷童子がまるで自分が貧乏神みたいなことを言ってのける。というか他人の住む島を変態の巣窟で人外魔境のように言わないで戴きたいものである。結構当たっているので反論はしないでおくが。
「そうなったらそうなったでまた対処考える。今はコレをどうにかするほうが大事だろ」
 そろそろダンボールがただの城を越えて城砦ぐらいにはなってそうだ。
「困ってる人がいれば助け合うのは当然だよ。大したことじゃない」
 そう、本当に大したことじゃない。俺に出来るのは話を聞くことと手を差し伸べること、小学生を追いかけることぐらいだ。
「言い事言うじゃん兄ちゃん! 気に入った、オレの子分にしてやっていいぞ!」
「ありがたき幸せ、親分」
 どうやら俺は気に入られてしまったようだ。
「んじゃ、今日はここまで、ということで。親分」
 俺の促しに、親分は俺が頼んだ言葉を言う。
「じゃあ、終わりだな。ざっきー、『この家から出て行ってくれ』」
 迷惑がっているわけでも、嫌ったわけでもない。純粋に、ただ、この遊びはもう終わったから、みんなで解散という意味だろう。彼らにとっては。だが、出て行け、という言葉は言霊だ。それが座敷童子をこの家から追い出す言霊となり、座敷童子の力をこの家から失わせる。
「……あ」
「わあ……」
「綺麗」
 それは幻想的な光景だった。
 みるみるうちに、ダンボールの巨大な城が小さくなっていく。時間を巻き戻すように。満開の桜が散り、花弁が舞うように。細かい魂源力の、幸せの力が散っていき、小さなダンボールハウスの群れへとそれは戻っていく。
 気がつけば、あんな非常識な怪異など何も無かったかのように、公園には木々のざわめきと子供達の声がひびく平和な光景が戻っていた。
 俺と、座敷童子と、子供達の前には、公園の草むらに設置された小さな秘密基地。ダンボールを汲み上げられた、誰でも一度は体験したことのある、子供の聖域だ。
 懐かしさを感じる。俺の秘密基地は裏山の草むらだった。
「んじゃ、またなー」
「ん、またこんどー!」
 子供達が次々と元気に声をあげて、それぞれの家路に戻る。
 そして最後に、俺と座敷童子だけが残された。
「……とりあえず、行くか」
「うん」
 行きがかり上だが、妙な話になってしまった。
 座敷童子とはそもそも勝手に居つくもののはずなのに、まさか公園で座敷童子を捕まえてしまうとは。まあ捕まえたからといって、虫篭に閉じ込めて飼う趣味は無いし、どうとでもなるようになるだろう。
 だが、寮をあの秘密基地のように無駄にヴァイオレンスに増殖させるような真似だけはしてほしくないものである。



 なお後日譚として追記しておくと、寮の庭に生えている枯れかけの桃の木が不自然に元気になった。
 これも座敷童子の幸せパワーかどうかは知らないがそういうことにしておこう。




 了

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