【双葉学園怪異目録 第二ノ巻 塵塚怪王】


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 この世界には、人類を脅かすラルヴァと呼ばれる魔物が存在する。
 そしてそれらと戦う異能の戦士達もまた存在する。
 だが、この物語は……そんな戦いとは無縁の、小さな隣人達のお話である。



 双葉学園怪異目録

 第二ノ巻 塵塚怪王




「私はセイバーギアで遊びたいのよ」
 居候が何か要求してきた。
 赤い着物を着た女の子。彼女の名はさや。通称ざっきー。座敷童子と呼ばれるラルヴァ……ざっくばらんに言うと妖怪である。
 先日、ダンボール秘密基地事件にて知り合ったものだ。そのままとりあえずなし崩し的にうちに泊まることになって、そのまま居候として居ついてしまった。
 どうにもこの部屋を気に入ったのか中々出て行こうとしない。座敷童子ならもって相応しい家がありそうなものだが。何を好き好んでこんな学生寮にとどまるのか。
 まあ、座敷童子は子供やあるいは見鬼の能力や霊感のある人間にしか見えないので、そんなに問題はないだろう。見える人に見えたなら、座敷童子だと説明すれば喜ばれこそすれたたき出されるといったことはないはずだ。
 その座敷童子の幸福が、枯れかけた桃の木をシャキっと元気にしただけというのも微妙ではある気がするがまあそれは別にいい。寮の管理人さんも桃が成るのを楽しみにして喜んでいたし、小さな幸せとはいあえみんなが笑顔になることはいい事だ。寮の入居者数と桃の数がつりあわずに桃争奪戦のバトルが勃発する未来が見えるがそれはおいておくことにしよう。
「聞いてるケンジ?」
「まあ」
 インスタントの味噌汁を啜りながら相槌を打つ。食卓に並ぶのはどれもこれもインスタントやレトルトの食品だ。まあ寮の独り暮らしの学生なんてこんなものである。さらに居候が出来たのでうちの財政は非常に圧迫されているが。実は貧乏神か疫病神なんじゃないのこいつ、と思ったりはするが口にしない分別は持っている。
「何よその実は貧乏神か疫病神なんじゃないのこいつ、って目は」
 鋭い。エスパーかこいつは。
「私はちゃんと由緒正しい座敷童子だよ。その力はこないだもちゃんと見たでしょ」
 ああ、福も過ぎれば災禍となるのを思い切り体験させていただいた。まあそれについて今更とやかく言うつもりはまったくない。
「そんなわけで、私はセイバーギアで遊びたいのよ」
 コンビニ惣菜の肉じゃがをつまんで言う。食べるか喋るかどっちかにしてほしい。あと俺の中ではそろそろこいつが座敷童子から妖怪食っちゃ寝にレベルアップする。
「セイバーギア、ねえ」
 どうやら親分達――前の事件で知り合った公園を根城にする子供達――がセイバーギアて呼ばれるおもちゃで遊んでいて、それを見て欲しくなったらしい。ちなみにセイバーギアとは、いわゆるホビーロボットである。無駄にハイテクが組み込まれていてかなり本格的だ。何時の時代も最先端技術は子供のおもちゃに使われるというのは本当らしい。
 ちなみに、異能者がセイバーギアを使うと、その異能がセイバーにも発現するという。初等部の異能教育に使われているとか。しかしそれで思うが、俺やさやがそれを使ったらどうなるのだろう。見えないものを見るセイバーギア? ……意味がわからない。それにそもそもラルヴァがセイバーギアを使えるのか。そして使ったところで、家に幸運を与えるなんてのは……うん、意味無いな。
「高いんだよあれ」
 子供のおもちゃにしてはかなり高価な部類だ。少なくとも貧乏学生の俺がほいほいと手を出せる代物ではない。
「どのくらい?」
「このくらい」
 俺は指でだいたいの相場を教える。
「……げ」
 流石の座敷童子もいちおうまともな金銭感覚はあるらしく、ちょっと引いていた。
「最近の子供って贅沢すぎ……」
「お年玉溜めて買ったり、クリスマスプレゼントや誕生日プレゼントとかで買ってもらったりが主流だそうだ」
 高校生でセイバーギアにハマってたりする人たちはバイトとかで金溜めて買うらしいが。噂では謎のマントの怪人がばかでかいセイバーで子供達と遊んでいるとかいないとか。物騒な話である。
「そんなわけでウチではそんな余裕はない」
「えー! 欲しいよー、セイバーギア! 子供達の間ではそれがそのまま偉さに繋がるんだよ!」
 セイバーギアが強いほど子供達の力関係の中で上位に立てるらしい。しかし子供グループの上下関係にこだわるとは座敷童子というのは意外と俗っぽいラルヴァのようだ。俺の中の座敷童子のイメージがどんどん崩れていく。
「おーねーがーいー、なんでもするから!」
「はあ……」
 こうなると子供というのは手が付けられないのはいとことかでよく知っている。どうしたものかと思案して、部屋を見回す俺。
「……ふむ」
 そして、カレンダーに目が留まる。そこにはゴミの日とかのスケジュールが記されてある。ぴこーん、と俺に閃きが走る。
「なんとかなるかもな」
「本当に!?」
「ああ」
 そして俺は立ち上がり、支度をする。厚手の服装に着替えなければならない。あと軍手とかも。
「? どうしたの?」
「セイバーギアを調達しに行くんだよ」




 双葉学園夢の島。
 ゴミ処理場として有名だった元祖夢の島は今は整備されているが、ゴミ処理場としての称号は各地に受け継がれている。
 ここはそんな双葉学園のゴミ処理埋場であり、沢山のゴミが捨てられている。
「なんでこんな所に」
「探すんだよ」
 厚手の長袖長ズボンに軍手、丈夫な厚底の靴という完全装備の俺とさやだった。
 見渡す限り一面のゴミ、ゴミ、ゴミの平原。足元を見れば沢山の家電製品やらなにやらが埋まっている。
「さ、探すって……」
「捨てられたセイバーギアの廃品回収です」
「やっばりー!?」
 さやが悲鳴をあげる。
 当然だ。買う金が無い以上、自らの手で探しあてるしかないのだ。さきほどさや自身が言った通り、最近の子供は贅沢である。つまりまだ使える古いセイバーギアを捨ててしまっている可能性も非常に高いのだ。
「文句を言わずに手を動かす。あ、あとセイバー以外でも使えるモノがあったら回収するように」
「もしかしていつもこんなことやってるの?」
「いつもじゃない」
 やってること自体を否定はしないが。
 そんなわけで、俺たちはセイバーギア探索の作業に入った。


「しかし……」
 色々とまだ使用可能な廃棄物を前にして俺は嘆息する。本当に使えるものが多いのだ。
 こんなに無駄遣いが多いと、本当にもったいないおばけでも出てきそうではある。モノには命が宿ることが多く、それは愛着や無念といった形で宿り形をなして怪異となる。
 実際に、昔から伝わる妖怪変化の大半は器物や動植物の化身だと言ってもいい。座敷童子とて、その伝承のうち幾つかは、家が魂を持った家霊だとか、人形が変化して守り神だとか言われているのだ。あとは物騒な逸話も幾つか。まあ、あのさやは物騒さとは無縁っぽいが。
 俺が彼女を見る。ゴミに足を取られてこけていた。帰ったら銭湯代ぐらいは出してやらないといけないだろう。臭いし。
 気を取り直して俺は散策を開始する。おもちゃは色々とあるし、いくつかセイバーのパーツらしきものも見つけたが、本体が中々に見つからない。そして三時間ほど経過したころ、俺の視界になにやらそれらしいものが入った。
「これはどうかな」
 期待せずにそれを引っ張る。出てきたのは、30センチほどの恐竜のおもちゃ……いや、セイバーギアだった。
「おーいざっきー、見つけたぞ」
 俺は20メートルほど先でくたばっているさやに声をかける。というか俺に働かせて休んでいるとはふてぇ野郎である。
「……え、本当に?」
 現金なもので、ぱぁっと表情を明るくして走ってくる。狸寝入りかこのやろう。
「ほら」
 俺はそれを見せる。
 少し古い型だが、それでもちゃんと動きそうだ。これは修理すればいけるだろう。
「おい、変な持ちかたをするでない」
 そう、ちゃんとしっかり喋るし。
 ……喋る?
「あれ、セイバーって喋らないよね」
「最新式ならそんな機能あってもおかしくないけど……あ」
 まじまじと見て気がついた。気配が……違う。これはただの壊れたおもちゃでは、ない。俺の見鬼の能力が、これはラルヴァだと言っている。
「いつまで掴んでおる。降ろすがよいわ」
「あ、悪い」
 俺は言われるままに降ろす。というかえらく尊大な喋りをする。
「まったく、頭に血がのぼるであろう。我を何だとおもっておるか」
「……セイバーギア?」
「……のゴミ?」
 俺とさやが言う。それに対してこのセイバーは反論する。
「たわけが。我こそは塵塚怪王。付喪神の王である」
「……」
「……」
 いや、王て。王様の割には小さいのだが。
 小さい図体で尊大に胸を張る恐竜ロボを見下ろし、俺とさやは目を合わせる。なんというか……なんだろうこれ、という絶妙なアイコンタクトだ。 
 付喪神とは、長年使われた器物に魂が宿り妖怪化したモノだ。日用品に手足や目玉が生えて動き回る姿を想像してくれればいい。
 そして塵塚怪王とは、ゴミの付喪神である。本来はその名の通りに強力なモノであるはずなのだが……
「ただのゴミの付喪神じゃないの?」
「俺もそう思う」
 どうみてもただの喋るセイバーギアでしかなかった。
「なんだと貴様ら!」
 そんな俺たちの態度が気に食わなかったのだろう。自称塵塚怪王は怒りをあらわにする。
「この我を怒らせるとどうなるか思い知らせてくれる!」
 飛び掛る。
「わっ……!?」
「ケンジ!」
 俺はあわてて手を振る。しかしその程度の防御行動など、塵塚怪王の前には……
「ぐべし!」
 悲鳴。
 軽く振った手にあたって地面に落ちた。所詮はプラスチックのオモチャだった。
 しかも落ちた拍子に足がもげた。弱いぞこいつ。
「く、貴様……この我にここまで……さては、名のある退魔師か……!」
 必死に身体を起こし、俺を見上げて睨みつける塵塚怪王。いや、ただ見鬼が出来るだけの普通の少年なんだが。
「くくく、だが思い上がるな。塵塚の怪異の王たるこの我がひとたび号令をかけるなら、此処の付喪神達が全ておぬしらに……」
 俺は周囲をじっくりと見る。
 ……ラルヴァの気配、まるで無し。
「いるの? ケンジ」
「ここにいるラルヴァはお前とコレだけ」
「ふぅん」
 俺とさやの会話に、塵塚怪王が青ざめる。
「え……あ、いや、今は昼だから出てこないだけ! 時間帯がまずいから! だから!」
 必死にいいわけをする塵塚怪王。
「とりあえず埋めるか」
「そうね」
 俺とさやの意見は一致した、
「やめてやめて、ちょっ、反省するからやめるがよい~!!」

 双葉学園の夢の島に、自称塵塚怪王の尊大かつ情けない悲鳴が響いたのだった。






「というわけで、これからお世話になるぞ」
「うん、よしろくね」
「うむ、よろしく頼む、姉君」
 座敷童子のさやと仲良さげに話す塵塚怪王なセイバーギアがテーブルの上で歩く。
 そんなわけで、居候が一匹増えた。なんでだ。
 相変わらず尊大な口調ではあるが、まあ許すことにした。それに自分で動くセイバーギアというのも面白い。食費も充電だけで済むし。
 とりあえずみすぼらしいボロボロの姿だと俺の精神衛生上悪いのでプラ板やプラパテで修繕しておいた。

 なお後日、さやが怪王で親分と公園で戦った結果、見事にボロ負けしたことを追記しておく。
 いくらラルヴァ化したとはいえ、流石に古い型落ち品では最新のセイバーギアには勝てなかったようである。
 さやと怪王の二人は、リベンジのためのパワーアップ政策として改造部品の購入費をよこせと言っているが、俺にそんな気は毛頭ない。そもそもそんなの買える位なら最初からゴミ漁りなどしなかったのだ。
 というか働かざるもの食うべからず。部屋の掃除ぐらいして欲しいものだ。
「そしたらお小遣いくれるの?」
「お小遣いをねだる座敷童子なんて初めて聞いた」
「座敷童子にはお供え物とかするの当然よ」
 ずうずうしいヤツだ。しかしまあ働く気概があるのはいい事である。さて、俺もバイトを探すことにしよう。
 少なくともセイバーギアのメンテナンスパーツとかが買える位は稼がねばならない。まったく迷惑な話であった。だが身内が小学生に負けるなど、俺の小さなプライドが許しはしないのである。
 打倒親分。戦えさや、戦え怪王! いつか親分のセイバーギアを倒し勝利を掴み、公園の王として君臨するその日まで!




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