【MP3 ショット・イン・ザ・ダーク:後編】


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 ※ ※ ※


「おい、誰かおらぬのか! ここを開けるのじゃ!!」
 ショコラはただ待っていることに飽き、再びがんがんと扉を叩き始めた。
「ちょっと、うるさいわよチビ! 耳がきんきんするじゃない!」
 大神は自身の頭の上にある大きな耳を押さえる。狼の特性として聴覚が優れているため、このような密室で鉄の叩く音が響くとうるさくてかなわないだろう。そんな大神を、ショコラは腰に手を当てぷんすかと怒っている。
「じゃあどうするのじゃ。まったく。お主も何か方法を考えたらどうじゃ」
「あたしだって考えてるわよ。でも……」
 大神はまた目に涙を浮かべぎゅっと自分の膝を抱く。
 あれからもう三時間は経っている。授業の終わりを知らせるチャイムがここまで聞こえてきた。このままでは誰も探しに来てくれないまま、学園に誰もいなくなってしまうのではないかと不安になる。
 きっと誰も自分を探してくれはしない。
 自分はみんなに嫌われているんだ、だから誰も自分がいないことに気がつかない。誰も探しに来てくれはしない。
 そんなことを考えてしまい、不安で胸が潰されそうになっていた。
 彼女は都会の人間である学園の生徒たちから好かれようといつも必死であった。慣れないお洒落もして、他の女子のように綺麗に着飾らないと周りから孤立する。そう考えていた。しかし、それは余計に彼女を空回りさせるだけである。
 彼女は孤高な狼ではなく、孤独で、臆病で、泣き虫なただの女の子に過ぎない。
 そんな大神も春部に出会い、有葉、カストロビッチなどのH組の友人らと今のような関係になっていけたのは幸福であった。
 それまで大神は、ずっと保健室登校をしていた。そう、瀬賀のいる保健室で。
「あ!」
 大神が押し黙っていると、突然ショコラがそう声を上げた。
「な、何よ。驚かせないでよ」
 大神はちらりとショコラのほうへと目を向ける。するとショコラはポケットから小さな包み紙を取りだしていた。
「じゃじゃーん。朝にチノのやつがカントリーマームを一つくれたのじゃ」
 ショコラはそれをまるで万能アイテムを出したかのように自信満々に大神に見せつけた。
「……むう。食べればいいじゃない」
 大神は頬を膨らませてそう呟く。だがショコラはそれを大神の方へと投げてよこし、慌てて大神はそれをキャッチする。
「お主が食べろ。何も食べておらんのだろう。わしが人間の喰い物を食べても、味はわかっても空腹が満たされることはないからのう」
「…………ありがと」
 大神は恥ずかしそうに小さくそう呟いた。
「なんか言ったか?」
「な、なんでもないわよ!」
 大神はもそもそとカントリーマームを大事そうに口に含んでいく。しかし、それ一つではお腹は満たされず、人狼の力を引き出すにはまだ全然足りない。状況は相変わらず最悪なままだ。
「うう……」
 大神はカントリーマームを食べ終わり、手の粉を落としていると、ショコラが一瞬そう呻いたことに気付いた。
 じっと目をこらすと、ショコラは暗闇の中でかすかに震えていることがわかる。それは別に大神のように恐怖や不安からくるものではないだろう。
「……ねえ、もしかして寒いの?」
 そう、今は真冬だ。しかもこの体育倉庫中は冷え切っていて、恐らく外よりも寒いであろう。人狼の大神は体温が高く、寒さに強いのだが、吸血鬼のショコラは寒さに弱いようである。ショコラはぶるぶると震えて自分の腕を抱いている。
「べ、別に平気じゃわい」
「嘘、寒いに決まってるわよ。鼻水出てるじゃない」
 大神は今までショコラが寒さに震えていることに気付くことができなかった自分を恥じた。どれだけ自分は自分のことしか考えていなかったんだろう。ショコラは助けを呼ぶために暴れたり、空腹状態の大神にお菓子を差し出したのに、自分はただ拗ねて泣いていただけだ。
 自分にできることはないんだろうか。大神は必死にそう考えた。
「…………そうだ」
 大神は何かを思いついたように顔を上げ、決意をしたように頷いた。
 さきほどにもらったお菓子のおかげで、わずかにだが大神には力が戻っている。それを大神は思いだし、ショコラのほうへ視線を向ける。
「ねえ、何か丸いものない? なんでもいいんだけど」
「丸いもの……? さっきあいつらが投げたボールがあるじゃろう」
「あっ、そっか」
 大神は慌てて隅に転がっているボールを手に取り、それを自分の視線の前まで持ち上げ、じっと見詰め始めた。
「な、何をしておるのじゃ。ボール遊びをしておる場合か!」
「しっ、黙ってて」
 大神はそのままボールを見つめ続けている。
 すると、驚くべきことに大神の身体に変化が表れ始めた。
 目は黄色く輝く初め、爪と牙が伸び、全身の肌から獣のような毛がどんどんと生えてくる。
「あああああああああ!」
 大神は背を丸め、骨格すらも変化していき、ごきごきという妙な音が響いていく。
「こ、これは人狼の変身《トランス》!?」
 ショコラはその現象を知っていた。人狼が持つ特性のひとつで、狼へと身体を変えることができるのである。それは個体によっては半人半狼の姿になったり、完全に狼そのものへと変化する場合がある。だが人狼は変身する瞬間を見られることを激しく嫌う。それは変身過程の醜さによるものだ。人狼とのかかわりが深い吸血鬼であるショコラは、それを察し、しばしの間後ろを向いていた。その変身を大嫌いと言ったショコラの前で行うということは、それほどの決意がいったであろうことをショコラは悟る。
「も、もうこっち向いてもいいわよ」
 背後から大神の声が聞こえ、ショコラはそっと振り返る。
 だが、目の前には何もなかった。そこには誰も立ってはいなかったのである。
「ぬう、どこに行ったワンコ! 姿を隠してどうするのじゃ!」
 ショコラはきょろきょろとあたりを見回すが、どこにも姿は見えない。
「ここよー。ここ! ここ!」
 足元からそんなくぐもった声が聞こえ、ふっとショコラは視線を下に向ける。するとそこにはなぜか大神が着ていたはずの服が散らかって落ちていた。制服にパーカー。それどころか下着までも一緒に落ちている。だがその服の下から何かがもぞもぞと蠢いていることにショコラは気付いた。
 屈みこんでその服をどかしてやると、そこにはなんとも言えない、可愛い子犬がちょこんと座っていた。
「…………ワンコ。お主本当に犬じゃったんだな」
「犬じゃないって言ってるでしょ! 狼よ、日本狼!!」
 子犬だと思ったのは間違いで、大神はなんと子狼の姿に変化しているのであった。ふさふさとした毛並みに、耳が垂れているのが愛らしい。だが間違いなく日本狼の子供である。どうやらショコラからもらったお菓子のおかげで、変身するくらいの力は戻っていたようだ。
「おかしいのう。普通は変身っていったら大きな狼に変身したりするもんじゃと思っていたが……」
「悪かったわねちっちゃくて!」
 大神は狼の姿のままそう話す。かなりシュールな光景である。大神は人狼の中でも血が薄く、最弱の部類だ。そのせいで変身してもこのような子狼の姿にしか変身ができないようである。
「こんな姿になってもどうしようもないじゃろ」
 ショコラはがっかりしたように大きく溜息をつく。だが大神はそんなショコラの胸の中へとぴょんと飛び込んで行った。
「な、何をするのじゃ。くすぐったいであろう!」
 大神はそのふさふさの身体でショコラの懐に潜り込んできて思わずショコラはその場に座り込んでしまう。
「お、お主何を――」
「どう? 暖かいでしょ?」
「あ」
 確かに毛に覆われている大神の体は暖かかった。ショコラはそっと小さくなっている大神の身体を抱きしめ、その暖かさにしばしうっとりとする。
「そこにあたしの服があるでしょ。あれも羽織ればもっと暖かいわよ」
 大神にそう言われショコラは大神のパーカーを羽織り、頭にフードを被る。これで寒さを防ぐことができるだろう。
「……すまないのう」
「べ、べつに。困った時はお互いさまよ」
 大神はショコラに抱きしめられながら恥ずかしそうにそう呟く。実際、人肌に触れ、安心しているのは大神の方かもしれない。
「のうワンコ。なんでお主はアルのことが好きなんじゃ……?」
 ショコラは大神の頭に顎をのせながらそう尋ねた。大神は少し考えてからゆっくりとその狼の口を開く。
「瀬賀先生はあたしの命の恩人なのよ……」
「ほう。わしと同じじゃの」
 大神がこの学園に来たのは二年前からだ。それまでは東北の人狼族の大神村で平和に暮らしていたのだった。
 だが、その平穏な村の生活は理不尽にもある日崩壊することになった。
「変な名前の神父があたしたちの村に来たのよ。それで、あたしたち大神一族をみんな殺しちゃったの」
 大神はできるだけ、意識して淡々とそう言った。
 そうでもしなければ当時のことを鮮明に思い出してしまい、とても耐えられない。
大神一族の前に現れたその謎の神父は“再殺のロメロ”と名乗っていたという。
“不死者狩り”とも呼ばれる、吸血鬼や人狼などのような不死、半不死である夜の眷属を討伐することを生業としている|怪物討伐者《フリーランサー》らしい。そのことを大神はのちに学園から聞いた。再殺のロメロは学園側も追っているラルヴァ専門の殺し屋なのだということを。
 一族の人狼の猛者たちが束になってもその人物を倒すことはできず、逆に全員返り討ちに合い、大神の一族はみな死に絶えたという。大神自身もその現場にいて、ロメロの攻撃を受けて瀕死の重傷を負っていた。
 放っておけば数十分で死ぬような怪我のため、ロメロは止めを刺さずにその場から立ち去った。大神は死のカウントダウンを一族の死体の中、ただ数えるしかなかった。
「だけど、そのときに駆けつけてきたのが学園の異能者たちだったの。その中に瀬賀先生もいて、あたしの命を救ってくれたのよ……」
 身体が冷え切り、身体を切り裂かれて死の淵をさまよっていた大神の命を引き戻したのは、医神の瞳を持つ瀬賀であった。彼の異能によりその場で手術が行われ、大神だけは一命を取り戻すことができた。だが、村の者は総て死に絶えており、大神は双葉学園に引き取られることになったのだ。
「あたしは忘れない。『死んだ家族たちのためにもお前は生きろ』って瀬賀先生が言ってくれたことを。塞ぎこんでたあたしが保健室に入り浸っていても文句言わずに勉強一緒にみてくれたことも、全部忘れないの……たとえ先生が忘れてても」
 同じ人狼だけがいた村でずっと過ごしてきた大神は、人間がたくさんいるこの島での生活に最初は戸惑っていた。自分の頭から生えている耳を、みなが奇異の視線で見ていると被害妄想していて、いつもフードを頭にすっぽりと被って生活していた。春部のような自分と似た生徒に出会ってからはそうでもなくなったが、今でもその名残でよくパーカーを好んで着ているようだ。
「そうか……」
 もう辛い事は話さなくていい、そう言っているかのようにショコラは小さな大神の身体をぎゅっと抱きしめる。
「ちょ、ちょっと。苦しいわよ!」
 大神はそう言うが、かすかにショコラの身体がまた震えだしていることに彼女は気付く。
「何よあんた。まだ寒いの大丈夫……?」
 大神は心配そうにそう尋ねるが、ショコラは首を大きく横に振る。
「…………のうワンコ」
「な、なによ」
 ショコラは戸惑ったように、すごく恥ずかしそうに、とてつもなく困ったようにもじもじとして、ゆっくりとその言葉を紡いだ。
「おしっこしたい」
「へ?」
 思わず大神はそんな間抜けな声をだしてしまった。
 ぽかんとする大神をよそに、ショコラは苦しそうに身体をくねらせている。
「トイレはどこじゃあ!」
 ショコラはそう叫ぶが、当然こんな体育倉庫の中にそんなものがあるわけもなく、ただひたすら我慢するしかなかった。
 ぶるぶると震え、顔を真っ赤にしているのがこの暗闇の中でも大神にはわかった。
「が、我慢しなさいよ。いやだからねあたしはおしっこまみれの空間に閉じ込められるのは!」
「し、しかしだなワンコ……我慢には限界というものがあってのう」
「ダメー! 諦めちゃだめー!」
 大神は狼の姿のままショコラに抱かれ、胸の中でばたばたと暴れるがなんの意味も無かった。
「座っていると余計に尿が溜まりそうじゃ……」
 そう言ってショコラは大神を抱いたまま立ち上がるが、その足はぶるぶると震えている。寒さで身体が冷えてしまったのであろう。彼女の膀胱は限界ぎりぎりである。
「がんばりなさい。ファイト、ファイトよ!」
「うう……」
 ショコラの眼には涙が浮かび始めている。どうやら尿意により、今まで張り詰めていたものが崩壊しそうであった。
「うわ―――――――ん。誰か助けに来るのじゃー! アルー、どこにいるのじゃあ! こんなところは寂しいのじゃあああ!」
 とうとうショコラの涙腺は決壊してしまった。どうやらずっと大神に悪態をついたり、冷静を装ったりしていたのは大神に対する見栄であったようだ。本当は大神よりもショコラの方がずっと泣きわめきたかったに違いない。
「ちょ、ちょっと。急に泣かないでよ。あんたが泣いたらあたしだって……ううっ、ぐす……うわーん!」
 強気だったショコラが泣き始め、大神もまたつられて泣きだし始めてきてしまった。もうこうなったらどうしようもないだろう。二人はもはやお互いに対する見栄すらもなくなり、ひたすら大声で泣き叫んでいた。
「うわーん! お腹すいたよー! 助けて瀬賀せんせー!」
「うう、おしっこしたいー! 早く出すのじゃアルー!」
 二人の泣き声はとても大きく、びりびりと響いていく。わんわんと大神とショコラは泣いた。ただひたすら泣いていた。無力な子供たちにできることは、泣く、という行為だけである。
 だが、子供が泣いて叫べば誰かが見つけてくれる。そう世界はできていた。
 二人が寄り添いながら泣いていると、突然がごんという音と共に体育倉庫の扉が錆びた金属音を立てて、ゆっくりと開いていく。
 扉のその隙間からは夕日が差し込み、そこには逆光を浴びている人影があった。二人は息を止め、じっとその人影を見つめる。
「――誰?」
 二人が同時にそう呟くと、その人影はゆっくりとその身体を扉の内側へと滑り込ませ、輪郭がはっきりしてきた。
「お前ら……。こんなところにいたのか」
 そこにはあきれ顔で溜息をつきながら、顔を押さえている瀬賀の姿があった。眉間に皺が寄っているが、数秒後、安堵の表情に変わり、優しい歩調で二人のもとへ歩み寄ってきた。
「せ、瀬賀せんせー!」
「アルゥゥゥ!」
 大神とショコラは瀬賀の顔を見て安心したのか、さらに涙をぶわっと流し、瀬賀のもとへと駆け寄ってくる。突然走り寄ってきた二人に瀬賀は怯んでいるようである。
 緊張が解けたせいか、大神の変身も瀬賀に駆け寄る途中で解けている。人間の姿に戻りショコラと一緒に瀬賀に抱きついたのであった。
「うおおお、重い。離れろ、抱きつくな!」
 二人に一斉に寄りかかられ、瀬賀は思わず膝をついてしまう。瀬賀が文句を言っても二人は離れずわんわんと泣きながら瀬賀の首に手を回している。よっぽど張り詰めていたのだろう、その姿はまるで親に泣きつく小さな子供のようである。
「早く助けにきてよ瀬賀せんせー!」
「うう、わしらのこと忘れたのかと思ったではないかアル!」
「悪かったよ。まさかこんなところに閉じ込められてるとはな……でももう大丈夫だ」
 瀬賀は二人の頭を撫で、安心させるようにそう言った。
「しかし大神。お前服どうした……?」
 瀬賀は目を泳がせながらそう言った。
「え?」
 大神はきょとんとするが、すぐにその言葉の意味を悟る。大神は今狼の姿から人間の姿に戻っている。だが服は体育倉庫に落ちたままである。
 つまり大神は素っ裸のまま瀬賀に抱きついていた。
「きゃあああ! も、もう早く言って下さい瀬賀先生! でも……瀬賀先生になら裸見られても平気だもん♪」
 大神は恥ずかしがるどころかそのまま強く瀬賀に抱きついている。柔らかく暖かい肌が直接瀬賀のいたるところに当たり、さすがの瀬賀も顔を真っ赤にして天井を見上げた。
「バ、バカ野郎! 風邪引かれて保健室に来られても困るんだよ! 早く服着ろよ!」
 瀬賀はそう叫ぶが、大神は「えへへへ」と笑っているだけである。瀬賀が困っていると、ちょいちょいっとショコラが瀬賀の袖を引っ張った。
「ん、どうしたショコラ……?」
 ふとショコラの顔を見ると、真っ赤になりながら、何かもじもじと自分のスカートを必死に抑えているようであった。
「あのな、あのなアル……」
「だからなんだよ?」
「か、替えのパンツ持ってきてくれないかのう……」
「は……!?」
 瀬賀は意味がわからず間抜けな声を出してしまう。
 極度の緊張が解けて安堵し、どうやらショコラは大洪水を起こしてしまったらしい。
「早くするのじゃ……。パンツの中がぐしょぐしょじゃ……」







 二人の居場所を教えるメールを受け、練井は旧体育館の体育倉庫へと向かっていった。
 そこに辿りつくと体育倉庫の扉は開かれており、練井は慌ててその扉に駆け寄っていった。
(こんなところにいるのかしら……)
 半信半疑で練井はその扉を、少しだけ顔を出して恐る恐る覗き見た。
 するとそこにはとんでもない光景が広がっていたのである。
(せ、瀬賀先生……!)
 そこには素っ裸の大神と、顔を赤らめているショコラが瀬賀に抱きついている姿があった。
(瀬賀先生……。こんなところで裸の大神さんと何をしてるの!? まさか……!)
 練井は驚きのあまり頭が混乱してしまう。必死で頭を回転させて状況を整理しようとするが、やはり余計に混乱するだけであった。
「パンツの中がぐしょぐしょじゃ……」
 そんなショコラの言葉を聞き、練井はさらに驚く。見るとショコラは股を押さえて、顔を赤らめて瀬賀をじっと見つめているからであった。
 思わず練井は気が遠くなり、扉にもたれかかってしまう。その時がたりと音がして、練井に気付いた瀬賀と目があってしまう。
「あ……。練井先生……」
「瀬賀先生………………」
 しばしの沈黙。それは数秒の間であるが、二人には永劫にも近い沈黙に感じた。瀬賀が何か弁解を口にしようとした瞬間、先に練井が叫び声を上げた。
「不潔です! 瀬賀先生の変態! 生徒二人と一緒にこんな体育倉庫で何してたんですか~~~~~~~~~!」
 練井はぽろぽろと涙をこぼし、今まで聞いたことも無いような大声で叫び、その場から走り去って行ってしまった。
「ちょ、ちが! 練井先生――――!」
 瀬賀はすぐに追いかけようとするが、大神とショコラが抱きついているため身動きがとれず、ただその場でがくりと項垂れることになった。
 すると、練井と入れ替わりにカストロビッチがやってきた。
「瀬賀先生。今練井先生が泣いて走ってましたけど――」
 カストロビッチも体育倉庫の中を覗き見て、絶句する。
「そうですか瀬賀先生……。瀬賀先生もついに3Pのよさがわかってくれたようですね!」
「おいまてイワン! だから誤解だ!」
「いえいえ、わかってます。じゃあ今度は4Pに挑戦しましょう、この俺の超絶テクニックをお見せしますよ!」
 そう言ってカストロビッチは自分のシャツを脱ぎ棄て、パンツ一丁のまま体育倉庫の中へと飛び込んできた。
「来るんじゃねえ変態野郎!!」
 そんな叫び声が夕方の空へと響いたのであった。




 ※ ※ ※



「それで。結局見つかったの?」
『ああ、ワンコちゃんもショコラちゃんもちゃんと見つかったよ。いててて……』
 春部はカストロビッチと電話をしていた。どうやら探していた二人が見つかったという報告を受けているようである。
「なによ。どっか怪我でもしたの? 珍しいわね」
『いやべつに。ちょっと瀬賀先生に蹴られてショコラちゃんに殴られてワンコちゃんに噛みつかれただけだ』
「あっそ」
『しかしお前よくあの二人の居場所がわかったな』
 そう、三人に大神とショコラの居場所をメールしたのは春部であった。
 春部は本当に何でもないと言ったふうに、少しだけ笑った。
「べつに、たいしたことじゃないわよ。ちょっとした|つて《・・》から聞いたのよ」
『ふーん。まあ二人とも見つかったし、もう帰ってもいいぞ。俺もこのまま寮に戻る』
「なによ、勝手ね。私がわざわざ探すの手伝ってやったのに」
『まあ今日のお礼ならきっと瀬賀先生がしてくれるさ。じゃあな』
 そう言ってカストロビッチは電話を切った。春部はそのままポケットに携帯電話をねじ込み、傍にいた有葉のほうへ振り向いた。
「じゃあ帰ろっか千乃! 帰りにアイスでも食べにいこ!」
「うん、行く~!」
 有葉のほうを向いた春部はとろけそうなくらいの笑顔で、そのまま有葉を抱きかかえて校門へ向かって歩いていく。
 ふっと春部は後ろを返る。
 そこには竹沢と、その子分たち十人が折り重なるように積み上げられ、気絶していたのであった。
「まったく、髪が乱れちゃったじゃない」






※おまけ※


 翌日。
 昼の保健室に瀬賀はもちろんのこと、大神とショコラの姿がそこにはあった。
「いっただきま~~~~す」
 大神は元気よくそう言い、大量に並べられた弁当を食べ始めた。その数およそ十人前にくらいであろう。大神は嬉しそうにぱくぱくと食べている。
「どんだけ食べるんだよお前は……」
 ベッドに腰掛けながら瀬賀は大神の大食いに呆れかえっていた。瀬賀はショコラが作ってきた弁当をぱくついていた。ご飯の上にかけられた桜でんぶはハート型をしていて、芸が細かい。
「だってだって。あたしたち人狼は食べないと力出ないんだもん」
 そう言いながら箸を必死で動かし、口の中いっぱいにおかずを詰め込んでいる。
「ふん。そんなんじゃ狼どころか豚のようになるぞ」
 そんな大神を見て、瀬賀の指を赤ん坊のようにちゅーちゅーと吸っているショコラがそう言った。どうやらまた指から血を摂取しているようである。
「うるさいわね。いいのよ、人狼は力を使うとカロリー消費して、太らないようにできてるんだから」
 ショコラの嫌味にぷりぷりとしているが、顔は笑っていて大神はおいしそうに自分の弁当を食べていく。みるみるうちに弁当の中が消えていってしまう。
「まあお前らが仲良くやってくれてるようでよかったよ。またケンカして変な面倒になんか巻き込まれたら俺の神経がもたねえよ」
「仲良くなんかしてないですって!」
「仲良くなんかしておらん!」
 二人はそう同時に叫び、瀬賀の顔を睨んだ。
「それを仲いいって言うんだよ。お前らもう友達同士だろ」
「友達じゃないです!」
「友達じゃないわ!」
 瀬賀はやれやれと肩をすくめる。すると、二人は顔を見合わせ、またもや同時にこう言った。
「恋敵《ライバル》よ!」
「恋敵《ライバル》じゃ!」
 かくして世界各地で行われている吸血鬼と人狼の争いは、皮肉にもこの双葉学園でもその火花を散らすことになっていた。

おわり(あるいはつづく)








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