【恋だまりは鈍色の空】


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  恋だまりは鈍色の空  ラノで読む


     一

 二月十四日。
「そこの信号を右」
「細い道だけど、本当に大丈夫かい?」
 薄緑の作業着に同色の丸い帽子を被った老ドライバーがハンドルを回しながら、タクシーの運転手のようなことを訊いた。
「問題ない。この時間帯だとメイン通りをまっすぐ突き進んでく車が多いから、さっきの道からだとなかなか横断できないんだよ」
 学生マンションや研究棟のあいだに無理やり作った感じの道路を、運搬車がゆっくりと抜けていく。ここはさすがに年の功というか、車一台ほどの道幅しかない狭い通りを、初めてにもかかわらずほとんど減速しないで走らせる。
「そこの交差点は注意したほうがいい。あそこから急に野良猫が飛び出したりするからな」
 そう言って、コンビニの側面あたりの壁影を指差す。午前の陽光が斜めに降り注いでいるため、隣り合った民家との隙間にあるコンクリの獣道に気がつきにくいのだ。忠告を聞いた老ドライバーは素早くギアを下げた。
「兄ちゃん詳しいね。この島は長いの?」
「半年とかそこらだ。暇人なもんだから俺、よくぶらぶら出歩いてるんで。ジイさんは都内から来てるんだろ?」
「文京区のほうからだよ」
「へェ、わりと近いな」
「孫が異能者でね、娘夫婦がこの島に住んでいるんだ。そのよしみで、食料品とかの一般商品の配達もたまに請け負ってるんだよ。恥ずかしい話だが、いつもの卸し先が移転したもんで、この区域は初めてでよく地図がわからないのよ」
 老ドライバーは学園島の東の方にある地区の名前をあげた。たしか低学年異能者が家族ごと移り住んでいるエリアだ。
 何度か角を曲がって広い道に出ると、目的の店が目の前にあらわれた。カラフルな電飾や、柔らかそうなピンク色の壁面が真新しいファンシーショップ。
「目に悪い店だな。視覚的にキツい匂いがぷんぷんするぞ」
 老ドライバーは笑って同意しながら、「それでも足を運んで買い求めるものがあるからこそ、こうしてこっちに仕事が回ってくる。景気のいい話だよ」
 老ドライバーと共にワゴンから降り、後ろの荷台に目をやると、うず高く積まれた段ボールにはどれも同じブランド名が書かれている。梱包されている上に貼ってある注文書きには、マスコットキーチェーンや細々したアクセサリーがリストに並んでいた。
「たしかに女が好きそうなやつだな。オレにはてんで理解できないセンスだが」
「わたしにもさっぱりだけどね。でも兄ちゃんは若いんだし、女の子を口説くならグッズの一つや二つは押さえといたほうがいいんじゃないかね?」
「オレは小細工を労さなくても十分な魅力を備えてるっつーの」
 フロントガラスに向き合って、ぱっと(一見手入れのしていない)ぼさぼさ頭をなでつけると、眼鏡の端を持ちあげて笑う。
「……わたしが時代遅れなのかもしらんが、兄ちゃんは百歩譲って三枚目と思うよ」
「わかってねえなジイさん。それなりに平均的な顔立ちのほうが、露骨なイケメンより引っ掛けやすいんだぜ? そこに俺の饒舌《じょうぜつ》なセールストークが乗算されてみろ、卒倒昇天、もうドカーンよ」
 どかーんと、両手を勢い良く挙げる様子を見て苦笑しながら、老ドライバーは積荷を降ろしていく。
「なんならジイさんの孫ってのを紹介してくれよ。オレの本領を間近で見せてやるけど」
「残念ながら、孫は男の子だよ」
「チッ、野郎かよ。じゃあ娘さんでいいわ」
「言っとくが娘は未亡人じゃないぞ」
「無問題だ。人妻はまだオレの未踏の領域だからな」
 ババァは門外だが、と両手を頭の後ろに組んであさってなフォローを挟む。
「ははは、そんなことしたら家に帰るまで車の後ろに括りつけて引き摺り倒すぞクソ坊主」
 カチカチと作業用カッターの刃を出しながら、真顔で空恐ろしいことを言ってのける老ドライバーの目は笑っていなかった。手際よく段ボールの一箱を開け、それをひょいと投げてよこした。
「あんだこれ?」
 それは病気見舞いにありそうな果物カゴを一回り小さくしたようなモノで、なかには三つの布地でできた白い造花が咲いている。それを目の粗いピンクのレース生地がカゴごと包んでいる。
「シルクフラワーっていうんだ」
 店への搬入を終えた老ドライバーは、ワゴンに寄りかかってからタバコに火をつけた。時代が時代なら、煙管《キセル》のほうが似合うだろう。先端を赤く燃やして、ほぅと煙を吐いた。
「ガイドの礼だよ」
「こんな腹の足しにならねぇものより、飯でも奢ってもらったほうがオレはありがたいんだけどな」
 大儀そうに、出来の悪い手鞠のようにカゴを手のひらで転がして不平を述べた。
「図々しい兄ちゃんだなぁ」
「ひひ、これでもタカる相手は選んでるつもりだぜ? 別に高いモン食わせろってわけじゃねえし。それにホラ、この近くにあるバーガーショップでいいんだから」
「兄ちゃんがわたしの孫だったら説教するところだよ」
「それはそれは、他人で助かったな。ぜひ反面教師として観察してくれ」
「ご両親が聞いたらさぞ悲しむんじゃないかね」
 ひひひと肩を揺らして笑い、「わりと天涯孤独だから、いつ死んでも問題ないんだなこれが」
 軽い調子で答えたのだが、向こうは少し驚いたらしい。工場のラインが急停止したみたいに、鼻からくゆらせていた紫煙がぴたりと止まり、代わりに老ドライバーのまばたきが多くなる。なんだが同情されて懐石料理でもご馳走されたら面倒なので、適当に思いついたことを言ってみる。
「というのは冗談で、まあ勘当同然みたいなもんだ。同情したかジイさん? だったらその憐れみの何割かでいいから奢るというか施《ほどこ》して!」
 それまでの軽薄さが後押ししたのか、老ドライバーの鼻の穴が膨らんで、また煙が吐き出される。動揺という異常個所が、ただの誤作動だったとすぐに切り替えられたらしい。それから安堵した声で微笑した。
「なんだ、危うく寿司でも食わせてやろうかと思ったよ」
「オレもマジに取られて焦ったっつうの。そのうちオレオレ詐欺に騙されるぞジイさん」
 こんな若造に冷やかされたのが障ったのか、ムッとした顔で睨んだ。
「わたしゃ孫の声を忘れるほどまだボケちゃいない」
「その意気だ。若いやつに負けてらんないしな」
「当たり前だ」フン、とまた鼻の穴が膨らむ。
「だったら若人《わこうど》の集まる場所に行って、敵情視察といこうじゃないか」
 というワケでゴーだ。と、返事を待たないで歩き始める。「結局それか」と呆れたという感じで煙と一緒にため息をつき、老ドライバーは携帯灰皿にタバコをもみ消すと、ポケットにしまってから後ろについてきた。その気配を背に感じて、デミヒューマンラルヴァの彼――サイテは、振り返らずシルクフラワーの詰まったカゴを手に担ぎながら足を速めた。

     二

 ところ変わって、日も傾いて放課後にさしかかった夕刻、ハンバーガーショップ<フタバーガー>。島の名前をモチーフにし、その安直極まりないネーミングから分かるとおり、学園直営のファーストフードである。
 店内スタッフが調理と衛生管理の専門職員以外は、学生アルバイトのみで構成されており、双葉学園の十六歳以上の高等部の生徒であれば、募集定員が余っていれば即日雇用が可能になっている。異能力という非社会的な分野の育成を主としている学園の都合上、一般社会のマナーや常識を学べず、いわゆる「世間知らず」な学生が輩出されるのを未然に防ぐため、こういった実地の職業訓練を兼ねた場所は各所に存在していた。
 ここで働く学生が引き受ける仕事は「接客・清掃・調理」の三点。本当に基礎的で簡単な内容なのだが、対価として支払われる賃金はすこぶる安い。学園島には個人経営の店や他企業の直営店も多く点在しているし、長く勤めていればそれほど割りを食う職場なのである。そういう次第で一部の学生たちの間では「初日は新人、三日で古参」、「可愛い店員が働いていたと思っていたら次の日には辞めていた」、「店長がコイン怪物《ラルヴア》でアルバイトから天引きした給料を夜な夜な貪《むさぼ》り喰っている」とまで揶揄されている。
 しかし散発的に発生するラルヴァ討伐の合間に気軽に働け、ちょっとしたお小遣い稼ぎに利用しやすく、また日ごとにスタッフが入れ替わるおかげでどろどろした人間関係に悩まされることもない。結果的に多くの生徒に職業体験の機会を与えられるという名目が、子供の権利を盾に口やかましい外部の声を抑えることができ、学園の予想していた以上の成果を収めていた。
「と、まあそんなことはどうでもいいんだわ」
 テーブルを囲む三人の前で、青年は真顔でそんなことを言う。
「前振りが長すぎる」
「あー!! 唐橋テメェなに俺のポテト食ってんだよ!」
 学園ブレザーを着くずし、野暮ったく後ろで髪を縛った青年、鵜島《うしま》が騒ぎ立てる。鵜島より少し控えめに(風紀を乱すのではなく自分が気楽に過ごせるために)シャツの第一ボタンを外している唐橋《からはし》悠斗《ゆうと》はどこ吹く風で頬杖をついたまま、フライドポテトをポリポリと平らげてた。
「良心的な値段のわりには旨いなこれ」
「だから食うなよ。てめーは人間ポテトマッシャーか!?」
 息巻いた鵜島が椅子から立ち上がった。悠斗は真横で喚かれるが、顔を背けてそ知らぬ顔で食べる手を止めない。
「それは蒸《ふ》かしたジャガイモを潰す調理器具であって、この場合その表現は不適切ですわ」
 ハンバーガーを完食した少女が紙ナプキンで口元を静かに拭き、それを綺麗に折りたたんで脇にどけると、鵜島に冷ややかな視線を差し向ける。その少女の隣、悠斗の斜《は》す向かいに腰を落ち着けていた森村マキナが、そのやり取りを微笑ましそうに見て言った。
「天突《てんつ》きなんかどうでしょうか? ところてんを押し出すときににゅーっと切られていく器具の名前で、唐橋さんの動作とは逆ですけど。他には……人間シュレッダー?」
「そうそう! 歯を閉じたままプリンを吸って食うそんな感じの!!」
「発想が下品ですわ……」
 幻滅したように少女・那由多《なゆた》由良《ゆら》が嘆息した。
「言ってやるな。そういうお年頃なんだろ」食べるか? と悠斗がポテトの入った子袋をトレーごと由良に勧めてやるが、「遠慮します」と彼女はそのまま押し返した。
 高等部二年の悠斗たちとはクラスどころか、学年もふた回り違う中等部の由良が彼らと一緒にテーブルを囲んでいるのには理由《わけ》があった。
 ことの起こりは昨日の十三日にある。
 森村マキナは、十四日のバレンタインデーで、周囲の人間に配るためのチョコレートの材料の買出しをしていたのだが、彼女の生活圏内にある商店やスーパーはおろか、コンビニですらチョコが売り切れていた。今年は既製品より手作りのチョコレートを送ろうとする乙女たちで溢れていたらしく、仕方なくマキナは普段立ち寄らない繁華街にある大型量販店へ足を運んだのだ。
 繁華街は学生ばかりの放課後とはいえ混雑しており、視覚の機能のほとんどを異能力で補っている彼女にとって、雑踏は苦手な場所でもあった。慣れない人の波に戸惑っていた彼女の前を通りかかったのが、那由多由良である。
「ってオイ!! 買ったの俺なのにもう塩しか残ってねえじゃねーか!!」
「やかましいヤツだなぁ。また頼めばいいだろ。それにしても、いつにも増してテンションが振り切れてないか」
 今日が何の日かと思いを馳せれば、おのずと理由はわかってくるのだが。
「自棄《ヤケ》ンなるに決まってんだろ、義理すらもらえねーんだもんよォ! 畜生!!」
「鵜島、お前どうして休憩時間になるたびに教室飛び出してたんだ?」
「は? なんでって、わからないか?」鵜島が真顔で続ける。「清らかな乙女が意中の相手に想いを伝えられず、小さな胸を押しつぶし、心が軋《きし》みをあげるほどにその恋心は募っていき……せめて気持ちだけでもとこのヴァレンタインに渾身の努力を捧げ、チョコを作る。愛の詰まった、甘く(しかし俺の好みに合わせた)ほろ苦いビターチョコ。彼が席を立つその瞬間、勇気を振り絞り机にチョコを忍ばせる……。俺にできることはただ一つ、まだ見ぬ乙女たちの為に少しでも多くその機会を与えるコト」 
 この男《ひと》は何を喚いているのだろう、気持ち悪い。と、那由多の呟きが口に出さずとも顔にはありありと浮かんでいる。座っているのが固定のソファシートでなければ、椅子ごと引いているだろう。
 ソファの背もたれに寄りかかるほど体を引いた勢いで視線が上がった由良と目が合う。すぐに視線が外れ、しかし再び悠斗の方を見つめた。
 あなたも鵜島《これ》と同類ですの? という怪訝そうな表情で。
「待った、世の男子生徒がみんなこんなやつばっかりじゃないから!!」
 だって俺は義理だけどチョコもらってるし! と喉元まで出かけて悠斗は止めた。悠斗の在籍しているF組の女子たちは、鵜島が席を外していた休憩時間に皆でチョコを配っていたのだ。今、テーブルの下に置いている彼の鞄にも、当然いくつかの義理チョコが入っている――なんてことをこの間の悪い嫉妬戦士にクラスチェンジ寸前の友人に告げてしまえば、鞄ごと奪われかねない不安があった。
「だ、誰にでも理想にするシチュエーションはありますし……えーっと……」と、マキナが言い淀《よど》む。
 さすがに森村は唐橋たちとは違い、露骨に嫌悪の表情こそ見せないが、困惑したように形のよい彼女のほっそりした眉根が寄っていた。彼女ももちろん、クラスの男たちがチョコを受け取っていたのを知っていた。何とかフォローしてあげようと思っても、それらがちらついて言葉が見つからないようだった。
「やめて!! 唯一の希望だった森村ちゃんにすら貰えなかった俺に優しくしないでェ!!」
 両手で顔を覆って咽《むせ》び泣く鵜島。なぜか申し訳なさそうに、マキナが声を落として宥《なだ》めている。
「すみません。那由多さんに手伝っていただいてチョコの材料を買ったまでは良かったんですけど、作る時間が残っていなくて」
 悠斗が言った。「そんなに手の込んだものを作るつもりだったのか」
「そんなんじゃないんです」ゆるゆると首を振って笑って言った。「ガトーショコラ、一緒に作ろうって祈《いのり》ちゃんと約束していたんですけど、帰りが遅くなってしまって」
 祈とは、マキナの働く喫茶店の少女のことなのだが、彼女を待っている間に寝てしまっていたそうだ。
「今日帰ったら取り掛かるので、明日には皆さんに渡せそうです」
「あれは仕方ありませんわ。二人して勝手が分からず、あちこち練り歩いていましたから」
「迷ってたんだな」
 何の気なしに呟くと、由良がテーブルから少し身を乗り出して反論した。
「私《わたくし》は迷ってなどいませんわ。もともと私は近くの書店に用があっただけで、他の店のことを把握してなかっただけです!」
 すわっ、と左右に分けた前髪を揺らして怒る後輩の姿に悠斗は見覚えがある。大人びた態度をとりながら、子供みたいに頑固なところがちょうど――
「――なんか祈っぽいな」
「ふふっ、唐橋さんもそう思います?」
 目じりを下げてマキナが笑う。彼女が由良を気に入っている理由が、少し分かった気がする。
「っしゃー! バイト終わった辞めたー」
 快活な声が聞こえ、悠斗たちのクラスメイト・蓬《よもぎ》が近寄ってくる。レジにいた時の店の制服ではなく、着替え終わったばかりなのか、袖を通したブラウスの上に学園ブレザーを適当に羽織り、手にはピンクのレースで包んだカゴを携えていた。
「蓬《よもぎ》ィ!! ヴァレンタインチョコプリーズ!!」
「うっさいわね、その無駄にねっとりしたネイティブっぽい発音やめろ!」
 軽く一蹴して、鵜島を除く三人に向き直った。「待たせちゃってごめんね。それとマキナちゃんの隣の子はどなた?」
 由良が自己紹介すると、蓬も同じように名乗った。「あたしの友達の友達は、あたしの友達ね」
「それで、そのカゴは何なんだ?」  
「ああこれ? 午前シフトの大学部の人がね、店に来た客から貰ったんだって。でもいらないって言うからあたしが引き取ったワケ」
 蓬はテーブルの真ん中にカゴを置くと、その包みを解いた。目の粗いレース地だったので、カゴの中は見えていたが、覆っていた桃色が取り払われて、白い造花があらわになる。
「しるくふらわー、って言うんだってさ」
「布の造花ですか、珍しいですね」
 楽しそうに蓬が頷《うなづ》く。「白ばっかりでちょっと味気ないけど、結構オシャレでしょ?」 
「おう?」
 鵜島が急に素っ頓狂な声をあげた。
「今度はなんだよ鵜島」
「なんかカードが挟んであるぞ」
「どこに?」
 それを訊いた蓬が探し当てるより先に、鵜島が造花の中からカードを引っ張り出した。名刺くらいの大きさで、鵜島が読んでいる面以外は白紙だ。
「これ、魂源力《アツイルト》ジョークグッズって言うんだな」 
「何ですの、それ」
「そうよ、ちょっと鵜島それ見せなさいよ」
 手を伸ばしかけた蓬をひらりとかわし、
「まあ待てって。とりあえず唐橋、三人にカゴの中の造花を配ってくれ」
 こちらに目もくれず、ちょっとニヤついた表情でカードを読みながら鵜島が指示する。悠斗は女性陣に目を向けたが、三者三様、しょうがないといった風に素直に受け取ってくれた。
「よく見るとこれ、造花というよりはティッシュで作った運動会のアーチ飾りみたいですわね」
「うーん、言われてみるとそうかも……」
「見た目よりも、生地の手触りが柔らかいですね」
 各々《おのおの》が奔放なコメントを述べていると、鵜島が言った。
「それを両手で包むようにして、頭のなかに好きな色をイメージしてくれ」
 悠斗はそこまで聞いて気がついた。これはいわゆる体内魂源力を媒介にして、イメージから色素を生じさせる色染め布なのだ。効果付与《エンチャント》の理論を娯楽向けに転用したものらしい。由良も理解したらしく、それまで疑わしげだった眼差しが和らぐ。
「なんだか手品みたいで、ドキドキしますね」マキナは疑いを挟むことなく、自然に楽しんでいる。
「きっかり十秒、握ってるあいだは絶対に手を開いたらダメだからな」
「いやに念入りだな」
「ホント、いつも適当こいてお茶らけてるクセに」
 まあいいけど、と蓬もなんだかんだ言って従う。
「……よし、十秒。もういいぞ」言いかけて、鵜島が手で三人を制止した。「おっと、その前に自分がイメージした色を答えてくれ。でないと答え合わせが面白くないからな」
 最初に答えたのは由良だった。「私は群青色」
「好きな色なのか?」思わず悠斗が訊いた。
「別に。ただぱっと思いついただけですわ」
「わたしは桃色ですね。ちょっと安易ですみません」
 マキナが言いにくそうに首をすくめた。
「あたしは薄緑色かな」
「素直に蓬色って言えよ。わたくしめは想像力が足りず苗字からしかイメージできない鳥頭でしたとよオォォおおお――!!」
 その脇腹に、両手を握ったまま蓬のハンマーのようなフックがうなりをあげ、呻き声と共にテーブルに突っ伏した鵜島の手からカードが落ちる。三人とも両手が塞がっているので、悠斗がそれを拾い上げた。鵜島が長いこと読んでいたカードの本文は、四行ほどしか書かれていなかった。

  あついるとJOKEグッズ(試作型)  
 この春、注目を集める「アツィルトショーツ」
 ナチュラルな素材の仕上がりはそのままに、自分好みの下着の色を作れちゃう!
 仲の良い女友達とのパーティグッズにオススメ!
 手に持って十秒念じるだけ! 体温に反応して花型の形状から超速解凍!

「そろそろこの姿勢も疲れてきたんだけど」
「唐橋さん、手を開いてもいいんですか?」
「もういいハズですわ。どうせ色染めハンカチでしょうから」
 自分も鵜島と一緒に気絶したくなってきた悠斗だった。


 -終わり-



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