【ラルの新連載―双葉学園・最強料理王編2】


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 時は2019年12月31日午後8時40分――東京24区内・双葉学園校庭に設置された大料理闘技場にて、厨師(料理人)8名による壮絶な料理死合7試合が行われた。
 双葉学園グループの総力を挙げて行われたそれは単なる「学生親睦の料理大会」などという生易しい内容にとどまらず、その終盤においては「料理大会」の範疇を超えた修羅場へと舞台を展開させた。
 これこそはその記録である。
 斯様にして後の双葉学園史に大いなる奇禍としてその記録を留めることとなった『双葉学園・最強料理王大会』――その嵐の幕開けとなる第一試合が今、ここに始まろうとしていた。


【 第一回戦第一試合・龍河弾VSアシュラマンレディ 】

 濁流のごときうねりを帯びた声援と、豪雨のごとき地を踏みならす観客達の地団駄(スタンプ)――斯様にして興奮の坩堝と化した会場の中央・大料理闘技場キッチンにて、『アシュラマンレディ』こと蘭葉ラルはただその熱気に圧されるばかりであった。
――もしかして私……とんでもないところに来ちゃったんじゃ?
 今更になって怖気づいてしまうラル。
 彼女がここに立つ理由は、今より3ヶ月前に行われた文化祭の『B級グルメ選手権』まで遡る。
 そこにて行われた快男児・龍河弾とアダムスの一戦を、会場隅の段ボールゴミの中から目撃していたラルは、そんな「男の戦い」にらしくもない興奮と感動を憶えていた。
 そして全ての戦いが終わり、そのイベントにも幕が引かれようとしたその時、審査委員長でもあった藤神門御鈴の一言にラルは大きく心揺すぶられることとなる。

『――エントリーは宇宙人、未来人、異世界人、超能力者、そしてラルヴァも問わない!!  腕に自信があると思う奴がいたら、私のところに来いッ!!』

 その一言にラルの心は揺り動かされた。
 一見として幼い少女のようにも見えるラルの両肩口からは、通常の人間にはあり得ないさらに2本の腕が生え備わっている。さながら阿修羅像の如き4本の複腕を持つ彼女は『ラルヴァ』と呼称される人外の存在であった。
 その特徴、そして存在ゆえに彼女は今日まで日陰者として生きてきた。そんなラルに一条の光をもたらせてくれた言葉こそが、先にも述べた御鈴の『ラルヴァも問わない』の一言であったのだ。
 もしかしたら、自分はここから変わることが出来るのではないだろうか?
 そんなことをラルは思った。
 自分という存在を胸を張って生きられるきっかけになるのではないのだろうか? そして――幼き日、まだラルヴァの特徴が現れる前の『人間』であった頃と同じように、再び友を作ることが出来るのではないのだろうか?
 そんな想いと夢想とに心駆られたラルはこの戦いへの参戦を決意した。
 敵は今日ここに集った7名だけではない――今の自分、ラルヴァである『蘭葉ラル』自身もまた、彼女にとっては戦い越えなければならない壁であるのだ。そんな自身との戦いもまた、彼女にとってはこの大会に挑むことの意義でもあった。
「どうしたぁ? ずいぶん縮こまってるじゃねぇか、仮面のねぇちゃん?」
 突然の声に沈考していたラルは両肩を跳ね上がらせる。
 そんな声に驚いて顔を上げれば――そこには今日の対戦相手である龍河の力強い笑顔があった。
「まさか本当にラルヴァの参加があるとはな。会長もとんでもねーこと言うもんだぜ」
 呵々と笑うそんな龍河とは対照的にラルはその身をさらに縮込ませる。
「す、すいません。私なんかが参加して……ラルヴァなのに」
 そうして申し訳なさそうに告げて俯くラルを前に龍河は笑いを止める。そしてその身を屈ませラルの鉄仮面に覆われた表情を覗きこむと、
「そんなの関係あるかよ。つまんねーこと言うんじゃねぇよ」
 龍河はいつもにない真剣な口調でそう言う。
 その言葉に思わず顔を上げるラルへと、
「お前だって、お前の理由があってここに来たんだろ? だったら胸を張れ。この場所は――この双葉学園は、自分自身を試す場所だ」
「自分を……試す?」
「そうさ。ある奴ぁ戦いで、ある奴ぁ野心で、そして今日の俺達は料理で自分の限界と向き合うんだ。そんな場所に、人もラルヴァも関係ねーよ」
 向けられる龍河の言葉とそして笑顔に、ラルは久しく感じていなかった感動で背筋を震わせた。
 自身と向き合う――それこそは今日、ラルヴァという自分を越えようと意気込むラルの決意とまさに同じものであった。そんな自分のちっぽけであったはずの勇気と意義を、目の前の男はこんなにも大らかにそして優しく肯定してくれたのであった。
 龍河の存在を前にして、ラルの体内に激しく血流が巡る。瞳孔が広がり、心に灯った闘志はこれ以上になく熱く大きくなってラルの緊張を吹き飛ばすのであった。
 そんなラルの気配を感じ取り、
「へへ、良い闘気見せるじゃねぇか……」
 龍河の胸板も大きく跳ね上がる。そして見る見る間に肥大化した筋骨が衣類を引き裂き、代わりにマグマのような赤い流麟がその身を包みこむと――目の前には烈火の竜人がその巨躯をさらしていた。
「遠慮はしねーぞ? のっけから、クライマックスだ」
「はいッ。全力で行かせてもらいます!」
 見下ろしてくる龍河にラルもまた不敵な笑顔を返す。
 かくして双方がそれぞれのキッチンに戻ると第一回戦第一試合は――
『第一回戦第一試合、龍河弾とアシュラマンレディ! 試合、開始!!』
 最強料理王大会は放送部平部員である赤穂永矩の合図の元、その幕を開けた!
 開始早々に動いたのはラルであった。
 クラウチングにかまえた姿勢から合図とともに駆けだすと一躍、食材各種の置かれた双方キッチン中央の広場へとラルは駆け出す。
 今回の勝負、調理人はここ大料理闘技場キッチンに用意された食材と、そして独自に持ち込んだ食材とを用いることで料理を競う。
 そしてこの食材選びもまた、今回の大会においては疎かにすることのできない駆け引きのひとつであるのだ。
 学園側にて用意された食材は各種にわたり豊富に用意されてはいる。しかしそれとてその品質が均等化されている訳ではなく、当然のよう食材の善し悪しには品質差がみられる。その中において相手よりも早く、そして優良な材料を調達することもまた、この戦いを制する為の重要な駆け引きであるのだ。
「早い! やるな、ねーちゃんッ」
 龍河に先んじて食材広場にたどり着いたラルは、いの一番に『牛乳』のポッドを手に取る。そして次には『バター』、さらには『コーンフレーク』と選び、その最後に――
「ラストは……これ!」
『冷や飯』を手にすると、来た時同様の素早さで食材広場を後にする。
 その間わずか2秒弱――今日までコンプレックスと封じ込めてきた4本の腕をフルスロットに活用して行われる食材選びには一切の無駄が見られない。
 そんなラルと入れ替わるよう食材広場にたどり着く龍河。
「くそう! 先手を取られたか!」
 すでに己のキッチンにて下準備をこなし始めるラルを尻目に龍河も唇をかみしめる。
 この料理勝負においては『先手』――すなわち最初に審査員へ料理を届けられる者は絶対的に有利となる。
 口中のコンディションがニュートラルとなっている状態と、先に何かを味わった状態とでは、審査員の味に対する印象はまったく変わってくるのだ。ましてやその審査員たる御鈴をはじめとした一同は、料理専門家ではない素人だ。そんな一般人の味覚を相手にしては、なおさら一品目のインパクトが重要となってくる。
 それを知るからこそ龍河はラルの先手にほぞを噛み締めたのである。
 自キッチンに戻ってからもラルの調理は早かった。
 まずは選択してきた牛乳を手鍋へあけると即座に火に掛け始める。その傍ら、用意した人数分の茶碗に冷や飯を盛り分けると、そこにプレーンのコーンフレークを砕いてまぶす。
 一方ではようやく龍河もキッチンへと戻る。
「へ、可愛い顔してやってくれるじゃねぇか。燃えてきたぜ……」
 その手に抱えられていた物は『豚のひき肉』と『もやし』、さらには自前で用意した『ぺヤング・ソース焼きそば』――
「いやさ、てめぇに『萌えて』きたぜぇー!!」
 そして怒号一閃!
 宙へ弧を描くようもやしとひき肉とを振りまくと、さらにそれらを受け止めるべく中華鍋を掲げ、龍河は虚空に向けて開け放った口中から間欠泉のごとく勢いの業火を吐き上げた。
 吐き出される火炎の勢いに持ち上げられて中華鍋が空に留まる。そんな鍋の中へ先に散りばめたもやしとひき肉とが着地するのを見定めるや、
「ぐぅおおおおおらぁぁああああああああああッッ!!」
 龍河はその鎌首をひねり、吐き出す業火を激しく捻じ曲げた。そんな動きに操られて、大海を難破する船のように揺り動かされた中華鍋は瞬く間に食材を炒めていく。
 ガスコンロでは到底及ばない火力と手際とに、瞬く間に龍河サイドもまた下準備が整った。
――やっぱり凄い龍河さん! でも、私だって負けられない! 私だって、私だって……
「乗り越えなきゃならない自分がいるんだァーッ!」
 龍河に負けない叫(こえ)を振り上げるラルの料理は――今、どんぶりにホットミルクを注ぐことで完成を果たした。
 用意されたどんぶりを持ってラルは審査員席へと赴く。
 そして今大会の記念すべき第一品目を迎え入れるのは――
『それでは今回の審査員と裁定基準について説明いたします!!』
 ラルの到着に合わせ実況である赤穂がそれらについての説明を始める。
『今回も審査員には伝説のジャッジ3名を迎えております! まずは一人目!! 荒ぶるホモサピエンス! 我が双葉学園会計・成宮金太郎ぉー!!』
「――えッ?(何、そのアオリ?)」
 思わぬ紹介についに抗議しようと片手を上げかけたが、ちゅんちゅんに熱せられた会場からの『ホモサピエンス』コールに思わず圧されてそれを留めてしまう金太郎。
『そして早さには定評のある双葉学園のゲッター2!! そんなに速いと彼女も出来ないぞ!! 庶務代表・早瀬速人ぉー!!』
「よけーなお世話だ!! ……って、なんで今回も緊縛されてるの俺!?」
 金太郎の隣には、3ヶ月前の大会同様に首からつま先まで蛹のようにロープで緊縛された速人が審査員席にふん縛られている。
『そして審査委員長はこの人! もはや説明不要!! 我らがアイドル! 我らが会長! 我らが虎眼先生! 歩くカリスマ、藤神門御鈴どぅあー!!』
「パンダーッ!!」
 赤穂の声に両手を振り上げて答えると同時、立ちあがる御鈴のバックに仕込まれた火薬が爆破炎上して彼女の紹介を派手に演出する。
 かくして、
『以上に3名によるジャッジにて判定を行いたいと思います。それでは――』
 決戦の瞬間が迫る。

『それでは一回戦最初の料理! 記念すべき一品目はアシュラマンレディ選手による料理です! レディ選手、この料理は!?』
「はい、『コーンフレーク茶漬け』です」

 ラルから告げられるその料理名に会場からはどよめきが起こる。
 審査員を始め、会場に居るものは誰一人としてその名からその料理の真相を想像できない。
 そして目の前それぞれに運ばれるラルの料理を改めて見下ろし、審査員一同は驚きに息を飲んだ。
 目の前には茶漬けが一杯――しかしながらそれは誰もが知るような『お茶漬け』それではない。
 まずはベースとなるスープ。本来ならば番茶やだし汁が満たされているであろうそこには、なんと温められた牛乳がなみなみと注がれていた。それが茶碗に盛りつけられた冷や飯の山を囲み、さらにはその上にコーンフレークとバターとが添えてあるのである。
 そして最後の仕上げとばかりに、ラルは審査員達が食すその直前に醤油を一回しその上に掛けるのであった。
「食べ方は特にありません。お好きなように召し上がってください」
 その一品を完成させそう告げてくるラルを前に、金太郎は神妙な顔つきのまま目の前の料理を見守った。
 その時の胸の内を正直に述べさせてもらうのならば、それは「気持ち悪い」の一言に尽きた。
 本来『甘味』であるはずのコーンフレークがこともあろうに白米の上へまぶされているのだ。さらにはそこへバターと醤油である。その味を想像するだけでも胸やけが喉の奥に込み上がってくるかのようであった。
 しかしながら今更「嫌だ」と駄々をこねる訳にもいかない。斯様なゲテモノ料理が登場することくらいは覚悟していた上である。
 しばしの躊躇の末、金太郎は茶碗に左手を添え、木杓のスプーンにてすくったそれを口に運んだ。
 そして『南無三』と念じて口に含んだそれを噛み締めた瞬間、
「ん……んん? これは」
 口中に広がる複雑かつ神妙な甘味と塩気のハーモニーに金太郎は舌を巻いた。
 この料理、味覚の基本となるものは『甘味』それである。しかしながらその甘みは、金太郎が実食前に想像していたものよりもずっと軽やかで自然なものであった。
 さらにはそこに加わるバターの風味とコク、そして醤油の香ばしさがなんとも食べる者の食欲を刺激してくれる。米と牛乳の甘味が塩気を、そしてバターと醤油の塩気とが甘味とを、それぞれ渾然一体に引きだたせ合った見事な料理であった。
「速人さんには私がお世話します」
「あ、ども」
 ラルの手から件の一品をあーんさせてもらい、速人などはそれだけで満足してしまっているようだった。仮面でその素顔を隠しているはいえ、腕まくりの下から覗く白い二の腕や柔らかい髪の香りなどは、彼女いない歴16年のやもめ心をくすぐるには十分であった。
「余計な御世話だ!」
 ともあれラルの料理実食はつつがなく進む。
「見た目以上に甘さが気にならないな。コーンフレークの食感も良い♪ 醤油の代わりに好みのジャムなど乗せれば、デザートとしても通用しようぞ」
 そう評したのはいち早く完食して愛猫・びゃっこに口周りをなめられている御鈴であった。
 そもそも米自体がブドウ糖やショ糖を含むでんぷん質であり、パンと同じくに炭水化物であるのだ。従来の『塩気(醤油)で食する』というイメージゆえに牛乳との相性を疑いがちではあるが、食材としてのそれはむしろ良好といえる。
 そんなラルの料理は見事に審査員の――否、『人』の心理の意表を突く料理であったといえた。
 かくしてラルのターンは終了を告げる。
 そんなラルの次に控えるは、
「さぁて、俺の番だ」
 天下の竜人・龍河弾。
 悠々と竜麟の体躯を揺らして審査員席の前につけると、龍河はそれぞれの前に自分の料理を配るのであった。
 目の前に置かれる2品目――それを前に審査員一同は、ラルの時とはまた違った驚きに目を丸くさせた。
 それこそはぺヤング・ソース焼きそば――カップラーメンの容器に他ならなかったからだ。
 金太郎などに至っては「何を考えている?」といった表情がありありと龍河を見上げている。それを前に龍河もウィンクを一つしたかと思うと、
「この場所でふつーにカップ焼きそばなんて出すわけねぇだろ? 開けてみな」
 自信ありげに笑みを投げかけてくるのであった。
 先のラルといい今の龍河といいこの料理大会、全く先が読めない――ともあれその真相を確認すべく容器のふたを開けた瞬間、
「ん? こ、これはぁ――!?」
「目、目がぁ!」
 封印されていた蒸気を顔に受け、その熱と辛みを含んだ蒸気に思わず一同は身をのけぞらせた。
 そして徐々に蒸気が散開し、その彼方に見えてきたものを確認する一同へと、
「龍河流・火竜麺だ」
 龍河はそう料理名を告げるのであった。
 目の前にあったものは、ひき肉ともやしの炒め野菜を山盛りに盛ったインスタント焼きそばであった。
 もやし炒め全体が赤い油の照かりを帯びた様相は味わうまでもなく辛そうだ。それは臭いにおいてもまた然りで、わずかに酸味を帯びた辛子独特の焦げるような臭気は少し吸いこんだだけでも咳き込みそうになる。
 果たしてこれは先のラルの料理に対して審査の対象になれるのであろうか? ――という疑問が審査員一同の心に生じた。
 見た目の味付け云々の前に、龍河のそれは所詮カップラーメンであるのだ。いかに技巧を凝らそうとインスタント食品の域を出ることは叶わないであろう。
 金太郎などはそう思いながら一口目をすすった。
 その途端に、口中に広がる辛みとゴマ油の香りに喉をやられて咳き込む。
 味わいもくそもあったものではない。それ以前に、この辛みのせいで『味』を感じることなど出来やしない。
 もはやこれ以上の試食は無駄というもの……。食べながらもラルの勝利を密かに胸の内で決めた金太郎であったが、
「……ん? な、なんだ? 箸が……箸が止まらない!?」
 頭ではそう決めつつも、金太郎の指先は龍河の料理を食べる箸を止められずにいた。それどころか頬張ったそれらを噛み締めるたびに、味わうたびにかの料理は一口目には感じられなかった豊潤で複雑な味わいを覚えさせるのである。
 その正体、おそらくはゴマ油とラー油で炒められたであろうもやしとひき肉――一口目には辛さばかりが際立つそれも、租借と共にもやしの繊維質とそしてダシとが口中で一体となるうちに、不思議な旨みをそこに構成し始めてくる。そこにひき肉の肉汁が弾けて合わさるに至っては甘味すら感じられるほどである。
「辛いのぉ。しかしながら箸が止まらん。この『カップめん』の麺もまた秀逸じゃ」
 ふうふうと唇をとがらせながらも顔中を汗一杯にして味わう御鈴に龍河も満足げに頷く。
「さすがだな会長。そこなんだよ、この料理の醍醐味は。『カップ麺』じゃなきゃダメなんだ」
 もやしの繊維質と噛み合せた時、少し柔らかいくらいの触感を残す『インスタント麺』は実に相性良く口の中で混ざり合うのだ。これが一般の中華麺に使われる弾力の強い麺では、触感の強さゆえ炒めもやしと味わいが分離してしまう。
 汁物であるのならばそれもスープにて補えようが、こと『焼きそば』となるとそれは異なってくるのだ。
 持論ながら龍河は断言する。
「野菜炒めに合う焼きそばは、カップ焼きそばが一番なのさ」
 そんな龍河の傍らで、
「おい、龍河。ところで俺の縄を解いてくねーか? このままじゃ食えねーよ」
 依然として緊縛されたままお預けをくらっていた速人が助け船を乞う。
 それを前に、
「おぉ、すまねぇな。じゃあ今回も俺が食わせやるよ」
 一方の龍河は速人の分の焼きそばを手にして目の前に迫る。
「い、いや、いいよ。自分で食うから。いいから縄だけほどいてくれよ」
「遠慮すんなって。オラ、口開けろ」
「遠慮してんじゃねーっての! 何が悲しくて雄ドラゴンにあーんされなくちゃならねーんだよ!!」
 遂にはブチ切れる速人を前に龍河は目をぱちくりさせる。そして、
「なんだ、『人間』の方が良かったのかよ。それ早く言えよ」
 何を勘違いしたか、竜化していた肉体を人間のものへと収縮させる龍河。鱗が剥げ爪が縮み、人間体の裸体で速人の前に改めて立つ龍河。
「や、やめろ……ち、近寄るな。近寄らないでくれ」
 必死に身をのけぞらせて首を振る速人の前には、焼きそばを片手にした龍河の裸体が風も無いのにぶーらぶらと……。
 そして、
「あーん、しやがれ♪」
「うわ―――――――――――――――――ッッ!!」
 叫ぶ口中に速人はたーんと、全裸の筋肉男からあーんさせてもらうのであった。


 かくして第一回戦の実食を終え、それぞれに結果を待つラルと龍河。
『それでは、第一回戦の結果をよろしくお願いします!!』
 赤穂の掛け声とともに電光掲示板に灯された結果は――

龍河 2 : アシュラマンレディ 1  ―――龍河の勝利を知らせるものであった。

 その結果に湧き上がる歓声と、勝鬨を上げてコブシを手のひらに打ち鳴らす龍河。その傍らでしかし、敗れたはずのラルはそれでも心晴れやかに鼻を一つ鳴らした。
「甘味のレディと辛みの龍河――対極する勝負ではあったが、ワシは今回龍河に票を入れさせてもらった」
 一方では審査委員長である御鈴がこの勝負における採点の内容を解説していく。
「レディの料理は『甘味』に特化し、それの持つ旨みを最大限に引きだたせる料理だった。しかしそれに対して龍河の料理は『辛味』をメインにしながらも幾通りもの味の広がりを感じさせる独創性にあふれておった」
 ただ単純に味の甘辛だけを論じるのであれば甲乙つけ難い。しかし、こと『味わい』の深みを追求するにおいては、遥かに龍河の料理の方がラルのものを凌駕していた――と御鈴は断じた。
「――よってこの勝負、龍河の勝利とする。双方、異論はあるまいな」
 御鈴の言葉に、ただラルは黙したまま一礼をした。
 かくして、
『勝負あり!! 龍河弾、お見事ッッ!!』
 龍河の二回戦進出が決まった。

 【 一回戦第一試合 】
○ 龍河弾  [5分23秒・火竜麺]  アシュラマンレディ ×





 大料理闘技場を去り、先の一戦に鳴りやまぬ歓声を遠くに聞きながら――ラルは入場口通路の途中にて仮面を取った。
 首をしならせ絡んでいた髪を振りほどくと小さくため息をつく。
 負けてしまった――改めて思い返す。しかしながら不思議なことに、負けたことへの悔しさや後悔といったものは微塵として心には残らなかった。
 それこそはあの快男児・龍河が本気で自分と試合ってくれたこと、そして自信の存在と戦おうとする自分を励ましてくれたからであった。
「ありがとう、龍河さん。私これからも戦えそうです。ここから、本当の意味で歩き出せそうです」
 そうして振り返る通路の先である大料理闘技場に向かって一礼をし、再び歩きだそうとしたその時であった。
「まさかその戦(いくさ)……一人でやらかそうってんじゃないよな?」
 突然の声にラルは顔を上げる。
 そうして向ける視線の向こうには――通路の壁面に背を預け腕組みに佇んだ龍河がそこにはいた。
「た、たつかわさんッ?」
 その思いもかけない登場に、口元に手を置いて驚きを隠せないラル。
「まさか一人で行っちまうってことは無いだろ?」
 そんなラルを前に、龍河も体を起して向き直ると再び同じ問いをする。
「それが素顔か……可愛い顔してるじゃねーか」
「え? あ、あの……」
 これまた思わぬ言葉に顔を赤くしてラルは俯く。まさか龍河がこんな場所に居るとは思わなんだ。それに加えて先の独り言を聞かれていたことに、なおさらラルは恥ずかしくなってしまうのだった。
 しかし龍河は、笑わない。そんなラルを笑うような男ではなかった。
「お前、歳いくつだ?」
「あ、あの、17歳ですッ」
「学校は? どこに通ってる?」
「あの……通ってない、です。私、人間じゃないから」
 そこから突如として掛けられる質問に、すっかり状況に対応できないラルは尋ねられるがままに答えてしまう。
 一方そんなラルの答えに龍河は一人頷いたかと思うと、
「ならば決まりだな。双葉学園高等部、お一人様ご案内だ」
 暑苦しいばかりの笑顔をラルの前に近付けて、龍河は親指を立てるのであった。
 そんな突然の言葉に困惑したのはラルだった。
「あ、あの、だって……だって私、人間じゃないんですよ?」
「うちの学校にゃ猫だって通ってら。問題ない!」
「でも、でもしかも『ラルヴァ』だし……」
「それがどうした? うちにはロボだっている。問題ない!」
「私……腕が四本もあります。キレイじゃないです……みんな怖がります」
「俺を見てみろ。お前以上にキレイじゃないぜ。全く問題ない!」
「でもでも………」
 次々と今まで抱えてきた悩みとそして心の闇を龍河に論破されて徐々にラルは追い詰められていく。しかし本心は……追い詰められたいのだ。
「私……上手くやっていけるでしょうか?」
 いつしかラルが尋ねていた。
「ともだち……私なんかに、できるかなぁ?」
 そしてついには感極まり泣き出すそんなラルへ掛けられる龍河の答えは決まっていた。

「出来るさ、100人でも1000人でも。現にもう俺が、友達(ダチ)じゃねーかよ♪」

 返されるその答えとそして笑顔に――ついにはラルは声を上げて泣き出していた。
 ラルヴァとしての自分を受け入れたあの日、もう自分には友を作ることなどできないだろうと覚悟した。絶望をした。しかしそんな絶望は今は、暑苦しいばかりの希望が残らず振り払ってくれたのだ。
「そうと決まりゃノンビリしてられねーぞ。さっそく入学の手続きだ」
 そんなラルの手を取り龍河は走り出す。
「俺にはちぃっとばっかし難しいからな。だがなぁに心配すんな。こーゆーのが得意な奴がうちにはわんさかいるんだ」
 振り返際に投げかけられる龍河のウィンクに、ラルもそれに負けないくらいの笑顔を涙をためた瞳に咲かせる。
「そいつらともきっと仲良くできるぞ。なんてったって、この俺とダチってくらいだからな」
「えへへ、楽しみだな」
 かくして新たなる人生を走り出すラル――しかしながら希望に満ちた旅立ちは同時に、次なる戦いの始まりでもあるのだ。
 それでもラルは、くじけずに頑張れそうな気がした。
 龍河のような友がそばにいてくれたのなら、きっとどんな試練だって乗り越えられる――そんな希望と期待が今の自分には満ち溢れていた。
 でもただ一つ不安があるのだとすればそれは……
「あの……龍河さん、何か服を着た方がいいんじゃないですか?」
「そんな細けーこと気にすんなー♪」
 今の自分の手を引く龍河が全裸であるということ……。

 ともあれ『ラルの新連載』――ようやくラルはその第一話にたどり着いたのであった。





NEXT BATTLE!!

【第一回戦・第二試合】
蛇蝎兇次郎 VS 六谷純子




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