【キャンパス・ライフ2+ 第2話「迷える仔猫の、その後」】 


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 双葉山の展望台にて、少女が一人たたずんでいる。
 くっきりと雲が浮かんで見える、すっきりした秋の昼過ぎ。
 立浪みきは、まだ真新しい慰霊碑の前に立っていた。今年の夏場に建立されたものである。自分の気持ちを「彼ら」に示すかのよう、静かに花束を置いた。
 これは、血濡れ仔猫の事件で犠牲になった人たちの慰霊碑である。
 真夏の日に、凶悪なラルヴァの毒牙にかかってしまった七名の少年少女。
 みきは一人ひとりの刻印に指先を触れる。
 彼が、彼女が、いったいどんな子であったのか。どんな声をしていたのか。
 そして、どんな殺され方を「自分に」されたのか。
 目を瞑り、一人ずつ思い出していった。
 血濡れ仔猫の正体は、ラルヴァの血に目覚めた立浪みきである。黒装束を身にまとった彼女は太くて硬い鞭を振り回し、何の罪も無い七人の生徒たちをいたぶった。体を引きちぎった。粉々にした。
「私が、殺した」
 確かめるようにそう呟いた。
 彼女は週に一度、この慰霊碑を訪れることを欠かさない。世間が真夏の惨劇を忘れ、血塗れ仔猫の名前も聞かれなくなった今も、彼女は双葉山に通い続けていた。これは彼女の習慣である。
「私が、この子たちを殺してしまった」
 もう一度、何かを確かめるように呟いた。


「白々しい・・・・・・!」
 そのとき背後から声がした。
 憎らしい、よく知った宿敵の声に、みきの右眉が上に釣りあがる。
 その瞬間、青々と広がっていた天上がひっくり返ったかのように真っ黒になり、風の音や波の音も聞かれなくなった。
 港は墨汁が注ぎ込まれたように黒くなった。あれだけ明るかったのに、辺りは真夜中のように暗くなっていた。ただはっきりとみきの目に見えるのは、彼女のことを歪んだ笑顔で見下ろしている、黒装束の少女であった・・・・・・。
「白々しいったらありゃしない。それって贖罪のつもり? 無邪気な顔してとんでもないウソ付きだよ」
「黙って。あなたは私の手によって退場させられたはず」
「そうは言ってもさ、私が復活したってことは・・・・・・ねえ?」
 立浪みきの分身・血濡れ仔猫は、腕を組んで両肘を持ちながら意地の悪い横顔を見せた。
「ええ、そうよ。私がまだまだ弱かったせい」
「そんなにショックだったの? あの二人に襲撃されちゃって」
 数日前、みきは「オメガサークル」と「聖痕」の殺し屋に遭遇し、命からがらその場から脱するという事件があった。
 彼らの目的は立浪みきであった。「血塗れ仔猫」としての。
 みきはラルヴァと呼ばれることを嫌がる。自分は「異能者」なのであって、「ラルヴァ」ではない。三年前に手ひどい弾圧を経験したこともあり、みきはなおさらラルヴァと指を差されることを嫌がった。
 みきは血塗れ仔猫の侵略を許してしまったのを、内在する暴力的な血にびくびく怯えていたからだと結論付けていた。せっかく、自分のことを守ってくれる存在――立浪みかがいたのに。結果として姉は死に、みきは殺戮劇を繰り広げてしまった。
 死んでしまったみかのためにも、今後は「異能者」として、堂々と振舞うことが大切なことだと思って過ごしていたのだが。
「つまりそれは、私『血濡れ仔猫』を拒絶すること」
 みきは何も言い返さない。じっと見つめる彼女の青い瞳が、ゆらりゆらりと熱を帯びてきた。
「私を拒絶するということは、あなたが私であることを否定すること。つまり、あなたは過去の事件が自分の手によるものだということを、否定したがっている」
「そんなことはないよ。私は七人の生徒たちを殺しました。だから、こうして毎週ここに来て、みんなに謝っている」
「それが白々しいって言うんだよ」
 血濡れ仔猫はお腹に両手を当てて、豪快に笑う。みきは握りこぶしを震わせた。
 ラルヴァであることを否定し、かつ殺人を肯定することなど立浪みきごときにできるはずがない。血塗れ仔猫は彼女の本心を看破していた。過去の黒い自分自身を否定することは、過去の陰惨な所業の数々を否定するのも同然なのである。
「あなたは人殺しとしての自覚が無い。今でも本当は、あの一連の事件は全て『血塗れ仔猫』が起こしたものだと思っている」
「そんなつもりはないよ。残虐なあなたなんかとは違うの」
「ほぅら、まだそんなことを言っている」と、血塗れ仔猫はみきに近づきながら言った。
 黒い仔猫はみきの隣にぴったりついて、誘うようにこうささやいた。
「認めちゃいなさいな、心の底から。自分は害のある『ラルヴァ』なんだってこと」
「いい加減にして。何度も言わせないで」
「私はね、あなたがラルヴァとしての自分を取り戻してね、またこの島の人たちの血や肉を貪り始めるまで、ずっとずっとこうして張り付いているからね」
「私はもうあなたなんかに支配されない。弱虫な私はね、この場所で醒徒会によって倒されてしまった」
「本当にあなたが成長したというのなら、私は二度と復活できないはずだったのに?」
「黙って」
「ラルヴァだと罵られて、あがめられて、ひどくショックを受けたばかりに。やっぱり立浪みきは弱虫」
「黙れ」
「立浪みきは弱虫けむし。自分の気持ちをしっかり持つことができない。姉猫がいないとまともに生きることすらできない!」
「黙れぇッ!」
 みきは一瞬で右手に鞭を持った。
 回し蹴りで張り付いていた血濡れ仔猫をぶっ飛ばしたあと。すかさず腕を振る。
 真っ直ぐ飛んでいった鞭の先が、血塗れ仔猫の頭部に直撃した。黒装束の少女はそのまま全身に深い亀裂を走らせて、がらがらと崩れ落ちて、みきの前から消滅した。
 はあはあと激しい呼吸をしていたみきの耳に、凶悪な笑い声が聞えてくる。
「まだまだあなたのほうが優勢だからねぇ、私はこうしてやられちゃうんだけどね」
 みきは右腕を下ろすと、手のひらから魂源力を消去させた。
「あなたがそうしてのうのうと生きている以上、私はいくらでも復活のチャンスがある。あなたがそうして弱虫でいる限り、いつでも会いに来てあげる」
 一度振り払ったはずの汚らわしい悪意は、周囲を手ひどく裏切って何度でも浮かび上がってくる。それこそ、執拗に。永久に。
「そしてあなたがまた自分に負けてしまったとき。そのときこそが、『血塗れ仔猫』の完全復活のとき! 楽しみに待ってるからね、双葉島のみんなぁ・・・・・・!」
 不愉快な彼女の声は、潮が引いていくように消えていく。同時に色彩を失っていた空に青みが差し、双葉山の木々も緑を取り戻した。
 みきは、くっと悔しそうに漏らす。
 遠藤雅や妹のみく、そして春奈・C・クラウディウスの頑張りもむなしく、彼女は天敵の復活を許してしまった。
 血濡れ仔猫は、立浪みきが生きている限り消滅することはない。
 みきが明るく生きることにくじけ、弱い性格を見せてしまったその瞬間にも、血塗れ仔猫は彼女を乗っ取ってしまうに違いない。双葉島に殺戮の恐怖をもたらした悪質な存在は、今でもみきの体内に巣食っている。
 だからこそ、みきは最大の嫌悪と軽蔑でもって、彼女のことをこう表現するのだ。
「この、癌細胞・・・・・・!」


 オメガサークルの殺し屋による襲撃を受けた瞬間、みきの精神が著しく不安定になった。
 みきにとって何よりショックだったのは、もう二度と普通の生徒として生きていくことはできないということを、実感してしまったことだろう。血塗れ仔猫に打ち勝ったところで物事は何も解決してはいなかった。
 いや、むしろ何かが始まっていた。それは今も彼女の知らない場所で動いている。
 自分を「ラルヴァ」として狙うもの。そして、自分を「ラルヴァ」としてあがめるもの。
 2016年――三年前をきっかけにして、いったい何が始まっていた? あの忌まわしい事件をきっかけとして、どこの誰が動いているのだ?
 とにかく、物事は何も解決してはいないのだ。それを悟った瞬間、みきはその心の中で、凶悪な仔猫の高笑いを聞いた。
 そう、それはまるで癌細胞。
 血塗れ仔猫を含め、双葉学園を舞台にして突如と浮上してきた、過ぎ去ったはずの諸問題。それらはみきにとって、まるで癌細胞のように見えてしかたがなかった。
 消えてなくなったかと思ったら、またどこからかふっと現れて、彼女をひどく落胆させる。
 まさに、体内に転移し続けて宿主を破滅へと追い込む癌細胞であった。


「立浪さん! ここはどうやるの?」
「え? あ、はい。ここは、ええとぉ・・・・・・」
 ぼんやりとお冷の氷を見つめていたみきは、クラスメートに声をかけられ、はっきりと意識を持った。
 展望台での出来事から、数日後。彼女は一年B組のクラスメートに誘われて、ファミリーレストランでの勉強会に参加していた。試験が近いのだ。
 みきは姉妹の中では学力が並みである。頭の良さに関しては、末っ子のみくがずば抜けて優秀である。
 2016年の七月半ばに休学へ追い込まれたみきにとって、九月からの復学はちょうどよかった。一部の分野では三年前と重複して学習したり、また、習うことなく終わってしまった分野もあったりしたが、今日まで順調にやってくることができたのも、クラスメートの助力が大きかった。
(私、みんなから守られてるんだなぁ)
 そう、みきは感じる。
 仲間と助け合っていけることは、当たり前のようでいてありがたいものだ。相方を亡くして一人ぼっちになってから、余計に彼らに対して感謝の気持ちが強くなる。
 もちろん三年前にも、そのような存在がなかったわけではない。
 まず、犬のちからを持った、自分と似たような存在・川又ふみ。
 次に、ラルヴァの霊魂を召還して戦う寡黙な男子生徒・宇野秋夜。
 それから、不器用で表情に乏しいが、たびたびみきに対して積極的に関わってくれた少女・彦野舞華。
(舞ちゃん・・・・・・)
 みきは教室にいるときや、クラスメートと会話しているとき、いつも剣豪少女の笑顔を思い出しては悲しみにくれる。
 友人だった。大切な友人だった。
 しかし、あの子はラルヴァ殲滅派として、みかやみきを蔑む立場に回っていた。
 憎き与田光一がかき集めてきた殲滅派の中に、確かに彦野舞華はいた。一緒になって昼食を取り、宿題を見せ合った仲だったのに。しかも舞華はみきの眼前で、小熊のラルヴァ・マイクを斬ってしまった。
 ラルヴァ。
 みきがラルヴァであったばかりに、友達としての、クラスメートとしての絆はあっけなくちぎり取られてしまった。バラバラになったマイクの体が、そのことを強く象徴していた。深い悲しみに暮れる間も無く、自分の中に芽生えた真っ黒な悪意が全身を侵していった。
「みきちゃん、どうしたの?」
 クラスメートが、みきの顔を覗き込みながらきいてきた。はっとして、黄と青のオッドアイを彼女に向ける。笑顔を作る。
「ううん、大丈夫! 何でもないから!」
 このごろ、教室でもこうして考え事に没頭して、ぼーっとしてしまうからいけない。現代文の授業でも、春奈に注意されたばかりであった。せっかく注文したシーフードサラダも、全然手が着けられていない。
(ふぅん、これがあなたの新しいクラスメートなんだねぇ)
 と、ここで不愉快な声が頭の中に響いた。
 賑やかなテーブルの時間が止まる。みきは一切の表情を殺し、嫌そうに大きく息をついた。
 ペンの先をノートに付けたまま、動かない生徒。会話をしていて笑顔のままの生徒。
 一場面を切り取られた絵画のように止まってしまった世界のなか、みきは隣のテーブルで、血塗れ仔猫が肩肘をついて嫌らしい笑みを向けているのを見た。
「彦野舞華・・・・・・かぁ。懐かしいね。こいつらのように普通のクラスメートだったはずが、どうしてあんなことになっちゃったんだろうね」
「邪魔しないで。帰って」
「その大切なお友達にさ、あなたは何をしたんだっけ? 思い出してごらんなさい」
 舞華がマイクに止めを刺したのが、悲劇のトリガーが引かれてしまった瞬間だった。立浪みきは全身を真っ黒に浸して暴れ出し、生徒たちに襲い掛かり、地獄のような流血沙汰を演出してしまう。
 彦野舞華はというと、あのまま三年前の事件に巻き込まれて重傷を負い、療養のため休学へと追い込まれてしまった。ラルヴァの血に目覚めたみきが、自分の鞭で彼女の腹部を抉ったからだ。
「全部・・・・・・全部・・・・・・あなたのせいじゃない・・・・・・!」
「ほら! またあなたはそんなことを言い出すんだから!」
 病的な黒いドレスに身を包んだ「自分自身」は、あごを真上に向けて機嫌よく笑う。
「あなたがやったんでしょう、立浪みき? あなたがご自分の鞭で、お友達を血祭りに上げちゃったんでしょう?」
「そんなことわかってる。舞ちゃんを傷つけたのも、あの何も悪くない七人のみんなを殺したのも、みんな私がやったことだよ。そんなこと、ちゃんとわかってるんだから!」
「いいや、わかってない。あなたは全部私のせいにしている」
 もう、みきはわけがわからない。
 自分は過去の自分を否定してもいいのだろうか。でも、それは過去の罪から目を背けることになってしまう。
 しかし、彼女は決して大切な友人を傷つけ、しかも無実で何も関係のない生徒たちを殺すような人物ではない。みきは暴力や出血、殺人を非常に嫌う。あの一連の事件は、彼女の内部で発生した別の人格によって強行されたものであることは、間違ってはいない。みきは、残虐なラルヴァではなく普通の異能者でありたいと強く願っている。
 本当に、私はみんなに許されてもよかったのだろうか?
 あの日、あの展望台で、白虎による攻撃で処刑されるべきではなかったのだろうか・・・・・・?
「そうそうその調子。目がいい感じに死んできたね?」
 みきははっとして、血塗れ仔猫のほうを向いた。
 黒猫の瞳はかつての栄華を取り戻したかのように、赤々と輝いてきた。それを見て、みきは恐怖のあまり戦慄してしまう。
「順調に私は力を取り戻しつつあるよ。あなたはそうしてどんどん衰弱し、再びあなたを乗っ取るための力が付きつつある。情けないね。どうせあなた一人じゃ止められようもないんだから、そこにいっぱいいるお友達の力でも借りなよ?」
「借りない・・・・・・!」
 力いっぱい声を振り絞って、みきは言った。テーブルにぽたぽたと、熱い雫がこぼれていた。
「絶対に私は一人であなたに打ち勝ってみせる。これ以上、みんなに迷惑かけなくてもいいように、天国の姉さんに甘えた姿を見せることがないように、絶対に私はあなたに屈しないんだから・・・・・・!」
 対照的に血濡れ仔猫はにたにたと、不愉快な笑顔を崩さない。そしてみきにこうきいた。
「それは、あの春奈に対してもぉ?」
「当然だよ!」
 血塗れ仔猫の瞳孔がぎゅっと絞られ、口が両側に大きく裂けた。口角を真上に吊り上げて、豪快に笑い出したのだ。
「傑作だよ立浪みき! そうやって一人で無理してね、心の折れてしまうときが来るのが楽しみで楽しみで仕方ないんだぁ!」
 本当は、目の前にいるクラスメートたちの力を借りたくて仕方がない。
 でも、みきは悪魔の復活を許してしまったことに大きな責任を感じていた。自分のせいで春奈といった周囲の努力が徒労に終わったことを、非常に申し訳なく思っていた。
 だから、精一杯の強がりとして血塗れ仔猫にあのようなことを言ってみせた。が。
「またあなたが血塗れ仔猫になったら、春奈はどんな顔をするんだろうね? 私ね、あの女嫌いなの。ちっぽけなニンゲンのくせして私を脅してみせたあの女、死ぬほど嫌いなの。絶対に、あいつの生意気な面をかち割ってB組の教室にぶちまけてやる!」
 満足いくまでまくしたてた漆黒の化物は、徐々にその姿を透けさせ、やがて消滅していった。
「みきちゃん? どうしたの? 何で泣いてるの?」
 クラスメートにそう言われても、みきはもう前を向くことができない。ぼたぼたと、涙が全然止まらない。鞄をぐっと掴み上げると、彼らから逃げ出すように店から飛び出した。
 絶望感が尋常でない。
 自分は絶対に、あの黒い影から逃れることはできないのだろうか。
 血塗れた過去。蒸し返したくない過去。血塗れ仔猫の姿はそれらの象徴だ。目を背けたくても、あの子はにたにたとした不愉快な笑みをしてみきの前に現れるのだ。
「認めない・・・・・・!」
 みきは決意するようにそう思う。
 自分が殺人なんて、やりたくてやるわけがない。あのような気持ち悪い笑顔を自分はしない。人を傷つけ、殺して、悲しませるようなことをするなんて、立浪みきであるはずがない。
「あの子なんて大嫌い・・・・・・!」
 血濡れ仔猫は、立浪みきじゃない。


「ちっ。まだところどころ痛みやがる」
 両手を制服のポケットに突っ込み、たんを吐いてからそう言った。脚の長くて、顔つきがどこか子供っぽい美青年である。
 コードネーム・グリッサンド。
「オメガサークル」の、末端の工作員である。
 腹を空かせた猛獣のように不機嫌であった。それもそうだろう、ターゲットである立浪みきの捕獲に大失敗したのだから。
 依然としてその実態がベールに包まれている「オメガサークル」。その集団のなかで、彼は立浪三姉妹の調査を担当していた。数年前に学園をにぎわせた「猫の力」が目当てだ。ひとたび覚醒すれば上級ラルヴァにも匹敵する力を秘める彼女らは、さぞや魅惑的な研究対象に見えたことだろう。
 にもかかわらず、オメガサークルでこの件を担当しているのは彼、グリスぐらいだった。組織に拉致されて記憶を抹消されてから、ずっと姉妹を追い続けていた。だから、どうして組織が姉妹の力に着目しているのかなど疑問にも思わない。
「暴れられりゃ、別にいいがな」
 商店街に行き来する島民に混じって、グリスは悪魔的な笑みを見せた。彼の趣味はラルヴァ殺しだ。体内に直接埋め込まれた自慢のバルカン砲で、まるで羽虫に薬を噴射するかのごとく、命を蹴散らすのが楽しくて仕方ない。
 このような破壊衝動も、改造によってもたらされたものだと彼は思っていた。当然、グリスには拉致される前の暮らしだとか、自身のことだとか、そういった過去のことは何一つ知らない。しかし、はっきりと言えることがある。彼は今、人生で一番充実している。
 次回の襲撃はいつにしようか。
 グリスはあれからずっと、立浪姉妹の強襲・拉致について考えていた。突如として復学した次女みきは、まさに願ってもない獲物。まさか三年前に大事件を起こした血塗れ仔猫、ご本人様が登場してくれるとは。
 三年前の大事件は、ちょうど彼自身が組織に拉致された日付と一致するので、よく覚えていない。だが、グリスは当時の衝撃を感覚で思い出せる。双葉学園生が幼きラルヴァに対して振り下ろした『断罪』。傷だらけの仔猫がわんわん泣き、殺意に目覚めたあの『瞬間』。生徒が生徒を切り裂き、真っ赤に染めた数々の『衝撃』。
 うつろな表情でそれらを目撃した彼は、それからどうしたのかというと・・・・・・?
「くっ・・・・・・!」
 頭痛だ。それから先のことは、五感に掘り込まれた記憶を使っても思い出せない。
 くそったれが。足取りもおぼつかなくなった彼は、よろよろと横に流れ、電柱に寄りかかる。通りすがりの女性が「ちょっと、大丈夫?」と近づいてきたが。
「うるせぇ!」
 突き飛ばしてしまった。商店の前に並べられていた自転車に突っ込んでしまい、がたがたと激しい音が立った。
 呻きながら目を開いた彼女を、グリスはギンと睨みつけて威嚇する。
「蜂の巣にされねぇだけ、ありがたいと思いやがれ!」
 両手をポケットに突っ込み、足早にその場から去る。
 どうも昔のことを思い出そうとするとダメだ。戦闘時、調子に乗ってフルパワーを展開させたときよりも、もっとひどい頭痛に襲われる。
 少し商店街を離れると、雑草が奔放に生い茂った空き地を見つけた。恐らく商業用地だろうが、黒ずんで汚れた角材がぽつんと放置されているだけで、人の手が加えられるときがやってくるのがまるで想像できない。
 その角材の上で、ぐうぐう眠っている猫がいた。
 よくよく見てみると、背の高に雑草に混じってあちらこちらに猫がいる。どの猫も腹ばいになって、ぽかぽかと眠たくなるようなお昼過ぎのひとときを過ごしているようだ。
 双葉島で猫がよく見られるのは、今更珍しいはなしではない。学園も住人も、まるで猫たちも島の住人であるかのような扱いをしている。そのような優しい人間社会の恩恵にあやかって、こうして猫たちは今日も平和に暮らしているのだ。
「ちょうどいい、憂さ晴らしだ」
 彼はワイシャツのボタンを一つ、外した。


「あううー・・・・・・」
 みきはしょんぼりとした様子でアーケードの通りを真っ直ぐ歩く。
 こんなことで、自分はしっかりやっていけるのだろうか。無力感がとても辛かい。
 三年前、双葉島を離れて故郷に潜んでいたときの自分と今の自分が重なる。あの時も、一度は消えうせた血塗れ仔猫の存在を抑えるのに、彼女は必死に戦っていた。
 そして、みきは負けた。血塗れ仔猫に乗っ取られ、双葉島で殺戮を繰り返した。
「うう・・・・・・」
 涙が出てくる。「また、繰り返しちゃうの・・・・・・?」
 それではあの夏の一件が無駄になってしまう。妹のみくの頑張りや遠藤雅の奮闘、醒徒会の恩赦、かけがえのない七つの命。それら全てが犠牲になってしまったら、自分は、極刑をもってしてでもとうてい償うことのできない、大きな罪を犯したことになるだろう。
 ひどい重圧だ。みきはグリスに襲われてから、日に日にやつれていった。食欲を無くし、血塗れ仔猫のことで悩まない時間は一秒たりともなかった。あの悪魔の復活を見た瞬間、本当は、「終わった」と絶望していた。
 それにしても、どうして今になって「血塗れ仔猫」としての私が狙われるのだろう。血塗れ仔猫はもういないのだ。みき自身が打ち消してしまったから。公的には、醒徒会が血塗れ仔猫を倒したことにもなっている。なぜ、もう血塗れ仔猫とは関係ないはずの私が・・・・・・。
(あれ?)
 立浪みきは立ち止まり、小首をかしげる。
 何か今、自分はおかしなことを言ったような気がしたからだ。
 矛盾。気持ちと現実のギャップ。何かがおかしい。
(私は何か、とんでもない勘違いをしている?)
 考えてみればどうも、血塗れ仔猫とも会話がかみ合わない。誰かが間違っている。決定的に間違っている。けど、自分が間違っているとは思えない。では、どうして――。
 ふと、みきは前を見た。商店街の真ん中で、警官がいくつも集まっているではないか。救急隊も到着していて、ちょっとした騒ぎになっていた。彼女は思考を止めると、人だかりに近寄った。
「青年に突き飛ばされたと?」
「はい、背の高い男の人でした。うう、怖かった・・・・・・」
「うん、もう大丈夫だから落ち着いてね」
「頭を軽く切った程度で、出血も止まっています。念のため、これから病院に搬送しますね」
 どうやら傷害事件のようである。ぎりっと、みきは強く歯をかみ締めた。
(やっぱり乱暴ものは大嫌い・・・・・・!)
 出血。暴力。殺人。これらは立浪みきの、この上なく嫌いなものだ。
 だから、彼女はオメガサークルと聖痕を「癌細胞」と罵った。血塗れ仔猫のほかにも、あのような乱暴な人たちがいたとは夢にも思わない。
 みきは鋭い猫の目でその場から離れた。自然と牙が口元から露出していることに、誰も気がつかない。


 この平和な世界に、乱暴ものは必要ない。
 オメガサークルも、聖痕も、血塗れ仔猫も。
 周りの人たちを苦しめて、悲しみを与えるようなのは、みんなみんな消えてなくなっちゃえばいいんだよ!


 すっかり頭に血が上った状態で、みきは商店街から離れていく。日ごろ温和な彼女にとって、それはとても珍しいことであった。
 家屋の窓ガラスに、自分の顔が映る。怖い顔をしていた。
(まるで、みくちゃみたい・・・・・・)
 ふっと苦笑したあと、はぁっと深いため息が出てきたのであった。
 ところが、次の瞬間だ。
 にゃッ! と猫の絶叫を聞いたのだ。
「・・・・・・え? 何が起こってるの?」
 みきの頭に白い猫耳が現れる。聴覚を猫のそれに切り替えて、状況把握を開始する。
 たすけて、という悲鳴。
 殺さないで、という懇願。
 そして、もはや表現のしようがない断末魔の声。
 誰かが猫たちを『虐殺』している。
 そう察知したみきは、バックに空高く飛び上がり、民家の屋根に上がった。
(いったい、どこで!)
 四方を見渡し、聴覚を出来る限り研ぎ澄ました。そして、住宅街のなかでぽっかりと穴の開いている場所――空き地を発見する。
 みきはその場所から、数日前に聞いた忌々しいバルカンの音を聞き取った。
 ぞわっと、背筋を何かが走っていった。尻尾の毛先がびっしり逆立ち、瞳孔がぎゅっと絞られる。


 ガガガガガ、と胸から伸びる図太い筒が火を吹いている。
 あちらこちらには血まみれになった猫の死骸が、いくつも散乱していた。頭の吹っ飛んだもの、腹を掠めて臓物を撒き散らしているもの、それらはグリスをいっそう喜ばせた。
 かたちあるものを壊してやることで快感に浸るのが、グリスの性癖だ。そういった残虐な行為を可能にしているのも、彼の胸元から生えているバルカン砲である。
 聞いた話によると、記憶を無くす前に愛用していたバルカン砲を、そのまま体内に埋め込んでしまったというのだ。オメガサークルという組織のえげつなさに、これには当人であるグリスもぞっとしてしまったものだ。だが。
「こんなにも楽しい仕掛けはないぜ! 楽しくてたまらねぇ!」
 すっかり自らの武装のとりことなってしまっていた。
 直接胸部に埋め込んでしまったことで、ダイレクトに魂源力を供給できるようになった。恐らく従来よりも、彼の殺意や破壊衝動はバルカンを経由して、銃口から熱くほとばしるようになったことだろう。それは余計に、強い快感をもたらした。
 そうしてゲラゲラ笑いながら、足を汚して動けなくなった仔猫の顔面に鉛弾を埋め込んでやったときだった。
「あなた・・・・・・!」
 グリスは攻撃を止め、声のしたほうを振り向く。そしてほんの一瞬だけ、おっと驚いたような表情になる。
「てめえは・・・・・・。へへ。まさかてめえのほうから俺のところに」
 殺戮を楽しむ者だけが見せる、同じ人間とは思えない悪魔の笑み。あのような顔をかつての自分もしていたと思うと・・・・・・。猫耳が逆立つような気持ちになる。
「全部、あなたがやったんですね」
「見りゃあわかるじゃねぇか。的当てゲームだ、わかるだろ?」
 それを聞いたみきの右手から、コバルトブルーの鞭がぱっと現れた。
「やっぱどうやら、大人しく俺と一緒に来るため出てきたわけじゃねぇか」
「見ればわかるじゃないですか・・・・・・?」
 ちかちかと、みきのオッドアイが点滅している。この姉妹は、怒りが両目の輝きに反映されるのだ。
「よくも、よくもこの子たちを!」
 みきはその場から鞭を振るった。脳天目掛けて降ってきた鞭の先。グリスはニッと憎たらしい笑顔を向けた後、横に飛んで回避した。
 ボゴンと空き地の土に穴が開く。みきは鞭の先端を手繰り寄せ、手元でくるくる回す。二発目を即座に飛ばした。
「フン!」
 グリスのバルカン砲から、一発だけ発射される。非常に細かな鉛弾は、みきの鞭に真正面から向かっていき――。
 みきの鞭を弾き飛ばしてしまった。
「そんな!」
「今度はこっち番だぜぇ、『血塗れ仔猫』ォ――――――――――――ッ!」
 スガガガと、猫耳が破裂してしまいそうな発砲音。
 足元の土がめくりあがり、砂埃が天高く上がった。完全にみきの視界を塞いでしまったのだ。
「ど、どこに!」
 そう、きょろきょろと首を回していたときだ。おしりがクンと、持ち上げられる。
 みきは「きゃあ!」と悲鳴を上げた。尻尾を掴み上げられたのだ。グリスは容赦なくみきを乱暴に振り回し、空き地の隅に置かれている角材目掛けて投げ飛ばしてしまった。
 みきは角材に頭から突っ込み、がらがらと資材が零れ落ちるように崩れた。
「何だ今の鞭は? 攻撃のつもりか? おめぇ、そんなに弱かったか?」
 ゆらりと、みきは立ち上がる。商店街で見かけたおばさんのように、頭から血を流していた。その件を思い出しただけでみきの心は怒りで燃え上がり、
「食らいなさい!」
 と、青い鞭を飛ばしたのだが。
「馬鹿にしてんじゃねーぞ」
 ぱしんと、グリスはその鞭を片手でキャッチしたのだ。
 みきは鞭を引っ張り上げようとするが、グリスの握力が強すぎて離れない。どれだけ歯を食いしばって引っ張っても、どれだけ自分に秘められた魂源力を解放しても、鞭の先を片手に握っているグリスの表情ひとつ変えられない。
「冗談ヌキで、俺、全然本気出してないんだぜ?」
 その呆れたような視線に、みきは驚愕した。
「我慢比べをしようか? 今から俺は、この鞭に俺の魂源力を流し込む。お前だってできる小技だ。ほれ、やってみるぞ?」
 みきは、自分の鞭を通じてグリスの魂源力が襲い掛かってくるのを感じた。だから、自分も青い力をありったけ注入して、肌で感じ取るのも汚らわしい彼の力を拒絶しようとしたのだが。
 グリスは邪悪な笑みを一つ浮かべただけで、鞭の先に膨大な量の魂源力を流し込んだのだ。
 ホースの水を鉄道の架線にかけると、ホースを握っている者は感電して死んでしまう。放水を伝って電流が襲い掛かるからだ。
 それとまったく同じように、みきのロープにグリスの魂源力がどくどくと流れ込んでいき、彼女の魂源力などたやすく打ち消してしまった。
 ドンと、大爆発が起こる。
「ふざけんじゃねぇ! てめぇ、それでも『血塗れ仔猫』なのか! 何でぇ、その弱さは! 俺は三年も、こんなしょうもない弱虫仔猫を追い掛け回してたってことなのか!」
 火傷を負い、全身からおびただしい出血を起こした猫耳の少女。
 オッドアイから輝きが消える。猫耳も尻尾も、消えてなくなる。
 みきは両膝を付くと、前のめりにぱたりと倒れて力尽きた。
「一度てめぇと殺りあったときは楽しかったのにな。先日のことじゃねぇ、夏場の話だ! てめぇが血塗れ仔猫としてやりたい放題やってたときのことだ」
 うっすらとぼやけた視界の先に、みきと同じように横倒れになっている猫がいた。この三毛の子も銃弾の餌食になり、息が絶え絶えになっている。
「強かったぜぇ。さすが上級ラルヴァだけのことはあったぜ。俺もお前もボロボロになるまで戦ったんだが、あとちょっとのところであいつが・・・・・・! ストライカーこと、『スカイラーク』が邪魔を入れやがったんだ!」
 CN「ストライカー・スカイラーク」。
 先日、グリスがみきを襲っているときに突如として乱入してきた女の子だ。
 彼女の履いている無骨な靴のかかとからは、毒々しい蛍光色をした「鎌」が展開される。スカイラークは足技の殺し屋だ。恐らく、その鎌でいくつもの首を跳ね飛ばしてきたに違いない。
「今回ばかりはアイツもやってこないようだな。さて、血塗れ仔猫。腐ってもお前は『血塗れ仔猫』だからな、これから俺と一緒に組織に来てもらって、隅から隅まで調べつくしてやっからよぉ、覚悟しとけ?」
「・・・・・・いで」
「あん?」
 グリスは怪訝そうな顔になる。うつ伏せになって、みきが何か言っているからだ。
「・・・・・・呼ばないで」
 みきは泣いていた。非常に悲しそうにして泣いていた。
「私を『血塗れ仔猫』と呼ばないでぇ・・・・・・。うう・・・・・・うあああ・・・・・・」
 葉っぱを土ごと握り締め、彼女は心からそう言ったのである。
 もう、自分は血塗れ仔猫じゃない。血塗れ仔猫はあの壮絶な戦いの末、みんなと力を合わせて打ち倒したはずだったのだ。真っ黒に染まった自分自身を破ることで、恐怖で小さく震えていた過去から脱却してみせたはずだった。
 こんなヤツのようにかよわい命の花をむやみにむしり取る、血塗れ仔猫としての立浪みきは死んでいなくなってしまったはず。血塗れ仔猫は真夏の展望台にて、白虎の攻撃によって処刑されてしまった。だからもう、自分はこんなオメガサークルや聖痕の手先のような、暴力が好きで、簡単に人を殺すような存在ではない。
「私はもう、『ラルヴァ』じゃないの・・・・・・!」
「なーに言ってんだおめぇ?」
 グリスは腰に両手を当て、本当に理解できない様子でみきの話を聞いていた。
「お前はどう見ても『血濡れ仔猫』じゃないか。血塗れ仔猫ご本人様じゃねえか。俺んたと大差ない、恐怖の存在だよ」
「そんなこと、そんなことないんだから」みきは顔を上げて、グリスに言い張った。「私は暴力なんてきらい。人殺しなんてもっときらい。あんな子、私なんかじゃない。あんな行為、私がするようなことじゃない」
「おめーよう、俺が言うのもなんだが、そんなこと被害者の家族が聞いたらただごとじゃすまされねーぞ?」
「私は猫の力で戦う異能者です」
 彼の話を真っ向から否定するかのように、みきは堂々と言う。ぶるぶる震えながら立ち上がり、気丈に振舞おうとする。
「私はあなたたちのような人殺しとは違うんです!」
「いい加減、黙れ!」
 何とか立ち上がることのできたみきに、グリスは銃口を向けた。照準を足に定め、身動きを取れなくさせようとしたのだが。
 ガガッと発砲音が聞えた瞬間、みきは、自分の足元に何かが飛んできたのを認める。
 それは、先ほどの三毛猫だった。猫はその腹部に銃弾を浴び、血や肉片を撒き散らした。
 どさっと倒れこんだ猫を見下ろして、みきは愕然とする。
「う・・・・・・嘘・・・・・・」
 三毛猫は身を挺して、銃弾からみきを守ったのだ。みきは猫の血を引いているから、この猫がとても爽やかな表情をして眠りについたことが、分かる。
 しばらくの間あっけにとられていたグリスのこめかみに、青筋が走った。
「クソッタレがぁ――――ッ! どうしてこう俺の前にはいつもいつもいつもいつもいつも邪魔が入りやがる――――ッ!」
 そう叫ぶと、体ごと真横を向いた。周囲には彼が血祭りに上げた猫の死骸が、多数転がっている。
 死骸に弾幕を浴びせ、グリスは猫を粉々にしてしまった。綺麗な状態だった死骸も、彼の八つ当たりによって粉砕されて、残酷に撒き散らされた。
「やめて」
 みきは両目をぱっちり開けて、わなわな震える。
「やめて・・・・・・!」
 口元から鋭い牙が真っ直ぐ伸びてきて、露になっていた。
「やめてぇ――――――――――――――――――――――――――――――ッ!」
 グリスは暴走を止めて、すぐにみきのほうを向く。みきは顔を真上に向けて、口を大きく開けて叫んでいた。ドンと足元に陥没が起こる。細かい草切れや砂や小石が巻き上がり、彼に向かって飛んでくる。
「この感じは・・・・・・!」
 片腕で顔を覆いながら、グリスは言った。やがて彼の眼球を焼き尽くさんとばかりに、白い閃光が襲い掛かってきた。
 恐る恐る腕を下げると、みきが首を垂らしてその場にたたずんでいた。服装は学園の制服のままで、頭から出ている猫耳も、先ほどと変わらぬ白色をしていた。
 だが。
 鮮血を思わせる呪われた紅の瞳に睥睨された瞬間。グリスの全身に鳥肌が走ったのである。
「・・・・・・ついに、お目覚めか!」
 三年間、彼が狂的に追い求めていたものとついに相まみえた。グリスは嬉しそうに口角を吊り上げると、はだけていたワイシャツを脱ぎ捨てて彼女と対峙する。
 彼は本当に嬉しそうだった。絶対にみきを捕獲し、今度こそ組織に連れて帰るつもりであった。
 そんな強い意気を見せつけるグリスを、かつて島中を恐怖に陥れた化物『血塗れ仔猫』は、少しも表情を変えることなくじっと見つめていた。


 みくちゃ・・・・・・。
 マサさん・・・・・・。
 春奈せんせー、クラスのみんな・・・・・・。
 本当にごめんなさい。
 私はダメでした。
 やっぱりダメでした。
 私一人じゃあの化物を止めることはできませんでした。

 ごめんなさい、姉さん。
 私やっぱり、あの時、醒徒会に殺されていればよかった・・・・・・。




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