【シャイニング!】


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導入短編として書いたものの続きです。
ここからは導入ではなく普通に一書きあきとしてやっていこうかどうか。

ただ、敏明の異能については、募集投票なども考え中。
それ次第で設定変えて話は書き直しますが。



 双葉学園から少し離れたところに、住宅地がある。
 夕暮れを過ぎて薄闇に包まれた家々の中に、少しばかり周囲より大きな一軒家が見て取れた。
 二階にベランダを備えた一般的な一戸建てだが、庭はそこそこ広く、玄関前にも花壇がある。
 花壇には雑草がひょろりと伸びているだけで手入れされている様子は無いが、庭のほうには様々な草木が並んでいた。中には、観賞用としては地味な草も鉢に植えられていた。
 双葉敏明はリビングの窓から庭を眺め、それから視線を屋内に戻す。
 テレビではゴールデンタイムらしく賑やかなお笑い番組が流れている。
 物凄い速さで周る巨大な円状の板に何人もの若手芸人が乗り、ぐるぐる回りながらネタを披露するというコーナーだ。
 カメラがセットされているのは円の外側で、円周部に立てばより大きく画面に映ることが出来る。だが、その分遠心力が凄いため上手くネタが披露できない。中心に立てば安全に芸を出来るが画面から遠い。
 ちなみに円の外はプールで落ちれば失格だ。
 一見よく出来たシステムのようだが、円周部が時速80キロで回転する上テーブルにはローションが塗ってあるため、ものの数秒で全員失格になる。
 一人の若手芸人がぴったり回転の中心に棒立ちになってバランスを取る事に成功していたが、周囲からのブーイングを受けてざわとらしく転んで吹っ飛んでいった。十分に加速したローションまみれ芸人がプールを飛び越えてリノリウムの床の上に落ちると、爆笑を表す音声がスピーカーから溢れた。
 明らかに偏った意図の企画だ。ある種、その予定調和が面白いわけではあるが……敏明はあまり笑っていられる気分では無かった。
 テレビを切ると、リビングに静寂が訪れた。リビングだけでなく、家の全体がしんと静まり返っている。
 この家は元々、彼の祖父である双葉管理のものだ。
 敏明が双葉学園に入学するという事で部屋を借りる事になったのだが、当の祖父は普段から学園内の居住スペースに暮らしているため、この家には滅多に帰ってこない。
 つまるところ、敏明はこの大きな家にほぼ一人で暮らすことになる。
「……あー」
 切なげに、溜息とも呻きともつかない声をもらし、ソファに倒れるように座る。
 一人の生活がこんなにも辛いとは思ってもいなかった。敏明は家族の顔を思い浮かべて思う。
 そして彼の腹がぐるーと鳴く。
 彼は料理が出来なかった。というより、家事全般は母親任せで手伝うと言うことすらしたことがない。
 引っ越してきたのは一週間前。
 その日に買い溜めておいたカップ麺は、今朝、入学式に行く前に最後の一つを食べてしまった。
 そもそも毎食カップ麺は味気ない上に健康に悪い。
 近くには一応コンビニがあるらしいが、毎食コンビニ弁当と言うのはどう考えても食費が危ない。
「……メグはまだか」
 敏明は待っていた。幼馴染である山崎巡理(やまざき めぐり) を。
 巡理とは幼稚園から中学まで同じ学校という腐れ縁だった。
 高校進学は、わざわざ地元を離れて双葉学園にやって来た。ということでようやく彼女とも離れるのかと思いきや、後を追うように彼女も双葉学園の入学を決めていたのだった。
 しかも、彼女の引っ越し先は祖父宅の真隣に建つアパートだ。もはや重度のストーカーではないかという疑いさえ敏明は持っていた。
 だが、そんな思考とは別に、巡理には家事スキルが備わっているという見逃せないポイントがあった。もちろん料理もお茶の子さいさいだ。
 彼女のポーチに入っている食べ物は市販品も多いが、手作りの物も入っていたりする。
 巡理が「今夜は肉じゃがだよー」と元気良く腕を振りながらアパートに駆けていってから、既に二時間が経過し、時計の短針は八時をまわろうとしている。
 敏明はソワソワと落ち着きなくリビングを歩き、また庭を眺めたりテレビをつけたりを繰り返す。
 腹具合も重篤だが、何か用事でも出来て来られなくなったのではないかという心配も頭をもたげ始める。
 ちょうどその時、甲高い電子音がリビングに響いた。
 電話だ。ただし、ケータイではなく部屋に据え置きの電話機のほうだ。
「もしもし」
「あー、敏明か。オレオレ」
「オレオ? 間に合ってます」
 即座に受話器を置き、ソファへ向かおうとしたが、すぐさま鳴り始めた電話に引きとめられる。
「なんで切るんだよ!」
「クソボケ老人の住まいにオレオレ詐欺しかけるような輩と長時間会話するのもなにかなと思って」
「誰がクソボケ老人だ!」
 その声から相手が誰か敏明にはすぐわかった。この家の主であり、敏明の祖父の双葉管理だ。
 相手が巡理ではなかった事に多大にがっかりしながら、仕方なく用向きを尋ねる。
「それで、何事だよ爺ちゃん」
「お前、入学式ぶっちぎったらしいじゃねえか」
「自分の意思じゃ無かったんだけどな……」
「バカだなおめえ、醒徒会長の挨拶見逃すなんて」
「……それの何がバカなんだ?」
「いずれわかるぜ。本当なら入学式で異能者とラルヴァの話をちょっとだけするんだがよ、それを聞いておかねえと色々と支障を来たすからな」
「ああ……でも、その話ならちょっとは聞いたぞ?」
 聞くも何も、新入生の目の前でいきなりバトルが展開されたわけだが。
「保健室でか? そっちの報告も受けてる。先輩の剣道少女と保健室で二人きりとは、なんてエロゲ展開してやがる。そのフラグ寄越せ」
「やなこった」
「ちなみに明日羽ちゃんは剣道部だ。練習のときはポニテだぞ」
「……なんでそんなリサーチしてやがる色ボケ老人」
 一瞬、敏明の脳裏に【学園長、教え子にセクハラ逮捕】という新聞の見出しが躍る。
 そういう事態もありえないとは断言できない会話だっただけに、敏明は即座に忘れることにした。
「それはそれとしてだな。異能の説明自体は、後から授業なんかでも聞くだろうからそんなに重要じゃないんだ」
「じゃあ、なんでわざわざ電話してきたんだ?」
「敏明。お前、異能を使ったらしいな?」
 不意に祖父の声が真剣なものに変わったことに気付いて、軽口で返そうとしていた敏明は言葉を呑む。
「ラルヴァに襲撃されたときに、お前が異能を使ったと報告を受けた。どうなんだ?」
「使ったって言うか、手は光ったけど他には何も起こらなかったぞ」
「今回が初めてか?」
「そうだよ。そもそも異能だのラルヴァだのの存在自体、今日まで漫画の中だけの話だと思ってたし」
 ふむと呟き、管理は一拍の間を置く。
「本当はな……お前が異能者だってのは生まれてすぐに調べてわかってた。お前の両親も承知の上だ」
「なんでそんなこと調べたんだよ」
「この学園がどんな場所かを知った今なら、簡単に想像できるだろ」
 敏明はしばし黙考する。
 異能者を育て、ラルヴァと戦うために育成する学園。祖父はその創立者だ。
 考えてみれば、彼自身、この学園に入ることになったのは祖父の強引な勧めによるものだった。特に不満は無かったので深く考えなかったが、そんな理由があったのだ。
「……ところで」
「なんだ?」
「爺ちゃんも異能者なのか?」
「そうだとも言えるし、違うとも言える。異能者とは、二十年前から急増した異能を持った子供たちのことだ。それ以前にも異能者は居たが、そういう決まった呼び名は無かった」
「じゃあなんて?」
「いわゆるエクソシストとか修験者とか、そういうヤツだよ。魔法使いってのもそうだな」
「……オカルト?」
「ぶっちゃけその通りだ。そのうち大半は似非モンだったかもしれんが、少なからず本物がいた」
 今までならこんなのは老人のたわ言、いよいよボケたか、そろそろ遺産相続の話でもあるのか、隠し子とかいないだろうな、などとツラツラ思考したところだったが、敏明は鼻で笑える話ではないのだと理解していた。
 それと同時に一つの疑念が湧くが、それを電話の向こうで察したかのように祖父は言葉を続ける。
「一応言っておくと、お前の異能は遺伝でもなんでもない。オレのは生まれつきじゃなく、仏門で修行した末に手に入れた神通力ってなもんだ。超能力みてえなものとはちっとばかし違う。そういう意味ではオレは異能者じゃない」
「じゃあ、ひょっとして親父たちは?」
「一般人だ。多少オレのせいで関わっちゃいるが、お前以外の家族はみんな異能を持ってない」
「そっか……」
「……と、思う」
「なんだそりゃ」
「異能を調べる手段はいくつかあるが、どれも絶対確実だとはいえない。持っているヤツを持っていないと判断したり、持っていると言われたヤツがずっと能力を発現しない事もある」
 敏明はふうんと溜息のような相槌をつきつつ、首をかしげる。
「もう一つ、重大な問題にぶち当たったんだが」
「なんでも聞け。まだ全部は話せないが、なるべく事情は理解しておいたほうがいい」
「仏門で修行した割には煩悩全開だなクソ爺」
 ぶつっと電話が切れた。
 久しぶりの祖父との会話を堪能し、受話器を置いた敏明は、結局祖父の用件がなんだったのかほとんど聞いていなかったことに気付いた。
「俺が異能を使ったってこと聞いただけだったな」
 それが重要な話なのか、ただのちょっとした確認だったのかはわからなかったが、あの老人がいつもどおり元気な様子だったのには、一応安心するのだった。
 その数分後、「作りすぎちゃったよー」と言いながら抱えるほど巨大な鍋で肉じゃがを運んできた巡理をリビングに迎えた。
 百均でそろえた食器に肉じゃがと、巡理が買ってきた細々とした惣菜を盛り付ける。一応、白米だけは敏明が事前に炊いていた。
 二人がテーブルにつき、これでようやく夕食にありつけるという段になって、三度電話が鳴った。
「……出なきゃダメか?」
「出たほうがいいんじゃない?」
 のっそりと立ち上がって受話器を取り上げた敏明は、実に低いくぐもった声で、
「まだなんかあるのか色ボケ老人」
「……とりあえず、私は老人ではないぞ」
「は……? その声……?」
「河越明日羽だ。もう忘れてしまったかい?」
「いえいえいえいえ! 爺ちゃんからかと思ったんで」
 電話の相手は、例の剣道少女系の先輩だった。
「本当すいません。でも、なんでうちの電話番号を?」
「うむ、それなんだが……学園長に頼みごとをされてね」
「頼みごと?」
「そうだ。取り込み中だったかい?」
「それは大丈夫なんですが、話がまったく見えなくて……」
「……私も、実を言うとまだ戸惑っているところだ。だが、是非にと頼まれてしまってね」
「はぁ……」
 曖昧な返事をしつつ、巡理を見やる。無論、彼女はきょとんと敏明を見返すだけで、話の内容すらわかっていない。
「それで、どうして電話を?」
「今、君の家の前に居るんだ。これからお邪魔するつもりだったんだが、留守だったりすると困ることに気付いてね。とりあえず上げてもらえるかい?」
「はぁ!?」
 明瞭な驚きの声を上げ、巡理を見やる。無論、彼女はきょとんと敏明を見返すだけで、話の内容すらわかっていない。
 既に家の前まで来ているという明日羽を家に入れても大丈夫か、敏明はすばやく考えを巡らせる。
  • 掃除:ほとんどの部屋が未使用のまま放置だが、リビングならメグが掃除してくれた。
  • 自室:荷物は大半がダンボールに入ったままなので秘蔵コレクションを見られる心配は無い。そもそも彼女が敏明の部屋に向かうことはないだろう。
  • 夕食中:腹の虫はかなり軽快なステップで暴れまわっているが、先輩のフラグが優先だ。
 ここまで約1秒。
 計算を終えた敏明は電話を握りなおしてなるべく落ち着いた声で答える。
「大丈夫です。すぐ開けるんで玄関にどうぞ」
「ああ、すまないな」
 電話を切って気付くと、巡理がいつのまにかすぐ傍に立っていた。
「今のどちらさま?」
「刀を持ってた先輩だ。ほら、化け物に襲われたとき助けてくれた」
「あー、見た目小食なようで実は大食いキャラとか意外性狙ってそうな人だね」
「お前の判断基準はすべて食い物絡みか」
 うんざりとツッコミつつ、玄関へ向かう。なぜか巡理も彼のすぐ後ろについてきた。
 多少大きいとは言え、そこは普通の日本の住宅だ。廊下はほんの数歩でリビングから玄関まで至る。
 スリッパをつっかけてドアを開けると、すぐ目の前に例の黒髪の少女が立っていた。
 学校で見た制服ではなく、ラフな私服だ。膝丈のレギンスに白と青のチュニック。肩には棒状のものを納めたと思しき布袋をかけている。
「やあ、悪いね突然」
「こ、こんばんは」
「こんばんわはー」
 そう言って諸手をあげた巡理を見て明日羽の動きがぴたりと止まった。
 その不自然さが引っかかり、敏明は唐突に大変な事に気付いてしまった。
(修羅場イベント!?)
 まだまだ攻略度は低いと思って油断していたせいか、自宅で他の女と鉢合わせと言ういかにもありがちな展開を見逃していた自分を、激しく叱責する。
 だが、敏明が自分から泥沼にはまりそうな発言する前に、明日羽が先に口を開いた。
「なるほど、君が例の。よろしくお願いするよ」
「よろしくですよ」
 にこやかに交わされた言葉の意味がわからず、敏明は戸惑うしかない。
「トッシー、立ち話もなんだし上がってもらわない?」
「そ、そうだな。どうぞ、上がってください」
 疑問はとりあえず置いておくとして、スリッパを並べながら奥のリビングを示す。
「そういえば、センパイ。夕飯はもう食べましたか?」
「いや、まだだ」
「俺たちもこれから食べようとしてたところだったんですよ」
「そうだったのか。悪いな、邪魔をしてしまって」
「いえ、それでどうせなら一緒に食べませんか?」
「いいのかい?」
「もちろん。作ったのはメグですけど。こいつ料理がすげえ上手いんですよ」
 二人の視線を受けた巡理は、いやぁそれ程でも、と照れ笑いを浮かべる。彼女の手がなぜか先ほどから、わはーのまま動いていないのにようやく気付くが、敏明は面倒くさいので突っ込まない。
「では、お言葉に甘えよう。少し長い話になるかもしれないしな」
 明日羽も特に気にした様子もなくリビングへ向かう。
 皿と茶碗をもう一組テーブルに並べると、ようやく夕食の時間となった。
『いただきます』
 声を揃え、三人はさっそく山と盛られた肉じゃがに箸を伸ばす。
「――うん、美味しいな」
「おかわりもあるからどんどん食べてください」
「ありがとう。けれど、これだけの量があれば十分だろう。私もあまりたくさん食べるほうではないからな」
「トッシー、この人キャラ作りが安定してないよ!」
「大食いキャラはお前が勝手に決めたんだろうが……それより」
 明日羽が問うような目でおしんこをつついているのに敏明は気付き、ぞんざいに答えて話を変える。
「爺ちゃんからの頼みごとって何だったんですか?」
「それなんだけど……君の護衛をして欲しいということだった」
「俺の……護衛?」
 まったく予想外の単語が出てきた事に、敏明は首を捻らざるを得ない。
「なんでも、君の異能は危険なものらしい。いや、異能自体が危険なのではなく、君の異能によって君自身が危険に晒されるということだ」
 明日羽の説明がいまいち飲み込めず、敏明はジャガイモを頬張りながら顔に疑問符を浮かべる。
 それには苦笑を答えとし、明日羽は味噌汁を一口啜り、これも美味いなと呟いた。
「ともかく、君の異能が発現したとなれば、君を含めた周囲に被害が及ぶ可能性が高い。そこで君の身辺を警護する人間が必要なんだ」
「なるほど……良くわからない部分も多いですけど、護衛って言うのがどういうことかはわかりました」
「うむ、そういうわけで近々、私もこの家に厄介になることになったからな。よろしく頼むよ」
「……? メグ、今なんて聞こえた?」
「さあ? ボクにも聞こえなかったよ?」
「む、声が小さかったか? 学園長からの依頼を受けて君を護衛するために、私もこの家に住むことになったんだ」
 しばし、リビングに沈黙が落ちる。
 テレビは切ってあるため、聞こえてくるのは時計の針が刻むカチコチという音だけだ。
 時折、明日羽がおかずを口に運んで美味いと呟く声が響く。
 たっぷり1分近くも溜めて、敏明と巡理が同時に立ち上がり、
『な、なんだって――――!!』
 二人の絶叫にどこかから犬の遠吠えが応えた。

――to be continued...

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