【科学部の暇な昼休み】


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 というワケで、伊藤君。夏休み間近で期末試験前のこの時期は我が第四科学部のかき入れ時なのだよ。分かっているよね? それなのにどうしてきみは嫌そうな顔をするんだ?
「いや、そりゃまあ知ってますけど。一応、僕も試験勉強で忙しいんですよ。余計なことで呼び出さないでくれますか? それなりに勉強ができる部長とは違うんですよ。というか、隣に立ってる薄っぺらな外人さんは誰です?」
 ああ、彼かい?
 彼はイワン・カストロビッチと言ってね、中々ナイスな留学生だよ。薄っぺらな人間性とちょっと性癖に難ありな部分はあるけどね。それを除け実に素晴らしい友人だよ。
「わざわざ昼休みに呼び出しといて、お前ら共々その言い方は喧嘩売ってるのか?」
 事実を言われて怒るとか、全く堪え性のない人だねえ。これだからロシア人は古来から露助と呼ばれるんだよ。黒騎士よろしく『俺の尻を舐めろ』と言ってやりたいところだけど、そこは広い心で包み込んで言わないでおいて上げよう。
 というか、きみはなんでそんなに日本語が流暢なんだい? ロシア人だろ。
「うるせえよ。クォーターなんだよ。爺ちゃんが日本人なんだよ。用ってのはなんだよ。早くしろよ。まだ飯食ってねえんだからよ」
 どうしてきみはそう短気なんだろうねえ。短気は何事も損をするよ。大体、物事というのはじっくり腰をすえて観察し、判断すべきであってだね、だから何事も早急に判断するというのは愚の骨頂だよ。ほら、徳川家康だってそうだろう? 結局戦国の時代を制したのは鳴かない不如帰を殺した信長じゃなくて、鳴くまで待った気の長い彼だったってことさ。かのレトロゲーにだって“待ちガイル”なんて言葉があるくらいでね……。
 おや、どうしたんだい、イワン? 何故憮然とした表情でこの部室から出ようとするんだ?
「カストロビッチさん、スイマセン、スイマセン。いつものことですから戻ってくださいよ~。友人なら、慣れたもんでしょ?」
 よーし、いいぞ伊藤君、彼を逃がしちゃ駄目だぞ。しっかり戸口をガードするんだ。
「あぁ!? 別にこ《・》い《・》つ《・》とは友人じゃねえ。たまたまつるんでいる奴が仲がいいってだけだよ。知り合いって奴だな」
「ですよねー。こんな馬鹿の友人になる奇特な人なんて相当ろくでもないですよねー」
 全くその通りだよねえ。でも、そんなこと言うとイワンが怒るから止めとこうね。
「ちょ! カストロビッチさん何するんですかっ!?」
 ほら、言ってる側から胸倉掴まされているじゃないか伊藤君。というか、馬鹿って人に言うのは自分が馬鹿だからね。
 うん、とりあえず、二人とも落ち付いたかい? 駄目だよ部室で暴れちゃ。常識が無いなあ。
 ――おや、どうして二人ともぼくの方を睨み付けるんだ? まるでぼくが何か悪いことをしたような空気じゃないか。
 あ、ちょっと、そんな目つきでにじり寄って来ないでくれないか? なんか今にも殺されそうな殺気が漂ってるんだけど、そんなことはしないよね。


 さて、落ち着いたところでイワンにそれを取り付けてくれるかな。
 あと、伊藤君、そこのティッシュを取ってくれ。何でかって? そりゃ、鼻血を止めるために使うからに決まっているじゃないか。
「というか、部長、これってなんですか? すごく胡散臭いヘッドギアなんですけど……」
 それはとある能力者の増幅系の力を付与させたものだよ。頭部に取り付けるだけであっという間に頭脳明晰、成績優秀な生徒に早変わりという、試験前には高額で売れること間違いない目玉商品だね。
 ささ、イワンそれを頭に巻きつけて。大丈夫、電流で焼けどするとかの欠陥があった某修行用ヘッドギアとは違うから。
「で? どうすんだ?」
 そこの右横にあるボタンを押してみてくれるかい? そう、それだよ。それをポチッと押すと知能が増幅されてだね……ってあれ?
「ちょ、おい、なんか知能ってよりもこう頭部が増幅っていうか……あた、あ、あ、あべしっ!」
 これはいいスキャナーズだねえ。
「カ、カストロビッチさーんっ!! 部長、なんてことをするんです。こ、これは殺人ですよ。頭部が吹き飛んじゃったじゃないですか!! こ、これはもう完全な殺害ですよ。手違いといえどこれは紛れもなく……あーあー、えーとこういうときはどこに連絡すれば……火葬場かな? それとも葬儀屋?」
 まあまあ、落ち着いて伊藤君。いやー、知能を増幅するはずが脳を増幅しちゃったみたいだね。てへ?
「てへ? じゃないでしょーっ!? アンタって人はーっ!!」
「あっぶねー。死ぬところだったじゃねーかよ。松戸っ!」
 いやー、きみが被験者で本当に良かったよ。ところで、ちょっと背が低くなったかい?
「飛び散った分減ったんだよ。全く、瞬間的に能力発動してなかったら死んでたぞ」
「あのー、カストロビッチ……さん? なんで生きてるんですか?」
 彼はこういう体質なんだよ。ほら、そこら辺に緑色のゲル状の物体が飛び散ってるだろ。あれが、彼の身体の一部だよ。
「あのー、それがジワジワ動いてるんですけど……」
「ん!? 俺の元に集まってるだけだよ。同化しないと元の身長になるのに時間が掛かるからな。あ、こんなとこにもあった」
「食わないでくださいよー!!」
 いつ見ても気持ち悪いねえ。自分の一部を自分で食べるってのはどんな気分なんだい? カニバリズムとはちょっと違うけど、色々と変な暗喩が出来そうな行為ではあるよね。
「うるっせーなあ。用が無いなら帰るぞ?」
 いやー、ゴメンゴメン、次はこの鉛筆だ。トンボ鉛筆だよ、トンボ鉛筆。やっぱり鉛筆はトンボに限るよね。
「なんだこれ? 六面それぞれに数字とアルファベットが書いてあるけどよ」
 ふふーん! 聞いて驚け。これはある人物の予測能力を付与したものさ。
「で?」
 相変わらず脳みそまでスライムだなきみは。
 あっ、だからかグーで振りかぶるなよ。
 これは選択問題の答えを予測するという実に実りの多いアイテムなのだよ。ちゃんと文字だって書けるんだぞ!
「普通に使えそうじゃねーか。転がせばいいのか?」
 そうだよ。ささ、転がしてみて。
「ふーん………」
「へえ……」
「ほう……」
「えーと……」
 うーん、全然当たらないねえ。
「どういうことですか部長」
 多分、予測の確率が低下したんだろうね。六分の一くらいに。こりゃあ、普通の鉛筆転がしと変わらないなあ。

『ポキ』

 あーっ! せっかくのアイテムを何で折るんだよイワン!! 作るの結構大変だったんだぞ。
「うるせー! ちったぁまともアイテムを出しやがれ!!」
「スイマセン、部長が馬鹿でスイマセン」
 全く、馬鹿とか失敬だな。たまたま失敗しただけじゃないか。いいかい、偉大な発明は多くの失敗の上に成り立っているのだよ。まあ、ぼくはエジソン見たいな守銭奴よりは八割トンデモなニコラ・テスラを尊敬するけどね。
「部長の場合は成功がたまたまなんです!!」
 くそう。こうなったら一番の自信作を見せようじゃないか。見て驚くなよ、聞いて呆けろ!
「もう、どっちなんですか……」
 あ、ちょっと待ってね、確か、この机の引き出しに仕舞ったはずなんだけどな……。伊藤君、何処に仕舞ったから知らない?
「知るわけないでしょ」
「俺なんでこんな奴に付き合ってるんだろう」
 おお、あった、これこれ、やっぱりBOXYだよねえ。
 じゃーん! 絶対に選択肢を間違えないボールペン! 
 あぁぁ、だから折ろうとしないでってば。
「あまりにもお前に学習能力がないから、つい」
 じゃあ、これはどうだい? スッカリ忘れてたけど、さっき机漁ってた時に以前作ったのを思い出したよ。
「なんだこのマイクは? カラオケでもするのか」
 ふっふっふっ。これは天啓を聞くことの出来るマイクさ。マイクに喋りかけることで、その答えを知ることができるのさっ!
「結構使えそうじゃねえか。それでどうやって使うんだよ」
 まず、横のスイッチを入れてね。そう、そして、マイクに向かって質問すればいい。ただ、それには制限があってね……。
「どんな?」
 三文字で質問をしないといけな―――人の作ったマジックアイテムを校庭に投げ捨てるなよー!!


 そう言いながら松戸科学《まつどしながく》は廊下へと飛び出ると、一路廊下を階下へと駆け出していく。
 イワンによって放り出されたマイクを確保するためなのであろう。
 確かにあれはイワンの言うとおり、役立たないアイテムかもしれないが、彼は、自分の作品をどんな駄作であろうと愛していた。だからこそ、今まさに走っているのだ。
 がんばれ松戸! 負けるな松戸!!


 ちなみにこれは、召屋正行が某研究所に突入しようとした数日前の出来事であり、ちょうど同じ頃、召屋が言動と行動で、微妙な立場なっていたことは、それはまた別の話である。




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