【告白】


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「実は……私、宇宙人なんですっ」
 ある晴れた昼休み、高校棟の屋上でのことだ。
 極々普通の学園の制服に身を包んだ、極めて普通のルックスの十六歳としては平均的な胸を持つショートカットの少女が言った台詞を理解するのに、ぼくは約三十秒という長い時間を要していた。
「あのぉ……幸人《ゆきと》くん? 聞こえてますか?」
「チョット待って、ちょっと待てっ! いくら超能力者に魔法使い、マッドサイエンティストに加え魑魅魍魎まで跋扈するこの島に住んで長いけどさ。いやまあ、多少のことには驚かないけど、だからって宇宙人はないだろ。そうだ! きみはぼくを担いでるんだな!? よーし、隠しカメラはどこだ? それともそろそろ野呂圭介が“元祖どっきりカメラ”の看板を持って出てくるんだろ? そうだよな?」
「さすがに野呂さんはご高齢ですし、引退した方ですから出てこないと思いますけど……」
「ほーら見ろ! やっぱり地球人じゃないかっ!! 大体、野呂圭介を知っている宇宙人なんているわけねーもんねー!」
 ぼくは彼女の眼前に人差し指をガシッと差し示めながら、誘導尋問が上手くいった探偵の気分で偉そうにそう言った。
 だが、ぼくのその態度に対して、彼女は僅かに眉間に皺を寄せ、戸惑っているような表情をしている。
「あのぉ……私たちの世代で野呂さんを知っている方が普通じゃないと思いますよ」
「女の子で知っている方がおかしいって! 宇宙人なら、それこそ何でそんなこと知っているんだよ!?」
「それは、地球人とコミュニケーション取る為には言語や文化の習得が不可欠だからですよ。先に訪れている先輩から宇宙宅急便で送ってもらった宇宙VTRで勉強したんですよ」
 バックに“エヘン!”という文字が浮き出てきそうなほどに、彼女は自慢そうに胸を張っていた。鼻の高さも心持ち二ミリほど高くなってそうだ。いや、でもその宇宙宅急便とか宇宙VTRとかってなんだよ。ますます胡散臭いじゃないか。
「じゃ、じゃあ、その宇宙VTRとやらで、どんな文化を勉強したんだ?」
「えーと、クレージーキャッツとか、ドリフターズとかの番組ですかね。海外だとモンティパイソンやサタデーナイトライブも良く見ましたよっ!」
「なにその七〇年代ど真ん中のお笑い番組……」
「なにぶん、超光速航法による宇宙宅急便では、どうしても時差というかタイムラグが起きてしまいますから……」
 おいおい、なんだ、なんでそこだけ微妙にリアルなんだよぉ。宇宙宅急便とかふざけた名前の癖に。
 大体な何故凄く残念そうな表情をしているんだ彼女は? 残念なのはこっちじゃないか? せっかく勇気を振り絞っての告白なのに、こんな茶番で誤魔化されるなんて……。こっちが混乱してくる。
「な、なるほど、それはよーく分かったよ。じゃあ、宇宙人なら、その証拠を見せてくれるかな?」
 ぼくは混乱しそうになる思考をなんとか押さえ込み、彼女が本当に宇宙人なのかを問い詰めることにした。事実、宇宙人でもかまわないのだ。振られたって構わないのだ。
 でも、今のままじゃぼくの一世一代の告白が、ただの電波発言によって煙に巻かれたようで嫌なのだ。
 だが、彼女は非常に困った表情をする。いや、悲しそうという表現が近いかもしれない。ただ、ぼくは人の心を読む能力者ではないので本当にそうなのかは分からない。
 彼女は事実を打ち明けることが気まずそうなのか、ゆっくりと話し始める。
 なるほど、やっぱりそうなのか……。
「宇宙人の証拠……ですか?」
「うん」
 ぼくははっきりと肯定する。すると、彼女は意を決したようにぼくの方をその澄んだ目でしっかりと見つめ、青空に響き渡りそうな朗々としたキレイな声で答える。
「実は私は二千歳なんです」
「はぁ?」
 その答えに、思わずぼくの顎が地面につきそうになる。それを何とか回避すると、自分のなかのテンションを何処に持っていけばよいのかと暫し悩みうろたえる。
 それを察したのか、彼女が心配そうにぼくの方に優しく声を掛ける。
「あのぉ……。やっぱり、信じられませんよね、そんなことって。でも私たちの種族は科学技術の進化によって、とっても長い寿命を手に入れたんです。でも……そうですよね。これは証明しようがありませんよね」
 彼女は酷く申しわけないという表情をしてる。それがぼくには辛かった。でも、ぼくは負けてはいけないのだ。
「他にスゴイ能力とかないの? 例えばぼくらが知らないようなすごい技術とかさ」
 ぼくは食い下がる。というか、ぼくはなんでここまで食い下がっているのだろう? そろそろ本末転倒な気もしてくる。
 ぼくの言葉に先ほど以上に彼女は悲しそうな顔をする。やっぱり、多分、嘘なんだ。
「無いことはないのですけど……」
 彼女は言いたくないのだろう、口ごもり、モジモジとし始める。そして……。
「これを見てください」
 そう言って、彼女はボールペンのようなものを取り出す。そして、非常に真剣な表情でこう言った。
「これは、私が唯一所持が許されたアイテムです。実は私たちは地球上で能力やアイテムを使用する制限があるんです。母星からも地球側からも、どちらの制限からも……」
 ぼくは彼女の目が真剣だと、本気だとようやく気が付いた。でも、ぼくも彼女ももう引けないのだ。だから、ぼくはこう言う。
「なら、それをぼくに試してくれ。それが本当なら信じるよ」
 ぼくがそう言うと彼女はぼくに目を合わせようとはせずに小さくため息をつく。その表情は酷く悲しそうで、僅かに目じりに涙が浮かんでいる。
 あれ? ぼくはこの光景を以前も?
「わかりました。では、ここを見てください」
 彼女はそう言って、ぼくの思考を無理やりに停止させる。そして、ボールペンの先を指差し、思わずぼくもそれを凝視する。すると眩いばかりの光りがそこから放射され、ぼくは……。


「……幸人くん!」
 ぼくは彼女の声で目覚める。ここはどこだ? ああ、いつものも屋上か。
 ぼくは彼女に抱きしめられていた。特別な異能も持たず、唯々病弱なぼくは、いつも、どんな場所でも倒れてしまうのだ。
 そして、その場所にいつもいて介抱してくれるのは彼女だった。幼稚園時代からの幼馴染の彼女。そんな彼女の優しさを知って、ぼくはいつも思う。いつか、彼女にこの自分の気持ちを打ち明けるのだと。
 あなたのことが好きですと……。
 それが届くのはいつなのだろうか? まずはぼくが告白する勇気を絞らねばならないな。





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