期末テストの話をしてみようと思う
「ほう、この数式を解こうと言うか? 出来るものならやってみせよ人間!」
「ああ、解いてやるぜ! ただしその時、貴様はもう存在していないだろうがな!」
「いいんだ、俺のことは忘れちまっても……でもな、少しの間だけ……そう、テストの間だけでも忘れないでほしいんだ……」
「くっ! 分かってる、お前のことは忘れない! きっとだ!」
「俺とお前の力が合わさるとき、それが新たなる化合物の目覚めとなるんだ」
「ああ、知っていたさ……」
正直言うとこのクラスは変な人が多い。
盗み聞きのようで気が引けるのだが私には聞こえてしまうみんなの勉強への姿勢。
誰の心の声かといわれれば分かるのだがあえてここは控えさせてもらう。だが、ここまで強く感じることがみんなの期末試験への焦りなのだとしても色々おかしいと思うのは気のせいだろうか。ここはいつから感動的なファンタジーの世界になったのか。それも最終決戦やその前夜のような。
それはさて置き、期末試験である。とりわけ苦手科目もない私にしてみると別段いつもどおりのイベントで、久遠さんのような学年トップクラスの人間からしてみるとただの自己診断のようなイベント。いたって平常運転だ。
そう、問題があるとすればただ一人。
アクリス。
私の大切な友達。
問題はここ三日ほど顔を見てないどころか連絡もなく、それ以前に考えてみれば連絡先を教えあってすら居なかった大切な友達。
……自分で言っててまた悲しくなってきたがそれは今度解決してみよう。
そう、友達とは共に高めあう存在のことを指すのだ。アクリスが知らない連絡先を私に教え、私がまた逆をする。まさに切磋琢磨。実にいい関係である。……言っておいて、なお更悲しくなってきたのでこの辺りにしておくとして、問題は本当に音信不通なのだ。
今までよくあったことといえばそうなのだが、それでもやれどこかで爆発騒ぎだのやれどこかでラルヴァの大量虐殺だの、学園からしてみれば珍しくもないけれどどこかアクリスの影があった事件がここ最近なかったことも気がかりだった。
気になるだけ気になったが、結局勉強が手に付かずというほどでもなく、一日は終わり、明日は試験当日。流石に明日は登校してくるだろうと思ったが一つだけ問題があった。
私のような能力者は試験の際に隔離されることが多々ある。カンニング防止のためなので仕方がないのだがほぼ半日を他生徒と接触できなくなるというのはいかがなものかと思った。だけど、そんな措置を“いかがなもの”として捉えることが出来るようになった今に感謝している自分があってどうにも複雑な気分にもなった。
何せ昔はそんな措置のことに何かを感じることも、誰かと会えないことがどれほど寂しいか知らなかったからだ。
そんな感傷に浸りつつ、何はともあれ私は試験を迎えたのだった。
更に明けて翌日。私は学校へと向かった。アクリスや久遠さんと親しくなって以来、そこまで憂鬱ではなくなったとはいえ、アクリスが居ないかもしれないと思うと教室に向かうのは少し足が重くなる。ここ最近はずっとそうだ。
でも、それも杞憂になりそうだった。教室から聞こえてくる久遠さんの声。どこかの誰かを怒るときに出す声だ。それとそれに応える笑い声。ほんの四日振りなのにずいぶんと懐かしく思える。思わず足早になる。扉に手をかけ教室へ。
「おっはよう!」
私より先に元気に声をかけてくるアクリス。話の途中で無視すんなと突っ込みを入れながら私にも挨拶をしてくれる久遠さん。このやり取りも懐かしい。
思わず笑みが零れるが仕方がない。
「おはよう」
荷物を置きながら私も応え、ここ最近どうしていたのか、なにから聞こうか迷った挙句、一番身近な話題を聞くことにした。
「試験どうだったの?」
「へ?」
私の質問にアクリスはナニソレという顔をした。悪寒を通り越して戦慄が走った。
「だって、ほら、期末試験だったでしょ? 私は能力のことがあるから別室だったけど……」
そういわれて彼女はやっと合点がいったようだ。そして彼女は笑顔でこう答えた。
「え、だって世紀末試験でしょ? あと八十年もあるじゃない! だから昨日はずっと魚釣り!」
彼女は今までどうやって進級してきたのだろうか。私は知らない。
―了―
最終更新:2010年03月28日 19:31