【ある前座の試験前】


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 放課後のチャイムが鳴り響く教室。
 とある女子が、2B最前列の教壇真正面、通称「特等席」に座る女子に颯爽と駆け寄る。
「さてちりりん、期末も近づいてきたわね」
「ええそうね」
「お願い! ノート貸して!」
「嫌」
「そんなぁ!? 即答だなんてぇ!」
 拝み倒しから一転、崩れ落ちる女友達に冷ややかな目線を投げ掛けながら、舞華 風鈴《まいはな ちりり》は帰り支度を整えながらきっぱりと言い放つ。
「なんでよなんでよぉ! いっつも借りてるときはちゃんと返して」
「私は貴方の間食代のためにノートを取ってるんじゃないの。よもや知らないとでも思って?」
「はぐゥ!? さ~~~て、何のことやら~~~?」
 下手な口笛を吹かせて誤魔化そうとしても、とっくの昔にネタは割れている。この女友達は、勉学の成績優秀な風鈴のノートを試験前にコピーしては売って回っているというのだ。
 コピー代しか出さない者もいれば、たかがノートコピー数枚に1教科五百円も出すような人までいると聞いている。
 普通に板書を書き取っているだけなのだから、誰がとっても同じ内容にしかならないはずなのだが……不思議なこともあるものだ。事実を伝聞で知ったときの風鈴はそう思ったのであった。
「勉強の手伝いになるのであれば貸すけれど、間食代のタネにするためだったら、もう貸さないから」
「そんなぁ! そこを何とか、どうにかなりませんかね舞華大明神様ぁ!」
「はいはい、勉強するなら、これから図書館どうかしら?」
「うぅぅ……この時期の図書館なんて、私行く気しないよぉ……」
「あらそう? 静かだし、気を取られる雑事もないし、勉強するには快適よ?」
「あぁ、季節の新作スウィーツが遠ざかっていくわぁ……よよよ」
 再び泣き崩れる女友達を見ながら思う。頼りにされるのは悪い気はしないけれど、こういう頼られ方はあまりいい気はしないなぁ、と。
「まったくもぅ、下手な泣き真似なんかしてないで、単語帳の1ページでも覚えたらどうかしら」
「そんなぁ~! ね、ちりりん、思い直して? ね? ね?」
「だったら自分のノートをコピーしたらどうかしら。元手もかからないし、下手な交渉もいらないし、いいこと尽くめよ?」
「自分のノートでお金になるんなら、こんな必死になって頼んだりなんて……しないんだよ!」
「そこは威張るところじゃないでしょうに……」
 やれやれ、と溜息ひとつ。身支度を整えた風鈴は、鞄を手に教室を後にしようとする。
「それじゃ、私はここで。試験勉強、頑張ってね」
「うぁぁぁぁぁん! ちりり~~ん! 後生だから、後生だからぁ~~~!」
 まるで金色夜叉ね、などと呟きながら、おろろ~んと泣き崩れる友人を尻目に風鈴は教室を後にするのであった。



 その後、友人の女子や通称「風の音ノート」を頼りにしていた一部学生は、別の供給口を探して東奔西走したという。
 その時間と労力を自力学習に費やせばいいんじゃね?という外野の声は届かなかったそうな……。


 ―――※――――――※―――


「まったく……なんで球技だと皆揃って『オマエは座ってろ』なんだよ……俺が何をしたってんだ」
 同学年でも随一のノーコン及び名前が読めないことで知られる西院 茜燦《さい せんざ》はボヤキながら帰宅する。
 まったく不当にも程がある。試験が迫るフラストレーションを発散するのに丁度良い機会であるはずの体育が、今日はサッカーだったわけだが
「ちょっと蹴りこんだら、右ナナメ後ろの味方の顔面にボールが当たっただけじゃないかよぉ……」

 投げても駄目なのは知ってるが、よもや蹴っても駄目なのか。クラスの意見は『以後西院はボールと接触させないように』で統一されたことを彼は知らない。

 そんなこんなで寮に帰宅。先に帰ってるはずのメイは勉強してるだろうか? 家から持参してきた携帯ゲームはこの時期だけ没収して自室に鍵かけて放り込んである。
 リビングの据え置きゲームは、勉強というものはメリハリつけるのも大事なことですよ、とアイツから聞いているから置いてはあるが、適度な時間で切り上げなかったら没収と伝えてあるから自重してるはずだが……。
 玄関の扉を開けてみれば、
「ただいま……って靴多いな。客か?」
 客でなければ一刀御見舞いするだけだが……居間からは賑やかな声が聞こえてくる。余計な心配は要らないだろう。

 実際のところ、居たのは押し入り強盗よりは面倒じゃないが、それなりに面倒な状況を作っている二名と、その状況から一歩離れた所に居るもう一名。
「で、なんでお前らウチにいる?」
 どういうカラクリか同居が認められてしまったため面倒を見ている妹分のメイシャルリントはまぁいい。
 縁あって知り合い今ではパラスの整備をお願いしている鵡亥《むい》姉妹が、どういうわけか来訪していた。
 双子の妹である明日明《あすあ》はソファに座って教科書を読んでいるようだが、姉の未来来《みらく》は、メイと一緒に嬌声張り上げゲームに興じている。
「何で、って……そりゃゲームしにゲフンゲフン、メイちゃんのお勉強を見てあげるためやで、ゼンザ兄ちゃん」
「そうかいそうかい。じゃあこのゲーム機はしまっておくな。勉強見てやってくれな、明日明《あすあ》」
「え? あ、はい!」
 喜色満面の明日明《あすあ》に対し、未来来《みらく》は茜燦《せんざ》に詰め寄る。
「ちょい待ちぃな! ウチは無視かいゼンザ兄ちゃん!」
「ゲームしにきた子は勉強の邪魔なので、帰ってくれると助かるのだが」
「ちゃうねん! これはちゃうねんで!」
 しどろもどろになりつつ必死の弁解を図る未来来《みらく》を、冷ややかに見つめる茜燦《せんざ》。
 そこに明日明《あすあ》からトドメの一言が投げ掛けられる。
「家に来るなりゲームに一直線だったよね、未来来《みらく》?」
「なぜにそれを言うかなぁ明日明《あすあ》! そもそも誰のせいで部屋にゲーム機置けないと思ってフギャー!」
 すぱこーん! 茜燦《せんざ》が丸めたノートを手に未来来《みらく》の脳天を引っぱたく。
「ぃやかましいわ! オマエはメイに勉強させないつもりか!」
「むー! ミぃちゃんをいじめないであげて、お兄ちゃん! メイが誘ったの、だから……」
 メイがそういうなら仕方がない。
 茜燦《せんざ》はあまりゲームはやらない方だが、メイは過保護な母親とよくゲームをしていたという。一人でプレイするのが寂しかったのだろう。
「そうかそうか……わかった。未来来《みらく》、明日明《あすあ》と二人でメイの勉強見てやってくれるのならチャラってことにしよう」
「しゃあないなぁゼンザ兄ちゃん、そこまで言われちゃあね! よし、やったるわ! メイちゃん、ビシバシしごいたるからなぁ!」
「わーい! じゃあお勉強道具取って来る!」
 メイは嬉しさ弾ける素早さで、自室に教科書やノートを取りに行く。みんなで勉強会、という状況が嬉しいのだろう。
「ところで、そんな威張れる立場じゃないよね、未来来《みらく》?」
「明日明《あすあ》は一言余計やねんな! で、ゼンザ兄ちゃんの勉強も見たるけど、どないする?」
「今日は古文漢文と世界史あたりを重点的にしようかと思ってるからパス。数学と理科系するときは頼むわ」
「そか……ウチらじゃ文系だったら力になれへんな。むしろ教えて欲しいくらいや」
「右に同じく。そのときはお願いしてもいいですか?」
「う~ん、俺よか水分《みくまり》副会長とか舞華さんのほうが成績良いし教え上手だと思うがなぁ……大したことは教えられないけど、それでよければ、な」



 そんなこんなで、かしまし三人娘とヤローが一匹、車座になって勉強会。

 上下左右の寮室からは、「憎しみで人が殺せたら……!」と怨嗟の声が轟いていたことを、当人たちは知る由もない。




 ―――※――――――※―――


 双葉学園から、遠く遠く、海超え大陸越えたその向こう。

「試験期間、か……誰も来ねぇ。暇だ」
 事務所のバイト及び同居人、後援者の娘もみんな学生。
 関係者は元より、残念なことに客すら来ない事務所に一人。座椅子に乗ってぐるぐる回転している騎士侯は暇を持て余していた。



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