【お花見パニック】


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 お花見パニック




「そうだ、花見をしよう」
 第三科学部部長、佐藤《さとう》千代子《ちよこ》はいきりなりそんなことを言いだした。 
 おっぱいの大きな千代子の助手、天井《あまい》亜芽《あめ》はそれを聞いてやれやれと深いため息をつく。千代子はいつも思いつきで物を言うので困ってしまう。
「あのですね先輩。今や花見シーズンの真っただ中ですよ。花見会場はもう満席です。この学校何人生徒がいると思ってるんですか。そういうことは早く言ってくれないと……」
 双葉区にある桜の木が咲いている花見会場は大人気で、何日も前から場所取りをしないといけないくらいである。今から言っても座るところ一つないであろう。
「そうか、じゃあ他に桜が咲いてるところはないのかな」
「無いですね。残念ですけど」
 亜芽がそう言うと、千代子はしょぼんと肩を落とした。だが一瞬後、何かを思いついたのかにやりと笑いビン底メガネをくいっと上げる。
「無いなら作ればいいじゃない!」
 その悪魔のような笑い方は、何かろくでもないことを考えたときの笑いだった。亜芽は嫌な予感がしたが、こうなった彼女を止める術はない。
「無いなら作るって先輩……。一体何する気なんですか?」
「うふふふ。まあ見てなさいって。おっと、ちょうどいいもの発見!」
 千代子は窓の外を眺めながらそう言った。亜芽も同じように外を見ると、高等部の中庭に子供が歩いていた。
 その子供は外国の子のようで、ブロンドの長髪に碧眼のとんでもない美少女だった。
「ちょっとそこのお嬢ちゃん! こっちおいで!」
「うむ。わしのことかのう?」
 その金髪少女は千代子に呼びかけられ、部室の窓の方へ近づいて行く。亜芽はその少女に見覚えがあるようで、じっとその少女の顔を見る。
「あれ、彼女って確か……」
 そう言っている間に千代子はどこからか取り出したペロペロキャンディをその少女に差し出していた。それを見て少女は目を輝かせ、嬉しそうにぴょんぴょんと跳ねている。
「おお! それくれるのか!?」
「うん。このキャンディあげるからちょ~~~っと頼みごと聞いてくれない?」
「うむ! なんでも聞いてやるから早くキャンディをよこすのじゃ!」
 少女はキャンディを受け取ると、何の疑問も抱かず部室の中へと入ってきた。千代子はまさにマッドサイエンティストのように「ふはははは」と高笑いしながら窓と扉に鍵をかけ、しゃっとカーテンも閉めてしまう。
 そんな千代子を見て、亜芽はこれから起こる恐るべきことを想像し、再び大きな溜息をついたのだった。


 ◇◆◇◆◇



「るんるんる~ん♪」
 軽快な鼻歌を唄いながら大神《おおがみ》壱子《いちこ》はお重箱を持ち、中庭をスキップしながら歩いていた。
 人狼族の彼女は頭から生えている犬耳と、ふさふさのしっぽを楽しげに揺らしていた。なんともご機嫌そうである。
「ああ、早くお花見会場に行かなくちゃ」
 壱子はわあっと笑顔になり、頬を赤く染める。壱子は今からお花見会場に向かうのだ。クラスのみんなも集まるのだが、そこには彼女の想い人であるダメ人間も酒を飲みにやってくる。壱子は彼のためにたくさんお弁当を作ってきたのだった。
「先生よろこんでくれるかなぁ……」
 わくわくとドキドキで胸を高鳴らせながら、壱子は中庭を進んでいく。しかし、ここで落ち合うことになっていた友人のショコラがどこを見ても見当たらない。
「もう、あのチビ吸血鬼ってばどこ行っちゃったのかなぁ」
 ここに来たばかりのショコラはまだ花見会場がどこかよくわからないであろうから、壱子が一緒に連れていくことになっていたのだが、まさか向かう前から迷子になるほどお子こちゃまだとは壱子も思わなかった。
「まったく、仕方ないなぁ」
 壱子がふうっと肩をすくめていると、爽やかな春の風が頬を撫でた。そして、その風に乗って幾枚もの花びらが舞ってきたのだった。しかもそれはここにはない花の花びらである。
「さ、桜の花びら?」
 空中のそれを手に掴んで見てみると、確かに淡いピンクの桜の花びらであった。この近くに桜の木は無い。だとすると遠くから飛んできたのだろうか。
 ふと目の前に視線を向けると、そんな風に考えていた壱子の思考を一瞬でぶっ飛ばす光景が見えた。
「うっそ!」
 そこには一本の桜の木が威風堂々と満開に咲き誇っていた。
 この中庭には桜の木は無い――はずなのに!
「な、なんでなんでなんで~~??」
 驚愕のあまり大声で叫んでしまう。それも仕方のない事であろう。あるはずのないものがそこにあるのだから。自分は夢を見ているのだろうかと、壱子は桜の木に駆けより、木の峰をぺちぺちと叩く。ちゃんとした木の感触が手に伝わり、これが夢幻ではないことを理解する。
 確かにここには桜の木があるにはある。
 だがその桜の木はもう十年も前に枯れ果てており、もはや桜の木と認識されないほどのものであった。
 なのに今現在、まるで奇跡でも起こったかのようにピンクの花を咲かせている。
 壱子が不可思議な現象に腕を組み、首をかしげていると、突然妙な機械の駆動音が聞こえてきた。
「ゴミ大量発生。ゴミ大量発生。掃除モードに移行」
 そんな片言の機械音声が聞こえる方に壱子が振り返ると、そこには卵の形をしたロボットがきりきりと動いていた。三つの車輪で移動し、マジックハンドで器用に竹ぼうきを持って桜の花びらを掃いていた。これは中庭に設置されている掃除ロボットだ。いつもここで掃除しているのを壱子も知っていた。
(……普通掃除ロボットって掃除機みたいになってるんじゃないの?)
 なんでわざわざ竹ぼうきを持たせるんだろうか、なんていう突っ込みはやめて、壱子はそのロボットの傍に立っている男子生徒に視線を移した。
「あっ、悠人《ゆうと》くんオハー」
「ちーっすワンコ。なーんかすげーことになってるなー」
 そのいかにもさえない感じの同級生、蔵丹《ぐらに》悠人もまた、その桜の木を見て唖然としていた。そんな二人をよそに掃除ロボット律儀にも落ち続けている桜の花びらを掃いている。
「今からクラスのお花見行こうと思ってたんだけど、なんだかこれが気になっちゃって」
「確かに。こんな穴場に桜の木があったら混雑してるとこ行くのはバカらしいだろう」
「まあ、でも行かなくちゃいかないんだけど。ショコラがいないから探してるの」
「あの吸血鬼か? 子供には興味はないけど、あの金髪はいいな。うん、金髪はいい……」
 悠人は遠い目でしみじみと頷いた。なんだか哀愁が漂っている。
「悠人くんはこんなところで何してんの? 友達いないの? 虚しいの?」
「ふふふ、奇遇にも俺もショコラじゃないが、金髪美少女を探しに……ってそれはどうでもよくて。そんなことよりこの桜の木が気になるな」
「木だけに気になると」
「突っ込まないからな」
 ダジャレのせいで空気が死んだので、壱子を無視し悠人はごんごんと掃除ロボットを軽く叩いた。
「おいお前、この桜の木について何か知らないか?」
 すると、掃除ロボットはピカピカとメインカメラを光らせて、きゅるきゅると悠人のほうへと向き直った。
「ワカリマセン。私が掃除に来た時にはすでにこの桜は咲いておりマシタ」
「ふーん。なんだか怪しげだな。おい、ちょっと調べてみてくれよ」
「ワカリマシタ。あなたの言う通りにシマス」
 掃除ロボットは悠人の言う通りに、桜の木の元まで遅い速度で走っていった。それを見て壱子は首をかしげる。
「あのロボット、よく悠人くんの言うこときくね」
「うん? そんなもんだろ」
 そう悠人は軽く言うが、いつも壱子はあのロボットに話しかけても無視されることが多いので不思議に思ってしまう。
「調査を開始シマス」
 ロボットは目から光を発し、桜の木に当てている。コンピュータをフル回転させているのか、カチャカチャシャキーンという音がボディから聞こえてくる。
「解析完了しましタ」
 ロボットは彼らの方を振り向いてそう言った。
「よしよくやったぞ」
 そんなロボットの頭(ボディ?)を悠人はぽんぽんと撫でてやり、ロボットは心なしか嬉しそうに光の点滅を繰り返していた。
「それで何がわかったの?」
 そう壱子が尋ねると、ロボットの上部が蓋のように開き、そこから液晶ディスプレイが現れる。
「なーんだこりゃ」
 悠人が指でその画面に触れて操作すると、妙な図面が出てきた。どうやらこの中庭全体の地表断面図のようだ。
「この地面の下カラ、生ゴミの反応がありマス。すぐに掃除しなければナリマセン」
「な、生ゴミぃ?」
 悠人と壱子は思わずそんな素っ頓狂な声をあげてしまう。ぴぴっとさらに端末をいじると、センサーが作動して、地中に何が埋まっているか、大まかにわかるようになった。
 それを見ると、桜の木の近くの地面の中に、人の形をしている“何か”がセンサーにひっかかかっていた。それがロボットの言う“生ゴミ”だろう。画面にはぼんやりとした輪郭しか映っておらず、正確な映像は映っていない。
「な、何これ……?」
「に、人形かなんかじゃないか……?」
 壱子と悠人は顔を見合わせる。二人の顔は青ざめていた。
「でも、生ゴミだよ……」
「じゃあ、ほら……もしかしたら大きなヒトデとか?」
「海は近いけどあり得ないよ……」
「じゃあ、ほら、あれだよ……あれ」
 悠人は顔をこわばらせながら、ゆっくりと言った。
「死体……とか?」
「きゃあああああ! やめてよおおおお!」
 悠人の言葉に壱子は悲鳴を上げてその場に突っ伏し、がたがたと震えてしまった。
 桜の木の下には死体が埋まっている。
 そんなのはベタで陳腐な怪談だ。あまりにありふれていて口にするのも恥ずかしい。だが、実際この桜の木の下には人の形をした生ゴミがあるという。
「ワンコ、お前ラルヴァのくせにそんな怪談が怖いのかよ」
「だって、だって……死体だよ、死体!」
 半泣きで壱子は桜の木の下を指さす。確かにそれが本当なら、と悠人も寒気を感じ、肩を震わせる。
「おいワンコ。お前地面掘って確かめてみろって。犬なんだから穴掘るの得意だろ?」
「犬じゃないもん、狼だもん! でも絶対嫌だからね!」
 壱子はそこから距離をとり、ぶんぶんと首を振る。よっぽど怖いのだろう、耳が垂れ下がっている。
「この下の生ゴミと、突然現れた桜の木は関係あるのかな」
 ううむ、と悠人は腕を組み考える。すると、後ろからわいわいとした女子の声が聞こえてきた。
「さー飲むぞー食べるぞー歌うぞー!」
「“飲む”はアウトですよ先輩。未成年なんですから」
「大丈夫、ジュースだ、ジュース」
 視線をそこに向けると、何やら食べ物や飲み物を持った女生徒が二人こちらに向かって歩いてきていた。一人は白衣にビン底メガネの背の低い女の子に、もう一人は思わず目を引くほどに大きなおっぱいを持つ女の子であった。
「あ、あの人たちは……?」
 悠人は彼女たち、いや、ビン底メガネのほうの顔に見覚えがあった。だがどこで見たか思い出せない。
「あっ、先客がいるじゃーん」
 ビン底メガネは悠人たちに気付き、親しげにやってきた。悠人は思わず彼女たちが何しに来たかのかと疑問を口にする。
「あのう、なんですかそれ」
「何って、お花見をするのよ。あたしら第三科学部のお花見よ」
「そうですよー。あたしは甘井亜芽。こっちは部長の佐藤千代子先輩です。その桜の木を見ながらご飯食べるんです」
「そうだ! せっかくだからキミたちも一緒に花見していく?」
 ビン底メガネの千代子は名案とばかりにぽんと手を叩き、しなをつくって悠人にぴたりと身を寄せる。そして悠人の胸を指でつついた。
「いいいっ!」
「あんた二年生? 結構可愛い顔してるじゃない。この大天才美少女の千代子様と一緒にお花見できるなんて嬉しいでしょ?」
 悠人の身体中に鳥肌が立つ。悠人はモテない癖に面喰いなのだ。しかし相手は三年生で、先輩だ。むげに断るのも気が引ける。
 そう悠人が困っていると、お掃除ロボットが思い切り走ってきて千代子を突き飛ばした。
 というか轢いた。
 文字通りの暴走である。
「せ、先輩!」
 千代子の小さな体は空中で数回転して見事な放物線を描き、数メートル先にまで吹っ飛んでいく。それを悠人はぽかーんと見ていた。
「なななななにするのよこのポンコツ!!」
 ゴキブリのようなしぶとさで立ちあがった千代子は、ヒビの入ったメガネを押し上げながらロボットを睨みつけた。
「ロボットの癖に創造主に攻撃するなんて何考えてるのよ。ロボット三原則ってあんた知ってる!?」
「ワタシロボットニホンゴワカリマセン」
「うそつけえ! ロボットの癖に嘘までつくの? あんた絶対解体して――ってうわあああああ!」
 千代子がロボットを責め立てていると、ロボットは攻撃モードに変形し、ガチョンガチャンと禍々しい形へと姿を変えていった。そして実装されているバズーカ(寝起きドッキリで用いられるもの)で千代子に向かって砲撃を開始した。たまらず千代子と亜芽は走って逃げだす。
「だ、誰よあんな掃除ロボに兵器つんだバカは!」
「せ、先輩ですよ~」
 そうして叫び声をあげながら走り去って行ってしまった。
「戦闘終了。掃除モードに移行」
 ロボットは何事もなかったかのように静かになり、再び箒を持って掃除を始めている。
「も、もうなんだったのあの人たち」
 騒動が過ぎると、壱子はひょっこりと木の影から顔をのぞかせる。どうやら隠れて見ていたようだ。
「しらねーよ。結局この桜の木はなんだったんだ……?」
「あの人たち何か知ってそうだったよね」
 むむむと二人は首をひねる。
 しかし、そうこうしていると、突然ロボットからアラートが鳴り響いた。
「なんだ?」
「な、なに?」
「地中にラルヴァ反応! 地中にラルヴァ反応!」
 ロボットはそう叫ぶ。悠人が慌ててまたロボの端末をいじると、先ほどの人の形をした生ゴミからラルヴァ反応が出ており、ゆっくりと地中の外へと出ようと動き始めていた。
「げげげ! ラ、ラルヴァア? もしかして死体が動き始めた?」
「ゾンビ? ゾンビなの?」
 二人が慌てふためいている間に、ずぼっと地中から生白い腕が生えてきた。間違いなく、それは人間のもので、やはり死体がここに埋まっていて、ゾンビとして蘇ったのだと壱子は考えた。身体が固まり動けないでいる間に、そのゾンビはその全身をついに地上に姿を現した。
 しかし、地中から顔を出したそれは、壱子がよく知る顔であった。
「ぷっは~~~~~。ああー死ぬかと思ったわい。っというか一回死んだぞ……」
 その顔は崩れた死体のゾンビではなく、金髪碧眼の美少女である。
「しょ、ショコラー!」
 土の中から出てきたのは壱子の探していた吸血鬼のショコラであった。体中土まみれで、口の中の土をぺっぺっと吐きだしている。
「どうしたのあんた。こんな土の中で」
「ううむ、変なマッドサイエンティストに掴まって妙な実験をさせられたのじゃぁ……」
 ショコラは半べそをかきながらことのいきさつを語った。
 桜の木の下には死体が埋まっているという噂がある。死体の養分を吸い取った桜は、素晴らしく咲き誇るということらしい。
「それでそのマッドサイエンティストはわしを地面に埋めて、桜の木を一瞬で生えさせて満開にさせようとしたんじゃのう」
 その実験は成功したようだ。普通の死体でそんなことは不可能なのだが、さすがは不死の王、吸血鬼の養分と言ったところであろう。もう枯れ果てていたはずの桜の木が一瞬で満開になったのだ。
 一度生き埋めになって死体になったものの、不死身のショコラは蘇り、自力で這い出てきたのであった。
「あんたも災難ね……ここに来てから何回死んでるのよ」
「ううむ。土まみれじゃわい。ワンコ、風呂入るぞ風呂!」
「はいはい。シャワー室いこっか」
 ひとまず花見会場に向かうのは仕方なく後回しにし、壱子はショコラの手を引っ張る
「じゃあね悠人くーん」
 そう手を振って二人はその場から去っていった。






 一騒動が終わり、どうしたものかと悠人は頭をぽりぽりと掻く。
 今は春休みで友人らも帰省したりバイトに励んでいるため、とにかく暇だ。なんとなく学校に来たものの、壱子も行ってしまい、他に知り合いもいない。
(大人しく帰るか)
 そう思い桜から背を向けると、ついと誰かが自分の袖を引いた。
 振り返ると、お掃除ロボットがそのマジックハンドで自分の袖をつまんでいたのである。
「な、なんだよ」
 悠人がそう言うと、ロボットは科学部の二人が置いていった食べ物やジュースなどを手に取り、悠人に渡す。
(ゴミになるから持って帰れってことか?)
 と悠人は考えたが、ロボットはピカピカとカメラを点滅させてこう言った。
「私とオ花見しまセンカ?」
 その瞬間ぶわっと風が吹き、桜の花びらが舞い散っても、ロボットは掃除をせず、ただ悠人を見つめている。
 悠人はジュースをロボットに渡し、自分は紙コップを手に持った。
「じゃあお酌してくれよな」
 ロボットと花見もここでしか味わえない体験だな、と、悠人は桜の木を見ながらそう思った。


(了)





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