【双葉戦隊ガクエンジャー ~私が部活に入った理由~ 前篇】


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【双葉戦隊ガクエンジャー ~私が部活に入った理由~】


 私の名前は白鳥小百合。
 今年から双葉学園に通う事になった高等部一年の普通の女の子。……じゃなくなってしまった女の子。
 私が何故受かっていた第一志望の高校にも行かず、こんな聞いた事もない学校に来てしまったかと言うと、それには不快、いや深い事情があるのだ。
 ある日突然、私の周りで起こり始めた不思議な現象。『自然爆発』。
 ゴミ箱が爆発してボヤ騒ぎになったり、校庭の何も無い所で突然爆弾が投げ込まれたような爆発が起こったり。
 爆弾テロかと大騒ぎになり、警察が事件を調べ始め地元の新聞やメディアも動き出した頃、私の元に国の役人だと言う人が来た。
 そのまま霞ヶ関のよく分らない建物の部署に母さんごとリムジンで運ばれて、一家に事の真相が告げられたのである。

 初めは信じられない話だった。
 自分に超能力が発現して今国はそれをまだ隠している。生活や立場は保障するから秘密を守るため双葉学園に通ってくれと言うのだ。
 新聞やニュースでは、先の事件は正体不明のテロか悪戯の線が濃厚となり現在調査中~と言う内容になっていたが、国の役員が言うには「ずっと調査中」になる事件だと言う。
 それはそうだ。犯人は異能に目覚めたばかりの私の能力の暴走だったなんて、言って誰が信じると言うのだろう。
 私はそう言えば、と思い出す。ここ数年たまに変な事件が起こり調査中のまま続報がないものが増えたなぁ、と。
 その真相が〝こう言う事〝だった何て、まさに事実は小説よりも奇なりとはこの事だ。
 と言うような事があり、紆余曲折を経る暇も無く私は急遽双葉学園への入学と引越しが決まってしまったのである。

 突然決まった異能力者だらけの学園での一人暮らし。当然父母は心配してくれたが、私は心配をかけまいと気丈に振舞った。
 小中高大、日本全国の運悪く異能力とラルヴァに関係してしまった少年少女達が集まるこのマンモス校で、私はいったいどうなってしまうのだろうと思っていたのだが……
「あ、お母さん? うん、ごめんごめんちゃんとGWには家に帰るから。え? ケータイ代が高い? だって友達と……はいはい分った。気をつけるよ」
 心配は全て徒労に終わった。
 確かに私を含めて不思議な力を持った生徒達ばかりだし、不良っぽい人や恐い風紀委員の人達もいるけれど、そこは若者特有の順応力。
 一ヶ月もする頃には普通に友達が出来て、すっかりこの生活にも慣れてしまった。
 みんな私と同じ普通の学生なのだ。環境や状況が変わっても、根っこの部分は変わらない。
 毎日勉強して運動して、駄弁って遊んで楽しい日々が続いている。そんな中、私は今ちょっと後悔し始めている事が一つあった。
「じゃあまた電話するね。……自分からかけてきた例がない? 便りが無いのは何とやらって言うじゃない。じゃあねおやすみ。うん、お父さんにも宜しくね」
 ケータイの終話ボタンを押して、私は座っていたベットにドサッと大の字に寝転がる。
 学生寮の真っ白い自室の天井を見て思う。私の人生はまだ白いキャンバスだ、と。
 時刻は夕方の6時を少し回った所、今頃部活に入った人達は仲間と下校し始めている所だろうか。
 そう、私が後悔し始めていた事とは部活に入らなかった事なのである。
 中学までは剣道部に所属していた。
 しかしあの汗臭い防具の匂いと夏は暑く冬は寒い道場、朝も夕も部活で消費される日々が少し嫌になり、女子高生になったらもっと遊ぼうと心に決め帰宅部となったのだ。
 ところがいざ帰宅部になってみると、何と暇で張合いの無い日々だろうか。
 5月になった今、求めていた自由は暇に変わり、下校途中に見える部活に励む級友達の姿が羨ましく見えてきたのである。
 入学したての新入部員勧誘の頃は、自分がこんなカラッポな人間だとは思ってもみなかったのに。
「はぁ~あ。夕飯買いに行こう」
 そろそろ双葉商店街は売れ残り品をさばく為タイムセールを始める時間だ。
 私は心のキャンバスにまた一つ空虚な色を塗りこみ、日々に疲れ始めたOLのように自動的にその足を玄関へと進ませた。

「うぅ……5月とは言え夕方は肌寒いわ~」
 夕日は建物の陰に身を隠し、赤かった空を次第に夕闇の群青色が塗りつぶし始める中、私は寮から商店街に抜ける公園の中を歩いていた。
 5月になり随分と日が長くなった。6時過ぎまで明るい空は、初夏の訪れが間もなくと言う気持ちを起させてくれる。
 とは言えこの時期、夕暮れの外は風が吹くと肌寒いと感じる微妙な季節で、私は色気もへったくれも無い学校指定のジャージの上を羽織って街灯の道を進む。
 こう言う時を逢魔が時と言うのだろうか、周囲は薄暗くゆっくりと夜の帳が落ちようとしている。
 道の両端に並ぶベンチとツツジの植木も黒い輪郭に隠されハッキリとは見えない。そんな中、突然訪れる夜に気づいたように街灯が明かりを点した。
(あ、街灯が点く瞬間って久しぶりに見た)
 そう思って私の心はまた少し寂しい気持ちになる。
 部活に行っていた頃は陽が落ちてから帰る事など珍しく無かった。部活の仲間と一緒に街灯の点く瞬間なんて下らない事で盛り上がったりしたっけ。
 みんなでクタクタになるまで練習して、校則違反の買い食いをして公園で駄弁ってから帰ったっけ。
「そっか……部活って楽しかったんだなぁ」
 入部期間を過ぎた今、もう嘆いても仕方の無い事だけど、それでも……
(え? 何今の音)
 そんな時、何か妙な唸り声のようなものを聞き私はその場で立ち止まった。
 場所は公園の中頃を過ぎた辺り、メインから外れた近道の道を通っているせいか周囲に人の気配は無く、道を照らす街灯の明かりだけが唯一の頼りの綱。
 周囲を見回すも何もいる様には見えない。一体なんだったんだろう。空耳だったのだろうか。
 そんな事を思っていると、植木の方からガサガサと言う音と、先程聞こえた唸り声のようなものがした。
 驚いて反射的に音の方を見た私はゾッとする。何故なら音は一方向から聞こえただけではなかったからだ。
「野……犬?」
 街灯に照らされて私の周囲を囲むように現われたそれらは、しかし犬とは思えない凶暴で怒りに歪んだ醜悪な口を、牙もあらわにこちらに向けている。
 餓え乾いた魔物のように唾液を垂らし、火を宿したように真っ赤で鋭い目がジッとこちらの一挙手一投足を見張っている。
 数は7、8匹はいるだろうか。その凶暴な獣達が、まるで狩の陣形を整えるようにゆっくりと等間隔で私の周囲を回り始めたのだ。
「い……いや……何なの? これ何なの……!?」
 実は私はラルヴァと言う物を見た事がない。
 この双葉学園にはラルヴァに親族を殺された学生も多いと聞くが、私は異能力の発現によって学園に入った生徒だからだ。
 その私が今始めてそのラルヴァらしき物と、こうして最悪の形で出会ってしまったと言うわけだ。
 コレがどんなラルヴァなのか何て知らなくとも本能的に解った。コレは人間を襲い、その鋭い爪と牙で引き裂いて食べてしまうラルヴァだ。
(双葉学園にはラルヴァ避けの結界が張ってあるから安全なんじゃなかったの!? 全然駄目じゃない!)
 実際おかしいとは思っていたのだ。
 入学の時配られた学生に持たせるにはかなりオーバースペックな学生手帳。それに"もしもの時は入る〝と言われたラルヴァ発生を知らせるメールのシステム。
 絶対安全ならそんな緊急速報みたいな物無くても良いはずなのに、やはり現実には絶対安全などではなかったのだ。
 それなのに私は今、その学生手帳を部屋において来てしまっている。
 そうか、いくらなんでも人気が無さ過ぎると思っていた答えがコレだったのだ。きっと私以外の人はメールを見て、ここに近づかないようにしているのだ。
「あ……あっち行けぇ!」
 入学して1月にしてこんな事になってしまうなんて。私の中で急速に後悔と恐怖の年が膨らみ始める。
(どうすれば良いの!? 一体どうすれば……そうだ!)
 それでも私はただ泣き叫ぶ女の子のような事はしなかった。
 ラルヴァと言う化け物は異能力で倒すと言うような話を授業で聞いていた私は、この学園に入る切っ掛けとなった私の能力『エクスプロージョン』を使ったのだ。
 自然発火――所謂ファイヤースターターと呼ばれる能力の亜種だと担任の先生は言っていた。
 何も無い所で爆発を起せるこの能力を、初めて出会った犬か狼のようなラルヴァに私はお見舞いした!
「キャイーーン!!」
「やった! 通じる!」
 爆発は7匹の内の1匹を吹き飛ばし他の狼ラルヴァ達をたじろがせた。
 この時はイケル!と思った私だったけれど、直ぐに現実はそれほど甘くない事を思い知らされる事になる。
「あ!」
 6匹の狼ラルヴァは周囲に残り、まさに一足一刀の距離を保ち続けているのだ。
 そして私は悟った。この6匹は一斉に飛び掛る気なのだ、今の一撃で完全に怒らせてしまったのだ、と。
 確かに私はエクスプロージョンで狼ラルヴァを倒せる。ただしそれは一度に1匹までの話だ。
 前から横から後ろから、一斉に飛び掛られたらどうにもならない。殺されてしまう。
「あぁ……あ……」
 私の心に今となってやっと本当の恐怖と言う物が去来した。
 必死になって周囲を見回すが、街灯と月明かりで見える範囲には誰も居るように見えない。助けなど来ない状況である事は明白だ。
 そんな私の焦りと恐怖を感じ取ったのか狼ラルヴァの一団はジリジリと間合いを詰め、今まさに必殺の距離を測っているようだった。
 もう飛び掛ってくる。今飛び掛ってくる。あの獰猛な牙と爪が私の体に突き立てられる。
 生まれて初めて絶体絶命の窮地に立たされた私は、そんな事をしても無駄だとわかっているのに、それでも殆ど本能的に叫ばずには居られなかった。
「助けてーーーーーーーーー!!」
 私は叫んだ。力の限り叫んだ。
 しかし無情にも、その声がまるで合図にでもなったかのように狼ラルヴァ達は一斉に地を蹴り――
「だぁーーー!」
 そして一撃の下に倒されていた。
「……え?」
「大丈夫か?」
 一斉に全方位から飛び掛ってきた狼ラルヴァを紫電一閃、横一文字に切り払ったのは。
「誰この全身真っ赤なタイツ!?」
 どこからどう見ても地方の宣伝用特撮戦隊みたいなデザインのコスプレをした男だった。
 男、と言ったのは顔がマスクに隠れていて見えないが声が男の声だったし、何より全身ピッチリの独特なスーツがこれ見よがしに男の体を演出しているからだ。
 細身ながら鍛え込まれた筋肉の硬さが、私を庇って抱いた部分から伝わってくる。
 こんなコスプレをしていなければ一発で惚れてしまっていたような状況なのに……こんな状況にも拘らず、そんな変な思いが私の心を不謹慎で残念な色に染め上げていた。
「ガルルル! グゥルルル!!」
「あっ! コスプレンジャーー後ろ後ろ!」
 と、私を庇ってくれていたコスプレンジャー(と取り敢えず名付けておこう)の右の肩に狼ラルヴァが1匹噛み付いていることに気づいた。
 おいおい大丈夫なの?と思いつい声をかけたが、このコスプレッド(赤いのでそうしておこう)は痛くないのか平然とその狼ラルヴァを捕まえて放り投げた。
「ん? まだ居たのか。レッド……スルーーーー!」
 ギャインと言う獣の声と共に、放り投げられアスファルトに叩きつけられたラルヴァはそのまま動かなくなった。
「軟弱なビーストラルヴァの諸君! そんな攻撃じゃガクエンジャーは倒せないぜ!」
 ビシッと被害者であり唯一の観客でもある私に決めポーズをして見せたコスプレッドは、そのまま私に話しかけてきた。
「大丈夫だったかいお嬢さん? 俺が来たからにはもう安心だ。目的地まで送ってあげよう」
(ゲッ、この格好のままで来る気だきっと)
「あ、もう大丈夫ですから。助けて下さってありがとうございました」
「遠慮しないで。夜道は危険が一杯だぜ?」
「ホントもう大丈夫なので。これ以上は悪いですから。あの、ホントに……本当にもう……しつこいこのコスプレッド!?」
 命の恩人であるこのコスプレッドには感謝はしているけれど、商店街までこの格好のまま同行願うのは絶対にNOだ。
 「いやいやホント、危ないから。遠慮いらないから」と恐るべきしつこさで付き纏おうとするこの男に、助けてもらった手前強くも言えない私が困り果てていると。
「ん? 危ない!」
 コスプレッドの背後で私のエクスプロージョンが炸裂する。さっき倒したと思われた狼ラルヴァの内の1匹が起き上がって再び飛びかかろうとしていたのだ。
 コスプレッドは背後で起こったその爆発跡を見て、何だか呆気に取られているようだ。
「ね? 私異能力者なんですよ。だからもう大丈夫ですから――」
 私がそのチャンスを逃すまいとその場から逃げようとすると、突然コスプレッドが私の手を取って変身を解いた。
「君こそ俺が捜し求めていた理想の人だっっっ!!」
「へ?」
 変身を解いた光はコスプレスーツの全身のラインを流れるように駆け巡り、やがて左手のブレスレットへと集まっていった。
 その光の中から現われたのは――赤い龍の刺繍が入ったスカジャンに白シャツとジーンズと言う格好の若干イケメン風の男子。
 髪は長すぎず短すぎず、少し逆立ち気味の毛先が夜風に吹かれ揺れている。
(あ、ちょっと格好良いかも……)
 熱血系と言うのだろうか、危ない所を助けてくれた人が情熱的なアプローチで迫ってきたら、私じゃなくても心が揺れるだろう。
 今やすっかり私の中ではさっきまでのコスプレッドの事は隅に置かれ、イメージは目の前の男子に書き換えられたのだった。
「君が欲しい!」
(やだ、何て事言うのこの人)
 私は頬を赤らめながら騎士のように跪いて私の手を取る、名も知らぬ彼の真直ぐな視線に目を背ける。
 高校生になって1ヶ月、こんな美味しい展開があって良いのだろうか。
 さっきのコスプレはきっと戦いのための服なんだろう。センスが悪いのは後々直してもらうとして、今は目の前の出逢いに集中しなきゃ。
 そんな皮算用が高速で行なわれていた私の脳内だったが、不意に聞きたくない言葉が耳に入ってきた。
「君の異能が! 是非我が部にっ!!」
「……え?」
 イマナンテイッタ?
 欲しいのは私じゃなくて私の異能?それも部活に欲しいって?
「今の見事な爆発は君の異能力なんだろう? その爆発が我が『双葉戦隊ガクエンジャー』に欲しいんだ!」
「……」
 私は確かに部活に入らなかった事を後悔していました。
 毎日が充実していた、仲間が沢山居たあの頃を懐かしんでいました。それでも……それでも……
「ど、どうしたんだ? 具合でも悪いのか?」
 乙女心を弄んだ罪はラルヴァより重ーーーい!
「この……バカレッドー!!」
「ぎゃーーーーーーーー!?」
 私はエクスプロージョンをレッドにお見舞いした。
 命の恩人で感謝していたのに。ちょっと恋しかけたのに。私じゃなくこの爆発の異能が欲しいなんて酷くないですか?
 落ち込んでいた気持ちと持ち上げられて落とされるコンボが決まり、私の心はもう限界になっていました。
 吹き飛ばされて木の枝にタオルのように引っかかったレッドの方を振り向きもせず、私は泣きながら商店街の方に向けて走り去ったのです。
「ラ、ラルヴァの一撃より効く……」
 初のラルヴァとの戦いから出逢いと失望までを一気に駆け抜けた今日ばかりは、ダイエットは中止して好きなものを思うさま食べる事を決めた私でした。




 次の日の放課後、私は今からでも入れる部活は無いか調べていた。
「はぁ~、やっぱりもうどこも今からじゃ入れないのね」
 しかしどうにも結果は思わしくない。
 4月に配られた部活動名簿と紹介文を元に担任の先生に相談した結果、部活動募集期間が終わっている今からでは正式な入部登録は出来ないとの事なのだ。
 部活が始まり校庭からは元気の良い色々な声が聞こえてくる。
 「ファイッオーファイッオー」「あえいうえおあお」「~~~~♪」どれも仲間達と一緒に頑張っている部活の音だ。
 私はそれを聞きながらガッカリとうな垂れて職員室を出て行った所――
「君が1年の白鳥小百合くんだね?」
「はい、そうですけど」
 突然知らない先生に声を掛けられた。
 肩下まである軽くウェーブがかかった髪を後ろに縛って、スーツの下にはタートルネックを着ているお洒落な先生だ。
 何年何組の先生だろう?私は学校に入ってまだ日が浅いので、この先生が誰なのか何の目的で呼び止められたのか分らなかった。
 しかし先生の口から紡がれた言葉は、今部活に入れないと分って傷心の私にとって、まさに救いの言葉だったのだ。
「私が顧問を務めている部に入らないかい?」
「え、今から入部できるんですか?」
 最初は我が耳を疑った。
 入部登録できないはずなのに入部できるなんて夢のような話だ。
 本当は何部なのか聞くのが重要なはずなのに、この時の私は「部活に入れる」と言う蜜の味の言葉で頭が一杯で、すっかりその気になってしまっていたのだ。
 その先生は爽やかに笑うと優しそうな笑顔を私に向けて説明した。
「ははっ、校長印をちょっと拝借して部活名簿に名前を足すだけだよ」
「私は嬉しいですけど、もしバレたら先生が……」
「なぁに、校長だって生徒全員の部活を把握しているわけじゃないさ。それに、反しても誰も困らない規則より一生徒の青春の方が大切だからね」
「先生……っ」
 ちょい悪親父と言うのだろうか。
 爽やかだけどちょっと悪い所がある。けど優しい感じのその先生の言葉に、私はとうとう何部か聞く事もしないまま付いて行ってしまったのでした。
 しかしこれが私の奇妙でおかしな高校部活動生活の始まりになるとは、この時はまだ夢にも思っていなかったのです。




「ここが我が部の部室だ」
 そうして案内されたのは校庭の横に立ち並ぶ部室棟の一番奥。
 野球部、サッカー部、テニス部と規模の大きな部の順に校庭から近い位置に部室を持っているのだが、その部室は校庭から最も遠い奥の奥。
 建物の横には直ぐ雑木林が広がる所で何となくジメジメとした最悪の立地だった。
「あの……ここですか?」
「そう、ここだよ」
 嘘であってもらいたいと言う現実逃避の意味を込めて先生を見返すも、先生はニコやかに何か問題でもと言わんばかりのスマイルを返してくる。
(うわ~藪蚊が飛んでるじゃない。向かいの自動車部?の古タイヤとか置かれてるし。立場弱そ~)
 どう考えても良い印象など湧いてこないこの光景に、私はやっと先程までの熱も冷め冷静に物事を見る事ができるようになって来たのです。
(この部って一体何の部なの!?)
 そうです。それが一番部活動において重要なのです。それなのにさっきまでの私は「部活をやれる!」と言うだけで浮かれていて、内容まで頭が廻らなかったのです。
 その結果が何と言う事でしょう。もう今更「やっぱり辞めます」とは言えない状況になるまで、この変な部に足を踏み入れてしまっている現状なのです。
 昨夜に引き続き再び夢が崩れ去った事で若干の目眩を覚えながら、私は意を決して汚い部室の扉を開けたのです。
「百十六! 百十七! 百十八!」
 入るとそこには行き成り半裸で汗だくになりながら、一心不乱に腹筋運動をする男子の登場でした。
 益々クラクラしてくる頭を何とか気力でもたせ、私は意を決して最初の部員《なかま》に声をかけてみました。
「あの~はじめまして。私、新しく入部した白鳥小百合と――ってあ~~~~~~~!? あんたはっ!!」
「ひゃく……ん? おぉ~! きみは昨夜助けた理想の人!」
 なんと!目の前の半裸腹筋(と今は呼んでおこう)は昨夜私を助けてくれた「私の異能が欲しい」とのたまった男だったのだ!
 と言う事は、と言う事は……
「俺の名前は戦部焔《いくさべほむら》! まさかキミが我が『双葉戦隊ガクエンジャー部』に入ってくれるなんて、夢みたいだよ! これから宜しく頼むぜ!」
「は……ははっ……そんな……まさか……」
 気力の糸が切れた私はその場でへたり込んだ。
 まさかやっと入れた部が、あの全身タイツの危険極まりない部活だったなんて……
 素敵な運命の巡り会わせをくれた神様に心の中で中指を立てながら、私はただ汗臭い部室の入口で心配する先生と半裸腹筋を余所に、乾いた笑いを繰り返すしかなかったのです。
「ねぇねぇねぇ! キミが噂のマネージャーさん!?」
 と、そこに私より小柄な金髪でクセッ毛の天使みたいな印象の男の子が、変人二人をどかして割り入って来た。
 同じ高校生と言うにはまだ幼い印象を受けるその子は、私の落ち込みが分っているのか分っていないのか元気一杯に話しかけてくる。
「え、私ジャーマネとして入部したんですか?」
「何故業界用語……ま、まぁ手続き上ね。キミは6人目の部員《せんし》だからね!」
「やっぱり! ボク風見翔吾ってゆーんだ! これから宜しくねー!」
 無邪気に手を握ってブンブンと振り回してくるこの男子に少しばかり癒されながら、私はようやく立ち上がる気力を取り戻して挨拶巡りを再開する事にした。
 改めて見回すと外と違い意外と小奇麗にしてある部室だった。
 双葉戦隊?とか言うから男所帯でゴミ溜めのような所を想像したのだが、周囲を見るに誰かがしっかりと掃除をしているような感じだ。
 しかし、どこから持ってきたのか良く解らないぶら下がり健康器や握力計、巻き藁や木刀やターゲット紙の貼られたダンボールとエアガンなど、置いてある物は雑然としていてカオス極まりない。
 やっぱり変わった部だなぁと思いつつ、汚くなかっただけ良しとするかと心を広く持ちながら、部屋の隅で瞑想っぽい事をしている男子の所へと私は歩みを進めた。
「……」
 肩くらいまでの綺麗な黒髪を自然に垂らした、女の私から見ても綺麗と思える端整な顔の男子。
 この部の男子のレベルは高いな等と女の子っぽい感想を抱きながら、目を瞑り静かに座禅を組む剣道の胴着姿の人の前で、張り詰めた空気の為話掛けられずに居ると、向うから話しかけてくれた。
「……水条院流《すいじょういんながれ》だ。君がマネージャーになってくれるのか?」
 水のように澄んだ声にちょっと恥かしくなるくらい格好良い名前。
 剣道を嗜んでいるっぽい身なりから、私はドキドキしながら(私も剣どうやってたから話できそう)と思いつつ、自己紹介をした。
「ふぁい! あの……白鳥小百合です! 何卒どうぞ宜しくお願いしますです!」
(いや~~~~~!? 緊張して日本語変になったぁー!!)
 第一印象良くしようと気合を入れて挨拶したつもりが、空回ってお間抜け子ちゃんみたいになってしまいました!
 格好良い人だったから頑張ったのに最悪よ~と泣きそうになる所を堪えて、私はどんなリアクションが帰ってくるだろうと緊張して待つ。
 1秒が数分にも感じられる空気の中で、無表情だったその人の口元が綻んだのを、私は見逃しませんでした。
「フフッ、ありがとう。大変だと思うが宜しく頼む」
 何とか好印象っぽかった!
 私は安堵しながらヒラヒラと流さんに手を振りつつ、次の目的地へと向かった。
 そこにはパイプ椅子が置かれ、机の上にはポテチと化粧道具が散乱している。
(掃除してるのはこの人じゃないな……)と密かに思いつつ、部屋の窓際に腰掛けて本を読んでいる物静かな女子の所へと歩いていこうとすると――
「ごめんねー変な奴らばっかりでしょ?」
 突然背後から声を掛けられ私はドキリとして後ろを振り返った。
「あ、ごめんごめん。驚かせちゃった?」
 そこには茶髪にピアスをした今風の女子が微笑んでいた。
 ブラウスの釦を第二釦まで開け、ブレザーは着ないでクリーム色のVカットにノースリーブのセーターを着ているちょっと派手目な人。
 けれどとても話しかけやすい印象で、ノリの良い明るい女の子と言った感じだった。
「あたしは桃井のどか。こっちは星河光。女の子同士仲良くしようね」
「あの……宜しくお願いします」
 椅子に座って本を読んでいた大人し目な娘も立ち上がって深々と挨拶してくれる。
 腰まである長い黒髪と気弱な印象がとても儚げに見える。男の子に好かれるタイプだなぁと私は思った。
 でも太陽みたいに優しくて温かい笑顔で、何だか同姓なのに守ってあげなきゃって気になってくる。
「うん、こちらこそ宜しくお願いします」
(良かった、女子は普通そうだわ)
 安心した私は二人と握手を交わして改めて挨拶をし直していると、突然全員のモバイル手帳のメール着信音と共に、出入り口の上にある赤色等が回り出しけたたましいブザー音を鳴らし始めた。
「双葉島西地区Dポイントの森にラルヴァ出現! ガクエンジャー、出動せよっ!!」
『ラジャー!』
 張り上げられる先生の声とそれに負けない5人の声。
 こ、これは一体何が始まろうとしているの?出動って今から?どこに何で???
「な、何々!? 何が起こってるの?」
「何をモタモタしている白鳥くん! ガクエンジャー出動だ!」
 私も出動!?つまり……もうメンバーに含まれてるってことーーー!?
「えぇ!? だってまだ私何も習ってな――」
「そんなもの現場で覚えるもんだ!! 四の五の言わずに出動だ!」
 そのまま私は流されるまま先生と5人の仲間に連れられて部室を出る。
 向かいの自動車部のガレージかと思われたシャッターが開き、有無を言わさず中の大きな車(Jeepって書いてある)に乗り込んで――
「え……えぇ~~~~~~~~~~~!?」
 そのまま車内はハイテンションのままジープは島の西側、ラルヴァの居る所に向かって爆走しだした。
 私の初部活動はこうして唐突に始まったのだった。


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