【双葉戦隊ガクエンジャー ~私が部活に入った理由~ 後篇】


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【双葉戦隊ガクエンジャー ~私が部活に入った理由~】


「た、大変じゃないですか! ラルヴァがあんな所に!」
「そうだ! 大変なのだ! 解ってくれたか白鳥くん」
 当然こんな会話ですみません。でも大変なんです。姉さん、事件ですより大変なんです。
 ここは島の西側に位置する森の中。普通ならこんな所人が居るような場所じゃありません。
 ところが今は子供達が、初等部の男の子達が秘密基地を作って遊んでいたのです。
 そしてその場所から100mほど離れた山肌の所に大きな熊のようなラルヴァが居るのです!
「このままではうちの生徒が危ない。そこでだ!」
 冗談抜きで危ないと言う状況なのに何故か危機として語る先生にイラっとしながら、私はハラハラ先生の指示を待っていた。
「君にはガクエンジャーのサポートをしてもらう!」
「私のエクスプロージョンで敵を倒せばいいんですね!?」
「ちっが~~~~~~~うッ!!」
 私の考えはあっさり否定された。
 山肌にいるラルヴァは双眼鏡を通して見るに、明らかに凶暴そうで考えるまでも無く血に餓えた野獣としか見えない容貌をしている。
 子供達を助けるにはラルヴァを倒すか、最低でも今すぐジープで迎えに行って逃げるしかない筈。
 それだと言うのに先生には第三の選択肢があると言うのか、私はそれでも大人である先生の意見に期待してジッと我慢の子をしていると。
「彼らが最高のピンチを迎えた時! ガクエンジャー登場の決めポーズと共に、その背後で爆発を起すのが君の仕事だ!」
「……はい?」
 このオジサン頭がいっちゃっているのでは無いだろうか。
 こうしてわざわざ距離を取って観察していたのが、とどのつまりは格好良く登場するタイミングを計る為だったと言うのだ。
 私は普通のヒーロー物のように一も二も無く突っ込むのではなく、まず状況を分析してから最善の策を講じて助けに行くのかと思っていた。
 しかしそれは大きな間違いだったのです。
 この部はリアル派戦隊ではなく、とことんまでロマン派バカ戦隊だったのです。
「これは君にしか出来ない重要な仕事なんだ! やってくれるね白鳥くん」
 そして私が呆れているのも知らずに、このバカオヤジはさも当然と言った様子で私に同意を求めてくる。
「何言ってるんですか先生! ピンチとか言ってないで今すぐ助けに行くべきです!」
「それじゃヒーローになれないだろうが! そして今は先生ではない、長官と呼べ!」
(ち、ちげ~~~~こいつら正義の味方なんかじゃ断じてねぇ~)
 最初は爽やかでちょい悪オヤジだと思っていた先生だけれど、ラルヴァが出現してからの先生は違います。
 キャラが違ったように、そう、爽やかなちょい悪オヤジから暑苦しい悪乗りオヤジに変身してしまっているのです。
 昨夜のレッドといいこのオヤジといい、どうしてこう熱血系は何処か頭のネジがおかしいのでしょう。
 いえ、それじゃ全国の熱血さん達に失礼でしたすみません。
 この二人はバカです。
「もう私だけでも打って出ます!」
「あ! 白鳥くん待ちたまえ!」
 私はもうこんなオヤジには付き合っていられないと思い、一人木々の間を駆け出した。
 後ろから「待て~」と言う声が聞こえて来るがそれは無視。こんな部の格好付けなんかよりも子供達を守る事の方が百倍大切に決まっているのだから。
 私は木の根っこや落ち葉や枝で走りにくい森の中を走り走って、とうとうラルヴァを双眼鏡無しで視認出来る距離まで間合いを詰めたのでした。
「お前! 私が相手よ!」
「ギ?」
 こちらの声に気づいた大きな熊のようなラルヴァに、私は相手が完全に振り返る暇も与えずエクスプロージョンをお見舞いしてやった。
 辺りに轟く大爆発の音。炸裂して立ち上る真っ白な煙。この音と煙を見れば子供達も危険を察知して逃げてくれる筈である。
 双眼鏡から見えたラルヴァはこれ一体。一体なら昨夜のような遅れは取らないと思い、私は渾身の能力を使ったのだ。
 段々と晴れてゆく白煙と土煙の中、私の能力を喰らって横たわるはずのラルヴァの姿を確認しようと目を細める私だったが――
「っ!?」
 効いてない!?
 爆発の中から出てきたのは、体毛を焦がされ少し血を流している程度の熊ラルヴァだった。
 潰れた左目を前足でしきりに気にしている様を見て、私はラルヴァとの戦いはやはり思い通りには行かないのだと戦慄する。
 やがて残った右目で睨まれた私は、最早この時点で戦意喪失してしまっていたのです。
 またしても絶体絶命のピンチ。異能力が効かないのでは私に成す術など無いと言うのに……
 そうして私が愕然としていると、後ろから先生の声が聞こえてきた。
「そいつは以前キミが戦ったと言う下級B-3レベルのラルヴァとは違うんだ! そいつは中級B-4、まだ素人のキミが勝てるレベルではない!」
 私はバカです。素人が勝手な判断で突っ走ってピンチになって。
 先生は相手の危険度までちゃんと分っていたと言うのに、私はそんな事も知らないまま独断専行してこの様だ。
 チームの和を乱して、きっとこんな私は第一印象最悪だろうなと思い後ろを振り返ってみると、そこにはしがらみの無い表情で頼もしく力強く微笑んでいる5人の仲間がいたのです。
「くっ、仕方ない! お前達、変身だ!!」
『オウッ!』
 そしてどこからともなく聞こえてくる何かの音楽。
 焔が、流が、翔吾が、のどかが、光が、5人が一糸乱れぬ隊列で左手のブレスレット型変身ベルトを操作して光に包まれた。
『異能・転身! アツィルト! チェンジャーーー!!』
 光の中でなお明るいフラッシュのような光が縦横無尽に駆け巡る。それは良く見ると人の形に走っているようにも見えた。
 その光の奇跡の後にはツヤツヤした素材のピッチリスーツが纏われている。光は全身を駆け巡った後、やがて頭部へと集約して行き――
「燃える炎は勇気の証、レッドレンジャー!」
「水の如き静かなる心、ブルーレンジャー」
「地を吹き抜ける疾風、グリーンレンジャー」
「傷を癒す大地の慈愛、ピンクレンジャーよ」
「諦めない希望の光……イエローレンジャー」
 順番どおり誰一人かぶる事無く見事なタイミングで言い終えた5人は、5人戦隊のポーズを取って声高らかに名乗りを上げた。
『5人揃って、双葉戦隊――ガクエンジャー!!』
(あぁ……きっと今のタイミングで爆発させて欲しかったのね)
 展開的に何となくそんな事を悟ってしまった私だったが、それでも仲間が来てくれて嬉しかった。
 こんな私でも助けに来てくれるの?この部の良さが、温かさが分ったような気がして、恐くても出なかった涙がこみ上げてきた。
「待たせたな!」
「レッド!」
 そして腰を抜かしていた私の手を引いて助け起してくれたのは、昨夜私を助けてくれたレッドこと焔くんだったのだ。
 しかし獣であるラルヴァは私達の事など待ってはくれない。
 熊ラルヴァはその獰猛で鋭利な牙を、私を庇うような姿勢で立っているレッドの右肩に容赦なく突き立てたのである。
「あぁ! 大丈――っ!? あんた血が出て!」
「こないだの敵とはレベルが違うからな……変身スーツの防護繊維を貫かれたんだ」
(そんな、私の為に!? 私が一人で突っ走っちゃったせいで!?)
 きっと物凄く痛いはずなのに、肩口に血が滲んで牙が肉に食い込んでいるのに、それでもレッドは私を庇うように抱いたまま放さない。
 この人ホントに勇気ある人なんだ。正義感溢れる男子なんだ。そんな思いが心の中に込み上げてきて、我慢していた涙が頬を伝う。
「はぁーーーはっ!」
「やぁーーー!」
 そこにブルーとグリーンの剣の一撃が決まる。
 背中を斬り付けられた熊ラルヴァは「ぐおぉぉぉおおお!」と咆哮を上げながら仰け反り、三人と間合いを取るように離れた位置まで下がった。
「ブルー! グリーン!」
「気をつけろレッド。こいつ、易々と倒せる相手じゃはない」
 しかし熊ラルヴァは下がっただけ。私に目を潰された恨みがあるからか、さっきは以前にも増してむき出しとなり、その顔は大きく怒りに歪んでいた。
 牙を剥き唾を垂らしながら四足で地面に踏ん張っているその姿勢は、全力で飛び掛り噛み殺そうと言う意思の表れである。
 三人に守られながら、私はピンクとイエローの二人に助け出されていた。
「大丈夫? 百合っち」
「あ、桃井さん」
 ピンクレンジャー、桃井さんが私を庇うように退避させてくれる。
 これ以上私がここにいても足手まといになるだけ、ここは変に粘らず大人しく退散するしかない。
 それにしても桃井さんは胸が大きい。ピッチリスーツだから益々強調されて、これは完全にFカップは……
「早く逃げて……下さい。ここは私達に……任せて」
「え!? あ、うん! ごめんね光ちゃ――痛っ」
 のどかっぱいに魅了され一瞬逃げる事を忘れていた私だったが、立って走ろうとした時足首に鋭い痛みが走り蹲ってしまった。
 きっと熊ラルヴァに気圧されて変な倒れ方をしてしまったせいだ。
 一刻も早くあの先生のように安全圏まで退避しないといけないと言うのに……
「足を挫いたみたい……痛っ」
「ちょっと見せて」
 このままじゃ私を庇うためにみんなが本気を出せず危険に晒されてしまう。
 這ってでも逃げようと思った私だったけど、ピンクが痛む足首を手で包むと不思議な光が溢れ出した。
 それと共に温かな感覚と痛みが引いていくのが分る。そっか、ピンクの異能はコレだったんだ。
「あったかい……桃井さんヒーラーだったんだね」
「桃ちゃんで良いよ。それに今は一応ピンクって事で」
「うん」
 優しくて頼れるお姉さんみたいな桃ちゃんさんに癒されて、私は戦いの成り行きを見守った。
「うわーーー!」
 熊ラルヴァにレッド、グリーン、ブルー、略してRGBは苦戦しているようだった。
 ここは森の中、下手に大きな異能を使えば大変な事になる。
 それ故に三人は剣で戦っているのだが、以前何処かで聞いた事がある。熊の毛と皮は分厚い装甲のようで、日本刀でも切る事は至難の技なんだと。
 まして相手は熊型のラルヴァ。その装甲は通常の熊よりも硬い事だろう。
 グリーンが加えた短剣による刺突も深手を負わせられなかったのか、グリーンはラルヴァの前足による横一閃で吹っ飛ばされる。
 爪で裂かれた部分からは火花が飛び防護繊維が黒くダメージを追っている事が分る。
「グリーン! くっ、水流烈閃牙!」
「まだだ! フレイムソーーード!!」
 グリーンを見てブルーとレッドが自らの異能を剣戟に乗せた技を繰り出す。
 ブルーは水の刃の居合い抜きを、レッドは炎の刃の真っ向唐竹割りを繰り出した。
 必殺技は決まり熊ラルヴァは一瞬グラついたかと思ったが――
「ぐわぁ!」
 流石は野生。既に幾度もの斬撃によって血だらけであるにも拘らず、まさに死に物狂いと言った様子で攻撃の手を一切緩めてこない。
 手負いの獣は何とやらでは無いけれど、このままでは耐久力の低い人間の方が不利になる。
「レッド! こいつめコレでも食らえ、ダブル烈空剣!」
 それでも懸命に戦うRGBを見て、私はもういても立ってもいられなくなって来た。
 もう私を庇って傷を治している場合じゃない。一刻も早く5人全員のフル戦力で戦うべきだ。
 私はピンクの手を自分の足首から放してお願いした。
「な、何かやばそうじゃない? 私はもう良いから助けに行ってあげてよ」
「でもあたし戦闘係じゃないんだよね~……光っち」
「私が……行きます」
 すると何故かピンクじゃなくイエロー、光ちゃんが戦う事になってしまったのだ。
 物静かでおっとり目の光ちゃんが戦える訳ない。私は自分の発言からとんでもない事になりそうで焦った。
「え? ちょ、だって光ちゃん戦えるの!?」
「だーい丈夫だって。あぁ見えて光っち、うちらの中で一番凄いんだから」
「えぇ~……」
 そうこう言っている内にイエローは腰の変わった形の銃を取り出してラルヴァに向けて狙いを定める。
 その手付きは意外なほど手馴れた感じで、流れるような動作と微塵の震えも無い構えでまるでその道の達人でも見ているかのような感じだった。
 張り詰める空気。やがて訪れる必殺の時を待つかのように、その瞬間森の木々のざわめきが止まって――
「ボルテックス……シューター」
 銃口から発せられたビームかレーザーのような一撃。
 それは目にも留まらぬスピードで熊ラルヴァの胸部心臓付近に炸裂して、眩い先行を散らして毛と皮と肉とを吹っ飛ばした。
(えげつなっ!? 光ちゃん大人しそうに見えて一番ヤバイよー!)
 先程まで一生懸命斬ったり突いたりしていたRGBはなんだったのか。
 剣で頑張っていた三人の立場を奪うボルテックスシューターの一撃は、巨躯とタフネスを誇った熊ラルヴァを一撃で崩落させた。
「イエロー! よくやった!」
「やっちゃい……ました」
 テヘッ☆て感じで小首をかしげてヘルメットをコツンと可愛い動作を見せるイエローだったが、入ったばかりでまだ第三者的視点を保っている私にとってはドン引きのシュールな光景であった。
 と、ここでさっきまでどこに行ってやがったんだか、先生がジープで登場して荷台のブルーシートを思い切り剥ぐ。
 その中から出てきた物は、取っ手が左右4個と下に一つ付いたおかしな形の大砲のような物体だった。
「今だみんな! パンツァーブラスターだ!」
『はい!』
 それを5人全員で構えると何だか無駄にすごそうな必殺武器っぽい雰囲気の絵になる。
「な、何あれ!? あんな凄そうなの持ってたの先生!」
「ハッハッハッ、私が夜も寝ないで昼寝して作ったパンツァーファウストに外装をくっつけた特製武器だよ」
「え、市販の武器なの?」
 そんなやり取りをしている内に熊ラルヴァが最後の力を振り絞って立ち上がってくる。
 もう相手は息も絶え絶えで、放っておけば死ぬんじゃないかとも思うのだが、そこを敢えて止めを刺せと言うのがこのバカオヤジの主張だった。
 しかし一度独断専行して失敗している手前意見など言えず、私は喉まで出かかった無粋な突っ込みを飲み込んだ。
「しかし! あれに魂源力を乗せて発射する事で、中級ラルヴァ程度なら一撃で粉砕できるのだ!!」
 いやいやいや、トドメの武器がパンツァーファウストの戦隊なんて聞いた事ないから!
 と心の中で突っ込みを入れつつ、こんなの使って山火事にでもならないでしょうねとか色々心配をしている間に、ノリノリの5人はとうとうその引き金を引いてしまった。
『必殺! パンツァーブラスター!!』
 威勢の良い掛け声と共に銃口から「バシュ!」と発射された弾頭は、普通にリアル過ぎて気分ぶち壊しの白煙を残しながら熊ラルヴァに命中・爆発。
 もう私にはこちらのしている事が正義なのかどうかさえ自信が持てなくなるえげつなさだ。
 哀れ、熊ラルヴァは森のチリとなったのであった……
「正義は勝つ!」
「なんつー正義だ……」
 こうして私の部活ライフ1日目は若干の不安と不条理感を残したまま終わりを告げたのであった。




「白鳥! 部活行こーぜ!」
 就業のベルが鳴り、私がクラスメイトの山科幸ちゃんと井上涼子ちゃんと共に帰り支度をしていると、今日もあの暑苦しい熱血声が聞こえてきた。
「ちょっと小百合、誰よあの格好良い人達?」
「いい加減白状しなさいよ、何部に入ったの?」
「あ、あはははは……な、内緒~!」
 言えない。まさか自分が異能戦隊ガクエンジャー部に入っているなんてとても言えない。
「えー! ちょっと小百合ー」
「も~絶対いつか紹介してもらうからね~」
 クラスメイト達の羨ましそうな声を背に、私は鞄を持って教室の後ろの扉から出る。
「お、百合っち今日も元気そうだね~」
「桃ちゃんさんも今日はアイシャドーばっちり決まってますね」
「小百合さんの変身ブレスレット……も早く出来ると良い……ですね」
「いえ、私はマネージャーなので遠慮しておきます……」
 廊下ではRGBだけじゃなく先輩(とあの後発覚した)桃ちゃんさんと光ちゃんが待っていてくれた。
 ラルヴァが出ない日は室内でテレビを見たり駄弁っているだけの部活だけど、今はそんな時間がたまらなく愛しい。
「あ、ラルヴァが出た!」
「えぇ!?」
「みんな、急いで出動だ!」
『おー!』
「ちょっ、まっ――」
 そんなこんなで今日も始まる楽しい部活。
 放課後、もう私は暇を持て余したり思い出に浸ったりする事は無い。
 だって今は沢山の仲間に囲まれて、最高に忙しくて面白い毎日を過ごしているのだから。


 -双葉戦隊ガクエンジャー ~私が部活に入った理由~ 終-

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