【名探偵辿涯致翔悟郎 ―最後の謎―】


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 人生五十年と言われたのも昔の話、今では人生八十年。
 そんなあなたの長い人生の中、一度くらいは探偵に仕事を依頼することだってあるだろう。
 探偵の力を借りるというのはまず間違いなく何か常ならぬ事態が起こった時であり、往々にしてそんな事態は時を選ばないものだ。
 例えばあなたが深夜に探偵と話をしたいという必要に迫られた時。普通ならば翌日まで待たなければいけないだろう。
 だが、もし、あなたが東京都双葉区、あの学園都市島の住人ならば。あなたにはもう一つ選択肢がある。
 年中無休二十四時間営業の探偵事務所。『不眠不休の名探偵』辿涯致(てんがいち)翔悟郎(しょうごろう)の個人事務所、辿涯致探偵事務所に赴くという、その選択肢が。



 中心街から少し離れた場所にある辿涯致探偵事務所はどうやら事務所と居宅を兼ねているようだ。住宅地の中にある二階建ての一軒家を見て、あなたはそんな感想を抱くかもしれない。
 住宅地の中でわりと目立つま新しい一軒家は事務所の分を含めても一人で住むには随分と余裕のあるサイズで、あるいはそれはあなたのような来訪者に彼のステータスを存分に感じてもらおうという意思もあるのかもしれない。
 ともあれ、事前にアポイントメントを取っていたあなたはそのまま事務所に通され、大会社で使うような黒の長椅子に誘われる。
 あなたが訪れるのが深夜であろうと明け方であろうと、あなたを出迎えるここの主、辿涯致翔悟郎の顔には疲労の影は見出せない。それがいつであれ、まるで今日最初の客に対するようなにこやかな顔つきと穏やかな口調、糊をきかせたばかりのスーツのような完璧な応対用の態度であなたに話を促すだろう。
 話が進み、どうしても避けて通れぬところ――依頼料の話になる。あなたはそのリーズナブルな値段に驚くだろう。だが、物事には何事にも相応の理由があるもの、この場合も例外ではない。契約書の中に、それは確かに記されている。
 しかし、もしもあなたがそれを見落としていたとしても、彼は忘れずにその話を持ち出してくるはずだ。彼はこと約束に関しては誠実な男なのである。
 あなたは彼から一つの話を聞かなければいけない。一言で言えばそれが安価の対価だ。そしてもう一つ。話の最後に彼から一つの謎が提示される。その謎、彼もずっと解けずにいるその謎をあなたが解き明かすことができれば、貰った金は全てあなたに返し、更にあなたが望む依頼を一つ、無料で受けさせてもらう――。
 名探偵辿涯致翔悟郎が解けないという謎、それにあなたは関心を抱くだろうか。だが、それを抜きにしたとしても彼の出した条件はけして悪いものではないはずだ。



 あなたが何を依頼したのか、それは私の知るところではないし、また私にそれを知るべき権利もない。故に、依頼に関する話、辿涯致翔悟郎が依頼を遂行すべくどう動いたかについての話は省略させてもらう。
 いずれにせよ、おそらくはあなたの依頼が完了するまでに幾度かの中間報告が必要となるはずだ。報告がつつがなく終了し、彼が「それでは…」と切り出す、それが彼の話の合図だ。
 『ミリオンズ』と彼はまず口に出す。あなたも聞いたことのある名前かもしれない。
 かつて双葉区中で暴れまわっていたラルヴァにして(あなたが双葉区の住人である、というその一点によってラルヴァや異能に関しての解説は省く)怪盗。その名の通り様々な人の姿をコピーする能力を持ち、その能力の全てを盗みを楽しむために使い、そしてあなたの目の前の男、辿涯致翔悟郎に倒された。彼はそのラルヴァの話を始める。

     ※     ※     ※     ※

 あいつはとにかく変な奴だった。普通泥棒ってのは金を盗むならその金で贅沢をする、絵を盗むならその絵を自分以外の誰の目にも触れないように独占したいってな風に盗むことはただの手段でその先に何らかの目的がある。だけどあいつは盗むというその行動自体が目的、いや、それすらもそこまで重要じゃなかったんだろうな。
「知ってるかい?あんたが彼女を見たってその時間、あんたはバックヤードで居眠りしてたんだよ。ほら、監視カメラの映像だ。上手く化けたつもりだったが残念だったな、ミリオンズ!」
「あはは、バレちゃったね。じゃあ僕はさっさと退散させてもらうとしましょうか」
 ラルヴァであるあいつを人間と比べても仕方ない、って言う奴もいる。だが、俺から言わせりゃラルヴァだろうがなんだろうが人の物を盗む奴は皆泥棒でありその意味で何の違いの無い存在だ。
 そして、泥棒を目の前にして俺がすることも、それが誰であれ何の違いも無い。
「逃がすかよこの泥棒が!喰らえ、〈サンダークラック〉!」

     ※     ※     ※     ※

 〈サンダークラック〉とは彼の異能、文字通り電撃を投射する能力である。探偵として売りになるほど隔絶した頭脳を持ち合わせているわけではない辿涯致翔悟郎、その彼が人外の存在が跋扈するこの島での探偵業界で生き抜いていくための唯一の武器という存在…であった。
 ともあれ、あなたが聞くことになる話は少々長くなるということで、続きは次の報告の際に持ち越しとなる。どのみち彼との付き合いは最低でも依頼の完了までは続くのだから、あなたにとってもそれほど問題はないだろう。



 辿涯致翔悟郎と何度か会うにつれ、あなたは彼が話す際にしょっちゅうメモに目をやっていることに気がつくかもしれない。あなたの視線に(もしくは問いかけに)応じ、彼は苦笑とともにこう言う。
「いや、ミリオンズとの闘いの後遺症でね、過去の記憶が所々飛んでるんですよ」
 なんでも彼はこのメモへの走り書きを日記としているらしい。あなたが彼のことを多少なりとも調べているなら、彼がミリオンズとの最後の戦いの後しばらく入院していたことを思い出すだろう。
 退院後これまでの入院の空白を取り戻すかのような働きが彼の渾名、『不眠不休の名探偵』に繋がっている…あなたがそこまで知っているかどうかはともかく、彼は自らのサクセスストーリー、その続きを語りだす。

     ※     ※     ※     ※

 運命というのがこの世に存在するとしたら、俺とあいつ、ミリオンズの間にあるものがそうなんだろう。少なくとも、そう言ってもいいくらい、俺たちは何度も激突を繰り返してきた。
「母親に聞いてきた。何でも幼い頃に熱いスープを飲んで唇を火傷したそうだ。それがなんだって?小さい頃の話だが無意識には残ってたんだろうな。それから熱い飲み物は冷ましてからじゃないと口にできない、本人は自覚してないがそういう癖が出るんだそうだ、なあ、ミリオンズ!」
「全く、そんな引っかけを思いつくなんて。さすが腐れ縁の辿涯致君ってなところかな」
「今度も俺の勝ち。そしてこれが最後だ」
「それはどうかな、ほら、見てよ。お宝はもう僕の手の内だ」
「!」
「そして逃げ道もこの通り、ちゃんと用意してる。今回は僕のパーフェクトゲームだね」
 戦績は――奴の盗みを防げるかどうかという点においては――ほぼ五分だった。だが、泥棒をのさばらせ続けているという点ではどうしようもなく俺の負け。
 いずれ決着を、最終的な決着をつけなければいけない。俺の中でその思いが日に日に膨れ上がり続けていた。
 怪盗を自称する身として華麗に飾らなければいけない経歴を俺の手で泥まみれにされた奴も、多分同じ思いをしていたんだろう。

     ※     ※     ※     ※

 辿涯致翔悟郎がミリオンズを語る時のその口調には、仇敵を語っているにもかかわらず明らかにそれとは違うものがこもっていた。あなたは多分知らないだろうが、戦場で同じ視線をくぐった戦友に対する感情と近しいもの、あえて言うならそれはそう表現するのが一番近いのかもしれない。



 再び中間報告の場。報告の後の話はまだ終わらない。どうやら結果報告まで話は続くらしい、と彼の言外のほのめかしからあなたは悟るだろう。
 彼の話はストーリーテラー的な観点では決して上手いわけではないが、その代わりに当事者ならではの観点やちょっとした裏話に満ちている。あなたが仮にミリオンズに関する一連の事件についてある程度予備知識を得ていたとしても、あなたは驚き無しに彼の話を聞き続けることはできないだろう。
 あなたにとって、彼の話は興味に値するものだろうか。

     ※     ※     ※     ※

「そう、お前がミリオンズだ」
「何を馬鹿なことを。証拠はあるのかね」
「俺の勘だ。違うってんなら、ちょっと異能を使ってみろ。本物ならできるはずだ」
「……勘とはねえ。ちょっと興醒めだよ。腹立たしいね」
「俺もこんな勘に頼ってでしかお前の正体を暴けないことに腹が立ってるよ」
「…実のところね、僕は君の事は嫌いじゃないんだ。こんなに腹立たしくてもね、どこかで君とのやり取りは楽しいって思ってる。でもね、今はっきりと分かったよ。それでも僕と君とはとにかく相容れない存在だ」
「奇遇だな、俺も同じことを思ってた。お前は有象無象の犯罪者よりはまだマシな奴だ。でもな、お前は泥棒でラルヴァだ、だったら俺はお前を倒さなきゃいけない」
「…」
「一つ教えてやるよ、ミリオンズ。『不倶戴天』、ともに同じ天を戴かず。これが俺とお前との関係だ」
「不倶戴天、か。うん、しっかりと覚えとくよ」
 お互いに口には出さない。それでもはっきりと分かっていた。
 次に二人が会うとき、それが俺と奴との最後の決着の時だと。

     ※     ※     ※     ※

 シャーロック・ホームズに対するモリアーティ教授のように、名探偵の条件の一つとしてライバルの存在が必要であるとするならば、辿涯致翔悟郎にとってはミリオンズの存在にとってその資格を満たしていることは間違いないだろう。
 そして名探偵とライバルが対なる存在として必然とするならば、そこに対立する理由は必ずしも必要はない。
 ただ出会ってしまう、それだけで十分なのだろう。
 あるいは、それを宿敵と言うのかもしれない。



 あなたの依頼もいずれは終わりを迎える。結果報告は彼の事務所でというのも彼との契約条項の一つであり、それに従いあなたは再び事務所を訪れる。彼は最初に会った時と同じ、まるで今日最初の客に対するようなにこやかな顔つきと穏やかな口調であなたを出迎えるだろう。
 辿涯致翔悟郎も神ではないので全ての依頼を完遂できるわけではない。だが、彼は自らが請けた仕事に対してもまた誠実な人間であり、あなたの望みを叶えるべく全力で働いてくれる、そのことは保障できるはずだ。
 そして彼が多くの場合において結果を出せる人間だということは退院後から今までの実績が証明している。おそらくはあなたも満足できる結果を得られるのではないだろうか。
 どんな形であれ、あなたの依頼はそうして完結する。だが、それで終わりではない。あなたは彼の話の残りを聞かなければならないのだ。「なに、もうそんなには残っていませんよ」彼は先回りしてそうあなたに告げる。

     ※     ※     ※     ※

「〈サンダークラック〉!」
 俺の右の掌から放たれた雷の槍が奴、ミリオンズに向け突き進む。回避。まったく、模倣能力だけじゃなくて逃げ足も神業レベルじゃないか。俺は舌打ちする。
 だが、状況自体には変わりはない。狩りだすのは俺、狩られるのは奴。そして、外されたとはいえ今の一撃は確実に奴の逃げる余地を奪っている。そう、もうじき限界が訪れるはずだ。
 再び〈サンダークラック〉の一撃。
「よし!」
 手ごたえあり。浅い当たりだが、運良く捉えたのは奴の足だ。奴の動きが止まる。
 止めの一撃。外れた。奴は動けなくなったと見せかけ、大きくジャンプして俺の一撃をかわしたのだ。
 だが、それは裏返して言えばそんなトリックを使わないとよけることができなかったということ。全く問題はない。
 追撃。時に障害物を使い、時に地に伏せ、しぶとく粘る奴。
 そのしぶとさを見ても、俺には苛立ちや腹立ちは全く感じなかった。多分、俺は奴に憎しみを抱いているわけではないんだろう。
 だからといって、手を緩めてやろうという気持ちもまた全く感じなかった。
 奴は電撃が巻き上げた砂煙の中に転がり込む。だがそれは身を隠すのがせいぜいで、攻撃のかく乱に使うにはあまりに頼りないものだ。
「…悪いな」
 最後の一撃と共に思わず形になったその言葉。何故かその言葉で全ての腑が落ちた気がした。
「あは、ははは」
 〈サンダークラック〉は確実に奴を貫いていたはずだった。もうかわす余地はどこにも無い。
 それなのに、砂煙の中から心底愉快そうな笑い声が響いてきた。
「似姿に留まらず――」
 その声は、奴の声と違う、だがどこかで聞いた声。
「記憶に留まらず――」
 その足音は、奴のものと違う、だがどこかで聞いた足音。
「人格に留まらず――」
 そして、俺の中にあるのはまるで思い出したくない記憶に無理やり向き合わされてるような気持ち悪い感覚。
「僕の模倣(コピー)は今、究極のレベルに達した」
 砂煙の中から現れたのは、とっくに理解してた通り――俺が認めたくなかっただけで――俺そのものだった。
 俺は反射的に電撃を叩きつける。電撃が奴に絡みつくその刹那、奴の腕の一振りで俺の一撃は弾かれた。
「――異能まで、手に入れたんだよ」
 俺と同じ姿をした奴が、俺と同じ声で、俺と同じように電撃のスパークをその身に纏わせながら、そう愉しげに唇を歪ませた。

     ※     ※     ※     ※

 彼がさっきから全くメモを見ていないことにあなたは気付く。彼は言う。特にこの日の記憶はほとんど断片的にしか残っていないと。今の話、この最後の対決の日の話はその断片的な記憶と現場に残された状況からの推測を混ぜ合わせ、更に足りない分は想像で補った再現ドラマのようなものなのだ。
 そう言われてみるとあなたの目には演出が過剰になっているように見えるかもしれない。だがあなたがどう思うにしろ、彼の話は止まることはない。
 彼の話にも終わりが近づいているのだ。

     ※     ※     ※     ※

「「〈サンダークラック〉!!」」
 二つの稲光が、俺と俺との間で迸る。
 もう一人の俺、俺に化けたミリオンズは、驚くほどに俺そっくりだった。サイドステップの直前に僅かに斜め前に身体を傾ける癖、それを目の前で再現された時は怖気を感じたほどだ。
 それでも、俺は躊躇わずに攻撃をぶつけ続けた。俺はここにいる。俺がきちんと俺であること、それが一番大事なことで、それさえしっかり掴んでいるなら何も迷うことはない。あれは敵だ。それが『俺』であったとしても。
 問題はある、というか大問題だ。戦況はいつしか逆転していた。俺の攻撃のパターンまで把握している奴が俺の攻撃をかわすのは実に容易いことで、反して俺の回避のパターンを知りつつ他者の攻撃パターンを幾つでも使える奴の攻撃を俺がかわすのは実に難しくなっていた。狩るものと狩られるものの立場は、今や完全に反転していたのだ。
 やや距離をとって放たれた雷の槍。それなら良く理解している。俺は潜り抜けるように雷の下に飛び込み、即座に立ち上がって一気に奴との距離をつめた。
 こっちの攻撃は読まれている。だったら。
「〈サンダークラック〉、全方位投射ーっ!」
 全方向に無差別に電撃を放つ荒技、これが俺の奥の手だ。こっちの攻撃は読まれている。だったら読まれていてもかわしようのない攻撃しかない。それが俺の答えだった。
 四方を電撃の矢で包まれる俺の顔をしたミリオンズ。奴の顔――俺の顔に浮かぶのは俺が見せたことが無い、作ることもできない種類の笑み。
 その埋めようのない落差は、酷く醜悪だった。
「〈サンダークラック〉、電磁障壁」
 その言葉と共に、網のような電雷が奴を包み込む。電撃を自分の周囲に滞留させる技。本来解き放つだけの俺の能力にとって相性の悪い使い方なので俺も忘れていたが、雷に伴って展開される電磁場が電撃の軌道を歪めてしまうという副次効果は今の状況に最適だった。
 そこまで思いが至ったところで、俺の背にぞわっと冷や汗が浮かび上がる。
 電磁障壁は相性の悪い分消費が大きいが、それでも全方向に電撃を垂れ流し続ける全方位投射に比べればまだマシだ。つまり持久戦になると確実にこっちが先に力尽きる。
 一旦退いて態勢を立て直す…これも無理だ。全方位投射の射程に入るため距離を縮めてしまった。今一瞬でも隙を見せればその瞬間に奴は電撃を纏ったまま体当たりをしてくるだろう。
 はめられた。俺は万策尽きた閉塞感と共にその言葉を噛みしめる。その思いすら把握してたんだろう、奴は静かに勝利を宣告した。
「これが詰みって奴かな、辿涯致君」
 ここでチェックメイトという言葉が出てこない辺り、確かに良くできた俺の模倣だ。
 俺の脳裏を、半ば現実逃避的なそんな思考がよぎった。

     ※     ※     ※     ※

 彼の身に降りかかった人生最大の危機。もはや欠片しか残っていないというその記憶をじっくりと味わうかのような短い沈黙の後、彼はようやく話の続きを切り出した。
「その時奇跡が起こった、そう言うしかないですね、あれは」
 その言葉から、あなたはどこか途方に暮れたような感覚を感じることだろう。
 いや、理屈では説明をつけることはできるんです。彼の話は続く。俺と奴と、二人でばんばか電撃を飛ばしあったことで地表周辺が電荷異常をきたし、上空の天気もあいまって落雷が起きやすい環境になり、その結果としてあの瞬間、二人の上に特大の雷が落ちた。
 だけどやっぱり今にして考えるとやっぱりあれは奇跡としか言いようが無い、そう思うんですよ。
 それがどんな意味であったとしても。
 そして再び彼は沈黙する。
 これで話が終わりなのか。そうあなたが思い始めた頃、彼はふ、と顔をもたげた。
「その後俺たちは病院に担ぎ込まれました。医者はとても困惑したそうですよ。そりゃそうだ、俺たちは何もかもそっくりでしたし。姿も、うわ言も、そして怪我の程度も」
「いや、違うな」
 その声はあなたの背後から聞こえる。
「俺は失くしたのは記憶の一部だけだが、奴は――」
 振り返ったあなたの視線の先で、扉に寄りかかって立つ辿涯致翔悟郎がそう言う。
「――自分を見失った、か」
 あなたが確かめるために再び振り向いた先で、椅子に座った辿涯致翔悟郎が言葉を続ける。
「それから俺たちは色々弄繰り回されました。医者にも、異能研究者にも、啓示だのサイコメトリーだの使える異能者とやらにも」
「皆さじを投げました。こんなことは天文学的な確率でしかありえない、だそうです。本当に奇跡としか言いようが無いですね」
 見比べてみても、あなたには二人の違いを見出すことはできない。双子どころではない、まるでクローンのごとくそっくりであった。
「だから、もしいい手があるなら教えてくれないですか、俺が本物なのか」
「それともあいつがミリオンズが化けた偽者なのか、それを見分ける手を」
 つまるところ――これが彼があなたに解いてもらいたいという謎だ。もしあなたが彼らに名案を提示することができたのなら、彼は全力であなたとの約束に報いるだろう。彼は約束に誠実な男だ、それは保障できる。
 もっとも、もう一人の自分という存在をフルに使うことで名探偵という称号に相応しい実績を得た彼が元の一人の探偵に戻った時、はたして彼があなたの望む結果を勝ち取ることができるのか、そこまでは保障できかねるが。







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