【自分との闘い】


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自分との闘い




 今回の敵は手強い。
 俺は太い木の陰に隠れ、じっと息をひそめた。
 双葉学園にやってきてから、俺は今までたくさんのラルヴァと戦ってきた。俺の持つ異能は強力で、一撃必殺の光の矢を放つこと。その能力のおかげで俺はこれまで負け知らずで、大怪我も負ったこともない。俺は強い。矢の出力を最大にすればダイヤモンドの塊だって簡単に吹き飛ばせる。これは驕りではなく事実だ。
 だが、その自信も今や風前の灯になっていた。
 もうかれこれ三時間はこの森の中で奴と戦っている。 そいつは突然どこからか現れ、いきなり俺に向かって攻撃を仕掛けてきた。初撃を避けられたのは奇跡だ。
 双葉学園の任務で、俺はS県のある山に来ていた。そこで目撃されている正体不明のラルヴァを倒すため、非戦闘員も含めて十数人の人間がこの森に導入された。だが俺以外の生徒や、プロの異能者、連絡員、救護班も全員消えてしまった。だが普通に考えてはぐれたのは彼らではなく俺のほうだ。おそらく他の連中から引き離され、一対一の勝負を挑まれたのだ。
 しかし、ただのラルヴァが相手ならこんなにも苦戦することは無かっただろう。 
 俺の目の前に現れたそいつは、“俺”だった。
 まったく同じ姿をした|俺自身《、、、》だ。
 いったい何を言っているんだと思われるだろう。だが俺は見たままを言っているだけだ。そいつはまるで鏡合わせのように自分にそっくりだった。いや、鏡合わせなら左右反対になるはずだが、そいつはほくろの位置も完璧に一緒だ。
 推測するならば、それは俺の姿をコピーしたラルヴァだろう。ドッペルゲンガーと呼ばれる人間の姿を真似るラルヴァはすでに確認されている。ならばその亜種としてこのようなラルヴァがいても不思議じゃない。
 だが厄介なのは、そいつは姿だけではなく、俺の能力と戦闘センスもすべてコピーしているということだ。だが幸い、奴のコピーが完璧なおかげで自分自身の思考を読むことで、相手の行動を推測することができる。だがそれは向こうも同じなのだろう、そのせいで三時間も拮抗状態が続いてしまっているのだ。 
 長期戦になれば俺のほうが不利かもしれない。たとえ奴が自分と同じ体力だとしても、精神力に違いは出るだろう。人間の集中力には限りがある。だがラルヴァがそうとは限らない。それに空腹、睡眠、排便。人間の体は不便にできている。戦いが長引けば長引くほど、俺の負ける確率は高まる。
 決着をつけるならばこのタイミングしかない。
 最後になるかもしれないと思い、俺は空に輝く満月を見た。とても綺麗に輝いていて、気分が高揚してくる。
 俺は魂源力《アツィルト》を掌に集中させる。体中の魂源力を凝縮させ、凄まじいエネルギーを秘めた光の矢へと変換していく。木から顔を出し、森を見渡すと、前方にこの矢と同じ光を放っているのが見えた。どうやら奴も光の矢を作り出しているようだった。
 俺はわざと光の矢の輝きを強くした。
 そうすることで奴に俺の居場所を伝えるのだ。
 なぜそんなことをするかって? 気が狂ったわけじゃないぜ、奴をおびき出して隙を突くのだ。
 すると向こう側の光が一瞬激しく輝いたと思うと、無数の光の矢が前方から飛んできた。その直撃を受けぬよう俺は体を屈めながら前方へ走っていく。奴が放つ光の矢は、周りの木々を吹き飛ばし、爆風がおれの背を押していく。舞い散った土や泥が体に降り注ぐがそんなことは構っていられない。しばらく走ると、ようやく奴の姿を再び拝むことができた。
「くたばれ偽者! 俺は最強の戦士だ、誰にも負けない。自分自身にも!」
 虚ろな目をした間抜け顔。俺の顔がそこにあった。俺は矢のエネルギーを圧縮し、奴に照準を定める。
 だがなぜか奴はもう攻撃をやめていた。
 だらんと力なく肩を下ろし、諦めたように俺のほうを見つめている。情けない顔は最強の俺には相応しくない顔だった。
 俺だったらどんな状況でも生きることを諦めない。
 絶対に敵を仕留める。
 情けもかけないし、容赦もしない。いや、もう矢は俺の手から離れ、奴のほうへと飛んでいっている。もう攻撃を止めることはできない。
 光の矢は高速で奴の体を貫いた。その瞬間奴の体は弾け、赤い血が四方に飛び散る。まるで人間と同じような赤い血。自分と同じ姿をしたものが肉塊へと変わっていく様を見るのはなんとも言えない後味の悪さがあった。
 その直後、激しい光が俺を包み、気がつくと森の入口へと戻っていた。
 声が聞こえる。
 振り返ると心配そうな顔をして、学園の仲間たちが俺のほうへと駆け寄ってきていた。やはり予想通りはぐれていたのは俺のほうだったようだ。安心して思わずその場にへたり込んでしまった。疲れた。もう一歩も動けない。
 俺は今回も生き延びた。
 俺は強い。誰にも負けない。
 自分自身をも乗り越えた。
 今回の事件を経て、俺は一回り成長できた気がする。






 それから約一ヶ月後。
 俺は再びこの森へと足を踏み入れた。
「この森には正体不明の強力な磁場が発生しているようで、時間の断層のようなものができているようだ。そのため迷いの森へとなってしまっている。その調査に向かってほしい」
 そんな任務を受け、俺はこの因縁の地へとやってきたのだ。
 いったい何が待ち受けているのかわからない危険な任務だが、自らこの任務に参加を決めた。
 なぜだがわからないが俺はここにこなければならない気がしたからだ。
 俺自身と戦った、記憶に残る場所だからというだけではないような気がする。
 しばらく森の中を歩いていると、あの時と同じようにほかの調査班のメンバーと別れてしまった。
 だが予想通りだ。ここまでは前と同じだ。
 この森の奇妙な空気感、一ヶ月と何一つ変わらない。ざわざわと鳥肌が立つ感覚。全身の皮膚の触角が研ぎ澄まされていく。
 そして、俺は森の中にまたもありえないものを見た。
 また、そこには“俺”がいた。
 生きていたのか。それともまた別の個体か。俺の姿をコピーしたラルヴァ。そいつが数メートル先で歩いているのが見えた。不思議なことに 奴は俺に気づいていない。これはチャンスだ。
 前回は先手を取られたが、今回は初撃で総てを決めてやる。
 俺は掌にエネルギーを圧縮し、光の矢を生成する。だが、その一瞬の光で奴は俺のほうに気づいた。そしてとっさに跳躍し、矢を避ける。さすがは俺のコピー。ナイスな判断力だ。
 その刹那、俺と奴の視線が交差する。
 それすらもあの時の再現のようだった。
 奴は俺のほうへ矢を放ちながら距離をとって後退していき、森の闇の中へと消えていった。だけど逃がすものか。一度は勝てたんだ。今回も倒してやる。
 それから三時間ほど攻防が続いた。
 一度倒したとは言え、やはり自分自身が相手となると一筋縄ではいかない。
 ふうっと岩に腰を下ろしながら俺は一息つく。ふと上を見上げると、月が真上にあった。おかしい。この森に入った時にはもう月は落ちかけていた。時間的にそろそろ夜が明けてくるはずだ。
 そう不思議に思い首を捻っていると、数十メートル前方から、激しい光が漏れているのが見えた。
 間違いなく光の矢の輝きだ。馬鹿め、自分から居場所を教えているようなものだ。
 エネルギーの出力を抑え、俺は光の矢を複数生成する。下手な鉄砲も数撃てば当たるはずだ。これは前回倒した偽者がしていたことの真似だ。まったく、偽者の技術を本物が真似るなんて皮肉なものだが、生き残るためならそんなことは気にしていられない。
 奴がいるであろう場所へ、俺は無数の光の矢を放つ。
 木々が吹き飛び、土が舞い上がっていく。だが驚いたことに奴は光の矢を避けながらこっちへと向かってきていた。
 俺は素早く光の矢を作り出し、奴へと照準を合わせる。
 だが、向かってくる奴を見て、俺は奇妙な|既視感《デジャブ》を覚えた。
 この状況、どこかで見たことがある。
 まてまて、これはこれはどういうことだ。
 そう頭の中で考えているうちに、奴はもう俺の前に迫っていた。奴はエネルギーの凝縮された光の矢を俺のほうへと向けている。
「くたばれ偽者! 俺は最強の戦士だ、誰にも負けない。自分自身にも!」
 奴はそう叫んだ。
 俺とまったく同じ声で。あの時の俺と同じセリフを吐いた。その燃えたぎるような熱い目は、間違いなく俺自身のそれであった。
 そのわずかな一瞬の間に頭の中である仮説が浮かび上がる。
 時間の断層がある森。そう、ここは時間がズレた場所なのだ。
 この森で目撃されてきたラルヴァの正体。
 俺が今戦っている敵が何者なのか。
 いや、一《、》ヶ《、》月《、》前《、》に《、》俺《、》が《、》戦《、》っ《、》て《、》い《、》た《、》敵《、》が《、》何《、》者《、》だ《、》っ《、》た《、》の《、》か《、》、俺はすべてを理解した。



(了)







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