【被虐趣味者に捧ぐ導花お姉様の加虐講座 その0~捨てた豚には情け無用~】


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 とりあえず、ししおどしをぶち壊してやろうと思っている。

                    *

 カッ、コン。

「伝統を敬え、導花」
 既に三度目の台詞である。
 まだ四十を少しばかり過ぎたところだというのに冴ノ守考師郎(さえのもりこうしろう)は髪の大半が白く、顔に刻まれた皺も一回り歳上に見られてもおかしくない程に多い。
「ええ、わかっておりますわお父様」
 返す言葉も楚々たるつくり笑顔も三度目。
 笑乃坂――本宅であるここでは冴ノ守(さえのもり)だが――導花は父の後退し始めた生え際を見つめながら恭順の態度を示している。
 考師郎は整った眉を顰める。不信感を隠そうともしない。
「本当にわかっているのか」
「ええ」
「冴ノ守の家が代々受け継いできた“刃の冴えを鋭くする”秘術。戦に赴く兵を冴ノ守当主はその力を用いて
鼓舞してきた。わかるか導花。肝要なのは刃を強化する能力それ自体ではない、臣下の者に与える激励であり、
主従の信頼であり、不撓不屈の意思の形成だ。冴ノ守は将だ。臣下と己を勝利へ導く者だ。
だのにお前は能力を濫用し、自ら戦場(いくさば)に立っているそうではないか。
今に始まったことではないが、お前の行状には目に余るものがある。
いいか導花、当主というのは……」
 この話も既に何度も聞いた。
 ともすると「お父様随分薄くなりましたわね。髪? いえ中身が」と言いたくなる。

 カッ、コン。

 『冴ノ守本宅に居る間は和服をまとうように』と父は言う。
 だいたいにして和装でいろなどあまりに馬鹿げている。
 現当主の指示とは思えない。このような動きにくい恰好でいるとき敵に襲われたらどうするのだ。
「大体お前は小さい頃から……」
 お小言はまだ続く。
 父は本土で軍事会社を営んでいる。とっくに能力も枯れて、豪腕のくせに小心な経営者として部下を叱咤している。
 大人しく社長椅子に腰掛けていればいいものを、こうして次期当主である導花に何かとありがたい教訓を垂れ流しに来る。

 カッ、コン。

 導花の堪忍袋はマックス状態だ。
 合間合間に鳴るししおどしの間抜けな音がいっそう苛々に拍車をかける。ともすれば本心が漏れてしまいそうだ。
「お前の外面は確かに美しい。だが本物の美しさとは内面から滲み出るもので、」
「……へし折ってお父様のケツにでもぶち込んでやろうかしら」
「うん? なんだ、何か言ったか」
「いえ。己の未熟さを噛みしめていたのですわ」
 危なかった。

                    *

 双葉島、双葉学園学生寮から車で少々。
 双葉山に近く比較的森林の多い地区に冴ノ守家はある。
 古色蒼然たる和風建築の屋敷で、土塀に囲まれた広い邸内には二つの建物が立っている。門から直線上にある母屋と、その左手にある離れである。
 導花と考師郎が顔を突き合わせていた建物は離れであり、ししおどしは離れの中庭にある。座敷から数メートルと離れていない。
 この辺りの地域は冴ノ守家の意向により住宅が無く閑散としているため、ししおどしの音は実によく響く。
 それがまた導花にとっては不快感を助長する一因となっている。
「せっかく侵入者を見つけ出す静けさがあるというのに、あんなカッコンカッコンと喚かれては何の意味もありませんわ」
 常日頃から浮かべる微笑で他人を油断させる導花にしては珍しくぷりぷりと怒ってみせている。
 笑乃坂の偽名も、その外面を意識してつけた――といっても本姓の「さえのもり」を入れ替え・読み替えて作っただけのおざなりな偽名なのだが。
「そうですな。お嬢様の仰りたいことはよおくわかります」
 タキシード姿で導花に付き添う、老齢の男性が導花の愚痴ににこにこと応える。
「ふん……順敬(よりたか)、お前はいつもそう言いますけれど、本心ではどう思っているのかしら」
 冴ノ守家使用人頭である順敬は笑顔のまま、
「とんでもない。順敬めは幼いお嬢様にお仕えしてからの十数年、そのような巧言を弄した例(ためし)はございません」
「いま思っていることを言いなさい。率直に」
「お召し物がよくお似合いでございます」
 じじじ、じーわじーわ。
 遠くから夏の風物詩の声がする。この辺りには蝉さえいないのだ。
 導花は扇いでいた扇子をぱたりと閉じ袂に仕舞った。
「ほんとう、口の減らない使用人ですこと」
「申し訳ございません」
 毒づく導花も頭を垂れる順敬も、どちらも本気ではない顔つきでいつもそう言うのだった。
 二人は門前から土塀に沿って歩き、角を曲がって冴ノ守家の駐車場の入り口まで来た。
 奥に黒塗りの高級車が停めてある。駐車場は広く十台は優に停めることができる。
「それでは車を、」
「結構ですわ。いつも通り私は徒歩で帰宅します」
 彼女が帰る場所は学生寮であって本宅ではない。それでも『戻る』とは言わず『帰宅』と言うのは、本宅を快い場所と思っていない彼女の心情をはっきりと示していた。
 行きは順敬が寮の近くまで迎えに訪れ、尾行されないようぐるぐると遠回りをしてから本宅へと向かうのが常だ。
 旧家の令嬢である、という程度の情報は同級生にも伝えているものの、当然のことながらそれ以上は何も教えていない。
ダミーの別宅も用意してあるが今のところ利用したことはない。
 まあ忌々しい醒徒会の連中や、蛇蝎兇次郎――裏の醒徒会<畏>の会長であるあの男は気づいているのでしょうけど、と導花は思っている。
「そういうわけには参りません、考師郎様から送迎を命じられておりますので」
「余計なお世話ですわ。行きはお前が無事だった保証がありますけど、帰りはどうだかわかりませんもの。
冴ノ守を狙う者が機構に何かしら仕込んでいないとも限らないでしょう」
 嘘である。一応は要人である冴ノ守当主が訪れている本宅の周囲に警戒がなされていないわけがなく、生半な覚悟では冴ノ守家に害を為すことなど不可能なのだ。
 本宅を離れれば保証は消える。そして敵――人間にしろ、ラルヴァにしろ――に狙われたとき、第一に危険が及ぶのは導花ではなく順敬である。それを判っているから導花は彼の送迎を毎回拒んでいる。
「なら仕方がありませんな」
「ええ。――お約束かしら、このやり取りは?」
「はい、念押しでございます。私の立場というものもありますので」
 軽口を交わして二人は違う場所を向く。導花は寮へ向かう道を、順敬は仕える者に頭を垂れて路面を。

 歩き出した導花の足音が不意に止まる。
 不審に思った順敬が顔を上げた。
「お嬢様?」
「順敬、今すぐ車中に入りなさい」
「は……」
「ふふ、私に客人のようですわ」
 駐車場の向かい、道を挟んだ先に広がる木立から人体が投げ飛ばされてきた。
 ずだ袋のようなものが路面に転がる、スーツ姿の男。衣服のそちこちは破れ、砂塵にまみれている。
 体には一センチから五センチほどの穴が無数に空いている。大きさからして銃弾では有り得ない。
「彼は…、警備の」
 順敬が困惑を漏らす。長く使用人を務めてきたが、本宅の警備をこうも大胆に殺されたのは初めてだ。
「順敬、さっさと行きなさい」
 先よりも強い語調で告げる。
「しかしお嬢様を一人には、」
「黙りなさい。使用人を殺される主など無能。貴方は私の覇道に汚点を残すつもりですの?」
 順敬はわずかに息を呑み、
「かしこまりました」
 主の娘に、いずれ主となる娘の不器用な心遣いに頭を下げて走り出した。

 木々の隙間から無数の風切音が飛び出す。
 高速で飛来したそれらは、必死に走る老いた使用人の背中へ――。
 銀の軌跡が空(くう)を舞う。
 けたたましい音を立てて、老人を狙っていた物体が二つに分断され地に墜ちる。
「用があるのは私に、でしょう?」
 導花の手が下がる。小太刀。懐に忍ばせた刃で切り払った。
 冴ノ守の異能を注がれた小太刀の切れ味は岩石さえ両断する。
「石、かしら」
 己が断ち割った物の正体を確かめて呟く。
 彼女の呟きに呼応して、木立の陰から一人の男が歩み出てくる。
 男の姿を認めた導花が少しだけ目を丸くする。
「ラルヴァかと思いましたのに……、同じ学び舎の方とは驚きましたわね」
「久しぶりだね、笑乃坂さん。いや、冴ノ守導花さんですか」
 相手の秘密を知った者特有の、高慢な口ぶりで男が話しかける。
 中肉中背、顔立ちはまだ幼く肌に女性的な白さときめ細やかさを湛えた美少年だった。双葉学園の制服を着ている。
 笑乃坂の瞳が今度こそ見開かれる。
「あ、貴方」
「ふふ、思い出してくれましたか」
「――なんて美味しそうなコなのかしら!」
 少年は思いきり脱力した。
「うふ、こっちにいらっしゃい。私の寵愛、欲しいでしょう?」
 艶な微笑を浮かべた導花が袖口で口元を隠して流し目を送る。
「ちょ、ちょっと待った! 憶えてないのかっ、僕をっ!?」
 言われてようやく導花が、ん? という顔になる。
「どなた?」
「く……くくく、くくっ」
「あら、何か面白いことでもありまして?」
「違うわっ! 怒りを我慢してんだよっ!」
「冗談ですわ」
「どこからどこまでが」
「怒ってらっしゃること、『どなた?』と言ったこと」
 少年が居住まいを正して苛立たしげに髪を梳く。
「ふん、じゃあ憶えてるんだな」
「見覚えがある、ということだけは」
 ぶちぶちっ、と少年の髪が抜けた。指の隙間からはらはらと落ちて少年の心の絶望具合を物語る。
「ハゲますわよ」
「殺してやるッ」
 少年の周囲に風が巻く。巻いた風の合間に無数の岩塊が舞う。つぶてが散弾のように撃ち出された。
 導花は最小限の動きで躱せる物は躱し、それ以外を小太刀で切り払う。
 来る。一際大きな石ころが。力を込める。刃が通りやすそうな箇所を斬りつける。――割れた石の向こうから小石が突っ込んできた。
 地面で摩擦しながら小太刀が遠くへ転がっていく。転がった小太刀の腹に尖ったつぶてが命中し刀身が折れた。
 念の入ったこと、と導花は嗤う。
「私の知り合いに風を扱う異能力者はおりませんわよ」
 少年が鼻を鳴らす。
「だろうさ。僕が能力に目覚めたのは貴女と別れた後なんだから」
 ああそういうことですの。導花の表情がぺらりと冷めた。使い古しか。そう察したのである。
 導花の表情変化を見た少年もまた余裕めいた顔を捨て、憎悪と嫌悪、羞恥と屈辱で歪んだ表情を吐き出す。
「それだ。貴女はあのときもそんなカオをして……」
 歯間から滲み出すような声。
「僕を捨てたんだ。ドレイみたいに僕を使って利用して弄んで捨てたんだッ!」
 彼の感情に反応してつぶてが飛ぶ。咄嗟に顔を庇った導花の手の甲に赤色の華が咲く。
 鮮血色の小石が嘲笑うようにアスファルトの上を跳ねた。
「どうだった? 自分が奇襲された気分は。貴女はいつも奇襲ばかりしていた。
貴女は強くなんてない。弱いんだ。弱いから人を後ろから刺すようなマネをする。人の弱みを、隙を僕に探らせて」
 少年の毒々しい独白は続く。
「調べたよ、貴女のこと。笑乃坂? 冴ノ守って言うんだよね、本当は。
“刃の鋭さを強化する”異能力者。面白いね」
 ここに順敬か考師郎がいれば愕然としたことだろう。
 少年の話している内容は一般人が調べられる範疇を容易に踏み越えている。
 ずば抜けた調査能力。皮肉な話だ。ここまでのシロモノとは知らず、言いように使っていた導花自身が今度はケツの毛の数まで曝かれようとしている。
 少年の周りに大小様々の石が浮かぶ。
「それと勘違いしてるよ。僕の能力は風じゃない、石そのものさ。僕の思うがままに動いてくれる」
 石が上下に揺れる。首肯のように、従者のように、妖精のように。
 砂利の多い駐車場や竹林があるここで襲ってきたのも計算の内だろう。
 導花は静かに聞いていた。
「たしかに僕は貴女に惚れていた、貴女のためなら何でもすると誓っていた。
けれどわかったんだ! 貴女は僕のことなんて男以ぜ」
「――長いですわ、話しが」
 ぶったぎった。
「な、な、なぁっ……!」
 あまりの非礼に少年が絶句する。
 まったく、と導花が続ける。
「女性相手にくだらない愚痴をこぼしているような性分だから不能(やくたたず)だと言うのですわ」
「えええ!?」
「それだけの調査能力をお持ちならストーカーよりも探偵の方が向いているのではなくて?」
 呆れた口調で告げる。毛ほどの脅威すらも感じていない。傲岸で不遜で――
「ああ貴女って人は、よくもそこまで人を虚仮にっ」
「だって貴方、顔以外は好みじゃありませんもの」
 ――何より、とっても女王様(サディスティック)だった。
 頭の毛が逆立つような激憤が少年から漏れ出す。
「えみのさか、みちかああぁッ!!」
 対する導花は害虫を見る目つきで言い放つ。
「呼び捨てされる謂われはありませんわこのインポテンツ。導花様と呼びなさい」
 先ほど彼女を襲った倍以上の数の石つぶてが唸りを上げて撃ち出される。
 低く曇った音を立てて砂利道につぶてが埋まる。動きにくい和装でありながら導花の回避運動は迅速だった。
 早瀬を思わす流れるような走法で石の直線上から逃れる。
「逃げられるもんかっ」
 石の軌道が変わる。背を向けていた導花が体をひねりつつ跳び退る。
 アスファルトに片手をつき、忍者もかくやという側転で二段階に軌道を変えてきた石を避け、――躱しきれない。
 屈んだ導花の和服の裾に穴が空く。肩に丸石がめり込む。さらに喉元目掛けて中くらいの石が飛来する。
 地につけていた片手で素早く薙ぎ払う。鈍い音。掌中から砂礫がこぼれる。
 少年の眉がぴんと上がる。導花の意図を察する。
 導花の手から砕けた小石を投げ放たれる、おそらくは“強化”された凶器が。
「子供だましだ」
 小石が集まり少年の前に小さな壁を作り、投石を弾く。壁が解除される。
 導花が走り込む。手には欠けて鋭くなった石の破片。面食らう少年の顔。小太刀を振るうように、“強化”された小石の刃が閃く。
 少年の反応速度では間に合わない。
 間に合わない、はずだった。
 刃が石壁を掻いた。
「…あら、残念」
 余裕をかます導花の腹部へ掌大の石が命中し彼女はたたらを踏んだ。
 心臓の動悸を抑えるためか少年は少しの間調息して、急に笑い出した。
「は、あはははっ! 甘かったね」
 再び彼の周りを小石たちが取り囲む。それを愛おしそうに眺めながら少年が語り出す。
「貴女にこっぴどく振られてから僕は人が信じられなくなった……そんな僕を癒してくれたのがこの子たちさ。
雨にも風にも負けず道ばたでただ静かに佇む石ころたち!」
 ぐっ! と拳を握りしめる。
「僕は彼女たちを愛した! そうしたらいつのまにか彼女たちは僕を護ってくれるようになったんだ!
僕の言うことは何でも聞いてくれる、なのに僕が危なくなったら助けてくれるんだ」
 うわあ、とみちかはすごくいやそうなかおをした。
「それが僕の能力――“愛石(ラブ・ロック)”」
「どこかの学者みたいな名前ですわね……」
 今度こそ呆れた顔で導花は呟いた。そして立ち上がる。
「貴女は石だって“強化”できる。でもね、さっきはわざと受け止めてあげたんだ」
「では、試してあげますわ」
 にこりと笑って予備動作なく小石を投げつける。少年に接近した小石が慣性を無視して宙空に静止する。
 それどころか投げた導花へと返ってきて、路面に当たって弾けた。
「あら、ほんとう。困りましたわね」
 ハンバーグを作ったら何故か遊星からの物体Xができた、みたいな困惑ボイスが応える。
 少年の眉は少しいらっとしたが、自らの有利を確信している彼の口調には優越感が満ちあふれている。
「どうするんだい『導花』。ここには石(ぼくのラバー)しかいない」
 ふう、と投げやりなため息が挑発に応える。
 笑乃坂導花は呼び捨てにされることが嫌いだ。特に魅力の無い男が自分を呼び捨てる行為は万死に値する。
「……うふ」
 極上の笑顔を放つ。
「聞いていらっしゃらなかったのかしら。私は呼び捨てにされることが、」
 ゆらり、と霞む少女の姿。気づいたときにはもう遅い。肉迫する美しき少女。
 ――来る。攻撃が。無駄だ。彼女に武器は無い。石なら効かない。
素手なら愚行だ、自動発動する石の壁(ラバーズ・ハグ)は生半の衝撃じゃ破壊できはしない、少年はそう考える。
 導花の朱い唇が続きを紡ぐ。
「ヘドが出るほど嫌いですの」
 斬る。
 逆袈裟の軌跡が石の壁を、少年の傲慢を一閃する。
 支えを失ったようにさらさらと地に落ちる石たち。
「そんな。どこに…武器なん、て、」
 膝をついた敵を見下ろしながら導花は、ああ今日はほんとうに猛暑ですこと、と言って彼に微風を送った。
 血臭漂う風を浴びながら少年は絶句した。
「せっ……扇子ぅっ!?」
「あら、違いますわよ」
 ぱたん。扇をたたむと、思い切り少年の頭に振り下ろした。がっつーんと良い音が夏空に響く。
「『勝てる』舞台を整えたことは賞賛できますけれど。有能な策士は切り札を持つものですわ」
「て、鉄扇……」
 白目を剥いて少年が倒れ伏す。
 冴ノ守の異能は刀身だけを強化する。そんなわけがないと導花は否定した。刀を強化できるのなら他の物だってできるはずだと。
 そして彼女は、あらゆる鉱物を鋭い刃と化す異能を得た。石ならば鉄刃に、鉄ならば岩石さえ容易く斬る魔刃に変える異能を。
「終わりましたかな、お嬢様」
「ご覧の通りですわ」
 いつの間に出てきたのか順敬が側に立っている。
 導花は扇を袂に仕舞おうとして血が付いてることを思い出した。
「処分を」
「かしこまりました。この少年はいかがいたしましょう」
「同様に」
 使用人は恭しく頭を下げ、了承の意を表した。
「ああ、ちょっとお待ちなさい順敬。車を回してもらえるかしら」
「……何か思いつかれましたなお嬢様」
 順敬が苦笑する。
「ええ、いいことを」
 導花は笑った。
 眩しくらい、にっこりと。

                    *

 カッ、コン。

 冴ノ守邸、離れ屋敷。
 考師郎が秘書と今日のスケジュールについて話し合っている。グレーのスーツを着こなした凛々しい顔立ちの女性だ。
「なんだ、先ほどから随分騒がしいな」
「見てまいりましょうか」
 立ち上がりかける秘書を考師郎が手を振って止める。
「構わん。どうせ導花のやつが順敬あたりと何かやっておるのだろう。
まったく、冴ノ守の娘にはあるまじきじゃじゃ馬、」

 轟音が突っ込んできた。

「ぬおわぁっ! な、何事だッ!」
 離れの庭へ見覚えのある黒塗りの高級車が突っ込んでいる。
 石庭も石灯籠もしっちゃかめっちゃか。これだけでも失神いやむしろ失禁しそうだ。
「し、ししおどしが」
 お気に入りだったのに、と考師郎は心で泣いた。
 運転席側のドアが開く。
「みっ、導花ぁ!」
「あら、お父様ごきげんよう」
「ごきげんようではないッ。いったい何事だこれは!」
 導花が目を伏せる。
「いきなり敵に襲われましたの。私、この恰好では闘えませんから仕方なく車で」
 なるほど、よく見ると車のボンネットの上で見知らぬ少年が気を失っている。
 だが考師郎は娘の性格をよーく思い出した。
「貴様、わざとではあるまいな!?」
 その言葉に導花は、
「ええ、もちろんですわお父様」
 すごくスッキリした顔で即答した。

                    *

 とりあえず、ししおどしをぶち壊してやろうと思って……『いた』。



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