【双葉学園の怖い噂 四怪目「予知夢」】


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  「予知夢」


 怖い夢を見ていた。
 私はその夢を毎日のように見る。
 そこがどの場所かはわからないけれど、とても暗いところだ。
 そこで私は何かから逃げていた。
 必死に、まるでそれに追いつかれたら殺されてしまうとでも言うように。
 夢の中の私は走りながら後ろを振り向く。
 後ろから私を追いかけてくるのは、同じ年ごろの男の子だった。その男の子は凄まじい形相で、全速力で私を追いかけてくる。
 彼に捕まったら恐ろしいことになるのではないか、そう思った私は彼から逃れるべく、ただひたすら走る。
 そして、やがて目の前に光が見えた。
 私はそれを目指す。きっとあの光があるところに行けば自分は助かると確信する。
 だけど、その光に触れようとした瞬間、私はその男の子に腕を思い切り掴まれた――



 そこでいつも目が覚める。
 そうして目覚めた朝は、気分が悪く、ぐっしょりと汗でパジャマが濡れてしまう。
 一体この夢はなんなんだろう。
 随分前からこの夢を見るようになった。なんでこんなに怖い夢を毎日見るんだろうか。
「それは思春期によくある、異性に対しての恐怖心から来るものね。そんな夢はすぐに見なくなるわよ」
 その日の放課後、私は思いきって学園付属の臨床心理士《カウンセラー》の先生に相談してみたが、そんなことを言うだけであった。
「そ、そんな。私は別に男の子のことが怖いなんて……」 
 カウンセラーの先生は煙草を灰皿に押し付けて、めんどうそうにぼりぼりと頭を掻く。
「そうでなきゃ予知夢かもね」
「予知夢?」
 私は予想だにしない単語が飛び出たことに驚く。
「そう、予知夢。|予知能力《プレコグニション》の一種ね。正夢と言ってもいいかも。ようするに、現実で起きることを、夢で予知するっていうものよ。異能のカリキュラムで聞いたことあるでしょう」
「そんな、私は異能者じゃありませんよ」
「突然目覚めた可能性があるわ。いずれにせよ異能検査をしたほうがいいわね」
「はぁ……」
 これ以上異能関連の話を先生と話しても無意味だろうと、私は保健室を後にした。
 もし私が異能に目覚めていて、あれが予知夢なのだとしたら、あれは本当に起こることなのだろうか。
 もしそうなら、あの夢の中の男の子に、私は殺されるんじゃないだろうか。
 怖い。
 これが自分の異能で、あの予知夢が確かなものなら学園側に訴えれば何か対処をしてくれるかもしれない。
 明日異能の検査をしに行こう。
 私はそう心に決めて、今日は帰宅することにした。


 もうすっかり日が暮れていた。
 私の家は住宅街から少し離れたところにある。
 そのせいで通学路には人気が無い。街灯も少なく、風に揺れる木々のざわめきが不気味だ。
 私はその道をおっかなびっくり歩いていた。
 そうして道を歩いていると、ふと、後ろから足音が聞こえてくるような気がした。
 嘘。まさか。
 体が恐怖で震える。
 私が歩くたびに、一歩遅れて足音が聞こえてくる。
 間違いなく、後ろに誰かいる。まだ少し離れた距離にいるけど、確かに誰かがいるみたいだった。
 自然と、歩が早まる。後ろに誰かがいるからって、それが夢のあれとは限らない。ただの通行人かもしれない。そう思い私は先を急ごうと少しだけ早足になっていく。
 コツコツコツコツ。
 しかし、私が早足になれば、後ろの足音も早足になっていく。私がどれだけ速度を上げても、後ろの足音も早まっていく。
「うう……」
 私は涙を浮かべながらとうとう走り出した。スカートだから走りにくい。だけどそんなこと言ってられない。逃げなきゃ。逃げなきゃ捕まってしまう。
 走りながら私は後ろを振り向く。
 やはり、そこにはあの男の子がいた。
 青白い顔をした男の子が、必死の形相で私を追っている。彼は「待て!」だとかそんなようなことを叫んでいるが、全力で駆けている私には何を言っているのかよく聞こえなかった。だけどきっとそれは恐ろしいことを叫んでいるに違いない。
 やっぱり、彼は私を殺すつもりなんだ。
 あれは予知夢で、あの夢の通り、私は捕まり、殺されてしまうに違いない。
 そんなことは嫌だ。あれが予知夢なら、予知は避けるためにある。きっとどうにか逃れることができるはずだ。
 そうして走っていると、目の前に大きな光が見えた。
 光は闇を照らし、私たちを照らす。
 あれは夢で見た、あの希望の光だ。
 きっとあの光のところまで行けば私は救われる。なぜだかなんて理由はわからないけど、私は直観でそう感じた。
 私が走るのよりも早く、光のほうから私のほうへ向かってきた。
 もう少しで光が私に到達する。
 しかしその瞬間、私の動きは止められた。
 ガシっと後ろから腕を引っ張られたのだ。後ろに視線を向ければ、目の前にはあの男の子の顔。捕まった。殺される。あと少しで光に触れることができたのに、夢と同じように私は捕まった。もうお仕舞いだ。
 だけど、男の子は意外な言葉を叫んだ。

「危ない!」

 その直後私の身体は横に押し倒され、ゴウっという轟音と、激しいクラクションが鳴り響く。そして、目の前を大きなトラックが通り過ぎて行った。
 私は尻もちをつきながら茫然とする。
 私が希望の光だと思っていたあれは、トラックのライトだったのだ。
 もしあのまま光に向かっていたら――そう思うだけで体が震えて、全身に鳥肌が立つ。
「大丈夫?」
 すっと目の前に手が差し出された。
 顔を上げると、その男の子がにこやかに笑いながら私の手を引っ張り起き上がらせてくれた。
 彼が私の腕を掴み、横に倒してくれなければ今頃私は肉片になっていただろう。だけどこの男の子はなぜ私を追いかけたのだろうか。
「助けてくれて。ありがとう……」
「びっくりしたよ。呼びとめても逃げちゃうんだから……。危なかったけど、助かってよかった」
 男の子は心底安堵したように息を漏らした。
 そんな彼が夢の中の印象とは違い、ごく普通の男の子にしか見えなかった。私は疑問を口する。
「あ、あなたなんで私を追いかけたの……?」
 助けれくれたことには感謝はするけど、もとはと言えば彼が自分を追いかけてきたからだ。追いかけられなければ逃げることもなく、トラックと鉢合わせになることもなかったかもしれない。
 男の子は少しだけ困ったように眉を曲げ、苦笑しながら答えた。
「夢を見たんだ。それも毎日」
「え?」
「その夢の中でぼくはキミを追いかけていたんだ。帰りにキミを見かけたから、それを現実で実行しただけだよ……」

 オワリ



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