【くたばれ差別主義者】


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「我々は差別されている!」
 教壇の前に立ち、井上《いのうえ》花子《はなこ》さんはそう言った。
 わたしは友人のみっちゃんに連れられて、ある集会に出ていた。それは強力すぎる、あるいは制御できない異能を持つ生徒たちが集まり、学園生活に対する不満を言い合うと言う後ろ向きな集会だった。
 わたしはそんな集会には興味無かったし、そういう異能を持っていても特に学園生活に対する不満や愚痴はなかった。だけどみっちゃんがどうしても一度出て欲しいと言うもんだから仕方なくきたのだ。
 しかし、思っていたよりもこの集会の人数は多かった。辺りを見回すと、参加者は二十人以上いるように思える。学園の空き教室を使い、『差別被害者の会』の会長である花子さんがここで熱弁を振るっていた。
「ねえ、ほら。花子さんってかっこいいでしょ。あの人は私たちのリーダーなの。花子さんのおかげで私たちは差別に立ち向かえるのよ!」
 わたしの隣に座るみっちゃんの目は輝いていて、とても「怪しい集会だね」なんて言える雰囲気ではなかった。周囲の人たちも花子さんの話を聞いてうんうんと頷いたり、中には涙を流したりしている人もいた。
 不気味だ。
 それがわたしがこの集会に抱いた第一印象である。
「我々は不当な扱いを受けている。学園の上層部は我々を危険で凶悪な存在と捕え、隔離したりリミッターの装着を強要する。××××××という蔑称で我らを呼んだこともあった。我々が持つ異能は言うならば才能だ。決して障害者や奇形ではない。彼らのような人のお荷物になるだけの存在ではない。我らは進化した人間なのだ。それにも関わらず、学園の人間共は我々を異質な存在として扱う。これは明らかな差別だ。生まれ持った才能のために、不自由な生活を強いられるなんてとても耐えられない」
 そう言って花子さんは腕を振り、オーバーアクションで学園の差別意識をみんなに語った。
 花子さんはとても美人で、そう熱く語る様はすごくかっこよかった。
 彼女の必死な語り口に、わたしも次第に引きこまれていく。
「学園の人間はクズだ。連中は大した力を持たない癖に、我々を侮辱する。それはなぜか。彼らは我らを恐れているのだ。だから差別をし、陥れようとしている。我々は平等のために戦わなければならない。優秀で力を持つ人間が上に立つことこそが、真の平等だ。下等な旧世代の駄人間共などすべて死んでしまえばいい。やつらはラルヴァよりも残酷で下劣な生き物だ。生きる価値の無い無能共だ。やつらの差別に我々は屈するわけにはいかない!」
 そう言って花子さんはバンっと教壇を叩く。
 すると、周囲の会員たちは「うおおおおおおお!」と蜂起したように叫び声を上げ、会場は熱気に包まれていく。
「これは聖戦だ。自由と平等を勝ち取るための戦争だ。みなのもの覚悟はいいか、我らが力を合わせれば勝てない相手などいない。卑しい差別主義者共を我々の手で葬り去るのだ!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
 ビリビリと部屋が揺れ、わたしも感動してしまった。
 そうだ。わたしもちょっと前に異能の訓練で強力すぎるからと言う理由で参加を拒否されたことがある。
 あれもまた差別だ。
 わたしは差別をされたのだ。
 そう思うと、わたしの中にも怒りがふつふつと湧き立ち、周囲の会員や、みっちゃんと同じように叫んでいた。





 そしてわたしも『差別被害者の会』に入会した。
 わたしの仕事は差別主義者への報復だった。みっちゃんや、他のメンバーと一緒に無能で役立たずで、そのくせ差別ばかりする学園の生徒たちの襲撃を始めた。
 わたしたちの異能は学園側から制御され、監視をされているせいで使えない。だから仕方なく金属バットを武器にわたしは手始めにクラスメイトの女子を襲った。その子は美人で頭がいいという理由で、男子から人気があった。その彼女はわたしを見下すような目で見ていた。ような気がする。
 そんな差別主義者には鉄槌が必要だった。
 わたしは彼女が帰路につくのを見計らって襲撃した。
 彼女はわたしがひそかに想いを寄せていた田中くんと手を繋いで歩いていた。
 そんなことは関係なくわたしは彼女を何度も何度も金属バットで殴った。パーカーを被り、サングラスにマスクをしているため顔はばれていないだろう。田中くんはみっちゃんが拘束していた。彼はおしっこを漏らしていた。情けない。異能を持たない男なんてみんなこんなものだ。弱くてみじめったらしい生きる価値の無いゴミのような存在。わたしたちのような高等な人間とは違う。わたしは田中くんの頭にもバットを振り下ろした。
 わたしが入会してしばらくして、新たな入会希望者がやってきた。
 そのうちの一人はアフリカから留学してきた黒人の異能者だった。
「我々の会に外人はいらない。やつらがスパイを送り込んでくる可能性だってある。何よりこの地球上に日本人以外に優れた人種など存在しないのだ。我々が欲しいのは強く優秀な人材。汚らしい肌のゴミは早く失せろ」
 その留学生は登校拒否になったらしい。
 当然だ。集団の結束が大事なのに、そこに異分子となる危険性のある存在はいらないだろう。
 その次にやってきた入会希望者は異能の暴走で両足を無くした男の子だった。
「ぼくもみんなに復讐したいんだ。ぼくの身体が不自由だからってクラスのみんながお荷物だっていじめるんだ。どうか入会させてください」
「駄目だ。我々の会にもお荷物の無能はいらない。貴様見たいな弱者は差別されて当たり前だ。それは差別ではなく当然のことなのだ。失せろ。そして一生部屋に引き籠っているがいい。我ら新人類にゴミは不必要だ」
 花子さんはそう吐き捨て、ウジ虫を見るような嫌悪のまなざしを男の子に向けた。
 そうだ。ここは強者が集う会なのだ。そしてその強者である我々が差別されることがおかしいのだから。彼らのような弱者は排他されて当然だ。それから花子さんは不細工で気持ち悪い女子や男子も次々と入会を拒否し、『差別被害者の会』の存在を知った彼らを口止めをしてきた。


「きみも随分といい働きをしてくれるね。幹部に昇格をしてあげよう」
 ある日、花子さんにそう言われたわたしは、感激で涙が溢れてきた。
 わたしは認められたのだ。
 差別が溢れかえるこの間違った世界でも、受け入れてくれる人はいるのだ。
 わたしたちのような存在が受け入れられる。そんな理想の社会のためにわたしたちは戦う。
「それできみに仕事を頼みたいのだが。B棟で軟禁されている我らと同じ強力な異能者を助け出してほしい。その少年もまた不当な扱いを受け、差別に苦しんでいるに|違いない《、、、、》」
「わかりました」
「っとその前に……」
 わたしはある物を花子さんから手渡された。
 手に伝わる重たくて冷たい感触。
 それは拳銃だった。
「これは」
「幹部になったご褒美よ。もしその少年が抵抗したら迷わず撃ちなさい。我らの仲間になる意思がないものは、生きている価値なんてありはしないのだから」
「……はい」
 そうしてわたしはB棟に侵入した。
 大した警備も無く、なんなく入ることができた。渡された地図に従いわたしは少年のいる部屋に向かい、その扉を開いた。
 そこにはゲームをして遊んでいる少年がいた。
「お姉ちゃん誰?」
「わたしはキミを助けにきたの。ここに閉じ込められているのはもう嫌でしょ?」
「そんなことないよ。別に不便なんてないし」
「強がらなくてもいいのよ。わたしはキミと同じなんだから。キミもきっとみんなの役に立てる」
「いやだね。ぼくの異能は危険なんだ。ここから出るわけにはいかない」
「そんな差別主義者たちの安全なんて考える必要はないわ。きみは選ばれた存在なんだからもっと堂々としていなさい」
「差別なんてされてないよ。学園の人も施設の人もみんな良い人たちばかりだよ」
 少年は怪しむような目でわたしを見て、怒ったように言った。
 わたしはポケットの中に手を突っ込み、その中の拳銃に触れる。
「可哀想に。キミは洗脳されているのね。飼いならされているのね。でも大丈夫――」
「ぼくは可哀想なんかじゃない!」
 少年はそう叫んだ。
 わたしは無意識のうちに拳銃を取り出して、少年に向けていた。
 少年は下を向いていて、拳銃に気づいていなかった。
「ぼくが可哀想だなんて決めつけるな。ぼくが差別されているなんて決めつけるな。お前らこそ差別主義者じゃないか!」
 その言葉を聞いた瞬間、わたしははっと頭がクリアになった。
 なぜ自分が拳銃を握っているのかわからなくなった。
 どうして。
 どうしてこうなっているんだろう。
 どこで間違えたんだろう。
 何を間違ったんだろう。
 頭の中が混乱する中、引き金にわたしの指がかかる。
 そしてわたしは、わたしは――


 終わり


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