【夜のお散歩】

  夜のお散歩


「また遅くなっちゃった・・・・・・」
 薄暗くなった住宅街を、遠藤雅は一人で歩いていた。ときどき対向してくる自動車のライトが眩しすぎて、たまらず目をしかめる。
 路上での安全を確認してから、彼はテキストに目を戻した。ずっとこうして勉強しながら歩いている。双葉学園での教育や訓練が本格的なものになってから、雅は朝から晩まで勉強に打ち込む日が続いていた。
 突貫工事のようであった異能者としての基礎的な学習・訓練は、夏休みまでに終わらせた。血塗れ仔猫の騒動も含め、雅にとって本当に色々なことがあった夏だった。七夕のあの一件から彼は「強くなること」をひたむきに目指してきた。
 基礎の次は応用だ。遠藤雅は学園でも数少ない治癒能力者である。ヒールがあるから双葉学園にやってきたといってよかった。今後の大規模な戦闘の主軸となるべく、彼は順調に異能者として成長してきた。
「まだまだ頑張らなきゃな」
 テキストを閉じてショルダーバッグにしまいながら言った。右肩に食い込む肩紐をずらしたときにネクタイが曲がったので、正しておく。今日は学園指定のブレザー姿をしていた。
 雅はこの学校にやってきて、一つ「目標」ができた。それは後世の治癒能力者のために治癒そのものの研究を続けていくことである。
 二度と与田光一のような目には遭いたくない。自分の力は自分で知る。学ぶ。
 そしてヒールについて研究を進めて、治癒能力者の戦闘方や運用法、訓練の方法などを明確に体系化して確立させる。これが遠藤雅の「夢」だ。
 とはいえ彼は十九歳で島にやってきた遅咲きの異能者だ。目標をかなえるために、雅はまだまだ多くの経験や苦難を乗り越えていかなければならない・・・・・・。
 白い壁の洋風アパートに到着した。彼のねぐらだ。


 玄関の鍵が開いていても、もう気にすることもない。無言でドアを静かに閉めてから部屋のほうを向いたときだった。
「お・か・え・りぃ~~~!」
 小さな女の子がダイブしてきて雅の胸に突っ込んだのだ。そのまま後ろに倒れていき頭をドアに強打した。もしもしっかり閉まっていなかったらドアは開き、小学六年生との同棲生活が明るみになってしまうところだった。きっとキスもされていた。
「いってぇ・・・・・・。ああもう、元気だなぁ」
 ドアに背中を預けつつ雅は呆れるように言う。少女は丸くて黄色い瞳をくりっと上に向けて雅を見た。ちょっぴり悲しそうだ。
「『ただいま』でしょ? ずっと待ってたのに」
「あ・・・・・・そうだったね、『ただいま』」
 そう言うと、「きゃわ~」と彼女はとても嬉しそうに雅のワイシャツに頬を押し付けてきた。水色のエプロンを着用しているので料理の最中だったのだろう。本当に幼い女の子と同棲生活をしているみたいで、半ば苦笑いを浮かべつつ、抱きしめるには小さすぎる体を片腕で寄せてやった。
 彼女の名は立浪みく。れっきとした初等部の六年生である。
 みくが好き好んでやっていることとはいえ、彼はこの子に夕飯を作らせて浴室を洗わせて抱っこしながら一緒に二十時過ぎの騒がしいバラエティを観賞するという生活をしていた。十二歳の子供に付けられた「首輪」を見ていると、人として罪悪感を抱かぬわけが無い。
「ささ、ご飯できるから上がりなさい」
 彼女は立ち上がると新婚の嫁のように頼もしげにそう言った。狭い部屋へと消えていった彼女を追うように、やれやれと雅も起立してスラックスに付いた砂埃を払ったのであった。
 握りこぶし三つ分はある特大ハンバーグがやってきた。特に大きさについては触れず、雅は「いただきます」とどんぶり一杯の白米に手をつけた。異能訓練を積極的にやるようになってからすぐに腹が空くようになった。睡眠と食事は異能者にとって大事だということを彼の師匠から聞いていたが、まさに本当のことだった。
「どう? 和風にしてみたんだけど」
「うん、おいしい。こういうの好きなんだ」
「あは、よかった。みかお姉ちゃんも好きだったんだよ」
「そうなんだ」
 七夕前と比べてとても会話が弾んでいる。こういうときは先ほどの罪悪感めいた気持ちもなくなり、今の生活も悪くないと思えるのであった。みくの好意が素直に言って、嬉しい。彼女は決してでも召使でも奴隷でもなく、ただ雅のことが大好きだから彼のためにご飯を作ってあげているに過ぎない。
「ねね、ご主人さまぁー?」
「その呼び方、恥ずかしいから・・・・・・」
「最近帰り遅いよね・・・・・・」
 雅の箸が止まる。
 みくは両方の眉尻を下げて、彼女らしからぬ弱弱しい顔をしていた。寂しそうにしていることが鈍感な雅でもよくわかる。
「え、まぁ、その」
 そろそろ突っ込まれるのではないかと思っていたところだった。雅は後期の授業が始まってから、ずっと夕方遅くに帰ってくるのが日常だった。彼がまだ夏休みだったころはべったりできる時間も多かっただけに、この落差は彼女にとって耐え難いものなのだろう。
「ごめん、訓練があるんだ。まだ未熟だからどうしても」
「うん、そんなのわかってる。でもねメールぐらい・・・・・・」
「え? いつもすぐ返してるじゃん?」
 そう強めな語気で返事をしたら、みくの黄色い瞳が「うるっ」と涙に濡れた。雅は慌てて、ベッドに放ってそのままだった携帯電話を手に取った。液晶にはしっかりとみくの新着メールが届いている。
「あ・・・・・・ごめん。本当にごめん」
 学校帰りにテキストに夢中になってメールに気づかなかったのだ。特に最近はマナーモードのままにしがちだったので全然わからなかった。
「もういいよ。知らない」
 静かにそう言い放ち、ぷいとそっぽを向いてしまった。
「あー・・・・・・」
 雅はすっかり困り果てた。どうもいつものみくとは調子が違っており、対処のしようがない。彼にとってみくは、「あんった何を見てそんなことが言えるのよっ! バカバカバカバカ!」と怒り狂って爪で引っかき、テーブルを持ち上げて思い切り頭をぶん殴ってくるような暴れ馬でないといけない。
 それだけに、こう真横を向いて涙目で頬を膨らませているおセンチなみくを前にして、雅はどう言葉を投げかけていったらいいかわからなかった。
 ウェザーニュースのお姉さんが何かを言っている。「今日は九月十三日、中秋名月の日ですね」。みくはじっとだんまりを決めて拗ねてしまい、仕方なく雅は冷たくなりかけたハンバーグをちまちまつまみ出した。
「ごちそうさま・・・・・・」
 いつも言ってくれる「おそまつさま!」も無い。夕方のニュースはいつの間にか終わっていて、芸人が無理をして周りを賑わせるクイズ番組に変わっていた。みくは番組を見ているわけでもなく、なおも黙り込んでいる。
 かつて体感したことのない重い空気の中、何かをやり始めないと落ち着かなくなった雅は皿を両手に立ち上がり、台所に向かった。らしくもなく洗い物を始める。水道から水が勢いよく噴出して、扱いに慣れてない雅は水滴を顔に浴び「わっ」と悲鳴を上げた。
 皿とどんぶりと箸を食器立てにかけ、みくのいるテーブルに戻ろうとする。しかし雅はそこで動きを止めた。
 みくがサッシを開け放ち、雅に背を向けて立っているのだ。
「みく?」
 夜空を見つめているみくを呼んだ。テレビの喧騒が聞えなくなる。表から自動車が通過していく音が聞えてくる。走り去ってから今度は時計の針の音が耳に入ってくる。
 そして次の瞬間、みくは雅のほうを振り向いたのであった。
「マサ、夜のお散歩はお好き?」
 みくの瞳が金色に輝き、雅を捉えた。


 重力に見放された雅は傍若無人なベクトルにぐいぐい引っ張られていた。もはや社会の常識も物理の法則もすべてその意味をなしえない。ここは双葉島。様々なものを気持ちいいぐらいに置いてきぼりにしているハチャメチャな非日常。
 見覚えのある道路や建物の俯瞰図が、移りかわるように流れていった。与田のロボットと戦った児童公園や、商店街にある喫茶ディマンシュの洒落た建物など。それらはこれまで積み重ねてきたたくさんの思い出を蘇らせる。
 雅はみくに抱えられて双葉島を空中散歩していたのだ。もちろん本当に飛行しているのではなく、高いところから高いところへと飛び渡って移動しているのである。立浪姉妹が得意とした軽やかで素早い移動方だ。具体的には、家の屋根や建物の屋上を代わる代わる飛び移っている。
 屋根から屋根へぴょん。屋根から塀へぴょん。
 細い塀の上を駆け抜け、また民家の屋根へ。
 電柱の頂点に達したかと思うと、今度は豪快なジャンプで研究施設の避雷針に着地した。それからさらに野鳥のごとく舞い上がり、十三階建てマンションの建設に使われているクレーンのてっぺんにまで到達した。相当の高さだが迷うことなく飛び降り、綺麗な放物線を描いて滑空する。雅はさすがに怖がってみくにこう言った。
「ちょっとみく、どこ連れてくんだよ?」
 やはりみくは答えてくれない。どこか一点をじっと見つめて一心不乱に夜を駆ける。もうなるようになるしかないかと雅は諦め、またも鉄塔の頂上に飛び上がって一気に飛び降りられたのでみくにしがみつく。ゴンと何か硬いものが雅の頭にぶつかってきて、彼はうめき声を上げた。何と衝突したのかはそのときはわからなかった。
 でも何か新鮮な気分だった。何かこう今まで味わったことのない爽快な気持ちだ。
(そうか、みくと出かけるのってこれが初めて?)
 登校とか訓練とか戦闘とか、そういったものを除けば雅はみくと外出したことはほとんどなかった。特に今のように目的もなく外出した回数はゼロに近かっただろう。
 ゼロ回。いくら七夕や夏場のごたごたがあったからって、これまで自分がみくにしてあげたことといえば何があった? ろくに何もしてあげてないのではないか? 
 いくら忙しいからって、ちょっと身勝手すぎやしなかっただろうか。この小さな猫の女の子は、日ごろあんなにも好意を持って接してくれているのに。だいたい二人だけの夏休みもろくに取れないまま終わってしまったではないか。
 なんとなくみくが寂しそうにしている理由がわかった気がしていた。雅はこれ以上何も言わずに、黙ってみくに連れまわされていた。


 みくは最後、星に手が届いてしまいそうなぐらい高く飛び上がり、どこか高い場所へと着地した。雅はぽいっとごみのように放られた。
「いったあ・・・・・・」
 投げ捨てられてすりむいた右手の甲が、赤くにじんでいる。思う存分ジェットコースターを味わわされてきたので軽く腰が抜けていた。言葉も発せないぐらい脱力しており辛うじて胡坐をかくことができた。
 ここはどこだろう? 真下に見られる点々としたランプの明かりによって、普段見慣れた大学部の建物や高等部の校舎、ネットの張り巡らされたグラウンドが確認できた。それらの情報から総合して、自分が双葉学園の時計台のてっぺんにいることを理解する。
 どうしてここに来たんだろう、と雅がみくを見上げたときだった。
「あ・・・・・・」
 満月との組み合わせが、これがまたよく似合っていた。
 そんな満月も翳てしまいそう、一等級の明るさを放つ金色の瞳。ミニスカートから伸びる、細く白いしっぽ。そして何よりも目が行くのは、頭の上にある真っ白なふさふさのけもの耳。
 それはまさにみくのありのままの姿であった。普段見慣れているものにも関わらず、雅は息を呑んで神秘的な雰囲気をかもし出している猫耳の少女を見つめている。
「何?」
 素っ気なさそうにみくがきいた。夜風に乗って柔らかな前髪が揺れる。
「いや、その・・・・・・」
 恥ずかしくて「見とれてしまった」などとは言えない。はっきり言って美しい。
 そう、みくは雅とは違って人間ではない。猫の血が半分流れている人外の存在だ。夢の世界からそのまま出てきたかのような不思議な少女に、惹かれぬ男などいるはずがない。
「うーん、やっぱこのかっこは落ち着くぅー!」
 と、相変わらずものを言いづらそうにして黙っている雅をよそにして、みくは両腕を真上に上げて背筋を伸ばした。白い尻尾が円を描いたり波打ったりしている。
 十九時半過ぎの学園はほぼ全域が真っ暗で、例えば遅くまで部活動を頑張っている生徒や、遅くまで会議に出席して仕事をしていた生徒ぐらいしか敷地内を歩いていない。日中の騒がしさが嘘みたいに、ただ立派な建造物を広げているだけの寝静まった空間となっていた。
「あの、みく?」
「うん?」
「何でここに来たの?」
 その問いにみくはにっこり上を指差した。雅が夜空を見上げると、いつになく明るくて、くっきりと闇から際立って浮き出ている満月がある。
「お月見よ。天気予報で言ってたじゃない?」
 そういえばそのようなことを言っていたような気がする。それからよく見ると彼女は大きなステンレス製の水筒を肩から提げていた。みくに抱えられて空中散歩をしていたとき、頭にぶつかってきたのはそれだったのだろう。
 水筒を開けてコップに注ぐ。白い湯気が立つのが薄暗い中でもよくわかった。それぐらい今日は月が明るいのだ。
「ほれ、飲みなさいな」
 みくに言われてプラスチックのコップを受け取った。中身は温かい緑茶だった。きっと前もって準備しておいたのだろう。
 ふう、と口から熱い息を吐いて雅は夜空を見上げる。中秋の名月はますます輝きを増し確固たる存在感を彼に示していた。身近な存在であるいつもの月とは比べ物にならないぐらい、秘められた力を解き放っている。
「すごくまぶしいなぁ」
 風流さのかけらのない率直なことを言った。お茶をあっという間に飲み干してから、雅はみくのほうを見た。何やら落ち着かない様子でそわそわしており、体を右に左に向けたり、それにあわせて尻尾も左右に揺らしたり、スカートから伸びる脚をくねらせたりしている。やがてくるりと一回りをして後ろに組んだ両手を見せてから、こう言った。
「マサ?」
「ん?」
「あんた私のほんとの姿を見ても、何も言ってくれないよね」
「ほえ?」
「・・・・・・感想はぁっ!」
 ぐるりと振り向き、きつく彼を睨みつけてきた。
「え、ええっ」
 雅はさらに困る。そんなことを聞いてくるとは思いもしなかった。確かに言われて見れば、みくの覚醒モードについてはっきりと具体的な感想を述べてあげたことは、一度もなかった。
 への字に口を結んで目を尖らせている猫姫様を、あらためて上から下まで眺めてみる。
 無邪気な小学六年生の女の子に、こんなふうに耳や尻尾といったオプションのようなものが付くと、これはこれでまたなんともいえない魅力が放たれていた。まさに完成された、到達された美しさと言っていい。KMB――完全無欠の美少女? ああもう自分は何言っているんだと色々難儀しながら、あれこれ気の利いた台詞を考えてみた。
 やはり、そのぴこぴこ動く耳が気になるわけで。
「耳、可愛いよ」と、素直に言った。
 みくは素っ気無い無表情のままでほんのり頬を赤らめた。
「ん。まあ、褒め言葉として受け取っておくね・・・・・・」
 さらに、ぽーっとした様子でちょっとだけ横に視線を逸らし、
「・・・・・・触ってみる?」
とか言ってきた。
 いつものみくじゃない。全く予想もしなかった展開にびっくりするが、実は雅も、ぴこぴこもふもふ動くけもの耳に一度触れてみたかったと思っていたりする。
「・・・・・・いいの?」
「さ、触りたいんだったらとっとと触っちゃってよ! 触りなさいよ! ったく、こんなんのどこが珍しいんだか!」
 ぺたんと座り、ずいっと体を寄せ、耳を彼に向け、ふんっと不機嫌そうに目を瞑った。
 運動部が発している怒声や航空機の通過する音、そんな周囲の喧騒が彼らのいる空間だけ消え去ったひと時である。ふるっと動いて固まったそれに右手を近づけ、優しく撫でた。
「・・・・・・ぁ」
 澄ました表情が崩れ、とろんとした瞳で雅を見つめてくる。熱い息づかいが彼の唇に届く。温かくて血の通った本物の猫耳だ。彼は彼女の目に釘付けになり、それから瞬く間にくらっと頭が熱でぼうっとしてきた。しばらく見つめ合ってから、みくがこう言った。
「寂しかった・・・・・・」
「うん、わかってる。ごめんね」
「ばか」
 またも泣きそうになってしまう彼女の頬に、今度は雅が微笑みながら触れてやった。ぴくりと柔らかい頬が動き、鼻にかかってくる息はしっとりとしている。みくの顔が紅潮して熱くなっているのが、ありありと右手に伝わってくる。
「わかるでしょ? もうあんたなしじゃ生きてけないの」
 そう言われたとたんみくが顔を寄せてきた。雅はそう言われて驚き、マズいと思ったがもう遅かった。みくはいよいよ両目を瞑って唇を近づけてくる。金色の瞳に洗脳されたか、雅は微動もすることができない。情熱と状況に流されるままに事は進んでいく。
(誰も見てないからいいかな・・・・・・?)
 そう思ってしまったのが決め手となってしまい、とうとう雅もみくの背中に手を回して抱きしめようとしてしまう。どうせあの満月しかこの秘密の行為を盗み見ていない。お月さまだけしか見ていないのだ。
 そっとみくの体を抱き寄せて、キスをしてしまおうとしていた。


「させませんッ!」
 突然の怒鳴り声に雅が「うわぁ!」と絶叫する。
 青い瞳をした、背丈のある猫耳少女が時計台にいたのである。口を真一文字に閉じてこちらを睨みつけており、かなりお怒りの様子だ。
「お、お姉ちゃん!」
 立浪家次女・立浪みきである。妹といかがわしい関係にある(と思っている)雅を警戒する、彼の天敵中の天敵だ。恐らくみくが覚醒モードに入ったのを察知して彼女も駆けつけたのだろう。そこにいたのはラルヴァどころか、実妹を徹底的に貪らんとしているラルヴァよりも恐ろしいロリコン魔王であったというわけだ。
「マサさん・・・・・・やっぱりあなたって人は・・・・・・あなたって人は・・・・・・!」
 みきはぎりぎりと拳を震わせてその拳から青い鞭を出現させた。このような怪しい場所で抱き合おうとしていて、挙句の果てにキスまでしようとしていたところを見られたのでは、もう遠藤雅に弁解の余地は無い。ロリコンとして粛清されるのみ。
「とんでもない癌細胞ですッ!」
 ばしんと鞭が飛んできて、腰を抜かしている雅の股の辺りに叩きつけられた。彼は「ごめんなさい! 許してください!」と泣き喚きながら走り出し、時計台のハシゴを降りていく。
「もう許しません! 待ちなさーい!」
 彼女らにとって高低差など何も意味をなさないことは、すでに証明済み。みきは時計台から直接地面に降り立ち、下で雅を待ち受ける。
「ぎゃぁあああぁあああ」という絶叫を聞きながら、みくは突然の展開にぽかんとしていた。やがてはぁっと深いため息をつく。
 夜風が吹いてくる。夏も終わって九月も半ばに入り、冷涼な空気も流れ込んでくる。短めの後ろ髪とミニスカートをなびかせながら、みくは苦笑してこう満月に呟いたのであった。


「こんな生活が、いつまでも続くといいな」




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最終更新:2010年09月24日 00:34
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