【ゴーストヘッドにうってつけの日 第三話】


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※この物語はフィクションです。作品には暴力的、残酷的な描写を多く含みます。苦手な方はさけてください。




 act.3「ザ・スラッシャー」



※ ※ ※


 自転車に乗って道路を走っているとパトカーと何台もすれ違った。何かあったのだろうかと鷹野《たかや》淳美《あつみ》はその行き先を見つめる。パトカーが走っていったのは第三住宅区域であった。
 あの金持ちばかりの場所でも揉め事や事件は起るんだな。でもあたしにはどうでもいいことだ、淳美は停めていた自転車をまた走らせて商店街のある場所へ向かった。『TAKAYA』という看板を掲げているその店が、淳美の自宅であった。
「ただいま兄ちゃん!」
 淳美がレジのカウンターでぼーっと突っ立っている兄の祐輔《ゆうすけ》に呼びかけると、啓祐は驚いたように入口に目を向けた。
「おい淳美。家に帰って来る時は裏口から入れって親父に言われてるだろ!」
「いいじゃない別に。裏口に回るの面倒なのよ。それにどうせお客なんてろくにいないんだし」
 そう言って淳美はガランとした店内を見渡した。淳美たちの家族が経営しているのはCDやDVD、BLなどのレンタルショップだ。しかしこのように客はほとんどいない。父親の趣味なのか、悪趣味な映画やB級映画ばかりが揃えられており客層が偏っているのだ。それに加え都市部に大手レンタルショップが出来たこともあり、経営状況はあまりよくない。そのため父親は副業の工場勤務を始めた。だから休日は長男である祐輔に店番を任せていたのだ。
「客なぁ。俺の店番なんて意味ないくらいに客こねえよ確かに。いや、でもさっき一組客が来たぜ」
「へえ、よかったじゃん」
「お前のクラスの子だよ。いつもゲテモン映画ばかり借りてく背の低い女の子……なんて言ったっけ」
「ああ怜奈《れいな》ちゃんか。あの子絶対お父さんと趣味合いそうだよねー」
「そうそう怜奈ちゃんな。あとその怜奈ちゃんと一緒にもう一人女の子がいてさ、すっげえ可愛いかったなぁ。お前みたいな男っぽい女とは全然違う」
「兄ちゃんのバカ!」
 淳美はカウンターに入って祐輔の向う脛を蹴った。淳美は制服を着る必要がない休日はスカートを穿かずにジーンズ姿で、外に出る時はキャップを被っているためよく男の子に間違われることがあった。でももうあたしも中等部の二年生だ、少しは胸も膨らんできたし、髪も伸ばし始めたのに、そう胸の中で思いながら淳美はじとりと女心をわかっていない祐輔を睨んだ。祐輔はわけもわからず「なんだよ」とたじろいでいるだけであった。
「はぁ。まったく兄ちゃんっていっつもそうだよね。だから十七にもなって彼女の一人もいないんだよ」
「なんだよ突然。べ、別にいいだろ。お前に関係ねえよ」
「はいはいそうですね。このままずっと恋人なんてできなきゃいいんだ。このバカ兄」
 淳美はぷいっと顔を背けた。ふっと祐輔のさっきの言葉を思い出す。怜奈と一緒にいた美少女って誰だろう。淳美はクラスで一番の美人を頭に浮かべる。資産家の娘で、いつも人を見下したような態度を取っている啓子の顔が浮かぶ。淳美と怜奈は仲が良かったが、怜奈の親友である啓子のことを淳美は好きではなかった。
 そんな啓子を見て、鼻の下を伸ばしている祐輔に腹が立ち、淳美はそのまま店の奥へと入っていった。
「おい淳美どこ行くんだよ。暇なら店番交代してくれよー」
「あたしは宿題するの。兄ちゃんと違ってあたしはちゃーんと学校の宿題はやるんだからね」
 べーっと舌を出し、ドタドタと音を立てながら淳美は二階の自室へと入っていった。




 淳美が二階に上がるのを見送り、祐輔はやれやれとレジの椅子に腰を下ろした。
 ああは言ったけどあいつももう少し女らしい格好をすれば、きっと可愛くなるだろうな。祐輔はこの場に残っている淳美の匂いを嗅ぎ取った。シャンプーと太陽の香りが混じっている。自分のクラスの女子たちと同じような、女の子の匂いだ。
 淳美ももう中等部の二年だ。そろそろ彼氏の一人もできるかもしれない。そんなことになったら俺はどういう反応をするんだろうか。祐輔はぼんやりとそんなことを考えながら淳美の顔を思い浮かべる。結局のところ自分は極度のシスコンなんだよな、と自嘲した。母親が過労で他界してから、家事は淳美が代わりにしている。自分は妹に甘えてばかりだ。口を合わせれば喧嘩になるが、祐輔は淳美に感謝していた。
 祐輔はポケットから財布を取り出して、嬉しそうにお金を数えた。平日の放課後、祐輔は少しだけだがバイトをしていた。あと少しで淳美の誕生日だ。そのプレゼントを買うためのお金がもうすぐ貯まる。
 こんなの買うなら生活費の足しにしてよ、なんてことを言われそうだが、それでも祐輔に出来ることはこの程度のことしかなかった。
 そうして祐輔がぼんやりとしていると、ピロリーンという軽妙な音と共に自動ドアが開く音が聞こえてきた。客だ。シャキッとしなきゃ。祐輔が姿勢を正して入口のほうに目を向けると、そこには|誰もいなかった《・・・・・・・》。
「あれ、なんだ……?」
 入口には人はおらず、自動ドアだけが勝手に開き、勝手に閉まった。なんだろうか、ネコでも通り過ぎたのか。客じゃなかったことにがっくりし、祐輔は再び椅子に腰を下ろした。だが、その直後店に異変が起きた。
「ん?」
 パタパタパタっと音を立て、棚に置かれているDVDのケースが次々と倒れていく。自動ドアが開いて風でも吹いたのか? そう祐輔は思ったがどう考えてもそれはなさそうだった。どんどんと祐輔の元へ近づいていくようにケースは次々と倒れていき、まるで見えない何かが乱暴にケースを崩しているように見えた。目の前で起きている不可思議な現象に、祐輔は緩やかにジワジワと恐怖を感じ始めていた。
「な、なんだよこれ」
 祐輔思わず立ちあがったが、遅かった。祐輔の目の前の棚のケースも、すべて床に落ちた。そしてその直後、祐輔の腹部に鋭い痛みが走った。それは刺すような痛みで、突然のことにパニックになりながらも祐輔は自分の腹部を見た。脇腹のあたりが自分の血で真っ赤に染まり、じわじわと血のシミが広がっていく。
「うっ……がぁあ!」
 叫ぼうとしても、痛みが酷く息を吸うだけで精いっぱいだった。なんだ、一体何が起きたんだ。なぜいきなり自分の腹が出血しているんだ。
 祐輔は理解できず、そのまま膝を崩して床に伏せる。意味がわからないが誰か、助けを呼ばなくちゃいけない。救急車を……そう思い祐輔はレジ脇に置いてある電話を手に取った。内線で二階にいる淳美を呼ぼうとしたが、今度はその手に激痛が走る。手の甲が出血した。手がまるでレジのカウンターに磔にされているように動かなくなった。鉄のように堅いものが手の骨に当たっているのがわかる。刃物が手を突き破っているような感覚だった。
「ぐっうううううう……」
 情けないことに涙が出てくる。痛みで泣くのなんて初等部以来だ、なんて走馬灯じみた考えが頭をよぎる。何が起きているのかわからないが、恐らくまともなことじゃないだろう。もしかしたらラルヴァの襲撃かもしれない。祐輔の心に、どっと洪水のような恐怖心が押し寄せてきた。腹部の激痛は限界に達し、血が少なくなってきて現実感を帯びた死の感覚が全身を襲う。
 いやだ、死にたくない。死んでたまるか。
 必死に抗おうとする祐輔をあざ笑うかのように、見えない何かは乱暴に祐輔の身体を持ちあげる。そして祐輔の身体は宙を舞った。投げ出された祐輔の身体はケース置き場の棚に衝突し床に転がった。
 さらに追い打ちをかけるように背中に衝撃が走る。祐輔の肩から背中の中心部までが切り裂かれたかのように傷が開き、鮮血がほとばしった。
「―――ぐっうううあああ!」
 その後、まるで見えない敵は祐輔を見逃したように攻撃を止めた。チャンスだと、痛みを抑えながら必死に祐輔は這いずり、外に助けを求めようとした。しかし、祐輔は階段を上る音が聞こえてきたことに顔を青ざめさせた。
 自分を襲った見えない敵は、今、階段を上っているのだ。
 二階には淳美がいる。祐輔はその事実に気づき必死で立ち上がろうとした。だけど無理だった。足に力が入らず、自分の血で滑ってしまうだけだった。段々と血が傷口から流れ出て、視界が暗くなっていく。
 祐輔は自分の無力を呪いながら気を失った。




 下階からドタバタと音がし、また祐輔が商品を棚から落としたのだろうかと淳美は首を捻る。いつものことだと特に気を止めなかった。
「もう、兄ちゃんには早くちゃんと仕事出来るようになってほしいなあ」 
 ぼやきながら淳美は着替えを始める。一つ一つシャツのボタンを外し、シワにならないようにハンガーにかけた。続けてジーンズを脱ぎ、インナーも畳んでタンスに仕舞う。
 淳美は下着姿で自室に置いてある大きな鏡の前に立った。
 リボンのついた白いパンティに、未発達なその胸には同じく白いブラを着用している。友達に言われ、淳美もようやくブラに変えたのだ。自分にはまだ必要ないかもしれない、そう思っても淳美は他の子と同じように背伸びをしたかった。少しずつ、女の子らしいことをしていこうと淳美は思っていた。そうすればいずれ祐輔もさっきのような嫌味を言うこともなくなるだおる。
 淳美は自分の机の引き出しを開けた。
 そこには綺麗にラッピングされた箱が入っている。淳美はそれを手に取り、ぎゅうっと抱きしめた。
「明日。明日が待ち遠しいな……」
 淳美は思わず言葉にして呟いていた。
 明日は祐輔の誕生日だ。淳美と祐輔は誕生日も近いこともあって、親からはいつも一緒にプレゼントをもらっていた。生活費が苦しいせいか二人で一つのプレゼントだ。
 そのプレゼントを、いつも祐輔は淳美に譲っていた。そんな祐輔にお礼をしようと今年の誕生日は淳美から祐輔に渡そうと考えているようである。今日の午前中に淳美は前から祐輔が欲しがっていたアクセサリーを買ってきたのだ。このために一年間お小遣いを貯金していた。
 なるべくこのことは明日まで気付かれないようにしなきゃ、淳美はそのプレゼントを再び引き出しに戻した。そして着替えを続けようと後ろを振り返る。
 そこに見知らぬ男が立っていた。
 男は一体いつ、どこから現れたのかわからなかった。
 顔を白いマスクで覆い、男の背広には真っ赤な何かがべっとりとついている。それが血液だということを理解するのに数秒かかった。淳美はそのまま視線を男の手に移す。両手にはそれぞれ大きな斧と、肉切り包丁が握られている。
 淳美は叫んだ。絶叫した。言い知れぬ恐怖を覚え、目の前の変質者から逃げようと試みるがそれは徒労に終わった。男の横を通り過ぎ、扉から出ようとするが男は斧を投げ捨て、空いた左手で淳美の顔面を掴み思い切り持ちあげた。
「痛い! 痛い!」
 ギリギリと頭を締め付けられ、淳美の足は床から離れていく。淳美は暴れ、もがくが男の力は緩まなかった。一体何が起きているのか、淳美は理解できなかった。なぜ自分は見知らぬ男に襲われているのだろうか、考えても答えは出てこない。
 男はそのまま淳美をベッドの上に押し倒した。淳美はその衝撃で体がベッドに沈むような錯覚を覚える。淳美は喉が破けそうなほどに叫び声を上げるが、下の階にいるはずの祐輔はいつまで経っても助けに来ない。淳美は祐輔が自分と同じ状況になったのだろうことを悟る。
「兄ちゃん……」
 淳美は祐輔の顔を思い浮かべ、そう呟いた。それが淳美の最後の言葉になった。
 淳美を抑え込んだ男は間髪を入れずに、右手に握られている大きな肉切り包丁を淳美の腹の中心に突き刺した。ずぶり、という鈍い音が体を伝って渥美の頭に聞こえてきた。今まで感じたことの無いような鋭い痛みが皮膚を走り、肉と臓物を突き破っていく。刃先の長い包丁のせいで、刃は簡単に淳美の背中を貫通し、ベッドのマットレスに突き刺さる。そして男は勢いまかせに包丁の刃を引き抜いた。
 血が溢れだす。小柄な少女の肉体にこれほどまでの血液が収まっているとは思えないほどに、血は勢いを上げて噴き出してくる。ベッドのシーツは流れ出る血を吸い、白から鮮やかな赤へと変わる。あまりに非現実的なその光景はある種、幻想的であった。
 男はそれだけでは満足せず、包丁を逆手に持ち、何度も繰り返し淳美の肉体に包丁を突き刺していく。その勢いでベッドも崩壊する。マットレスは突き破られ、淳美の死体はシーツに沈んでいった。



※ ※ ※



 子供たちの間で怪談のように語り継がれる白マスクの怪人、殺人鬼ゴーストヘッド。それは十年前に学園で大量殺人を犯したKという元少年だ。
 現在は二十四歳。だが逮捕されてからわずか一年で拘束されていた精神病院の医師と看護師、それに警備員数名を殺害して逃走を図る。それ以来一切行方がわかっていなかった。
 Kの恐るべき点はシリアルキラー特有の異様なメンタリティだけではなく、彼の異能にこそあった。
 Kは学園に編入してからしばらくして異能を覚醒させた。異能名“|不可視《インビジブル》”。その名前の通り、彼が異能を発動させると、誰もKの存在を認識できなくなる。
 目に映らなくなるだけではなく、カメラなどの映像にもKの姿は映らなくなった。正確にはK本人が透明になり見えなくなるわけではなく、彼を見た人間が無意識にその存在を無視してしまうというものであった。
 アメリカから派遣され、双葉区で警察の協力をしている異能捜査官のテディは、支給された電子端末で今回の事件の容疑者であるKの資料を読みこんでいた。
 資料に映されているKの顔写真を見て、テディは眉をしかめる。それは逮捕直後の写真で、当時十四歳のものだ。Kの顔は可愛らしい顔立ちをしている。だが、その瞳は暗く、深い闇のようなおぞましさを感じていた。
 まるで心そのものが欠落してしまっているような、悪魔のような目をしていた。
 こんな目をする子供がこの世にいるのかと、テディは猛烈な不快感で胸が押しつぶされそうになってしまう。クソったれ、しっかりしろセオドア・グレアム。気をしっかり持て、深淵に飲みこまれるな。テディは自分にそう言い聞かせ、電子端末の電源を落とした。
「大丈夫ですかテディさん。もしかして酔いました?」
 運転席に座っている新米刑事の篠宮《しのみや》が気を使うように尋ねた。篠宮はテディと同年代のようで若く、知的な印象を受ける顔立ちで、縁の無いメガネをかけている。助手席のテディは「いえ、大丈夫ですよ」と返す。車には酔わないが、二日酔いはまだ続いていた。
 テディは捜査一課の課長である的場《まとば》と別れた後、篠宮と一緒に聞き込みを開始した。現場には加賀《かが》怜奈《れいな》が借りてきたレンタルDVDが置いてあった。それを借り出した時間は事件の少し前である。とりあえずそのレンタルショップの店員に怪しい人物はいなかったかどうかを確認するためにパトカーでそのレンタルショップへと二人で向かったのだった。
「ここですね。行きましょうテディさん」
 篠宮は深緑のジャンパーを羽織って、パトカーから降りた。続いてテディもレンタルショップ『TAKAYA』へと向かう。
「あれ?」
 篠宮がレンタルショップの自動ドアの前に立ってもドアが開かなかった。故障か、それとも営業していないのか。テディはドア越しに店の中を覗こうとするが、ドアにはベタベタとポスターばかりが貼られていてよく見えなかった。仕方なくテディは地面にしゃがみこみ、そこから店の中を見た。
 テディの視界に入ったのは、床に倒れている少年の姿だった。少年は体のあちこちを怪我しているようで、大量の血を流している。
「オーマイゴッド!」
 テディは叫ぶ。篠宮が「どうしたんですか?」と慌てていた。
「クソ! 開かないのか! 篠宮さん、中で人が倒れています。早くここを開けないと――」
 まさかこんな状況に出くわすとは思ってもいなかった。テディはガンガンと自動ドアを叩くがびくともせず、篠宮も必死に自動ドアを開こうとするが、取っ手もついておらず開けることはできなかった。
「テディさん、裏口に回りましょう。もしかしたら開いてるかもしれません!」
「いや、裏に回るには時間がかかります。倒れている子供の出血が酷い、時間は一刻を争います。篠宮さんは救急車と応援を呼んでください」
「そ、それでどうするんですか!?」
「こうするんですよ!」 
 テディはスーツの中から一丁の拳銃を取り出した。日本の警官とは違う半自動拳銃《セミオートハンドガン》だ。
「ま、待って下さいテディさん! 発砲許可は――」
「そんなもの待っていられない!」
 篠宮の制止を振り切り、テディはトリガーを引いた。轟音が響き、商店街にいた街の住人達は何事かと悲鳴を上げる。見事に自動ドアは粉々になり、テディは走って店内に侵入した。
「大丈夫ですか!?」
 テディは血を流して倒れている少年に呼びかけた。少年はこの店のエプロンを着用していて名札には鷹野祐輔と書いてある。どうやらこの店の息子のようだ。
「うう……」
 失血のせいで真っ青な顔になっているが、かろうじて少年――祐輔は生きているようであった。だが危ない状態には違いないだろう。
「う……上……妹……」
 祐輔は少しだけ意識を取り戻し、うわごとのように呟いた。その言葉を聞いただけでテディは理解した。上、二階に妹がいる。それを聞いて、テディは嫌な予感がした。
「篠宮さん、彼は任せました。ボクは上を見てきます」
 救急車に連絡を入れていた篠宮にそう言い残し、テディはカウンター奥の店内へ入り、階段を駆け上った。階段にはポツポツと、規則正しく血痕が落ちており、祐輔を襲った誰かが二階に登ったことを物語っていた。
「ああ畜生。お願いだ、間に合ってくれ……」
 テディは神にすがるように呟き、血痕を追って二階のある部屋の前にやってきた。扉の前には『あつみのへや。入る前には必ずノックをすること』と書かれている。間違いない、ここが祐輔の言っていた妹の部屋だ。
 犯人がまだ部屋にいるかもしれないと、テディは拳銃を構えながらドアノブに手をかける。部屋の鍵はかかっておらず簡単に開いた。
「……ああ、クソ。畜生。なんてことだ」
 テディは力なくその場に膝をついた。この世に神はいないのか。いるのは悪魔だけではないか、彼は目の前の惨状を目に焼き付けようと、サングラスを外してその悪夢のような光景に目を向けた。
 怜奈と啓子の時と同じように、部屋中が血で染まっていた。ベッドにはズタズタに引き裂かれた少女の死体があった。変わり果てた姿をしているが、それは淳美だった。腸を全て引きずり出したのか、ロープのような腸が部屋にとぐろを巻いて落ちている。
 テディは目を見開き、こと切れている淳美に触れて“ビジョン・クエスト”を始めた。淳美の死の直前の映像が流れ込んでくる。
 そこに映ったのは、やはりマスクの男――Kだった。Kはベッドに押し倒した淳美の腹部に包丁を突き刺した。それで淳美の映像は終わった。どうやら最初の一撃でショック死したようで、酷い苦痛を味合わなかったことが唯一の救いだろうとテディは思った。
「許さない。許さないぞゴーストヘッド……。お前はボクが、ボクたちが必ず追いつめてやる」
 テディは壁をガンっと殴り、叫びたくなるような胸の奥に渦巻く怒りを必死に抑え込んだ。だが地獄の一日はまだ始まったばかりであった。

 つづく





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