【雪だるまちゃん、来襲】


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 双葉学園に敵襲です。
 ラルヴァの名は――雪だるまちゃん!

 双葉大橋の袂で待機した初等部生徒・天上院佑斗(てんじょういん ゆうと)は、右耳につけた通信機のインカムに手を添えると、状況報告を行った。
「周りは雪だらけでぇーす。白くて寒いでぇーす。おなかへったでぇーす。おじさんのいう敵ってやつも見えませぇーん。……ねえ、まだ帰ったらだめなのかな、おじさん?」
「おじさんではない! チーフと呼びたまえチーフと!」
 敬意の欠片も感じられない通信にこたつで包まりながらチーフは憤慨した。
 ここは双葉島内にあるALICEラルヴァ監視ルーム。
 双葉大橋を渡って進入してくるラルヴァの迎撃が天上院佑斗に下された任務である。
「あのぉ、お言葉ですがチーフ。初等部ですよ。この任務をあんな小さな子だけにやらせちゃって大丈夫なんですか?」
 オペレーターの疑問ももっともである。
「ああ。敵は雪だるまだ。少年はパイロキネシストだ。雪と炎なら負ける道理はあるまい」
「それはそうですけれど、でも、さすがにひとりでというのはいかがなものかと」
 チーフはふんぞり返りながら「ドン!」と拳でこたつの卓上を叩いた。
「きみ、経験値だよ経験値。だれもがRPGをやるときは序盤で雑魚モンスターを倒すだろう? 雑魚を! それとも君はいきなりラスボスと戦うタイプかね? それはどんなバグゲーかね。我々には能力者育成という使命が課せられているのだよ!」
 勢いに気圧されオペレーターは頷いた。今日のオペレーターはどうやら新人らしい。
「……それは、あの雪だるまラルヴァは、スライムなんですか」
「そうだ。今回は彼にとってうってつけの狩場だといえよう。じゃんじゃん経験値を稼がせるがいい」
 みかんを剥きながら答えるチーフは、どう見てもこれからはじまる戦闘よりもみかんの白い筋を取ることのほうが気になっているようだ。このチーフにとって生徒の実地訓練を兼ねた防衛任務の監督役を引き受けるということは、日頃からよくある繰り返し行われるルーチンワーク同然の業務なのであろう。
 双葉大橋を渡ってきた雪だるまラルヴァは、人間大の雪だるまに手足をつけてヨタヨタと歩いてきた。通信が入る。
『チーフおじさん。雪だるまみたいなのが見えたよ。あいつを倒せば帰っていいのか?』
「その通りだ」
『セイバーギアはやっぱり使っちゃダメ?』
「当たり前だ。使ったら訓練にならんだろバカモン」
 説明しよう! セイバーギアとは――……話すと長くなるので知らないあなたはセイバーギアのリンク先から詳しいレクチャーを受けてほしい。では本編に戻る。
『ちぇっ、けちオヤジ!』
 そこでプツンと通信が切られるが。
「はっはっは! けちオヤジ結構! これは君の成長のためであり、双葉学園の戦士を育てられるならばこの私は喜んで憎まれ役を引き受ける覚悟だ。いかなる罵倒であっても真正面から受け止めよう。なぜならば私はこの双葉学園における諸君ら生徒の――」
「あの、チーフ。……もう通信切られてます」
「なんだと!?」
 チーフは、しょんぼりと肩を落とした。

     ☆ ☆ ☆

 天上院佑斗は、橋を渡ってくる雪だるまを観察する。
 今、双葉大橋は緊急封鎖されているため、この場所には佑斗と雪だるまラルヴァの二人しかいない。
「先手必勝だ!」
 佑斗は右腕を真っ直ぐに突き出して、精神を集中させながら手のひらを開き、その中に小さな火種を発生させる。かすかな炎は徐々に渦巻き、膨らみ、大きさを増していき、数秒後にはバレーボールほどの大きさをした火球にまで育った。
「雪合戦といっても、俺の雪玉は火の玉だ!」
 雪だるまラルヴァがビクッ! と後ずさる。佑斗は熱気だけで周囲の雪を溶かし、雪の中というアウェーな戦場をものともしない。
「いっけー! プロミネンスフレイムバズーカ!」
 その場で適当に思いついた必殺技名を叫んで火炎の球体を発射する。ファイヤーボールは一直線に雪だるまに向かい、ドォン! と音を立てて、
 直撃した。
「あ、あれ……? おれ、まさかのもうビクトリー?」
 雪だるまラルヴァは水蒸気をあげながら、フラフラとよろけてひざをつくと、ばったり雪の中に倒れ伏してしまった。
 佑斗は佑斗でまさか一撃で勝負が決まると思わずこちらも呆然としていたが、ハッと我に帰ると、慎重に雪だるまへと近づいていく。
『少年。敵の生死を確認するのだ』
「わかってるってば。ええと、もしもーし、死んでるかー? 死んでたら返事してくれー」
 うつ伏せになって倒れた雪だるまを覗き込むと、かすかな声が返ってきた。
「ふぁい……死んで、ます……」
「よし。死んでるな。おーい、チーフおじさん、じゃあおれもう帰ってセイバーギアしていいよな」
『馬鹿もーん! 死んでる敵が返事などするかー!!』
 怒声の煩さにインカムをはずして遠ざける佑斗は、困ったなという顔で考えあぐねる。もう倒したも同然なのだから一刻も早く帰りたいし、なによりもこのままズルズル長引くとアニメ・セイバーギアが始まってしまう。生放送で見られないことはセイバー好きを自認する佑斗としては耐えられないのだ。
 その時、グッドアイデアが閃いた。これは素敵な作戦だと思い、即実行に移す。
 佑斗は雪だるまラルヴァの耳あたりに口を寄せると、通信機で拾われないように小声で話し掛ける。
「なあお前、このままやられてくれないか? フリでいいからさ、フリで。やられたフリな」
「……ふぁい、わかりました……」
 物分りのいいラルヴァである。
 返事を得た佑斗は適当に手を伸ばし、巨大な炎の火柱を天高く生み出す。いかにも「雪だるまを炎の柱でやっつけました」風の演出であり、遠くから見れば多分フィニッシュシーンに見えたことだろう。実際は単に炎の柱を空に向けて作っただけに過ぎないのだが。
「おーい、チーフのおじさん。きっちりとラルヴァのやつをやっつけたぜ。オーバー」
『よくやったぞ少年! これで君も双葉戦士に一歩近づいたのだ! 私の震える心は今モーレツに感動し』
 プチンと通信を切ると、佑斗は足元にいる雪だるまを、さてどうしようかなと悩むように視線を落とす。すると、直接当たらなかったとはいえ炎の柱の放射熱を受けたせいか、雪だるまの一部が剥がれ落ちた。
「おい……おまえ、生きてるか……」
 さすがの佑斗も目の前で崩れられたら引くものがある。寒空の下で冷や汗が流れるが、よく見ると、崩れた雪だるまの下から肌色いものが見えた。雪が剥がれ落ちた箇所を中心にそのまま雪だるまの全身にヒビが走り、一気に崩壊が加速する。
「おいおいおい……」
 崩れ落ちた雪だるまの中から、同い年くらいの裸の女の子が現れた。
 鼻血を吹き上げて佑斗は気絶した。

     ☆ ☆ ☆

「……それで、その子はどうしたんだい……?」
 佑斗のライバルにして親友の辻宗司狼(つじ そうじろう)が話の続きを促すが、佑斗としては気がついたら保健室だったのでその後のことなどわかりようがない。
 説明もないまま部屋に返され、その後連絡もなく、さいわいアニメは保健室備え付けのテレビで見せてもらうことが出来たが、雪だるまラルヴァのその後がわからないまま今日を迎えた。
 その時、ツーツーツーとポケットの中に入っている通信機のインカムから呼び出し音が聞こえた。
 そういえば昨日のドタバタ騒ぎで返しそびれていたな、と思い出したようにインカムを耳につける。
『出たな。少年おはようだ』
「何だよチーフのおじさん。こんな朝早くから」
『昨日の雪だるまラルヴァについて調査報告がまとまったのでな。軽く顛末を伝えておこうと思ったのだよ』
 とは言うものの、どうもチーフの歯切れは悪い。
「短くしてくれよな」
『手短に結論からいえば、彼女は友好的なラルヴァであった』
 佑斗は一瞬意味がわからず、しばし考えて、やっとチーフに質問を返した。
「……それは、おれは昨日、友好的なラルヴァを倒しかけたってことか……」
『うむ、実に危ないところであった』
 佑斗は頭痛が痛くなってきた。
 このボケオヤジは、どうしてチーフを任されているかな……。少年は人生の理不尽を思い知る。人はこうして成長していくのか。
 その時、扉がガラガラと開けられて先生が朝のホームルームにやってきた。
「皆さんに今日はいいお知らせがあります。新しいお友達を紹介しますね。さ、入って頂戴」
 教室に入ってきた女生徒の姿に、佑斗はぽろっと通信機を落とす。
 床に落ちた通信機の向こう側から、『おい少年! 何があった!?』とチーフからの呼びかけがいつまでも続いた。



 ALICEラルヴァ監視ルーム。
 近頃の若者はまったく……とブツブツ文句を言いながらまたみかんの皮を剥き始める作業に戻るチーフ。
 白い筋まで取られてつるつるになったミカンがいくつもこたつの上に並べられている。
「チーフ、そういえば結局あの雪だるまちゃんは何だったんですか?」
「彼女は留学生だよ。友好的なラルヴァを学園で保護するプログラムの一環でな」
「保護ですか。それがなんだって敵の侵攻と誤認されちゃったんでしょうね」
 不思議そうに頬に指を当てるオペレーターに、チーフはみかんを剥きながら答えた。
「私が連絡の書類を見落としていた」
「まあ。そうだったんですか」
 数秒後、オペレーターはチーフの後頭部に湯飲みをぶつけた。


 おしまい




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