【召屋正行のささやかな日常はこうして壊れた そのに】


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召屋正行のささやかな日常はこうして壊れた そのに

 空はすっかり茜色。“蛍の光”が聞こえてきそうな空気の中、身の丈190センチ近い大男と、それに対して非常に小柄な少女が校門に向かって歩いていく。その姿はアンバランスであった。
 無駄に縦に伸びた大男は召屋正行、その男の胸辺りまでしかない小柄な少女は有葉千乃である。異論はあるかもしれないが、双方とも双葉学園高等部の二年生だ。このチグハグな、というか凸凹なふたり組みは、数学単位の取得という大きな目的のために協力して、難関にに挑もうとしている。……はずである。
 ゆっくりと、大きく足を動かしてズンズンと進む召屋に対して、有葉はせわしない小走りでそれに追いつこうとする。
「ちょっとまってくださいよー。歩く速度が早いですよー」
「あぁ、さっさとシャキシャキ歩けよ」
 傍から見れば、保護者とその子供といった風情だ。もちろん、ここが学校であることと、保護者らしき人物と子供が同じ学校の制服を着ているということで、周りにそういった勘違いを引起すのは辛うじて間逃れている。
「歩くの速すぎですっ!」
 クシャクシャと頭を掻きむしり、振り返りながら召屋は反論する。
「俺が速いんじゃなくて、お前が遅いんだ。それで、その資料に何って書かれてるんだ? 自分だけ読んでないで、ちょっと俺にも見せろよ」
 数枚ある資料を凝視しながら、有葉は悩む。
「うー……そうは言いますけどねえ、これはちょっと私にも難しいですぅ……」
 お前に難しいことなんて世の中に腐るほどあるだろうと思いつつ、召屋は怒鳴りつける。
「あぁぁっ、もう、面倒くせぇっ!! さっさと資料をこっちによこしやがれっ!」
 有葉の手から、書類の束を奪い去る。
 そして、奪い去った資料の一枚目を見て、呆然とする。
「おい、これはどういう冗談だ?」
 ゆるりと顔を有葉の方へ向ける。
「知りませんよー。私は受け取った資料を確認してるだけです! その内容に関しても私は知りません。そんなことは字元先生にでも聞いてくださいっ!!」
 顔を赤らませ、頬を膨らましながら真っ向否定する。
「そうじゃなくてな……この、ラルヴァのイラストは、どういう意味なのかなー? と思ってな」
 召屋の手の中でヒラヒラとはためく資料。そこには、目撃者による想像図と書かれていたが、それはどこからどう見ても小学生の落書きレベルのものでしかなかった。
 召屋が想像力を最大限に膨らまして理解したのは、この絵が、犬か猫のような四足歩行の生き物らしきものを表しているようだ、ということだけだ。いや、もしかすると、五足歩行かもしれない、尻尾か足か判別できないものが一本余計にあったからだ。さらに、頭から角のっぽいものや、背中から謎の線が数本出ているが、それは全く理解できなかった。
「こんなので探せってか、あの馬鹿教師……」
 それと同時に人を見下したような字元のあの笑顔が思い浮かぶ。職員室にカチコミかけるべきかどうか真剣に悩んでいる召屋の隙を見て、有葉はヒョイと飛び上がって資料を奪う。そして、まるで母親が子供を諭すような口調で召屋に告げる。
「いいですか、リーダーはお姉さんである、この私なんですよ。だから、状況の判断も作戦を立てるのも私なんですよ。もちろん、この資料を見てどう判断するかも私なんです。だから、あなたがどうこう言う権利はありませんっ!!」
 今日は厄日だと諦めつつ、現実問題に立ち向かう。もう、どうにでもなれ……。
「はいはい、分かりましたよ。それで、目撃場所ってのはどこなんだ? それほど遠くないなら、これから行ってみるのもいいかもしれないしな」
「ちょっと待ってくださね。ここが学校だから、こっちが、商店街でぇ……うーん……」
 地図を見ながら悩む有葉。それを上から覗き込む召屋。
「はあ……」
 髪の毛をかきむしりながら、召屋は、その地図が上下逆さまなのは指摘しないことにした。どうせ、下らない反論をされて面倒だと思ったからだ。そして、さりげなく、本人に気づかれないように目撃現場の場所をさらりと指摘する。
「その地図の示した場所だと、商店街の外れの神社だな。あの辺でラルヴァが出るなんて話は聞いたことないが、ものはついでだ。行ってみるとしよう。――――その前にちょっと下準備するから寄り道するぞ」
「下準備……ですか?」
「念には念をってね。さすがに徒手空拳でバケモンと対峙するってワケにはいかないからな」
「でもメッシーと私の能力があれば大丈夫じゃないですか?」
「メ、メッシーぃ? 色々と嫌な響きがるがまあいい。お前だって必ず従属させられるワケじゃないだろうし、俺も必ずしも期待したものが召喚できるってわけじゃないからな。それと、そのお前の頭にとまってるクワガタはさっさと開放しておけよ」
「なんでですか? クワ吉はカッコイイじゃないですか!! 強そうですよ! きっと役に立ちますよ、ほら」
 クワ吉をぶーんと飛ばす有葉。
「なんでもいいから、さっさと開放しとけ」
「ぶーっ!!」
 頬をパンパンに膨らまして、抗議する有葉。あまりの可愛らしさに召屋はそれに抗うのに罪悪感を感じつつも、有葉の回りを飛びまわっていたオオクワガタをはしっと捕まえると、明後日の方向へ放り投げた。
「そおぃっ!! はいはい、終了! さあ、こっちだ」
 そう言って、召屋は男子寮のある方向をビシリと指差した。


「いいか、お前はここで待ってろ。いいな、約束だ」
 そう言って男子寮の玄関に入る召屋の後ろに有葉も続く。
「だからっ、ここは女子禁制なんだって!!」
「大丈夫ですよ。私のことなら心配しないで下さい!」
「お前が心配なんじゃなくて、俺自身の立場が心配なんだ……よ!?」
 召屋は、その言葉を口にした途中から、有葉なら管理人からのお咎めもなく大丈夫かもしれないと思い始めていた。
「まあ、どうみても小学生のコイツなら、誰も文句は言わないだろう」
「おーおー、召屋君お帰り。おや、そっちの子はお友達かな? まあ、あまり遅くならないように返すんだよ」
 実際、管理人もスルーだったりするから、現実というのは恐ろしいものだ。
 召屋は自分の部屋をポケットから出した鍵で開けると、外で待っていろと有葉にいい、クローゼットへと向かう。
「確か、ここにアイツから貰ったヤツがあったような……」
 全く整理されて無いガラクタのような山を漁る召屋。
「整理整頓は大事ですよ!」
 突然、後ろから声を掛けられ、驚く召屋。
「ちょっ、外にいろって言ったろ」
「私はメッシーの保護者ですからね。ちゃんと付いていってあげる必要があるんですー」
 そう言って胸を張る有葉だが、張るだけの胸はそこには存在しなかった。
「おっ!? これこれ。これだよ」
 ガラクタの山にしか見えない中から、召屋は金属の筒のようなものを引っ張りあげる。
「なんですかそれ?」
 不思議そうにその物体を見つめる有葉。
「コイツはな、知り合いの魔術付与師《エンチャンター》が特殊な能力を与えたステンレス製の警棒だ。こいつさえあれば、そこそこのラルヴァとなら勝負できる。まあ、そこそこってのは雑魚程度ってことだけどな」
「ふーん、そんなの使うより、春ちゃん呼んだ方が早いような気がするなあ」
「はるちゃん?」
 その疑問に、自信満々に答える有葉。
「春ちゃんは強いんですよーっ! こう、変身するとがおーってなるんですっ」
 先ほど見つけ出した警棒を後ろのポケットに収納しつつ、面倒くさそうに有葉に質問する。
「誰だよはるちゃんって?」
 そう聞かれた有葉は、まるで自分のことのように元気良く答えるのだった。
「春ちゃんは私の同級生ですよ。名前は“春部里衣《はるべりい》”。もう、ムチムチでぷりぷりなんですよ。しかも、な、なんとっ、ある神様を自分に憑依させることで、その能力を使えるようになるんですよー。跳んだり跳ねたり、引っかいたり、とにかく凄いんですよー、強いですよー。しかも、しかもですねぇ、変身すると、猫耳になるんですよ!? つまり、強くて、カワイイくて、カッコウイイんです、ただ、春ちゃんはでも今は水泳の大会があっていないんですけどね……」
 一気呵成に捲くし立てつつも、最後だけはか細くなる。やはり、自分の保護者がいないことが不安なのだろう。
「分かったよ。はいはい、そうかい。―――ところで、その、最初に言ってたがおーってのは何だ?」
「春ちゃんは変身すると猫さんになるんですよ」
「あ、あそう…」
(猫なら、がおーじゃなくて、にゃーじゃねえのかな?)などと思いつつ、必要なものを手に入れた召屋は自分の部屋を出て行くことにする。今の季節にはちょっと暑いブレザーを部屋に放り投げ、ネクタイを緩め両手で頬を叩く。
「さて、その地図にマークされている場所に行ってみるとしますか!」
 これから自分は赴くであろう、どうでもいい未来に、とりあえず気合いを入れてみることにする召屋だった。


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