【超人Z】


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 (これまでのあらすじ)

 鬼怒川《きぬがわ》絶人《ぜっと》は改造人間ではない。
 栃木県出身。
 双葉学園高等部一年G組所属。
 空手二段。
 好きな食べ物は餃子としもつかれ。
 座右の銘は質実剛健。
 蟹座のA型。
 と言った具合にごく普通の少年だが、絶人には人には言えない秘密がある。
 普段は真面目な一生徒だが、しかしてその実態は人知れず悪と戦うスーパーヒーロー(自称)『超人Z』なのだった!


 ※ここでテーマソング


最終話『ブラックインセクターGとの死闘』



 平穏な学園の庭に、人々の命を脅かす怪物《ラルヴァ》が出現した。
 この海に囲まれて厳重な警備が施されている人工島の一体どこから入り込んだのかわからない。だがただ一つ言えることは現れたそのラルヴァは言葉も通じない人間の敵であることは明白であった。
 一つ目の鬼の姿をしたラルヴァは巨大な体をのっしのっしと動かして、逃げ惑う生徒たちを追っていく。手にしている巨大な棍棒を振り回しては校舎を破壊していた。
「わー! ラルヴァだー!」
「誰か異能者を呼べー!」
 生徒たちが悲鳴を上げ、助けを求めていた。初等部の子供たちも大勢いて、ラルヴァ慣れしていないためか怯えて逃げることすらできずにいた。
 ラルヴァたちは無力な生徒たちを狙うかのようにその一つ目でいたいけな少女に標的を定める。そして一切の容赦もなく、ラルヴァは棍棒を振り下ろした。

「そこまでだ、悪党!」

 しかしその時、天を裂くような雄々しい声が轟き、ラルヴァはびくっと動きを止める。
 校舎の屋上に一つの人影。
 太陽を背にしているせいで逆光が後光のように彼を輝かせていた。
 その人影は「とうっ!」と校舎から跳躍し、ラルヴァが暴れし中庭へと向かい飛んでいった。周囲にいた生徒たちは彼を見て驚きの声を上げる。
「あれはなんだ!」
「鳥か!」
「飛行機か!」
「いいや! あれは……なんだ鬼怒川か」
 みなの声援を全身に受けて鬼怒川絶人は地面に着地した。
 その顔は根拠のない自信と鬱陶しい正義感に満ち溢れ、劇画チックな堀の深い濃い顔をしているが、短く刈り上げられた毬栗頭がが爽やかだった。太い眉毛がピクピクと動いている。
「悪の怪物め。この学園にこの俺、鬼怒川絶人がいる限り好きにはさせないぞ!」
 ビシッと絶人は指ぬきグローブを着けている手でラルヴァを指差す。
 決まった。最高に決まっている。
 ラルヴァは絶人に恐れ慄いているのか彼の方に目さえ向けない。
「ふん。この俺のオーラに気圧されているのか。だがみんなに手を出した奴を許しはしない。今更謝っても許さないのだ」
 そう言って絶人は右手首に巻いているごついブレスレットを掲げ、
「超絶変身《ゼットアップ》!」
 と叫び声を上げた。
 そして掲げた右手を水平に右へ振った後、そのままジグザクと腕を振っていき『Z』の文字を宙に描く。
 するとブレスレットは虹色輝き、光は絶人の全身を包み込んでいった。
『説明しよう! 鬼怒川絶人がブレスレットにコマンド入力すると、天才超科学者伊枯田《いかれた》博士が開発した超特殊スーツが絶人の身体に瞬時に装着され、彼はスーパーヒーロー『超人Z』へと変身するのだ!』
 というナレーションがブレスレットから聞こえてくるが誰も聞いていない。
 だがナレーションの通り、彼の全身は変身スーツに覆われている。変身スーツを纏った絶人の姿を見て、その場にいた誰もが言葉を失った。
 全身を包み込んだ銀色のタイツは、絶人の筋肉を浮かび上がらせるほどにぴっちりと肌に張り付いていて、そのせいで股間のあたりが相当マズイことになっているがそんなことを気にしてはいけない。
 胸には『Z』のマークと、戦国武将の兜のような三日月型の角がヘルメットから伸びていた。その姿はどう見ても変質者でしかない。
「超人Z、参上!」
 びしっとポーズを決め、絶人の変身はようやく完了した。
「さあ行くぞラルヴァ。この超人Zが相手だ! いくぞフランダー!」
 絶人は指笛を鳴らすと、絶人の相棒である犬のフランダー(チワワ。生後一ヶ月。メス)が駆けつけてくる。フランダーは頼もしい絶人の味方だ。家で一人寂しい時とかに癒してくれるのだ。
「覚悟しろ、一撃で決めてやる。必殺――」
「ガナリオン・クラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッシュ!!」
 長々と必殺ポージングを絶人が取っていると、赤き流星が空から降り注ぎラルヴァに向かって高速で落下していった。
「ぐわああああああああああ!」
 赤い光は一瞬にして一つ目鬼のラルヴァを倒して消滅させる。その衝撃波は凄まじく、地面が隆起し絶人も爆風で三回転半もして地面を転がっていき、校舎の壁に激突してしまう。
「な、なんだ?」
 舞い上がった土煙が晴れると、そこには赤いスーツを身に纏った一人の男が立っていた。
「やったー! ありがとうガナリオーン!」
「かっこいいガナリオーン!」
「さすがガナのお兄ちゃん!」
 子供たちは赤い彼に感謝をして抱きついている。絶人は虚しく立ちつくしかない。
「ふふ。戦わずして勝利を収めてしまった。さすが俺。運すらもこの俺に味方しているようだ。さあ帰るぞフランダー」
「キャン」
 帰るぞと言いながらも今からは午後の授業の時間なので、絶人はフランダーを一匹で家に行かせた後、普通に教室へ向かう。
「せんせー。鬼怒川くんが変な格好してますー」
「ほっとけ。いつものことだ」
 鬼怒川はタイツスースのまま授業を受けていた。セクハラレベルの股間のもっこりを気にもかけず勤勉にノートを取っている。
 絶人は変身すると半日は元に戻れないのだった。




「まったく。この俺の正義活動を理解しない奴が多すぎる」
 午後の授業も無事終わり、家へと帰宅(当然タイツのまま)した絶人は不満の言葉を漏らしながら自室で読書に励んでいた。
「いや、見返りを求めようだなんておこがましい話だ。ヒーローとは誰にも理解されずとも人知れず戦い、正義を貫くのだ」
 絶人は家の自室で正座をしながらバイブルであるヒーロー漫画を読みふける。
 西に悪党がいれば行って討ち滅ぼし。
 南に助けを呼ぶ声があれば、行って助けてやる。
 愛と正義と希望の名の下に地獄に挑む。
 悪を恐れぬ不屈の闘志。
 それが鬼怒川絶人の生き方だ。
 厳格な父に育てられた絶人は、物心ついたころから悪を許すなと教えられてきた。だから正義を執行するために知り合いの超過額異能者、伊枯田博士に頼みこみ、ヒーロースーツの制作を頼んだ。
 超人Zの特殊スーツは常人の三十倍の力を引き出し、特殊繊維の布地は銃弾を弾き、熱にも寒さにも強い。パジャマにも最適でぐっすりと眠ることができ、なめらかな質感が肌にも優しくとっても素晴らしい着心地だ。月々五千円の五年間ローンで絶人はこのスーツを博士に作ってもらった。
「いいやスーツに頼っているようではダメだ。自己の鍛錬を怠らぬことこそ、正義を行うために必要なことなのだ」
 すっと絶人は立ち上がり、狭い室内で筋トレを始める。そして空手の自主練にも精を出した。しゅびっ! しゅびっ! と拳が空を裂く音を響かせ、顔から玉のような汗が飛び、宙を舞っていく。
 部屋には大きな鏡がかけられており、絶人は己の美しい肉体と空手の型を見て悦に入っていた。正義のために努力する男は美しい! と本気で思っているようだ。
 しかしあまりに鍛え過ぎているせいか、絶人はわずかな気配にも敏感であった。
 そのせいで察知したくもない気配まで感じ取ってしまう。
 カサッ。
「はっ!?」
 カサカサカサカサカサカサカサカサカサ。
「うぎゃああああああああああああああああああああああああああああああ!」
 しゅばっと絶人は狭い室内の中跳躍し、開店しながら壁際に着地する。その顔には怯えと恐怖の色が浮かんでいた。
(この気配は……)
 間違いない、“奴”だ。
 絶人がこの世でもっとも恐れる存在。その気配を絶人は自室の中に感じていた。
(なんてことだ。奴がここにいるのか)
 濁音だらけの奴の名を呼ぶことすらおぞましい。
 だから絶人は奴のことを『G』と呼ぶことにしている。そうすることによってわずかに心の均衡を保とうというのだ。
 カサカサカサ、という足音と共にGは部屋の隅から顔を出した。黒光りしている体と、人間よりも多い足の数、頭から伸びる二本の触覚、そして素早い動き。
 どれをとっても地球の生物とは思えないほどに見た人間に不快感を抱かせる。絶人はなぜかわからないがこの生物が子供の頃から苦手であった。
 そしてGは退路を阻むように部屋の扉まで這っていく。これでは逃げることすらできない。
「ぐっ! とうとう姿を現したな! この俺に挑むというのだな、いいだろう。かかってこい!」
 退路が塞がれようが超人Zである自分が逃げるわけがない。
 いい機会だ。この場所で完全に仕留めてやる。
 絶人はまず傍に置いてあった漫画雑誌を手に取った。先週号だからどうせ捨てる予定だったから構わないだろう。Gにはできるだけ近づきたくはない。だから絶人は雑誌を投げつけ、その角で小柄なGを潰してやろうと考えた。
「食らえ、必殺『雑誌ブーメラン!』」
 全身全霊を持って絶人は雑誌を投げつけた。凄まじい勢いで雑誌は滑空し、回転しながらGの所へと飛んでいく。
 カサカサカサ。
 だがGはまるで絶人の動きを察知したかのように素早く上に這っていき、雑誌攻撃を避ける。常人の三十倍の力で投げられた雑誌はそのまま扉へとぶつかってしまい、扉を破壊して廊下側へと消えていった。
「扉を壊してしまった! 父上に怒られる!」
 しかしショックを受けている場合ではない。Gはカサコソとそのまま壁を這って移動し、絶人へと近づいてくる。
「くっ、こっち来るんじゃない! 必殺『箪笥シールド』!」
 絶人は部屋に置いてある箪笥を持ち上げてGへとまたも投げつけた。箪笥は壁にぶつかると同時に爆散し、中に入っていた下着やら衣服やらが飛散する。
「やったか!」
 飛び散る壁と箪笥の破片の奥に、黒い物体が見えた。
 Gはまるで絶人を嘲笑うかのように落ちてくる破片をかい潜り、今度は地面を這って進んできた。
「ぐううううおおおおおおおおお! 必殺『地盤崩し』!」
 慌てた絶人は咄嗟に床を殴りつけた。絶人の拳は畳を貫通し、その衝撃で床は完全に瓦解してしまい絶人は一階へと落ちていく。
 落下していく中、絶人は見た。
 Gが恐ろしい翼を広げ、自由に空を飛んでいるその姿を。
 そして二階の自室から真下の一階キッチンに落ちた絶人の顔目がけてGは真っ直ぐ飛翔してくる。咄嗟に絶人はパンチを繰り出したがGには当たらない。やがてGはぴとっと絶人の顔面に張り付いた。
「…………」
 時が凍った気がした。
 もぞもぞと絶人の顔面をGが這いまわる。六本脚の細くて堅い感触が肌に当たり、絶人の視界にあの触覚が入ってくる。
 絶人の中で何かがプッツンと切れた。
「…………うぎゃあああああああああああああああああああああああああ!」
 恐怖と不快感が限界を超えて、絶人は我を失い見境なくパンチとキックを繰り出した。そのせいで家のあちこちには穴が空き、大黒柱は折れ、床は崩れていく。家にある総べての物が形を失っていった。
「Zパーンチ! Zキーーーーーーーーーーック!」
 スーツの持つ能力は確かなため、凄まじい勢いで家が崩れていく。だが未だにGには一撃も加えられていない。
「滅びよ悪! くたばれG! 俺はZ! 超人Zだああああああああああ!」
 絶人は最後の力を振り絞り、禁断の超必殺技『超絶竜巻台風ハリケーン』を使うことを決心した。体をまるでコマのように回転させ、激しい遠心力によって生み出されるエネルギーによって半径十メートルの物体を破壊し尽すのだ。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
 うざったい絶人の叫びと共に、こうして絶人とGの死闘は幕を閉じることになった。



     ※ ※ ※


 絶人の父親、鬼怒川|打舞琉《ダブル》は空手道場の仕事を終えて、愛すべき我が家へと帰ってきた。
 だが、そこにはあるべきはずの家が無い。
 あるのは瓦礫の山と、全身タイツ姿で途方に暮れて立ち尽くしている最愛の息子の絶人だけであった。
「……絶人。何があった」
「げっ! 父上! いや、あのGがですね」
 しどろもどろと目を泳がせながらそう言う絶人の足元の瓦礫から、ガサガサとゴキブリが這い出てくる。
 打舞琉はそれを見てすべてを察した。
「貴様、たかがゴキブリ程度を殺すために家を壊したのか!」
「ちょ、ちょっと待ってください父上!」
「言い訳無用! 変身、ダ・ブール!」
 打舞琉の身体を甲冑のようなアーマーが包んでいく。打舞琉は超合金の拳骨で絶人を殴り飛ばしたのであった。


 おわり



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