【スカイラインピジョン01】


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    プロローグ

「えらいもんに遭っちまった」
 岡持ちを右手に提げ、拍手敬は一目散に走る。
 近所だからといってスクーターを使わなかったのが運のツキだった。道の途中で危険なラルヴァに襲われたのである。
 最近の双葉島は物騒だ。出刃包丁を持った「口裂け女」が出没し、人間を無差別に襲っているのである。出前を終えて人気の無い裏通りを歩いていたら、遭遇してしまった。
「どこ行ったの、あのおっぱい狂い!」
 ラルヴァにまでおっぱい呼ばわりとは。
 無理も無い。ワタシキレイ? という問いに「胸が貧相だな」と答えてしまったのだから。そりゃあ電柱の陰から大型マスクをかけた女性がぬっと出てきてそんなことを言ってきたら、単なる変な人だと適当にあしらってしまう。
 しかし、事態はとても笑えるようなものではない。
「生きて帰れっかなぁ?」
 どうにかして物陰に潜み、苦労人の勤労学生は呟いた。
 拍手敬は戦うことができない。それは彼が戦闘向きの異能者ではないからである。
 しかも今隠れている場所が、運の悪いことに袋小路である。女は拍手が近辺にいるのを確信しており、なかなか離れていかない。もし顔を出したらドスンと突っ込まれ、あっという間も無く刺殺だ。
 相手は血走った目で、じりじり近寄ってくる。マズい。
 彼は路駐の陰に隠れているので、このまま近づかれたら間違いなく見つかるだろう。唐突に訪れた死神の足音に、拍手は震える。このまま死んでしまうのか。
 自分が死んだらどうなってしまうのだろう。所属する二年C組には衝撃が走り、勤務している中華料理店は大騒ぎになる。
 あの外道巫女は今も腹を空かせ、ちゃっかりテーブルに座っているのだろうか。
 俺の死を知って、何を思うんだろうか。
「死んでたまるか!」
 あの憎たらしい笑顔を思ったとたん、拍手の気持ちは強くなる。空っぽの岡持ちを握り締める。こんなところでくたばるわけにはいかないのだ。
「どぉりゃあぁあああ―――――――――――ッ!」
 車の陰から飛び出た。腹の底から叫び、岡持ちを本気で投げつける。飛び道具でひるませた隙に逃亡するという寸法だ。
 だが、口裂け女は見事なハイキックで岡持ちを蹴っ飛ばした。岡持ちはあさっての方向へと飛んでいき、見えなくなってからガキィンと音が聞えてくる。渾身の一投は通用しなかった。
「オワタ」
 これで手持ちの武器はなくなってしまった。怖がらずに、岡持ちで殴りかかればよかったのである。
 勝利を目前にし、口裂け女は接近する。前のめりになって倒れてしまいそうな前傾姿勢で、片足を引きずりながらやってきた。それが出刃包丁を振り上げた瞬間、熊のような猛烈な早さで突っ込んできたものだから、さすがの拍手も恐怖する。
(ちくしょう!)
 半ばやけっぱちになり、素手で迎え撃とうとしたそのときだった。
 拍手は突然、真上へと引っ張り挙げられた。
 動揺する間もない。逃げられて悔しそうに叫ぶ口裂け女を眼下に、どんどん彼は浮き上がっていく。やがて口裂け女が小さな点になって見えなくなり、町中を張り巡らす細い道筋が浮き上がる。まるで俯瞰図を眺めているようだ。
 上昇はなおも止まらない。水平線や富士山まで見えてきた。どうしてかはわからない。
 もう口裂け女どころではなかった。怖くなって、「助けてくれーッ!」と絶叫する。
「落ち着いてよ! 君は私と飛んでるだけだから!」
「へ?」
 後ろから女の子の声。彼は目を丸くして振り向いた。
 黒髪で、前髪を真ん中に分けている。彼はその子に抱えられて空に浮かんでいたのだ。
 そしてもっと不思議なものを発見する。彼女の背中から生える、赤い蛍光色に発光する棒状のもの。それが「翼」であると拍手はすぐに理解した。この機材の力で、自分たちは浮遊していることも。
「博士、聞えますか?」
『おう聞えるぞ。どうだったか?』
「救出できました! 無事です!」
『そうか、よかった! ったく、近頃ホント物騒だ』
 無線越しに会話をしているようである。「博士」という言葉からして、この機械の発明者なのだろう。
 それから口裂け女がいる辺りから離れ、人の多い区立公園に着陸する。口裂け女、飛行体験。拍手は今も、自分のざっと体感したことが信じられず、芝生に座り込んでぼうっとしていた。
 ふっと苦笑しつつ、口を開く。
「空飛ぶ異能者・・・・・・聞いたことねえな」
「島の空を守るのは、魔女だけではありません」
 赤い飛行ユニットを装着した黒髪の子は、大きく胸を張って拍手に言った。
「異能者航空部隊の一つ『スカイラインピジョン』! 島の安全を守るため、今日も鳥になります!」


    スカイラインピジョン01


 六時間目の、英語の時間のことである。
 しょぼくれた顔をして立っている男子生徒が、頭をテキストではたかれた。
「中田、またあんた赤点じゃないの!」
 烈火のごとく怒られ、クラスメートの前で無様な姿をさらしていた。
 だが彼にとって、教師の怒声より教室に圧しかかっているこの静寂のほうが辛い。
 いっそのこと笑ってくれと、そう喚き散らしたくてたまらなかった。教室のみんなに感情を爆発させたかった。そうでもしないと、彼の心は砕け散ってしまいそうであったから。
「来週の追試には必ず来ること。それにあんた、小テストの追試も三十枚ぐらい溜まってるじゃない」
 こらえきれず、男子生徒の誰かがプッと吹き出した。
「少しはやることやりなさい! わかった?」
「わかりました」
 はっきりしない口調で返事をした。英語教師は大きなため息を見せた後、白のチョークを手に取りようやく授業へと入る。この生徒のせいで二十分遅れのスタートだ。
 彼は着席すると、すぐさま真横を向いてしまう。彼の席は遠くに水平線を望むことのできる、明るくてまぶしい窓際だった。
 穏やかな秋の微風が、どうしようもなく疲弊しきった心身に優しい。彼はそう思う。
 うっすらと青い大空を突っ切っていく、航空機を見つめながら。


 中田青空は高等部二年生のおちこぼれである。
 学業の成績はまるで良くない。しかしそれよりも、異能者としてまるで役に立たない・戦力にならないことのほうが、彼にとてつもない劣等感を抱かせていた。
 青空はれっきとした異能者であるが、未だに何の異能者であるかは判明していなかった。魂源力は存在するらしいのだが、自分の異能が何であるのかわからなければ使いようがない。そのため全く戦力になれない。
 その代わり、青空は人並み外れた「反射神経」を持っていた。それは異能とは別である、天性の才能である。敵の不意打ちと言ったものに対して素早く反応することができた。
 だが如月千鶴のように魔術師として飛びぬけるような強さもなければ、あるいは舞華風鈴のように応用の利くような力であるわけでもない。青空は最弱の生徒であった。
 それでいて学業や部活動など、何か別のことで頑張っているかといえばそうでもない。むしろ勉強に真面目に取り組まなくなってからは、常にクラス最下位の成績に甘んじていた。毎回テストの解答用紙に名前だけ書いて白紙提出しているのだから、当たり前だ。
 英語教師が、長かった授業の終わりを告げた。終始上の空であった青空は、この授業で何を習ったのかまったく覚えていない。と、毎日こんな調子なのである。
 クラス委員が全員に起立を促す。
「これで授業を終わりまーす、礼!」
「ありがとうございましたー」
 生徒たちは椅子を引いて着席する。気の早い男子生徒はすでに帰宅準備を終えており、帰りのホームルームが始まるのをじっと待っていた。
「スィー・ユー、おつかれさま。よく復習しといてね。特に、なーかーたー!」
 二年B組の英語を担当する教諭・エヴェリン野本は、大げさに声を上げる。
「やることやれば力は付くんだからね? きちんとやってくるんだよ?」
「はい・・・・・・」
 愛想笑いの一つ見せない青空に、野本はまたも深いため息をつく。授業で使った真四角のカセットデッキを片手に、教室を後にした。
「ああ、やっと終わった」
 どの教科の教諭にも同じようなことを言われる。その度に青空はうんざりした気持ちになり、心の中で両耳を塞いでいた。もう放っておいてほしい。どうせ自分はおちこぼれなのだから。
 そのとき背後から、とある女の子の笑い声が聞えてきた。恐らく舞華風鈴と話しているのだろう。その声の主のことを、青空はよく知っていた。
「いつも元気だなぁ」
 片肘を着き、授業中に配られたわら半紙のプリントを広げる。先ほど返却された課題テストの、学年順位表。上位五十名の氏名が掲載されており、青空が最後にこの華々しいランキングに名前を載せたのは去年の夏であった。
 四位、権藤つばめ。
 後ろを振り向く。前髪を真ん中で分けた黒髪の子が、思った通り友達と談笑している。
 クラスでは明るい性格の秀才としてイメージが通っている。普段物静かで生真面目な風鈴と比較して、人懐っこく接しやすいタイプとして男子から好感度を稼いでいるようだ。その上頭がいいというのだから非の打ち所が無い。ざわつく教室のなかで声がよく通り、青空が離れた位置にいても、風鈴と英語の教え合いをしている様子がよくわかった。
 それに比べて自分は何だろう。たちまち青空は自己嫌悪に陥ってしまう。
 そんな彼とつばめは、意外と接点が多い。昨年も同じクラスだった。彼が成績を落として情けない顔をするようになってから、彼女はどうしてかしきりに気にかけてくれる。
 席替えで接近するようなことがあれば、つばめは積極的に話しかけてきたものだった。
(青空くん、一緒にお昼食べない?)
(勉強ならいつでも力になるぞ!)
(青空って、なんかカッコいい名前だよね)
 色々な記憶を呼び起こすたび、ちょっとした酩酊の気分に浸ることができた。女の子に気を遣われて嬉しくないわけがないのである。
 でも今日のような無様なところを見られては、つばめもひどく幻滅したことだろう。英語の授業のことを思い出すと、情けなさのあまり泣きたくなってきた。
 いつまでもこんな学校にいたくない。教室を出たい。窓辺の席にいる青空は、空を眺める。ほのかに黄色く透き通る午後の空を、二羽の鳩が横切っていった。
 あの鳥のように、早く自由になりたい。
 彼の心は灰色雲に覆われて、希望の日差しも見込めない暗がりに包まれていた。


 中田青空は高等部から双葉学園に編入してきた。
 それは彼が異能者だとわかったからである。両親の言いなりになるまま双葉学園に入ることになり、今やこの異世界で寮暮らしだ。
「何で嫌だって言わなかったんだろう・・・・・・」
 自分の進路に関して興味も希望も無かったため、なんら疑問を持たずに受諾してしまった。その結果が、この拷問のような島流し。
「異能」というわけのわからない概念について学ばされ。
「ラルヴァ」という未知の生物と無理やり戦わされ。
 彼にとって双葉学園編入は、人生における大失敗と言ってもオーバーではない。
 自分の責任であることは十分承知しているものの、青空は満面の笑みで編入を薦めた両親をひどく憎んでいた。ある理由で彼らを強く憎んでいた。
「センパイ!」
 そそくさと正門を出ようとしたときである。今、最も会いたくない女の子の声を聞いてしまった。
「また帰宅部ですか。どうして部活に来ないんですか」
「ごめん、ひかりちゃん。具合悪いんだ」
「そう言って合宿も来なかったし。しっかりしてください!」
 低い身長、小学生と聞き間違えそうな甲高いソプラノ、ボリュームあるブラウスのふくらみ。
 高等部一年生の河原ひかりは両手を腰に当てて、青空をじっと見据えている。
 それから大げさに口を開けて息をつき、大げさにだらりと両腕を垂らした。
「ひかり悲しいです。センパイの勇姿に見とれて弓道部に入ったのに、それが今や幽霊部員のヒキコモリなんて」
「そんなこと言われても・・・・・・」
「いつまで惰眠むさぼってんですか。みんなセンパイのこと待ってるんですよ?」
「色々と辛いんだ。もうちょっと待ってて」
「ウツは甘えです。単なる怠惰です。つべこべ言ってないで今からでも弓を引きましょ・・・・・・あ、センパイ! どこ行くんですかぁ!」
 青空はそれ以上耳を貸さず、繁華街に向けて歩き出した。
 部活動など勝手に退部扱いにしてほしいものだが、それはこの口うるさいちびっ子後輩が許してくれないことだろう。
「いい加減にしないと寮に押しかけますよ! 聞いてるんですかセンパイ!」
 どうにかしてひかりを振り切った後、青空は一人寂しく街を歩く。
 空気もぐっと澄み渡り、たんすからマフラーを出したくなるぐらい肌寒い季節になっていた。この双葉島にも銀杏のつぶれた匂いが漂っている。
 ふとブティックのショーウィンドウで立ち止まる。青空が見つめているのは、きっと背の高くて茶髪の男性が着るとよく似合うことだろう、黒皮のジャケット・・・・・・ではない。
 鏡に映りこんだ自分自身であった。
 冴えない容姿、映えない異能。第一印象で完敗しているタイプの男子生徒だ。そして駄目な奴の宿命か、日ごろの訓練や学業の成績は散々たるもの。
 すっかりそんな学園生活が嫌になっていた。何かと異能がもてはやされる環境だ。最初に異能テストを受けて己の実態を知ったときなど、絶望感しか抱かない。
 異能者として無能で、何が双葉学園生か。日ごろ頭の中を占有しているのは、いつも「落第」「留年」「自主退学」の文字群である。
「とっとと辞めてぇ・・・・・・」
 ラルヴァなんてこの先一生倒せそうもないし、クラスメートとの共闘もろくに出来ない。あまりにも惨めな思いをしすぎて、胃をボロボロに痛める始末だ。
 睡眠障害は基本的な生活習慣を崩壊させ、学業に深刻な影響を及ぼした。溜まりに溜まってしまった、不良債権の山――英単語テストの追試。
 もう得意の弓も続ける気がしなくなっていた。これだけ毎日辛い思いをしながら、無理をしてあの学園に通い続ける意味はあるのか。奔放に伸びた前髪の奥の瞳は、汚く濁っている。
 彼にはもう、これ以上頑張っていく気力が空っぽだった。


 青空は行きつけのゲームセンターに寄っていた。繁華街にある家族向けアミューズメントパークなのだが、地下一階のフロアは双葉島でも有数の対人ゲームの聖地である。
 いくら訓練や勉強にやる気はなくとも、こういった遊びはきちんとこなせるのだから都合のいい男である。しかしそれを後ろめたいとも思わず、彼は高揚感を胸に階段を降りる。
 タバコの匂いが充満する澱んだ空気。大きすぎる音量や歓声、怒声。
 それら全てが青空にとって心地がいい。気分の晴れない教室の中よりも、よほどこちらのほうが気楽に過ごすことができた。
 お目当ての筐体を見ると、すでに顔なじみの連中が、「行けぇ!」「キタキタキタぁー!」「やってねぇ――ッ!」などという口プレイをしている。
 そして財布からICカードを取り出した。彼はとあるゲームの上級者なのだ。
「乱入だな」
 彼は筐体の椅子に座ると百円玉を入れ、慣れた手つきでICカードを挿入する。
 モニターのすぐ前に、戦闘機の操縦かんのようなスティックが二本並んでいる。それぞれにトリガーが備え付けられていた。いわゆる「ツインスティック」だ。
『ベルゼブブ・アーマーズ』
 全国でも双葉島にだけにしか置いていないロボット格闘ゲーム。
 一日中遊んでいても飽きないぐらい大好きな、対戦型のゲームだ。3Dの世界を縦横無尽に駆け巡り、相手の操作するロボットと勝負する。
 たらたらしていたらあっという間にやられてしまう圧倒的スピード感が、人気の秘密だ。カードを挿入してしばらく待ったあと、青空専用の機体データが読み込まれた。間もなく反対側の台にいる奴とのバトルが始まる。
 戦闘前に、お互いのパイロットネームや戦跡が表示された。知っている名だ。相手はもう何千戦やったかもわからない、いつもの常連客である。
「げっ、SORAさんキチャッタ!」
「SORAさんちぃーっす!」
 大学部の生徒がタバコをふかし、へらへら笑いながら青空のところにやってきた。彼も笑顔で挨拶をする。
「おっす。大学生はいいですね、早くから遊べて」
「まーね。でもSORAさん来てくれて楽しくなりそう」
 SORAというのは青空のパイロットネームである。彼は去年の秋ごろから、すっかりこのゲームの中毒者になっていた。
 さて対戦は始まった。いつもの奴とはいえ相手も上級クラスだ。日ごろ暇な時間をこのゲームにつぎ込んでいるだけあり、基本テクニックはもちろんのこと、ハイレベルな小技もきちんと使ってくる。少しでも隙を見せれば確実にダメージを削られる。弱くない相手だ。
 しかし、青空はこのゲームに異常なまでの「適正」があった。
「ああもう、かすりもしねえ」
「おー、あれ避けるか」
 反対側の台から聞えてくる声。廃人レベルのやりこみ具合を誇る彼らでも、青空の機体を撃破することはめったにない。
 まず反射神経が違う。次に集中力が違う。青空はいつも「相手が止まってみえる」と彼らに言っていた。野球選手か挌闘家がするようなコメントである。
「もらった! ・・・・・・ってうそぉ――――――ん!」 
「あれ当たったろ? 何で当たってないの?」
 青空は地面で撃ち合いをするより、空中で高速移動をし、空から奇襲を仕掛ける戦法を好んだ。彼は逃げ惑う相手の移動先を瞬時に先読みし、空中移動で交差しつつ、真下を通り抜けようとするところをソードでぶった斬ってみせる。その離れ技を目撃した大学生たちは、「うわぁ――ッ!」とフロア中に聞えるぐらいの声で絶叫した。
「チクショー、また負けた」
「結局どうしようもなかったね」
「SORAさんマジパネェっす」
 彼の型破りな攻略法は、それまでの最上級者であった彼らをコテンパンにしてしまった。見たことも聞いたこともないトリッキーな戦い方に、彼らはメロメロにされた。
 大学部の人たちは青空に敬意を表しつつ、いつもこう言ってくれる。
「SORAさんは俺たちにはない才能があるんだよ。未来に生きてるよ」
 青空はそれを聞くたび、とても誇らしい気分になることができた。
 これが俺の『才能』なんだ、と。
 おちこぼれの自分がただ一つ持っていた、他人に誇れる要素。尊敬の眼差しを浴びることのできる、自慢の取り柄。
 だからこそ青空はこのゲームだけは続けることが出来る。ベルゼブブ・アーマーズがなければとっくにばらばらに崩れていたことだろう。なぜならこのゲームが彼のプライドを支えているのだから。このゲームにおいて最強であることが、中田青空のアイデンティティなのだから。
 また大学生がリベンジしてくる。彼は背筋を伸ばしてスティックを握り直した。
「退学したら、専業アーケードゲーマーになるかな」
 上機嫌に、冗談交じりに青空は呟いた。
 今日も閉店時間まで遊ぼう。宿題なんてどうでもいい。
 彼は今日も、荒れた日常を送ろうとしていた。


 ところが反対側の台で異変が起こる。なにやら揉めているようだ。
「おい、俺のクレジットだぞ!」
「あとで百円返すから、お願い!」
「横入りはねーよ」
 どうしてか、いきなり険悪なムードに陥っていた。
 何が起こった? 不審に思った青空は向こうの台を覗き込む。
 そして驚愕する。
「わかってる。わかってるけど、彼と戦わせて」
 美しく背中まで伸びた黒髪。悪びれの無い、茶目っ気たっぷりな笑顔。
「権藤つばめ・・・・・・!」
 彼の苦手なクラスメートの女子が、反対側の台に着席しているのだ。
 クラスの秀才がなぜこんなゲーセンに。青空は彼女がここにいる理由が全くわからない。
 スティックを握っていた左手が、いつの間にか汗で濡れている。突然のことに動揺しきっており、視線が上下左右に激しくぶれていたところを「乱入」された。画面が切り変わった瞬間、青空は「ひっ」と変な声を上げる。
 嫌そうな顔をした大学生の連中が、後ろ頭をかきながらぞろぞろやってきた。
「SORAさん、何か変なの来ちゃったけど」
「知ってる? あの子」
「え? ああ、あいつ?」
 青空は下を向き、少し黙ってからこう答える。
「知らない。学校でも見たことない」
 それは聞いた大学生たちは、「何モンだろうな」と口々に話していた。
 ・・・・・・どうしてとっさにそんなウソを付いてしまったのか、青空本人にもわからない。
 それより、なぜこの女は自分の居場所にずけずけ入り込んでくるのか。日ごろのおせっかいもうっとうしくてたまらないというのに。憎たらしそうに舌打ちをしたあと、青空は据わった目をしてモニターのほうに向き直り、スティックを握り締めた。
 殺してやる。
 ここでは俺が最強だということを、この女にも思い知らせてやる。
 彼の本来純粋であるべき感情は、とてもおかしな方向へと膨らんでいった。


 つばめはICカードを持っていないようなので、機体選択画面から適当に選んでいた。
「よぅし、私はコレでやろっ」
 それは青空に対して言ったのだろうか。彼はじっと画面を見据えたまま、口を真っ直ぐ結んで無視を決め込んでいた。
 対戦が始まる前に、青空のこれまでの戦跡がつばめに明るみにされる。
「一万戦かぁ、相当やりこんでるね」
「・・・・・・」
「これやってる暇あったら、一緒に勉強すればよかったのに」
「ほっといてくれ!」
 本気で怒鳴った青空に、ギャラリーの大学生たちはびっくりする。
「SORAさん、挑発に乗っちゃだめですって」
「あ、ありがとう」
 彼らが注意をしてくれなかったら、頭に血が上った状態で対戦を始めようとしていた。冷静かつ大胆に、を戦いのモットーとしている青空らしくない。
 権藤つばめは中田青空という人間に、深く干渉しようとしている。その目的はわからない。彼を徹底的に茶化しにきたのか、それとも? ・・・・・・コーラをぐいと飲み干す。炭酸は抜け切っており、ぬるくて甘ったるい。
「お手並み拝見と行くね。手加減なんてしないんだから」
「返り討ちにしてやる」
 画面が変わる。お互いの機体が向き合っている。「3」。カウントダウンが始まった。
「同じ機体なのかよ・・・・・・!」
 ぎりっと歯軋りを立てる。「2」。
「ぶっ殺す」
「1」。
 スティックが乱暴な音とともに、真横に倒された。

 レディ・ゴー!

 しかし次の瞬間には、青空は身を乗り出して叫んでいた。
 開幕早々だった。真横に移動をしたのだが、それをつばめにまるっきり読まれていたのである。あらかじめ進行方向の先に射出されていた、高威力のレーザーをみっともなく食らってしまった。
「SORAさんが事故った!」
「事故る」とは、相手が先に出して置いた攻撃に、まんまと突っ込んだり踏んだりしてダメージをもらってしまうことを言う。
 もうこの被弾で青空の理性はメチャクチャになった。スティックを左右に開き、3D世界の空へと舞い上がる。得意の空中戦術に持ち込んで、空から豪雨のような攻撃を仕掛けるつもりだ。
 ところが、青空は信じられないものを見た。
 何と、つばめも青空と同じ空中戦で応じてきたのだ。
「こいつ何なんだ!」
 青空は驚愕で声を震わせる。
 はっきり言って、この乱入はつばめによるタチの悪い嫌がらせだと思っていた。
 違う。権藤つばめはこのゲームの上級者だ!
 今度はつばめから攻撃を仕掛けてくる。誘導性の高いビーム兵器の連射を、青空は必死に上へ横へと避ける。クラスの才色兼備の優等生に、圧倒どころか反撃もできない。不意に心の奥底から熱い感情がこみ上げてきた。
「くっ・・・・・・!」
 回避が追いつかず、つばめのけん制攻撃にかすってしまった。腹が立ち、筐体を拳で殴る。
 大学生たちは青空の豹変に声も出ない。大声を上げ、顔を真っ赤にし、やがて両目から涙が溢れ出てきた彼を前に、とにかく呆然とさせられている
 ただ一つ誇りとしているものを、つばめに汚されたくなかった。
 それがたとえゲームという程度の低いものであっても。それは彼にとって命の次に大切であることには変わりない。絶対に負けるわけにはいかなかった。
 冷静さを欠いたか、青空は何度も攻撃を食らってしまう。普段の対戦ならまず見せることのない、無様な負け試合だ。残り時間は数十秒。まだまだ大逆転の見込める時間帯。
 つばめはまだ一度も攻撃を食らっていない。誰も予想すらできなかった、青空の完封負けが見えてきた。このままだとあまりにも屈辱的な敗北を迎えてしまう。
「まだだ。まだ終われない」
 ここでつばめに負けたら、もう二度とこのゲームを取り柄だと思えない。
 何に関しても負けっぱなしだった青空。これはそんな彼が他人に打ち勝つことのできる唯一のものだ。それまで完膚なきまでにねじ伏せられてしまったら、彼はもう何を生きがいにしていったらいいのかわからない。
 彼は最後の手段に出ていた。特殊なコマンドを素早く入力する。
 機体が変形し、「戦闘機」となった。機体は青いオーラをまとうと、ものすごいスピードで一直線につばめの機体へと突っ込んでいく。
「捨て身の特攻だ!」
 大学生たちが吼える。青空は一発逆転を狙い、大技をつばめに繰り出したのだ。
「絶対に負けねえぞ、権藤つばめぇ――――――――――ッ!」
 涙粒が弾け飛ぶ。つばめの機体を粉々にしようと、青空の機体は襲い掛かっていった。
 しかし・・・・・・。
 つばめの機体は真上に引っ張られたように浮かぶ。ひらりと、あっさりと青空の特攻を回避してしまった。これが決着の瞬間であった。
 でも、本当は青空にもわかっていた。
 上級者であるのなら、このような大技など避けられて当然なのである。しかし彼にはもうこの特攻しか逆転できる手段がなかった。それに、もうこうすることぐらいしかつばめに意地というものを見せ付けることができなかった。
 あさっての方向へ飛んでいく青空の機体。上空を取ったつばめの機体は、完全に相手に止めを刺すことのできる状況にある。でも、ビームも何も繰り出さない。
 哀れな負け犬が遠くへ飛んでいくのを、ただ黙って見逃すだけ。
 長い十秒間が過ぎ去った。タイムアップ。つばめが勝利した瞬間である。
 その結果を最後まで直視できず、青空は残りコンマ五秒という段階で席を立っていた。そしてその場から逃げるよう、素早く一階への階段を上がっていく。
「SORAさん!」
 その後ろ姿は、特攻を失敗した機体が遠くへと飛び去っていくのと、そっくりであった。


 彼が展望台に到着したころには、双葉島を囲む東京の景色も夜景として彩られていた。
 あの後は街を飛び出し、山に登り、ひとり展望台で景色を眺めていた。この島で一番空に近い場所で、魂の抜けた輝きの無い瞳をさらしていた。
「何やってんだろうな、俺」
 中田青空。ナカタソラ。なかたそら。
 勉強は出来ない。異能は無い。
 そんな自分が唯一つ得意にしていたものも、他人から徹底的に叩きのめされた。
 なぜこんなにも辛い気持ちでいっぱいなのか。どうして権藤つばめに敗れてこんなにもみじめな気持ちでいっぱいなのか。よくわからない。
 双葉島にやってきてから、そうしてみじめに思うことだらけ。何をやっても「負け」がまとわりつき、結果が伴わない。心が晴れない日など訪れたためしがない。今後も色々な場面で生き恥をさらすぐらいなら、いっそのこと消えてなくなってしまおうか。
 がけ下を覗く。下は真っ暗で、ぴちゃぴちゃと小波が岩肌を舐める音がする。まさに死の淵そのものだ。
 自分が死んだら周囲はどうなるのだろう。親を困らせるにはいいだろう。クラスのみんなも特に何の感情も抱かないに違いない。
 弓道部でも、あのちびっ子後輩がどんな顔をするのか想像もつかない。半年間じっくり面倒を見て、立派な戦力として育ててきた後輩。ここで暗闇に身を投げたら、やはり悲しまれるのだろう。泣かれるだろう。
「はあー・・・・・・」
 それでも、あの子を泣かすことだけは駄目だと思った。
 こんな青空にも、それなりに良心らしき感情は残っていたのである。死んだらだめだ。つまらない人生だけど、何とか耐え抜こう。そう思ってフェンスに背中を預ける。
 ところが、何か「ばきん」という音がした。
 音がしたと思ったその瞬間には、彼の体は真後ろにひっくり返っていた。
「え」
 何と木製のフェンスが腐食のため、折れてしまったのだ。青空は崖下へ吸い込まれるよう、真っ逆さまに落下していく。
(う、嘘!)
 どんどん遠くなる展望台の明かり。死んでしまうのか。本当におしまいなのか。
 自分にはこの島で、もっとやれることがなかったか?
 今になって様々な気持ちが駆け巡り、死への恐怖が強烈なものになってくる。
 嫌だ。死にたくない。
「あ、あぁあああ―――――ッ!」
 まさに絶叫。張り裂けんばかりに口を開き、青空は闇に飲み込まれていく。


 そのときだった。
 ばたばたと風を切って落下していくなか、彼の耳は小さな音を捕捉した。
「・・・・・・ぇー・・・・・・」
 女の子の声のようだ。それは少しずつ近づいてくる。
「・・・・・・だめぇ――・・・・・・」
 何だと思い、声のしてくるほうを凝視する。
 そして、両目を大きく見開いたのである。
「死んじゃだめぇ――――――――――――ッ!」
「な」
 何と黒髪をなびかせて、権藤つばめが真っ逆さまになって突っ込んできたのだ。
「お前!」
 声を荒げた。どう見ても、彼女が青空のあとを追って飛び降りたようにしか見えない。彼女はぐんぐん青空に接近し、そして追いついた。つばめの表情がはっきりと伺える距離にまで縮まった。彼女は怒鳴り散らす。
「何で死ぬのよ! ゲームに負けたぐらいで、弱虫! いくじなし!」
「何で落っこちてんだよ。死ぬぞ!」
「あなたを助けるために決まってんでしょう!」
「はぁ? こんなんでもう、どうやって」
 やがてとうとう、つばめは青空の手を取った。それから彼を抱きしめる。冷え切っていた青空の心臓が奮え、温かい火が点る。
「ねぇ、約束して」
 つばめはしっかり青空の目を見て言った。
「生きて! 死なないで! 生きて!」
「そう言われても、どうすんだ」
「約束して! あなたが死んじゃ私がやだぁ! あなたはまだ死んではいけないの、あなたはこの島でやるべきことがあるの」
 涙を上空に残しながら、つばめは必死に叫び続ける。
 それはまるで、あのゲームをやっているような感覚であった。
 タイムアップまで数秒しか残されていないのに、ゆっくりと時間が流れていくこの感覚。油断を見せたら逆転を許し、こちらの気迫が上回れば逆転することのできる緊張のひと時。
「こんなとこじゃ話し足りなぁい! だから生きるって約束して! 生きるって私に言ってぇ!」
 展望台の位置が、もう見えないぐらいに遠くなった。もうはっきりとした距離感などわからない。つばめの瞳を見つめていたら、自然と青空の心が熱くなる。日ごろの投げやりな気分はさっぱり無くなり、力強い勇気で心が満たされる。
「生きる」
 彼は言った。
「生きるよ、権藤さん」
「・・・・・・嬉しい」
 彼女はぎゅっと、さらに青空を強く抱きしめた。どんなことがあっても、絶対に離すことが無いよう、強く、強く――。
 そして次の瞬間、彼に作用している力の全てが別の方向へと切り替わった。
 ぐいっと引っ張り上げられ、たまらず両目を思い切り瞑る。つばめの柔らかい胸元に顔をうずめ、これでもかというぐらい抱きつく。
 落下していた彼は、一転して上昇していた。一気に駆け上っていった。この感覚は誰もが知っているに違いない、旅客機が離陸していくときに感じることのできる、あの重力への反逆だ。
 感覚も理解もまるで追いつかない青空は、いきなりのことに頭の中が混乱していた。ただひたすら、つばめの体にしがみついていることぐらいしかできない。
「もう目、開けていいよ」
 つばめの優しいささやき。そして青空は、うっすらとまぶたを開く。
 真下に広がっていたのは、町の俯瞰図であった。街灯がぽつぽつ縦に並び、住宅地では明かりがいくつも点となって闇の中に輝いていた。
 青空は双葉島の夜景を空から眺めていたのである。
「これはいったい・・・・・・」
「飛んでるんだよ、私たち」
 青空ははっとなり、つばめを見る。
 つばめの背中から、赤い主翼のようなものが左右に伸びていた。そしてその翼から淡いピンクのビロードが、まるでマントのように後方へと流れている。
 彼女の背中から、機械的な赤い「翼」が生えていたのだ。しばらくの間、青空は翼を生やしたつばめの姿に見とれる。日ごろ彼はいつも、「彼女の異能は何だろう」と想像や妄想にふけっていた。
「これがお前の異能なのか」
「違うよ。これは異能者なら誰でもできること」
「嘘だ。飛ぶ方法なんて聞いたことがない・・・・・・って、うわぁ!」
 真っ直ぐ進行方向を向いた瞬間、青空はいきなりの右回転によって仰向けにひっくり返された
 自分たちを軸として夜景のきらめきが左に回転し、頭上に広がる。つばめはそのまま回転を続け、美しい星空を天上に戻してやる。
 エルロン・ロールの機動である。ぐるっと回されてしまい、頭がくらくらした。
 二人はちょうど、繁華街上空を飛行しているところであった。一つ一つの明かりの強い輝きが、人々の活発な営みを思わせる。湯気の伸びる、双葉湯の煙突のてっぺんを通過。
 夜の空中散歩にすっかりあっけにとられていたら、つばめが沈んだ声で青空にこうきいてきた。
「何で死のうとするの」
「べ、別に死のうとしたわけじゃ!」
「ずっと気にしてたんだよ? 青空くん二年生になって、元気無いから」
「それは、勉強とか、色々あって」
「いつでも頼りにして良かったのに」
 彼が粉々に散ってしまわないよう、もう一度つばめはしっかり抱きしめる。あらゆる苦痛や障害から保護するように抱きしめる。青空はそれに胸をときめかせた。駆け上がるように加速していく胸の鼓動を、彼女に感じ取られないよう必死に祈る。
 それからわざとらしくふてくされたようにして、青空はこんな風に吐き捨てた。
「そっちのほうがみっともなくて、嫌だよ」
「え? 意味がわかんない」
 つばめは本当に理解できないような、きょとんとした様子で言われる。
「わかんないなら別にいいよ」
 そんな彼女の態度に拍子抜けし、青空は本当にふてくされてしまったのであった。
「青空くんの悩みはもっとお話しないとわからないけど、これだけは言いたい。死んじゃだめ。二度と死のうとしないで」
 自殺するわけじゃなかったのにと、青空は複雑な気持ちで真下を見た。あるものが目に入る。やけに見覚えのある、立派な校門だ。
「あなたは異能者として、これから色んな人を守っていかなければならないから」
「え?」
「青空くんにはね、私たちにはない大きな『才能』がある」
「あるわけないって。俺、役立たずだし」
 突然の話に青空は驚く。これからつばめが何の話を始めようとするのか、当惑しながら次の言葉を待つ。
「そんなことない。今、あなたの力が必要とされている」
「俺の力が?」
 そうきき返すが、今度は何も返してこなかった。徐々に高度が下がり、速度も落ちる。彼女は着陸に集中していた。
 普段馴染みのある、学園の校庭が接近していた。


 双葉学園高等部のグラウンドに着地したとたん、青空は腰が抜けてしまってその場に座り込んでしまう。
 権藤つばめはやはり、背中から大型の赤い主翼を生やしている。その姿は天使や翼人というよりも、戦闘機を思わせるフォルムであった。その翼が消去される。
「びっくりしたでしょ」
「うん」
 呆けている青空に、つばめは背を向けてみせる。
 彼女は箱を背負っていた。台形をさかさまにし、縦に長くしたような印象である。それぞれの斜辺から両方向に翼が伸びていたようだ。とすると、その機材に空を飛べる秘密が隠されているに違いない。
『フライハイユニット』
 と、つばめは教えてくれた。
「フライハイユニット?」
「赤い翼は私の。他に黒がいる」
「はは、権藤さん、そんなことやってんたんだ」
「うん! 中等部のころからずっとね、研究に参加してたの!」
 驚きの連続だった。権藤つばめはどちらかといえば、戦いよりも学業に力を入れているものだとばかり思っていた。だが、まさか裏でそんな活動をしていたとは。
「そして私たちは、ある一人の男子生徒に注目している」
「誰かいるの?」
 鈍感な彼がそうきくと、つばめはむっと頬を膨らませて歩み寄ってくる。
 すると手を伸ばし、青空の両頬を掴んできた。ぐに~っと伸ばしながらこう言い聞かせる。
「あなたに決まってるでしょ青空くん! だから死なれるととっても困るの!」
「・・・・・・へ?」
 彼はワンテンポ遅れて、間抜けな声を上げた。
「俺なんかが?」
「そう!」
 つばめは一通りくすくす笑ったあと、表情を引き締め、改まった態度に変わった。それでも口元は嬉しそうに笑っている。
「異能者航空部隊の一つ『スカイラインピジョン』は、あなたを歓迎します、中田青空くん!」
 しばらくの間、彼はぽかんとして、この黒髪のツバメを眺めていた。
 これが、彼の長い戦いの始まりである。



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