【キャプテン・ファンタスティック】


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  キャプテン・ファンタスティック

「よしっ」
 真新しい制服。金色に輝く校章。胸元のリボンもばっちり。
 小笠原さやは鏡の前でくるりと回る。プリーツの折り目もきれいで、どこもおかしなところは無い。完璧だ。
 部屋を出てリビングに顔を出す。奥のほうに見える台所では、母親が洗い物をしていた。
「行ってくるね、お母さんっ」
「行ってらっしゃい。頑張ってね」
「うん!」
 ゴムの強い香りがする、硬い革靴。まだ足に馴染まないので、靴全体を引きずるようにして歩き出した。玄関を開け放つと、熱を含んだ初夏の風が出迎えてくれた。ますます心が躍る。
「ねーちゃん、鞄!」
「えっ」
 呼ばれたほうを振り向くと、二階の窓から大きな鞄が飛んできた。さやはそれを自らの顔面で受けとめる。
「そんぐらい取れよぉ。異能者なんだろー?」
「こ、こらぁ!」
 尻餅をついてしまい、せっかくの制服に砂埃が付着する。
 脇に落ちている学生鞄には、少し色あせた水色のぬいぐるみが下げてあった。


 さやは今春、双葉学園の高等部に入学した。
 早いうちから異能者であることはわかっていたのだが、「異能判別不可能」ということから、それまでは本州で普通の学生として過ごしてきた。この度双葉島にやってきたのは、さや本人が進学を強く希望したからである。
 すでに四月も終わり際に差しかかっており、新しいクラスではたくさんの友人ができた。いつものように友達の女の子と談笑し、担任が教室に入ってきたのを区切りとして、自分の席に着く。
「では、一週間前の異能力テストの結果を返します」
 うわぁ、そんなんあったなぁ。さやは心の中で呟く。
 学園では新年度の頭に異能力テストを行う。一般の学校でやる普通の体力テストと大差なく、学園側が用意した簡素な装置を使って、異能力の強さや成長具合を測るのである。
 さやも島外からやってきた頃に、学園で測定を受けている。だから今回の異能力テストには参加せず、春先に参加した測定の結果を待っていた。
 ところがいつになっても結果は返ってこない。何か異常があったのかなと、次々と結果を受け取っていくクラスメートたちを横目に不安に思っていた。
 名前を呼ばれず、はらはらしながら待ち構えていたそのときであった。
「おっはようございまぁーっす!」
 みんながびっくりして扉のほうを向く。
 高校生とほとんど変わらない背丈の、ちまっこい女性。どういうわけか自信たっぷりな笑みを口元に浮かべ、仁王立ちなぞをしている。左手にはペットボトルのミネラルウォーターが。
「海晴先生、どうしたんですか?」
 担任も驚いた様子で彼女のもとに近寄った。
「えっとですねぇ、ちょっと用のある子がいましてぇ」
 外見の通り、声もかなり幼い。電話で出られたらまず子供と区別できない。
(あはは。双葉学園にはあんなヘンな人もいるんだ)
 などと、失礼極まりないことをさやは思う。できることなら関わりたくないな、とも。
「小笠原さやさん! いるですかぁーっ!」
 私かよ!
 みんなの視線を一身に集める。その中でさやは、恐る恐る挙手をした。


「先日の異能力テストの結果、返すです」
「あ、はい」
 さやはもじもじと、落ち着かない様子で書類を受け取る。
 彼女たちは「格納庫」にいた。広々としていて、今にも戦闘機がやってきそうな無骨なムードが漂う。白衣姿の、科学者らしき人物も何人か歩き回っている。
 結果にはやはり、異能不明の文字が刻まれていた。さやはもう慣れっこだったので、特別気にすることなくすぐ海晴に向き直る。
「あの、どういう用件でしょうか?」
 一番気になっていたことは、もちろん突然こんな場所に連れてこられたことである。
「さやっち、私はあなたのような子を捜してたです」
「さ、さやっちぃ?」
 そんな風に呼ばれたことのほうが驚きだ。何この人。
 すぐに気を取り直しつつも、まるでわけのわからないといった表情で海晴にこうきいた。
「捜していたって、どういうこと?」
「さやっちは特別な力を持ってるです。先の異能力測定で適正が認められたです。私たちの機材を操れる、レアな人材さんなのですよ?」
 海晴がそう言ったのと同時に、何か機材が科学者たちによって運び込まれてきた。
 背中に背負うハードケース。
 これがさやの、ぱっと見た感じの第一印象であった。色は赤だ。
「これは?」
「『フライハイユニット』です」
 海晴はそう答えた。
「異能者が空を飛べる『翼』です。さやっち、これはあなたのですよ」
「え、ええ!」
 さやは驚愕する。次から次へと、とんでもない事実が明かされた。
 自分は特別な力を持っていて、スペシャルな機材を扱うことができて。
 そのマシンをフライハイユニットといい、異能者が空を飛ぶことのできる優れものらしい。このレッドに塗装されたものが、自分専用のものだという。
「突然何ですか! わけがわかりません!」
「紹介が遅れましたです。私たちは異能者航空部隊の一つ『キャプテン・ファンタスティック』。この格納庫は私たちの基地でして、私がプロジェクトリーダーの海晴という者です」
「キャプテン・ファンタスティック・・・・・・」
 さやは目を点にして、海晴の説明を聞いていた。
「フライハイユニットは使用者を選ぶです。ですからさやっち、あなたはずっと捜し求めてた人材さんなのです」
「私が・・・・・・?」
 だんだんと、海晴の言葉の一つ一つが心のうちに染み渡っていく。
 双葉学園にやってきて、自分にできることがこれなのかもしれない。
 みんなのために、家族のために。
 そして「花穂」のために。


 それから改めてチーム側で綿密な身体・異能力測定が行われ、各種手続きを経て、いよいよさやが空を飛ぶ日がやってきた。
 いつもより慌しい雰囲気の格納庫。隅の辺りではさやの家族も見学に来ていた。
「ねーちゃんすげぇや! ちょーかっこいい!」
「気をつけるのよ? 危なくなったら無理しないのよ?」
「おおお、おい。そのアジフライユニクロとかいうのは、絶対安全なんだな? 事故とかおおお、起こらないよな?」
「落ち着いてですお父さん。さやっちが飛べるよう調整したですから、まず事故らないです」
 海晴がそう説明すると、さやの父親は顔面蒼白の酷い状態でパイプ椅子に腰掛けた。ぶつぶつ何かを言いながら歯を鳴らしている。
 その視線の先には、スタッフによってフライハイユニットを装着してもらっている愛娘の姿。双葉学園のブレザーに、あたかもリュックサックを背負っているかのようユニットを着けている。この最終チェックを済ますと、いよいよ彼女は離陸する。
 辛抱できなくなって、またも父親は立ち上がった。周りの制止を振り切り、娘の眼前に立ちふさがる。
「やっぱり考え直すんだ、さや! 危険すぎる!」
「ごめんねお父さん。私決めたの」
 背中に翼を生やした私は、何ができる?
 さやは初めてこの格納庫に連れてこられた日から、ずっとそのことについて真面目に考えていた。フライハイユニットに選ばれた自分ができる、自分にしかできないこと。
 これからここで頑張っていくことが、自分が双葉学園に転校してきた意義であり、使命であり、役割なのだろう。さやは即座にキャプテン・ファンタスティックに参加することを決めていた。スタッフは離れていく。泣き喚き始めた父親を引き剥がしながら、背後に去っていく。
「いよいよですね。・・・・・・ふふふ、懐かしーです」
 そう感慨深そうに零したのは、海晴だ。
 そして彼女は右手に提げていたインカムを装着する。真剣な顔つきに一変すると、出撃準備の整ったさやに指示を下した。
「行きますですよ、さやっち!」
「いつでもお願い!」
 さやは勇ましい笑顔をして、格納庫に大声を響かせる。
「あなたの力は?」
「空を飛ぶこと!」
「あなたの願いは?」
「みんなを守ること!」
 そのとき、さやの背負う機材から赤い「翼」が生えたのを誰もが目撃する。航空機の主翼を思わせる、真紅に発光する翼。
 さやの気持ちが昂ぶるたび、翼からは薄いピンク色をしたビロードがあふれ出てくる。これをマントのように翻し、彼女はこれから大空を舞うのだ。
 それを確認した海晴は、勝利を確信したような笑顔になった。そして叫ぶ。
「飛ぶです、さやっち!」
「了解!」
 その瞬間、さやは弾丸となって青空へと発射されていった。


 左右にどこまでも広がる青空の中に、さやはいた。
 心なしか太陽が近い気がする。じんわりと汗が額に滲んできたのを感じたとき、風も全く無いことに気がついた。テスト飛行日和である。
「あわわ、どうしよ。本当に飛んでるし」
 散々シミュレーターを利用したり、布団の中で自分なりに想像を膨らませたりしていたのに、いざ本当に放り出されるとただ驚くしかない。
 速度が落ちてくると、不思議と飛んでいる感じがしなくなってくる。「浮いている」感覚に非常に近い。真下に落下することもなければ、左右に強烈に揺さぶられることもない。
『こちら海晴。さやっち大丈夫です?』
「あ、平気です。安定してます」
『ひとまず打ち上げ大成功なのです。お父さん失神しちゃったですが、どうするです?』
「ほっといていいよ」
 やがてさやは空中で停止した。下を向くと、住宅地を張り巡らす道や区立公園の緑がよく把握できる。これで落っこちないのがすごい。
『さやっちは、自分を空飛ぶ異能者と思うがいいです。フライハイユニットとか、色々難しいこと考えなくていいですよ』
「わかりました。自由に動いてみます」
 前後左右、スライドするよう移動をしてみる。調子に乗って前傾姿勢になり、どんどん速度を付けてみた。強烈な風圧を真正面から食らって、髪の毛が滅茶苦茶になってしまう。耐え切れなくなって急停止しようとするが、ものすごい力が全身に加わって苦しくなった。
『無理な挙動は体に悪いです。安全運転が一番なのです』
「はい。死ぬかと思いました」
 それから好きなように双葉島上空を泳ぎ回っているうちに、次第にコツがつかめてきた。
 フライハイユニットにおける飛行とは、一般的なものとは全然違う。何かしら燃料を使って爆発力で反逆していくのとは異なり、異能そのものが飛行能力に置き換わっているので、まさに自在に浮かび上がることができるのだ。
 ただし引き出すことのできるスピードが半端なく、下手したら体がバラバラになりそうな恐怖を抱くことがある。徐々に、自分に合った無理のない飛び方を身につけていくのがいいだろう。そういうところは自転車の練習とほとんど変わらない。
『ロールとかループとか、色々覚えてもらうです。学園祭のお披露目タイムまで、訓練頑張っていこうです』
「ええ、宜しくお願いします!」
 キャプテン・ファンタスティックは、数ある双葉学園の異能者航空部隊の中でも、主に「エンターテイメント」の分野で活躍するチームである。
 つまり曲芸飛行をメインとして活動することで、学園や島を盛り上げる役割が与えられているのだ。サーカス団のようなことができると知ったとき、さやは喜んで入隊を決意した。
 他にもフライハイユニットを使う飛行部隊は存在し、それはそれで対ラルヴァ戦に投入されるなど、役割や運用方に差異があるようだ。
 とりあえず、自分は基本的な移動技術をモノにすればいい。絶景を独り占めにしているさやは、悠々とした気分で広い空中を浮遊していた。あのあたりが自分の家だろうかと、目を凝らしながら。
「・・・・・・ん?」
 さやは目を疑った。その場で停止する。
『どうしたですか? 異常を感じたらすぐ着地するですよ?』
「遠くのマンションから煙が出てます!」
『何ですと!』
 目を凝らせば凝らすほど、もくもくと建物の最上階部分から黒煙が出てくるのが確認できる。突然遭遇した大きな火災を前に、さやは呆然として現場を見つめていた。
『すでに消防隊が出動してるですね。あ、こっちでもTV中継で確認できたです。・・・・・・って、ええっ!』
「どうしたの、海晴さん?」
 海晴が何かを確認したようである。インカムから、がたがたと激しい物音が聞えてくる。かなり焦っているようだ。
『さやっち、ミッションです!』
 彼女から下された突然の指令に、さやの表情にも緊張が走る。
『最上階に子供が取り残されてるです! 救出するです!』
 一瞬、海晴が何を言っているのかが理解できなかった。
 窓ガラスを弾き飛ばし、ますます火の手は勢いを増す。そんな絶望的な状況のなか、取り残された子供がいるだって・・・・・・?
『聞えてるですかさやっち! 返事するです!』
「は、はぁいっ!」
 海晴に怒られて、ようやくさやは正気に戻る。
 彼女の、人生初の人助け。社会貢献。
 一人でも多くの命を助けたくて、彼女は双葉学園に入った。異能者として勉強をしていきたかった。そんなさやが行動するときが、今やってきた。
 過去に失ってしまった親友のことを思うと、いっそう彼女は奮い立った。


「ふざけるな! 曲芸がメインじゃなかったのか!」
「やめてお父さん、落ち着いて!」
「落ち着いてられるかぁ! さやが危険な目に遭ってんだぞ!」
 格納庫ではさやの父が暴れていた。それを何人もの研究員が押さえつけており、大きな騒ぎが起こっていた。
「キャプテン・ファンタスティックは確かに曲芸部隊です。しかし、災害時のレスキューもそれに並ぶ私たちの使命なのです」
「騙したな。娘を騙して、こんな軍隊に入れやがって!」
「騙してなんかないです!」
 海晴が怒鳴る。
「私たちのやること、全部さやっちに話したです! その上でさやっちは言ったです、『私にやらしてください』って!」
 彼はそれに一切の言葉を失った。信じられないと、呆けた顔で海晴を見ている。
「さやっちが島に来た本当の理由、本当の気持ち、全部見させてもらったです。その上でさやっちを誘ったです。この仕事ができるのはさやっちだけで、ふさわしいのもさやっちしかいないのです」
 彼だって知っている。どうして表世界で平和に暮らしてきたさやが、急に双葉学園への進学を志願したのかを。それを思うと、もはや何も言えない。
「見ていてください、さやっちのお父さん。さやっちは必ずやるです。一人の異能者として、立派に命を救ってみせるです」
 確信めいた強い視線を、海晴は青空へと送る。
 甘いミネラルウォーターを、その小さな口に含みながら。


「間に合って!」
 顔面で風圧を切り裂きながら、さやは出せる限りの速さで移動していた。とても息苦しく、首から軋んだような痛みがする。
 火災現場のマンションとは相当な距離があった。建物は煙が大量に上がっており、恐らく内部も煙が充満していて非常に危険な状態だろう。
 決死の急接近のかいあり、あと少しというところで到着できた。まずはどこから捜していこうかと、緊張しながらさやはマンションを見渡す。
 が、大変なことが起こった。
 最上階のベランダから、六歳ぐらいの子供が身を乗り出しているのだ。もう室内にまで火の手が迫っているのだろう。
 そして次の瞬間、強烈な熱に耐えられなかったか、とうとう子供は自ら落下してしまった。
「嘘でしょ!」
 とっさにさやは動いていた。落ちていく小さな体を目指し、急降下する。このままでは当然、子供は地面に激突して死亡する。そうなると島の住民にとっても、彼女自身にとっても悔やみきれない悲劇が心に刻まれてしまう。
 しかし、さやと子供との距離は大きかった。いくらスピードを出しても、もう間に合いそうもない。いくら手を伸ばしても、到底届きそうもない。
(もうダメなの・・・・・・?)
 涙を後ろに流しながら思った、そのときだった。
『諦めちゃダメです!』
 海晴がそう叱りつけたのだ。
「ごめんなさい海晴さん。もう間に合いそうもないの」
『フライハイユニットを信じるです!』
「信じる・・・・・・?」
『さやっちの想いが強いほど、さやっちの翼はそれに応えるです。子供を助けたいですか? 死なせたくないですか? ならもっと念じるです!』
 そうだ。自分は何を弱気になっていたのか。さやの瞳に力が戻る。
 人を助ける仕事に就きたいから、自分は双葉学園で勉強していくことを決心したのではなかったか! 人命救助を使命としているからこそ、キャプテン・ファンタスティックに入隊したのではかったか!
『世のため人のためという、発明者の想い。ユニットやチームを成熟させた、過去のプロジェクトメンバーの想い。さやっちの翼にはそんな人たちの想いも込められてるです』
 やがて肉体が耐え切れそうもない速度に、さやは到達した。それでも彼女は燃え尽きない。内なる炎が激しく鼓動し、背中の翼とリンクして、あらやる外界の障害や干渉を打ち破るのだ。
『だから飛ぶです、さやっち!』
「あぁあああ――――――――――――――――――ッ!」
 子供の未来を守るため、心の底から咆哮する。
 ・・・・・・地上で絶叫し、号泣していたマンションの住人。無念そうに目を伏せかけた消防隊。
 彼らはそのとき、奇跡とも言いかえられる流星の訪れを見た。
 真っ赤な炎が子供の落下点に接近し、その身にまとっていた力を全解除する。火の玉の中から現われた少女は、落ちてきた子供をキャッチした。
 落下の衝撃を緩和するため、彼女もしばらく真下へ運動する。エネルギーを殺し終えて再び舞い上がる頃には、地鳴りのような拍手が辺りから轟いていたのであった。
 最上階から転落した女の子は、わんわんさやの胸元で泣いている。それを見て安心した彼女は、ふんわり浮遊しながら目を閉じる。
 魂源力を消耗したのだ。


 小笠原さやは数日間の療養期間を終えて、学園に帰ってきた。
 自分の教室に入るなり、早速先日の大手柄について友達にはしゃがれてしまう。そうしてまる一日、色々な人から賞賛の言葉を頂戴した。
 そして放課後になると、彼女は一人で学園を離れる。
 学校からやや離れたところにある格納庫が、さやの活動拠点である。彼女は「キャプテン・ファンタスティック」として曲芸飛行の訓練に励むそのかたわら、島内でSOSが出れば即座に出撃するのだ。
 格納庫の隅にはダンボールの箱が積まれていた。全部、五百ミリリットルのミネラルウォーター(軟水)である。これらをたった数日で飲み干してしまう、水大好き人間がいる。
「こんにちはーです、さやっち! 今日も活動頑張るです!」
 真正面からハグしてくる無邪気な女性は、部隊のプロジェクトリーダーの海晴だ。「お水飲むですか?」ときかれたが、苦笑いをしながら遠慮する。
 ふと、そんな子供みたいな人の左手薬指に、何かが光ったのをさやは発見してしまう。
「嘘っ! 海晴さんって結婚してらっしゃったんですか?」
「えへへ、そうですよぅ! 毎晩ダーリンに天国へランデブーさせられちゃうですエロ同人みたいにっ」
 最後の言葉は聞かないことにしておいた。彼女の実年齢もかなり気になるところだ。
 それにしても、さやは今でもフライハイユニットを背にして、音速に到達しかけた瞬間が忘れられない。
 心臓が壊れそうなぐらい縦横無尽に暴れて、それに比例して自分の気持ちも強くなっていった。まさに力が漲っていた。
 花穂という親友がいた。中学生の頃に彼女が転校してしまい、二人は涙ながらに別れてしまう。花穂がピンクの熊のぬいぐるみ、さやが水色をした同じぬいぐるみを持ち、大人になったら再会することを固く誓い合った。
 だが、それから毎日のように続いた文通が突然途絶える。タバコの不始末による火災に巻き込まれたと聞いた。あと数分、消防隊の到着が早かったら助かったそうだ。
「だから双葉学園で勉強して、異能者として成長して、多くの命を救えたらなって」
「海晴、ずっとさやっちのような子を捜してたです」
 優しい満面の笑み。その表情のまま海晴は、何かを研究員から受け取る。
 彼女がそれを見せつけてきたことで、さやは初めてそのブツを注視した。
「それ、海晴さんが着るんですか?」
 あっけに取られた様子でそうきく。それは紺色をベースに純白のエプロンドレスを組み合わせた、典型的・王道型メイド衣装であった。
「違いますですよ? 海晴、イメージプレイは趣味じゃありませんです」
「じゃ、誰が着るんです?」
「さやっち」
「マジ?」
「マジです」
 意味がわからない。一体メイド服なんか着ることに、何の深い理由があるのか。
「キャプテン・ファンタスティックは生まれたばかりのチームです。人集めもしなくちゃです。ですのでさやっち、今からコレ着て勧誘に出向くです」
「そ、そんなん着なくてもいいじゃないですか!」
「んっふっふ、こういうのはかなーり注目集まるですよ。男性中心にさやっちのファンを増やしてくのも海晴の野望です」
 どこのアイドルプロデュースだ。ちなみにそういう破廉恥な行為も、さやパパの髪の減少に直結してしまう。
「人助け、関係無いじゃないですかぁ!」
「男の子の性の目覚めを助けるです、エロ同人みたいにっ」


 キャプテン・ファンタスティック 募集要項
  • 適正のある異能者であること
  • 女性であること
  • 曲芸飛行・災害救助に高い志を持つ者

 私たちと一緒にお空、お散歩しませんか? ご主人様♥
 ――チームリーダー さやっち☆より


 終わり


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