【六谷彩子と正義のミカタ 前編】


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   六谷彩子と正義のミカタ http://rano.jp/3625


「純子姉、なに観てんのっ」
 ソファーに座っている純子に、彩子は後ろから抱きついた。
「おう彩子。前もどうだ、面白いぞ」
 そう言われ、六十インチ液晶テレビに目を向ける。
 特撮ヒーローものだった。純子がこのような番組に夢中になるとは意外である。
「『鉄道戦隊デンデンジャー』だ」
「は、はあ」
 時は2020年。
 犯罪集団アクシデンツは首都東京を乗っ取るため「鉄道」に目をつける。
 妨害・災害・痴漢行為とありとあらゆる手段で電車運行の安全確保をぶち壊し、鉄道に依存している都民の暮らしを滅茶苦茶にしようというのだ。
 そこで鉄道犯罪を根絶するために現れたのが、正義の味方・デンデンジャーである。首都圏の鉄道インフラを守るため、デンデンジャーは今日も悪と戦う! ……だそうだ。
「やっぱ日曜朝はコレに限るなぁ」
 おせんべいをかじりながら純子は言った。デンデンジャーは大手民法の番組ではなく、ローカル局が作成した独自のものだ。言わばご当地ヒーローに近いものがある。
 ぱっと見た感じでは、レッド、イエロー、ブルーの三人が怪人と戦うという、ごく普通の戦隊ものと変わらない。
『そこまでだ、置石置蔵!』
『ぐぐぅ~、電車を脱線転覆させる野望がぁ~~~! かくなるうえは!』
『くっ、巨大化か! いいぜ、PASMOロボ発進!』
 ピンクに塗られた、適当なデザインのロボットが登場する。ロケットパンチを繰り出したり腹からミサイルを発射したり、目からビームを出したりやりたい放題だ。
 全くこのノリについていけない彩子。一方、愛すべき長女は巨大ロボの登場に瞳を輝かせている。
(男の子って正義の味方、好きよね……)
 九州の甥っ子もヒーローものが大好きで、彩子もごっこ遊びにつき合わされたことがある。甥っ子の話に適当に相槌を打ち、オーバーな演技で悪役になりきった。「猫娘ハルベリー!」や「普通怪人カナタトオノ!」など。
「なんだ、つまらなさそうだな彩子」
「だって女の子だもん」
「カッコよくないか? お前だって正義の味方に助けられたいだろ」
「おあいにく男に守られるほどこの六谷彩子、弱くありませんから」
 彩子は武道の有段者であり、異能も比較的強い。他人にピンチを救われるのは屈辱同然であり、しかもそれが男性であったら潔く自決したいとまで思う。
「お前にもいつかわかるさ。正義の味方のカッコよさが」
 そう、純子は確信を持った笑顔で言った。


 その数日後、彩子は新宿にいた。
「ったく、何て落ち着きのない街なの?」
 文句を零す。特に南口の改札を出たあたりは人の流れが激しく、あちこちに流され戻されながらも、かろうじて柱にたどり着くことができた。
 今日は平日であり普通に学校のある日だが、彩子に事件調査の依頼が入ったのだ。そのため彼女は特別に休みを取り、双葉島を出て新宿にやってきたのである。
「さて、仕事仕事」
 コートのポケットからモバイル学生証を取り出した。彩子が使用しているのはスマートフォンと区別のつかない高機能なものだ。概要を確認する。
 不特定多数の子供が植物人間状態になっているらしい。
 被害は東京二十三区を中心に、北は高崎、南は小田原まで首都圏広範囲に及んでいる。親御さんにヒアリングを試みるも、全く心当たりが無いそうだ。
 と、このような異常事態から双葉学園の調査が始まったのである。
 彩子の任務は、新宿に滞在して事件を追うことだ。とりあえず甲州街道を右に曲がり、三つの尖塔が目立つパークハイアットの建物を目指す。しばらくの間、このホテルで寝泊まりをする。


 ホテルに荷物を置いた後、とある大学病院を訪れた。
「お待ちしておりました、双葉学園からの方ですね」
 突然学園の名を口に出されてびっくりしたが、この医者も異能者であり、学園出身者であった。彼から子供の容体について詳しく話を聞く。
 子供は目をカッと開けたまま、病院のベッドでこん睡状態になっているそうだ。原因がわからないので治療のしようがない。
 家族の気持ちを考えると、彩子の胸が痛んだ。
(私が来たからには、みんな助けてあげないとね)
 気持ちを強く持つ。今回彩子が選出されたのはたまたまであり、学園の名を汚さないためにも一層の気合いが入る。
 二人は広いロビーのソファーに座っていた。受付待ちの人間や入院中の患者が多数行き交うなか、医者は静かな声で彩子に言う。
「一見、一般的な意味での植物状態と変わりありません」
「一見、って?」
「ここだけの話ですが」
 周囲を確認してから、小さな声で説明を始めた。異能のことやラルヴァのことは、島外に漏らしてはならない決まりなのだ。
「ラルヴァの仕業といっていいでしょう。まず病気や事故の類ではありません」
「エネルギーを吸収された、って考えるのが妥当ね?」
「はい、知り合いの異能者もそう見てます」
 子供の生気を奪ってしまうラルヴァ。これはただ事じゃないと彼女は直感した。場合によっては応援を要請しないといけない。
 医者から話を聞いた後、彩子は被害に遭った家族と直接会って話を伺った。やはり事前に聞いていた通り、彼らに思い当たる節は「無い」という。
 だが、彩子は気になる共通点を見出していた。


 その夜、バークハイアットの部屋にて。
『にゃっほー。彩子さん、調子はどう?』
「こんばんは加賀杜書記。気になる情報をゲットしたわ」
 学生証のビデオチャット機能で、彩子は醒徒会書記こと加賀杜紫穏に活動報告を行っていた。今回、本件は彼女が担当している。
「どの家族連れも、大体同じ日にちの同じ時間帯に新宿にいたそうよ」
 そうして帰宅したのち子供が倒れてしまい、あのような状態になってしまったと彼女は聞いている。
『ふむふむ。やっぱ新宿に派遣して正解だったね』
「ある程度わかってたんですか、加賀杜書記?」
『被害に遭ったお家の特徴としてね、大宮や横浜だけじゃなく平塚や小田原、小金井や籠原といった場所もあったんだ』
「う、うん?」
 日本地理は得意でない。ちんぷんかんぷんな様子で眉をひそめる。
『湘南新宿ラインだよ。だから新宿あたりで何かあったのかなって』
 どうやらそれは電車の名称らしい。彩子は鉄道には詳しくないので、今度純子にきいてみようと思った。
「まあ、敵は新宿にいると思って差し支えないのかしら?」
『そういうことになるね』
 どうやら決着の時は近いようだ。いつまでも学校を休むわけにはいかないので、とっととラルヴァを退治しててっとり早く片付けるのがいいだろう。
『でも、気を付けるんだよ彩子さん。敵は弱くないかもだよ』
「ええ、用心しとくわ」
『もう一人そっちに送っとくよ。期待して待っててね。にゃはは』
 どこか緊張感に欠ける通話を終えてから、彩子はため息を吐く。「別に私一人で平気よ」と。
 さて、これで今日の仕事は終わった。明日は明日でやることがいっぱい。
「早めに寝ようかしらね」
 あちこち動き回って、たくさん汗をかいた。制服、下着の順番であっという間に脱ぎ散らかし、シャワールームに入る。
(また育ってる……)
 鏡で己と向き合い、まずそんなことを思った彩子であった。


 翌日は聞き取り調査を行うつもりでいたが、これが難航した。
「あの、聞きたいことが」
「忙しいんだよ!」
 太った四十代男性に、人ごみの真ん中で怒鳴られた。
(何このストレス溜まる環境! これが都会なの? 日本社会なの?)
「ちょっと邪魔」
 今度は背後からスーツ姿の三十代女性に突き飛ばされる。ここが双葉島だったら、彼女は彩子に背後から蹴っ飛ばされて地面とキスしていた。
 結局、聞き取り調査は失敗に終わってしまった。彩子はすっかり気落ちし、ドトールコーヒーでちまちま昼食を取っている。
「そろそろ時間ね……」
 今日は仕事とは別にやるべきことがあった。
 実は今日の昼過ぎに、新宿のとある広場で「デンデンジャー着ぐるみショー」が催される。グッズ販売も行われるそうで、そこでしか手に入らない限定品も多いとか。
 純子に頭を下げられて、グッズ購入をお願いされたのだ。この日は双葉学園駅で勤務であり、なおかつ妹の彩子が新宿に出向くとなれば、願ってもないチャンスだ。
「ま、気分転換にいいかな」
 トレーを手に彩子は席を立つ。


 広場には特設のステージがあり、平日にも関わらず親子連れが多く見られる。デンデンジャーは思っていた以上に人気があるようだ。ショーは始まった。
「俺の名は『アカズフミキリ』。踏切なんて開けてやらないよーだ」
 踏切のランプを両目に見立てた、黄色と黒の警戒色に塗られたカマキリが今回の敵である。
 ところが思いもしなかった事態が発生する。その怪物が登場したとたん、彩子のモバイル学生証が作動したのだ! ラルヴァセンサーだ。
(嘘でしょ! あいつラルヴァじゃない!)
 その瞬間、謎だった全ての出来事が一本の線となって繋がり、彩子の脳内を駆け抜ける。
 このイベントが事件の元凶だったのだ。ヒーローイベントと称して子供を集め、まとめてエネルギーを頂戴していたのである。
「鉄道は悪なのだ~。踏切をいっぱい作って町をズタズタにしてるのだ~」
 ラルヴァは子供に聞き取りやすいよう、ゆっくりとそんなことを言っている。子供たちは心配そうにステージの様子を見守っていた。
 そしてハプニングは起こった。登場したのは子供たちの大好きな戦隊ヒーローではなく、赤いメガネをかけたおっぱいの大きい女子高生ではないか。
「待ちなさい、アカズフミキリ! 私が相手よ!」
「出たなぁ、デンデン……えと、どちらさま?」
「私は六谷彩子! ふたば――じゃなくて、強くてキュートな正義の味方よっ」
 危うく公衆の面前で「双葉学園の異能者」と名乗るところであった。彼女はラルヴァを退治するためにやってきたのだから、ここで壇上に現れるのは当然のことである。それにしても大衆の注目を浴びるのは快感極まりない。
「あの、君、これデンデンジャーショーなのわかってるよね?」
「そんなこと言って、子供たちをあんな目に! 許せない!」
 その発言に、確かにアカズフミキリは一瞬だけ強い動揺を見せた。
「は、ははは。何のことかなぁ~~~?」
「あんたの目論見もそこまでなんだから! この彩子様がデンデンジャーに変わってお仕置きy」
「かえれ――――――――――――――――――――――――――――――――――ッ」
 横からの大音声に彩子はズッコケる。
 子供たちが今にも泣き出しそうな怒りの表情で、彩子を睨みつけているのだ。みんなかわいい顔をひどく真っ赤にしていた。
「僕デンデンジャーが見たいんだぁ!」
「邪魔しないでよぉ!」
「どっか行って!」
 それこそ地鳴りのような、ものすごいブーイングだ。
 ヒーローショーに割り込んでこのような行為に出れば、無理もない。
「かえれ! かえれ! かえれ!」
「ちょっと、私が何したっていうのよ!」
 涙目になる彩子。もはや悪役以上に子供たちに憎まれているといっても過言でない。アカズフミキリもどうしたものかと、困惑しきっている。
 だが、そのときだった。
『待たせたな、みんな!』
 スピーカーから力強い声が響いた。わっと歓声が沸く。
「そ、その声はデンデンジャー!」
 アカズフミキリも彩子をスルーし、演劇に戻る。彼女もやっとのことで空気を読み、とぼとぼステージを降りていった。
 壇上に三人のヒーローが現れた。赤、黄、青。テレビで見たのと一緒だ。
「みんなで行こうぜ夢の国。だけど風は簡便な! ケーヨーレッド!」
「一人で目指す秋葉原。だけど寝すごし千葉にいた。イエローソーブ!」
「いつも来るのは逗子止まり。久里浜在住、ブルーライトヨコスカ!」
 三人がそれぞれの決まり文句らしきセリフを叫び、ポーズをとる。そして横に並び、声を揃えて子供たちに叫んだ。
「鉄道戦隊・デンデンジャー!」
 絶叫とも言い換えられる大歓声。彩子はたまらず両耳を塞いでしまう。
 ステージ上で、デンデンジャーはアカズフミキリと対峙した。彼女は焦る。きっとスーツの中身は一般人だろうが、相手がラルヴァでは勝ち目がない。
 しかも、子供のエネルギーを吸ってしまう凶悪な怪物である。おそらくランクも中級以上のS3クラスであることは間違いない。異能者でないと危険だ。何をしてるの六谷彩子、あなたが戦わないと!
「やっぱり私が出るわ!」
「かえれ――――――――――――――――――――――――――――――――――ッ」
 彩子は泣きべそをかいて壇上から降りていった。恐ろしい一体感である。
 そうしてすったもんだしたのち、やっとのことでショーは普通に進行する。アカズフミキリは必殺「開かずの踏切 ~救急車も通せんぼ~」で守りに特化した戦いを繰り広げるが、デンデンジャーは三人がかりで取り囲み、すぐさま勝負を優勢に持ち込んだ。
「0系ヘッドライトビーム!」
「や~ら~れ~たぁ~」
 ビームのさく裂する効果音が、スピーカーから流される。同時にアカズフミキリはわざとらしく派手に倒れ、それが決着となった。
「デンデンジャーつよーい!」
「デンデンジャーありがとう!」
「おっぱいもやっつけちゃえ!」
 子供たちがすごく喜んでいる。歓声が中々鳴りやまない。
 みんなこれを楽しみにして、遠くから電車に乗ってやってきたのだ。邪魔をしてしまい、彩子は申し訳なく思った。おっぱいとか言った悪ガキはこらしめたいところだが。
「みんな、電車はちゃんと乗ろうな!」
「駆け込み乗車はダメだぞ!」
「フラッシュ炊いて写真撮っちゃダメだぞ!」
 デンデンジャーら三人はそれだけ言って、ステージの裏へと走って消えていく。
「ありがとう、デンデンジャー!」
 子供たちは最後まで笑顔を輝かせていた。


 一回目の舞台の後、六谷彩子は詰所に連行されていた。
「君なんなの? あんなことしていいと思ってるわけ?」
「ごめんなさい。二度としません……」
 彼女は現場責任者にネチネチ怒られていた。ステージに乱入してショーをぶち壊しにした報いである。口ではそう謝罪しているが、頭の中では「どうボコボコにして差し上げようかしら」とはらわた煮えくり返しながら必死こいて考えている。
 なおアカズフミキリは学生証の反応通りれっきとしたラルヴァであったが、子供のエネルギーを吸収するような技は持っていなかった。つまり無害な友好的ラルヴァで、今も現場責任者の肩を揉んでいたりしている。
「アカズフミキリちゃんは働き者だねぇ。暑いから着ぐるみ脱いじゃいなよ」
「いえいえ、あっしは仕事が好きですから」
 ラルヴァですら人間社会に溶け込んで働いているとは。中に人がいるに違いないという心理を逆手に取り、堂々と表社会に出るとは何て小賢しい。
「まあまあ。俺は面白いと思いましたよ」
 そうなだめるように言ったのはレッドである。まだこの後もステージがあるようで、彼もスーツを着たままだ。
「こういう元気な子、ステージに欲しいねー」
 明るくてフランクなイエロー。パイプ椅子に座って足を組み、携帯電話をいじっていた。なおブルーは、握手会も兼ねた限定グッズの販売員として仕事中らしい。
 と、ここで彩子はレッドに顔から胸、素足までじろじろ品定めされていることに気が付いた。「何よ、殺すわよ」と言おうとしたときである。
「いいこと考えた。彩子ちゃんにピンクをやってもらおうか」
「はぁ?」
 レッドの思わぬ発言に、彩子は大声を出していた。
「ふむ。オーディションでいい子が見つからなかったピンクか」
 と、先ほどうるさかった責任者まで真面目に検討に入っている。
 詳細を聞くと、彩子の強気なキャラや声の大きさ、堂々とした振る舞いには一目置くものがあったらしい。結局は彼も、彩子に興味が沸いたから彼女を詰所に連れてこさせたのである。
「どう見てもおっぱい採用でしょ」
 そんなことを呟いたイエローに、彩子は見るも鮮やかなとび蹴りをかました。ナイスキックに関係者も唸りを見せる。
「てかデンデンジャーってピンクいたの?」
 彩子は振り向きざまにそうきいた。おっぱいがぷるんと揺れる。
 この疑問にレッドがちゃんと答えてくれた。
「今後、ピンクとグリーンが増えるんだ。実はもうグリーンの人は来ていて、次のステージから初お披露目の予定だったんだよ」
 純子に教えたら嬉ションされそうな、衝撃の新事実である。
 それから程なくして、グリーンの担当者も詰所にやってきた。彩子同様に飛び入りで採用されたらしく、出番まで待機していたらしい。簡単な自己紹介をしてくれた。
「今朝方仲間になりました。アクションなら任せて下さい!」
 なるほど頼もしい。見た目は彩子と歳が同じぐらいの好青年で、身長もほとんど変わらない。左頬の小さな傷が印象的だ。
「それじゃ彩子ちゃん、ピンクお願いできるかな?」
「私はそんなことをしに……」
「ぶっちゃけステージ、気持ちよかったでしょ?」
「……はい」
 にへっと彩子はだらしない笑みを浮かべる。
 目立つ・活躍する・賞賛を浴びる。六谷彩子の大好きな三要素だ。
 結局彼女は、五人目のデンデンジャーとなってしまったのである。



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