【夢で逢えるから】


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【夢で逢えるから】


「ねぇ双葉くん。一緒に帰ろ」
 彼女は僕の恋人で異能力者だ。優しくて頑張り屋で可愛くて、でも少しおかしい。
「双葉くんってこの学校と同じ名前だよね。いいなー羨ましい」
 彼女がこの学園に転校して来たのは去年の夏。蝉が毎日やかましく鳴き続ける頃だった。

 『皆さんはじめまして。今日からこの学園で一緒に戦わせて頂きます・・・・です。宜しくお願いします』

 清楚な仕草にたどたどしい挨拶。少し照れたようにはにかむ彼女を見て、僕は所謂一目惚れと言う病にかかった。
「最近また対ラルヴァの戦闘が増えてきたね。私も頑張らなくっちゃ」
「そうだね。キミは戦うのが好きだからね」
 僕がそう言うと彼女は頬をプウと膨らませて、可愛い怒り顔で僕に言ってくるのだ。
「違うよ~、私が好きなのは学園だって前から言ってるでしょ~」
「アハハ。ごめんごめん、分ってるよ」
 そう、彼女が好きなのは戦闘ではなくて双葉学園だ。好きな学園の為に戦っているのだ。
 けれどそれが人や物の為だけでない事を僕は知っている。それは間違いなく自分の為でもあるのだ。
 しかし彼女はそんな自分の気持ちを分っていない。ただ子供のように純粋に、そして無邪気に、残酷なほど憐れに踊っているのだ。
「ん、分れば宜しい」
「ハハハッ」
 彼女はちょっとおかしい。
 でも僕はそんな彼女の事を知って尚、一目惚れしたあの時より一層強く心惹かれてしまうのだ。

 『私、学園の為にいっぱいいっぱいラルヴァを倒すね。だから双葉くんも応援してね』

 一般人だった僕はラルヴァとの戦闘がない分楽だった為、クラス委員の仕事をしていた。
 ずっと面倒くさいと思ってきた仕事だったけれど、彼女が来てそれは一変した。
 校内の案内や教科書を貸したり、クラス委員の仕事のお陰で、僕は転校生の彼女とすぐ親しくなれたのだ。
 明るい彼女はすぐクラスの仲間入りを果たし、ラルヴァ討伐でも活躍した。
 しかしこの時まだ誰も気付いていなかったのだ。彼女がちょっとおかしいと言う事に。

 『わたし、一生懸命頑張ったよね? 学園の為に頑張ったよね?』

 一言で言うなら彼女は加減を知らなかった。数度目のラルヴァとの戦闘で、彼女のその異常性が明るみに出る事となった。
 そして彼女は注意されても、手を変え品を変え問題を起したのだ。
 彼女は自分が何故注意されているかも分っていなかった。根本的に精神構造が人と違うのかもしれない。
 ただ彼女が規則違反をした事がない事だけは確かだった。それが尚更性質が悪かった。

 『もう双葉くんだけだね、私に優しくしてくれるの。ありがとう、大好きだよ』

 やがて一人ぼっちになった彼女は、僕だけの物になっていった。

 『双葉くん。私、双葉くんのためなら何でもしてあげたいよ。双葉くんのためなら何でも出来るよ』

 そして彼女は、どんどん壊れていってしまった……。


 彼女がおかしい事を僕は重々承知だ。
 それでも僕は彼女を愛している。彼女がどんなに最悪な女だって……いや、最悪な女だからこそ、かもしれない。
 彼女が暫らく僕の前から姿を消していた時、何をしていたか僕は知っている。
 学園には人間でありながらラルヴァを擁護し、学園に属しながら学園を批判する矛盾した連中が居る。
 彼女はひっそりとその連中と一緒になって、学園の批判をしていたのだ。
 そんな娘じゃないと思っていたのに……最初からそうだったのか、それとも何かが彼女を変えたのか、僕には分らない。
 けれど、それでも彼女は僕の前では学園を好きだと言っていた。
 裏切りや失望にも似た感情を覚えつつも、結局、僕は彼女を嫌いになれなかった。

 『私、学園の事が好き。双葉くんのことも好き。双葉キミの望む事なら何でもしてあげるから……その……お願い、双葉くんも私を愛して』

 そしてある時、とうとう僕らは一線を越えた。
 それは約束とも契約とも呪いとも言える二人の儀式。もう後戻り出来ないのだなと僕は思った。
 そして僕は彼女の肢体を思う存分味わった。彼女は従順で、僕が言うと何でもしてくれた。どんな事を頼んでも嫌がらなかった。
 そんな彼女を僕は心底可愛いと思った。
 僕は彼女を愛していた。

 『好きよ、双葉くん……世界で一番好き。だから私の事も好きって言って。ギュって抱きしめて、そして離さないで。お願い、双葉くん……』

 見返りを求めない人間などいるだろうか。少なくとも僕は居ないと思っている。
 何かの漫画で「無償の愛とは天国へ行くための見返りだ」と言うのを見た事がある。それは心が汚れている事だろうか。僕はそうは思わない。
 愛の見返りに身体を貰う。身体の見返りに愛を貰う。人は一人では満たされないから、そうやって共存・共生しあって生きていくんだ。
 良い事と悪い事は+-ゼロだと思う。それでも人は悪い所ばかり見てしまうものだから、せめて僕は彼女の悪い所も愛してあげたかった。
 そうする事で、僕は自分を少し許せる気がしたから……。

 『私、悪い子だよ……こんなに好きなのに、何で私こんな事しちゃうの? もう自分で自分を止められない……自分が恐いよ、双葉くん……』

 彼女は日に日におかしくなっていき、そしてとうとう彼女の奇行が僕にばれている事を知ってしまった。
 それでも二人の共生関係は続いた。僕は壊れ行く彼女に骨抜きだったし、彼女は僕に依存しきっていた。
 二人だけの閉じられた世界で、僕と彼女は夢を語り合った。
「最近ね、ふと――どこか遠くに行ってしまいたい時があるんだ」
「どこか遠くって、例えばどことか?」
「例えば……」
 山のあなたの 空遠く、幸い住むと人のいう~と言う有名な詩がある。
 人はここじゃない何処かに幸福があると夢見る。そして山を越えて探しに行っても幸福は見つからないのだ。
 そうするとまた人は言う。もっと遠くの山ならば幸福があったのに、と。
「例えば、私の事知ってる人が誰もいない所。そこで私きっと、もっと素晴らしい人間に生まれ変われるんだわ」
「それじゃあ僕も居ない所になっちゃうね。どうやって会いに行けばいいのかなぁ」
「逢いに……」
 季節は初春。暑かった季節は何時しか寒さを通り越して暖かくなり始め、新しい生活がスタートする季節。
 でもみんな明日も今日と対して変わらない一日が始めると思っている。僕もそんな能天気な学生の一人に過ぎなかった。
「きっと逢えるよ。きっと、キミとはまた――」
 明日もまた彼女に会えるなんて、そう思っていたのだから。
 翌日から、彼女は学園から姿を消した。僕は昨夜彼女と話した事を思い出す。そして思うのだ。
 彼女は見つからない幸福を探しに、どこかへ旅立ってしまったのだ、と。



 『はじめまして、・・・・と言います。初心者ですが宜しくお願いします』

 教室に入ってきたのは今まで見たことの無い人だった。ラルヴァ討伐にもとてもヤル気で、学園の為に戦ってくれた。
 新しい転校生、それはもう僕の知っている彼女ではなかった。
 彼女は居場所をなくし、おかしくなり、そしてとうとう別人へと変貌してしまったのだ。
 望んでそうなったのか、それとも壊れた心の防衛機能でそうなってしまったのか、僕には分らない。ただ、新しい転校生が彼女だと言う事だけは、何となく分るのだ。
 好きなのに批判して、批判すると好きな物が無くなってしまいそうだったから、また帰ってきたのだ。
 欲しくても手に入らないから、いっそ自分の手で壊してしまおうとして、それでもやっぱり壊すのは惜しいから守る。そして見返りの無い戦いに、ますます心壊してゆく。
 酷く矛盾した心だ。まるでキ○ガイのそれだ。
 そうだ、彼女の心はバラバラに壊れてしまったのだ。
「あの……・・・・さん」
「え? それ誰ですか? 私は・・・・ですけれど」
 僕の声はもう彼女に届かない。
 みんなは喜んでいるけれど、僕は一人だけ喜べない。
 あと数ヶ月でまた夏が来る。夏が来れば、また彼女に会えるだろうか?
 誰とも会わなくていい。いや、いっそ誰とももう会わないでほしい。僕だけが彼女と会えればそれでいい。
 彼女がまた慣れない戦い方で苦戦している。そんなに苦戦するくらいなら、いつも通り戦えばいいのに。
 他の誰も許さなくても、僕だけは許してあげるのに。
「あの……今の戦い、カッコ良かったよ。戦ってくれてありがとう」
「あ……」
 ある時、彼女が戦い終わって一人でとぼとぼ帰ってきた時、僕は彼女にもう一度声をかけてみた。
 今までそ知らぬ顔しかしてくれなかった彼女が、この時初めて僕の目を見てくれたのだ。
「ありがとう……」
 彼女は一言だけ僕にお礼を言って後は振り向かずに去って行った。
 そうか、僕の愛した彼女はもうどこにもいないのだ。この時、僕の好きだった彼女はもう二度と戻る事は無いのだと悟った。
 彼女と撮った昔の思い出写真を見る。そしてそのまま目を瞑るのだ。

 『キミとはまた、夢で逢えるから』

 彼女の最後の言葉を思い出す。
 今も鮮明に思い出す瞼の裏のキミは、まだ僕にあの時のはにかんだ笑顔を向けてくれていた。


                           おわり

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