【居酒屋フェチ談義】


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「ちっくしょう」
 俺は携帯電話に送られてきたいくつものメールを見ながら溜息をついた。
 メールはどれもこれも『今日のコンパには参加できません』と言ったような内容ばかりで、つまるところ俺はみんなにドタキャンされてしまったということである。
 予約した居酒屋のテーブルに、ただ一人俺だけが座っていた。なんて寂しい状況なんだ。というかこれって新手のイジメじゃね? 大学生になってまでこんな惨めな思いをすることになるなんて思ってもいなかった。あいつら絶対このツケ払わしてやる。
 このままここにいてもしょうがないと思った俺は、もう帰ろうと何も注文しないまま席を立った。
「おいそこのあんた。なんだ? ドタキャンでもされたのか? こっちで飲んでいかないか。奢るぜー! ははははは」
 すると、隣の席に座っていた俺と同じ大学生ぐらいのニット帽の男が話しかけてきた。既に相当酔っぱらっているようで、大量の空ジョッキを店員さんが困った顔で片付けている。
「いや、俺は別に……」
 知らない人といきなり酒を酌み交わせるほど俺はコミュ能力に長けていない。酔っ払いに絡まれるのは避けたいので、このまま通り過ぎようとしたが、
「いいから飲めって。ほら!」
 そう言ってニット帽は無理矢理となりに俺を座らせて、ビールを飲ませやがった。
「なにするんだよ!」
「いいじゃないか。居酒屋に来て酒飲まずに帰るなんて罰当たりもいいところだぜ」
「くそ、わかったよ。飲めばいいんだろ」
 俺も酒が嫌いなわけじゃない。一杯だけ付き合ってそのまま帰ろう。そう思って俺は残りのビールを一気飲みした。
「あんたも一人で飲んでるのか?」
 俺はニット帽の男に尋ねた。広いテーブルに座っているのに一人で飲んでいるなんて妙だ。場所を取り過ぎじゃないか。
「いや、もうすぐ仲間二人が来るんだ。おれだけ先についちゃったから飲んで待ってるんだ。おっと、ほら、来たみたいだ」
 ニット帽が居酒屋の入り口に指を差すと、二人の男が入ってきた。一人はサングラスの男で、もう一人はモヒカンの男である。ガラは悪そうだが、ニット帽と同じく俺と同じ二十歳過ぎぐらいだろう。双葉大学の学生だろうか。
「連れが来たなら俺はこれで」
 と席を立とうとしたのだが、ニット帽は俺の方に手を回して逃がさないようにしていた。
「おいお前ら、こっちだ。待ちくたびれたぜ。さっさと飲もうや。新しい飲み友達もできたぞ!」
「おお。よろしくなー」
「はははは。今日は吐くまで飲むぞー」
 その二人は俺のことを特に気にすることもなく、席について日本酒やら焼酎やら好き勝手に頼み始めた。
「はあ……」
 俺は覚悟を決めてこいつらの酒に付き合うことにした。




「がははははは。そりゃねえよ。どんな女だそいつは!」
 飲み始めて二時間後、酔いのせいもあるのか、俺はすっかりこの三人たちと馴染んでバカ話に花を咲かせていた。案外こうして話してみると気さくな連中で、結構面白いと俺は思った。
「そうだ、女って言えばよ」ニット帽の男はそう言って生ビールを一気飲みした後、話を続けた。「女と言えばお前らさあ、女のどの部分が好き?」
「どの部分ってどういうことだよ。ヒック」
 俺が尋ねると、代わりにモヒカンが答えた。
「そりゃおめえ、女のいいところさ。俺は断然、胸だ。なんといっても女の良さは全部おっぱいで決まるね!」
 モヒカンはぼいんぼいんっと胸の前で巨乳を表すジェスチャーをしていた。確かにおっぱいはいい。俺は生まれて二十年、女性のおっぱいなんて母親のしか知らないが、それでもいつか触ってみたいと夢見ている。
「胸かー。いいよな。あのぷよんっとした弾力。あれは女にしかない物だ。見てるだけでも涎が出てくるし、形がいいのは我慢できずにしゃぶりつきたくなってくるね」
 サングラスは下品なことを言ってひひひと笑った。しかし今日は周りに女性客もいないので、安心して下ネタだって言えるというものだ。俺もこうしてはめを外した話をするのは久しぶりなのでテンションが上がってきた。俺も話に入って女の子の好きな部分を話す。
「俺はあれだな、おっぱいよりお尻がいい。こうきゅっと締まった感じの」
 頭の中で縞々パンツを穿いた女の子のお尻を俺はイメージする。小尻というのはいい。ずっと触っていたり、顔を埋めたりしたくなる。
 俺はしたり顔で尻について語っていたが、三人はぽかんとした顔になっていた。
「尻……尻か。わっかんねえな」
「まあ。肉付きのいい尻ならわからんでもないが……」
「小尻ねえ。何がいいのかさっぱりわからん。尻なんか舐めるのも嫌だねおれは」
 三人はう~んと唸っていた。なんだかバカにされている気がする。
「じゃああんたはどこがいいんだよ」
 俺はニット帽を睨み、酒を呷る。ニット帽は「おれか?」と腕を組み、しばし考えていた。
「そうだな。おれはやっぱり――太ももだ!」
 カッと目を見開き、ニット帽は自信満々に言った。
「ふともも?」
「そうだ。女の短いスカートから伸びるあの足。肌は白ければ白いほどいい。柔らかさと筋肉の堅さが生み出す芸術的な曲線。あれほど素晴らしい部分は他にはあるまい」
 つらつらとニット帽は太ももの魅力について語った。確かに女子高生の太ももというものは難とも言えないエロさを感じる。変にパンツが丸見えになるよりも、スカートからチラチラと太ももが覗く方がよっぽどそそられるだろう。
「じゃあ俺はうなじがいい!」
 モヒカンはニット帽に負けじとそう言った。
「またお前……そんなところいいか?」
「いやあ、骨にそって舌を這わせながら背中の肉を甘噛みしていくのが好きなんだ。たまんねえぜ」
「俺はベタに二の腕だな。特にぽっちゃりしている女の二の腕はいい、最高だ」
「ぽっちゃり系か。ならおれはぽっちゃりした子のお腹がいいな。贅肉だらけだが、たまには味わいたい」
「あーいいなー。久々に女の子とよろしくしたいねー!」
 わいわいと三人は盛り上がり、俺もどんどん楽しくなってきた。こうして女性に対しての嗜好を話し合うなんてことはあまりしてこなかった。今日は酒の力もあるが、こいつらと話しているのが楽しくてしょうがない。
 こうして気兼ねなくこういう話が出来るのが本当の友達かもしれないと、俺は仲のよさそうな三人組を見つめた。
 俺もこいつらと仲良くなりたい。今夜限りの、居酒屋だけの付きあいだけではなく、これからも大学で楽しくやれたらいいな、と思った。
 だけどそんなこと直接言うのも気恥ずかしい。こんなこと考えるのも酒の飲み過ぎのせいだろうか。少し頭を冷やそう。
「悪い。ちょっとトイレ行ってくる」
「おーうんこかーうんこなのかー」
「吐くなよ! 絶対吐くなよ! 俺の奢りだから勿体ないだろ!」
「げははは。無茶言うなっての」
 三人組の笑い声を背に、俺はトイレへと向かうために席を立つ。すると、居酒屋の入り口から一人の客がやってくるのが見えた。
 その客の姿はあまりにも居酒屋という空間に場違いであった。
 どう見ても二十歳未満の少女だ。しかも制服姿である。何故か彼女の手には刀が二つ、握られていた。
 というか酒のせいですぐに頭が回らなかったが、彼女の顔を俺は知っている。
「あ――」
 と俺が言いかけた瞬間、少女は地面を蹴り、凄まじいスピードで駆け出した。その勢いはつむじ風の如くで、目で追うことも難しい。
 少女はとんっと跳躍したかと思うと、俺のすぐ後ろの三人組が座っているテーブルへと着地した。
 そして男たち三人が反応を示すよりも早く少女は抜き身の刀を閃光のように降り、同時に彼ら三人の首が宙を舞った。
「え? え?」
 突然のことに混乱している間に、俺は三人組の首の断面から噴水のように噴き出た血を全身に浴びてしまった。思考が停止してしまう。
「な、なんで……?」
 俺は悲鳴も上げることもできずに床に転がった三つの首を見つめた。
 だがそこにあったのはさっきまでの人間の顔ではなく、恐ろしい鬼の顔をした生首だった。大きな牙がずらりと並んでいる。
「すまないな驚かせて。だが逃がすわけにも行かずに素早く決着をつける必要があったのだ。許してくれ」
 茫然とする俺の肩をぽんと肩を叩いた。少女の腕には『風紀委員』の腕章がある。彼女は風紀委員長の愛洲《あいす》等華《などか》だった。
「こ、こいつらはいったい……?」
 必死にそれだけの言葉を押し出すと、愛洲は説明をしてくれた。
「彼らは人食い鬼だ。しかもか弱い女の子ばかりを主食にしていて、全国で指名手配されていたのだ。人間に擬態できるため今まで逃げ延びてきたようだ。もっとも、異能者には通用しない擬態だからな、双葉区で目撃情報があったから風紀委員たちで追っていたのだ。まさかこんなところでのうのうと酒を飲んでいるとは思わなかったが」
 もうすぐ応援が来てラルヴァの後処理をしてくれるだろうと言って、愛洲は刀の血をふき取っていた。
 彼女の説明を聞いて俺は寒気を感じた。一気に酔いが冷め、嫌悪感だけが湧きあがっている。
 そして俺は悟った。
 彼らが言っていた女の子の好きな部分というのが、性癖やフェティシズムではなく、ただ純粋に“食べておいしい部分”を楽しそうに語っていただけだったということに。

 終



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