【スカイラインピジョン04(後半)】


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「ダメだ、全然言うことを聞いてくれない」
 青空はさらに加速していき、一ミリも左右にぶれず、弾丸のごとく直進を続ける。やがて彼は海に出てしまい、真っ直ぐ北東を目指していった。
「ちょっと、そっちはマズいわよ!」
 あの葉月が焦ってそう叫ぶ。青空の進んでいく方角は千葉県、つまり双葉島の空域を突破した「表世界」だ。
 もしもフライハイユニットを背負った青空が表世界に飛び出してしまったら。一般社会には秘密であるはずの超科学が明るみになってしまい、大騒ぎどころじゃなくなる。
「くっ。できることなら仕事をしたくなかった」
 空太が無念そうに言う。人差し指と中指を揃えて伸ばし、親指を立てる。指鉄砲の構えだ。
 最後の手段だった。実は双葉学園や異能の秘匿性を死守するため、異能暴走を続ける中田青空に撃墜命令が下されていた。川崎博士はそれをわかっていた上で、非常ボタンに手をかけたのである。
 だから、久世空太が出動した。「光撃」という射撃のちからを持つ彼なら、たやすく青空を撃ち落すことができるだろう。それでもなるべく青空の生還を願った空太は、最後の最後まで彼を助ける術を模索し続けていた。
「葉月、何とか彼を拾ってやろう!」
「難しい注文ね。わかったわよ、やれるだけやってみるわ!」
「よし、いくぞ!」
 空太は青空のユニットに狙いを定め、的確に撃墜しようとしていた。ユニットを損傷させ、墜落していく彼を回収する作戦だ。
 一方青空は、突然追ってこなくなった葉月たちが気になっていた。
(何をする気だ)
 魔女は一定の間隔を保って飛行している。先ほどみたいに無理に突っ込んだり、こちらを追いかけて強引なターンをしたりすることはなく、全く何も仕掛けてこない。後ろに乗った男子生徒が腕を伸ばし、こちらをじっと見つめている。
 そのとき青空は彼の放つ集中力に、何か自分と似たようなものを感じていた。
 それは弓を持って射に入るときに放つ、眼球に穴の開きそうな「集中力」であった。それは恐らく「殺気」と言いかえられるに違いない――。
「う、うおぉおおお!」
 そう直感したときには、彼は雄たけびを上げて頭を下に向けていた。東京湾へ頭からダイブするかたちの、根性とヤケクソの下降だ。
 そして青空のいた高度を、空太の放ったショットが通過していく。
「避けられた!」
 空太は海面目掛けて下降していく、中田青空を見下ろす。すかさず葉月も青空を追いかけ、左方向へ高度を下げつつ勢いを得ながらターンを決める。
 青空は前方へ転がり込むかのような下降を続け、海面すれすれの位置で背面飛行に移った。下降で速度が最大限に付いたときには、頭の後ろ側では青い海が広がっている。冷たい波しぶきがぴちゃりと額にかかった。そしてくるりと進行方向を軸に回転し、頭を上に戻して、縦方向の180度ターンは見事に成功した。
「嫌ぁ! 青空くんを殺さないで!」
 校舎の屋上にぺたんと座りこみ、つばめは絶叫する。魔女の箒から青白い閃光が飛んだのを見たとき、予想だにしなかった展開に彼女は息が止まりかけた。
 そして、ようやく自分が犯した罪の重さを知る。青空に撃墜命令が下されていたのだ。
 フライハイユニットを背負った彼を、表社会に干渉させるわけにはいかない。青空を止めないと学園や国にとって深刻な問題となってしまう。
 でも青空は何とか難しいターンを決めて、圏外への突破は免れた。だが撃墜の命令が下っている以上、彼が生き延びるのはもう難しいのかもしれない。
「私のせいで・・・・・・!」
 あれだけ川崎博士が念を押していたことを、どうして軽い気持ちで破ってしまったのか。
 ただ青空と一緒にいられるのが嬉しかっただけなのに! 生まれてきて良かったと思えるぐらい幸せだったのに! しかしそんな単純な理由で彼は生命の危機に陥っている。つばめはひたすら後悔に暮れていた。


 研究所の扉が開く。登場したのは、肌の手入れも行き届いている綺麗な女性だった。ぱっと見ただけでは誰でも三十代に見えることだろう。
「川崎さん」
「渡部、厄介なことになったぞ!」
 渡部星花だ。双葉学園の准教授であり、超科学者の一人としてスカイラインピジョン・プロジェクトに参加している。
「話は聞きました。大変なことになったわね」
「事態は深刻だ。中田の魂源力とつばめのコンバーターがまったく噛み合わねぇから、ユニットが暴走している」
 フライハイユニットは個人の魂源力に合わせてセッティングされた、オーダーメイドの機材である。よって他人が他人のユニットを使うと、魂源力とユニットの同期が上手くいかず、思わぬ事故に繋がる危険性があった。
「だから、あんだけ『やんな』と言っておいたのによぉ!」
 ガンと、博士は真横にあったパイプ椅子を蹴っ飛ばした。星花も険しい表情で、羽虫が描くような軌道をなぞり続ける、モニターの赤い点を見つめている。その点を追尾するもう一つの赤いランプは瀬野葉月を示していた。
「権藤さんもどうしたのかしらね、人の言うことを聞かないなんて」
「それがよくわかんねぇんだ。あいつはこの頃おかしいんだ。妙に浮かれてふわふわしてやがる」
「中田くんの加入と関係あるのかしら」
「とにかく、そんなおふざけで貴重な人材と機材が失われようとしてんだ。たまったもんじゃねえ! あいつにゃちょっと、ガツンと言ってやらなきゃならん。なんつうか、甘やかしすぎた・・・・・・!」


 制御不能となってから長い時間が経った。青空はあちこち飛び回った末、双葉島の最西端上空に到達していた。ユニットから放射される赤の発光体は全く衰えることなく、むしろどんどん出力が増していく。
「やばい。今度こそどうにもならない・・・・・・!」
 先ほどまでは強引に機首を下げたり翼を傾けたりといった必死の行動で、何とか生きながらえることができた。だが青空自身の疲労もあり、いよいよ思うように動くことができなくなってしまった。万策尽きた。
 彼は真っ直ぐ、斜め下方向に突き進んでいく。高度が下がる。地面が近くなる。自分の描く軌道の先を見ると、顔面から血の気が引いた。
「建物だ・・・・・・!」
 黒ずんだ建物が見えてきた。島の中心部からはちょうど山が影となっていたため、青空はその建物の存在を初めて知る。敷地がかなり広いが、何かの跡地だろうか?
 このままではあの建物に突っ込んでしまう。そうなってしまったら、今度こそ本当におしまいだ。まず命は助からない。回避しようと体をひねるが、全く角度も方向も変わらない。力を振り絞ってもがいてみたところで、もはやどうしようもなかった。
「ち、畜生!」
 自分の人生がこんな終わり方をするとは思わなかった。せっかく口裂け女の襲撃から生き延び、真面目な生徒に戻って、ひかりのために頑張ろうと決心したのに。あまりにもあっけない幕切れに、やりきれない気持ちでいっぱいだ。
 やがて彼は疲れきった様子で大きく息をつき、モバイル学生証の電源を入れる。通信機から聞こえてくるつばめの声がうるさかったので、切ってしまっていた。
「・・・・・・聞こえるかい、権藤さん」
『青空くん? 青空くん大丈夫なの? ねえ!』
「島の西にいる。そこに俺の骨は埋まってるから、拾っておいてくれ」
『何言ってるの! そんなこと言わないで!』
「せっかく二回も助けてもらったのに、ごめん。今度こそダメそうだ」
『やだぁ! 青空くん、死んじゃやだぁ!』
 通信機の向こうでわんわん泣き叫ぶつばめ。
 君はどうしてそんなに泣くんだろうか? 
 君は俺の適正や才能だけに惚れて、この翼を着せたんじゃないのか・・・・・・? 
 青空はそうきこうかと思ったが、止めた。その代わり、こんなことをつばめに伝える。
「ひかりちゃんをよろしく頼む」
『・・・・・・え』
「悪い先輩でごめんなって。『好き』って言ってもらえたこと、死ぬほど嬉しかったって」
『・・・・・・』
 そう、言葉として残しておきたかったことをつばめに託す。そうしているうちに、とうとう眼前に巨大な建物が迫ってきた。ひび割れた壁面と、スプレーの落書きがはっきり見える。死は刻一刻と迫っていた。
 ふと、青空は真横を見る。東京湾だ。
 海が自分の知っていた以上に青くて綺麗で、遠くの都会もぎらぎらときらめいて美しい。
 つまらないものだと思っていた日常や風景が、こんなに素晴らしいものだなんて。それだけ彼の心から薄汚れたものが全部消え去って、すがすがしい気持ちでいっぱいなのである。
 口元が緩む。幸せなあまり笑顔になったのだ。
 そして静かに目を瞑った。最期の最期で、人間として活き活きとなれたこと。こんなにも幸せなことは無い。中田青空は一筋の涙を青空に預けて、深い眠りにつこうと――
『私もあなたのことが好き! 大好き! だから死なないで!』
 カッと、彼の両目が開かれた。
 ドクンと心臓が波打ち、全身に力がみなぎる。指先まで熱くなる。
『あなたのためにしてあげられること、ずっと探してた! あなたの笑顔が見たかった! そしたら好きになってたぁ!』
 ぐるぐると脳みそが揺さぶられる。こいつは、土壇場で、何を言って――!
『死んじゃ嫌だからキミを助けたぁ! 一緒のチームになれてとっても嬉しかったぁ! だから帰ってきてよぉ、大好きだからぁ!』
 青空はそれまで、つばめの言動一つ一つが面白くなかった。
 自分の力がお目当てでかいがいしく世話を焼いたり、スカイラインピジョンに勧誘したりしたはずのつばめに対し、心が揺れ動いてしまう自分が許せなかった。ひかりのために頑張ろうとしているのに、隣ではしゃがれるのが正直目障りだった。
 とんでもないタイミングで聞かされた、つばめの本音。二人の間にあった認識のズレや誤解が、ぱっと解消する。心のうちにあったもやもやとした気持ちが霧散したように晴れた。
 生還してやる。
 一転、青空の心のうちはそれで決まった。瞳に輝きが蘇る。
 しかし、あまりにもスピードが付きすぎて今更制御のしようがない。彼は放たれた矢のごとく、あの恐ろしい廃墟へ激突しようとしていた。
(あきらめるな!)
 ベルゼブブ・アーマーズでもそうだった。残り十秒といったタイミングで大差がついていても、十分逆転を見込むことができた。それは奇跡を待つなどといった安直なものではなく、油断を見せるか、気迫が上回るかで達成することのできた逆転劇である。
 青空は心のなかでツインスティックを握っていた。持ち前の集中力が極限にまで跳ね上がり、取り柄である反射神経が刃物のごとく研ぎ澄まされる。
 絶体絶命に陥ったとき、自分はあのゲームでどんな行動に出た?
 大逆転を狙ってどんな大技に出た?
 どうすることで相手に、特に「つばめに」意地を示してみせた?
 そして青空は、一か八かの賭けを思いつき、はっとなる。
(そうか。押してダメなら、引いてみろ!)
 彼は強く念じた。フルスロットルで思い切り加速することを。


「完全にコントロールを失ってるわ。突っ込むわよ」
「うう、いっそ海上に落としたほうが良かったか」
 青空を追って飛行している、葉月たち。双葉島は島いっぱいに民家や施設が広がっているので、当然のことながらこの場での撃墜はできない。青空があのまま墜落していくのを眺めているしかない。
 しかし、彼らはまさかの光景を目にする。
「どんどん加速していくな。どうするつもりだ?」
「激突する気? 死んじゃうじゃない!」
 そして、青空の全身が赤い光に包まれたのを見て二人はびっくりする。真っ赤な火の玉となった青空は、なおも勢いを増し、屹立と立ちはだかる無骨な建物に真っ向から立ち向かう。
「そうか。彼は建物を吹っ飛ばす気だ!」
 空太がそう叫んだ通り、青空は最後の手段に出ていた。
 魂源力を可能な限りユニットに叩き込んで最大出力を引っ張り出し、建物に真正面から突っ込むという荒業に出たのだ。ただ激突するのではなく、相手を吹き飛ばしにかかった。
「死んでたまるか!」
 青空は叫ぶ。
 ゲームで泣きながらつばめに飛んでかかったときのように、建物へと突っ込んでいく。
 あの時と違うのは涙を流していていないところだろう。生き延びるつもりだった。これからもひかりのために戦い、そして大切な女の子のもとへ帰還するつもりでいた。
「俺は生きて帰るんだあ――――――ッ!」
 雄雄しい叫び声。そして赤い火の玉は建物に突き刺さる。島中を揺るがす衝撃音。
 それは中田青空の最後に見せた、意地の特攻であった・・・・・・。


    エピローグ


 中田青空が病院で目を覚ましたと聞き、川崎博士と渡部星花は真っ先に駆けつけてきた。
「このバカタレがぁ!」
 けが人に容赦なくげんこつを食らわせ、医師や看護士に取り押さえられる博士。病室から締め出されながら、ぎゃーぎゃー喚いて病院に迷惑を働いていた。彼は顔を真っ赤にして泣いていた。
「悪く思わないでね。それだけあの人、あなたたちのことが大事なの」
「は、はぁ」
 だからって本気でぶん殴らなくてもいいじゃないか、と青空はこっそり毒づく。窓の外は今日も天気のいい、ぽかぽかした日差しが降り注いでいる。
 青空による決死のダイブは、大成功だった。魂源力を身にまとい、全力で建物に突入したのが良かったらしい。下手に威力や速度を落としていたら命を落としていた。
 結果として、あの廃墟の大半が吹き飛んでしまった。あの建物は放置状態となってから数年がたち、不良もたむろしていて治安も悪かったので、結局解体することに決まったようである。
「スカイラインピジョンは二週間の活動自粛。醒徒会による判断だから、どうしようもないわね」
「うう、すみませんでした」
「まぁ中田くんは生きて帰ってこれたんだし、どうってことないわ」
 星花はお見舞いの品であるフルーツの詰め合わせから、りんごを一つ手に取った。旬の果物なだけあって、フライハイユニットを連想させるような深みのある赤色をしていた。
「ユニットも無傷で戻ってきたしね。博士も仰天してたわ。中田くん、特攻の才能もあるのね」
「けど俺、何でそんなことしたんだっけ・・・・・・」
 青空は「特攻」を仕掛けたときの記憶を失っていた。恐らく建物と激突した、そのショックが原因だと思われる。
 彼によると、死の覚悟を決めて目を瞑ったあたりまでしか、はっきりとした記憶が無いという。その後は変に気持ちが高ぶったり、無線でつばめが何か叫んでいたりしていたことはうっすらと覚えがあるが、あれからどうしてダイブなどという無謀な手段に出たのか全然覚えていなかった。
「二度とやりませんからね。ああ、生きてて良かった」
 うふふと星花は笑う。彼女はりんごをくし形切りにし、一つ一つ皮を向いていた。
 そしてその微笑をたたえたまま、寂しそうに青空に重大な件を伝える。
「権藤さんの、無期限活動禁止が決定したわ」
「え」
 青空の表情が激変した。
「川崎博士が今回の件を重く見てね、今後一切ユニットを着せないことを決めたの。やるなって言われたことをやっちゃったんだから、こればかりは私にもフォローのしようがなかった」
「自分も活動禁止にならないのは、どうしてですか?」
「中田くんは未知のポテンシャルを秘めている。そういう事情もあって、厳重注意だけで許してもらえるそうよ」
 とすると、先ほどのげんこつが厳重注意のあたるのだろうか。
「権藤さんは様子がおかしかったの。どこか浮かれてて緊張感に欠けてた。そのあたり杉下くんがよくわかってるわね」
 やはり青空の抱いていた違和感は確かだったのだ。つばめはそれなりに常識の伴った子だと思っていたのに。
 りんごを切り終えた星花が、小皿に盛り付けて渡してくれる。それを受け取ると、彼女は真剣な眼差しをして青空にこう言った。
「もう一度だけ、念を押しておくわ。それだけ博士はあなたや権藤さんのことが大事なの。これだけはどうかわかってほしい」
 つばめのユニットの色をした、小さなりんごのうさぎ。
 彼女が空に戻ってくる日はやってくるのだろうか。


 スカイラインピジョンの活動自粛期間が明けてから、すぐのこと。
 中田青空はフライハイユニットを装着して、双葉島上空を飛んでいた。彼専用の真っ白なユニットを背負い、自由に空中散歩を楽しむ。
「風が気持ちいいなぁ」
 新鮮な空気が肺を満たすと、ひときわ幸せな気分になる。
 この無限大に広がる青い空間が、彼のこれからの活躍の場だ。青空はいよいよ立派な異能者になるための、第一歩を踏み出したのだ。
 と、そのときユニットから電子音が鳴り響く、しかしもう驚くことはない。後ろを振り向くと、黒いとんがり帽子を被って箒にまたがる魔女が追ってきた。
 彼女は彼の横に並ぶと、つんとした無表情のまま話しかけてくる。
「ロールアウトおめでと。で、どう? 初めての空は」
 そう聞かれた青空は、周囲を見渡す。
 眼下の町並み。遠く広がる海。そして自分を縛るもののない、寛大で暖かい大空。
 感動のあまり涙が滲む。自分はこの神聖な場所へ踏み入ることを許されたのだ。
 ぐっと親指を立てて彼女に、白い歯を見せる。
 それに対して魔女は、ふっと優しい笑みを見せてくれた。
 彼と並んで空を飛んでいるのは、魔女研に所属する中等部の女の子・瀬野葉月。
 そして彼女の後ろで箒にまたがっているのは、相方の久世空太だ。彼は青空のフライハイユニットに興味の眼差しを向けている。
「スゲェとしか言いようがない。それさえあれば俺も空を飛べるのかな」
 それを聞いた葉月がムッとし、突然ぐるんとロールを行って空太を揺さぶる。彼をいきなりさかさにしてしまった。
「空太は私がいるからいいでしょ! そんなに私がイヤならここで降りちゃいなさいよ、このっこのっ!」
 肘うちを容赦なく食らわせる葉月。「痛いからやめろー!」と悲鳴を上げる空太。
 そのような仲睦まじい二人を見て、青空はほんのちょっぴり寂しい気持ちになる。本来なら自分を応援してくれる可愛い後輩がいたはずだったから。また、自分の隣を飛んでくれる仲間もいたはずだったから。
「まぁ、鳥さん? 今後もよろしく頼むわよ」
 葉月は凛とした笑顔を青空に向けると、クンと箒の柄を真上に向けた。箒からきらきら零れ落ちる赤い星屑が、それに続いていく。
 魔女はとんでもない勢いで垂直上昇をしながら、ぐるぐるロールをしてみせる。すると箒の穂は美しい赤い螺旋を描いて天へ昇っていった。彼女なりの祝福なのかもしれない。
「後ろに乗ってた人、平気なのかな・・・・・・?」
 青空は口元を緩ませつつ、魔女に敬礼を送る。


 公園のベンチにて、権藤つばめは青空のテスト飛行を眺めていた。
 彼と空を飛びたくてスカイラインピジョンに誘ったというのに、悲しい結果だ。つばめは言葉を発することなく、ぼんやりとあの空にもう一機、赤い翼を背負った自分自身が横に並んで飛んでいる幻を見ていた。
 生気を失ってしまった彼女の傍らに、穏やかな微笑を浮かべた渡部星花がついている。つばめの心のケアを、博士から任されている。
 スカイラインピジョンは当面、一号機を欠いた状態で活動を続けるという。


「中田青空か。ふっ・・・・・・」
 引きつりに引きつった、これ以上ない苦笑。
 青空のテスト飛行を見物している人物が、ここにも存在していた。右手にはマックスコーヒーの空き缶。
 その空き缶を、彼は握力だけで潰してしまう。
 高等部校舎の屋上にて、男子生徒は激しい憎悪の視線で青空を睨みつけた。背中には黒のフライハイユニットが。
「あいつのせいでスカイラインピジョンは滅茶苦茶だ!」
 露骨に憎しみを込めて、そう言い放つ。
 彼の名は杉下岳と言った。



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