【とあるヒーラーの特別任務】


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『遠藤雅さんへ 今度の想定演習に、治療班として同行してください』
 その通知を天に掲げ、僕はぶるぶる震える。
「やったよみく! 久しぶりの仕事だよ!」
「よかったね! 本当によかったねマサ!」
 僕らは抱き合い、その場で三回転はした。
 来週、中等部の生徒たちが大規模な対ラルヴァ戦の想定演習を行う。各自がそれぞれの力を使って戦闘するわけだが、軽いけが人が出る恐れがあるので僕の出番がやってきた。
 最近の僕は力を使う機会に恵まれず、双葉学園での存在感は無いに等しかった。せっかく鳴り物入りで入学したのだから少しは活躍したいのが本音である。
「でも気をつけてね? 無理しちゃやだよ?」
「治療班だから大丈夫だよ」
 心配そうに上目遣いをしてきたみく。その小さな頭を、僕は妹をあやすように優しく撫でてあげた。
 活躍できる機会が訪れるのは嬉しいことだ。しっかり活躍をして、ヒーラー遠藤雅として自分を売り込んでいきたい。ロリコンではなく。


 今週末、僕は用事があって外出していた。
「待ち合わせはここかな」
 通知書に一緒に添えられていた、地図を見ながら呟く。
 今回のミッションに先立ち、「ある人物」が僕に力を貸してくれるという。その人からちょっとしたスキルを伝授してもらわなければ、仕事に参加できないそうなのだ。
「こんにちはっ」
 と、後ろから呼ばれる。
 とっても小さくてお目目くりくりの、キュートな女の子がいたのだ。ちょっぴり好み。
「遠藤雅さんですね?」
「はい、そうですけど」
「よかった!」彼女はにぱっと笑う。「私が遠藤さんにお手伝いをします、『有葉千乃』といいますっ」
「千乃ちゃんだね。うん、よろしく!」
 にっこり手を伸ばす。だが、その左手に何かが噛み付いてきた。
 見ると、学園の制服を着たスタイルのいい美少女が、僕の手に噛み付きながらジト目で睨んできているではないか。
「ふがふが」
「い た い」
 そう抗議をすると、吊り目の女の子は噛み付くのを止めてくれた。曲げた体を真っ直ぐさせると、僕よりも高い身長でデンと見下ろしながら、威圧してこう言う。
「あんたねえ、初対面なのに『千乃』って馴れ馴れしくない?」
「初対面なのに噛むのもどうなのかな!」
 泣きながら言い返す。左手には赤い歯形が残ってしまった。
「ダメですよ、春ちゃん」
 千乃ちゃんがそう諭す。どうやらお友達らしい。
「ま、いいわ。私は『春部里衣』。千乃のフィアンセよ」
 ……お友達以上の関係ときた。僕は度肝を抜かれる。
 この高等部の女の子二人が、今回僕に何か力を貸してくれる人である。訓練の日までに会い、彼女たちからあるワザを授かるのが必須事項だった。
「そういうことで遠藤さん、これからお部屋に行きましょう」
「うん、よろしくね」
「千乃に変なことしたらぶっとばすから」
 と、春部さんは今にも飛び掛ってきそうな剣幕で凄みを利かせる。相当、僕が千乃ちゃんと会話をするのが気に入らないようだ
「ところで、今日はどういうことを教えてくれるの?」
「着いてからのお楽しみですっ」
 人差し指を頬につけ、首を傾けてウィンクしてくれた千乃ちゃん。
 何て可愛い女の子なんだろう、抱っこしてお持ち帰りしてぎゅーしたい。


 それから数日後、中等部生徒たちの、大演習のときがやってきた。
 なるべく安全な訓練を心がけるそうだが、どうしても無茶をしてしまう生徒がおり、救護室に担ぎこまれる子が絶えないのだとか。だからヒールの使える僕のような存在は、非常にありがたいものだということである。
 さて、僕は言われたとおり救護室で待機である。
 それも『女子専用の』救護室で、である。
「あなたが今回来てくれたヒーラーちゃんね。よろしくね!」
「はい、よろしくお願いします……」
「けっこう可愛いい子でびっくりよ。名前はなんていうの?」
「遠藤ミヤビです……」
 もう心が折れて今にも涙が出そうだった。
 僕は今「女装」をさせられている。胸パッドを仕込まれた体にぴっちりした学園のブレザーを着込み、スカートも短い。中を見られたら恥ずかしくて死んじゃう。足のムダ毛もこれを機に処理する破目となり、つるつるの太ももが非常に目立つ。
 長くてボリュームのあるゆるふわカールカツラを着用し、カチューシャがチャームポイントとなっていた。着け眉まで利用しているという徹底振りである。
 今回、僕は女の子専門のヒーラーとして抜擢されたのだ。女装をしなければならなかったのは、当日都合の合う女性ヒーラーがいなかったためらしい。
 自分ひとりで化粧などをできるようにするため、千乃ちゃんが女装スキルを伝授してくれたのだ。保険医らしきこのおばちゃんが言うには「可愛い」との事なので、上出来であったと喜んでおこう。男として間違っている気もするけど。
「てか、千乃ちゃんが男の娘だったなんて」
 まずそっちのほうがショックだ。でもあんな可愛い千乃ちゃんに手取り足取りべったり指導されていたらどうでも良くなってきた。男の娘ばんざい。
(自分もそんな目で見られるのかな?)
 そんなことを感じ出したとたん、わけのわからない変な気分になる自分が最高に嫌である。
 そして大規模演習が始まり、ど派手な轟音が聞えてくる。思っていた以上に中等部生たちは元気に暴れているようだ。
 それに比例してどんどんけが人も運び込まれてくる。誰かと衝突したとか、高い場所から転落したとか、そういった女の子たちに僕はヒールをかけていく。
「腕、擦りむいちゃったのね」
 そう我ながら気持ち悪い声で、黒髪ロングの女の子に言った。真っ黒な帽子とマントを着けて救護室に入ってきたので、最初びっくりした。
 治療が終わったころ、彼女は僕の目を見てこんなことを言いだした。
「ねえ、あなたヒールが使えるの?」
「ええ、そうよ?」
「なら、これも診てほしいの」
 次の瞬間僕は仰天する。目の前の女の子が胸を丸出しにしたからだ。
「ちょっとしたことがあって、痛みが取れないのよ」
 彼女は憎憎しげに話す。何でも自分のおっぱいを背後からわしづかみにされてしまったらしい。しばらく痛みが引かずに、どうしたものか悩んでいたとか。
 と、こういうことが起こりえるため、女子には女子のヒーラーが必要とされていた。そんなことより目の前のおっぱいである。中学生とは思えない爆乳だ。
「ほら、ここ。ここよ」
 触ってみて、とばかりに指を差す。
 僕のヒールは対象に直接触れることで、効果が最大限に到達する。ここは彼女の言われるままにするのも一つの道だ。
 でも、僕はふうっとため息を着いてから、
「見たところ異常は無いわ。怪我も治ったから、ほら、早く戻ろうね」
 と優しく言ってあげた。
「そうね、変なこと言い出してごめんなさい」
 服を来た彼女が部屋から去っていったのを確認し、僕は思う。
(あの子の体は、触ってはいけない。僕が触っちゃダメなんだ)
 そう、バストサイズ92のおっぱいに手を伸ばさなかった情けなき自分に言い聞かせる。きっと彼女には、触れるにふさわしい特定の男性がいるはず。僕ごときではだめなんだ。
 さめざめと涙を流しながらそんなことを思っていた。


「うう、私としたことが情けないですわ……」
 次にやってきた女の子は、すっきりとした顔立ちの、将来は美人になりそうな子である。
 爆発で飛んできた物質が、太ももの裏に直撃したらしい。シャツにハーフパンツという軽装なのでそれは痛そうだと思った。
「このあたりですわね」
 と、彼女はベッドに乗っかり、膝を抱えて左のももを上げるポーズを取った。僕はどきっとしてしまう。
 患部はほとんどお尻に近い部分で、確かに紫色のアザが痛々しい。しかし足を持ち上げたことでハーフパンツに大きな隙間ができ、股間がちらちら覗いているのがたまらなく目に悪い。何より無防備な女の子と、白いベッドのシーツとの組み合わせが個人的に困る。
「ねえ、早く治してくださります?」
「ああ、ごめんなさい」
 僕はアザに手をかざす。指の半分以上がハーフパンツの中に潜ってしまい、ほぼ彼女にセクハラをかましている状況だ。一生懸命素数を数えながらヒールを発動する。
「あん。あったかいですわ……」
 色っぽい声質の発言。頭の中の素数が洗いざらい吹っ飛んだ。
 ヒールをかけてあげたあと、彼女がどんな異能を使って戦いを繰り広げるのか、軽く会話をすることができた。「レコンキスタ」という能力だそうだ。引力と斥力を交互に切り替えて使うという。
「そのカチューシャも外せますわよ?」
 微笑みつつ、彼女は人差し指を立てて引力を発動させた。
 と、そのとき僕の頭が「ずるり」という感触を覚える。なんだろうと思ったときには、目の前に大きな茶色い毛の固まりがあるではないか。
 それが僕の着用していたかつらであることを理解したとき、僕は石像と化する。彼女はカチューシャどころか、かつらまで引っ張り出してしまったのだ。
 僕の正体を目の当たりにし、見る見るうちに顔が紅潮していく女の子。やがて両耳まで真っ赤になり、口元がゆがみ、涙を浮かべながらぷるぷる怒りに震えだしたのを確認する。
 すぐさまとんでもない音の大きさのビンタが炸裂したのであった。


 一仕事を終えた僕は、学園からアパートまでの道を歩いていた。
 僕がぶたれた女の子は、幸いにも理解のあるいい人だった。女性ヒーラーの手配が間に合わなくて、仕方なく女装をやらされていることをきちんと説明したところ、「まあそういうことでしたら、仕方ありませんわね」と言ってくれた。てっきり正体を中等部の女子に明かされて、異能持ちから惨たらしく成敗されるものかと思っていたから本当に良かった。
 そんな那由多由良さんからはねぎらいの言葉もいただけたので、今の僕は上機嫌である。なんと言っても数の少ないヒーラー事情なのだから、僕がこうして女装しなければならないことは仕方の無いことなのだ。むしろ身を犠牲にすることで双葉学園の役に立てていることを、僕は誇りに思わなければならない。
「もっと女装、頑張ろう!」
 あの沈み行く夕日に僕は誓った。
 すると湿った上昇気流が僕の髪とスカートを浮かせ、僕は慌ててお尻を押さえる。背後では学校帰りの高等部の男子たちが視線を送っていた。
「きっ」
 そう睨み返してやると、彼らはそそくさと視線を逸らす。
 本当、男の人がこんなにエッチだなんて思わない。女の子になってみて初めてわかる、客観的な事実である。
 やがて僕は帰宅し、女性ものの革靴を脱いで部屋に上がった。
「おかえり、マサ!」
 部屋では僕の居候兼ホームヘルパーである女児が、嬉々として夕飯を作っていたところだ。とことこと歩いて顔を出してくる。
「どうだった? お仕事ちゃんとでき――」
 みくの発言は、そこで停止する。
「大成功! すっごくやりがいがあったよ!」
「あんた……その格好……何……?」
「何って、女装だよ? ちゃんと可愛いでしょ?」
 こっちからきらきら上目遣いをしてそう言った瞬間、みくの黄色い瞳が、ぶわっと涙で満たされる。
「うわぁああん」
 泣いてしまった。ぺたんと座って泣き出した。
「え、どうしたの? 何で泣くの?」
「マサが、マサがへんたいさんになっちゃったぁ~~~」
 その後、一時間以上はわんわん泣き続けたみくだった。
 僕はというと、せっかくヒーラーである職務を全うし、こんなにも有意義な仕事をやり遂げたというのに、どうしてみくがそんなに悲しいのかがさっぱりわからない。




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