【ある前座の話3】


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「まったくもぅ、そんな強くもないんだから、無茶したっていいことないよ~兄ちゃん」
「そうですよ、少しは自重してください」
「……面目次第もない」
双葉学園の片隅にある、主に『超科学』の力持つ学生やかつて同等の力を持っていたとされる指導員らが
集う研究区画。
よく言えば雑居ビル、悪く言えば一般的な日本中の高校の運動部室棟の乱雑さを凝集したようなその場所の
一画を、今日も今日とて西院 茜燦(さい せんざ)は訪れていた。

―――※―――

訪れたその部屋は、少女趣味と機械油の匂い、ぬいぐるみと機械工具が混在する魔空間である(まぁどの部屋も
似たり寄ったりではあるのだが)。
その部屋の主は、鵡亥 未来来(むい みらく)と明日明(あすあ)の双子姉妹。
その双子は揃って秀才、揃って能力者、揃って見た目はいい。
だが姉未来来は外交的・陽気で妹明日明は内向的・内気と対照的ではある。

―――※―――

「それで、頼んでいたものは?」
「ふっふっふ……その剣の内蔵魂源力を分かりやすく認識する手立てはないものか、って話だったよね?
 それで作ったのが……これ!その剣の鞘が刀身に送り込む魂源力の対流速度と、抜いた刀身に篭った
 魂源力の消費量が、このモノクルの内側に表示されるってわけ。どう?すごいっしょ?」
「へぇ、どれどれ……?」
茜燦は未来来が差し出すモノクルを受け取って左目に付けてみる……と
「あ、あった。これを、ここに……っと」
茜燦の後ろに回っていた明日明が、モノクルから伸びるチェーンの一端を四宝剣の鞘に括り付ける。
「数値とメーターと、どっちがいいか迷ったんだよね~、まぁ戦闘中忙しくなると直感的理解のほうが
 いいかと思って、メーター表示にしたんよ。どうかな?どうかな?」
「……ほう、これはすごい、な」
「えへへ……褒められちゃったね、未来来」
「ま、と~ぜんでしょ!」
えっへん、とそこそこある胸を強調するかのように偉ぶる未来来。
「そんなこと言って・・・…未来来は図面を引いただけでしょうに」
「どうせ私は図面だけですよ~だ!明日明みたいに何か具体的なモノが作れるわけじゃないもんね~!」
つーんとそっぽを向いてしまう未来来に、おろおろする明日明。この姉妹の日常である。

―――※―――

未来来も明日明も、この双葉学園の研究棟に一室を構えていることからも分かるように、『超科学』に
属する能力を持ち合わせている。
未来来は、「用途が判明しさえすれば工具や装備の図面を直感で引くことができる」能力。
但し基本的にハンディサイズのものに限るし、素材等の考慮は一切為されない。なぜなら天啓だから。
大容量を要する物をハンディサイズに納めるとなると、図面の天啓を授かるために相応の魂源力消費を
要求されるという難点を持ち合わせている。
一方明日明の持つ能力は、「魂源力の流動・放出を検知する装置の開発」である。これもまた天啓であり、
しかもこちらはいつ降りて来るか分からない。しかも、天啓が下るや否や、その開発のために寝食を惜しみ
性格が変わるほどのフル稼動状態になってしまい、開発が終わると大抵療養施設送りになってしまう。
ちなみに、出来上がるモノは総じて独創的かつエキセントリックなため、量産化に向かないという欠点がある。

……で、学園都市のド真ん中で天啓が下り、突然立ち止まり小刻みに震えだしたかと思ったら突然
「くけけけけけけけけけけけけけけーーーーーーーー!!!」とか叫びだして奇行に走り出した明日明を
「たまたまそこに居たから」という理由で未来来と共に研究棟へ強引に押し込んだ、というのが、鵡亥姉妹と
茜燦との出会いである。
茜燦が受け取ったモノクルも、その奇行伴う天啓により生み出された魂源力解析レンズシステムと、
天啓図面を元にして作られた姉妹合作である。

―――※―――

「で……はい」
未来来は茜燦に平手を突き出す。漫画であれば、びしぃ!とか擬音語が付きそうな勢いだ。
「なぁなぁゼンザ兄ちゃん?まっさか、タダで、貰えるとは、思っとらんやろなぁ~?」
差し出された手が、生贄を求めてわきわきと動く。
「……だから、俺はゼンザじゃないと何べん言えば分かってくれるんだ?」
「私は別に、何にも要らないですよ。茜燦さんがそのモノクルを役立ててくれるなら、それで十分です」
「何々?そうやって露骨にポイント稼ぎすんの、明日明?やめときやめとき、こんなケチンボの甲斐性無し」
「随分な言われ様だなぁ、俺……」
「そ、そんなんじゃないよぉ……未来来の言うことなんて、真に受けないでくださいね!」
明日明の顔がさっと赤くなる……のだが、
「(明日明、疲れてるみたいだな。さっさと未来来と話つけてひとまず休ませてあげよう)……しゃあない、
 今度なんかオゴるくらいしか出来んが、それで妥結してくれ」
「なんやぁ、ショボいなぁゼンザ兄ちゃん。もっと豪快にいけないのかねぇ?」
「もぅ、あんまり無理言って困らせないの!……あの、無理はしなくていいですからね?」
「いや、まぁ礼の一つもしないと、とは思ってたから良いんだが。じゃ、このあたりで失礼するよ」
「は、はい!また来て、下さいね」
「今度はちゃんと手土産持ってくるんやで!またな~ゼンザ兄ちゃん!」
大人しめの声と元気一杯の声に送られて、茜燦は研究棟を後にする。

―――※―――

今回モノクルを作ってもらったのは、四宝剣のリミッターについてより良く理解する必要があったため。
そもそもこの四宝剣は、四つの鞘を一まとめにした特殊な形状をしており、さらに特殊な伝統工芸的手法で
一振りを抜くと他の三本が抜けなくなり、いかな手段を持ってしてでも対応する刀を鞘に納めないと他が
抜けないという、かなり面倒な仕様である。さらに付与された式術により「強引に破壊すると鞘が破壊され、
魂源力蓄積機能が失われてしまう」という特性を持っている。
さらに、抜き放った刃はそれぞれに炎・氷・風・斬突の4つの特性を古の技法により付与されているが、
その特性は鞘が持ち主から吸い上げた魂源力を刃に注入して発動するため、抜きっぱなしにすると、徐々に
唯の刀になっていく。
簡単に言えば、自分が電源で、鞘が充電器、各々の剣が電池+装置、といったところか。
で、今回のモノクルはその充電具合と電池の損耗度を視認するためのもの、というわけだ。
強くなるにしても、まずは自分のこと、自分に出来ることを把握し理解しなければならない。
そのための手助けになってくれるはずだ。

―――※―――

研究棟を後にして男子寮に戻ろうとしたところで、背中から声をかけられる。
「西院君?こんなところで会うなんて、珍しいわね」
「舞華さん、どうも。車椅子の調整ですか?」
「ん~、まぁそんなところ」
「それはそうと、先日は助かりました。何分男じゃやりにくいことばかりで……」
「いい息抜きになったし、楽しかったわよ。メイジーちゃん、って言ったっけ」
「メイジーのやつ、迷惑かけてませんでしたか?」
「え、あ、うん……そうね、うん」
舞華は、先日茜燦に頼まれてメイジーの引越しと買い物に付き合ってあげたときのことを思い出す。
先日助けてもらったことへの恩返しもあったし、「流石に女の子特有の商品の売り場には付き合うわけには
いかない」「頼める知り合いが他にいない、申し訳ない」と言われてしまった手前快く引き受けたが、
あの子がときたま攻撃的な目線をこちらに向けてきたのが気になった……何か、してしまっただろうか?

「それにしても、こんな学期半ばに転校なんて、珍しいわね」
「さぁねぇ……学園も、小母さんも、何考えてんだか」
メイジーのこと、生徒会長にお礼を言いに言ったら生徒会室が想像以上のカオス空間で引き返してきた事などを
話しながら、寮への分かれ道まで一緒に向かう。
「それじゃ、ここで」
「うん、また明日」
男子寮と女子寮へ、それぞれへ向けて歩き出す。

―――※―――

時は夕暮れ。茜色の空に燦々と夕日が照りかえる。
伸びる影を見ながら、茜燦は思う。
(確か、初めてラルヴァという存在と直接対面したのも、こんな夕暮れ空の下、だったっけ……)

去年の夏、田舎に帰った際に偶然ラルヴァに襲われたときのこと。
得体の知れない、ヘンなモノが襲ってきた。よく分からないが、とにかく吐き気がして寒気が収まらない程に
とてるもなく怖かったことだけは、今でも良く覚えてる……というか、先日思い出さざるを得なかった。
あの時はまだ戦うことなんて知らずに逃げるしか出来なかったが、袋小路に追い詰められたときに、
「最初は干渉すまい、スルーしようかとも思ったんだけどな……義を見てせざるは勇無きなり、ってな。
 本来なら助かるはずはなかったんだろうが、まぁここは命あっての何とやら、生きてるだけめっけもんだと
 思って、とりあえず生きてみれ」
「あ、あんたは……一体……!?」
「通りすがりの全身鎧さ。こんな姿なのは……まぁ勘弁してくれ」
目の前にいきなり、銀とも玉虫色ともつかない、決して不快ではない不思議な色をした全身鎧にフルフェイスの
ヘルムで顔を覆った騎士然とした男が現れる。
その男は、まるでそれが何かの序であるかのように気楽な構えから、鎧同様奇怪な色の大剣を一太刀揮う。
その場に居た幾匹かのラルヴァは、たったひと薙ぎの一瞬の内に、余す所なく絶命、粉砕される。
「おっと、そろそろヤバイか。境界面が歪み始めてるな……早いとこ戻らんと」
「あ、あの……!あ、貴方は……?」
「名乗るほどの者じゃないさ……ま、仮に運命の悪戯か何かで、時空境界面に立ち入るようなことがあったら、
 そんときは改めて名乗らせてもらうさ。じゃあな」
それだけ言うと、全身鎧の男は剣で空間を薙ぎ……空間の裂け目に消えてしまう。

思い返してみても、明らかにありえない話だ。ラルヴァを一刀で沈める力、妙な鎧、空間を裂いて消える、
どれも馬鹿げてる。こんな話をしたところで誰も信じないのは明らかだし、自分でも、あれは夢か何かでは
なかったか、と思うことがある……とはいえ、こうして自分が生きていることだけは事実だ。

それにしても、肝心なところで助けてもらってばかりだな、俺は。
だが今するべきは、自分の不甲斐無さを恥じ入るよりも、いつか誰かを護れる自分になることだ。
そのために、今はもっと修練を積まなければ。
気は進まないが、大学部にいる兄弟子の所にでも行ってみようかな……。

日が暮れ、夜の帳が降り始める学園を、ひとり茜燦は帰路を急ぐのであった。



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