【魔剣領域BladeZoneⅣ-Ⅰ】


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 【魔剣領域BladeZoneⅣ】 赤い帽子の少女 Ⅰ

 ダルキー・アヴォガドロ

夕食を終えて食器も洗い終えてから……つい物思いに耽っていた。
 日本に着てから何日経っただろうか。
 季節は夏から秋にシフトした。この国に来た当初の蒸し暑さはどこかに失せ、今は木々の色も緑を無くしている。日本人はこういう風景に哀愁を感じるらしい。俺も少しだけ気持ちは分かる。哀愁の感情がもやもやとしている。
 しかし俺の場合は純粋に秋の雰囲気によるものではなく、いくらかのホームシックも混じっている。
 ホームタウンの馴染みの味や風土を思い出して、結構切ない。そしてシリウスの弩阿呆は俺がこんな思いをしてる時にも、馴染みの店でパスタやピッツァをそこらでナンパした娘と一緒に貪っているかと思うと本気でイラつく。
 あの野郎……。
「ダルキー様」
 そんなことを考えていたらいつの間にかウルカさんが隣にいた。
「おや、何ですかウルカさん」
 自賛する訳ではないものの、この短い期間によくもここまで日本語が上達したよな。
 早く覚えないと生活に支障があって困るのだから当然とも言えるけど。
「実は、お願いがあります」
「お願い?」
 珍しい。
 彼女はあまり自分の欲求を口にしない。
 食事のメニューをリクエストしたこともない。ちなみにカルラは「万漢全席作ってくださいね」と阿呆なことを言ったことがある。俺はイタリア料理専門だ。
 閑話休題。
「ウルカさん、お願いとは?」
「今度の日曜日、この学園の外に出たいのです」
「外に……?」

 この学園都市――異能力者養成学校双葉学園を中心とした双葉区は海上の人工島に作られた街だ。本土との間には双葉大橋と呼ばれる一本の橋だけが架かっており、行き来するには基本そこを通る。入る時もそうだった。
 しかしこの橋、検問がある。
 理由は二つ。入れないためと出さないため。
 異能という世間に秘匿された力を扱う場所として、それを知らない外界の人間を入れないため。
 そして、中の生徒を許可なく出さないため。
 それだけだと「おいおいどこの刑務所だ」みたいな感想に至る。実は俺も最初はそう思った。
 しかしこれはどちらかと言えば生徒のための制度だ。
 生徒の大半は異能の力に目覚めている。すると、色々な奴が子供達を襲うわけだ。
 化物共、犯罪組織、行きずりの殺人鬼。異能の力を持つ人間は大なり小なりトラブルに巻き込まれやすい。
 だから無用心には出られないようになっている。出られるのはカルラがいつもやっているチーム単位での化物討伐のための出動か、特段の事情があった場合、あとは帰省シーズンか。
 ちなみに最後の帰省シーズンに関しては一部の教師は気を張って大変だとヨシハルが漏らしていた。
 さて、そんな訳で帰省シーズンでもない以上は特段の事情がなければ出られないわけだが。
「なぜ外に?」
「……今度の日曜日は」

「お母様の、命日ですから」

 ああ。
 そういえば、資料にも書いてあったな。
 ウルカさんの母親。彼女がずっと幼い頃に亡くなった女性。
 そして、死後に娘を支えられる人間を残すためEADDに依頼した。
 依頼の結果で俺は今この国にいる。
「わかりました。学園の方に掛け合ってみましょう。理由が理由ですし、カルラやヨシハルにも協力してもらえば許可も下りるでしょう」
「本当、ですか?」
「確約は出来ませんが、まぁいけます」
「……そうですか」
 彼女はふぅと息をついて、
「良かった……」
 そう言って、少しだけ微笑んだ。
「…………」
「ダルキー様、どうなさいました?」
 ウルカさんの表情はいつもの顔に戻っていた。
「いえ、何でも」
 ポリポリと頬を掻いて誤魔化した。
「ところでウルカさん、お母様のお墓はどこにあるんです? 遠いところだとそれなりに準備が必要ですが」
「そんなに遠くはありませんよ。東京都の近郊です。街の名前は」

「針山市です」



 ???:

 夢を見ていると、たまに「これは夢」と気づけることがある。
 メイセキムと言う現象と誰かが言っていた。
 きっと今がそのメイセキムの中。
 自分の夢なのにまるで他人事のように思える。
 自分の過去の夢なのに、他人事。
 夢の中のアタシは体中傷だらけ。服だって端切れみたいなもの。
 浅く雪の積もった路地裏を、赤く腫れた裸足の足で懸命に走っている
 覚えてる。アタシはこのとき逃げていたんだ。
 あのゴミだめの様な町の裏路地を。
 逃げて、逃げて、逃げて。
 逃げたところでどうにもならないってこのときのアタシはもうわかっていたのに。
 捕まっても、逃げても、シアワセになんてなれないって思っていたのに。
でも、捕まって痛い目に遭うのが怖かったから、足をボロボロにして逃げていたんだ。
 そうして逃げて、逃げて、逃げて。
 目の前に一軒のお屋敷があった。
 覚えてる。これはほんの偶然。
 けれど偶然は続いて、お屋敷の柵が少し壊れていた。
 アタシは逃げるためにその柵をくぐって、そこで……。


「……きな」
 夢の中にいたアタシを、揺り起こす誰かの声。
「<帽子>の、起きな」
 まどろみが途切れて目を開けると、そこにはもう見慣れた<使い魔>の魔女の、眼鏡付の顔。
「……着いた?」
 まだ少し眠りを引きずった声だと、自分でも気づいた。
「アナウンスによればあと十分ってところさ」
「そう」
「しかし、熟睡してたみたいじゃないのさ。よくこんな場所で眠れるね」
 こんな場所……飛行機のエコノミー席のことかな。
「そう? 快適だけど」
 少なくとも、夢の頃のアタシの生活に比べれば、ずっと快適。
「私は駄目だね。飛んでるのに風を感じないってのが気味悪くて仕方ないよ」
「だったら、<箒>の魔女に乗せていってもらえば良かったんじゃない? あなたの荷物も彼女が運んでいるんでしょう?」
 アタシのと違って飛行機には載せられないものね、あなたの武器は。
「……あいつの海上横断危険運転に付き合う気はないさ」
 そうね、アタシも御免。
「<箒>のはもう着いてるだろうし、<鏡>のは先に現地入りしてるから私らで最後さね」
「そう」
 <鏡>の魔女ならきっと準備していてくれるはず。
 アタシ以外の三人の魔女の中で唯一信用できない相手だけど、彼女の手腕だけは信じられる。
「現地での儀式の準備や触媒の選別は<鏡>の魔女がやってくれているはずよ」
「そうさね。あいつの情報力にはホント頭が下がるよ……ところで、儀式をやる街ってどこだったかね?」
「忘れたの?」

「トーキョーの、ハリヤマ市よ」



 ダルキー・アヴォガドロ:

 出発前日の土曜日の夜。
 俺は面倒に思いながらも入念に明日の交通ルートをチェックしていた。俺が車の免許を持っていないこともあって、移動は基本的に電車とバスだ。
 そのため念には念を入れて路線図と運行表をチェックする。
 ……しかし、素で面倒くさい。移動も移動ルートを考えるのも面倒くさい。
 本当はハイヤーかリムジンで直接その墓地まで行きたい。
 しかしそんな予算はない。こればっかりはカルラが白東院家を出奔していることが悔やまれる。出てなければ色々使い放題だっただろうに。
 まぁ、これはカルラなりにちゃんと考えての選択なのだろうからいたしかたないが。
 ……傍目には売り言葉に買い言葉だった気もするが。
「ダルキーさん、頑張りますねぇ」
 後ろからカルラ本人に声をかけられた。
 今のカルラはリビングのソファーに座り、ポリポリと煎餅齧りながらTVのワイドショーを見ている。
 夕飯食い終わった後だろうに。
「……ところで何で今日はこっちの部屋でくつろいでいる?」
「ウルカさん、ちょっと気が張っているようですから」
 なるほど、少しナイーブになってるウルカさんを一人にしてあげたいってことか。
 ……ん?
「で、いつまでこっちの部屋にいる気なんだ?」
「ウルカさんが寝つくまでですね」
 ……俺の気が散る。
「あ、私はハイヤーかリムジンでの往復を希望いたします」
「そんなもんねえよ」
 あったらいいけど。

 さておき、明日の墓参りには姉のカルラも同伴する。
 加えて、なぜかあの馬鹿、もといアイアンボルトも同行ときた。
 そうなった理由はヨシハルに言わせるとこういうことらしい。
「学生を一人で出しても三人で出しても、遭遇するトラブルの大きさが変わるわけじゃないわ。だったら三人の方が危険は少ないのよ」
 とのこと。
 三人いれば苦労も三分の一、って意味だろうが……それは下手すると一人で済むものが三人お陀仏にもなるかもしれないということ。
 その可能性の考慮が薄いあたり、この学園は地味に生徒のトラブル処理能力に期待しすぎだよな。
ともあれ、どっちにしても俺が護衛すればいいわけだ。面倒くさいけど。
 なお、今回の場合、本来はアイアンボルトではなくヨシハル自身がついていくはずだったのだが、今日の夜になって明日の午前にどうしても外せない用事が入ったらしい。だから許可証を発行し、次いで自分の代わりに弟子のアイアンボルトを同伴させる、とのこと。保護・監督役はヨシハルがいなくとも俺がいるから大丈夫だと判断したらしい。
 しかし正直に言って、あのアイアンボルトと元護り屋でエキスパートのヨシハルでは、一緒に仕事する上で信頼度に天と地の差がある。アイアンボルトも段々と腕が上がってきているがプロにはまだ程遠い。もしも明日、何かトラブルが起きて一線級の敵と交戦すれば時間稼いで死ぬのが関の山だ。
 それでもいないよりはマシだが。
「何も起きないのが一番なのだけれど……。うちの学生、トラブルに遭うこと多いから。怖いことから笑えることまで」
 どんな前例があったのかは知らないが、あのオカマの顔にはどことなく哀愁が漂っていた。

 交通手段を確認し終えてから、俺は別の情報も確認し始めた。
 それは異能やバケモノ、土地の性質に関する情報。
 今回は時間もあったので予めヨシハルに頼んでデータをもらっている。
 針山市周辺を何らかの異能組織が拠点にしていることもなく、特筆するバケモノの被害もない。
 唯一気になるのは土地のデータ。地脈……地面を流れる魂源力のエネルギーの流れが少し変わっている。
 いくつかの地脈が針山市の地下に流れ込み、そこからまた別の方角へとエネルギーが流れている。言わば地脈のターミナルのようなものがある。
 普通こういうポイントはどこかしかの組織が押さえたり、バケモノの巣窟になったりするものだが針山市にその兆候はない。
 強いて言うと、ウルカさんの母親が眠る墓所自体が少し変わっている。カルラに聞いたところによるとこの墓所は白東院家の管轄であり、白東院家や同系統の家に由来する故人は全てその墓所に骨を埋めているらしい。そんな場所だからか近くには小規模な神社と祠もあるそうだ。
 しかし今までこれといった事件が起きたこともなく、事件の火種のようなものも感じ取れない。
 特に問題はないと俺は判断した。


 ???:

 日本に到着してからアタシと<使い魔>の魔女は針山市のホテルに滞在していた。<鏡>の魔女から連絡があるまではそうしていると打ち合わせていたから。街中で下準備をしながらアタシは連絡を待っていた。
 それからどれだけ待たせられるのかと思ったけれど、意外に早く数日で<鏡>の魔女から集合の連絡があった。それは今夜の零時丁度。

「ヤッホー! アリサちゃんにベアトリス、おっひさー!」
集合場所に行くと<箒>の魔女が相変わらず無駄な陽気で笑顔を振りまいていた。
 彼女は両肩にそれぞれ一袋ずつ長い布袋を担いでいる。それは大きさと長さが異なり、どちらかと言えば右肩の物の方が大きい。
「よう<箒>の。あたしの相棒落としたりしなかっただろうな?」
「だいじょぶだいじょぶ! キチンと高速丁寧に運んだよ!」
 そう言って<箒>の魔女は右肩の布袋を<使い魔>の魔女に渡した。受け取った<使い魔>の魔女は布袋から中身を取り出す。
 それは飛行機では運べないモノ……巨大な黒いマスケット銃。
 普通のマスケット銃よりも太くて長い、どちらかと言えば手持ち大砲みたいに不細工な銃。
 それが彼女の得物――巨銃にして巨獣、ベヒモス。
「離れてたのはほんの数日だったのに、こいつの重さが懐かしくなっちまったよ」
「それ、運ぶにはちょっと重かったけどミーナとスパルナちゃんなら日本海横断くらいラクショーだよ!」
 そういえばミーナという名前だった<箒>の魔女も左肩の布袋から自分の得物を取り出す。
 それは一見すると箒のような代物。しかしよく見れば柄の先には刃があり、箒のブラシ部分は羽毛で出来ている。
 あれは槍。神槍にして神掃、スパルナ
「…………」
 自分の得物を手に取った二人に釣られてか、アタシもつい頭上の帽子を被り直す。
 手に取ったこれがアタシの全て。アタシの未来の何もかも。
 赤色の、血のような赤色の帽子。
 錯帽にして策謀、レッドキャップ。

 まぁ、赤い帽子は<鏡>の魔女以外は全員被っているのだけれど。

『皆さん、お揃いのようですわね』
 聞こえた声の方を向くと、そこには一枚の姿見が立てかけられている。
 あれを通じて声の主……、<鏡>の魔女は姿を見せずに話をするつもりみたいね。
 彼女の所持する魔鏡にして魔境、ミラーデビル。その能力なのは分かるけれど。
 そんな風だから、信用できないって言うのよ。
『全員無事に欧州からこちらへ来ることが出来て一安心ですわ』
「そうね、アタシも嬉しいわ」
 一人でも欠けたらそれだけ失敗する確率が上がってしまうから。
「けど<鏡>の魔女。わかっているでしょう? アタシ達はただ逃げてきたんじゃない。ここであの儀式をやり直すために来たのよ」
『ええ。ええ、わかっていますよ。そのために最適なポイントは割り出してあります。そして、必要な触媒の選別もね』
「そう、ならもうやることは決まっているわ。触媒を手に入れて、それを使って儀式を済ませる。それでお終い」
 そう、それでいい。
 そうすればアタシは……。
「よーし! 頑張っちゃうよー! ……あれ? ところでミーナたち、どうして儀式しようとしてるんだっけ?」
 ……チッ。
「<箒>の。あんたそこまで頭空っぽさね?」
「むー! じゃあベアトリスはわかるの!?」
「もちろんさね、それは……ん? 何でさ?」
「…………」
 ああ、またか。面倒ね。本当に面倒。
 また掛け直さないとじゃない。
「それより、私ら何で日本に……なあ<帽子>の、あんたは」

「――レッドキャップ、錯思」

 アタシが呪文を唱えると、<使い魔>と<箒>の顔はボンヤリとしたものになる。
 同時に二人が被っている赤い帽子――レッドキャップの分身が幽かに発光する。レッドキャップの能力が働いている証だ。
 これでまた暫くは二人とも思考に蓋をして動いてくれる。
 アタシの駒として。
『ウフフ、怖いですわねぇ。レッドキャップの精神操作は。ワタシも姿を見せたらこうなってしまうのかしら』
 もちろんそのつもりよ。そうじゃないと信用できないもの。
 けど彼女は絶対に姿を見せないし帽子を被せることも出来ない。
だから三人の中で唯一、<鏡>の魔女は信用できない。
 それでも彼女の情報収集能力は優秀で必要だから、彼女とはお互いに利用しあう関係になるしかない。
『儀式を終えるまではお互いに共闘しましょう?』
 同意見ね。
「ええ、儀式を成功させるまではね」
 英国では失敗させられたけど、今度はもうしくじらない。
 必ず成功させる。
「<鏡>の魔女、早く触媒の情報をくれない? 出来れば今夜中に片をつけたいわ」
 あまり長く掛かると前回のように邪魔が入るから。
 けど、<鏡>の魔女の言葉はそんなアタシの考えとは裏腹のものだった。
『あら、今夜は無理ですわよ。儀式の場所や触媒はもうアタリをつけていますけれど』

『触媒は、明日この街に来ますもの』



 榊芳春:

 今は日曜日の午前中。
 けれど私は学校の会議室で他の先生方と並んで座っている。
「それでは会議を始めたいと思います」
 今頃、四人とも針山市に着いたころかしら。それともちょっと早いくらい?
 私も教員会議がなければついていくところなのだけれど。
 今日の会議内容は国内に侵入したテロリストについて。
 この学園では似たような会議が月一くらいで開かれるわ。それだけ重大な問題が多い。そして同時に、問題が可能な限り生徒に及ばないよう手を尽くさないと、ってことでもあるもの。
 照明が落とされてカーテンが引かれた会議室の中、プロジェクターがスクリーンに画像を映している。
 スクリーン上には三人の女の子の写真と、顔に?マークが描かれた黒いシルエットが一つ。
「先日、欧州で指名手配されていた異能力者集団<赤色の魔女達>が日本に侵入したことが判明しました」
 スクリーンの横では前線指揮官としても優秀な高等部のクラウディウス先生が概要を説明してくれているわね。
 普段はちょっと見ていて危なっかしいけれど、こういう時はキリッとしてるのよねぇ、彼女。
「彼女達は英国で重大な魔術テロを行おうとして、現地の異能力者機関に未然に防がれています。ですから、日本で再度魔術テロを行う可能性も否定できません」
 あら怖い。
「彼女達は全員マジックアイテム使用型の魔術系異能力者、魔剣使いです。元々はマジックアイテムを伝える魔剣魔女の一族の継承者たちだったのですが、一族を離れ、離れた者同士でチームを作ったみたいです」
 家に馴染めなかった女の子達が家を飛び出して同じ境遇の仲間を探した、って風にも受け取れるけれど何となくそうじゃない気がするわね。
 この三人、みんなまだ若いけれど……一人だけ目が違う。
 暗く沈んで、澱んだ目の光。
 こういう目をしている子は……ダメ。
 他人を地獄に引きずりこむことを躊躇しない目よ。
「彼女達は何故<赤色の魔女達>と呼ばれているのですか?」
 会議に参加している先生の一人から質問が出た。
 それは私もちょっと気になってた質問ね。
「事件当時、彼女達全員が赤い帽子を被っていたからです。また、事件で相対した英国のグループが録音した音声によると、彼女たちはお互いに<帽子>の魔女、<箒>の魔女、<使い魔>の魔女、<鏡>の魔女と呼び合っているそうです。このうち<鏡>の魔女だけは事件を起こした際も今も姿を見せていないので、欧州では彼女がリーダーではないかと推測されています」
「欧州では、ってことはクラウディウス先生の意見はちょっと違うのですか?」
「はい、あたしは彼女、<帽子>の魔女がリーダー……と言うより主導者だと思います。理由は事件の内容と、あとは……勘です」
「クラウディウス先生。彼女、欧州で何をしようとしたんです?」
 他の先生方からも質問が上がる。
「地脈を使った精神汚染テロです」
 精神汚染?
「彼女、<帽子>の魔女の魔剣、いえ魔帽子レッドキャップは精神操作型のマジックアイテムで他人の精神に干渉できるそうです。欧州ではテロ以前にも富裕層を中心に三十人を超す犠牲者を出していました」
「地脈を使うというのは?」
「……旧式の地鎮儀式の派生です。工程を経て地脈を開き、そこに術者の意を反映させる。本来は水害や天災、厄災を防ぐための術式ですが、彼女はレッドキャップの力を作用させる方向に術式を改変したようです」
「そうすると、どうなるんです?」
「その地脈の下流全域に影響が出ます。例えば、この双葉学園を中心に儀式を行った場合、関東一円が彼女の精神支配下に落ちます。異能力者なら抵抗できるでしょうが、普通の人々は逃れられません」
 かなり重大な儀式ね。
けれど……。
「けれど、そこまで大規模な術式が可能なのかしら? 彼女達は全員合わせて四人しかいないのでしょう? それに魔剣魔女と言うなら儀式魔術に特化はしていないはず。まともな儀式が出来るとは思えないわ」
 異能は一人一つ。魔剣に適性を持つなら、儀式に適性は持たない。祭器の魔剣なら話は別だけれど、彼女達はそうじゃなさそうだしね。
「それは欧州でも言われています。英国で中断できた儀式では半径5kmほどの人々に影響が出ましたが、それは精神支配ではなく、精神に異常をきたすだけの結果に終わっています」
 地脈を介すると能力の精度が落ちるってことかしら。
 でも一度それをやって失敗に気づいているのにもう一度やるかしら?
 それとも……目的は精神操作じゃない?
「中断ということは、儀式自体は始まっていたのですね?」
「……はい、その事件で一人の女の子が犠牲になりました。中断に終わったため命だけは助かりましたが、今も意識が戻らないそうです」
 犠牲?
 それも彼女の言い方だと、「成功していたら確実に死んでいた」と受け取れる。
 それはつまり……。
「ねえ、その儀式ってひょっとして……生贄儀式なの?」
 私の質問に、クラウディウス先生は重々しくうなずいた。
「はい、古くは人柱と呼ばれていた術式です。地脈に生贄を捧げて地を鎮める儀式です」
 なるほど、それなら彼女達が儀式を出来るのも納得がいくわ。
 あのタイプの儀式は簡易でありながら、きちんと地脈の要点と生贄の人選を押さえていれば効果を発揮する魔術。だから古くから洋の東西を問わず行われてきた。……ほとんどは要点と人選を間違えて無意味な迷信紛いものだったけれど。
 だから正しい生贄の選別さえ出来るなら誰だって……。
 そこまで考えて私の背筋に悪寒が走った。
 地脈の要点と、正しい生贄?
「ここからが特に重要な話ですが」
 そうして、私の嫌な予感を肯定する情報が彼女の口から発せられた。
「地脈に干渉する人柱の儀式、この儀式の触媒になる人間には二つの条件があります。一つは、地脈との接合のために儀式を行う国に縁のある人間であること。二つ目は異能力者の血筋の少女であること。これは1999年以降に増加した新世代ではなく、古くから血統として異能を継いできた一族の少女である必要があります」

「つまり、儀式は『発動する国の異能力者一族の少女の命』を捧げて行われるもので、この双葉学園の生徒が狙われる可能性が高いです」


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