【su199991.txt】


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「だーっ、遅刻遅刻ーっ!!」
 絶叫しながらこの俺こと蒼原十字(あおはら・じゅうじ)は走る。
 俺の通う巨大学園都市には名物教師がいる。何が名物かと言われれば、遅刻者や授業脱走者にはとても厳しい。厳しいのだ。
 だから俺は走る。
 遅刻してしまっては、アレが来る。来てしまうのだ。
 だが時は遅く……
 チャイムが鳴る。
 そして、校門にうずくまっていたそれの目が光る。
 間に合わない。間に合わない――!!


 サマソッ!


 その名は様蘇町涯流(さまそまち・がいる)。
 かつて軍属だったと噂される歴戦の教師。通称、待ちガイル。
 彼のサマーソルトキックは……俺を含めた多数の遅刻者を宙へと舞い上がらせた。
 空が青い。
 ただ一度の蹴りで発生した衝撃波は大気を穿ち、俺達から重力の楔を奪う。
 だがそれも一瞬。
 直後、衝撃。次々と、まるで空から降るオタマジャクシのように落ちる生徒達。
 それを見下ろし、先生は言った。
「教室に帰るんだな お前にも受ける授業があるだろう」
 ……突っ込みをさせてもらえば。
 俺達は教室へ向かっていたわけで、帰るという表現はあってないんですが。
 その突っ込みは言葉にならず、俺達の意識は闇に沈んだ。



 双葉学園(仮)シェアードワールド・ライトノベル

 こっくりさん失踪事件



 唐突だが。
 この世界には、俺達が思っている以上に不思議なことに満ちている。
 あまりに満ちすぎていて、時々……この学園に来る前の自分の常識を忘れてしまうぐらいに。
 その筆頭のひとつが、有り得ない格闘能力を持ち衝撃波すら出す、先ほどのガイル先生だ。
 道路を埋め尽くす暴走族ひとつを、サマーソルトキック一発で壊滅させたという都市伝説は有名である。
 そんなバケモノのような生物が、この巨大学園都市には何人もいるというのだから驚きだ。
 ……この学園に来て手に入れた俺の能力も、あのバケモノの前には霞んでしまう。

 そう、能力だ。
 この学園には、そういった“通常の人間には有り得ない能力”を持つものが多くいる。
 種類種別は、俺程度には把握できないほどに。
 そして、そういった能力があるのなら……
 同じく、怪物や魔物のような怪異、不思議な存在がいるのもまた当然。とのことだ。
 当然かどうかはさておき、事実としているのだから仕方ない。
 化物以上の教師がいることだし。もう事実として認めるしか無い。



「馬鹿だな、お前。よりによって待ちガイルの当番の時に遅刻かよ」
 クラスメートの椿山が呆れ顔で言う。
「黙れツバキチ。俺だって好きで遅刻したわけじゃない。ないんだよ」
「そりゃそーだ。だから馬鹿だって言ってるの」
「うるせー」
 昏倒してたおかげで、午前中の授業は潰してしまった。
 おまけに購買の戦いは不戦敗。食事抜きって奴だ。
「つか、二限目の数学吉本の奴、怒ってたぞ。お前内申ヤバくね」
「うげ、あいつかよ。うぁー、最悪」
「……ご愁傷様だな。こりゃあれだ、『仕事』いれといたほうがいいんじゃねーの」
「『仕事』か……」
 俺は頭を抱える。正直、あまり好きじゃない。
 学生の本分は勉学だと思ってるし。いや、俺はこれでも勉強には真面目に取り組んでるつもりだ。
 ただ、圧倒的に「不本意極まりない理由」で授業に間に合わないことが多いだけで。
「多いよな、お前みたいな巻き込まれ体質」
「言うなよ」
 例えば朝のアレとか。
 そういう厄介ごとに巻き込まれる可能性が俺は高い。いや、俺より頻繁に事件に巻き込まれる人間も学園には多い。
 俺が思うに……
「俺が巻き込まれ体質っていうより。厄介ごとがこの学園には多すぎる気がするんだが」
「はは、同感だぜそれ。石を投げれば奴介ごとに当たるってか」
「石を投げる奴がそもそも厄介ごとだと思うけどな……」
 モノをなげちゃいけませんと小学校で習わなかったのか。
「まあいいさ。どうする? 掲示板に出てるかもしんないぜ」
「……気は進まないけど、内申のため、か……」
 そう言いながら、俺は席を立つ。


 学内掲示板。
 そこには部活の勧誘ポスターや生徒会の告知など様々なものが貼りだされている。
「レトロだよなー今時。こういうのネットでいいじゃん」
「俺は好きだけどな」
 言いながら目を通す。そこには、


『旧校舎の吸血鬼退治、メンバー募集』

『本土にて魔物出現。増援求む』

『芋毛神社周辺にて神隠し。捜索隊募集』

『脱兎村村長選挙の裏に結社の影。調査求ム』


 などという、胡散臭さ全開の記入が幾つもあった。

「うわ、なんだほとんど埋まってんじゃん」
 椿山が声を上げる。
「だな」
 ここに書かれた記述は、いたずらではない。
 すべてが生徒会によって認可された、仕事である。
 こういう怪異や事件に対処できる生徒達が自主的に参加し、そして依頼をこなし解決する。
 それをこなす事で、内申にプラスなどの特典を得ることが出来るのだ。
 普通の学園では有り得ないこの制度は、この学園都市が異能力者を擁するからこそだ。
 それにしても……
「ほんと見事に埋まってるな」
 残っているのは、『毒見募集。生死を賭ける意気のある丈夫な体の命知らず人間。生命保険加入と墓石はこちらで手配します。第八料理部』などという、怪しさを通り越しているシロモノだ。
「俺死にたくねーし」
「俺もだ」
 さすがに命は惜しい。今朝死にかけたばかりだし。殺されかけたし。
 そうやって掲示板を眺めていると、一人の少女がやってきて、掲示板の記述を確認し消していく。
「お、ユズリっちじゃん。仕事?」
 椿原が言う。
「見たらわかる。仕事。」
 小さな、しかし通る声でぶっきらぼうに答えるのは、同じくクラスメートで生徒会の十六夜柚璃(いざよい・ゆずり)だ。
 人形のような整った顔立ちはまさに美少女と評判、らしい。俺はロリコンじゃないからあまり興味は無いが。
 小柄で中等部、いや下手したら小等部の生徒に間違われることもあるがれっきとした高等部の生徒であり、生徒会広報部のメンバーである。
「そうか」
 どうやら、掲示板の依頼の整理に来たらしい。
「ななななユズリっち。新しい仕事ねーの? 残り変なのばかりだしさー」
「ない。」
 即答だった。
「無いのか……残念だな」
「……無い事も、ないけど」
「俺と態度違わねー!?」
「うるさい。黙れ。口開くな。息吐くな。存在するな。」
「ひどっ! 存在全否定!?」
 ……相変わらず毒舌だなあ。
 十六夜は、なんというか椿原みたいなのに対して言動がとにかくきつい。不真面目っぽい人間が嫌い、らしい。らしいというのは本人から聞いたのではなく噂でそう言われているだけだ。
 まあそれは正直どうでもいい。どうでも。
「じゃあ追加あるのか?」
「うん。これ。」
 そう言って、十六夜は生徒会認可の印鑑が押されたプリント用紙を見せてくれた。
「行方不明事件……か。中等部で、コックリさんの最中に?」
「うん。彼女達はコックリさんをすると昼の間に話してたらしいの。そして放課後に残った。
 翌日、参加するといってた生徒たちは全員登校してこなかった。家にも帰ってない。
 行方不明事件として受理された。『こっくりさん失踪事件』。」
「なるほど」
 それだとこっくりさんが失踪したようにも聞こえるが。
「じゃあ……これに登録するよ、俺とあいつ」
「受理。記録。蒼原十字、バカ、二名の参加登録。」
「公式にそれかよ俺っ!?」
「訂正。蒼原十字、ツバカ山希一、二名の参加登録。」
「そうそうツバカ山……ってちげーぇよっ!!」
 こいつら実は仲いいんじゃあるまいか。

「とにかく……」
 事件の調査と解決。それが俺達の仕事という訳だ。
 さてはて、どうなることやら。




続く

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