【danger zone2 ~danger lesson~(前編)】


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【danger zone2 danger lesson(前編)】

 「・・・ひっきゃっきゃっきゃっ!!・・・」
 双葉学園の高等部一年生、醒徒会の風紀委員、山口・デリンジャー・慧海は教卓に座り、読書を楽しんでいた。
 学園の中等、高等部で、週一時間設けられている、自由参加、単位の足りない生徒は強制参加の、共同自習時間。
 生徒達の、一般科目での遅れを取り戻すという名目で、文部省からの中卒、高卒資格認定に必要な、授業時間を稼ぐ。
 異能という、国家でも民間でも用途の限られた特殊技能は、大半の人間が十代の内にピークを迎え、あとは年齢と共に衰弱していく。
 一般科目の入学試験基準が、国内の公立中高のなかでもかなり緩い双葉学園、卒業後の就職率は現状、まことに芳しくない。
 学園に残り、研究職に就く人間や、ラルヴァ対策の職種へと進む人間の雇用口は、ラルヴァの推測個体数に相応して、限られている。
 多くの生徒が、十代終盤に異能の減少カーブを迎え、ラルヴァとは関係ない職種へと進むが、双葉学園の民間での評価は、どうも渋い。
 一応、国家機関なので、卒業後は僅かながら恩給が出る、それで食っていくニートに堕ちる人間も居るが、額は生活保護にも届かない。
 色々な要素で一般の学校をドロップアウトし、異能を認められ、学園によるスカウトを受諾した生徒達の中には、
この時間に内職をして、明るい就職計画のために、一度は弾かれた本土の大学や高校への再入学を目指す奴も居る。

 双葉学園

 国家が未確認生物ラルヴァに対処するため、異能の生徒を集めた、小学校から大学、修士や博士コースまである教育機関。
 全国から異能の子供をスカウトしてきた学園の各クラスにも、異能の研鑽が目的ではない、普通の生徒は居る。
 編入試験で高い成績を挙げれば、普通コースへの編入が許され、異能の発動とは縁の無い、一般人として学生生活を過ごす。
 戦車や戦闘機は高価いが、それだけ揃えても戦争は出来ない、オペレーターはもっと高価いし、用兵、指揮する人間はさらに高価い。
 異能との戦いもまた、武器や戦闘員よりも、制御する人間の錬度と育成コストが戦局を決定するのは、普通の戦争や産業と変わらない。
 好成績な一般生徒は将来、国家や民間機関で、ラルヴァとの戦いを事務方でサポートする、異能者を"使う"立場になる。
 ゆえに一般コースの生徒は、異能コースの生徒と同じ教室で授業を受けながらも、異能者より、若干の優遇がされていて、
授業時間の不足を補う共同自習も、一般生徒は各教科講師の開く授業を選択できるが、異能生徒は、大部屋で自習させられる。
 一般になれる成績を挙げながら、異能生徒になることを望んだ生徒も少なからず居る、慧海が所属する醒徒会の面々もそうだった。
 中には、定期試験のたびに一般コースへの編入を希望し、毎回のように醒徒会に突っ返されてくる奴も居るが。

 大人数を収容できる大学部の教室、階段状の講堂ではなく、普通の教室を拡大した大部屋に集まった、好成績者以外の異能生徒。
 一般生徒になる成績に届かなかった異能連中、普段のこの時間は、勉強よりも仲のいいグループで固まってのお喋り時間となり、
学園内の生協や商業エリアで買った漫画を回し読みする奴や、学園のカフェから持ち帰ったおにぎりやパンを早弁する奴も居る。
 通常、この時間は、学園内の大学部教育学科に所属する学生が、教育実習の一環として自習時間の担任を受け持っていた。
 互いに規定の授業時間を埋めるための自習、普段の担任を務める教育実習生は、生徒の自習態度には特に文句をつけなかった。
 周囲に迷惑をかけるような、うるさいお喋りや立ち歩きは禁止、しかし最近は、馴れ合いと相互怠慢で、それすらも崩れていた。
 学業成績が並以下の異能生徒達が醸す、だらけた時間、本日は担当学生の病欠により、醒徒会委員会の人間が担任代行として回されてきた。

 数日前、学園内の何処かから、海外サーバーを経由して、双葉学園の学生寮LANに、大量の猥褻画像が放たれた。
 通常、学園内の不逞を取り締まる風紀委員は、学園内部の通信管理者から、発信源探知成功の連絡を受けていたが、逢洲も慧海も出動する気は無かった。
 見たい物は見たいからしょうがない、したいようにさせればいい、誰を傷つけるわけでもなし、エロ画像で学校が潰れるわけがない。
 醒徒会経由の発令で、通信室内で可能なアクセスブロック処置だけを指示し、それでも漏れる画像については放置していたが、
彼らが明らかな性犯罪や覗きの証拠を示す画像を、電子生徒手帳の口座決済で売買していることを知り、事態解決に動いた。
 校舎内に設置した隠しカメラが撮影した、更衣室やローアングルの映像素材、多くは学園各所のジャミングに引っかかり、
なんとなく人が動いてる程度にしか認識できない映像素材を、ネットで拾ったエロ画像とのコラで、盗撮画像に仕立て上げていた現場。
 大学部の研究棟にあるという、八百長の盗撮、ロリナンパハメ撮りの、インチキ映像ソフト制作現場に、慧海と逢洲が突入した。
 エロ画像による錬金術をせっせと行っていた教育学部の、7人の大学生達は、映像データを守るために篭城、抗戦したが、
室内CQBの機会を待ち望んでいた慧海が数秒で全員を制圧し、逢洲が、ハードとメディアを物理的に、徹底的に破壊した。
 後始末として、特定の映像がダウンロードされると、内部データを破壊する巡回ソフトの配布を学園SEに依頼したことで、
単純所持していた連中がオフラインのHDDやメディアに退避させていた、無数のコピーは流通を封印された。

 彼らの被弾負傷は、学部棟の爆発事故によるものと発表され、厳重な監視の元で、学園内病院の特別室に入院させられた。
 鉄格子の嵌った病室で、監視官に見られながら用便を済ませ、一日一回の肛門検査を受ける彼らは、
罪の意識無く行った自分の罪の一端について知ったのかもしれない。

 異能者の尻を拭うのは異能者、そろって休講となった教育学部生に替わって、醒徒会が自習担任の代行生徒を派遣することが決まった。
 通常、病欠等での教育実習生欠員には、大学部の別学部から、研究在籍している学生を派遣するという慣習があって、
単位目当てで、代理担任をしてもいいと言う大学部の学生は居ることは居たが、教育実習生の、謎の多い一斉入院について、
学園の内外からいらぬ詮索をされることを嫌った、学園実務のトップである生徒課長が、醒徒会に代理担任の仕事を要請した。
 その実、会長の藤神門御鈴や、想い人の愛娘である慧海が担任を務め、教壇で一生懸命に背伸びして板書する姿を見てみたかった生徒課長の本音と、
前々から先生役というものを一度やってみたかった御鈴の利害が一致した結果だった。 
 ある醒徒会役員が、担任業務の途中で全裸になる可能性や、ある誰かが、動きが速すぎて生徒達から姿が見えないなんてことになるリスクは無視され、
醒徒会役員の内の何人か、平たく言えばヒマそうな奴と、委員会の逢洲と慧海が、それぞれ中等部、高等部の監督を勤めることとなった。

 逢洲は、いくつかの教室に分かれた高等部のうちのひとつを、慧海は、おバカキャラなイメージと体格から、中等部に回された。 

 慧海も、学園入学以来、一般学科の成績は決して悪くなかった、異能による超長距離の弾道延伸が可能となったデリンジャー拳銃は、
直射でもごく緩い放物線を描き、1km以上先の標的を狙う時には、銃身を上向ける曲射砲のような使い方をする必要がある。
 放物線と着弾点を計算する二次関数は初歩、例えば強風下をヘリから落下しながらの、移動標的への射撃には各種の要素が加乗され、
最大で十一次にまでなる方程式が出した、十一個の解から出た近似値から、銃身角度と使用火薬を"一瞬で"決定しなくてはいけない。
 それが先天的に可能な慧海は常人離れした数学センスを持ち、高校数学程度なら、典型的な「書く速さで答えが出せる」 生徒だった。
 他の科目も、教科書をパラパラ繰ってれば理解できる、目で見た物を瞬間的に記憶し、相互関係を認識するのはガンファイターの資質。

 慧海が双葉学園に来る前に短期間、所属していた、'99年以後に生まれた異能者で構成されるアメリカ海兵隊のラルヴァ対策スクールチーム、
「ナインティナイナーズ」と呼ばれる部隊では、よく、ハウス・オヴ・ホラー(米軍室内戦訓練センター)を貸切り、異能者同士の模擬戦をした。
 既に一般の異能者など問題にならない腕だった慧海は、模擬戦では、1人対多数、弾丸限定、拘束衣着用などのハンデをつけていた。
 同じ99er'sに所属しながら、慧海を妬っかんでカンザスの田舎者と罵り、しばしば部隊行動に支障をきたしていた二人の隊員が居た。
 慧海はその二名に、実戦形式の室内模擬戦を提案した、自身に課すハンデは軍隊の懲罰でよく使われる、呼吸を制限するガスマスクと、目隠し。
 慧海の実戦における成績を、デリンジャー家の影響力を行使したインチキと決め付けていた二人の異能者は、"決闘"を引き受けた。
 恐怖の館と名づけられた訓練施設に開始のブザーが鳴り響き、慧海は二人の異能者が待ち伏せする、模擬戦訓練用の一般家屋に突入した。
 ドアエントリーした慧海は、海兵隊に来てからは不便なのであまり使ってなかった旧式火薬の弾丸を、室内で四発ほど無駄撃ちした。
 眼を黒く塗りつぶされたガスマスクで、目の見えない慧海と連中とのハンデを、室内に充満する黒色火薬の煙で瞬時に対等にした慧海は、
姿は見えずとも、体温や呼吸音、筋肉の動く音が"丸見え"な彼らに、気取られることなく接近し、背後から二発のプライマー弾をブチこんだ。
 弾丸を填め変えた慧海は、痛みにのたうち回り、肉体に充分な罰を受けたポリネシア野郎とオセアニアの豚畜生の口を、永遠に塞いだ。
 射殺の前の決まり文句など無い、慧海が何かを撃つ時、頭にあるのは、次に撃つモノとの位置関係と、銃声より危険な銃口火炎の視認範囲。
 その後、慧海の隊員二名処刑についてうるさい事を言ってきた連中は、慧海が突き出した、彼らが隊内で行った薬物流通の証拠を見て、沈黙した。
 撃つ前に有利な位置を確保する、撃つ相手には保険をかける、撃たれる位置に居ない、慧海は銃を抜かずとも、生粋のガンファイターだった。


 双葉学園の高等部一年生、風紀委員の山口・デリンジャー・慧海は中等部生徒の前、教卓の上で、あぐらをかきながら雑誌を読んでいた。

 先日、逢洲と共にツートップの風紀委員長に就任した慧海は編入以来、不真面目に不真面目をかけたような生徒だった。
 彼女が委員に就任してから、それまで慣例だった定時の校内巡回は「あたしが散歩したくなったとき」に変わった。
 アメリカ人の多分に漏れず歩き不精な慧海は、編入する時に持ち込んで以来、一軒家の自分専用寮に置いている愛車を運転し、構内を巡回した。
 慧海は、ラルヴァ系シンジケートの元締めが愛用し、シンジケート摘発後に父が押収品競売で買ったキャディラックを、12の時に貰ってから、
日本国内でのアシとして乗り回していた、無免許運転や、勝手につけた駐留軍ナンバーを咎める権限のある人間は、日本には居ない。
 コーヴェットZR1のエンジンにラウシュ・チューンを施し、載せた、900馬力の'79年式キャディラック・セヴィルは、
慧海が学園敷地の端、海沿いの草原に、自分専用寮として勝手に建てた、白い木造の米軍規格住宅のガレージに、よく似合っていた。 
 大径のステン管を切って溶接で継いだだけの、消音を考慮していないマフラーからV8サウンドを響かせるキャディラックでの校内巡回、
徒歩での巡回のような緻密な監視は出来ずとも、威嚇効果の抜群な珍走行為は、ガス代自腹のドライブに慧海が飽きたため、三日でヤメた。
 生徒課長の子飼いと言われる慧海の、風紀委員の特権を嵩に着た無法行為が終わったことに、学園の職員と生徒達は揃って胸をなでおろしたが、
ただ一人、実務面のトップである生徒課長、都治倉喜久子《つじくらきくこ じゅうななさい》は残念そうな顔をしていた。
「あなたのお父さんはこのキャディラックで、よく学園を脱走してました、私は……助手席に乗るのが夢だったんですよ……」
 以後、濃紺のボディに赤い革の内装でキメた、900馬力のキャディラック・セヴィルは、慧海が学園外に行く時のアシに使われるようになったが、
生徒課長が学園外での仕事のために外出する時には、学園が所有するリムジンではなく、キャディラックを慧海ごと借りることが増えた。

 巨額の費用を投じ、結界に守られた人工島の学園も、お役所の中では自衛隊や司法組織に近い構成ゆえ、ケチな所は徹底的にケチで、
支給の追いつかない学園制服の不足分は、都内の各公立校の余剰制服をかき集めてきた代物、一応、男女共にブレザー形式であることは決められているが、
学年やクラス、担当学科で色はバラバラ、編入前の学校で着ていた制服のほうが見栄えがいいってんで、そっちを着てくる生徒も多い。
 編入試験で高い成績を取った、普通コースの生徒は、専門コースである異能の生徒より、若干の優遇がされていて、
一応、紺に赤い縁取り、胸の二葉の校章が刺繍されたブレザーに、チェックのスカートの、統一した制服を優先的に支給されているが、
普通、異能、関係なく、服装規則は都立高校に準じたものだった、スカートの丈にはうるさくないが、極度に長い物や短い物は咎められる。

 以前は風紀委員が、毎朝、校門に立って服装や頭髪の校則違反を取り締まっていて、
校内の風紀は、ある程度保たれ、検査をかい潜る生徒によってある程度緩んでいたが、
朝が苦手な上にゆっくりした朝食が好きで、編入以来まともな時間に登校したためしの無い慧海が、新しい服装検査方法を導入した。
 慧海は朝礼の場で、壇上を無断占拠すると、首のチェーンから外したデリンジャーに弾丸を装填しながら、生徒達に怒鳴った。
「服装規則違反の自覚がある奴は一歩前に出ろ、今日は撃たないであげる、すっとぼけてる奴は、ライアット弾で撃つ」
 それから、掌に出現させた弾丸をデリンジャーに填め、生徒達の並ぶ前。グラウンドの地面に威嚇射撃を行ったが、
アスファルト貼りのグラウンドは破片を撒き散らしながら爆発し、人の生首がすっぽり入るほどの、クレーター状の弾痕が出来上がった。
 慧海は前日に見たアニメの影響で、非致死のゴム製鎮圧弾ではなく、人の頭を血の霧と化す、水銀炸裂弾を発現させてしまった。
「あ、間違えた」と、デリンジャーから炸裂弾を抜き捨て、別の弾丸を装填している間に、全校生徒の三分の一が前に踏み出した。
 いつのまにか生徒達の背後に立っていた逢洲が「よかった、誰も斬らなくていいみたいだな」 残りの三分の二は、どうやらセーフ。
 以後、校門を通ってからスカートを腰で巻き上げたり、教室で髪型や化粧を直す、こす狡い生徒は、かなり減った。

 山口・デリンジャー・慧海は、風紀委員の仕事、中等部異能生徒の共同自習を監督する、担任代行をしていた。
 春の半ば、季節外れの暖房が充分に効いた教室、エアコンの吹き出し口に近い教卓上に座る慧海のブラウスは、肩までまくり上げられ、
右の肩に彫られた、アメリカンコミックの炎を吐く竜、バフ・ザ・マジックドラゴンのタトゥーがさらけ出されてた
 普段ブレザーの替わりに着ているNFLカンザスシティ・チーフスの、真っ赤な革ジャケットは、教壇の横にある椅子に放り出されていた。
「…ひっきゃっきゃっきゃ!…ねーよねーよ!これマジでないわよ!、ちょっとあんた、これ見てみなさいよ!ぜってーねーわよ!!」
 ウェスタンブーツを履いた足で教卓をガンガン叩き、自習に邪魔な、耳障りな笑い声を上げる慧海も、こう見えて彼女なりの自習をしていた。
 大概の教科で、授業にはろくに出席しないまま、上位を占める成績を取っている慧海だが、高等部の必修には無い英会話が苦手だった。
 慧海は機械的に理論構築できる文法や、高校英語程度の初歩的な長文読解は問題なく、辞書無しでも新聞が読める程度の語彙はあったが、
言語という、曖昧で柔軟な判断が求められる学問が少々苦手で、英語の書籍や、イングリッシュ・ネイティヴとの会話は、あまり得意ではなかった。
 言葉より先に撃つ性格、それに慧海は、同じく英語のあまり喋れないチカーノやアフロ系を相手に、単語を並べれば用が足る世界で生きていた。
 先日、父に頼んで送ってもらった、スラング満載なタランティーノ映画のグリーンレイDVDを、字幕無しで見られないのが悔しくなった慧海は、
授業をサボって横須賀のPX(軍人生協)までキャディラックを飛ばし、できるだけ平易な英語が使われた教材を買ってきた。

 慧海は、共同自習教室の教卓にアグラをかきながら、米国版無修正のPLAYBOY誌を読みふけっていた。

 前列に近い生徒は、この風紀委員長が読んでいる雑誌の、巨乳もヘアも丸出しで表紙を飾る、ロシア系美女のプレイメイトと、
ミニスカートで教壇にアグラをかく慧海の、見えそうで1mmの差で見えないスカートの奥のどちらを盗み見しようか、迷っていた。
 制服姿で学園を荒らしまわる慧海のスカートは、鉄のカーテンと言われ、その中身や下着の色を見た者は、現在誰も居ない。
 学園制服のブラウスも、通常のポリエステル製のものではない、慧海がブルックス・ブラザーズに特注したコットン製で、ブラも透けない。
 慧海の下着の色は、噂好きな同級生や、慧海の周囲の人達の間で話題になっていて、体育で一緒に着替えた女子ですら、謎だという。
 そのうち、慧海の悪評を直接には知らない中等部生徒がいたずら心を出し、自らの異能である風の力で、慧海のスカートをめくろうと試みた。
 PLAYBOYを縦にしながら熟読し、たまに音読し、巻頭グラビアに夢中になっている慧海の目を盗み、左手に異能の力を集中させた、風が渦巻く。
 少年の異能により発生した、掌サイズの風渦は、突然、中心に無風の「目」を形成し、掌の上で台風になった。
 その少年の異能にはない、ミニ台風の発生、風の真ん中に穴を開けたのは、外部からの、力学的、異能的な介入。
 風圧を増し、あっという間にエネルギーを使い尽くして掌から散った風、風使いの自分にも未経験の現象に驚愕した、異能の少年は、
耳と目と鼻を、そして掌を同時に襲う痛み、少年を襲ったのは轟音と刺激性の煙、彼は自分の風渦を台風に変えた、外部入力の正体を知った。
 教壇を覆うガンスモークの中から、片手に雑誌を持ったまま、銃を真横にするタランティーノ撃ちの姿勢を取る慧海が現れた。
 慧海が発射したのは、、薬莢の縁で平面に切り取られた弾頭、標的にキレイな丸い穴を開けるため射撃競技に使われる、ワッドカッター弾。
 前列の生徒達は揃って耳を押さえたり、大量の硝煙に咳き込んだりしている、その中心に居る慧海の銃身は、僅かもブレていない。
 風渦を通過して台風を起こした弾丸は、背後の壁に穴を開けた、壁を隔てた隣の教室から、パニックの騒音と鳥が絞め殺されるような悲鳴が聞こえてくる。
 弾頭が軽いワッドカッター弾、風渦と壁を貫通してかなり減力されているから、問題ないと判断し、慧海は自分の仕事に専念した。
 確か隣の教室で自習担任の代行をしていたのは、醒徒会の人間だった気がする、誰だったか忘れたし、どうでもよかった。
「あんた盗み見すんじゃないわよ!一冊8ドル25セントもしたのよ!」
 掌の数センチ上で亜音速の弾丸を通過させられ、手に赤い擦過痕を残す衝撃波を喰らった少年は、腰を抜かして椅子から崩れ落ちた。
「あと、校舎内では、実習以外での異能発動は禁止…OK?」
 少年は首をコクコクと振る、その位置からだったら、もしかして見えていたかもしれない慧海のスカートの中を見る余裕などなかった。
 風紀委員としての取り締まり業務が終わり、慧海は読書と英語の自習、グラビアに添えられたエロポエムの読解に戻った。


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