【反逆のオフビート 第二話:後編】


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 元が縦書きなのでラノで読んだほうがいいかもしれないです
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 FILE.2〈彼氏と彼女の初めての共同作業:後編〉




 荒れ果てている第三実習グランドを一人悲しげに歩いている弥生は、またも自分の無力さに落ち込んでいた。
 あまりに情けない結果。
 非能力者である弥生が、あの“確定予測”に適うわけもないのだが、それでも逢洲に「足手まとい」という事実をつきつけられて、彼女はどうしようもない気持ちになっていた。
 逢洲自身にはきっと悪気はななかったのうだろう。事実弥生があの場にいたら弥生は戦闘にに巻き込まれて怪我を負っていたかもしれない。弥生を庇うためにきっと伊万里も本気で戦うことはできなかったであろう。
 自分の存在が伊万里の“最強への道”の邪魔をしているということを思い知った。
(最低だ私・・・・・・)
 しばらく歩くと、失格者が集められている第十二体育館が見えてきた。その中では巨大モニターに、この合同実習の映像がリアルタイムで流されていた。もう既に何十人も失格者が出ていて、そこでみんなは残っている人たちの戦いをそのモニターで見ていた。
「おい、第四モニター見ろよ、逢洲先輩とあの転校生と巣鴨のやつが戦ってるぞ」
「おお、まじだ。巣鴨のやつがバカ強いのは知ってたがあの転校生もなかなか」
 その戦いのなかに自分がいない、それが弥生にはとてつもなく寂しいことだった。
 だが弥生は伊万里の戦う姿を見つめ、
「伊万里ちゃん・・・・・・きれい・・・・・・」
 そう呟いた。



「うりゃあああああ!」
 咆哮とともに薙刀を構え、伊万里は逢洲に突進していった。真っ直ぐ射るように薙刀で突きを放つが、逢洲は左手の木刀でそれを軽くいなし、そのまま下段から右手の木刀で伊万里の足をなぎ払う。伊万里は勢いのまま倒れそうになる。
「甘いよ巣鴨くん。私の“確定予測”に対してそんな単純な攻撃が通用するとでも――」
 その刹那、逢洲の脳裏に映像がよぎる。それこそが彼女の能力である“確定予測”の発現だった。
「そこか!」
 気配を感じる方向に逢洲は振り向きながら木刀を打ち放った。
 彼女の予測どおりにそこにはオフビートが迫っていたが、オフビートは逢洲の攻撃をそのの掌で受けとめ、思い切り木刀を握り締めた。
「捉えた! 今だ、伊万里!」
 逢洲に足を払われた伊万里は、地面に倒れこむ寸前に足を前に出してふんばった。
 きっ、と逢洲を睨みつけ、伊万里は再び薙刀を構える。
「なるほど、転校生は囮か。だが――」
 逢洲はとっさの判断で木刀を手から離し、伊万里の横一閃を跳躍してかわした。
「その行動も予測済みだ!」
 逢洲はまるで曲芸のように空中で足を真横に開き、オフビートと伊万里の顔に同時に蹴りを入れた。
「うぐっ・・・・・・」
 蹴られた勢いで二人とも後ろに吹っ飛んでいき、逢洲はオフビートの手から離れ、行き場を失った空中の木刀を見事にキャッチする。
 その一連の行動は、まるで演劇の一部のごとく滑らかに行われ、まさしくダンスのごとき逢洲の戦い方にオフビートも伊万里も唖然としていた。
「なんだよこの人、本当に人間か?」
 オフビートはいままでオメガサークルでいろいろな能力者を見てきたが、非戦闘系の能力者でここまで強い人物を見たことがなかった。
 所詮は非力なはずの予知能力者、と、たかを括っていたがそれは完全なる間違いであった。
「さすがは逢洲先輩。一筋縄ではいかないわね」
 伊万里も薙刀を杖代わりにして、打った鼻を押さえながらなんとか立ち上がる。
「いや、キミらも中々やるよ。特に転校生との打ち合わせの無いコンビネーションは完璧だ。私の“確定予測”がなければよけきれなかっただろうな」
 逢洲は少し土のついた体操着を手で払っている。そこには強者の余裕が感じられた。
「たしかに先輩の言うと通り斯波君とはなんか息があうのよね、なんでかな」
「ああ、俺は共闘自体が初めてのはずなんだが、なぜか上手く身体が動くんだ」
 二人は追い詰められているはずなのに、どこかわくわくした表情になっていた。まだまだ強くなれる、そんな表情を二人はしていた。
「まったく、初めてでこんなに息が合うなんて、キミたちは好きあってるのかね」
 ふぅ、と溜息のようなものを逢洲は吐いた。逢洲は恋愛経験がまだないので、下級生がいちゃちゃしているのがいやなようだ。しかし二人は別にカップルでもなんでもない。
「ば、バカ言わないでくださいよ! なんで私がこんな奴を好きにならないといけないんですか!」
 と、オフビートを指差して、顔を真っ赤にしながら必死に否定する。
「おいおいこんな奴って酷くないか。昨日だって俺が護ってやらなきゃお前死んでたぞ」
「何よ、あんたはみんなを助けるの手伝ってくれなかったじゃない!」
 戦闘中の中、いきなり口論を始める二人を見て、逢洲はやれやれと首をふっていた。痴話喧嘩はよそでやってくれ、と言わんばかりである。
「だいたいあんたね、なんで私だけを助けようとしてたのよ! そこがもう意味わかんないわよ、それに私の能力をなんで知ってたのよ、おかしいじゃない!」
 それは確かに正当な疑問である。あの時はオフビートも焦っていたので深く考えずに伊万里に話しかけていたからだ。
「べ、別に理由なんかねーよ。俺はただ、お前を護るためにここに来たんだからな」
 きりっとした目つきで、オフビートにそう言われた伊万里はさらに顔を真っ赤にさせてもじもじとしていた。
「ば、ばっかじゃないの! そんな、私を口説こうなんて百億兆年早いわよ!」
 あまり物事を深く考えないオフビートは、ただ事実を述べただけなのだが、伊万里はどうやら勘違いしてしまったらしい。
「それにお前の能力を知ってたのは会う前に木津先生に教えてもらってたからだ、俺はあんたのことを詳しく知りたかったしな」
「な・・・・・・なによそれ、本気で言ってんの?」
 伊万里はこんなにストレートに男子にそんなことを言われたのは初めてだったので、どう反応したらいいのかわからなかった。可愛らしい見た目であるのにも関わらず、伊万里は強さを求めるあまり男子は誰も近寄ってこなかったのである。
「俺はいつでも本気だっつーの」
 その言葉を最後に、伊万里は顔を紅潮させたまま黙ってしまった。
「おいおいそこのお二人さん。そろそろ戦闘を再開してもいいのか?」
 待ちくたびれたように逢洲はストレッチをしていた。まったく、最近の一年生は色恋ばかりだな、と半ば妬みの意味もあっていらいらしていた。
 二人の体勢が整ったらまた攻撃を仕掛けようと木刀を構えたその時、逢洲の脳裏に強烈な何かの映像が流れる。それは“確定予測”の発動だった。だがそれはオフビートや伊万里の攻撃の映像ではなく、まったく別の――
「おい! キミたち今すぐその場から離れろ!!」
 その言葉は時既に遅く、突然何かが彼らのいる地点にぶつかってきた。
 それはとてつもない破壊力で、爆発のようにその場を吹きと飛ばした。爆発といってもそれは炎などではなく、なにか恐ろしく硬い物がこの場に飛んできて弾けたかのようであった。
 逢洲はぎりぎり後ろに飛ぶことでかわすことができたが、オフビートと伊万里は巻き込まれたようで、吹き飛んだ地面の土煙の中に人影が見える。
「巣鴨くん! 転校生! 大丈夫か!」
 やがて土煙が晴れていき、オフビートと伊万里がそこにいた。
 オフビートは伊万里を庇うように覆いかぶさり、右手を広げてその衝撃の全てを防いでいた。だがオフビート自身は掌でカバーできなかった石などで頭から血を流していた。









 突然伊万里たちを映し出していた第四モニターの映像がぶつりと切れ、砂嵐がザーっと流れ始めた。
「おいおいなんだよいいところで!」
「誰か先生呼んで来いよ!」
「やだよお前いけよ!」
 などと生徒たちは好き勝手騒いでいるが、それを見ていた弥生は妙な胸騒ぎがした。
 この映像は音声は流れないので、今までの伊万里とオフビートの会話は聞かれていたわけではない。もし聞こえていたら弥生は卒倒していたかもしれない。
 弥生は見えなくなった伊万里たちのところにまた向かおうと、体育館を後にする。
(もし何かがあったとして、私がいってどうするのかした・・・・・・私は伊万里ちゃんたちが危険な目にあってもなにもできないのに・・・・・・)
 とぼとぼと体育館から出たはいいが、弥生はやはり戻ろうかと考えていた。
 自分が行っても無意味だから、伊万里は自分を必要としていないのだ、と。
(それにすごい能力持ってるあの転校生の斯波君もいるしね・・・・・・戻って大人しくしてようかな、抜け出したのがバレたら先生に怒られちゃうし・・・・・・)
 しかしその時弥生はどこかから視線を感じた。
 あたりを見回すと、体育館から少し離れたところにある図書棟が目についた。その三階の窓に人影があった。
 そこにいたのはホームルームのときに見た、この世の物とは思えないほどに美しい姿をした少女だった。
 射抜くような冷たい視線、しかしどこかこちらから目を離せない引力を持った少女だった。弥生もその少女に釘付けになっていた。そして、
(もっとあの人を近くで見たい)
 そんな衝動に駆られて、弥生は図書棟に吸い寄せられるようにして、中に入っていった。




「斯波君・・・・・・」
 謎の攻撃から伊万里を庇い、怪我をしたオフビートを伊万里は心配そうに見ていた。
「大丈夫なの斯波君、血が出てるよ!」
「別に、こんなもん大した傷じゃねえよ。それに言ったろ、俺はお前を護るために来たんだってな。俺は伊万里が傷つくほうがイヤなんだよ」
 真剣な表情でそんなことを言うオフビートを見て、伊万里は胸の高鳴りを感じていた。昨日出会ったばかりの男の子だというのに、伊万里は自分がこんなに男の子好きだったたか考え込んでしまう。
(私は今まで一人で戦ってきて、護るために強くなろうとして、でも私を護ってくれる人は今までいなかった・・・・・・・)
 こんな状況だというのに伊万里はまた顔を真っ赤にしている。
「ねえ、斯波君。それって好きってこと?」
「・・・・・・好き?」
 オフビートはただ真実を言っているだけのようで、彼女の気持ちにはまったく気づいていなかった。それに“好き”という恋愛感情もあまりよくわからなかった。
「うん、まあ、好きだな」
 なんとなくそう答えたが、その言葉はオフビートにとって恋愛感情を意味するものではなかった。今まで同世代と会話もしたことがなかったオフビートにとっては物珍しいだけなのだろう。だが伊万里はそんな彼のことなど気づくはずもなく。
「じゃ、じゃあ・・・・・・私と・・・・・・」
 と、何かを言いかけたところで、
「おいキミたち、いちゃいちゃするのは後にしたまへ! 第二撃が来るぞ、物陰に隠れろ!」
 逢洲の激が飛んで二人はすぐさま近くの岩場に影を潜める。
その瞬間、また何かが飛んできて地面を吹き飛ばした。
「逢洲先輩、何が起きてるんですか? これは爆弾?」
「いや、爆弾などとは違う・・・・・・だがなんだこの攻撃は、誰がこんな・・・・・・」
 逢洲は岩陰から顔だけを出して、攻撃が放たれたであろう方向を覗く。その方向は、荒野が小さな山のように隆起しており、その頂上に人影が見えた。
 そこには男女二人が立っていた。二人とも双葉学園指定のジャージ姿で、男の方は細身の優等生そうな顔つきで、女は髪を染めており、どこか派手な印象である。
 その対照的な二人組みに逢洲は見覚えがあった。
「あの二人は二年の青山繁《あおやましげる》と和泉京子《いずみきょうこ》! おい、何をしているんだ、二年生はチーム組むのは反則だぞ! それにさっきの攻撃は実習にしてはやりすぎじゃないか!」
 風紀委員である逢洲は彼らのルール違反の行動に対して怒鳴っていた。だがそこに立つ青山と和泉は人形のようにのっぺりとした表情で、眉一つ動かさない。
 青山はすっと、手を前に突き出し、指をピストルのような形にした。
 それを見た逢洲は「まずい!」と呟いてすぐに岩陰に隠れなおした。
 その瞬間またも地面が爆発したようにうねりをあげた。さながら勝手に地面が吹き飛んでいるかのようである。
「な、なにが起きてるんですか逢洲先輩!」
「あれが青山の異能“インビジブル・BB”だ。指先に空気を圧縮させて放つ、無色無音の弾丸、いやこの破壊力は砲弾と言っていいだろうな。しかしなぜ私たちを狙う、どうにか話し合えないのか」
 伊万里はその言葉に少し顔が曇る。
「どうした巣鴨くん」
「話し合いはきっと無駄です。あの人たちは私たちを殺す気で攻撃してきています」
「そんなバカな、なぜ彼らが私たちを?」
「なぜかはわかりません。ですが、私たち三人の頭に死の旗が見えるんです。彼らを突破しないと私たちは確実に、死にます」
 伊万里はきっぱりとそう言った。


(能力者の攻撃、か。やつらはスティグマなのか?)
 ラルヴァ信仰団体“スティグマ”はラルヴァを神の使いと崇め、それを駆逐する異能者たちを狩りまわる対異能者の殺し屋集団だ。
 彼らは何故か伊万里を狙っており、スティグマの魔の手から伊万里を護るのがオフビートの任務だった。
 だが、直感でこれは違うと感じていた。何やら彼らの攻撃は機械的なものを感じ、殺気というものを一切感じない。だが伊万里の言う通り、彼らがオフビートたち全員を狙ってるのは確実だ。そこに、何か違和感を感じていた。
「そうか、それがキミの能力だったな。“アウト・フラッグス”か、私の予知の範囲を超えた部分をキミは見えるわけだ」
「あんまり日常では役に立ちませんけどね」
「あまり自分を卑下にするな。巣鴨くんのその異能は誰にもない特別な能力だ。おそらく学園にまたとない特別な」
「それで、どうするんだ。このまま隠れていれば教師たちが駆けつけるんじゃないのか、この合同実習はモニターされてるんだろ?」
 と、オフビートは訊くが、逢洲は首をふった。
「それは期待できない。あの女子のほうの和泉の異能は“空間隔離”といって、文字通り自分たちがいる空間を他人が認識できなくして、私たちをその空間から逃れられなようにする力だ。モニターは役に立たないだろうし、仮に教師たちがこっちに向かってきても私たちの居場所を特定することが出来ない。あの二人が組んでるなんてちょっとまずいかもしれない」
「そうか、俺たちであいつをどうにかするしかないのか」
 オフビートは鍛え抜かれた視力で遠くにいる青山と和泉の顔を見すえる。彼らの瞳には光が無かった。まるで意識のないように焦点が定まっていない。
(もしかして誰かに操られているのか・・・・・・?もしや学園内でも珍しい“精神感応系能力者”か。だとするとこの機械的な攻撃も納得がいく。どうやら操ってる奴は大雑把な命令しかできないようだな)
「巣鴨くん、転校生。キミらはここで隠れていたまえ。私が風紀委員としてやつらを倒す。青山は実戦の教科も優秀なやつだ。キミたちの適う相手じゃない」
「無茶ですよ逢洲さん! 死んじゃいますよ!」
 伊万里は心配そうにそう言い、オフビートも顔が険しかった。今会ったばかりのこの少女を、オフビートはツワモノとして尊敬し始めていたからだ。
「大丈夫だ、私を誰だと思っている。鬼の風紀委員“確定予測”の逢洲等華だ!」
 逢洲は二刀の木刀を構え、岩陰を飛び出していった。
「こんな空気の弾丸など、あの“デンジャー”の銃撃に比べれば――」
 その瞬間、青山は空気の弾丸を発射した。この視認できない無敵の弾丸は、普通の人間には脅威であろうが、逢洲には能力の“確定予測”でどこに弾丸が飛んでくるのか目で見えなくても感じることができた。
 その空気の弾丸を一刀のもとに叩き伏せようと空気の塊に右手の木刀を振り払ったその瞬間、ぼぎり、という音と共に右手の木刀が折れてしまった。
「あれ?」
 逢洲が呆然としていると、第二撃が青山から放たれた。今度はそれを左手の木刀で防ぐが、それもまた音と共に根元から折れてしまった。
「あれれ?」
 第三撃目が放たれる前に、逢洲は急いで元の岩陰までジャンプして逃げてきた。その直後空気の弾丸がまたも地面を削る。ぱらぱらと石つぶてと砂が三人の頭上に降り注ぐ。
「・・・・・・・大丈夫って言ったじゃないですか逢洲先輩」
「ダメだ、ダメダメだ」
「ええい黙れ二人とも! 模擬戦用の木刀だから駄目だったんだ。“月影”と“黒陽”があればあんな空気の塊どうとでもなるのだが・・・・・・」
 それは言い訳というよりは事実だった。空を裂く彼女の二対一刀の愛刀があれば青山の“インビジブル・BB”の空気の弾丸は簡単に切り裂くことが出来るだろう。
 だが、今この場には刀はない。まさに絶望的な状況だった。
 しかし逢洲にはまだ絶望の表情には至っていない。それは伊万里もオフビートも同じだった。どんな困難な状況でも決してくじけない心を三人は持っていた。
「それに今の突撃も無駄じゃなかったぞ二人とも。どうやら青山の攻撃は、三秒ほどチャージ時間を要するようだな。連射はできない」
「でもそれがわかったところで・・・・・・三秒じゃあの山場の天辺までは行けないですよ」
「いや、方法は、ある」
 オフビートはぼそりと呟いた。
 その言葉に二人はオフビートの顔を見る。その表情は真剣そのものである。
「少々、いや、かなり無茶な作戦だがな。逢洲先輩、伊万里、二人とも協力してくれ」
 そのオフビートの提案に二人の少女はこくりと頷いた。



 何を考えているのかわからない目、いや、きっと何も考えてはいないであろうその目で青山は岩陰から人影が三つ飛び出してくるのを確認した。
 それは間違いなくオフビート、伊万里、逢洲の三人だった。
 それを見た青山は機械のように自動的な動作で指先に空気を収束させる。
 そしてそれを三人にすぐさまに解き放ち、彼ら三人のいた地点が爆風を上げて吹き飛ぶ。 
 直撃――そのはずだったが、人影が一つ、そこには立っていた。
 いや、実際には人影は二つだった。二つの人物が重なっていたために一人と錯覚してしまう。
 そこに立っていたのは逢洲を背中に背負ったオフビートだった。
 オフビートは両手の“オフビート・スタッカート”で空気の弾丸を弾いていたのだ。そのためにおんぶしてる逢洲を手で支えることは出来ないため、逢洲は手をオフビートの首に回し、オフビートの身体に足を絡みつかせている。逢洲の胸が背中にむにむにと当たるが、喜んでいる場合じゃない。その格好は端から見たら酷く間抜けな図ではあるが、そんなことは言っていられない。
「さあ、行こうか転校生くん。反撃だ」
「ああ、逢洲先輩。やろうぜ」
 その言葉を最後にオフビートは逢洲を背負ったまま全力で駆け出した。
 青山は彼らの奇行に構わずすぐに“インビジブル・BB”のリロードを開始した。三秒後すぐにチャージは終わり、またも空気の弾丸が放たれる。しかし――
「きたわ転校生くん! 左四十度!」
「あいよ!」
 オフビートは言われた通りの場所に掌を配置する。するとそこに空気の弾丸が命中するが、絶対防御の異能であるオフビートの掌はそれを簡単に弾き返した。
 そう、これがオフビートの作戦である。逢洲が“確定予測”で空気の弾丸の発射と着弾をオフビートに伝え、彼の“オフビート・スタッカート“でその攻撃を全て弾き返すとういうものであった。
 一人一人では攻略できない敵も、仲間の力を合わせれば倒せない敵などいない。
 出会ったばかりの彼ら三人はお互いの力を見極め、それを完全に引きだすことができた。
「右上五十度! 左下二十二度!」
「ほい、ほい!」
 次々に放たれる空気の弾丸を二人はどんどん捌いていき、段々と青山との距離が縮まっていく。
 的確に情報を伝え、的確にその情報を理解する。
 それが実はどんなに難しいか、戦場に身を置くものにしかわからないであろう。
 だが、あと少しで青山に辿りつこうというところで突然青山の追撃が止んだ。
(おかしい、このタイミングでなぜ攻撃を止める?) 
 オフビートが少し警戒していると、青山は指のピストルの形を崩し、両手を広げて何か集中しているようにみえる。
 それはオフビートや逢洲にも視認することができた。
 青山は人間大の空気の塊を収束させていたのだ。大気の流れがあまりに大きいために土ぼこりなどでその空気の塊が彼らにも確認することができた。
 しかし、巨大な空気の塊は青山自身の能力の限界を超えているのか、青山は鼻血を出し、吐血もしていた。おそらくは無理矢理に力を引き出されているためによる過負荷だった。オフビートも無理矢理能力の底上げをされているが、それは調整と改造によって初めて安定を保っているもので、普通の身体である青山には身体と脳が耐えられないのだろう。
「おいおい冗談じゃねえぞ」
 オフビートの呟きも虚しく、青山はなんの躊躇も無くその巨大な空気の爆弾を解き放った。
「ちっ、しょうがねえ!」
「あ、おい転校生! 何を――!」
 オフビートは背負っていた逢洲を横に放り投げた。それは咄嗟の判断だったが、正しい判断だった。あれほど巨大な空気の塊は、掌だけのシールドでは全て押さえることはできないからだ。
 迫り来る巨大な空気爆弾に向かって両手をかざし、それを受け止めた。だが、
「うおおおおおおおおお!」
 やはりこれだけ巨大な空気爆弾を両手だけではカバーしきれない。空気爆弾の中は真空状になっているために、その中のかまいたちがオフビートの身体を切り刻んでいく。逢洲を背負ったままだったら逢洲の美しい顔も切り刻まれていたかもしれない。そんなことを考えての判断だったのかはわからないが、オフビートが逢洲のことを考えて一人でその痛みを引き受けたのだ。
 それは伊万里を護る、という任務とは関係のないことだ。
 だがそれでも彼は先輩が傷ついて伊万里が悲しむ姿を見たくなかった。
 理由はわからない、ただ、彼女を護りたいと、任務と関係ないところでオフビートはそう考えていた。
「くっ・・・・・・“オフビート・スタッカート”全開!」
 オフビートはまだ抑えていた高周波のシールドをさらにフル展開させる。それはオフビートの限界の力で、青山と同じくオフビートの過負荷にもなる危険なことだった。
 だが今ここで空気爆弾をかき消さなければ自分も生き残れないのだ。
「うおおおおりゃああああ!」
 咆哮と共に空気の塊の中に腕全体を張り込ませ、かき消そうと腕を振り回す。空気中のかまいたちにより腕が切り裂かれ、血が当たりに飛び散る。
 もはやあたりはオフビートのエネルギーと空気の渦とかまいたちで土煙が舞い踊り、逢洲にはもはや何が起きてるのか解らなかった。
 やがて土煙が収まり、そこには血だらけのオフビートが立ちすくんでいた。
「お、おい大丈夫か転校生!」
「はぁ・・・・・・・はぁ・・・・・・・。なんとか、ね。だがもう限界だ」
 出血と、能力の酷使で脳に激痛が走り、完全にオフビートは動けなくなっていた。昨日も能力の限界を開放していたために、その疲弊度は尋常ではない。
 それは青山も同じはずだったが、青山は血反吐を吐きながらもまた指をピストル状に構えて空気の収束を始めた。もはや能力を使用できないオフビートには、小さな空気の弾丸でも致命傷になるだろう。しかし――
「残念だったな。俺たちの、勝ちだ!」
 青山の頭上に、影が曇る。
 それは何かが上に存在する証拠。
 そう、それは空中より薙刀を構えて降ってきた伊万里だった。
「そりゃああああああ!」
 青山はそれに気づいて空を見つめるが、対応する間もなく、伊万里の薙刀によって思い切り頭を殴られた。その衝撃で青山気絶したようで、そのまま地に突っ伏し、伊万里は着地したその反動のまま隣にぼーっと突っ立っていた“空間隔離”の和泉の頭も薙刀ですぱーんとはたいて気絶させた。
 和泉が気絶して能力が解かれたのか、なにやら回りの空気が変わって、隔離が終わったことを肌で感じていた。
「ふぅ・・・・・・しっかしほんとめちゃくちゃな作戦よね」
 そうこの作戦の要はあくまで伊万里だったのだ。オフビートと逢洲は囮として青山の気を引いていただけである。伊万里は最初に放たれた空気の弾丸の土煙で三人の影が隠れてる間にオフビートの両手に足をのせて“オフビート・スタッカート”によって思い切り天に弾かれたのだ。そして気づかれないように空中から青山の場所まで飛んでいくという前代未聞の神風作戦であった。
 空中にいたために、地上の攻防がどうなっていたか知らなかったために、オフビートの姿を確認した伊万里の顔は青ざめていた。
「ちょ、ちょっとどうしたの斯波君!」
「いやあちょっとしくった」
「ちょっとじゃないでしょ! もう、無茶しないでよ!」
 そう怒鳴る伊万里の目には涙が浮かんでいた。傷だらけのオフビートを心底しているようだ。見かねて逢洲も彼らの傍にやってきた。
「巣鴨くん、転校生・・・・・・いや、斯波くんも悪かったね。私が不甲斐ないばかりに」
「べつに先輩のせいじゃないですよ」
「ああ。だが特に斯波くんがなかったら青山を突破することはできなかっただろう。感謝する。褒美に接吻の一つでもしてあげようかい」
 さらっとそんなこと言う逢洲に二人はぽかんとしていた。
「は?」
「ちょっ、ちょっと待ってください逢洲先輩! 何言ってるんですかそんな!」
 伊万里は焦ったように目をぐるぐる回しながら混乱していた。そんな逢洲をクスクスと笑いながら逢洲は眺めていた。
「冗談だよ。巣鴨くん、彼氏を大事にしたまえ。斯波くん、彼女を大事にしたまえよ」
 言いながら二人の頭をぽんと撫でた。
「彼氏・・・・・・」
「彼女・・・・・・」
 複雑な表情でお互いの顔を見合わせたオフビートと伊万里は、どちらからともなくお互いの手を握り締めていた。
 監視するものとされるもの。
 こうして双葉学園史上もっとも奇妙なバカップルが誕生した瞬間である。






 ふらふらと図書棟の中に入っていった弥生は、その独特の臭いと雰囲気のするこの場所にどこか心の安らぎを感じていた。
(なんで図書館とか資料室ってこんなに落ち着くんだろ・・・・・・私の心が寂しいからこういう所が潜在的に好きなのかな・・・・・・)
 何百冊という本が本棚に並べられ、さながら迷路のようだった。日の光を避けているために、薄暗いのだが、不気味さよりも神秘的なものを感じさせる空間だ。
 その図書棟の二階の窓辺にその少女はいた。
 美しい、という形容しかしようがない少女がそこにいた。
 艶やかな黒い長髪、長く細かい睫毛。消えてしまいそうなほどに白い肌、すらりとした肢体。完璧なまでの美しさを兼ね備えたその少女を見て、弥生は息を呑んだ。
(こんなに綺麗な人が学園にいたなんて・・・・・・)
 その少女は窓から外を覗いていた。どうやら第三実習グラウンドを見ているようだが、ここからじゃ実習の内容は遠くて見れないはずだ。
「ふん、マリオネットが二体もやられるなんてね・・・・・・死の巫女を侮っていたかしら」
 少女は弥生に聞こえない程度にボソリと呟いた。
 弥生はまるで絵画の世界から出てきたようなこの少女に話しかけていいものか悩んでいると、少女が突然こちらを向いたので弥生はあせっていた。
「あら、可愛らしいお嬢さんね。こんなところで何をしているのかしら。まだ授業中じゃなくて?」
「え、あの、私は・・・・・・」
「いいのよ、何も言わなくて。私にはわかるわ。私と同じように群集から離れ、幻想の世界に浸りに来たのでしょう」
 その少女は弥生のすぐ鼻先まで接近し、瞳を覗きこむようにして見つめていた。
「わかるわ。貴女は悩んでるのね、お友達のこと、いえ、自分自身のことで」
「え、はい。なんでわかるんですか? まさか・・・・・・異能?」
「そんなんじゃないわ。ただ私は貴女みたいな子の気持ちがわかるのよ。同じか弱い、無力な女の子として、ね」
「そうなんです・・・・・・私はその友達の傍にいたいんですけど・・・・・・私にはそんな資格がないんです・・・・・・」
 初対面の彼女にそんな悩みを打ち明けることに抵抗はなかった。弥生はこの少女になにか安心感を抱いていたのだ。
「それは辛いわね。でも、それはきっと貴女にそのお友達が相応しくないのかもしれないわね」
「え・・・・・・?」
「運命ってものはあるのよ。きっとそのお友達とはここで別れる運命なのよ。そして、その代わりに私と貴女が出会った。これもまた運命よ」
「運・・・・・・命・・・・・・?」
 弥生は彼女の言葉に支配されるように身体が動かなくなっている。そして少女は弥生の身体にくっつくように近づいてくる。肌と肌が触れあい、息がお互いにかかりあう。
「そう、運命よ」
 少女は弥生の頬にそっと手をそなえて、自然な流れであるかのように弥生の唇に自分の唇を重ねた。
 弥生は驚きのあまり何も出来ずにその行動が終わるのを待つしかなかった。
 やがて長いキスが終わるが、その時にはもう弥生の表情は恍惚と悦楽の表情になっていた。
「ねえ、貴女のお名前を教えて頂戴」
「弥生・・・・・・藤森弥生」
「いい名前ね、私は高等部二年の西園寺《にしのその》のぞみよ」
 弥生は知らなかった。この世界のほとんどが悪意で出来ていることを。この世界は綺麗なお花畑だけで出来ているわけじゃないことを。
「でも私のお友達たちは私のことを――“キャスパー・ウィスパー”と呼ぶわ」
 世の中にはどこにでも落とし穴は存在し、悪意は爪を研ぎ、成長し、最悪のタイミングでその牙を剥くのだ。






                                         ――――――To Be Continued?





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