【ある前座の話4-1】


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遠く海上に見えるは高架陸橋の警告灯
宵闇の大地を照らすのは煌びやかなネオンサイン
漆黒に彩られたロードの向こう、夜の帳の向こう側へと突き抜けることだけを願い
己のマシンに心血を注ぎこみ、己のテクニックを只管に磨く

今宵もまた公道には、『最速』という名の怪物《ラルヴァ》に取り付かれた狂人たちが集う


彼らが追い求めるは、『最速』の称号、ただひとつ


金も
女も
単位も
そんなものが何になる?
誰よりも速くあることより価値のあるものなんて――――――存在するはずがない


Fastest or Die?
それが、それだけ俺達の合言葉だった
それだけが、俺達の生き様を表す全てだった
それ以外に何も要らなかった。要るはずもなかった


アクセルを開放する
エンジンが重々しく唸りを上げ、回転数が限界一杯まで一瞬で跳ね上がる
忌々しくももどかしい、ブレーキという名の呪縛から解き放たれる、歓喜の瞬間は、すぐそこに――――――












前編 ジェヴォーダン・ビースト


「というわけで、いろんな意味で堅いルールは苦手でも悪いラルヴァにゃ負けないぜ、な俺達アウトサイダー、
 ぶっちぎりバトルライダースの伝説は」
「結局ルールのプロトタイプの稼動試験の標的にされて、最後の勝利を得ることなく幕を閉じたんでしたよね」
「何でオチを先に言うなぁ、ゼンザの癖に!」
「何遍何人に言えば分かるって言うんだ! 俺はゼンザじゃない! ……ああもう、次、行きますよ!」
「あーはいはい、しゃあねぇなぁ、っと」
双葉学園都市の一角に据えられた剣道、剣術、体術全般の指導に用いられる武道場。
割かし広い道場の中では、能力者も非能力者も混じって柔道や剣道の練習に精を出している。
その片隅で、一種異様な雰囲気を放っているところがある。
そこに居たのは、能力者である西院 茜燦(さい せんざ)と、能力者ではない男が一人。

男の名は、有賀 羽矢太(あるが はやた)。
西院家本家の道場に通い茜燦にとっては兄弟子でもある彼だが、学園では高等部時代はゾクの筆頭株として
学園都市内外でブイブイ言わせていたという、今となってはこっ恥ずかしくておおっぴらに公言できない
過去を抱えていたりする。
バイクで転倒事故を起こした際の怪我が原因で異能を失ったらしく、それからは市井のいち学生として
双葉学園に引き続き在学、極平凡な大学部生をしている。
茜燦が入学してからは、兄弟子として今日のように稽古に付き合ってやることも少なくはない。

「にしても、大分腕を上げたようだなぁ……オレがマジメに剣道に打ち込んでなかっただけかも分からんが」
「言っておきますが、持ち上げたって何も出ませんよ」
「後輩おだてて得るもの何ざ何もないわ。素直に褒められとけって」
「先輩に言われても、裏があるようにしか聞こえないんですよ」
「ちっ……まぁそれはいいや。そうそう、いい機会だからオマエに渡しときたいもんがあるんだわ。ホレ」
と言って羽矢太が投げて寄越したのは……

「っと! いきなり投げないでくださいよ……これは、カギ? しかも二種類」
「おう、オマエくらいの年のころに乗ってたヤツの、な。確か免許は持ってたろ?」
「そりゃまぁ、普通二輪なら。田舎に帰るのに便利ですしね」
「普通二輪か……ま、なんとかなるだろ。現行法にゃアツィルトエンジン系の規制は入ってないし」
「ちょ!? んなアブねーもん受け取れんわ! それにオレくらいのころのっつったらゾク車じゃないのか!?」

アツィルトエンジン。
話に聞いたことがある程度だが、周辺あるいは搭乗者から魂源力を収集することで現在一般的な工業技術では
生み出せないほどの爆発的な馬力を生み出すことを可能とした、能力者専用マシンにのみ搭載される、
超科学能力者が作製した特殊なエンジン及びそれを含む駆動システムを指す言葉だ。
少し前にこうして手合わせ願った際に、八代博士らの研究チームが作ったアツィルトエンジン搭載車が
追跡者(チェイサー)と呼称されるラルヴァの群れを相手に環状線を爆走、勝利を収めた、という話を嬉々として
声高に語っていたのを思い出す。
……気になって鵡亥(むい)姉妹経由で話を聞いたが、市販バイクがなんぼのもんじゃいなスピードを叩き出したとの
報を受けて研究チーム一同大歓喜のあまり吶喊飲み会が行われた、らしい。
そんなものが積まれてる危険極まりないモンをオレに渡そうと言うのか、この人は!?

「……ま、ゾク車と言われてしまえばそうかも知れんな。だが俺が持ってても仕方のない、クソデカくて
 とてもじゃないが車庫に置けない単車であることは間違いない。しかもほぼ能力者専用。つまるところ、
 俺よかオマエが持ってるほうが、まだマシなんだよ。だからアレはオマエにやる」
「……また無茶なことを仰る。とりあえず、そのブツを見せてもらってから決めたいんですが、どこに?」
「ああ、それなら―――――――――」



―――※―――



という具合の話があって、数日後。

「で、何がどうしてこんなところへ……」
茜燦が二本のキーを受け取って「ブツについて聞いたら、ここにあるってことだから取りに行ってこいや」
と言われたまでは良かった。

遙かに海を渡り、陸路を経て辿り着いたのは……米国西の工業拠点、サンフランシスコ。

羽矢太が能力を失う契機になったと思われる交通事故の後、どういうわけか米国の学府より例のバイクに関し
接収の要請が出され、双葉学園側も受理したために、当時心身虚弱状態であった所有者の意向を無視する形で
受け渡しが為されたものである。
羽矢太も意識を取り戻した後で当然拒否したが、何せ「いいバイクはないものかとほっつき歩いていたところに
偶然キーが挿さった状態で見かけた」というあからさまに怪しい拾い物。正当な所有権を主張しようにも
「拾った」では根拠にはあまりにも乏しく、そのまま接収になるかと思われていた……のだが、羽矢太に
能力者としての適性が認められていたこともあり、特別に所有権の帰属が認められた、というわけだ。

そのバイクが接収されているのは、米国西部を統括する双葉学園と同等かそれ以上の異能者機関により統治され
超科学系異能を持つ学生を数多く抱えている施設であった。

「つか、なんで日本国内で放置されてたバイクの権利を主張してきたんだ?」
機内は暇だったのでいろいろと考えることは出来た。
窃盗にあったか裏切りか何かで持ち出されたものの何らかの原因で放置せざるを得なくなった、放置して
誰かに拾わせようと画策していた……ミステリーは余り好きではないので多くを発想することは出来ないが、
何にせよ一番の疑問は「なぜ米国で作ったものを日本に持ち込む必要があったのか」に尽きる。

さらに言えば「たかが一泊二日とはいえ『体験留学』という意味不明の理由が付けられて、体面上は公欠扱いに
なっている」というのも訳が分からない。
学校を休まないといけないが慣習的に重要とは考えられない私用に対し、公欠が適用されるほどの特例が、
自分のような一般的な生徒に与えられるはずもない。
仮に出来たとしても、忌引を除けばせいぜい醒徒会役員あたりが関の山だろう。
そんな自分に特例が適用されたと言うことは……もっと上の決定か。
そして理由はオレ自身ではなく、バイクのほうにある、と。
一体どんなブツが出てくるか……正直、不安しかない。

―――※―――

やっとこさ辿り着いた場所は、どうやらただ施設があるだけではなく、分校らしい。
守衛室に寄り、来校の事情を話そうとするが――――――当然ながら、日常会話が出来るほど英語が堪能と
いうわけではない。
あたふたしていると、守衛の人が何か小さな装置を渡そうとしている。これは……補聴器?
守衛が渡すくらいだ、おそらく悪いものではないと信じてはめてみる、と
「ヘイボーイ、何か用かね?」
口の動きと聞こえてきた単語が明らかに違う。これは自動翻訳機? しかもライムラグがほぼない上に、
誰かがこの警備員の話しっぷりを観察しているわけでもない。
「何を驚いてるかねボーイ? おまいさんもこの中で勉強してる学生と同種だろ? おおっと、ジャパニーズを
 話されたって困るぜ? おっちゃんにゃわっかんねぇからよぉ! HaHaHa!」
「は、はぁ……」
やたらとテンションが高い守衛のおっちゃんが言うには、こいつは魂源力を解して相手の言葉を理解しやすく
変換するための装置、だそうだ。そして異能を持たないものには使用できないようだ。
そしておっちゃんが何かアンケートみたいなもんを取り出して「YesかNoかで答えてくれよ?」と質問を
一つずつ投げかけて、それに答えるというのを何度か繰り返す。

最後の問答が終わって、持参した書簡を提出して……もう20分は待っただろうか。
さすがに日差しは強いが、ジメつく日本の夏とは違ってカラッとしてるだけあって……でも暑い。
「うぁぁ……あと、どんだけ待てばいいんだぁ……?」
とうだっていると、ゲートの扉が開き―――同い年くらいの娘がこちらに向かってくる。
雰囲気としては、舞華さんと明日明(あすあ)を足して2で割った感じだろうか、その娘が話しかけてくる。
「ゼンザ・サイ様でいらっしゃいますか?」
「いえ違います」
「そうでしたか。失礼致しました」
即答。
ついに俺の名前は初対面のアメリカンガールからも間違えられるインターナショナルでグローバルな領域に突入したか。
名前の由来はさておき、此処まで来るとそろそろ親父を殴りたくなってくる。


だがしかし、さすがに目当てのゼンザを探して右向け左向けしてる娘を見てるのは忍びない。
というわけで
「あの、さ」
「はい? あ、そうだ。聞けば良かったんですよね。あの、ここに日本からのお客様が来ていると聞いて
 出迎えに来たのですが、その方がいらっしゃらないようで……待たせすぎてしまったから、涼みに行って
 しまったのでしょうか? 何か知りませんか?」
「いや、それなんだけど」
「どちらに行ったかだけでも分かりませんか? 急いで探してこないと」
「あー、っと。とりあえず謝る。ごめん。オレ、セ ンザ・サイってんだ」
「……どっちも同じようなものじゃないですか。意地悪さんなんですね」
「そうは言うがな……まぁいいや。間違えられるのは今に始まった話じゃないし、もういいや」
「とりあえず、皆様お待ちなので、お連れしますね」
言われるままに、とりあえずついていくことにした。
というか、日程的に他のことをする余裕がない以上、付いて行かざるを得ないのだが。

―――※―――

分校と言う割には双葉学園とほぼ同程度と思われる規模の敷地内には、やはり土地柄か、ぱっと見意味不明なメカニックが
げちょんげちょんと歩き回ったり走ったり、さらには試し撃ちの的にされたりしている。
「すげーところだなぁ。ウチだと超科学系だけで大々的に表で活動ってのはできないんだけど」
「そうですか。ここは超科学能力者専門の研究用分校ですので当然と言えば当然ですが」
そんな話をしながら、かなり大きめ、小型飛行機でも余裕で納まるようなガレージの密集地帯に辿り着く。

「こちらです。どうぞ」
そう言われて案内されたガレージの中には……
「でかっ!? 何なんだこりゃあ!?」
「HaHaHa! 面白ぇなぁボーズ! テメェのモンだろうに!」
「いや、オレ現物見るの初めてなもんで」
「おう? ああそうか、こないだ所有権変更の書面が来てたっけか。そうかそうか」
「で、こいつは一体……?」
「いやまぁ恥ずかしい話なんだけどよ、稼動試験中にバカ野郎がコケて気絶しちまってな、それをどっかの
 これまたバカがパクっちまって、流れ流れて行き着いた先がニッポンだったわけだ!」
「は、はぁ……」
「で、見つかったっていうから返還要求して戻ってきたら、なんか変なことになってたからよぉ、よく分からんカンジが
 書いてある旗とか取り付ける意味のない派手なフードとかへっぺがす序に、最近出来た技術とかニッポンにいる
 おチビちゃん達が作ったっていうスキルエミュレーターってのを捻じ込んでみたんだが、そうしたら今度は
 一回り大きくしないと収まりが悪くなっちまってよぉ! HaHaHa!」
この後先考えない豪快さ、これがアメリカン気質というものなのだろうか……?

改めてバイクを見る。
基本的には二輪だ。それはそうだろう。なんてったってバイシクルなんだから二輪でなければ困る。
だがタイヤが腰ほどまであるのはどうなのだろう? しかもそれが双胴式、つまりは2個重ねてある。
前輪後輪ともにこの仕様。いったいどんな道を走ることを想定して作ってあるんだ?
それにボディも半端ないデカさだ。全長4m、全幅1m、総重量は「なんとかtは切った」そうだ。
とりあえず跨ってみるが、座り心地は割と悪くない。
ざっとハンドル周りをいじってみる。ハンドルには、羽矢太先輩のものと思われるグリップの削りこみが
未だに残っている。調整の必要は……うん、なさそうだ。
「ほれよ、仕様書だ! 明日にゃ持ってくんだろ? 今のうちに読んどいて試運転でもさせてこいや。
 何なら裏のサーキットまで持っていくが?」
「サーキットて、んなもんまであるんかい……」
仕様書を片手に、コンソール類をいじ……る前に、キーを挿すか。

キーエントリーは、まるで長年離れていた相棒にようやく再開できたかのように、すんなりと成功。
軽く捻ると、コンソールに灯が燈る。
「そうそう、カギだけがなかったからよ、システムメンテが出来てないんでぇ。リウム、頼むぜ」
「はい、分かりました。申し訳ありません、システム周りのメンテナンスとチェックを行うので、少しの間
 お預かりいたします。よろしいですか?」
「ああ、宜しく頼むよ」
リウム、と呼ばれた娘はここまで連れてきてくれた娘だが、その娘がシートに乗っかり、コンソール類を
文字通りの意味で「目にも留まらない」速さで叩き出す。どうやらそれが彼女の異能らしい。

数分後。
「ふぅ、終わりました。それではどうぞ。私は報告がありますので」
「ありがとう」
すたすたとデータを納めたディスクを手にバックヤードに下がるリウムを見送って、再びシートへ。
コンソール類の表示は全てディスプレイ表示になっている。
円グラフはスピードメーターとタコメーター、棒グラフはガス残量と内蔵魂源力量だろうか。
あらためて仕様書に目を通すと……おおよそは自分の単車と同じように扱えそうだが
「オイ最大時速350kmって何だそれ!? 無茶にも程がねぇか?」
「オイオイボーイ、そんな程度でビビってちゃ、俺らのいる『速さ』の世界じゃとてもじゃないがやっていけねぇぜ? 」
なるほど、先輩らと同じ人種か……どこにでもいるもんだな。
そんなことを考えながら、仕様書片手に操作について勉強する茜燦であった。

―――※―――

バックヤードに入ったリウムは、教授にデータディスクを提出する。
「そちらが、ACM-X03+のシステムデータと、『交信』試験のデータです」
「ふん、どうせ『交信』は失敗だろう? それよりも、あの坊主のほうはどうなんだ」
「見立てでは、どう考えてもランクCがいいところではないでしょうか。特に目立った能力があるとは
 思えませんが」
「そうか……ということは、坊主が『ナイト』と接触したのも徒の偶然、か。まったく、本校に強引に
 掛け合って連れてこさせたというのに、無駄以外の何物でもなかったな」
教授は苛立っている。それだけはリウムにもよく分かる。

「とりあえず、『ジェヴォーダンB』の稼動運用状態については把握できた。今後のモニタリングについては」
「はい、システムリンケージについては問題ありません。何処でどのような環境で運用されとも即座に
 運用データを転送することができます」
「そうか……まずはこのデータを元に新型を開発して、軍に取り入らねばならん。そのための試作だ」
「差し出がましいようですが教授、軍に取り入る必要などあるのでしょうか?」
「ふん、貴様ごときに分かるものか。ラルヴァなどというものはどうでもいい。ステイツがこの先も
 常に世界の審判者たるためには、効率的に異能者を異能者で討つためのハードとソフトが必要になる。
 我々の研究は、パクス・アメリカーナを今後より強固にするために必要なものなのだよ」
「……教授は、戦争の道具を作りたいのですか? 人々の明日を護るための力を作りたいのですか?」
「そんなものは決まっている。ステイツの栄光を護るための力、それこそが我が宿願だよ」
「そうですか。失礼しました」

リウムは失望していた。
何の役にも立たなさそうな自分の能力を評価してくれた教授が、戦争の道具だなんて下卑たもののために
Atziluth Cycling-Maneuver シリーズを研究してきたのか、理解できない。
教授にはきっとそれ相応の理由があるのだろうが、理解は出来ない。
コードネーム『ジェヴォーダン・ビースト』。
家畜を無視し人しか襲わなかったという空想上の獣の名を冠した意味に、もっと早く気付くべきだった。

バックヤードから戻ると、あの日本人が相変わらずX03+に跨ってあれこれやっている。
彼には、そのバイクに込められた悪意が分かっているのだろうか。
いや、おそらく気付くことはないだろう。
何も知らず、日本でラルヴァを駆逐するためにそのバイクは使われ、そのデータは人間を狩る兵器として
昇華することになる。使っている当人にはそんなことに気付くはずもなく。

リウム・フェンドラウンは、自分を取り巻く何もかもに対して、ひとつ嘆息を漏らした。

―――※―――

「ふむふむ……へぇ、ほぉ……」
「そうそう、そうでぇ。でな、ここが……」
茜燦とメカニックチーフのおっちゃんは、同じバイク好きとのことで意気投合、あれこれと話を続けていた。

―――※―――

「おうジョンどうしたんだい? そんな暗い顔して」
「はっはーん、昨日実験で爆発させて、ひと部屋ダメにしちまったからって落ち込んでるんだなぁ?」
「そんなの気にすることないってジョン! オレなんて先月ひとフロア駄目にしちまったんだからなぁ! HaHaHa!」
だが、ジョンと呼ばれた学生に、反応する気配はない。
「おいおいスルーかよ? ヒデェぜジョン!」
「全くだぜ? おいおいホントに一体どうしちまったんだよジョ」
「何だよさっきから、ジョンジョンってうるさいなぁ~? オレならここにいるけど?」

「「え?」」
ジョンが見たのは、自分をしきりに呼んでいた二人の胸部中央あたりと額の辺りから、黒い錘状のものが
突如として生えた瞬間であった。
崩れ落ちる二人の向こうから現れたのは、自分と全く同じ容姿に―――腕は黒く長い錘状のものから人間の
腕の形に変化し、顔もジョンそのものだが、瞳だけは人間のソレではなかった。

ジョンみたいなモノは腕を一振り、ジョンの首が飛ぶ。
ジョンの首があったところから、間欠泉の如くに血があふれ出す。
その姿を見下し、手近なガレージにジョンみたいなモノが手をかけ、シャッターを強引に引き剥がしにかかる。
そこにあったのは、別チームが作るアツィルトエンジン搭載型トライク。

ジョンみたいなモノ―――カテゴリー:デミヒューマン ドッペルゲンガー 中級A-3―――は、先ほど殺した
学生から魂源力と共に知識をも汲み取っており、そこからバイクの知識を取り出して、トライクに跨る。
既にエントリー済みのキーを捻ると、徐にアクセルを引き絞る。
トライクはドッペルゲンガーを乗せ、ガレージを飛び出し、激走を始める。

―――※―――

突如ガレージ内にやかましいサイレンが鳴り響く。
否、ガレージ内のみではない。分校全体に、である。
「警報だとォ!? 一体何事でぃ!」
「まさか、ラルヴァ!?」
茜燦は生徒手帳を開くが
「だああ! ここアメリカだっつの! 学園から情報くるわけねー!」
スピーカーからはアラートコールが流れるが、意思の篭らない機械音声であるため茜燦には英語にしか聞こえない。
それでも何とか聞き取れた言葉だけを繋ぎ合わせて理解することは出来た。
だがしかし、情報が手に入らない!

「アラートページ更新されました。目撃証言から、ミドルA-3『ドッペルゲンガー』出現、学生十数名を殺害後
 北ガレージからサミュエルソン研究室の試作トライクを強奪、学生数名を轢きつつなおも爆走を継続。
 現在は校外へ進路をとり推定180Km/hで進行しているとのことです」
「で、そのなんたら研究室のトライクは……あんま聞きたくはないけど、一体どこまで出るんだ?」
「推定ですが……速度特化型採算度外視、搭乗者の生死問わずの仕様とのことで、400は出るとのこと。
 付け加えると、高速度運転時の諸障害に対応するため試験型アツィルトシールドユニットを搭載しており
 防御面にはきわめて優れているとの情報が手に入りました」
あらゆる電子機器・電子情報へプロテクト無視でアクセスを仕掛けることを可能にする異能「エレクトロ・
ノッカー」で、辛うじて残ったサミュエルソン研究室のサーバーから回収した情報を展開、報告するリウム。

「バッカじゃねぇのかオマエラぁ!? コイツもそうだが一体何がしたいんだぁ! 戦争でもする気か!?」
「!? ……そんな、はずは、ないです。ないです!」
「すまん、この状況で門外漢がしていい話じゃなかったな。で……どうするよ? さすがに俺自身としては
 よその国の事とはいえ黙って見ていたくは、ない。だが流石に勝手に行動するわけにゃ……」
「かと言って、ここは超科学異能者、特に非戦闘能力者が中心だ。そうでなくてもサミュエルソンとこの
 搭乗者無視仕様のトライク相手に立ち回れるようなヤツはいないぜ?」
「……なぁおっちゃん、コイツ、動くんだよな?」
「オマエのバカも大概なもんだなぁ! 一度も動かしたことのないバイクで、しかも立ち回ろうってのか?
 オレだったら御免だね。そういう目的なら、メカニックの意地にかけてコイツを表に出させるわけにゃいかねぇ!」
「ならどうする! 他所のバイクか乗り手を探すか? そんな時間はないんじゃないのか?」

その時、バックヤードの扉を開け放ち、教授が姿を見せる。
「やりたいというのなら、やらせてやればよかろう。責任は私が持つ」
「旦那ぁ!? いいんですかい?」
「構わん。但し、失敗は許さん。いいな?」
「……きっついこと言ってくれるねぇ」
これまでの経験では、中級ラルヴァには防戦一方が関の山、一度も勝った事はない。
ひと月ほど前にも一切の太刀打ちが出来ず、会長がこなければ死亡確定の全身襤褸雑巾にされたばかりだ。
だが、そんなことは今はどうだっていい。今やれることを、やるだけだ!

「で、そのナントカ先生のトライクはどうすりゃいい?」
「サミュエルソン教授及び研究室生全員の死亡が確認された。アレが無くなって喜びこそすれ、悲しむやつは
 この分校には一人たりとていやしない。回収困難と君の感性で判断したなら破壊して構わん」
「アレ、ってのは教授たちのことか? それともバイクか? ……まぁいい、了解。じゃ……やりますか!」
茜燦はまずモノクルを左目にはめ、カバンその1から愛用のメットとゴーグルを取り出し装着、その2から
四宝剣を取り出し袈裟懸けに装備……しようとしたところでリウムに止められる。
「それは、アツィルトチャージャー付の四連装ジャパニーズソード? ……なるほど、ミラクとアスアの
 『お兄ちゃん』というのは貴方のことでしたか」
「はい? なんでここで突然あの二人が出てくる?」
「先日搭載したスキルエミュレーターの基礎根幹装置の完成品と応用装置の図面を、二人から頂いてましたので。
 それに、以前からメールペンパルですから」
「世界って、広いようで狭いな。で、コイツをどうするんだって?」
「このコンテナに収納してください。搭乗者だけではなく、所有アイテムのスキルに関してもエミュレートが
 可能になります」
「よく分からん理屈はおまいさんや未来来に明日明に任せるとして、あとは体で覚えるとしようか」

教授とリウムが見送る中、バイクの搬出作業が始まる。

―――※―――

「よっしゃ出すぞ! ……ボウズ、これだけは言っておく」
「何だいおっちゃん?」
「ソイツは万全の整備をしているつもりだが、何分キーが無かったんで、一度も実働試験をしていない。
 つーわけで、新機能を追加したことでどうなるか、使うことでどうなるかは何も分からん。だから……
 絶対に、無理はするな。危ないと思ったら、コイツは乗り捨ててでも自分の身は守れ。いいな?」
「こういうときって、『オマエはどうなってでもコイツは無事に返せ』とか言うもんじゃないのか?」
「馬鹿野郎、コイツはぶっ壊れても直しゃいいが、オマエが死んだらどうすんだ?」
「了解、できるだけオレもコイツも無事帰ってこれるように、やってみるよ」
「その意気だ! よっしゃ行って来い!」
「おう!」
クラッチを抜き、差し込まれたドライブキーをさらに捻る。
軽快な振動音と共にハイブリットエンジンが回転を始め、唸りを上げる。
軽くアクセルを吹かせば、嘶く様な重低音が後輪の左右に配置された双子の排気筒から立ち上る。

準備万端、覚悟も十分。
「さて、如何程のじゃじゃ馬ぶりか、見せてもらおうか……!」
「ま、待ってください! 私も行きます!」
「うぇぇ!? ちょ、さすがに二人乗りは」
「今ここでシステムの最終調整をしてからではおそらく追いつけません。だったら乗りながらやったほうが
 効率的です。それに無駄話をしている余裕もありません。乗せてください」
この感じ、この表情……強情なときの舞華さんや明日明に良く似てる。何を言っても譲らないのもきっと
同じなんだろう。であれば……乗せるしか、ないか。
「メットはあるか? ……っつっても、爆走チェイスで振り落とされたらメットなんてあっても無くても
 同じようなもんだしなぁ」
「大丈夫です。用意はできていますから」
ちゃっかり既にメットを被って、コンソールと茜燦の間にその身を収めるリウム。
「そいじゃ……行きますかぁ!」
アクセルを噴かしたままクラッチを入れ、ブレーキを開放する。
唸りを上げるエンジンの躍動は一瞬にして後輪に伝播し、アスファルトを蹴り、機体は地を駆ける―――




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