【デルタ 01】


※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

 日本の某県某所、深い森が広がる山の上を一機の減りが飛んでいる。
 乗り込んでいるのは、双葉学園の異能力者で結成されたラルヴァ討伐チームの生徒達である。
「しかし、俺達を出すなんてよっぽど大物なんだろうな」
 特徴的なオレンジ頭の伝馬京介が、いかにもめんどくさそうに言った。
「お前は何でさっきのブリーフィングをサボったんだ? これだから馬鹿の馬の字だって言うんだ」
 眼鏡をかけた少年、氷浦宗麻は心底呆れたように吐き捨てる。
 真面目な宗麻とぶっきらぼうな京介はお互いに仲が悪く、特に宗麻は事ある毎に京介の苗字にかけて馬鹿にしている。
「サボった訳じゃねえ、俺の超振動ナイフはお前の細っこい剣と違ってメンテが面倒なんだよ」
 二人の間に緊迫した空気が流れたとき、姫川哀が間に入った。
「あの……私はギリギリになっちゃったから話聞けてないんだけど」
「何やってるんだよ、ノロマ」
 京介と哀は学園に来る前からの幼馴染と言う事もあって、京介の哀に対する物言いは割とキツイことが多い。
「だって女子は水泳だったんだもん」
 哀の方は京介の態度には慣れた様子で、むしろ濡れた髪を気にしていた。プールの水は塩素が強いので、このまま放っておけば痛んでしまうだろう。
 体育の授業中の出動だったので、京介と宗麻は体操服のままである。
「コラ、姫川さんは何も悪くないだろう」
「けっ、俺のときとずいぶん態度が違うじゃねえか」
「当たり前だ。さあ、あんな馬鹿は無視して、今回のおさらいをしましょう」
 これまでの態度が嘘のように、宗麻は喜々として語りだした。
「今回の目的は、M.I.A.――作戦行動中行方不明者の捜索です」
「捜索? 俺達に向いてる仕事とは思えねぇけど……」
「キョウちゃん、ちゃんと最後まで聞こうよ」
「行方不明になったのは、寺井歩、千倉美星、緑川昇の三名……」
 哀は今出てきた名前が全部知らないものであった事に少しだけ安心した。
「このチームは、寺井の飛刃操作(エッジ・ワークス)と千倉の銃弾の雨(スコール・ブリット)で足止めし、緑川の魔滅の炎(フィアマ・デラ・プリフィカズィーネ)で止めを刺すというスタイルだったようです」
「ウチと同じ、ハッキリとキーマンがいるチームか?」
 京介がつぶやく。その視線の先では哀が神妙な表情で何かを考えているようだった。キーマンという言葉に何か思うところがあるのだろう。
「緑川の能力は、対象の魂源力(アツィルト)を内側から燃やし尽くすそうです。魂源力(アツィルト)がたくさんある上級ラルヴァの方が効果的な能力ですね」
 宗麻はずっと哀から視線を外さないまま、ニッコリと笑って答える。
「質問したのは俺だろうが」
「うるさいヤツだ。どうせお前に話したって、言ったそばから忘れるクセに」
「何だと!」
「もう……キョウちゃんも氷浦くんも、何ですぐケンカになるの!」
 京介と宗麻はそれぞれお互いを睨み、哀にちらりと目線を送る。二人とも、頬がほんのりと赤くなっていた。
 当の哀は二人の様子に気付かず、ポカンとしている。
「えーとにかく」
 宗麻がごまかすように説明を再開した。
「三人は当初の任務通り熊鬼(ゆうき)を倒したという報告の後、影縫(かげぬい)と遭遇したと報告を入れたきり行方不明になっています」
「ユウキ? 誰だそいつ」
「カゲヌイってどんなラルヴァなの?」
 二人の声が重なった。
「あー、ブリーフィングの途中申し訳ないが、到着だ」
 今まで黙っていたヘリのパイロットから声がかかる。
「あ、ごめんなさい」
「悪いな、ここまでは来るのに燃料がギリギリなんだ。終ったら給油して拾いに来てやるから。帰って来いよ」
「オウ!」
「当然です」
「がんばります」
 三人はもう一度軽く装備を確かめた。

「……ところで、降下ってまたいつものアレやるの?」
 不安そうに哀が聞いた。
「あ? 当たり前だろ他にどうするって言うんだ」
 質問の意味がわからないといった様子で京介が答える。
「パラシュートとか、梯子とか……」
 哀の言葉はポツポツと最後には聞こえないほど小さくなっていった。
「高度や木の関係でパラシュートは使えませんから、使うとしたら梯子という事になりますが」
「俺は使わねーよ。下から見たらパンツ丸見えだな」
「キョウちゃん!」
 慌ててスカートの裾を押さえる哀。
「決まりですね。行きましょう」
 ドアが開かれる。
 ローターのけたたましい音と共に大量の空気が流れ込んでくる。
「おっしゃあ!」
 気合の一言で京介の脚に炎のような深紅の魂源力が集まり、鎧として結晶化する。
「ホラ哀」
「うう……なるべくゆっくりね」
 しぶしぶといった様子で、哀は京介にしがみ付く。既に目には涙が溜まっていた。
「努力しますよ」
 いつも穏やかに笑っている宗麻だが、このときの笑顔は何となく信用できないと哀は思った。
「行くぜ」
 まず初めに、哀を抱えた京介がドアの外に飛び出す。
「きゃあぁぁぁぁ」
 そして哀の悲鳴が響く中を宗麻が続いていった。
「死ぬなよ。ガキ共」
 誰もいなくなったヘリの中で、パイロットが呟く。
 外からはまだ、ローターよりも大きく哀の悲鳴が聞こえていた。

 そして、空中。
「ああぁぁぁ」
 未だに哀の悲鳴が続いていた。
 よく続くこんなに息が続くものだと京介は思う。というか耳が痛いのでいい加減止まって欲しかった。
 少し先行して落下していた自分と哀がが木の上に差し掛かったところで、宗麻をみやる。
 宗麻がうなづくと、何か見えない力のようなものが自分達を受け止めた。
 そして遅れて来た宗麻を京介が受け止めると、三人は再び落下を始めた。これが直接触っている物以外の半径五メートル四方の動きを止める宗麻の能力である。
 途中で止まったとはいえ、それでも約三階分の高さから二人を抱えて着地できるのは、脚力を強化する京介の能力がもたらしたしなやかさと、バランス感覚の賜物である。
 普段は何かと理由をつけてケンカばかりしている二人であるが、こういったチームプレーは絶対に外さなかった。
「うぅ、怖かったぁ」
 無事に着地が済むと、哀は震えながらその場にうずくまった。
「いい加減慣れろよ、まったく耳元で叫びやがって」
 これ見よがしに京介が耳をほじる。
「すみません、この方法が早くて確実なものですから」
 哀の背中に向かって申し訳なさそうに、宗麻が声をかける。
「確実っていっても目安なんでしょ?」
 恨めしそうに哀が首だけを回して宗麻を見やる。
「はい、この辺りで反応が消えているようですね」
 視線から逃れるように、宗麻は急にきびきびと周囲を探り始めた。
「あーはいはい。わかったから、いい加減とっとと探して帰ろうぜ」
 返事を待たずに京介が歩き始めると、宗麻と哀もそれに続いた。

「で、さっきの話なんだけど、どんな化物だって」
 歩き始めて数分、ポツリと会話が途切れたところで京介がさっきのラルヴァについて話を戻す。
 しかし、宗麻は答えない。
「さっきの話なんだけど、どんなラルヴァなの」
 険悪な空気になるのを察した哀が同じ質問をすると、宗麻は喜んで話し出した。
「熊鬼は熊のラルヴァというか、ほぼ熊そのものです。昔は山の神として崇められていたとか。怪力の持ち主ですが、縄張りを荒らさなければ無害なため中級A-1となっています」
「無視とか子供っぽいこといつまでもやってんじゃねぇよ」
 宗麻は、なおも無視して説明を続ける。
「影縫は、群れで行動する下級ラルヴァで、空飛ぶエビのようなものだそうです。尾の部分の針で影を射抜かれると動けなくなるとか」
「お前の力に似てるな、そいつらの方が強そうだけど」
「試してみるか」
 宗麻と京介はそれぞれ武器に手をかける。
「だから二人とも、ケンカはやめようよ」
 放っておくと、この二人は本当に戦い出してしまうので、哀はとにかく話を続ける。
「ねえ、その熊鬼はどうして討伐指定になったの? 縄張りを荒さない限り無害なんでしょ」
「この辺りはトンネル建設が決まっていて、その作業の人が襲われたんです」
「胸クソわりぃな、国の都合かよ」
「……それでも私達みたいな能力者が普通に生きていくためには、学園とか国の命令で動かなくちゃいけないんだよね」
 哀のつぶやきに京介と宗麻は答えることができなかった。

「ねえ、あれ……」
 しばらく続いた気の重い沈黙を破って、哀がある一点を指差した。 
 倒れた木の根元に、何か黒い塊が蠢いている。
 一つ一つの大きさはおよそ二○から三○センチ。鈍く光る外殻に覆われたそれが群がる様は、無数の触手を持つ新種の生物を思わせる。
「影縫は群れで行動し……、動けなくした動物を生きたまま食べるんです」
 びちゃびちゃと不快な音を立てるそれを指して、搾り出すように宗麻が言った。
「散りやがれ、このエビ野郎」
 京介が駆け出していく。強化されたその脚力で蹴りだされた身体が、一瞬にして音の壁を超える。
 群がる影縫のギリギリ手前で、京介が急停止すると、後からやってきた空気の波に、影縫のほとんどが吹き飛ばされた。
 直接突っ込まなかったのは、生存の可能性を考慮してのことである。
「くっ、哀見るな」
 しかし、出てきたのは、行方不明の誰ともつかない状態だった、
 ゆらゆらと虚空を漂う影縫の無機質な緑の目が、哀達を捕らえる。
「来ますよ。離れないでください」
 宗麻が能力を展開する。
 近くにいた影縫やそれが飛ばした針が空中に押し止められる。
 しかし、剣が届く範囲には限りがあるため、影縫に止めを誘うとすると、どうしても哀から離れてしまう。
「クソッ! キリがねえ」
 京介が一呼吸の間に十数匹を切り裂く。
 しかしその数はあまり減ったようには見えない。
「おかしい」
 動きを止められた影縫を切り捨て、宗麻が言った。
「こいつ等が弱すぎる。報告で聞いていた能力者のチームだったら、この程度のラルヴァは二、三分で殲滅できるはずだ」
「知るかよ。疲れてたんだろ」。
 背中合わせに立ち止まる京介と宗麻。
 パラパラと京介に切り刻まれた影縫達が地面に落ちていく。
「キョウちゃん、氷浦くん」
 立ち尽くしていた哀が二人に声をかける。
「哀、隠れてろ!」
「すみませんが、フォローする余裕は無さそうです」
「……」
 哀の能力はとても強力だが、効果は一匹に限られる。こういったラルヴァが相手では、役に立つことはできない。
 自分のアンバランスな無力さに、ただ苛立つことしかできなかった。 
 京介と宗麻、二人合わせて落とした数は百を超えたくらいだろうか、やっと数が目に見えて減ってきたように感じる。
 しかし、まだ四分の一程度に過ぎない。
「とにかくやるしかねぇんだろ、だったらさっさと片付けてやる」
「そう言う事だな、考えるのは後でいい」
 京介と宗麻は再び飛び出してく。
「別にお前は考えててもいいんだぜ、お前なんかいてもいなくても変わんねぇからな」
「抜かせ」
 京介の着地のタイミングを狙った針を宗麻が切り捨てる。
 哀を物陰に残して、二人はかなり群れの奥まで切り込んでいった。

「立チ去レ」
 低い唸り声が響いてくる。
 影縫の群れとの反対側、森の奥から木々を押し退け、大きな影が近付いてくる。
「人ヨ、立チ去レェェエェェ!」
 哀が身を隠していた岩を砕き、その巨体が現れた。
「熊鬼!?」
「まだ生き残ってやがったのか」
 熊鬼が凄まじい勢いで、哀に突進する。
 京介も宗麻も影縫との戦いで手一杯で、今からでは哀のフォローに間に合わない。
「山ヲ、汚スナァ!」
 熊鬼の動きが哀に向かって腕を振り上げたところで、急に停止した。そのまま影縫から哀をかばうような位置に回りこむ。
 視線を交わしたラルヴァを完全に支配するという哀の能力である。
「姫川さん」
「哀!」
 ようやく哀の元に京介と宗麻が駆けつけてきた。
「私は大丈夫。今からは私も戦うから」
 後ろに控えていた熊鬼が身構える。
「心得タ」
「……ごめんね」
 影縫に向かっていく熊鬼に哀の言葉は届かない。
 熊鬼は圧倒的だった。
 その巨躯からは想像がつかない俊敏な動きに加え、データ通りの怪力、鋭い爪は軽く触れただけで易々と影縫を切り裂いていく。その咆哮は、衝撃だけで影縫の針を吹き飛ばした。
「やるじゃねえか、クマ公。こっちも負けてられねえぜ」
 熊鬼の活躍の前に京介も改めて闘志を燃やし、力強く地面を蹴りだした。
 赤い閃光が尾を引く。それが通った後には切り刻まれた影縫の死骸だけが残された。
「お前だけにおいしいところを持って行かれてたまるか」
 宗麻も、京介や熊鬼程ではないにしろ確実に影縫を屠っていった。
「ウオォォー!」
 熊鬼も咆哮を上げ、更に死骸の山を築いていく。
 数分後には影縫の群れはすっかり消えていた。

「思ったより時間が時間がかかったな」
 地面を焼き焦がし、京介が停止した。
「お前がちょこまかと動きすぎるからだ。逃げて散らばったヤツをいちいち追い回すのに無駄な時間がかかった」
 木の枝をなぎ払い、宗麻も戻ってきた。
 熊鬼もまた付き従うように哀の傍らに控えている。
「ねえ氷浦くん、この子助けてあげる事はできないのかな」
 ねぎらうように熊鬼の頭を撫でながら、哀は宗麻に問いかけた。
「それは残念ながら許可する事はできないよ」
 気まずそうに顔を逸らした宗麻からは、それでもきっぱりとした否定の言葉が出る。
 元々熊鬼の縄張りに踏み入ったのは人間だ。そして、熊鬼が現れてくれたおかげで影縫退治が助けられたのも事実だった。 しかし、哀の力は一度発動させてしまったら、その対象が死ぬまでは解除ができない。
「恨むなら僕を恨んでください」
 宗麻が剣を構える。
「待てよ」
 宗麻の肩に京介の手が置かれる。
「邪魔をするな」
 振り払う宗麻に、京介が落ち着いた声で告げた。
「お前の細っこい剣じゃ、コイツは斬れないだろ」
「そんな、キョウちゃんまで……」
 熊鬼の扱いに不満を持っていたはずの京介の言葉に、哀はショックを隠せないようだ。
 京介も哀の方は見ずに語る。
「悪いな、確かにそのクマ公はかわいそうだと思うけどよ……、俺には、お前の方が大事なんだよ」
 京介の脚を覆う魂源力の鎧が、刃を思わせる鋭いシルエットに変化する。スピードやジャンプ力を重視した通常形態に対し、一撃必殺に特化した京介の本気の力である。 
「逃げて」
「させるか!」
「不需要我領受(いらないのなら私が貰い受けるぞ)」
 京介が熊鬼に回りこむよりも早く、熊鬼の後ろに青年が立っていた。深い水のを思わせる青い毛髪と、サファイアの輝きを持つ瞳、温もりを感じさせない白磁の肌は、一目でその青年が人とは違う何かであると感じさせる。
 青年が熊鬼に顔を近付けると、鈍い光が青年に向かって吸い込まれていく。
「魂源力《アツィルト》を吸ってる!?」
 魂源力を全て吸われた熊鬼がぐったりと、青年の腕の中から落ちていく。
 哀は自分の能力が解除されたのを感じた。つまり熊鬼は魂源力の消耗で事切れたのだ。
 青年はゆっくりと哀たちの方へ歩いてくる。その後ろにある新たにできた肉の塊に生き残っていた二、三匹の影縫が飛びついていく。
「何者だ……お前」
 不測の事態に備え、宗麻は能力を全開にする。哀と京介の動きも止める事になるが、この得体の知れない相手にはどれだけ備えても不足という事は無いだろう。
「是那樣(ああ、そうか)……海一つ越えただけで言葉がかように異なるとは、人間とは厄介なものだ」
 薄笑いを浮かべ、青年は宗麻の能力の範囲にギリギリ触れない所で立ち止まった。
「何モンだテメェ」
 宗麻の能力で動きを止められているなか、京介が無理やり口を動かす。
「幻死の遣い。確かそう人間には呼ばれている」
 幻死の遣いは、ゆっくりと値踏みするように京介、宗麻と視線を送った。そして視線が自分にに向かって来た時、哀は全力で能力を放った。
 しかし、ほんの一瞬前までそこにいたはずの幻死の遣いが、哀の視線の先から消えていた。
「ほう、お前は目玉に魂源力が集まるのか」
 耳元で囁くような声をかけられる。
 熊鬼の後ろに現れたのと同じように、いつの間にか幻死の遣いは哀を後ろから抱きしめるように立っていた。
「くぅっ」
 宗麻は京介へ視線を送ると、能力を解除した。
「テメェ、哀から離れやがれ」
 同時に京介が幻死の遣いに飛びかかる。
「少しはやるようだな。先程の小娘達は、言葉を聞く余裕も無かったからなあ」
 幻死の遣いがその動きを読んで飛び退く。
 余裕を見せるように、嘲ってはいるが初めて京介にも動きを捕らえる事ができた。そのまま一気に畳み掛ける。
 しかし、あと一歩の所で幻死の遣いを捉えきることができない。
「ふむ、速さは互角か。しかし小回りは苦手なようだな」
「クソォ」
 京介は能力の鎧を一撃必殺形態から通常形態に戻した。バランスを増した脚力で、更に加速する。
「ほぉ更に速くなるのか。だが動きが直線的過ぎてかえって読みやすくなったぞ」
「ほれ、鬼さんこちら」
 幻死の遣いはその場をほとんど動かずに、超音速の突進をかわし続ける。その動きにはまるで踊りを踊っているかのような余裕が伺えた。
 だがそれで良い。
 ほとんど動いていないつもりの幻死の遣いだが、わずかずつではあるが確実にある一方に向かっている。
 そして、丁度そこに到達したとき、事態は一気に進む。
「な、何」
 幻死の遣いを、宗麻の能力が捕らえる。
「この馬鹿が上手く目立ってくれてたからな、僕の気配は読めなかっただろう」
「ふん、この程度で捕らえたつもりか」
 押さえつける力を幻死の遣いが、無理やり振り解くように動く。
「もちろんそんなつもりは無いさ」
 能力を破られ、苦痛を感じているはずの宗麻が不敵に笑い、右手を上げた。その先に繋がっていた哀が、幻死の遣い目の前に躍り出る。
 瞬間、交わされる視線。
「く、しまっ……」
 幻死の遣いの、彼が彼として最後に放つ言葉は、最後まで紡がれることは無かった。
「うりゃあぁぁぁ!」
 次の瞬間には、京介の一撃必殺形態の蹴りが決まっている。お互いの行動のタイミングをそれぞれが熟知した完璧な連携だった。
 凄まじい衝撃波が派手な土煙を上げる。今まで上級ラルヴァであっても文字通り一撃で屠ってきた、京介の一撃必殺形態での蹴りである。当然今回も土煙が晴れると、幻死の遣いが灰になっているものだとそこにいる誰もが信じて疑わなかった。
「マジかよ。これで倒せないなんて」
 しかし土煙が晴れて現れた幻死の遣いは、額を少し切った程度で、ほぼ無傷と言って過言ではなかった。
「余裕ぶってた訳だぜ」
 これだけの魂源力《アツィルト》障壁なら、まともにダメージを与えられるのは醒徒会長の十二神将くらいだろう。
 改めて、敵の強さにぞっとさせられる。
「とことん付き合ってやるぜ」
「いいよ。キョウちゃん」
 強がって再び魂源力を集める京介を、哀が制止した。
「この人もさっきの熊鬼も、ただ生きていくために行動してただけなんだと思う。それでも、こうやってぶつかってしまったら、戦って、殺さなくちゃいけないなら、私が背負うから」
 戦闘で守られ、自分が背負うべき罪も肩代わりさせてしまったら、自分は何のために存在するというのか。
 だから自分で命じなければならない。
 人の形をしたものに、死ね、と。
 哀の目が鈍く光る。
「御心のままに」
 幻死の遣いは、自分の首に手刀を突き入れる。
 それは直接手を下さない分、より一層自分がこのラルヴァ以上に理から外れた存在である事を思い知らせた。
「姫川さん……」
「私は大丈夫だから。帰ろ」
 哀は無理に笑顔を作った。
 しかしそれは、これからは仲間として自分の罪は自分で背負っていくと、そんな決意の表れだった。


ここで使っている外国語はエキサイト翻訳をベースにしています
おかしいのがあったら指摘してくれるとありがたいです



ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。