【時計仕掛けのメフィストフェレス 第四話】


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 時坂祥吾は、間が悪かった。
 赤点を取った補習の帰り。
 たとえば、生活費を降ろそうとしたコンビニのATMがメンテナンスで使えなかったり。
 仕方ないから、買い物ついでに銀行でお金を降ろそうとしたら、


「この銀行は我々が占領した! 貴様ら全員大人しくしろ、命が惜しくばな!」


 銀行強盗のみなさんとランデブーしたりとか。
 というか。
 間が悪いってレベルじゃねーぞこれ。


 第四話


(どうしよっかなあ、これ)
 銃を突きつけられながら、時坂祥吾は考える。
 さすがに、これは初めての経験だった。というか人生でこんな経験が何度もあってたまるか。

 時坂祥吾は、異能者である。
 だが、その能力はつまる所、「人造の悪魔の召喚」である。
 永劫機メフィストフェレス、その力を操作し、戦う。
 逆に言うと、それが無ければ単なる無能でしかない。
 そして、その頼みの綱のメフィストフェレスは――


「きゃっ、冷たっ!」
「うーん、気持ちいいですねーっ」
「……こういうの、初めてです……」
 一観やコーラルと共にプールに行っていた。
 補習で抜けられない祥吾を置いて、女の子三人で、である。
 ああねたましい、と祥吾は己の運命をのろった。
 まあ実際はもっとひどい何かであったわけだが。


 ちなみに。
 内的世界である発条仕掛けの森に彼女がいるときは、祥吾とメフィストは心で会話が出来る。
 というか筒抜けである。
 だが、彼女が実体を持ち、自分で行動しているときは、それこそ携帯電話でも使わなければ遠くの彼女に危機を伝えることも出来はしない。
 そう、時坂祥吾は一人であった。
 正確には、人質仲間がたくさんいるのではあるが。
(どうにかして伝えられれば……)
 その一縷の望みを必死に繋ぐしかない。
 銀行強盗につかまって猟銃や拳銃、ガトリングガンの銃口を突きつけられているといって、それが諦める理由にはならない。
 ……まあ、普通は諦めるけど。
 そうやって思考しているとき、ふと肩になにやら重みが感じられる。
 視線を肩にやると……

「ぐう~、んにに……」

 見知らぬ女の子が、立ったまま寝ていた。
 まるで満員電車で横の人にのっかかって寝るように。
(寝てるし! つーか度胸あんなぁこの人!?)
 銀行強盗の人質のやることではない。
「おいこらてめぇっ!」
 案の定見つかった。
 しかもその強盗の怒声はあろうことか祥吾に向いている。
「はひっ!?」
「なにやってんだコラ。死にてぇのか、あ!?」
「いや、俺何も……」
「てめぇのオンナだろうがっ!」
「初対面ですっ!」
「ほう、彼女に責任おしつけててめぇは一人だけ安全地帯、か。俺の一番嫌いなタイプだなぁ……」
 銃口が祥吾の頭に押し付けられる。
(どうすりゃいいんだよオイッ!?)
 異能者だろうがなんだろうが、これ撃たれたら死ぬ。
 少なくとも、肉体を強化した超人系能力者か、肉体を改造したサイボーグでもない限りは。
 そして祥吾は肉体的にはただの人間である。
 現在、絶賛絶体絶命中。



「――っ!?」
 双葉学園レジャープールで、メフィストが表情を変える。
「メフィさんどうしたの?」
 一観がメフィストの顔を覗き込む。
「……このたこやきのソース、隠し味がわかりません……」
「隠し味がそうわかったら、隠し味じゃないと思うなぁ」
「ですよねー。でも美味しいですよ、これ」
「……あの、ごめんなさい。私にもひとつ……」
「はいどうぞ、コーラルちゃん」
 プールサイドにシートを敷いて、三人でおやつを食べていた。




「おいヤス、そんなガキに構ってんじゃねぇ」
 リーダー格の強盗が、祥吾の頭に銃を突きつけている男に言う。
「了解リーダー。……チッ、命拾いしたなこのリア充が」
 まあ、命の危険で心臓バクバクいってる意味では確かに充実してます。生命の危機ってリアルが。
(……ふう)
 ため息をつく祥吾。なんとか助かった。
 その時、となりの少女がもぞもぞと動く。
「くぅ~、むにゃむにゃ。う~ん、もう食べられない……」
(……)
 時坂祥吾、見知らぬ女の子を殴りたいと思ったのも人生初めての経験だった。
 ビキッ、とこめかみに血管が浮く。
「……のなら~、私がもらいま~す……にへへ……」
 殺したい。
 祥吾は心からそう思った。





 銀行強盗の手際は、お世辞にもいいとは言えなかった。

 メフィストは気づいただろうか、と祥吾は心配するがそれを確かめる術は無い。
 人質たちの携帯電話はみな没収され電源を切られている。
 人質となった人たちにも焦燥が見える。
 精神的疲労、肉体的疲労。人質というものは、たとえ動かなくてもその消耗はかなり激しいものだ。
 その中で、
「くぴ~……」
 寝てるバカ一名。
 人質の皆さんも強盗の皆さんも見ないふりしていた。
 それが賢い。懸命な判断だ。そしてどうしようもなく正しい。この一点においてみなの心は一つであった。

「糞ッ、金庫のオートロックが開かないらしい」
「どういうことっすか」
「セキュリティは別なんだとよ。つまり、人質つきつけて学園都市の警備システムをオフにするしかねぇ、と」
「うわ、クソめんどくせぇ」
「どーすんだよ、これ……」
 強盗犯たちはなにやら相談をしている。
 そのピリピリと張り詰めた雰囲気に、ついに耐え切れなくなった小さな女の子が泣き声をあげた。
「ちょっと、しーっ!」
 誰かが女の子をいさめる。
 だがそれが逆効果、いや引き金となった。
「う……うぇ、うわぁああああん!」
 堰を切ったように泣き出す女の子。
「るっせぇぞガキィ!」
 その泣き声に、強盗の一人が叫ぶ。
「ひっ!」
 その突きつけられた拳銃の鈍い輝きに、女の子は顔を引きつらせる。
 それは他の人質たちも同じだ。
 次の瞬間を想像する。
 撃たれ、飛び散る血飛沫、脳漿。年端もいかぬ女の子が強盗に殺される。
 そんなの、誰も見たくない。
「やめ――」
 祥吾は、女の子の前に出ようとした。
 拳銃を相手に生身だからどうとか、そんな事は頭に無い。
 ただ、その子を守ろうと――


 その時――


「ふぅ、頑固なブツだった。どうにも他所様のトイレだと緊張していかんなぁ。まあそれだけこの私が心の細かい繊細でデリケートな紳士ということで……ん?」

 トイレのドアを盛大に開けて現れたのは、長身痩躯の男だった。
 思わず空気が固まる。
 なんというか、実に空気を読んでない登場である。
「なんだこれは? 私がお花を摘んでいる間に何が? ……察するに、あれか。
 この私を蛇蝎兇次郎と知って、狙ってきたか」
「しらねぇよ! つーか誰だそれ」
「ふん、この裏醒徒会が会長、蛇蝎兇次郎を知らぬとは。貴様らモグリかそれとも、ただのバカか?」
「舐めてんじゃねえっ! このガキがどうなってもいいのか!」
 強盗は女の子に拳銃を突きつける。
「ふん。人質とは情けないな。ああ、それでは駄目だ。美しくない」
 その様を見て、嘲笑する蛇蝎。
「ふっ……ざけやがって!」
 強盗は激昂し、引き金にかけた指に力を入れる。
 だが蛇蝎はその瞬間、涼しい顔で、一言、つぶやいた。

「綾里。B436FD2」


 拳銃の発砲音が響く。
 その瞬間。
 祥吾には何が起きたか、まったく認識できなかった。
 いや祥吾だけではない。この場にいるすべての人間のうち、それを予測していた蛇蝎にしか理解できなかっただろう。
 そう、動いた本人さえも。

 先程から寝ていた少女。彼女の耳にその言葉が届いた瞬間、体が撥ねる。
 拳銃を爪先で蹴り上げる。
 腕で男の足首を掴み、一気に持ち上げる。
 回転する男の体。 
 拳銃を持つ手首が掴まれ、軽快な音を立てて背中に回される。
 そのまま、男の後頭部を掴み、重力にさらに加速をつけて、大理石の床に叩き込む。

 それら一連の動作を認識できたものは、いなかった。

「……はれ?」
 綾里と呼ばれた少女が、めをぱちくりとさせる。
「あ~、兇さんだ~」
 寝ぼけ眼で、綾里は手を振る。
「てっ……てめぇらっ!!」
 強盗たちが我に帰り、銃を向ける。
 だがそれよりも一瞬早く、

「D5AASEH8、C32からL92381」

 蛇蝎の言葉が告げられる。
 そして同時に綾里が動く。そののんびりとした口調からは想像が出来ぬほど峻烈に、流れるように。
 強盗たちの懐に入りこみ、次々とその銃を叩き落す。中には、腕がありえぬ方向に曲がっている強盗もいた。

「三時方向、S9962GTTE!」

 ガトリングガンが綾里に向けられる。それを見て蛇蝎は号令を出す。
 刹那、ガトリングガンが火を噴く。
 だが、床、壁、天井を縦横に駆け抜け、そのすべての銃弾を回避する。
「んな――!?」
 天井を蹴り、回転しながら綾里は強盗に向かって飛び降りる。そしてそのまま体勢を空中からひねり、強盗のこめかみに爪先の蹴りを叩き込んだ。
 強盗はそのまま、残りの強盗たちの元に弾き飛ばされ、ボーリングのピンのようにもつれ合う。

 それは、芸術的とも言える戦いだった。
 人質たちは、先程泣きじゃくっていた女の子すらも、その一連の動きに見惚れる。

「く……てめぇらっ!」
 強盗たちの残りが立ち上がる。
「む?」
 蛇蝎は眉を顰める。強盗たちの何人かの手には、炎の玉や電撃が見えたからだ。
「……ただの強盗かと思っていたら……」
「へっ、怖気ついたか!? だが今更ビビっても……」
「何のことは無い、ただの無能か」
「なっ……!?」
 その言葉に強盗たちは絶句する。
 蛇蝎は、先程に強盗たちがもつれあった拍子に落とした拳銃を拾い、もてあそびながら言う。
「無能だろう? 見ればわかる、その異能。ただ、それだけのようだが。
 自らを鍛えることも無く、先天的な力に頼り、さらには銃器にも頼る。
 それをただの無能といわずして何というのだ? ああそうか、相応しい言葉があったな」
 蛇蝎は、その拳銃を無造作に投げ捨て、強盗たちを見下して言った。

「――この豚、が」


「ざけんじゃねぇええええっ!!」
 強盗たちが叫ぶ。
「綾里! C-65234、GZ8228!」
 再び蛇蝎の言葉と共に、綾里の体が弾ける。

「なん、だ……ありゃ」
 祥吾がつぶやく。
 その声を聞いたのか、蛇蝎が笑いながら言う。
「竹中綾里の能力が、か?」
「え? あ、ああ……」
「ふん。何のことは無い。あの女は特に珍しくも無い、ただの「身体強化」に過ぎん。
 彼女について特記するなら、それは異能の力ではなく、彼女自身の性質だ。
 そう、綾里は……面倒臭がりなのだ」
「……え?」
 その言葉に、ぽかんとする。
「そう、怠惰なのだ。特に考える事が苦手でね。
 学校のテストは赤点ばかりだ、嘆かわしい事にな。
 だが――」
 蛇蝎は笑う。
「なら、体に覚えさせればいい。そして綾里は、「考えなくていい」から体を動かすことが好きなのだ」
 そう、竹中綾里は怠惰である。
 考え事をするのが面倒臭い。頭を使うのが面倒臭い。
 だから、寝ているか、あるいは――体を動かせば、考えなくて済む。
 そういう単純な性質である。
「我が異能は未来予測。予知能力とは違い、高度な脳内演算によるものだがな。
 そして、その予測しうる無数のパターン、それに対する行動を、あの女に覚えさせた。
 先程私が言ったあの言葉は、彼女に仕込んだ攻撃パターンの組み合わせだよ」
「んな……っ!?」
 祥吾はその言葉に驚愕する。
 この二人、どんなアタマとカラダしてんだ!?
 行動パターンをすべて暗号にして計算、そしてそれを体で覚える。
 言葉にすれば簡単だ。だがそれには、血のにじむ努力が必要なはずだ。
 たとえ異能の力を借りたとしても、一朝一夕で――軽々しく出来きるものでも、簡単に口にするものでもない。
 その祥吾の表情に蛇蝎は気を良くしたのか、続ける。
「我輩はこのとおり繊細でね。肉体的戦闘力は皆無。
 そして彼女は身体的には優れているがいかんせんものぐさで怠惰だ。
 だがお互いを上手く使えば、このとおり戦力は跳ね上がる。
 我輩は戦場を予測して最適な行動を導き出し、伝える。
 彼女はそれのとおりに、体にしみこませた戦闘パターンをそのまま実行する。
 ……簡単なことだろう、誰でも出来る」
 出来るわけが無いだろう、と祥吾は内心突っ込む。無茶ぶりにも程がある。
 祥吾の体に武者震いが走る。
 これが……これが、生粋の異能力者。
 手に入れた、発言した異能の力だけではなく、それを鍛えあげた人間。
 天性の素質と、努力によって得た力。

「ふん、そろそろ終わるな」
 話していたのはどれくらいの時間だったのだろう。
 おそらく、そう長くは無かったはずだ。
 その間に、瞬く間に彼女は異能者の強盗たちを次々と戦闘不能に追い込んでいた。
「さて……仕上げが残っているか」
 そう蛇蝎がつぶやく。
「え?」
 祥吾が聞き返したときには、蛇蝎の姿は消えていた。





「はっ、はっ、はっ、は――!」
 息を荒げて、強盗のリーダーは地下水路を走る。
 なんとか逃げ込んだマンホールの下。ここから一刻も早く逃げなければいけない。
「くそっ、バケモノが――ちくしょう、ちくしょう――!」
「バケモノは心外だな。我々ほど正しく人間らしい連中もいないと思うが?」
 走る先に。
 蛇蝎兇次郎が、哂っていた。
「な――!? なんでてめぇ!」
「おや、聞いてはいなかったか。我輩の力は未来予測。
 当然、貴様が逃げ出して此処を無様に転げまわることも――予測済みだ。
 まあ、豚の行動など、異能を使わずとも誰でも思い当たる事だがな」
「ふ……ふは、ははははは! ざけやがって……だがなあ!」
 強盗は拳銃を構える。
 蛇蝎は知らない。彼の異能は、銃器の強化増幅である。
 こと銃器に関するなら、その破壊力や飛距離などを格段に増幅できるのだ。
「あのバケモン女はいないみてぇだな。
 てめぇ一人で、俺に勝てると思ってるのか?」
「まともに戦えば確かに勝てぬだろうな。そのぐらい誰でもわかる」
「ハッ……そうだな、その通りだ。さんざん邪魔しやがってクソが、正義気取りのヒーロー様か!?」
「……ふん、どう思おうが勝手だが、そこは訂正してもらいたいな」
「あ……?」
 蛇蝎は言う。
「正義を騙るつもりはない。
 そもそも我らの目的はこの学園の支配である!」
 そう、胸を張って宣言した。
「あ……?」
「貴様のような、異能を小金儲けの手段にしか使えない、低脳犯罪者とは訳が違うのだよ。
 我々には志がある。理想がある。信念がある。だが貴様には何がある?」
「バカに……しやがってぇえええ!! 死ねぇっ!!」
 強盗は、自らの力を全開にし、拳銃に込める。
 そして、眼前の敵を破壊するために引き金を絞り――


 拳銃が、爆発した。


「ぎぃやあああ! う、うでぇ、おれのうでええええっ!!」
「――あ、言い忘れていたが」
 蛇蝎は、右手を失いのた打ち回る強盗に向かってやさしく言った。
「さっき私が拾った拳銃に、つい悪戯心でガムを詰めておいたのだ」
「――!」
 そう、強盗が持っている銃は、蛇蝎が拾い、投げ捨てた拳銃。
 蛇蝎は、それを強盗のリーダーが拾い逃げることまで予測していた。
 恐るべきは、その未来予測と――
 敵には容赦の欠片もない、その卑怯さ、冷徹さ、悪辣さである。

「さて」
 蛇蝎は、学生服のボタンをはずしていく。
「最後に、君に悪とは何かをレクチャーしてやろうではないか」
 学生服の内に手を入れ、そこから――巨大な銃を取り出す。
 銃口の口径が馬鹿でかい。一見したら、オモチャにも見えるその銃は、スタンゴム弾を撃ちだす暴徒鎮圧銃。
「君に足りぬのは、そうだな。美学、だ。
 卑怯は最高のほめ言葉、というのを聞いたことは無いか? それは真理である。
 何事も極めればそれは美しいスタイルとなる。だが君達はただこだわりもなく暴れるだけだ。それでは駄目だ」
 銃口を突きつける。
「ひ、わ、わるかった、やめ、助けて……」
「助けてか、いいな。実にいい。だが貴様はあの時、子供を殺そうとしたな?
 ――これは私の個人的な意見なので聞き届ける必要も無いが。
 俺はな、子供に手をかけるクズが一番嫌いなんだよ」
「ひ……!」
「そして最後だ。
 悪とは何か?
 もうすでに死語となった古い意味だがね。
 悪とは――「強い」という意味が込められている。
 そう、つまり」
 引き金に、指をかける。

「悪は、勝つのだよ」

 爆音が響く。
 次々とゴムの弾丸が強盗の全身を襲い、激しく撃ちつける。
 強盗の悲鳴すらもかき消すほど、連続して打ち出されるゴム弾は激しく苛烈に。
 やがて音がやみ、煙が晴れる。

「――まあ、安心するがいい。我が未来予測に依れば――
 全身複雑骨折で再起不能だが、まあ命には別状は無い」

 そこには、ボロ雑巾のように打ち捨てられた強盗の姿があった。





「ふんっ、ふっ、ふーん……!」
 蛇蝎兇次郎は、貧弱である。 
 マンホールのふたをあける、この作業も彼にとっては大変な重労働だ。
「ふーっ、ふー……くそ、重すぎるっ」
 そう愚痴をもらしたとき、
「よいしょ~。あ、兇ちゃんだ~」
 マンホールのふたが一気に開く。
 外にいたのは、綾里であった。
「……お前か。その兇ちゃんはやめろって言っているだろうが」
「やだ」
「……ふん」
 鼻を鳴らしながら、蛇蝎は外によじのぼる。
「でも~、なんで銀行に戻らなかったの?」
「阿呆。あの状況で戻ったら、我らはヒーローではないか。
 そんなもの、我ら悪の裏醒徒会には似合わぬ。
 我々はあくまで、我が悪の道の邪魔をした連中を粛清しただけにすぎぬ」
「うんうん、そうだね~」
 話を聞いているのか聞いていないのか、ねぼけた声で綾里は相槌をうつ。
「まあいいさ。相島達が待っている。とっとと買い物を済ませて……あ」
 そこで蛇蝎は気づく。
「……金、降ろすの忘れた」





 祥吾は、銀行よりの岐路に着く。
「……なんか、すげぇなあ」
 思い出すと、それは何でもない、よくある出来事だったのかも知れない。
 この学園都市では、異能者が大勢いて、騒動もよく起きる。
 風紀委員が下手したら軍隊か何かのように武装を振り回し、不良異能者と激しくぶつかり合う。
 うわさの域を過ぎないが、学園の何処かにはあまりの危険に封鎖された地域だってあるらしい。
 そんな奇天烈で破天荒な学園の中で生きる異能者達。
 自分は、修行が全然足りないと思った。

「……とんでもねぇな、やっぱり」


 そう。
 この学園は、とんでもないのだった。








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