【駅員小松ゆうなの業務日誌 2日目】


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 ラノ・おっぱいリミックスヴァージョン
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「まったくもうー。助役さんったらお話長すぎて苦手です」
 小松がぶすっと頬を膨らませてそう言うと、六谷があははと笑ってこうなだめた。
「そんなこと言うな小松。安全遵守は鉄道の基本であり、みんなで守っていかなければならないものだ。助役があそこまで熱っぽく話したくなるのもよくわかる」
 二人はEF210型電気機関車に乗って、持ち場である双葉学園駅(仮称)に向かっていた。この機関車は、双葉学園鉄道が貨物輸送の機関車を導入するにあたり、JR貨物の優良な機種を採用して、特別にオーダーしたものである。
「早く駅に着かないかなあ」
小松はうんざりとした様子で前方を見た。強い発光を見せる青信号が、左のほうへと流れていく。継ぎ目のまったくないロングレールが、機関車のライトに照らされてどこまでも続く光の線となっていた。
 今日は双葉学園鉄道の本拠地である豊洲駅(仮称)にて、駅員が一同に会して開かれる「業務研究会」があった。安全運行のために普段気をつけなければならないことや、表の鉄道会社ではどのような営業・運転事故が起こっていて、未然防止のためにどのような取り組みをしているのかなどを、駅業務に関わるみんなで確認してきたのだ。
「でも、もうお昼過ぎてますよお? はあ。明けで大学の友達とショッピングに行きたかったのになあ」
「それなら小松。これから私と一緒にお風呂でも行かないか?」
 信じられない目をして小松は六谷を直視する。健康ランドでの一件を、小松は忘れない。
「うげ・・・・・・六谷さん、前のことを覚えている上で、そんな提案をするんですか・・・・・・?」
「ま・・・・・・まあ、私だって意固地になることだってあるよ。欲しいものは手に入れないと、気がすまないっ・・・・・・」
 そう、拗ねるように言った六谷の横顔に、小松は思わずきゅんとしてしまう。(か、かわいいこの人・・・・・・)
 機関車にブレーキがかかり、小松は前に倒れそうになった。若い男性の機関士は、「双葉学園到着! 場内注意! 制限二十五!」と指差歓呼をしっかり行うと、さらにブレーキを強めて機関車に減速をさせる。
「とにかく、だ!」六谷は、きまりが悪そうにこう続けた。「私は今、とってもお風呂に入りたい。こう地下にずっと潜ってて、汗ばかりかくのは不衛生だろ? そうだろ?」


「あら業研お疲れ様ですー。どうでしたか? そちらの助役さん、相変らずおしゃべりでしたかー?」
「ああ、かれこれ四十分間は助役の独演会になってたなあ。学園都市駅(仮称)の奴らなんて、明けで眠たいのかぐっすり寝てたわ」
「うふふ。無理もないですよー。私たちは仮眠時間が五時間程度なのですからー」
 そう笑いながら改札の椅子に座っているこの女性駅掌は、名を愛甲しのぶと言う。小松らとは反対番の駅員で、六谷と同期である。決定的に違うのは、この黒髪ストレートのお姉さんは人妻だということだろう。
「ちょっとはしっかりしろと言いたかったけどなあ。男のくせになんなんだ。自分の仕事にプライドってもんがまるで感じられない」
「あなたは根っからの鉄道員ですもんねー。私のように、まったりのんびりやらせていただいてるような女とは全然違う」
「しのちゃんはもう立派な奥さんなんだから、それはそれで私よりも立派だろう? はあ。私のような女っけがないのにも、何か出会いのようなものでもあればいいんだがなあ・・・・・・」
「あれー? 純ちゃんあなた、私の投げたブーケ、受け取ったんじゃないの?」
「私じゃないよ。あれを受け取ったのは・・・・・・はあ。んにゃろーめ・・・・・・」



 小松はロッカールームで制服を脱ぎ、私服に着替えていた。いったん鏡で己を見たら、このぺったんこな胸をどうしたら見栄えが良くなるかが気になって仕方が無くなり、無理やり寄せてみたり、無理やり寄せてみたり、やっぱり揉むしかないのかなあと思って、ふにふにと柔らかい貴重なところをつまんでみたりと、とてもむなしい行為に及んでいた。
「こまっちゃーん」
「うひゃあああ。びっくりさせないでよお、美歩ちゃあん・・・・・・」
 ショートカットの童顔が、ごめんごめんと両手をひらひら振りながら謝る。小松は彼女の発育の良い胸を見ると、思わずため息をついた。
「美歩ちゃんはどうせ、私のように悩まなくてもいいもんねえ。いいなあ。その・・・・・・ごくり」
「え? え? どうしたの? 私の何がそんなにいいのこまっちゃん?」
 大豊美歩は反対番の新人駅員である。今年入社をした小松とは同期であり、交代時によくこうして会話を楽しんでいる。小松が必ず欠かさないのが、目測による身体測定であった。
(うーん。育ってる。同じ十八歳なのにこの差は何なんだろう。こんなの、個人差と片付けるには納得いかないよう)
「今日のこまっちゃん、いつにも増して様子が変・・・・・・」と、大豊は心配そうに言った。「あ! もしかしてこの前、愛甲さんの結婚式のときブーケを取ることができたから?」
 ああ、そんなこともあったねえと小松は言った。何でその話になるのかなあとも思っていた。
愛甲の結婚式のさい、小松は見事に彼女の放ったブーケをキャッチすることができたのだ。瞳を輝かせてひときわ大喜びを見せたのは、大豊であったが。大豊は妄想癖の強い乙女なのだ。
 そこをどけぇーーーっ! 小松ぅーーーーっ!
 そう自分に向かって突っ込んできた六谷に対し、「はあい? 何か言いましたか六谷さあん?」と呑気に言いながら、小松は片手でブーケを捕ってしまった。まさかの結末に、六谷はその勢いのままズガシャと派手にすっ転び、しばらく地面にうつ伏せになったまま泣いていた。
「あのあと、六谷さんに『いりますかあこれ?』ってきいたら『いらないよばかぁ!』って怒られた。そんなこともあったなあ。忘れてたよう・・・・・・」
「まあ、こまっちゃんはお料理上手だし、優しいし、これからきっといいお嫁さんになれるってことなんだよきっと!」
 その一言に小松の頬が赤くなった。「うへえ・・・・・・もう・・・・・・やだあ」


 小松と六谷は私服に着替えると、着替えやタオルをカバンに詰め、駅の表に出た。
 双葉学園駅は、その名の通り双葉学園の最寄り駅として設定されたので、中央口のすぐ目の前に校門が位置している。このような機能的・計画的に設計されているのも、もともとは島と本土を繋ぐ重要なインフラとして整備されたからだ。鉄道計画が中止されてからこの中央口は封鎖され、小松が駅の外で買い物をするときぐらいにしかこのシャッターは開かない。
 業務研究会が長引いたこともあり、時刻は十五時を過ぎていた。学園を出る中等部の生徒が、談笑をして騒ぎながら商店街へと歩いていった。
「学生は呑気でいいなあ。私も過去に戻って、もう一度あのかわいいブレザーを着てみたいもんだよ」
「へえ、それは何年前の話ですか? 私は数ヶ月前ですけど、六谷さんはじゅ・・・・・・ぐふっ」
「はい余計なこと言わないでよろしい。さ、お目当ての銭湯にいこうか」
「頭殴らなくたっていいじゃないですかあ! これ以上バカになったら、責任とってくださいよう・・・・・・?」
 小松はよろよろと六谷のあとを付いていった。


 双葉湯。
 商店街から細い路地を入ってしばらく歩いたところに、昭和ながらの古めかしい銭湯はあった。本土に暮らしていた店主が「実はワシも異能者だったんじゃ! 見てみい、この有機物をギュッと握ることで、重油を作ることができるんじゃ! なあ、頼む! ワシに島で銭湯を経営させてくれないか!」と申し出たことで、それまで世田谷にあった建物を、そっくり双葉島に移築したのだ。
 小松は下駄箱に靴を入れると、「20」の数字が書かれた木製の鍵を取った。一方、六谷は6番を選んだ。
「わあ。地下駅に比べればまだましな湿っぽさですね六谷さあん」
「・・・・・・お前はもう少しまともな感想を言えんのか。この空気がいいんだろうが。風呂上りに浴びる扇風機は最高だぞー?」
 六谷は小松に気づかれないよう、視線を横にずらしつつそう言った。そこには健康ランドに設置されている物にも劣らない、立派な電動式マッサージ機が・・・・・・。
 さすがにあの難波とかいう必死な女も、このような目立たない銭湯にこんな素晴らしいマシンがあることは知らないだろう。六谷は口元だけでニヤリと笑う。
 超科学を専門とする異能力者が、趣味と暇つぶしとを兼ねて開発した夢のマシンなのだ。魂源力で女性をキレイにするマッサージ技師の異能を擬似的に再現しており、六谷がかき集めた情報によれば、双葉島ではまだこの銭湯だけにしか導入されていない。
「私だったら、こんなものを創造してしまった神は、ノーベル賞しかありえないんだがな・・・・・・」
「六谷さあーん? 何してるんですかあ? 早く入りましょうよう」
 はっとして振り返ると、すでに小松はすっぽんぽんで浴室の前に立っていた。


「六谷さん! お背中流します!」
「おう、ペーペーとしていい心構えじゃないか! お願いしよう」と、六谷は機嫌よく言った。「それでこそ男社会で生きていく秘訣だ!」
 はあい、おまかせくださあい。そう言って、小松はしっとり濡らしたあかすりに、たっぷりボディソープを乗せてあわ立てた。がしがしと上下に腕を動かし、六谷の背中をこする。
「おいおい、全然力が足りんぞ小松。そんな生ぬるいもんじゃ、私の体は綺麗にならないなあ」
「うへえ。こ、これでどうですかあ?」と、小松は顔を真っ赤にして一生懸命腕を動かした。目をぎゅっと瞑り、自分の出せる力の限り、背中を磨き続けた。
「まだまだあ! 何だ、お前は怪力なのに、そういう力は出せないのか」
「私はあくまでも物を持ち上げたり、支えたりするときに力が出るみたいなんですう。このような仕事は、あくまでも能力の適用外ですよう」
「そうかそうか・・・・・・。便利なのかそうじゃないのか、よくわからない力だなあ」
「う、う、うおおおおおお! 六谷さあん、これで、どうですかあああ~~~」
「ダメだ! やる気あるのかあ! もっと強く! しっかり磨けえ!」
「うへえー・・・・・・」
 どれぐらい長いこと、六谷の背中を洗っていたことだろう。小松は歯を食いしばり、夢中になってあかすりを握っていた。蛇口台を挟んで向こうのほうに、女の子三人の体が見えた。小松ら二人のほかに、客がやってきたようである。
「よーしよし。もうこれで許してやろう。どうもありがとうな」と、六谷は言った。「ま、別に最初っから力加減は合格点だったんだけどな!」
 がっはっはと意地悪そうに笑った六谷に、小松はまぬけな顔で絶句した。
「お前がそうやって頑張るから、ついつい長いことやらせてしまった。私はつくづく、可愛い後輩を持ったもんだよ。大好きだぞ小松。お疲れ様、風呂から上がったら、コーヒー牛乳おごってやるからな」
 優雅にそう言った六谷は、背後でゆらりと立ち上がった黒い影に気がつかない。
「・・・・・・いーえいいえ。まだまだ洗い足りません。大好きな六谷先輩のために、わたくし小松、いっそう頑張りますね」
「お、おい? もういいんだぞ? 後は自分で洗うからお前は・・・・・・ひゃっ?」
 小松は両手で六谷の腰を挟む。ありったけのボディソープを塗りたくり、その細さと形のよさを、実際に触って確かめた。
「いいんですいいんです。私の六谷さんに対する尊敬の念はこんあに生温いものではないんです。私にぜーんぶまかせて、六谷さんは力を抜いて楽にしててくださいねえ・・・・・・」
 右の手のひらでお腹の辺りを撫で回す。無駄な贅肉など一切ない、完璧なウェストだった。それから中心線にそって胸部に向かい、指先をなぞらせた。六谷の体が、ぴくりと動く。
「そんなとこまで洗えとは言ってないぞ! もういいから、先に湯船に・・・・・・あっ」
「ふっふっふ。到達しましたあ。捕まえましたあ。あの生地の厚い制服を突き破ろうとする自己主張の強い悪い子なコレを、今日は丹念に洗って差し上げますね六谷さあん・・・・・・?」
「貴様・・・・・・! もしかして、初めからこれが目的だったのか・・・・・・?」
「うへえ? 何か他の子の声が騒がしくて聞こえませえん。・・・・・・あ、すごい。両手にずっしり乗っかってる」
「もういいだろ! いい加減にしないと怒るぞ! ・・・・・・あ、やだ、だめ」
「この柔らかさ。あったかさ。張りと弾力。相変らず、素晴らしいものを持っていますねえ。洗い心地が最高ですう」
「や・め・ろォ! そんなに乱暴に扱わないでくれ! ・・・・・・いや、さっきのを根に持ってるのなら悪かった、私が悪かった、だからもう許してくれ小松」
「いけませぇん。ぬるぬるのボディソープで、一つの垢の残らないように洗ってあげますよう・・・・・・? ・・・・・・あれ、何でコレこんなにカチカチになってるんです」
「お前のせいだろうが! ・・・・・・あ、や、やめて、触らないで」
「どういうことですかあ? どうしてコレこんなになってるんですかあ? ただ洗ってあげてるだけでこのザマはなんなんですかあ?」
「やめて・・・・・・いやあ、もう許して・・・・・・」
 涙をたくさん浮かべ、熱い吐息混じりにそう懇願した六谷に対し、小松は冷たい無表情でこう耳元にささやきかけた。
「男性駅員も恐れる、男勝りの六谷純子がそんな甘ったるい声を出すなんて、これは何かの嘘です。幻想です。いささか見損ないましたあ。このへんたい!」


 数分後、二人は湯船に漬かっていた。壁にはホーロー看板が貼り付けられており、丸文字で「双葉接骨院」と書かれている。実に昭和らしい雰囲気であった。
「この熱めの湯がいいんだ。ジェット風呂はほんと、疲れた体によく効くなあ・・・・・・」
 その隣で小松はぐすぐす泣きながら、鼻の辺りまで湯に漬かっている。その頭にはでっかいたんこぶが、赤々と輝いていた。
 浴槽はタイル張りで、背後には、きっと職人が描いたのだろう、立派なタイル絵があった。素晴らしい技術とタッチで、巨大な「白虎」は描かれていた。タイル絵は富士山の風景画しかありえないだろうがと、これには六谷も憤慨していた。
 小松たちとは少しはなれた位置で、女の子三人がはしゃいでいた。ばしゃばしゃと、湯船で無邪気に遊んでいる。
「それにしても、騒がしい人たちですねえ。中等部っぽい子たちですが」
「どーれ? お、あの子たちは学園の、大物中の大物たちじゃないか」
「うへ? どういうことです?」
「知らんのか小松。あのちびっこを見るんだ。あれ、誰だと思う?」
 小松はよく目を凝らして、紫色の髪をしている幼い女の子を見た。ショートカットの女の子と共謀し、黒髪のお姉さんの体を触りあっている。「やーめーてー」と言いながら、彼女はむなしい抵抗を見せていた。
「わかりません。誰なんですかあ?」
「あれが、学園醒徒会の今の会長なんだとさ」
「えー! あれがあー!?」
 大声を上げた小松を、六谷がすっぱたいて黙らせる。「いちいち騒ぐんじゃない! バカ!」
「ひどぉい。たんこぶの上にまた殴ったあ・・・・・・くすん」と、小松はしくしく泣きながらこう言う。「醒徒会会長っていったら、もっと硬派というか、声の大きな人というか、そういうのがなるもんだと思ってましたあ。学園も変わったもんですねえ」
「そうだなあ。私たちが地下に潜っている間に、色々と世の中は変わっていくようだ」
 六谷は、ふう、と熱い息を吐き出して上の方を見る。
 天窓から、夕暮れ時の陽射しが差していた。


 早瀬速人は醒徒会役員である。
 役職は庶務。むしろ庶務というよりは雑用に近いかもしれない。
 自らの能力である加速能力を生かし、日々学園を走り回り、跳び、滑り、時には転びながらも、自らの使命を全うしている――


「さあ、追い詰めたぞ! この変態覗き野郎め!」
 早瀬は肩で息をしつつ、銭湯の瓦屋根を上っていた。全裸のままで上っていた。天窓のあたりには、謎の小さな影がちらちらと確認できる。
 彼は本日、醒徒会のメンバーと銭湯に来ていた。
 ことの始まりは、やはり会長であった。会長の「銭湯というものに興味があるのだ。行ってみたい、行ってたいんだあ早瀬ぇ! うえーん」というワガママによって、彼は本土の銭湯を自分の足で偵察してくる羽目になった。島に銭湯ができたことを知らなかったのだ。
 とびっきりの銭湯を見つけ、報告をしに醒徒会室に帰ってくると、すでに彼らの姿はない。
 半ばキレつつモバイル学生証で会長を呼び出すと、代わりに加賀杜紫穏がヒマワリのような明るい笑顔をしながらこう言ったのだ。
「島の中にね、できたばかりの銭湯があったんだよー。アタシがそう言おうとしたら、君、光の速さで出てっちゃったじゃーん?」
 それを聞いた早瀬はその場に崩れ落ち、ウッウと嗚咽を漏らした。
 そういうこともあって、早瀬は得意の加速で駆けつけてあとから彼らに追いついた。みんなは彼を一切待つことなくもう浴室にいたので、ぶつぶつ文句を言いながら、いそいそと服を脱いでいるところであった。
 屋根へと登っていく、何者かの影・・・・・・!
「覗きが出た!」。そう早瀬は直感し、その影を追うことにしたのだ。
「こうして俺が覗き魔を成敗できれば、俺は表彰される! 知名度が上がる! 人気が出る! 空気じゃなくなる! うおおお、俺は絶対に、この機を逃さないからな!」
 彼はいよいよ天窓に到達した。燃えさかる夕日と、情緒あふれるたそがれ時の商店街をバックにして、彼の裸が黒い影となって際立っている。早瀬は何者かの影を、その手で掴み上げた。
「さあ観念しろお! ・・・・・・あれ?」
「にゃー」
 その不審な影は、なんてことはない、会長の式神である「白虎」であったのだ。なるほど、中に入れないから、こうして天窓から主のことを見守っていたのだろう。
「何だよ、お前かよ! クソァ! とんだ無駄骨だった!」
 早瀬はがっくりとうなだれて、そう声を荒げた。
そして、早瀬はそれに気づく。
「がおー」
 白虎の、つぶらな瞳。
 その目は、非常に怒っていた・・・・・・。


 ズドォンと、全裸の早瀬が天窓を突き破って落下してくる。
 背中からびたんとタイル張りの床に叩きつけられ、しばらく全裸でのたうちまわっていた。
「痛え! マジで痛え! あ、あのマヌケ面がぁ、いっちょまえに攻撃してきやがってえええ・・・・・・」
 そうして悶絶しながら転がっていると、幼い体つきの女の子が早瀬を見下ろしていることに気がつく。彼はその女の子にこう言った。
「あ、お嬢ちゃん。突然のことで申し訳ないが、君のママを呼んできてくれないか? ちょっと高いところから落下して、怪我をして、身動きがとれ・・・・・・って、会長!」
「ぐすっ・・・・・・私はそんなにコドモに見えるのか? そんなに幼く見えるのか? 傷ついたぞ、傷ついたぞ早瀬ぇ・・・・・・」
 藤神門御鈴はうるうると瞳に涙を溜めてそう言った。早瀬は焦って立ち上がろうとしたが、その首根っこが誰かによって強く掴み上げられた。
「ねえねえ。いくらおおらかなアタシでもねえ、そうしてへんなモンぶらぶらぶら下げて女湯に突っ込まれちゃ、さすがに怒ると思うんだけどー?」
 加賀杜は「ケルロン」と書かれた黄色の桶で、早瀬の後頭部をぶん殴った。所持している物の能力を大きく増幅させる能力により、それは強力な鈍器となって早瀬をぶっとばした。
 湯船に突っ込もうとしている早瀬を、今度は湯に漬かっている水分理緒が出迎える。にっこり優しい笑みを浮かべてははいるものの、口元の微笑に多いなる怒りの影を彼は見出した。
 ドバーッと、湯船のお湯がダムの放水のごとく早瀬めがけて突っ込んだ。
 早瀬の体はあっという間に吹っ飛び、浴室と脱衣所を仕切るガラス張りの戸をたやすく破った。



「あわわわわわ・・・・・・」
 小松は目の前に繰り広げられている惨状に愕然としていた。
 突然吹っ飛んできた謎の男が、あろうことか六谷の胸に顔をうずめているのだ。
「未だに私がやったことのないことを・・・・・・! うう、うらやましい・・・・・・!」と、小松は裸のまま、その場でがっくり床に手を付いた。
 どいつもこいつもひどいよう。早瀬はそう、六谷の胸の中でしくしく涙を流していた。
 そして、自分が妙に温かくて、柔らかい世界の中に首を突っ込んでいることに気がついた。自分の手で触ってみると、それはこちらがとろけそうなぐらい柔らかくて、張りが強くて、極楽に等しい感触を確かめる。いよいよ自分は天国に到達したのかとさえ思っていた。
 同じく湯上りで裸だった六谷は、胸元に飛び込んできたものが変な男だとわかると、一切の表情が顔から消えうせた。マッサージ機を前にして高揚していた気分が、全て吹き飛んだ。
 わなわな震えだし、無表情のまま右手の拳を上げて・・・・・・・。
「いやああああああああああああああああああああああああああああああ!」
 耳をつんざくような絶叫と共に、早瀬が銭湯の入口から吐き出されてきた。ぶん殴られて路上に放り出された早瀬は、「痛えええ!」と叫びながらマンホールの上でもがき苦しむ。そして、双葉湯からズンズン出てきた怒れる女戦士の形相に、大きな悲鳴をあげて逃亡を始めた。
「まだどんな野郎にも触らせたことはなかったというのに・・・・・・がああああああ!」
 ピンクのバスタオルに全身を包んで表に出てきた六谷は、悪夢を思い出し、髪をぐしゃぐしゃかきむしった。それから彼女は、自分に背中を向けて逃げていく早瀬めがけ、両手をまっすぐ突き出した。
 体の芯から沸き立つ熱は、決して風呂上りのせいではない。自分のハダカを、よくわからないしけた男に見られてしまったことに起因する、純粋な怒りそのものであった。
「私の目の前でつまらないモンぶらぶらぶら下げやがってえ!」
 長い茶髪がドンと天を突く。両手の先に、ボーリングの玉を思わせる重たそうな弾が具現した。ばちばちと、それはスパークに包まれている。
 走り去ってしまい、もう姿の見えない彼の貧相な体を狙って、砲弾が発射される!
「『きゃのんぼおおおおおおおおおおる』! 絶対に、絶対に蒸発させて空気にしてやるううう! ファイヤアアアアアアア!」


「嫌だ、まだ、俺、死にたく、死にたくない、うわあああああ!」
 早瀬は涙と鼻水を撒き散らしながら、商店街をまっすぐ激走する。音速に匹敵する速さで、なおも加速を続ける。つまらないものをぶらぶら左右に振り回しながら、彼は必死になって音速を目指す。
 それでも、六谷による怒りの一発のほうが、速さで勝った。
 静かな商店街の外れで、強力な大砲は標的に打ち込まれる。
 轟音は爆ぜた。黒い煙がもくもくと立ち昇った。


「おはようございますう」
 翌日、元気に小松は出勤した。まずは、昨日ついに体感してしまった六谷の胸の触り心地について、仕事上がりの大豊を捕まえ、長い時間をかけて語り倒したいと思っていた。
 そして、すぐに小松はある違和感に気がついた。
「あれえ? 六谷さんは、まだ出勤してないんですかあ?」
「ふふ・・・・・・朝ね、豊洲駅の助役に電話があってね、今日体調不良で休むそうですよー・・・・・・」
 小松はそれを聞いて目が点になった。
「ええ!? いつも元気な六谷さんが、体調不良で朝デンですかあ?」
「そう・・・・・・急な話で誰も代わりに入れる人がいないから、おかげで私が今日、六谷さんのダイヤに入ることになったのー・・・・・・よろしくね小松ちゃん・・・・・・」
「そんなこと言ったって、愛甲さん、明日も出番じゃあ・・・・・・」
「三日連続で地下駅にこもりっぱなし・・・・・・。早くおうちに帰って、ダーリンとお話したいのに・・・・・・ひどいわあー・・・・・・」
 そう、愛甲は血色の悪い引きつった笑顔で、最後に言った。
「お風呂で嫌な思いしたから突然休むってどういうことおー・・・・・・? 純ちゃぁん・・・・・・?」





早瀬の作者さんマジでごめんなさい




【駅員小松ゆうなの業務日誌】
作品 駅員小松ゆうなの業務日誌 2日目
登場人物 小松ゆうな 六谷純子藤神門御鈴 水分理緒 加賀杜紫穏 早瀬速人
登場ラルヴァ ゴキブリ
関連項目 双葉学園鉄道
LINK トップページ 作品保管庫 登場キャラクター NPCキャラクター 今まで確認されたラルヴァ
ツールボックス

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