【ある前座の話4-2】


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乗り手の生死を無視し徒只管に速さの限界に挑むためだけに生み出されたと言っても過言ではない鋼鉄の軍馬、
コードネーム『KAMIKAZE Attack』は悪しき存在の手に落ちた。
悪意のみを糧に、人には放ち得ない闇の魂源力を取り込んだカミカゼアタックは、どす黒い排気を振りまき
サンフランシスコの市街へ躍り出る。

禍つ風を纏いて駆ける鋼鉄の軍馬を追うは、人を食らうべく生み出された鉄の魔狼。
魔狼がその背に負い手綱を預けるのは、命預けたそのモノの意味を知らぬ少年と、そのモノの持つ意味に戸惑う少女。

軍馬と魔狼の、己が存在を賭けた超高速の戦いが、始まろうとしていた。





後編 パラス・グラウクス





「うぉああああああああああああああああああ!?!?!?!?!!?!?」
「きゃあああああああああああああああああああああああああああ!?!!?!?!?!」
サンフランシスコの片隅にある、超科学系能力者専門の分校に設えられたガレージエリアに、
男女の絶叫が木霊する。

アクセルを開いたのは、ほんの僅かのはずだった。
クラッチは間違いなく1速に合わせたはずだった。
「なのになんで1速でいきなり80とか出るんだぁ!!!!!!!! 死ぬかと思ったぞ轢くかと思ったぞ!!!」
「……ちょっと仕様をピーキーにしすぎましたでしょうか。終わったら、もう少し回転数と馬力変換効率を
 スロースタートかつ逓増的になるよう調整しましょう」
「ああ、是非頼む! でないといつか必ず死ぬか轢く!」

即座に2速。
既にスピードメーターの表示は100を突破している。
「にしても、えれぇ静かだな、このエンジン。ハイブリットらしいけどガスは?」
「仕様書は読んでいないのですか? 化石燃料は使っていません。電力と魂源力のハイブリットです」
「……んな無茶な。つまりオレ自身がガソリンの代わりってことかぁ!?」
「平たく言えば、そういうことです」
「まさかとは思うが、ここで意味もなく『トランザ○』とか呟くと赤く光るとかそんなオチは」
「素敵な機能です。帰ったら是非搭載しましょう。ほぼ間違いなく使用後は魂源力食い尽くして、良くて廃人ですが」
「そういうお茶目機能は結構!! システムの調整は?」
「そうでした。始めましょう」
相乗りする少女リウムは、手持ちのハンディモバイルとジェヴォーダンビーストのコンソールをケーブルで繋ぎ、
猛烈な勢いでハンディモバイルのキーボードを叩き始める。
コンソールの一部には、ハンドルを握る西院 茜燦(さい せんざ)にはまるで意味の分からない文字の羅列が踊りだす。


遠くから聞こえる悲鳴が、ドップラー効果の逆バージョンで近づいては遠ざかる。
だがしかし、ナントカ教授が作ったというトライクには、逃走経路こそ容易に判別がつくがまだ追いつかない。
「ちぃ! さすがに2速じゃ120が限界か! ……って120は普通2速の速さじゃないだろ! 落ち着け俺!」
「ふっふっふ。どうやら貴方も『速さ』の世界の虜になりつつありますね。そんな目をしています」
「やっかましぃ! それはともかく、まずは追いつかないと話にならん! シフト上げるぞ!」
「了解。そのまえに」
「なんじゃい!?」
「仕様書をあまり読みこんでいないと思われますので、忠告をいくつか」
「この期に及んでか!? まぁいい、あるだけ列挙してくれ!」
「了解です。それではそのいち。その門を出た瞬間から、速度規定オーバーでポリスメンに追われます」
「マジカ!? オレの無事故無違反は異国の地で終わるのか!?」
「そのに。日本の免許では諸外国で車両を運転することはできません。無免許運転、おめでとうございます」
「うぉああああああああああああああああ!?!?!?!?!」
「そのさん。ナンバープレートの申請をしておりません。すばらしいですね、無登録車両ですよ」
「……」

「そのよん。3速以降アツィルトエンジンが本格的に回転し始めます。頑張ってください」
「心が折れるようなことを連ねてから言うなやぁあああああああああああ!!!!!!!! ああもう、こうなりゃヤケだぁ!
 ポリスメンに追いつかれてしょっぴかれる前にアレをどうにかすりゃいいんだろう!!!」
既にゾクの論理である。


ヤケッパチの3速。
茜燦の魂からあふれ出る魂源力を汲み取り、アツィルトエンジンが静かな唸りを上げ始める。
既にカミカゼアタックがぶち壊した正門を潜り、ポリスメン溢れる公道に飛び出すと同時に、コンソールの
スピードメーターの表示は220前後で安定する。
「うぉりゃあああああああ!!! っとぉ! ドリフトなんて人生初だが意外とやれるもんだなぁ!」
「だんだんはっちゃけてきましたね? でもやってることは思いっきり法令違反走行ですよ?」
「じゃかしいわぁ! 今は何よりアレを叩くのが先決だぁ!」
「了解です。目標は目の前の警察しゃr」
「アホかオマエはぁぁぁぁああああああああ!」
「冗談が過ぎました……ですが、飛び出してみれば、意外と普通なものでしょう?」
「ああ、そうだな。さんきゅ、リウム。そいじゃ、飛ばすぞォッ!」
排気筒が白い煙を吹き、背部放熱板からも陽炎が立ち上る。
エンジン部を初め機体全身を駆け巡る冷却システムの稼動も良好、タイヤにも僅かな瑕疵はない。
路面を捉えた魔狼の爪は、その全身を、風よりも早く、前へ前へと押し出す……!


―――※―――


路面の車両という車両の進行を妨害しながら、車両の次元を半分超えた二機の車両が公道を爆走する。
急停止した車両が玉突き事故を起こしているが、それはすべてラルヴァとあのトライクのせいにしておこう。

人口密集地の往来を爆走する二機の怪物は、今は辛うじてその距離を詰めつつある。だが、最高速度で劣る上に
後方につけている魔狼に、今のところ勝ち目はない。
「よし、ナビゲーションシステムオールグリーン。表示、前です」
「うぉすっげ! やったら細かく出てやがる! ……で、この赤いのが、ヤツか」
「はい。コードネーム『KAMIKAZE Attack』。ジャパンかぶれのサミュエルソン教授らしいセンスです」
「全く以ってそのとおりだな。爆死特攻以外の理由で400Km/h出す理由も必要性も分からん」
「ですが……そろそろ距離を詰めて欲しいのですが。先ほどメオトマンザイをしている間に調整は終えたので
 次はカミカゼのハッキングを」
「なぁ、メオトマンザイってどんな字書くか知ってるか?」
「さぁ? ジャパニーズは難しいので。男性と女性で仲良く冗談話をすることをメオトマンザイというのでは
 ないのですか? ミラクがそのようなことを言っていましたが」
「うんナチュラルに騙されてるな、未来来に。とりあえずその話は置いといて、だ。やっこさんの目的地の
 目検討はついてたりするのか?」
「この場所からこの方角をラルヴァが目指すのであれば、向かう場所は一つしかありえません。進入してきた
 トッペルゲンガーも、おそらくはヤツに利用されて分校から超科学の産物を盗み出したのでしょう」
「また随分と思い切って断言するなぁ。で、奴さんの目的地は?」
「エリア51」




爽やかな夏のサンフランシスコの潮風が、密着した二人の間を駆け抜ける。





「……衝撃!! ラルヴァはエイリアンだった!? とか……言い出さ、ない、よ……な?」
「エイリアンならまだマシです。彼らには友好的なコミュニケーションの可能性があるそうですから。
 ですが、もっと現実的な驚異の一端が、あそこにはあります」
「あそこって航空撮影も受け付けない超ガードが固い軍事拠点なんだろ? なんでそんなところにラルヴァが」
「逆です。あそこはラルヴァが入る場所ではなく、出る場所です。米国でもトップクラスにガードを固めなければ
 ならない理由が、あの場を米軍の全力を以って封鎖し秘匿しなければならないだけの理由が、あそこにはあります」
「ふむ、それは……?」

「Gear the General」

「歯車、大将……?」
「鋼の歯車で出来た心臓と水銀の血液、鋼糸を束ねた筋繊維、超硬度金属シャフトの骨格に黒金の肌、
 ひと睨みで戦場の全てを見通す超望遠レンズの瞳に、世界中に存在するあらゆるCPUを連結しても
 叶わないほどの超緻密かつ超高性能な機械頭脳を持つとされる、あらゆる機械を手足とする、世界屈指の
 最強ラルヴァの一体です」
「それが、エリア51に?」
「いえ、ジェネラルにとっては数ある屯所のひとつでしかありません。ただ、進入されれば米軍を以ってしても
 追撃は不可能。しかも、遅くとも推定3日後にはカミカゼと同程度の性能の車両型兵器か、アツィルトエンジンを
 組み込まれたマシンエネミーが大量生産されることは、容易に想像できます」
「失敗は許さん、ぶっ壊しても構わん、ってのはそういう意味か」
「はい。これは我が国のみならず、全世界の問題に繋がります。勢いだけで受けてしまって後悔しましたか?」
「……はは、世界の危機なんてもんはどっかのデキるヤツに任せときゃいい、なんて思ってたが、まさか
 自分が当事者になるとはねぇ。世の中分からんな」
「しかしそうは言っても、今目の前の問題、最高速度の差はどうあっても埋まりません。少なくとも現状では
 向こうは舗装された陸路を最短ルートで走っているだけなので、ルートの割り出しは容易ですが」
「つまり……近道して前に出りゃ、何とかなるって事だろ?」
「とはいえ此処は宅地と河川ばかりですよ? そんな近道が」
「なきゃ作るまでさ!」
そう言って茜燦は徐に4速へとシフトチェンジ、ハンドルを切る。その方向は……
「えぇ!? ちょっと!? そっちは河」
「だからさ! ……多分出来る、と思うが……とりあえずやってやれだ! 後ろのサイレンもやかましいし!」
そのまま、リウムの悲鳴も聞かずにさらにハンドルを切り、人食いの魔狼は、サンフランシスコベイに繋がる
河川へ一直線に―――



―――※―――



「今だ! 繚龍、エミレーション!」
コンテナに積まれた四宝剣。中央と4本の柄のそれぞれに伸びたアームが内部で固定しているが、そのうちの
一つ、氷結の刃「繚龍」に繋がるアームが、柄から刀を軽く引き抜く。
と同時に、迸る冷気はコンテナのセンターブロックにあるエミュレーションシステムに取り込まれ、
「うぉおああああおぁおあぁおあああ!!! っとぉぉぉ!!!! よっしゃ大成功!」
「死ぬかと思いましたよぉ!!!! これは、氷の道……!?」
「そういうこった! 幸いこの辺は河川が多いようだから、繚龍を小出しにしつつ、車道と河川を渡り歩く!
 こうすりゃポリスメンも撒けるし近道できるって訳だ!」
モノクルに映る、明日明(あすあ)画によるコミカルな龍の絵が元気を無くしていくのに合わせてゲージも減り、
ゼロになる前に車道に戻る。ゼロになると同時に繚龍は鞘に収まり、次の出番のために魂源力を蓄える。

「さっすが全天候型! 凍結路面もオフロードも関係なし、ゴツいタイヤは伊達じゃないってか」
「でなければ、何時何処で戦闘になるか分からない以上使い出がありませんから」
「にしても、この際だから聞くが、こんなの何のために作る必要があるってんだ?」
「……少なくとも私やチーフたちは、ジェネラルを、ラルヴァを倒して平和をもたらす為に、と思ってました」
「なるほど、ね。ぱっと見で人を悪く言うのは気が引けるが、あの油ギッシュな教授は腹に一物抱えてそうだ」
「私からも、いいですか?」
「何だ?」
「このバイクを日本に持ち帰ったら、何をしますか?」
「う~ん、そうだなぁ……まずは前の持ち主に見せるかな。元持ち主だからそれなりに思うところもあるだろうし。
 あとは……未来来と明日明に見せてやって、そしたら必要になるまで車庫送りかな?」
「車庫? どうして? この速さ、この性能、ラルヴァ討伐に充分すぎるほど役に立ちますし、それに」
「こんな無茶極まりないモンで日本の道を走れるかっつの!こういうすさまじく開けた場所があるならともかく、
 日本の道路は狭いし混んでるしで、こんな速さ自慢のデカブツにゃ出る幕ないっての」
「ならなんて引き取るなんて言いだしたんですか? 使えないものを引き取ったって仕方ないじゃないですか」
「ま、いろいろあんだよ。それにオレだって男だ! 使えなくたって こんなイカしたマシンが手に入るならってな!」
「そう、ですか……」

なんというか……難しいことを考えるのが、バカらしくなりました。
このバイクや、稼動データを元にして生まれた後継機たちがの道具になるくらいなら、もういっそのこと……!
「あれ? データチェックは終わったんじゃ?」
「やり忘れを……思い出したんです」
運用データの転送ドライバ……削除
研究室とのシステムリンケージ……遮断
システム全面のスタンドアローン化……リンケージによるオートメンテナンス無効化承認、スタンドアローン化完了
あとは……
「いよっしゃ追い付いたぁ!」
これで、おしまい! この機体は、戦争の道具じゃなくて、この人の信じる道を突き進むための力になる!
「機体をカミカゼに近づけて下さい! 接触するにしてもアツィルトシールドを止めないことには!」
「おう! 全力全開、フルスロットル!」


4速から5速へ。
アツィルトエンジンの持てる性能を最も発揮できる段階へと推移する。
エンジンの全力回転が唸り声を上げ、地を蹴るタイヤの速度はさらに増し、スピードメーターはついに350、
メーターの針も認める最大速度へ!
「でも少し足りません! 離される!」
「だったらもいっちょブーストくれてやらぁ! 百虎、エミュレート!」
コンテナ内の百虎が鞘から引き出され、排気筒と後部排熱口からすさまじい突風を生み出す!
「うぉおおおおおおおらっしゃああああああああああああああ!!!!!!!」
魂源力を振り絞る茜燦の咆哮は、エンジンの唸りに、魂源力の流動に重なり、さらなる加速を生む!
双方カタログスペック上の最大速度をとっくに出しているにもかかわらず、魔狼の疾走は軍馬に並び、そして
「すごい……! まさか、追い抜くなんて!」

その時、ジョンみたいなモノ、もといドッペルゲンガーの口が、ニヤリと笑う。
カミカゼのサイドコンテナが開き、そこから出てきたのは……


「「ミサイルぅ!?」」


―――※―――


噴煙を撒き散らし、コンテナから小型ミサイルの大群が飛来する!
「そんなまさか!? 」
「だったらコイツでどうよぉ! リウム口閉じろ! 舌噛むぞ!」
「は、はい!」
「花雀エミュレート! 全部纏めて燃やしてやらぁ! うぉらっしゃあああああああああああああ!!!!」
花雀から巻き起こる炎は排気口から噴出し、さらにスピンターンを加えることで炎の壁となる!

「うぉああああやっべ近すぎたぁ!」
「死ぬかと思いましたよぉ!」
二人は思いっきり爆音爆炎に煽られるが、それは向こうも同じ、いや、爆発が爆発を呼ぶ!
「誘爆!? いよっしゃラッキィ!」
「何とか、シールド無効化間に合いました! 流石サミュエルソン研究室、警備はザルで有名でしたから」
試作アツィルトシールドの防護を絶妙のタイミングで剥ぎ取られたことで至近距離からの爆炎と爆発を受け、
カミカゼとドッペルゲンガーにも少なからず打撃を与えることに成功、するが
「とはいえもう時間がありませ……きゃあ!?」
「ちぃ! これだから軟体系は! 片手でハンドル絡めてもう一方で攻撃かよ!」
Gruaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!
最終最後の悪あがきか、あと少し走らせれば勝利確定だからか、ドッペルゲンガーは腕を伸ばし、
言語にならない咆哮をあげつつ、破れかぶれに振り回してくる!
「さすがに繚龍乱発、百虎に花雀まで出したら乱武に回すストックがないか! リウム、そっちの方はどうだ!」
「なんとか、でも……時間が、距離が!」
「しゃあねぇ……先輩、アンタを信じますよ、信じさせてくださいよ……!」
羽矢太から託されていたもう一本のキー、始動のためのドライブキーではない、イグナイトキーを

―――※―――

道場で羽矢太先輩からキーを受け取った後の、別れ際のこと。
「念のため今の内に言っておくが、こっちが普通に運転するときのキーな」
「そんなん見りゃ分かりますって。で、そっちは何なんすか? カギ型のキーホルダー?」
「うんにゃ違う。コイツはまぁなんつーか、すげぇキーだ。俺にゃ使いこなせなかったが、オマエなら……もしかしたら、
 出来るかも知れねぇなぁ」
「その根拠は?」
「ない! ……んだが、まぁ、あとはオマエの心がけ次第じゃないか?」
「どういう意味です?」
「いつまでもゼンザ前座と呼ばれてないで、主役になってみたらどうだ?」
「それこそ、俺にゃ無理っすよ。俺よかよっぽど主役に向いてる奴は何人もいますから」
「だから、そんなんじゃ駄目なんだよ。突き抜ける覚悟が足りないんだよ、お前には。だから勝ちも取れないし
 何時までたっても前座なんだよ」
「……そんなの、先輩にゃ関係ないっすよ」
「まったく……そんなに奥に控えてることなんかありゃしないんだぜ? たった一度ドンと表に出てみりゃ、
 見える世界も変わるんじゃねぇの? ってことさ」
「はぁ……」

「大体よ、あんだけカワイイ娘周りに居てさ、一人くらいどうこうしようとは思わんのかオマエは?
 まさかソッチ方面とか」
「んなわけあるかい! ったく……別に俺は」
「関係なくはないだろう? 受け入れるかは向こうの選択だが、選ぶのはオマエの選択だ。そこ間違えんなよ?」
「んなこたぁ今はどうだっていいじゃないっすか。で、結局のところ、コイツは何なんすか?」
「ん? ああそういやソレの話だったっけか。とりあえず、ヤバイと思ったら迷わず使え。ソイツは―――」

―――※―――

コンソール下のスロットに差し込む。
「な、何を!?」
ハンディモバイルとは別の何かのためのコネクタだと思っていたが、教授含めて何の為の物か誰も知らなくて
分解不能レベルで組みつけられていたため仕方がないので残していた謎のコネクタ。
なぜそこにぴったりとはまるものが存在している?
接収時の報告には「外装に意味もなさそうなものを貼り付けてあった以外には、仕様変更や改造については
為されていない」とあったはずなのに備え付けられていたものだというのに!

ディスプレイにメッセージが流れる。
―――Atziluth Discharger is standing by.
―――Blaze up your Lionheart.
―――Wake up your brave soul.

――――――I wish you be one of Braves.


「何だかよく分からんが、男ならやってやれだ! 秘剣乱武、開放!」
ディスチャージャーから送り込まれる高濃度・高純度魂源力がアツィルトエンジンに注ぎ込まれ、
限界を振り切った爆発的加速を生み出す!
そこに、乱武の特殊能力である「斬撃・突撃完全特化」の力が加わり、アツィルト光を纏う弾丸と化し、
ぶっちぎると同時に転進、鋼鉄の軍馬とラルヴァに吶喊する!
「ぶち抜けぇええええええええええええええええ!!!!!!!」


爆砕音が響いたのは、はるかに後方。
ドッペルゲンガーは頭部から前輪の餌食となり、形質維持が困難となり爆裂四散、さらに暴力的な破壊力で
迫る黒金の魔狼の疾走は、カミカゼアタックの胴体を真っ二つにへし折り、アツィルトエンジンを爆砕、
統制を失い暴走しあふれ出る魂源力が、崩壊した機体を巻き込み、大爆発を引き起こす……!



―――※―――



「や……やりました、ね、って、えええええええええええ!?」
当然といえば当然の話だが、アツィルトエンジンの燃料は運転者の魂源力。
5速全開にオーバースペックでの爆走2回、四宝剣も4本全て使い切り、鞘のストックも空。
とっくに茜燦の魂源力は尽きかけており、ぶちかましとほぼ同時に気を失っていたわけで……。

「え? え? ひょっとして……止められないぃ!?」
リウムはCPU周りの整備を手伝いこそすれ、二輪を操縦したことなど一度もない。
何をどうしたら止められるのかなんて、実のところ知るよしもなかったりする。
「起きて! 起きて下さい! これじゃあ何のために勝ったのか意味が分からなくなっちゃいます!」
返事がない。ただの気絶のようだ。
「どうしましょう! どうしましょう!?」
そうこうしていても爆走の慣性が失われることはなく、このままでは激突、あるいは落下、横転、いずれにせよ
良くて大怪我、打ち所が悪くなくても死んでしまうことも否めない!
「冷静になれ、冷静になるんだ私!」


――――――そうだ! 緊急停止プログラム!
猛烈な勢いでハンディモバイルのキーを叩き、可能な限り速く指を動かし、緊急停止プログラムの
キーロックを解除、即起動準備、実行……
「とりあえず、これで、止まるはずですが……!」
停止命令を受けた魔狼は、アツィルトエンジンの緩やかな回転停止とオートブレーキングによって、
徐々にその動きは緩やかになり、そしてようやく動かなくなる。
「ふぅ……助かりましたぁ……」

とりあえずハンドルを握ったまま気絶している茜燦はそのままにしてバイクを降りて、携帯でチーフにピックアップを
要請した後、初の本格稼動の履歴となる稼動ログをチェック。
「それにしても、ディスチャージャーなんて危険極まりない物を、一体何処の誰が?」
アツィルトディスチャージャーの完成品は、世界的にも数は少ない。常に変動する波動の性質が強い上に、
能力としての発現なく「そのまま」の状態で存在を安定させることは非常に難しい。一歩間違えれば暴走、
爆発してしまうような代物を積んでいるということ自体が、既に滅茶苦茶だ。
あれほどの物を作れる環境が双葉学園にあるならば、ミラクやアスアが知らないはずがないのだが……?


稼動ログを最上段を読み返す。
最初の一行目には、"Gevaudan Beast"、ACM-X03+の開発コードネームがある。
とはいえ、この機体が人を食う魔狼となることは、今後ありえないだろう。
そうなれば、もっと相応しい名前があるはずでは?

アツィルトディスチャージャーがもたらした、アツィルト光の神秘の輝き。
勝利の女神の祝福を受けたからこそ、垣間見ることの出来たものではないだろうか。
勝利の女神が授けてくれた、力強く眩しい輝きこそ、この機体に授けられるべき祝福の名前ではないだろうか。

キーを叩き、システム管理メインプログラムを起動、キーコード変更、登録。
たった今からこの機体の名前は、護り慈しむ勝利の女神の祝福の輝き纏う、"Pallas Glauks"。
この機体は、護るためにあるべきもの、宵闇を切り裂く光の弾丸。

それにしても、疲れました。チーフたちはまだでしょうか……Zzz………。


遠くから、二人を呼びかけながらトラックを走らせるチーフに気付くことなく、リウムは眠りにつく。
その寝顔は、実に安らかで、誇りに満ちたものであったと、チーフは後に語ったという。



ツールボックス

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