【ある中華料理店店員の悲劇 中編】


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4.接敵

 拝啓、故郷の母さん元気でしょうか?
故郷を旅立ち一人都会に出てすでに1年と少しが経ちましたね。
俺は今、何故か胸以外は最悪な外道巫女と一緒にここ、バイト先であり貴重な飯が腹一杯食える素敵な中華料理店「大車輪」……だった場所に来ています。

「おい」
「何っすか?」

辺りには粉塵がたちこめ、視界は相変わらず最悪。
息は口元にバンダナを巻いたおかげで多少はマシといえる、かもしれん。
ハンカチじゃなくて初めからこっちにしとくべきだった。
おっさん担いでたときよりは間違いなくマシだが。
足元には瓦礫の山、下手に足を出すと足を強打するかつんのめるのは必定……てか、もう何度か転びました。擦り傷痛いです。
見えない視界の向こうからは水が漏れる音と電球が割れて軽くショートでもしてるのだろうか電気の漏れる光と音がする。
昼の営業時間が終わってガス落としてたのが不幸中の幸いだったか。
これはもう建て直しでもしないとダメだなぁ。
そして一番の酷いのが、

「燃えてね、これ?」
「燃えてるっすねー」

どうみても火事です、本当にありがとうございました。
店の中ごろ、何とか足元を探りつつキッチンから出てきた俺達の前にあるのはトラックの頭部分――さっき気がついたら寝てたのはコイツが店に突っ込んだのが原因か――の後部荷台コンテナの中ごろの辺りから入り口を塞ぐ形で火の手が上がっていた。
いやそれよりも問題なのは、どう見ても燃料漏れてるんだが。

「戻った方が良いよね、これ? どうみても危ないよね?」

自慢じゃないが体力の無さには自信がある。
スタミナは人並みにはあるのだが、筋肉があまり付きにくい体質らしくある条件を除いてとっさの防御力が皆無に等しいのだ。
熱いのも嫌だし、痛いのも嫌だ。何かあったら危ないでしょう、主に俺の命がだけど。

「これはさすがに私もヤバイと思うっすねぇ」
「だよなだよな? よし帰ろうすぐ出よう!」

珍しく二礼が俺に同意したことだし、こんなに危ない空間で長居するとか自殺志願者としか思えん。
引っ掛けて転ばぬように足で恐る恐る来た道を確かめる。大丈夫、引っ掛るような瓦礫は近くにない。
ゆっくりと振り返り、開けっ放しになっている裏口へと向かおうとした。

「あ、ちょとタンマっす」
「へ……?」

急に二礼が俺の袖を引っ張った。こちらが丁度奥に向かって足を前に出そうとしていた為、上半身が後ろに傾く。
さらに間の悪いことに慌てて伸ばした足が瓦礫にあたったようで、見事にバランスが崩れる。
人間が立っている時にバランスを崩したらどうなるかなんて分かりきっている。
重力に従い1秒に満たない僅かな落下を経て、

「ぐえっ!」

間抜けな声が自分の喉から出るのを聞きながら、強かにケツから床に落ちた。簡単に言うと尻餅だね。
しかしこれが床が固いとおっそろしく痛いもので、数秒ほど無言で尻を押さえてのたうち回る結果になった。
しゃ、洒落にならん痛さだ……!

「つ、つああああああ……」
「何馬鹿やってんすか?」

こ、このアマぁ……何時か絶対に泣くくらい揉んでやる!
実際そんなことをしたら即刻逮捕の上に女性風紀委員からの百叩きが待っているんだろうけど。
たまにグランドの片隅で熱っぽい顔をして「もっと! もっとぶって!」とか言いながら叩かれてるのを見るが、何時も叩かれてるヤツがローテーションを組んでるのかってくらい同じヤツしか見ないのは何故だろうか。
いやいや、今はそんなことよりようやく痛みの引いてきたケツを摩りつつ腰を起こさないと。
何のために? ここから出るのと、抗議の一つくらい言うのはありだろう。本音言うと慰謝料代わりに揉みたいが。

「い、いきなり何てことしやが」
「あれを見るっす」

俺の抗議なんざ一切聞いてないねコイツ。
あれ、また涙が出そうなんだけど。俺は悲しいからじゃない、尻が痛いから泣いてるんだ。ちくしょう、外道巫女め。
口元のバンダナで目尻を軽くぬぐうと二礼が指差している方を見る。
絶賛炎上中のトラックしか見えんのだが……って、コンテナに書いてある文字を見て思わず声が出る。

「双葉研究所のトラックだったのか!」
「しかもこれ、ラルヴァ輸送用のヤツっすね」

ラルヴァ輸送用?
何でお前そんなこと知ってんの?
トラックが何処のか分かれば慰謝料でバイトしなくても良いかなぁ、ていうかそれを期待して叫んだんだけど。
そんなことよりチャーハン食いたい。
色々な疑問とかが頭の中で巡り回るが、結局一つ結論が出た。

「え? ラルヴァ輸送用って……え?」
「気をつけた方がいいっすね、普通ならコンテナの中で身動き取れないように厳重に封印されてる筈なんですけどねー」
「マジかよ……ってことはその辺にいるかも知れないってことか?」 
「そっちからじゃ見えませんでしたけどコンテナの逆側に穴開いてるっす。多分その辺にいるんじゃないっすかね。
 ていうか、雀の涙程とはいえ魂源力持ってる異能者なのに輸送用の特殊ペイント知らないんすか?」
「バ、バカにしないでくれる!? それくらい知ってたんだからね!
 後、雀の涙言うな。平均に比べたら大分下回るけど一応使えるんだから」
「へー、ふーん」

ち、ちくしょう! この巫女完全に見下してやがる!
あー、母さん御免なさい。俺また一つ嘘をつきました。
しかし特殊ペイントか……多分その講義さぼってたんだろう。
二礼が知ってるってことは入学してすぐに教えられたんだろうけど、去年もバイトで忙しかったからなぁ。
帰ったら異能者としての一般知識についての本を読み直そう。
っと、そんなことより輸送されるようなラルヴァか。

「あれ、俺達今結構ピンチじゃね? そ、その辺にいないよな? な?」
「何キョドってるんすか、周りに注意向けてた方が良いっすよ。
 一応学生証でサーチかけてますけど、これ精度微妙っすからね」
「てことは、いるかも知れないってのかよ……」

二礼がこちらに応え、辺りを警戒しながらトラックへと近づいていく。
燃えてるってのに危ないと思わないのかよアイツ。
よく見ると何時の間にやら結構な長さの木刀を構えていた。
以前、何処から取り出すのか聞いてみたら「変態」扱いされたので二度は聞いてない。あいつの異能力かもしれん。
とりあえず、見えない以上俺にはどうしようもないから壁を探して手をその辺に伸ばす。
疲れたし、壁を背にすれば不意の襲撃にも対処しやすいだろう。
さすがに撲殺巫女みたいに木刀なんて持ってない以上、少しでも危険が無い方へ逃げるのが上策だし。

「ん? なんだこりゃ?」

ペタリ、と手が硬いものに触れた。
触った感じでは石で出来た綺麗な球形をしている。
見たまんま丸い石の塊なんだが、こんなの瓦礫の中であるもんなのか。
うちの店にこんな置物あったっけなぁ?

「カテゴリーはビースト。
 知能はB……動物レベルっすね。
 危険度は2、強さは下級らしいっす」

二礼だ。
トラックのコンテナに手を突っ込み資料でも掘り当てたのだろうか、クシャクシャになった紙束を器用にめくっている。
右手の下、すべすべして気持ちの良い感触を楽しみながらその言葉に耳を傾ける。
そう警戒することもないだろう、危険度が2で強さが下級ならそれほど怖いものじゃない……と思うし。

「名称は『転がり目玉』。
 主な攻撃方法は体当たり、主な移動方法は転がったり跳ねたりらしいっす」
「なんだそりゃ、えらい弱そうだな。名前もファンキーじゃないか」

というか、主な攻撃が体当たりって何だよ。低レベルのポ○モンかよ。
ラルヴァってもっとこうモンスターな怖いもんじゃなかったのか?
今まで一度も見たこと無いから何とも言えんが。

「大きさは約40cm程の球体で大きな一つ目を持つ。
 色は黒だが、体表組織を変化させて恐ろしく硬くも逆に柔軟にもなる……あっつー」

火から逃げるようにこちらに近寄ってくる二礼。
さすがに熱かったのだろうか、首筋で汗が輝いていた。むぅ、これだけ見ればエロいんだがなぁ。

「でかい目玉ってことだな」
「そうっすね、後はその体表を変化させる能力で擬態したりするらしいっす」
「へー、弱いなりに能力もってるんだな」

あれ? 丸くて、硬くなれて、擬態が出来る……?
酷く嫌な予感がするが確かめねばなるまい。
そおっと、右手の下を覗き込んでみる。

……目が合った。

一度二礼の方に目を向けてみる。
相当熱かったのだろうか胸元のリボンを外してシャツのボタンもいくつか外し書類で風を胸元に送り込んでいた。
こらこら胸元を緩めるな、汗で光った谷間がエロいじゃないか。
……もう一度、そっと右手の下を見てみる。

「キシィィ……」

石にしか見えなかった白っぽい色は黒く変色し立派に黒光りしている。
こびり付いた石の破片などを剥がしながら瞼のような膜をめくり上げて、でかい目玉と再び目が合った。
口も無いのに何処から声出してるんだコイツ。
手触りも石のすべすべからゴムのような感触に何時の間にか変わってやがるし。
いやいや、そうじゃないだろ。いい加減現実逃避ばっかりするのは止めよう。
さぁ、大きな声で叫ぶんだ。はい、いーちにーのさーん。

「ぎゃあああああああああ!!!」
「キィィィッ!!」

右手を離して思わず跳ねのく。
それと同時に「転がり目玉」も意識が覚醒したのか一度鋭い声を上げると、見た目からは想像できない速さでこちらの足元に転がりそこから真上に飛び跳ねた!
ズムッという鈍い音が辺りに響きわたる。

「フッ……!」

意図せず肺から空気が漏れ言葉にならない声が絞り出される。
そして、俺は若干内股になりつつ膝から地面へと崩れ落ちた。
半端じゃなく痛い。崩れ落ちた時に打った尻の痛みなんて感じないくらいに痛い。
余りに痛すぎて吐き気がしてきた。更にそれを通り越して、
ヤバイ、痛すぎて、い、意識が飛ぶ……!
痛みに集中しすぎて、耳からは音が聞こえなくなり、視界の端の方が黒く暗くなっていく。
しかし、それは背中を強く叩かれたことで防がれた。

「いきなり座り込んでどうしたんすか?」
「た、玉が……」
「『転がり目玉』がいたんすか!?」

た、玉は玉でも、俺の大事な大事なゴールデンボールにダメージ大ッ!
勘違いではないが、蹲って呻いている俺を放置して二礼が辺りを見渡す。
俺を庇う様に立ってくれているのは一応少しくらい心配してくれていると信じたい。
お、おのれぇぇぇぇ! でかい目玉の分際で俺の玉に体当たりなんぞ食らわせおって……!
絶対に俺が倒す!

「あ、いた。ていっ!」
「キシィィィィッ!?」

ゴムのような質感の表皮をバターでも斬るかのように、二礼の魂源力が込められた木刀が薄い光を纏いながら通過していく。
腰が上がらないまま、決意だけ秘めた俺の目の前で「転がり目玉」は撲殺巫女の木刀によってあっさりと真っ二つになった。
ろくな断末魔すら上げさせてもらうことは出来なかったらしい。
死んだのだろう、すぐに存在が薄れて翳み消えていった。
木刀の先を地面につけた状態で、残心に浸る二礼。

「え、ちょ、あれー!?」
「うーん、やっぱり魂源力込めて斬ると感触が薄くてツマンナイっすね」

訂正、残心じゃなくて感触が不満で止まっていただけらしい。
こいつは本当に巫女なんだろうか、ただの撲殺魔じゃないのかとたまに思ってしまう。
あっさりと木刀を振り上げて両手でブンブンと振りだす惨殺巫女。
ていうか危ないので止めてください、あと俺の決意は何処にやれば良いのでしょうか。



2,3分程経っただろうか。
なんとか玉の痛みも多少マシになり、壁に手を着きながら何とか立ち上がる。

「……よっと」
「うっわ、膝の震え凄いっすね。生まれたてのバンビちゃんの真似っすか?」
「やかましいわ!」

女にこの痛みが分かってたまるかよ。
力の入らない膝を叩き活をいれ、なんとか膝を伸ばす。
立った! 俺が立った! ナニはまだ玉の痛みでピクリともしないが。
てか大丈夫だよな? この年でEDとか嫌だぞ俺。
念のため股間に手を伸ばして少し揉む。OKOK、そんなに痛みは無い。
軽くその場で飛び跳ねる、鈍痛が走るがまぁ大丈夫だろう。

「とりあえずこれで一件落着だな!」
「先輩何もしてないっすけどね」

うるさい黙れ。
一件落着、ラルヴァの件はこれで終わりで良いと思う。
他に問題なのは、

「よく燃えてるよなぁ」
「よく燃えてるっすね」

既にトラックの運転席は火に包まれている。
天井を仰ぎ見ると、火が壁を伝って結構な範囲まで火が広がっていた。
これは一刻も早く外に出ないとマズい。

「おい二礼、急いで外に出るぞ」
「了解っす」

今度は二礼も頷き、二人して裏口へと向かう。
ふと横を歩く二礼を見ると木刀を持っていなかった。
何処に隠したんだ? と疑問に思うが、そんなことよりも早く外に出なければ命が危ない。歩を進める。
燃え盛るホールからキッチンへと入った次の瞬間、ホールとキッチンを隔てる壁が爆砕した。

「いでででで!」

咄嗟に顔を守るために突き出した両腕にコンクリートの破片がバラバラと音を立てて当たる。痛い。
二礼はと見ると、ちゃっかり俺を盾にするように背に隠れていた。
人を盾にするとはなんという外道巫女!
壁が吹き飛ぶとは、ホールの方で何か崩れたりしたのだろうか。
早く外に出なくてはと、前を向く。

……また、目が合った。

先ほど外道巫女の撲殺木刀によって真っ二つになって消えていった俺の玉の仇。
それとそっくり、いや一回り大きく直径50cmを越えそうな大物だ。
黒光りする丸いボディに大きなお目目の『転がり目玉』。
コンクリートの破片と瓦礫に塗れたキッチンの中で裏口から俺達を通せんぼするかのようにそいつは陣取っていた。

「おい、一匹だけじゃなかったのかよ!?」
「みたいっすね、でもこんな雑魚一撃でーっ」

叫び身構える俺の動きとは逆に、俺の背後からまた何処かから出した木刀で『転がり目玉』に切り込んでいく二礼。
おお、実に頼もしいぞ。やってしまえ、撲殺巫女!
先ほどと同様にアッサリと真っ二つになることを予想し、実際避けようともしない『転がり目玉』に二礼の木刀が打ち込まれた。

「え、うそ……?」

乾いた音がして、続いて二礼の信じられないというような声が聞こえた。
すぐに何かが落ちる音が足元で鳴る。
視線を向けた先には中程で折れて破片を飛び散らせた木刀の先が転がっていた。
転がるそれを拾い上げ、慌てて二礼に目を移すと折れた木刀を見ながら呆然としている。
あの馬鹿、敵が目の前にいるっていうのに立ち尽くしやがって!
数分前に同じことをして、その結果股間に手痛い攻撃を食らったのを棚に上げて二礼の前に回りこむ。

「キィィィッ」

しかし『転がり目玉』は先ほどいた場所から微動だにせず、一つしかない目の目尻を歪めていた。
コイツ、笑ってやがる……!?
二礼の木刀が折られた以上、あまりやりたくないが発勁を叩き込んで倒すしかない。
射程距離に相手を入れようと一歩前に踏み出す。

「キシィィッ!」

瓦礫を弾き飛ばしながら『転がり目玉』が裏口へと向かっていく。
誘ってるのか、それともここが危険だと判断したのか。
慌てて二礼と二人、後を追う。

「さっきの奴がやられたのを見てたんすね。
 学生証が反応しなかったのは表皮を硬化させて外と内とを断絶して力が漏れないようにしたからっすか」
「どういうことだよ?」
「木刀が当たる瞬間に石みたいになったっす。
 多分、その状態だとラルヴァというよりも硬い石の性質が勝つんだと思うっす」
「それで魂源力が込められてたのに切れなかったのか!」
「私の魂源力はラルヴァに対してのみ刃物並みの切れ味を付加するだけで、それ以外には作用しないっすからねー」

説明ありがとー!
薄くなった粉塵を掻き分け、幸いにも足を躓くこともなく裏路地へと飛び出す。
すぐに左右を見渡すが、『転がり目玉』の姿が見当たらない。
雑多にビールケースが詰まれたりクーラーの室外機が設置されたりしているが、あんなでかい球体が隠れるスペースなんて無い筈なのに。

「何処行きやがった!?」
「きゃっ!」

真後ろで聞こえる二礼の悲鳴と何かが倒れこむ音に慌てて振り返る。
一瞬視界の中に二礼がいないことに驚き、すぐに視線を下に向けた。
そこには倒れこんだ二礼と、その上に載っている黒い球体の姿が。

「キシィィィィッ!」

さっき二礼が言っていた事を思い出す。
強さが下級ってことは現代兵器が通じるレベル。
気を練りこんでいない緩めの発勁でも十分にダメージを通すことが出来る筈だ。
石になった所で発頸は内部に響く、倒すことは出来なくても動きを鈍らせることくらいは出来る!
そう思い、二礼の上にいる球体に手を伸ばした。が、それが届ききる前にさっきのやつよりの素早い動きで距離をとられる。
もしかして、

「俺がさっき裏口の扉に発勁打ち込んだのを見てたのか……!?」
「キィィィ」

肯定するかのように黒い目玉が声を上げた。
足元の二礼からは呻き声が聞こえる。
あれだけの大きさのものに背中からか頭からかは分からないが押し倒されたのだ脳震盪くらい引き起こしているかもしれない。
裏口からあまり離れていない以上ここに寝かせていたら危ないだろう、目で『転がり目玉』を牽制しつつ二礼を抱き起こす。
うお、柔らかい二つの球体が俺の肩に当たる!
し、至福……!!

「キィィッ!」

やばい、敵から目を離しちゃダメだ。
こんな時じゃなきゃこの感触をゆっくりと味わうものを、この目玉お化けが。
裏口から2,3メートル離れた場所、先ほどから気絶したままのおっさんと若手の二人の横に二礼を座らせた。
握っていたままの二礼の木刀をしばし考えた後、

「ていっ」

緩められたシャツの首元から覗いている胸の谷間にそっと突き刺す。
木刀を通じて感じる肉の柔らかさが、ああああああたまらん!!

「キィィィィッ!!」
「あ、や、スマンスマン」

無視されて怒っているのか、律儀に待ってくれていた『転がり目玉』と合い迎える。
右手を前に、左手は腹の辺りで手のひらを天に向けて半身になる。
足は肩幅よりも少し広く、重心は若干後ろよりに。
こちらの動きに注目し唸り声を上げたままの敵を見据える。
とはいえ、とりあえず構えたもののどうしようか。
ぶっちゃけて言うと、俺の攻撃能力は鉄扉を吹っ飛ばした「発勁」これしかない。
打突系の鍛錬なんぞこれっぽっちもしてこなかったし、球体相手に投げも関節も無理だろう。
実際筋力の低い俺は投げも関節もほとんど使えないんだけど。
故郷の師範がもやしっ子だった幼少時代の俺に「敬(たかし)ねぇ、ケイとも呼べるし発勁覚えてみっか?」という物凄く安易な理由で教え込まれたのが原因なんだが。
後出来ることと言ったら、

「キシィィィァッ!」

って、人の回想中に攻撃してくんなよ!
直径50cmの塊が飛び跳ね、突進してくる。
重量はかなりのものになるだろう、石にもなれるやつだしインパクトの瞬間に固くなられたらこちらが大怪我をするのは必至。
しかし―――

「まぁ、当たらなければどうということは無いんだよな」

俺は「筋肉があまり付きにくい体質らしくある条件を除いてとっさの防御力が皆無に等しい」のだ。
具体的に言うと火とか水とかの無形物、さらに早く飛んでくる矢とか弾丸には完全に無力。
でも、幼少時代今から12、3年前から毎日欠かさずに鍛錬に励んでいる武術がある。
おっさんくさいと回りに言われながらも続けているもの。
円の動きを基本とし攻撃よりも回避、ゆったりとした動きと共に内気を練るのに適した武術、その名は「太極拳」。
飛び掛ってくる球体に向け、ある程度脱力した右手を差し出す。
指先、爪の上に相手が接触した瞬間。
指、手の甲、そして肘までに螺旋のレールがあるようにイメージし、それに相手を載せるようにして力をいなしていく。
結局のところ直撃さえしなければ良い、僅かに軌道をずらせば相手はその勢いをほとんど保ったまま後ろへと抜けていくだけだ。

「キィィッ!?」

相手からしてみれば、俺がすり抜けたように見えるだろう。
着地したと思えばすぐに振り向き再度突進してくる。
それをまたいなしていく。
突進、捌く。
突進、捌く。
突進、捌く。
よし大丈夫だ、タイミングはだいたい把握した。
相手を捌く間に内気も良い感じに温まった。
少し吸って、ゆっくりと口から吐く。丹田から力が湧き上がり全身に染み渡っていくのが分かる。
相手がこちらに突進してくる、今度は捌かない。
手のひらを相手に向けた。
足元からの螺旋の動きが全身の各部を伝わり、手のひらへと集中する瞬間に相手を迎えうつ。
完璧なタイミング―――!!

「ハァッ!!」

勝利を確信した俺の目に映ったのは。
目尻を歪ませた相手の目、さっきと同じおそらく笑っているような感じの目。
こんな表情を浮かべてやがるってことは――!

「づあっ!」

突き出した右手のひらに鋭い痛みが走る。
おいおいおいおい、どうなってやがるんだよ。
手のひらは確かに敵に触れている。触れてはいるが。
その手のひらの中央を貫通するかの様に黒い棘が生えていた。
向こう側にはいまだ笑ったままの敵の目が見える。

「っぐ! いってえええ!!」

痛みを堪えながら、手を横に振るった。
ゾプッという水気の音と馬鹿みたいな痛みを残して敵が離れる。
やられた、まさかあんな棘を出す能力を持っているなんて完全に想定外だ。
発勁は集中力が成功率を分ける。
掌打が決まる瞬間に棘を刺されては完全に相手に決めることなど未熟者の俺には不可能だ。
いやそれは今回だけかもしれない。

「キシィィィッ!」

俺の手から離れ、地面に転がっている黒い目玉が嬉しそうな声を上げている。
ボコンボコンとその球体の体から細い棘をいくつも出しながら目を瞬かせていた。

「これは、ヤバイ」

あんな棘一杯のものなんざ、円の動きでどうこう出来るもんじゃない。
いや、師範なら指先どころか爪先を始点に捌ききるかもしれんが。
俺にはあんな自由にヒョコヒョコ動く棘を捌くなんて不可能だ。
あんなことが出来るっていうのに、わざわざ俺の発頸を破ろうとしたということは。

「こいつ、頭がかなり良い!」

さらには残忍で性格が悪いってことだ。少し後ずさる。
俺の動きに合わせて『転がり目玉』も前進する。
さらに後ずさる。相手が前進する。
既に三人が座り込んでいる位置からは十メートル以上の距離がある。
先ほど突進を捌いている間に少しずつ移動しておいたおかげだ。
さて、何故こんなことをするのか。
答えは簡単、そのものズバリ。

「逃げるんだよおーっ!」

首もとに巻きっぱなしだったバンダナを右手に巻きつけ開いた穴を塞ぎつつ、後ろに向かって全速前進。
後ろからは『転がり目玉』が俺を追いかけてくる音が聞こえる。
何とか座り込んだ三人よりも俺に興味を持たせることが出来たようだ。
さーて、これからどうすっかなぁ。
ああ、ちくしょう右手がいてぇよ!








5.路地裏鬼ごっこ

 表通りでは商店が立ち並び、夏の猛暑に道行く人たちは汗を流している午後三時過ぎ。
蒸し暑く、太陽はまだ高いというのに薄暗い路地を駆け抜けていく。
生暖かく澱み濁り腐ったような粘っこい空気を掻き分けて進む。

「ハァッハァッ……あっづ、いってぇなチクショウ!」

右手に巻いてあるバンダナは半分ほどが赤く染まっていた。
結構でかい穴を開けられたからだろう。
きつく縛った程度じゃ完全に止血なんて出来ずにバンダナの薄い生地では吸いきれない血が、結び目から飛び出した端から玉を作って宙を飛ぶ。
当然痛みも生半可なものじゃない。
正直こんな所を走ってないで、寮の近所にある胸の大きな女医さんのいる「診療所」に駆け込みたい所だ。
異能者の人らしいからきっと治癒の異能か何かで直してくれるんだと思う。
何時もは怪我なんかしないから前を通るたびに掲げている「出血大サービス!」の看板を眺めることしか出来てないし。
たまに入っていった人が出てこなくなるらしいけど、胸の大きな人に悪い人はいないから気のせいだろう。

「っと、あぶね!」

咄嗟に右に半歩飛ぶ。
妄想に力を注ぎすぎていたのか、速度が落ちていたのだろう。
後ろから追いついてきていた『転がり目玉』がウニみたいに生やした棘をコンクリートに突き立てて浮いていた。
避けていなければ今頃穴だらけだと思うとゾッとする。
半歩で避けられたのは発頸の時みたいに一本の棘を長く伸ばすのではなくて、全身に生やしているからだろうか。
元の直径50cmほどあった体は40cm程に縮んではいるが、そのかわり20cm程の長さの棘を生やしているせいで巨大化したようにも見える。

「あぶねぇあぶねぇ、おっぱいのせいで死ぬところだった」

『転がり目玉』が突き立った棘をコンクリートから抜き取る間に加速し距離を取る。
このやり取りを既に2,3回やっているのだが、今のところは大事には至っていない。
どうせおっぱいのせいで死ぬのならおっぱいに窒息して死にたい。むしろ死なせて欲しい。
背後からは棘を抜き取ったのだろう、また重たいものが跳ねるような音が追いかけてくる。

「これじゃ、ジリ貧なんだよなぁ」

全速力で走らなければいけないというような速度では無いのだが、こちらの状態が悪すぎる。
右掌に1cmくらいの穴が開いて血が流れている上に、3時間以上鉄鍋を振るって体力が底を付きかけているのだ。
飯食って時間もたってないから胃の辺りが気持ち悪いしわき腹も痛くなってきている。
そして何より、

「……発勁二発も打ったのがきつい」

普段発勁なんて打つ事無い上に、使ったとしても勁の使わない掌打に近いものだ。
全力で気を使う発勁は体力を大分消耗するから燃費が悪い。
そんなものを二発も打ったら体も重くなるのは当たり前だ。

「うおっと!」
「キシィィィッ!!」

また一度体当たりを避ける。
やべー、どんどん精度上がってきてやがるな。
良いところ後3,4回が限度ってとこか?
正直それよりも先に体力の限界がきそうだけど。
誰かが捨てたのか、転がっていた空き缶を蹴飛ばして裏路地をひた走る。

「何か無いかー、何か無いかー?」

再放送で見たドラえもんがピンチの時にポケットを慌てて探って関係ないものを引っ張り出すのを思い出した。
焦るとろくなこと無いよねー。
でも残り時間が少ないのも事実、ロスタイムが欲しいところだが。
っと、良い物発見!
少し先、うちと同じ(中華料理屋崩壊しちまったけど)定食屋か何かの裏口に口が開いているが濁った液体の入った一升瓶が見える。
その瓶を左手で拾い上げ、

「ほらよっ!」
「キィィィッ!?」

背後、次の体当たりを狙っていたデカ目玉にぶつける。
咄嗟に硬化したのだろう、ガラスで出来た瓶はカン高い音を立てて砕け散り濁った液体を撒き散らす。
それは当然のようにぶつけられた『転がり目玉』を濡らした。

「キィッ? キィィィ!?」
「どうだ、動きにくいだろう!」

棘を地面に立てようとしては滑らせて液体の中に沈み込む敵を見下す。
濁った液体の正体、それはご家庭でも絶対に出るもの。「使用済みの油」だ。
天麩羅などで使った油は良い肥料になるからなぁ。
実家の神社の裏山にある畑に良く撒いていたのを思い出す。
昔話はさておき、ご存知の通り油は摩擦力を恐ろしく殺す。
たとえ尖った棘だろうと、真上から突き立てなければ滑って横に流れてしまう。
これで大分移動力を削ることが出来たはず。

「キィィィィィッ」
「……あれ?」

体から生える棘が一本とかなら確かに立てなくなるだろう。
でも、こいつは体中にウニみたいに棘を生やすことが出来る。
つまり――

「う、うわあああああ!」
「キシィィィッ!」

すっくと棘を足のようにして立ち上がる『転がり目玉』。
そして、まるでキャタピラの用に棘を回転させるとこっちに向かって高速で突っ走り、速度がのった所で跳ね上がる。
キモイ、果てしなくキモイ。だが、かなり危険だ。
一度足を止めた以上、こちらが走り出しても容易に追いつかれるのは確実。
ゆえに今取れる最高の一手はこれしかない!

「秘儀、ビールケースバリヤー!!」

積んであった想像上の生き物が描かれた黄色いプラスチック製のビールケースを手にとって両手で盾のように構える。
かなり重たいものがぶつかる衝撃がビールケースを構えた両の手の平に伝わり、全身を走った。
しっかりと踏みしめたはずの両足が靴の裏に砂利を噛ませ僅かながら後ろへと滑る。

「い、いでええええええ!」

血が吹き出てる右手を使ったせいで、また激痛が走った。
当たり前のことだが背に腹は変えられん。叫び声を上げるくらいで何とか耐える。
油塗れのままぶつかって来たせいでビールケースの隙間からこちらに汚い油が飛んできたが、幸いにも目に入らなかったので気にしない。
それよりも気にかけないといけない物体が目の前で蠢いているからだ。

ドシュッ

鋭い音を立ててビールケースの隙間から尖った棘がこちら側に打ち込まれる。
慌てて首を逸らさなかったら頭か首を直撃していただろう。
あ、あぶねえええ。
しかし危険がこの一撃で終わるはずもなく――

ヒュッ! ドシュッ!
ヒュッ! ドシュッ!

棘が高速で引っ込んでは、別の隙間からまたこちらを狙って新たな棘が飛び出してくる。

「わっ! ちょっ! まっ! うひぃっ!」

そのたびに顔を動かし、相手が張り付いたままのビールケースを傾け、ずらし、回避する。
ジャッキー・チェンかよ俺は!
嫌な予感がしたので慌ててビールケースを放り投げると、

ドドドドドシュッ!

今までの回避の仕方では到底避けられないようにほとんどの隙間から棘が突き出していた。
放り投げるのが少しでも遅れていたら頭が穴だらけだったなぁ。
なんかさっきから俺紙一重で命拾ってないか?
自分で自分の運のよさに感謝する。普段不幸な分のシワ寄せかもしれんが。こんな所で運使うくらいならおっぱい揉ませてくれ。
とりあえず、相手がビールケースの下でもがいている間にポケットを探る。
何を探すか、それは相手に油をかけたのだからする事は一つだろう。
ライターで火をつけてこの黒デカ目玉を灰にしてやる!
強さが下級、さらには一番初めの二礼に真っ二つにされた奴が擬態していた所を見るときっと火に弱いはず。
きっと、多分、だったら良いなぁ。

「……あれ?」

無い、いくら探ってもライターが無い。
何故か? 当たり前だ。あんな金のかかって体に悪いもの、体力の無い近接戦闘派の俺がタバコなんて吸うわけが無い。
だからライターなんて持ってないのは当たり前だ。

「何で俺ライター持ってるなんて思ったんだー!?」

ああ悲しきかな学力2の能力値。いや能力恥。本当に恥ずかしいね。
慌てて走って距離を取る。
俺が結局やったことって無駄か、いやむしろよくよく考えたら油で滑りやすくなって発勁打ちにくくなったからマイナスじゃね?
あああ、今回ばかりは馬鹿な頭が憎い。
後ろからはプラスチックが地面に転がる音が聞こえる。
もう体勢整えやがったか。ひっくり返ってただけだから当たり前といえば当たり前だがこっちには次の手が無い。
とりあえず逃げの一手だ。
相手もこちらにもう手が無いと確信したのだろう、さっきまでとは追いかけてくる速度が全然違う。
そして、曲がり角を曲がった先でついに『転がり目玉』が俺に追いついた。

「キシィィァァァッ!」

カーブを曲がったせいで速度の落ちた俺目掛けて回転する棘玉となった『転がり目玉』が俺に襲い掛かってきた。
おそらくそれはこちらにとって詰みの一手(チェックメイト)、哀れ拍手君は磔の刑になりました。
なーんて、そんな訳が無い。

「もう手がないと思ったろ?」

裏路地には色んな物が散乱している。
さっきのビールケースしかり、空き缶や空き瓶しかり、だ。
ようするに自分の店の裏に好き勝手に物置いたりするんだが、そんな中でたまに日陰で植木を育ててる人がいる。
今回はそれを壁として利用させてもらったということ。
葉っぱの少ないタイプの樹だが、でかい球体相手なら十分網代わりに使えるしな。
そんな樹に突っ込んだせいで速度が一瞬落ちたのを狙って回避したわけだ。
まぁ裏路地の地形なんてほとんど知らないんだが、前に通った時に邪魔で一度蹴飛ばしたことがある。
それを持ち主に見られて1時間説教食らったが、そのせいで覚えていたから恨みは水に流そう。

「今から燃えちまうしなー」

懐に手を突っ込んで取り出すのは石が二つ。
何故有りもしないライターを探していたのか、答えは俺が馬鹿だから?
いやいやさすがにそこまで馬鹿ではございません。
取り出しましたる石二つ、これの名前は知らない人はいないでしょう。

「火打石ってんだ、覚えとけ!」

石と石を打ち鳴らし、火花を散らせる。
当然これだけでは普通は火がつかないが、そこはそれ「科学部」が試作で作ったらしい強化型火打石「熱血君」の火花の力は伊達じゃない。
網のように細いが枝の数は多い樹に捕らえられた『転がり目玉』は簡単にはそこから抜け出すことが出来ず、未だに油でネトネトのままだった所にあっさりと火が灯った。

「キィィィッ!? キシィッ! キィィィィィッ!!」
「おお、よく燃えるよく燃える」

あっという間に樹ごと燃え上がり火の玉になった『転がり目玉』が文字通り路地裏の硬いコンクリートの上を転げ回る。
うん、気分爽快だ。後、人の掌に風穴開けたお返しだ。

「ギィィィッ!」
「うおっ! あぶね!」

火の玉状態のままこっちに飛び跳ねてくるとは思わなかった。
真正面に飛んできたわけじゃ無いので声で大体の位置を察知したのだろう。
慌てて避けなければならないほどの速度じゃなかったのも回避できた要因だが。
最後の力を振り絞っての体当たりだったのだろうか、地面を転がる動きがどんどんと鈍くなっていく。
さて、これで倒れてくれれば良いんだが――

「どうかな……?」

油を被せてからしばらく走り回ったせいか油の量が減り、火も僅かな時間しか持たずに沈火したようだ。
目の前にはすっかり動かなくなり声も出さない黒い大玉が転がっている。
元から黒いため、焦げたのかどうかは分かりづらい。
とりあえずピクリともしないんだけど油断は禁物だからなぁ。
その辺に置いてあった箒を拝借してツンツンと突いてみた。

……動かない。

ああ、なんとか倒せたか。
今までの疲れがどっと出てきたようで壁に背を預けた。
もう埃だらけで右手からの血も飛んでぐちゃぐちゃになっているズボンでも汚い路地裏に座り込むのは勘弁願いたいし。
知らずのうちに垂れてきていた汗を左手で拭う。
もう服はボロボロ、髪も汗と埃で酷い状態、右手からは相変わらず血が少しずつ垂れている。
右手治療して風呂に入って制服の支給願い出さないと――って、いたたたたた。
今まで忘れていた右手の痛みが脳を刺す。
帰ろう、疲れた。そう思い壁から疲れと出血で重たい体を引き剥がす。

「……ィィ」
「ん?」

何か、嫌な声が聞こえたような……
少し離れたところで未だに転がったままの黒い球体を眺めるが、別に微動だにしないままだ。
あれ、そういや何でこいつまだ消えてないの?
さっき二礼が真っ二つにした奴は死んだ途端に薄くなって消えていった筈なのに。
ということはコイツもしかして、

「ギィィィィィッ!!!」
「うわぁっ! やっぱりなー!」

焦げていたのだろう体の回りから数センチほどを殻の用に割り剥がして、中から一回り小さくなった『転がり目玉』が飛び出した。
こっちはもう限界だっつうの、勘弁してくれよもうー!
終わったと思ったのに終わって無かった鬼ごっこがまた再開された。
肉体もそうだが、一度終わったと思った分精神的にも疲れが酷い。
これは正直本気でヤバイかもーっと考えながら足を動かす。

チリーン

ふいに何処か遠くは無いが、見えない所から鈴の音が聞こえた。
神道を習う者には聞きなれた音。
神様、お出迎えにはちょっと気が早すぎやしませんか?

チリーン

まただ、走っている方向から聞こえる。
二度続くとさすがに空耳ではないのだろう。
もうこのままだとラルヴァを連れて表通りに出るか、やられるかの二択しかないんだ。
俺は迷わずに鈴の音が鳴る方へと足を走らせた。









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